IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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でも実際、半分はタイトル詐欺w

久々に登場する親方様ですが、今回はマジでR-15です。よい子は見るのに注意しましょうw

では、お楽しみください



雨の街中で………

 

 

 

 ―――ジーク達がとらわれる半日前―――

 ―――ヨーロッパ某所・とある屋敷―――

 

 日本ではまずお目にかかれない広大で雄大な自然をそのままに残した庭園の、空の太陽が西の空に傾き、もうすぐ夕暮れが始まろうとする中、いつもの特性のコートと軍用ズボンにブーツといった服装のアレキサンドラ・リキュールは、地面に座り、膝の上にむき出しの刀を置いて座禅を組み、静かに自然と一体化するように瞑想を行っていた。

 空が、風が、木々が、大地が含む自然のエネルギーをその身に取り込むように、いつもの圧倒的なプレッシャーは一切伴わない、それどころか視界に入れておかねば彼女の存在が自然の中に溶け込んでしまうのではないかというほど、完璧に一体化した彼女が静かに瞳を開いた。

 

 10mほど前方の茂みが大きく揺れ、そして彼女の瞑想を妨害した存在が顔を、その全容を見せる。

 

 虎縞の毛。白く長く、鋼鉄すら噛み砕きそうな牙。

 

 世界最強の虎と名高き『ベンガルトラ』である。

 

 しかも大きさが尋常ではない。通常なら3mに満たないハズなのに、その大きさときたら4m近く、重量もおそらく300kgを超える重量であろう。

 このトラ、現地の一般人を8人、調教師を三人ほど食い殺したために処分される予定だった物を、わざわざ噂を聞きつけたリキュールに買い取られた経歴がある筋金入りの人食いドラなのだ。

 

 ―――虎が頭を下げ、今にも飛び出すような体勢を取る―――

 

 虎の全身から、野生の本能と共に凄まじい殺気が放たれた。所詮は目の前にいるのは、少々危険な武器を持った人間程度という認識なのだろうか?

 だが、全身のバネをしならせ、虎がその牙をリキュールに向けた瞬間、彼女の瞳と虎の瞳とが絡み合い………虎はその動きを停止させた。

 

―――見つめあう真紅の龍眼と蒼色の虎眼―――

 

 喉を鳴らしながら威嚇する虎と、そんな虎を幼子を見るような慈愛に満ちた目で見つめるリキュール………もっとも、今の彼女の背中から立ち上っているオーラは、活きの良い獲物を見つけ、舌なめずりをしている黒き巨龍そのものであるが………。

 

 しばし睨み合う、龍と虎であったが、両者の均衡を崩したのは虎の方であった。

 

「……………」

 

 座禅を組んだまま動こうとしないリキュールの目の前にゆっくりと歩み寄ると、頭を垂れ、彼女に敗北を認めたのだ。その姿を見たリキュールは、ため息をつくと、全身から放っていたオーラを消し去り、目の前の虎の喉元を優しく撫で始める。

 

「フィリップ………そんなにあっさりと負けを認められては、訓練にならないではないか………」

 

 言葉では怒ってみせているが、彼女の手は優しくフィリップと言われた虎を優しくあやしている。その証拠にフィリップは、まるで先ほどの野生むき出しの表情から一変し、母猫にあやされている子猫のようにリラックスしたものに変化していた。

 

「リキュール、お茶が入ったわよ?」

 

 そんな彼女のすぐそばのテーブルで、これ以上の訓練は出来そうにないリキュールに、ティーポットから紅茶を注ぎながら、真紅のドレスを着たスコールが呼びかける。実に慣れた手付きで、十分にポットの中で蒸らされた紅茶がかぐわしい香気を放つのを感じたリキュールは、自分の愛刀を鞘に収めるとその場から立ち上がりフィリップを引き連れてテーブルの前にある一脚しかない椅子に座るのだった。

 

「フィリップ! 貴方はこっち」

 

