IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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大量の残業だったり、仕事による疲労だったり、スランプだったり………。

更新が遅れてしまって申し訳ありません!


あと、サブタイトルは、ピンと来る人はすぐに来ます。


ヒント「機動戦士ガンダムUC」


Listen to your heart

 

 

 

 

 最初に会った時から、俺は『アイツ』の事が嫌いだった。

 自己紹介からいきなり『自分に関わるな』とか言って他人を拒絶して、そしていきなり千冬姉を馬鹿にして、屋上で俺をボコボコにしやがった。

 

『テメェには才能はない。そうやって守られてるのがお似合いだな』

 

 今でも忘れない、誰かを守れる強さがほしいって思う俺の気持ちを踏みにじる言葉。もしこれでアイツが口だけの奴ならこんなに意識する必要もなかったのに………。

 だけどアイツは、見ていて憧れを覚えるぐらいに強かったんだ。炎を纏った全身装甲のISで空を翔るアイツの姿を見る度に、俺は目が離せなくなっていた。

 炎のような強さを、疾風のような速さを、雷のような早撃ちを、閃光のような剣捌きでオーガコアを圧倒し、いつだって俺の前で飛び続けるアイツの姿を見る度に、心の中で呟いた。

 

 あんな風に強くなりたい、あんな風に強くなって、俺も誰かを守れるようになりたいって………。

 

 だからこそ、許せなかった。

 アイツのことを想っている人間を本気で攻撃したアイツが、自分が憧れたアイツ自身を踏み躙っているような気がして、気がついたら飛び出していた。

 途中で千冬姉や箒やラウラが止めようと声を張り上げていたような気がしたけど、俺はそれの一切を無視して、本気でアイツに雪片を振り下ろした。止められようと避けられようと関係ない、ただ止められない激情だけで刃を振り下ろした………。

 

 だけどアイツは止めることも避けることもしなかった。俺の一撃を真正面から受けて、血を流す怪我を負った。そして俺は、雪片についたアイツの返り血を見て愕然とした。

 

「なんで避けなかったんだ、なんで止めなかったんだ、俺が憧れたお前ならそれぐらい簡単だろ?」

 

 愕然とする俺に、アイツは静かに言った。

 

『満足か?……………お前は間違ってない。俺がお前でも………たぶん、こうした』

 

 血を流しながら、俺を見るアイツの目は、いつものうっとうしそうな目でも、俺の事を馬鹿にした目でもない、本当に何かを後悔している目だった。

 

 あの後、千冬姉に殴られ、自分がもう少しで人殺しをするところだったことを諭されて、ISの使用を

禁じられたこともショックだった。でも、俺には何よりも、アイツが見せた俺を見る目が気になって仕方なかった。

 

 そして今になって気がついた。

 

 俺は火鳥陽太の事を、本当は何も知らないってことを………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 相変わらずのうっとおしい雨が窓を叩く。そんな中、明かりもつけずに寮のベッドの上に腰を下ろす一夏は、未だに熱を持つ腫れた頬をさすりながら、腕から外されたガントレットを見つめ思い出し続ける。

 

 ―――満足か?……………お前は間違ってない。俺がお前でも………たぶん、こうした―――

 

 手に残る感触は、あの時、怒りに任せて振り下ろした刃の感触だ。

 

 大事な人を、大事な人の名誉を、守りたいから、この手で守ってみせたいから、手に入れたはずの力。

 それなのに自分は、何をやった? 友達(シャル)を傷付けられたから、陽太を傷付けてもいい?