 そしてスコールは、リキュールの練習相手にも気配りを忘れない。見たとおりの『猫舌』である彼のために、温めの温度に冷まされた紅茶を専用のカップにいれて、地面に置き、フィリップの頭を優しい手付きで撫で始める。さきほどの時と同じよう、母猫に頬ずりされてるのが嬉しい子猫のように、無邪気にスコールに撫でられる

 人の肉の味を覚え、人間などお買得骨付き肉程度にしか認識していないフィリップであったが、このリキュールとスコールにのみ、絶対服従の忠誠を誓う主と敬っているようなのだ。

 スコールは手で「飲んで良し」と合図を送り、フィリップは嬉しそうに温い紅茶を長い舌で飲み始める。

 

 そんなスコールとフィリップのやり取りを微笑みながら見つめていたリキュールは、淹れられた紅茶に一口付け、素直に感想を述べる。

 

「相変わらず美味い………これだけは何年たっても私はスコールを超えられそうにはないな」

 

 彼女の素直な感想を受け、スコールは初恋を覚え立ての少女のように頬を赤く染めながら、一脚しかない椅子に座るリキュールの膝の上に飛び乗ってしまう。カップを持っていたリキュールであったが、さしてその行動に驚く様子もなく、ホンの僅かな波紋だけを紅茶に立たせ、スコールを優しく抱きとめた。

 

「そうやって私におべっか使って、また今度、無茶な事を言い出す気でしょ?」

「これは心外だな。私は素直な感想を述べただけなんだが………どうやったら信じてくれる?」

「………さあ?」

 

 おどけるスコールに、リキュールは紅茶を一口つけると、飲み込まずにカップをテーブルに置くと、彼女の顎を強引に持ち、唇を押し付ける。

 

「!!」

「……………」

 

 口に含んだ紅茶を彼女に口移しで飲み込ませると、そのままの勢いでスコールの舌を自分の舌で嬲り始める………ピチャピチャと淫靡な音を立てて、お互いを情熱的に貪り合う両者は、一呼吸置くように一旦顔を離す。

 

「はぁ………もう~~~……どうしてそんなに貴女は強引なの?」

「………さあ?」

 

 先ほどのお返しのような返答をするリキュールに苦笑するスコールであったが、いつの間にか上着の繋ぎ目を解かれ、自慢にしているきめ細かな肌と豊満な胸が外気にさらされてしまう。

 少しだけ眉を吊り上げるスコールであったが、いたずらに成功した子供のように得意げになるリキュールの顔を見ると、苦笑するだけで許してしまう。

 

「(もう………貴女のその顔に弱いこと知ってる癖に………本当に悪い人)」

 

 この愛おしい人の表情に何もかも許してしまうのが自分のいけない所なのだと心の中で呟きながら、スコールはテーブルの上に静かに寝かされ、リキュールはそんな彼女の内心を見抜いているかのような少しだけ意地悪そうな笑顔を浮かべると、彼女の喉仏からゆっくりと舌で舐め始め、彼女の豊満な胸に音を立てて吸い付くのだった。

 

「あっ! あんっ!! らめっ! そこ……はっ!」

 

 リキュールの愛撫に甘い声で喘ぎ始めるスコールだったが、リキュールの愛撫が突如止み、二人の情事の邪魔にならないように空気を呼んでそばで待機していたフィリップが、低く呻きながら臨戦態勢を取った。

 

「………失礼します、スコール・ミューゼル。どうか我々と一緒に本部へ同行してください」

 

 サングラスに黒いスーツを着た黒尽くめの男二人組が、無作法に庭園内をズカズカと歩いてくる。

 

「………総帥直轄の特務部隊か………何の用か、答えたまえ」

 

 だが、二人の男に問いかけたのは、スコールではなく、口元だけに薄い微笑を浮かべたリキュールであった。

 

「特秘事項のため、ジェネラルである貴女にもお答えするわけにはいきません、アレキサンドラ・リキュール!」

 

 総帥直轄の特務部隊は、幹部(ジェネラル)達とは独立した機関であり、彼らに命令権を持つのは総帥のみなのだ。そういった特性のためか、彼らの権限は幹部に近く、他の副官や部下達とは一線を画したエリート意識を持っているのだ。

 

 それゆえの無知だったのかも知れない。

 彼等がこの瞬間、人生における致命的失敗を犯してしまったのは………。

 

「………そうか」

 

 短くそう告げ、リキュールは覆いかぶさっていたスコールから離れ、椅子から立ち上がると………無音で、二人組の内の一人の前に瞬間移動と見間違うような速度で詰め寄ると、音を置き去りにした剛脚を振るう。

 

 グシャッ!

 

 何かが潰れる音かが聞こえたと思い、サングラスをかけた男がゆっくりと隣を振り向く。そしてピシャッと自分の頬に何か液体がかかったことを理解した男は、隣にいるもう一人の状態に気がついた。

 

 ―――首がない状態で、血を吹き上げながら棒立ちになっている相方の成れの果て―――  

 

「ヒィィッィィィッ!!」

 

 腰を抜かし、失禁しながら、地面に蹲ってしまった特務部隊の男は、遥か後方で木にぶつかって地面に転がっている相方の首から上の頭部が目に入り、激しく動揺しながら懐から拳銃を抜いて、両手で構え、リキュールに向かって叫ぶ。

 

「な、何のつもりだ! キサマァッ!!」

「……………安全装置(セフティ)がかかったままだよ?」

「わ、私達は総帥直属の特務部隊だぞ!! 我々に危害を加えるのは、貴様が忠誠を誓った組織への反逆行為そのもので………」

「勘違いしてもらっては困るな」

 

 自分の命の保身に走る男を見下ろしながら、リキュールは首をかしげながら、さも、当然のように言い放った。

 

「私は一度たりとも、総帥にも組織にも、忠誠を誓った覚えはない」

「なっ!」

 

 亡国機業(ファントム・タスク)の幹部(ジェネラル)としてはあるまじき発言に、男は動揺しながら、ついに発砲してしまう。

 フィリップが全身の毛を総毛立ちさせ、スコールも驚く中、リキュールはあろう事か放たれた銃弾を、自分の額に当たる寸前で、人差し指と中指の二本で挟み込んで受け止めたのだった。

 

「ひぃぃぃぃっ!」

「………で、何の用件でスコールを連れて行こうとしたのだい?」

 

 挟んで受け止めた銃弾を指で遊ばせながら、涼しげな顔で問いかけるリキュールに、すっかり表情を青ざめさせた男は、『情報を提示すればひょっとしたら命が助かるのでは?』と思い込み、洗いざらい全てぶちまける。

 

「マ、マリア・フジオカが、オーガコアの私的流用とその他の背信行為を犯して、組織を離反したのです!」

「「!?」」

「それ故に、先ずは彼女の直接の上司であるスコール・ミューゼルに話を聞いたほうがいいと…」

「総帥………ではなく、『キャスター』が言ったのだな?」

 

 『キャスター』という名前が出た瞬間、男が息を呑むのを見逃さなかったリキュールは、視線を男からスコールへと移す。

 すでに身支度を整えたスコールは、先ほどの甘い一時を楽しむ女の顔から、そしき随一の『切れ者』の表情となって、立ち上がる。

 

「わかりました………本部への出動命令は受けましょう」

「………スコール…」

 

 いつもの表情のまま、目の前の恋人の言葉の中に、ホンの僅かな杞憂があるのを感じ取ったスコールは、リキュールに心配させないように笑顔で彼女に抱きついて囁く。

 

「心配しないでリキュール………こう見えても、私、七人の率いる者(ジェネラル)の・ライダー(騎乗者)よ?」

「………了解した。私が責任を持って彼女を本部にまで送ろう」

 

 普段はあまり本部に寄り付かないリキュールのその提案に、スコールは瞳を丸めながら驚く。

 

「あら、珍しい」

「総帥への謁見も同席したいのだろうが………それは許されないのだろうな」

 