 そんな馬鹿な話がある訳がない。

 

「同じ………いや、俺の方が………最低だ」

 

 怒りが引いて、落ち着きを取り戻した今なら、あの時の陽太の立ち尽くす姿の意味が判る。

 陽太は最初からシャルを傷付ける気なんてなかった。彼女を攻撃してしまったのは、とっさのことでおこった事故だ。自分のように怒り任せで起こした故意ではない。

 

「そういうことから守りたいって思ってたのに………なんで俺は!!」

 

 血が滲みそうになるほど拳を握り締めた。

 結局自分は何も成長できていない。少しばかり力が付いたから、調子に乗って陽太に模擬戦を挑んでみたり、シャルを理由に陽太にその意趣返しをしようとしてみたり、思い返せば、恥ずかしくて死にたくなるようなことばかりだ。 

 

「シャル………陽太………」

 

 今は鈴がシャルの看護をしているのだろうか?

 聞けば、陽太はあの模擬戦の後、学園から姿を消したとか………それを聞いた一夏は一瞬、陽太を探す手伝いをしようかと千冬に連絡を取りかけたたが、だが、いざ陽太と顔を合わせた時、どの面を下げればいいのか判らず、結局、携帯のボタンを押すことができなかった。それすらも、一夏の自分自身への怒りと苛立ちを募らせていく。

 

「……………」

 

 だが、このまま何もしないでいるのも、今の一夏には苦痛であり、彼がとりあえず思い浮かんだことは、自分が陽太以外に謝罪するべきもう一人である、シャルへの見舞いであった。

 シャルに会うことすらも、罪悪感から足取りが重くなるが、そこから逃げては、もうこの学園にいる価値すら見出せなくなりそうで、一夏は身体を引きずるようにベッドから立つと、部屋を出る。

 そして、ロビーに差し掛かった時、反対側の通路から同じように項垂れながらも歩いていくる人影が目に入り、思わず一夏は彼女に声をかけた。

 

「セシリア!」

「!! い、一夏さん!?」

 

 珍しく覇気が見られない、元気のない表情をしているセシリアを見て心配になる一夏であったが、セシリアは、そんな一夏に何処に行こうとしているのかを告げてくれる。

 

「シャルロットさんの………お見舞いに行こうかと思いまして………消灯時間まであまり時間もありませんし」

「!!………セシリアもか」

「アラ、一夏さんも?」

 

 どうやらセシリアも一夏と同じ悩みを抱えていたようで、陽太の捜索に行きたいという気持ちはあるものの、シャルとのことを誤解し、敵視して、あんな事態を引き起こした一端に責任を感じ、躊躇してしまったのだ。

 二人共そのことが判ったのか、少しだけ軽くなった表情で僅かに微笑み会うと、言葉は交わさずに、ロビーに置いてある傘立てから、自分の傘を出して差すと、雨脚が強まる中を歩き出す。

 

「……………」

「……………」

 

 雨の夜道を歩く二人は、しばし、無言で歩を進めるだけだったが、痺れを切らしたのか、セシリアが先に口を開いた。

 

「………私は………本当は少しだけ、シャルロットさんに嫉妬していました」

「?」

 

 突然のその言葉に、一夏はセシリアの方を振り向く。

 彼女は一夏から視線を外し、雨を降らせる夜空の方を見ながら静かに語る。

 

「だって………陽太さんと、分かり合えていらっしゃるから…」

「……………」

「私はこの一月以上の間、あの方と共にいましたが、未だに判らない事だらけでいっぱいです………ですが、シャルロットさんは違いました。全て分かり合えていらっしゃるとは言いませんが………真っ直ぐに信じてらっしゃる」

 

 陽太の身を案じ、彼に尽くそうとする『女』の姿に、そしてそんなシャルの事を口では邪険に扱っても、何よりも大事にしているような『彼』の姿に、セシリアは無意識の内に嫉妬していたのだ。ただの幼馴染なだけではない。二人の間には目に見えない、強い絆の様なものがある気がして、未だに陽太に振り向いてもらえない自分が、なんだか滑稽で、惨めで………嫉妬していたのだ。

 

「想い、想われて………なのに、私は………私達は上っ面のことだけで、陽太さんを否定して、シャルロットさんに無理強いさせて………」

「それは………俺も同じさ、セシリア」

 