 珍しく残念そうに肩を落とすリキュールの姿を楽しそうに見つめるスコール………若干、空気が和らいだことにチャンスを見出したのか、特務隊の男はすぐさまこの場から逃げ出そうと画策する。連絡が取れれば、アレキサンドラ・リキュールも組織の反逆者として処分できると踏んだのか、ニヤつきながらズレ落ちたサングラスを掛け直そうとするが、そこに彼の背後から何者かがゆっくりと忍び寄る。

 

「!?」

 

 男が驚きながら、拳銃を突きつけようとするが、その動作よりも早く、彼の喉仏をフィリップが食い千切る。

 

「ガッ!」

 

 喉の三分の二を食い千切られ、特務隊の男は叫び声をあげることも出来ずに絶命する。そしてフィリップは新鮮な餌が転がってきたと、喜んで『食事』を始めるのだった。

 肉を食い千切り、骨を噛み砕く音が響く中、すでに二人の男の存在など脳内から消え去ったリキュールとスコールは、『マリア・フジオカ』の離反ということに、何か作為的な物を感じ取っていた。

 

「マリアは、頭のいい子で、IS操縦者としても優秀だ………考えもなしに『馬鹿』なことをするとは思えないが………」

「そういえばリキュールは知らないのよね。マリアが亡国機業(ファントム・タスク)に加わった理由」

「………それは?」

 

 スコールが空を見上げながら、静かに呟く。

 

「『姉の敵である、炎を操るISを見つけるため』………」

「…………なるほど」

 

 それだけのやり取りで、リキュールはマリアが何ゆえに一人で暴走したのか理解する。

 

「(我慢できるはずもあるまい………仇であり、目的である男がすぐそばにいたのなら………)」

 

 だが、マリア・フジオカの直接の上司であるスコールは、今回の騒動について、それだけではないことを確信していた。

 

「(敵討ちがしたいなら、堂々と作戦立案をして組織の力を使えばいい。それぐらいのことが解らなくなるマリアではない………だったとしたら………やっぱり………あの子…)」

 

 恐らく、組織の抱える『何か』にマリアが触れてしまったのだろう。頭の切れる彼女のことだ。情報収集を行っている内に、誰かの別の思惑に気がついてもおかしくない。

 状況証拠しかないながらも、己の仮説が正解であると直感が告げる中、それを確かめるために、スコールはリキュールを引き連れ、本部へと急ぎ向かうのだった………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ―――日本・IS学園近郊の都市の一角―――

 

 夜もその闇を一層深くし、一向に弱まる気配のない雨足の為か、通りを歩く人もまばらな中、学園をこっそりと抜け出した三人の少女達は、その足で陽太を探しに行こうとしたシャルの引っ張る形で、己の上司達の話題に上がっているフィーナが、シャルとラウラの二人を無理やり24時間営業のファミレスへと誘ったのだった。

 

「あ、あの………チューダス先輩!」

「フィーナでいいよ。私、あんまりそういう堅苦しいの好きじゃないから?」

「いや、その、抜けるのを手伝ってくれたのは………正直、物凄くありがたいのですが…」

 

シャルは、目の前に出されたアイスティーとナポリタンにも手をつけず、恐縮して畏まってしまう。ちなみに、隣に座っているラウラはというと………。

 

「……おお………」

 

生まれて初めてのファミレスにて出された、生まれて初めての『お子様ランチ』に瞳を輝かせていた。

 

「遠慮せず食べて、二人とも! 私の奢りだよ!?」

「あ、そんなの悪いです! 私、ちゃんと先輩の分も含めて三人分、代金払いますから」

「た、食べてもいいか、シャル?」

 

 若干、口元に涎を光らせながら問いかけるラウラに、シャルは若干冷めた視線を向けながら、首を縦に振る。そんなシャルの表情を気にする様子もなく、ラウラは生まれて初めてのお子様ランチの味に感動しながらバクつくのだった。

 

「いいわ。ラウラちゃんの食べっぷりを見ると、奢った甲斐があったってものよ」

「ですから、私が払いますから!」

「どうやって?」

「えっ? それは………」

 

 こうやって財布からお金を出して………と言い掛けた瞬間、シャルの笑顔が引き攣りながら停止する。自分の服のどこを叩いても、財布の感触に行き当たらないのだ。その様子に気がついたフィーナは、シャルに言い放つ。

 

「ココ………私の奢りでかまわないわね?」

「………ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げるシャルのことを、フィーナは『本当に礼儀正しい子だな~』と感心する。だからこそ、どうしても確かめておきたいことがあった………。

 

「それにしても………どうして、二人は学園から抜け出そうとしたのかしら?」

 

 ―――なぜ、火鳥陽太に関わろうとするの?―――

 

「あ、う、そ、その………」

 

 何もわかっていない(と勝手に思っている)シャルは、目の前でニコニコ笑いかけてくるフィーナにどのように説明したものかと困り果てるが、その時、隣でお子様ランチについていたおもちゃの存在に感心していたラウラが、さりげなくフォローを入れてくれる。

 

「我々のチームメイトが、無断で外出しているようで、私とシャルが連れ戻そうとした訳です」

「無断外出してまで? 随分、気にかけてるのね、そのチームメイトさんのこと?」

「わ、私のせいで………責任感じちゃったみたいで……」

 

 沈んだ表情でそう説明するシャルロットであったが、フィーナはそんな彼女に思い切って聞いてみた。

 

「そのチームメイトって………ひょっとして火鳥陽太君?」

「えっ!? どうしてヨウタのことを・」

「たまたま、職員室の前を通りかかったら、何か『火鳥君はもう校外に出てしまったのか!?』って言ってるのを今日聞いたから、ひょっとしてって思ってね」

 

 極力当たり障りのない、偶然を装った回答をしたフィーナに、シャルは特に疑う様子もなく、首を縦に振って事実であると彼女に伝える。

 

「はい………ヨウタを探そうと思って……それで…」

「彼、校内じゃ有名人だもんね。傲岸不遜で、礼儀知らずで、女よりも自分の方が上だって思い上がってるって」

「……………」

 

 フィーナのその何気ない評価に、シャルは眉間にしわを寄せて険しい表情を作ってしまう。学園の女子生徒としては、寧ろこのフィーナの評価はひどく一般的なものでしかないのはシャルにも理解できるが、彼女の感情は、陽太のことを悪く言ったフィーナに良い印象を持てずにいたのだった。

 だが、フィーナもシャルの表情が険しくなったことに気が付くと、慌ててフォローに入る。

 

「ごめんなさい! 別に陽太君のことを悪く言いたかった訳じゃないのよ」

「………はい」

「ただ、学園の女子生徒の大多数がそう思っている陽太君のことを、どうして貴方は自分のことを蔑ろにしてでも追いかけようとしているのかなって、気になって………」

「そ、それは………ヨウタは、私の……幼馴染だから…」

「でも、幼馴染の彼と、今日、貴女は決闘して気絶させられたんでしょ?」

「それも………その、偶然の成り行きといいますか……」

 

 そしてフィーナはココにきて、初めて、笑顔ではなく、真剣味を帯びた瞳でシャルを見ると、彼女に真っ直ぐ問いかけてみた。

 

「貴女にとって、彼を助けることってどういう意味を持つことなのかしら?」

「意味………ですか?」

「ええ、そうよ。シャルロットさん?」

 

 そして彼女の真剣みを帯びた瞳を真っ直ぐに見たシャルは、フィーナに向かって静かに話し出す。

 

「助けてくれたから………私が、本当に、絶望の中で押し潰されそうになっていた時、私を助けて、そして守ってくれたんです」

 

 故郷のフランスの実母の墓の前で再会したことは運命とも思えた。まるで、自分とヨウタを亡き母が引き合わせてくれたかのように………そして再会した陽太は、嵐の様に颯爽と自分の絶望を吹き飛ばしてくれた。

 

 だけど、今はそれだけではないようにシャルは感じ取っている。

 ひょっとすると、亡き母は自分にも「陽太を助けてあげなさい」と言ってくれたのではないのだろうか? そのために自分の前で陽太と引き合わせてくれたのではないのだろうか?