 上っ面だけの理解で、解った気がしていた結果、こんなに後悔の念だけが募っているのだ。今回ばかりはあまりに自分の未熟振りを一夏は痛感させられることなかった。

 

 それ以上の言葉を交わすこともなく、二人は重い、重い足取りで光が消えた校舎に辿り着くと、決して早くない速度で唯一明かりがついている保健室へと赴く。

 

「………失礼します」

「………シャルロットさんのお見舞いに来ました」

 

 音を極力立てないように開き、二人は小声で声をかけながら入室すると、机の上でひたすら書類整理をしているカールが、振り向かずに二人に声をかける。

 

「感心しないな………消灯時間はまだだが、すでに寮の外出可能時間は過ぎてるんじゃないのか?」

「「あっ」」

 

 二人してそのことに気がついていなかったことを指摘され、かなりバツが悪くなるが、カールは『やれやれ』と呆れながら、最後まで書き終えた書類を整え、上にペンを置くと、凝り固まった肩をほぐしながら立ち上がる。

 

「それにデュノア君と鳳君なら、すでに寮に戻っているはずだ。まだ寮に二人とも『いる』のかはわからないけどね」

 

 カールは更に言葉を重ね、居た堪れなくなった雰囲気の二人を尻目に、棚に置いてあるカップを取り出し、コーヒーメーカーから湯気の立つコーヒーを入れて、二人に差し出す。

 

「さて、君達は今日この場に、何をしにきたのかな?」

 

 コーヒーを受け取った二人は、適当な所に腰を下ろすと、カールの問いかけに戸惑いがちに答えた。

 

「今日のことを、謝っておこうと思って………」

「どうして?」

 

 一夏の返答に、カールは答えがわかっていながらも踏み込んだ言葉を発し、一夏の代わりに今度はセシリアが答える。

 

「私達が不要に茶化してしまったせいで、陽太さんとシャルロットさんのお二人が不要な戦いをされてしまいましたし………」

「………そうか」

 

 しかし、沈んだ表情で自分の非を責めるセシリアとその言葉に無言の同意をする一夏に、カールは冷やかな視線と言葉をぶつけ、二人にとって予想外の言葉を言い放った。

 

「つまり二人とも反省したフリをして、自分を慰めたいと言うわけか。なるほど、よくわかったよ」

「「!!」」

 

 カールのその言葉に、一夏とセシリアの表情が一瞬で憤怒の色に染まり、カールを睨み付ける。

 

「テュクス先生! いくらなんでも聞き捨てなりませんわよ!」

「ちょっと待ってくれよ先生! 俺達は………」

「待たないよ一夏君。特に君にはすでに私は伝えておいたはずだ」

 

 若干の威圧感を含んだ瞳で見つめられた一夏は、言葉と反抗的な思考を封じ込められてしまう。そして先ほどの『すでに伝えられたこと』とは何なのか、気になった一夏はカールが自分に話しかけた言葉を順番に思い出し始めた。

 

「(俺がカール先生に言われたこと? えっと………)」

 

『だから同じさ………今、必要なのは『どうすればいいか?』でなく『何故そうなったのか?』ではないのかい?』

「あっ」

「思い出してくれて光栄だよ」

 

 そうだ。鈴のときに言われたではないか。

 自分の思いだけで話を完結させてはならないと。陽太がなぜそうなったのか知らないと、陽太の気持ちを知らないと、自分は陽太と本当の意味で仲間になれないではないか。

 

「馬鹿だ、俺………つい数分前のことも忘れかけてた」

「一夏さん?」

 

 一夏の豹変ぶりに戸惑うセシリアだったが、今までとは違う『何か』に気がついた表情をした一夏は熱くセシリアに語りかける。

 

「俺達は謝ることも大事だけど、もっと大事なことがあるんだ! 俺達は陽太のことをもっと知らないといけないんだ。同じことを繰り返さないように………繰り返しそうになっても、今度は違う結果を導けるように」

 

 最初から答えが出ていたじゃないか、自分はこの場所にショげに来たわけでも、ただ頭を下げにきた訳でもない。そんなことをされても陽太もシャルにもまた迷惑をかけてしまうだけだ。

 そう、自分は陽太のことを『知って』『仲間』になりたいのだ。

 

「ありがとう! カール先生!! セシリア、いく・」

「待ちたまえ一夏君」

 

 そんな一夏に今度はカールが待ったをかける。

 出走前のサラブレットのように鼻息が荒い一夏に、カールは思わず苦笑してしまう。

 

「(思いだったら突っ走る所は、陽太君と同じか)………千冬は今忙しいし、シャルロット君も病み上がりだ。私で良ければ話をしよう」

「!!」

「鳳君も呼んでくれ。ボーデヴィッヒ君は………残念なことにまた今度だな」

 

 この時、すでにシャルの護衛を千冬から任されているラウラのことを知っていたカールは、あえてここで除外する。

 

「(他人のプライベートをあまりペラペラと話すのは性に合わないが………この場合は仕方ないか)」

 

 10数分後。帰ったばかりなのにまた同じ場所に逆戻りさせられ、若干機嫌の悪そうな鈴を迎え入れた一夏達は、彼らに伝え始める………。

 

 学園に少し来る前に、フランスで起こった陽太とシャルの物語についてを………。

 

 

 

 

「………と、これが陽太君とシャルロット君との間に起こった、フランスでの一件だ」

 

 外で以前と降り注ぐ激しい雨の中、カールが語る話を聞いた三人は、すっかり温度を失くし冷めたコーヒーカップを握り、呆然としながらカールの顔を見た。

 

「………陽太」

「じゃあ………陽太さんは、シャルロットさんを戦いに巻き込ませないために、フランスでお別れを……」

「………何よ、それ」

 

 話を聞き、陽太が如何にシャルを戦いに巻き込みたくなかったかを聞いた一夏とセシリアとは違い、鈴は話を聞いても、なお、陽太への怒りを収まらせないでいた。

 

「結局、アイツは一人で勝手に自己完結しただけじゃない!」

「鈴ッ!」

 

 一夏が嗜めようとするが、すぐさま鈴の変化に気がつく。

 

「結局、アイツは誰のことも信用してないのよ! ただ一言、言えばいいじゃない!」 

 

 大粒の涙を瞳に溜めながら、鈴は憤る。自分達は陽太に信用も信頼もされていなかった。結局言葉だけの仲間で、ただの隊長とその部下という上下関係でしかなったのだ。

 

「鈴………」

「解ってるわよ! 私達が………アイツを非難する権利なんてこれっぽちもないことぐらい! 陽太のことを勝手に誤解して、勝手に一人にしたのは私達の方よ。それぐらい解ってるわよ!!」

 

 自分の感情を制御できない鈴は思わず叫んでしまっていることにも憤りながら、必死にそれを制御しようとする。

 

 鈴が憤っているのは、つい最近までの自分と重ねているからだった。

 誰も信じず、誰にも本心を見せず、必死に虚勢を張って、独りで自分を取り巻く世界と戦う。それがどんなに辛くて終わりのないものなのか、身に染みている鈴なのだ。

 しかも、陽太は何も鈴のように勝手に思い込んでいる訳ではない。きっとそんな自分の在り方が良くないことも理解しつつも、それでも貫いている。それもこれも全てシャルを守るために………。

 

 だからこそ、どうしても一夏には解らないことがあった。

 

「でも………なんで陽太は、そこまでシャルを遠ざけようとするのかな?」

「それは………ですから、シャルロットさんを戦いに巻き込まないように…」

「それだけだと説明つかないだろ? 陽太だって、話してシャルに理解してもらえばいいことぐらい考え付かないわけないんだ」

 

 そうだ。シャルを守りたいのであれば、彼女のそばにいればいい。それがわからない陽太ではない。ならば陽太がどうしてもシャルのそばにいられない理由とはいったい何なんだろうか?