 

「だから、今度は私の番。私がヨウタを助けたい………ううん、助けたいんです」

「………そう」

 

 手に持っていたカップをテーブルに置くと、おもむろに立ち上がる。

 

「愛されてるのね、彼」

「えっ?」

「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってくるわね」

「は、はい! ごゆっくり!」

 

 そして、席を立ち上がってお手洗いに行くフィーナを見送りながら、隣で旗の付いたオムライスに甚く感動しているラウラを見て、シャルは肩の力がグッと抜けてしまうのだった。

 一方、席を立ったフィーナはというと、そんなシャルの様子を横目に捉えながら、店の内外から自分達を見つめている複数の視線に気が付き、まるでその者達を誘導するように、人気のない女子トイレに誘い込む。

 運よくフィーナ以外の人が入っていないことを確認したのか、3名のバラバラな服装をした「男」達が女子トイレに侵入してきたのだ。

 

「あら? こちらは女子用。男性は隣ですよ?」

 

 洗面台に持たれながら、おどけた声と表情で首を傾げるフィーナを見た三人は、場所がファミレスであるにもかかわらず、懐からそれぞれ消音装置(サイレンサー)付きの拳銃を抜くと銃口を突きつけながら、冷たい声で宣言する。

 

「マリア・フジオカだな?」

「あら? 私の名前はフィーナ・チューダス。人違いではなくて?」

「貴様には既に抹殺命令が下っている。だが大人しく、お前が持っている・」

「………特務隊と言っても、所詮は現場を知らない室内犬ですか………」

「「「?」」」

 

 残念そうに自分の爪を見つめるフィーナの態度に、侮られたと思ったのか、亡国機業の一人が拳銃の引き金を引こうとして、そして自分の異変に気が付く。

 

「なっ! 指が!」

「いや、全身が!!」

 

 自分の体が、自分の意思に反してピクリとも動かなくなったことに驚愕した男達に、フィーナは冷たい表情で言い放つ。

 

「今回の、こういう場合は、有無も言わさず配置している狙撃兵に狙撃させるべきでしたね。それなのにわざわざ、こんな人気のない場所に連れてきて、尋問しようなどとは………もう一度エージェントとして勉強し直した方がよろしいのでは?」

「うっ!」

「ぐっ!」

「がっ!」

 

 男達の自由を、自分の『技』であっさりと奪ったフィーナは、騒ぎ出そうとする男達に対して、素早く当身を腹部に打ち込み、気絶させてしまう。だが気を失ったにも関わらず、倒れることなくまるで空中でボルトに固定されているよう男達は倒れることがない。

 

「ふぅ………」

 

 フィーナが右手の人差し指をゆっくりと一回転させる。するとまるで金縛りから解き放たれたかのように、男達は地面に崩れ落ち、フィーナはそんな男達を一個の個室に押し込むと、扉を閉めて、トイレの掃除用具入れの中から『清掃中』の看板を見つけて、入り口に立てかけ、何事もなかったかのように元いた席に戻っていく。

 すでにそこには食事を平らげ、満腹気味のラウラと、ため息をつきながらアイスティーを飲むシャルの姿があった。

 

「(さて、それじゃあ、始めますか)」

 

 ポケットから携帯電話を取り出すと、すばやくメールにメッセージを打ち込んで送信する。これでまずは段取りの一つは終わった。

 

「(そしてお次は………)」

 

 ニヤリと何かを企む表情を作ったフィーナが席に座りなおすと、シャルが心配そうに話しかけてくる。

 

「随分遅かったですね?」

「ちょっと混んでてね………ラウラちゃん?」

「はい?」

 

 シャルに言われてナプキンで口元を拭いていたラウラに微笑みかけると、フィーナはテーブルを指で数回に分けて『コンコン』と軽く叩いてみせる。生粋の軍人であるラウラには、それがモールス信号であることに気がついた。

 

「(シュウイガカコマレテル)」

 