 

 一夏が、その理由を誰かに聞きたい衝動に駆られるままに、携帯電話で姉へと電話を掛け始めるのだった………。

 

 

 

 陽太捜索に当てられた人員が、そのまま『シャルロット・デュノア捜索』にすり替わる中、千冬は膝の上のノートパソコンと睨み合いを続けていた。 

 雨のためか、時間によるものか、大分交通量が減った国道の脇に車を停車させた千冬は、小型のマイクを掛けながら、目まぐるしく膝の上に置いたノートパソコンのキーを叩き、とある人物の背後関係のデータに目を通し続ける。と同時に、隣の真耶が、非常事態ということで政府に特別に許可をもらい、市内各所に設置されている防犯カメラにシャルとマリア(フィーナ)の姿が映っていないか、一軒一軒めまぐるしく変わる映像とにらみ合っている。

 

「更識、それで部屋の方は完全にもぬけの殻なのか?」

『ええ。侵入者用にトラップの一つでも仕掛けられているのものだとばかり思ってましたけど』

 

 マイク越しの相手、IS学園生徒会会長『更識 楯無』が踏み込んだフィーナ・チューダスの部屋の様子を聞いた千冬は小さく舌打ちをする。

 ラウラからシャルの行方不明の話を聞いた際、一緒に消息が判らなくなった人物がおり、それが親身に接してくれたマリア(フィーナ)であると言われた瞬間、千冬はすばやく学園に待機中だった楯無に連絡を入れ、寮にあるマリア(フィーナ)の部屋に向かわせたのだ。

 

 かねてからIS学園内部にオーガコアを手引きしているスパイがいる可能性を示唆していた千冬は、対オーガコア部隊とは別口に動いていた、IS学園生徒会と共にIS学園在籍中の生徒及び教員の調査を行っており、最近になって、確実な証拠こそない物のリストのトップに立っていたマリア(フィーナ)の動向には特に注意を動かしていたのだが、決定的な証拠がないため代表候補生であるマリア(フィーナ)を逮捕できずにいたのだ。

 マリア(フィーナ)の経歴は表向きには何も怪しい証拠はないものであったが、その各所に時々見られる不自然な潔白さが、どうしても拭えない不信感を抱かせており、彼女のクラスメートである楯無も、時々彼女が見せる言い知れない底知れなさに警戒していた所に、今回の行動である。

 マリア(フィーナ)に対し、千冬はすでに亡国機業の間者(スパイ)であるという確信を持って当る覚悟をし、彼女がいない今、少しでも証拠になるようなものを手に入れようと、楯無を向かわせたのだが、流石というべきか、部屋には何一つ証拠になるような物は残していない。ルームメイトにしても、本国からの諸事情で一昨日から急遽帰国しており、そのことでルームメイトも亡国の間者(スパイ)であり、マリア(フィーナ)の共犯であったことを証明していたのだ。急遽、学園上層部からIS連盟を通して、そのルームメイトの所属している国の政府に問い合わせているが、とてもすぐに返事が返ってくるはずもない。

 

「(政府を抱き込んでいる以上、知らない存ぜぬと決め込んでくるのは避けられない。仮に、亡国との繋がりを認めても、連盟の手を煩わせないといって、内々で処理するに決まっている………チッ、またしても後手回りか!)」

 

 ようやく掴みかけた証拠が遠のき、おまけに陽太に続きシャルも行方不明………自分の力の無力さに千冬が眩暈を覚えた時、自分の携帯に弟の一夏から着信が入る。

 

「すまない楯無。お前はそのまま捜索を続けておいてくれ。何か出れば連絡をよこしてくれればいい」

『了解しましたけど………私もシャルロット・デュノアちゃんの捜索に加わった方がいいんじゃ?』

「それはこちらでする。もしもの時は、お前に臨時で対オーガコア部隊の現場指揮を取ってもらわないといかん。学園にいてくれ」

『わかりました』

 

 短く返事をした後に通信を切った千冬は、携帯の通話ボタンを押して、電話に出る。

 

「どうした、一夏?」

『すまない! 今、聴きたいことがあるんだ!!』

 

 本来なら、今はシャルの捜索に神経をすり減らさないといかず、一夏に割いている時間はないのだが、弟の声がいつもとは違う真剣さに染まっていることに気がついた千冬は、とりあえず話を聞くだけ聞こうと、肩で携帯を挟みながら、再びノートパソコンに視点を戻し、データからシャルが今いると思える場所を割り出す作業に戻ろうとする。

 

「それで、何を聞きたいというのだ一夏。くだらないことなら・」

『千冬姉は……………陽太がシャルのそばにいられない理由が何なのか、知ってるんだろ?』

「!?」

 

 その確信に満ちた声に、千冬はパソコンのキーを叩く指を止め、携帯を手に持ち直して、一夏に聞き返す。

 

「どうして、お前が今、その話をしてきた」

『俺、今、学園の保健室にいて……それで…』

「ああ、わかった。カールか………」

 

 長年の付き合いである主治医であり友人である男の仕業であることに、千冬はゲンナリとした表情になりながら心の中でカールを睨みつける。

 

「(どうしてお前は口がそう軽いんだ………)それで、カールから陽太の話を聞いたのか?」

『うん………だけど、どうしても判らないんだ。どうして陽太がシャルのそばにいられないのかってことが』

 

 一夏の表情が声だけで沈んでいることが千冬にも判った。それゆえに、このことを勝手に話していいものかどうか、千冬も戸惑ってしまう。

 

 ひょっとしたら、一夏が本心から陽太を幻滅してしまうのではないだろうか?

 

 本来なら、こんな事を千冬が考えるはずもないが、今の陽太がシャルのそばにいられない理由を知っている千冬は、どうしてもその疑念を捨てきれずにいた。

 

 なぜならば、それは自分自身も一夏にずっと話せずにいたことの内の一つと同じだから………。

 

「そのことを聞いて………お前は陽太と、どう接したいのだ?」

 

 知らず知らずの内に、硬くなってしまった声で千冬が一夏に問いかけてしまうが、一夏はそんな千冬に迷いながら………『それでも』臆することなく答える。

 

『俺は、まだ……わからない。わからないことだらけだよ………』

「……………」

『わからないことだけだけど、だけど………『それでも』、考えることを止めちゃ駄目だなんだ。知ろうとすることを止めちゃ駄目なんだ』

「一夏………」

『俺………アイツと『仲間』になりたい』

 

 一夏のその静かで優しい言葉を聴いた瞬間、脳内に電流が走るように、昔の情景が流れ込んでくる。

 

 

 

 ―――あれはいつだったか………―――

 ―――古いが手入れが行き届いた家屋の縁側に腰を掛けた、『先生』は、学生服に所々顔に絆創膏をつけた私に、静かに語ってくれた―――

 

『また×××と飽きずに喧嘩をしたの、千冬?』

『違います! アイツが悪いんです!! アイツがいつも私に勝手に突っかかってくるだけです!』

 

 ―――私の問いかけに、先生は困ったような笑顔を浮かべながら、私の頭を撫でながら話してくれた―――

 

『そう。×××も強情なところがあるから、強情な千冬とは意地を張り合ってしまうのね。知らなかった?』

『!!! 私は強情なのではありませんよ!!』

『あら、そう?』

 

 ―――私の答えが面白かったのか、それとも鼻の上に絆創膏が張られた顔が可笑しかったのか、クスクスと笑う先生に、私は頬を膨らませながらそっぽを向いてしまう―――

 