 フィーナの言葉に表せないメッセージを受けて、ラウラは周囲を注意深く観察し、自分達の方に向けられている複数の視線に気がつくと、すぐさま行動を開始した。

 シャルの手を掴み、ラウラは席を立ち上がる。そして目配りだけでフィーナに同行を願い、彼女もそれに反論することなく同意を表すように一緒に立ち上がるのだった。

 

「えっ? えっ?」

 

 だがそんなことまったく理解していないシャルにしてみれば、状況が理解できず、プチパニックに陥ってしまう。

 

「ラ、ラウラ!?」

「囲まれている………抜かった」

 

 素早い動きでラウラはレジ………ではなく、厨房の方に歩き出し、ドアを勢い良く開いた。

 

「!?」

「!?」

「お、お客様!?」

 

 店の従業員にしてみれば、いきなり女子高生三人が厨房に乱入してくれば眼を丸くするのも致し方ない。すぐさま店長らしき三十代ぐらいの男性が近寄ってくるが、男性が何かを言うよりも早く、フィーナが男性に近寄ると自分達が来た方向を指差して囁く。

 

「(私達、あの人達にナンパされて、断ったら、今度はしつこく付き纏われてるんです)」

 

 そこには、先ほどの特務隊のメンバーから連絡が途絶えたことを不審に思って、一般人に変装してきた増援と思える男達が複数詰め寄ってきていた。

 

「なるほど、わかりましたお客様」

 

 フィーナの嘘八百をすっかり信じきった店長と、そんな店長に追従する他の従業員が、特務隊のメンバーの前に立ちはだかる。

 

「そこをどけ!」

「お客様! 他のお客様のご迷惑になっております! どうかお引き取りください!!」

 

 お客様を守ることは当然というかのように、前に出る従業員一同と特務隊メンバー。先に動いたのは特務隊の方であった。

 

「邪魔だ!」

 

 一瞬の睨み合いの後、強引に店長を押しのけようとした特務隊メンバーに、店の従業員が割って入り、シャル達の目の前で空前の乱闘が始まる。騒ぎを聞きつけた他のメンバーと従業員も加わり、店内が騒然とする中、チャンスと言わんばかりにラウラは慌てるシャルを引っ張って、従業員用出入り口から出て行く。その後を追うフィーナは、一度だけ振り返ると………。

 

「ごめんさいね、店長さん♪」

 

 舌を出して一言謝り、二人の後を追いかける。

 

 未だ雨が止まない中、傘もささずに外に出た三人だったが、先頭を歩くラウラがすぐさま、外に待機していた特務隊メンバーに気がつく。

 

「チッ!」

「ラウラッ!? さっきから、何のこれは!?」

 

 だが、状況がよく理解できていないシャルが声を張り上げてしまい、運悪く特務隊メンバーに気づかれてしまった。メンバー達は全員、拳銃を取り出すと彼女達に小走りで近寄ってきた。

 

「………仕方ないか」

 

 そしてラウラもそれに応戦するように腰から拳銃を取り出すと、安全装置を外してシャルの手をフィーナに預ける。

 

「ラウラ!? てか、拳銃なんて、なんでそんな物騒な物を持ち歩いてるの!?」

「IS操縦者の私達が、街中で安易にISを使用するわけにはいくまい!」

「根本的な解答になってない!」

「フィーナ先輩、ここは私が食い止めます。シャルを連れて安全な場所まで」

「了解したわ」

 

 まだ騒ぎ立てようとするシャルであったが、目の前で男達が拳銃を構えて発砲しようとしてくるのをみて、ようやく今が非常事態だということだけは認識する。

 

「いけっ!」

 

 だが、男達が発砲するよりも早く、ラウラが威嚇するように男たちの足元に銃弾を撃ち込む。

 ラウラの発砲を受け、男達は道の両サイドに飛び退いて分かれると、顔だけを出しながらラウラ達の動きを注意深く伺ってくる。

 

「(チャンスだ。今の発砲で一般人が気がついたな)」

 

 先ほどの一発の銃声を聞きつけたのか、たまたま近くを通りかかっていた一般人が悲鳴を上げながら警察に通報しているのを見たラウラは、このまま睨み合っているだけで警察の方が男達を捕縛してくれると感じ、しばらくの睨み合いを決め込むことにする、

 

「(数分以内なら私の足でも二人に追いつけるだろう………だが、コイツらは一体なんだ? どこかの国家機関のエージェントが我々のISを狙ってきたのか?)」

 

 思い切って、一人か二人ほど捕まえて尋問するべきか? だがここで時間をかけると二人との合流が遅れてしまう。

 思案するラウラは、とりあえず時間稼ぎを適当に済ませると、改めてフィーナに問うことを決意する。

 

 しかし、ここでラウラは大いなる勘違いをしていることに気がついていなかった。

 フィーナがあまりに自然としていたために、彼女も偶然巻き込まれてしまっていたのだと………そして自分が前に出て足止めするという役割を『意図的に』押し付けられてしまっていることに………。

 

 

 そしてそれを証明するようにシャルの手を引いて、雨の街中をひた走るフィーナは、心の中でラウラに感謝していた。

 

「(ありがとうねラウラちゃん。アイツらの足止めと露払いをしてくれて)」

 

 ラウラの実力ならば、ISを使わずとも特務隊を撃退できるだろう。所詮は二流の中の一流達、エリートだと高を括って現場に出ていない連中なのだ。これまで念入りに調べ上げた、『対オーガコア部隊』の副隊長ラウラ・ボーデヴィッヒならば、さほど苦戦する相手ではないという確信………。

 

「(それにしても、ラウラちゃんは本当に優しいのね。病み上がりのシャルちゃんと、ただの代表候補生である私のことを気遣って、自分が一番危ない足止めをしてくれるだなんて………)」

 

 自分の友人を気遣うことを無意識に庇える少女であるという確信………この二つを巧みに使って、ラウラとシャルを引き離すことに成功したフィーナは心の中で自嘲する。

 

「(そして、ごめんねラウラちゃん………そんな貴方のことを利用してしまって)」

 

 前者はともかく後者のことについては、心の内側に鋭い痛みが走るが、彼女はそれを無理やり押し殺す。

 

「(でも、もうチャンスはないの………組織から逃れるのは不可能。ならば残されたこの時間を使って、私は、私の目的を遂げてみせる)」

 

 どこまで走っただろうか?

 出来うる限り、怪しまれないようにシャルを誘導し、フィーナが訪れたのは、近々オープンする予定になっている大型ショッピングモールであった。

 

「せ、先輩!!」

「少し休みましょう………ここなら誰もいないから、『もしも』の時にも対処しやすいでしょうし」

 

 この時間では誰も作業してはいないのか、完成間近の建物は雨が跳ね返る音のみの、不気味な静寂さをかもし出していた。

 そして、一息ついたシャルは、柵を超えて中に進入するフィーナに問いかける。

 

「さっきの人達は一体何なんですか!? それにラウラは大丈夫なんですか!?」

「………ラウラちゃんなら大丈夫よ」

 

 建設中のための資材やビニールなどが錯乱する工事現場の真ん中………不気味な静けさに支配されている建物の中で立ち止まったフィーナは、振り返ると、シャルに微笑みかける………。

 

「それにしても、シャルロットちゃんは本当に素直で優しいのね」

「先輩?」

「だからかな………こんな風に騙されちゃうのは?」

 

 右手に待機状態のヴィエルジェを持って、シャルに見せびらかしながら………。

 

「!?」

「ダメよ、誰もかれも、すぐに信じちゃうのは………」

 

 首に巻かれていたはずのチェッカーをいつの間に!? 確かめるように視線を外した瞬間、フィーナの姿が忽然と消え去ってしまう。

 

「ごめんさいね」

 

 そして彼女の声が背後から聞こえた時、シャルの意識がすぐさま闇に包まれてしまうのだった。

 

 

 

 

  

 

 

 




そして、次回、ついに陽太とマリアが邂逅し、語られます。


彼女の、憎しみの理由が………
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