『だけど、喧嘩をしても、千冬は×××のことを想うことを止めていない。謝ろうって考えてる。それはとても素晴らしいことよ』

『想ってなど………いません!! それに謝るなら向こうの方です!!』

 

 ―――私の問いかけに、先生は頭を撫でる手を止め、両手を頬において、優しく語ってくれた。

 

『それでも、わからないかもしれないけど、だけど………『それでも』、考えることを止めちゃ駄目だなの。知ろうとすることを止めちゃ駄目なのよ』

『………先生の話は、難しくて、未熟者の私にはよくわかりません』

『愚者は己の賢きを過信する。賢者は己の未熟を自覚する……でもね』

 

 ―――先生が私の鼻を軽く摘みながら、笑って言った―――

 

『すぐに諦めて、途中でやめようとするのが千冬の悪い所。もっと信じなさい。×××のことを、彼女のことを信じる千冬自身を』

『………信じる?』

『そう。駄目とか無理とかじゃない………信じる心に従って委ねてみなさい』

 

 ―――先生が笑顔と共に送ってくれた、あの時の私の中になかった言葉を、どうして―――

 

 

 

 

「……………今になって思い出したんだろうな」

『千冬姉?』

 

 そうだ。なぜ忘れてしまっていたのだろうか?

 答えなら当の昔に出ていた。

 あの日、あの人は私にそう諭してくれたじゃないか。

 

 ならば、自分は最後まで教え子たちを信じて委ねてみよう。

 

 千冬は自分の手で顔を覆いながら、忘れてしまっていたあの日の言葉を思い出したこと、そしてそれを思い出させてくれた一夏に、感謝の言葉を投げかける。

 

「………ありがとう一夏」

『うえっ!?』

「そうだ。私はもっとお前を信じるべきだったんだ。信じてお前たちに委ねるべきだったんだ」

『あ、いや、その………』

 

 そして、千冬は覆っていた手を離すと、姉に感謝の言葉を言われて非常に動揺している一夏に、声色を変えた迷いのない声で話しかけた。

 

「私は、私こそ陽太を救うべきだと考えていた………重い『過ち』を犯してしまった、私の教え子を……」

『!?』

 

 陽太を出口のない迷宮に放り込んでおき、精神の袋小路に迷い込んでどこにもいけなくなってから、慌てて手を差し伸べようとする。そんな自分の過ちを戒めながらも千冬は一言一言に、ただ後悔しているだけの先ほどまでとは違う気持ちを込めながら、一夏に真実を伝え始める。

 

「当事者ではない私は、事件よりも数ヵ月後に事後報告で話を聞いただけで、現場にはいなかった………そういう意味では部外者なのかもしれない。そのくせ、色々と下らない根回しをして、あいつの反感を買ってしまった」

『それって………』

「最初、この学園に来た時、私はアイツがどこか私の目の届かない場所に行くのを防ぐ為に、デュノアを人質に取った。言うことを聞かねばフランスにいるデュノアの身柄を拘束するぞ、とな」

『!!………なんでそんなことを!!』

 

 電話の向こうで一夏が明らかに千冬に対して反感を覚えたことを、仲間を案じて憤っていることを素直に『嬉しく』感じながらも、それを言葉に表さないように気をつけながら話を続ける。

 

「私は対オーガコア部隊組織編制には陽太の存在が必要不可欠だと考えている。それは今も変わっていない………そのための必要な処置だと考えた……最も、そんなことは不必要だったようだがな」

『当たり前だ!! アイツは………陽太は、千冬姉を見捨ててどっか行くような人間じゃないだろうが!!』

「ああ、まったくその通りだ。私は愚か者だ………アイツを信じきれないでいた、愚か者だ」

 

 自重するように素直にその言葉を吐く千冬に、一夏は二の句も告げずにその場で黙り込んでしまう。

 

「………先ほどの話に戻るぞ一夏………が、話す前にもう一度だけ聞いておく。お前はアイツを助けたいんだな?」

『あ、ああ………助けたい。力になるならないじゃない。できるできないじゃない……助けたいんだ』

「………良く判った。お前のその言葉を信じて、お前に委ねるよ」

 

 そして一息置いて、千冬は一夏に真実を告げ始める。

 

「二年前、スイスの国境付近で、陽太とオーガコア搭載機との戦闘が起こり………陽太はやむ終えず、オーガコア搭載機に取り込まれた操縦者を殺害した」

『!!』

 

 一夏が息を飲んだことが千冬にも判る。彼の予測を超えるその真実に、一夏が動揺を隠し切れなかったのだ。

 

「オーガコアに取り込まれた操縦者の殆どは、通常、数時間した後、精神が発狂し、獣さながらに暴れ周り、あらゆる目標に向かって破壊活動を開始する。だが中には、精神が発狂しない者もいる………強靭な精神力を持ってオーガコアの支配に耐えうる者………」

『ラウラとかか!』

「そうだ。ラウラも強靭な精神力でオーガコアに取り込まれるのを寸での所で踏み留まっていた………だが、それにも限界はある」

『………限界?』

 

 自分が発した言葉に再び息を呑んだ一夏に、千冬は僅かな憤りの感情を込めた声で話し続けた。

 

「そう。オーガコアの恐ろしさは、取り込んだ対象がすぐに支配できないとコアそのものが判断した所から始まる………コアは対象がすぐに取り込めないと判断すると、取り込む速度を意図的に『遅らせる』のだ」

『な、なんで?』

「………より対象を完璧に支配しようとするコアは、少しづつ、まるで遅効性の毒で汚染するように、少しづつ精神を壊し続け、その際に出る精神的苦痛を自らの進化の糧にする」

『!?』

「すこしづつ壊れいく精神に、操縦者が発狂するも良し。発狂せずに耐えても、崩壊する人間性に恐怖しながらのた打ち回るのも良し………オーガコアにとって、良質な『絶望』は何よりの糧なんだ」

 

 オーガコアのその恐ろしさは、人間的な心理構造をコアが理解していくことにある。まるで捕らえた獲物をどうすれば美味しく頂けるか知っている獣のように、オーガコアを着かず離れず、操縦者の精神を少しづつ壊し、その時に出る苦痛や、汚染される精神に対しての絶望感、崩壊する人間性を守ろうとする恐怖を栄養の糧とし、より強大になろうとするのだ。

 

「聞いた話では、その時の操縦者は相当なレベルまで汚染されていて、もはや物理的にもオーガコアを引き剥がすことができないほどだったらしい」

『だから………陽太はやむ終えず』

「………アイツにはその事実は何の慰めにもならないのだろうがな」

 

 人を殺した。

 どんな理由があろうと、命を奪えば二度と戻ってこない。

 だからこそ、二度と戻ってこない命をを奪ったことに対して、陽太は耐え切れない罪悪感を覚えのだ。

 

「それからだ。元々人見知りが激しかったアイツが、ますます他人に壁を作り始めたのは………」

『じゃあ、アイツがシャルを避けようとしたのは?』

「………怖かったんだ」

 

 ―――怖かったのだ―――

 ―――シャルに自分が人殺しであることを知られるのが―――

 ―――自分のそばにシャルがいれば、それをいつか知ってしまう日が来ることが―――

 

「人殺しと、デュノアに言われてしまうではないのか? そう考えてしまって、堪え切れないほどに怖かったんだ」

『………陽太』

「もちろん、デュノアを戦いから遠ざけたい、巻き込みたくないと言う気持ちも大いにあったんだろ。だがそれだけだと無理強いして遠ざける理由にはならない」

『……………』

「………私がアイツについて話せるのはここまでだ」

 

 電話越しにも戸惑ってしまっている様子が千冬にも良くわかった。だが、ここで『頼む』という言葉や、命令をしてしまっては、話をした意味がない。

 彼は自分の弟で、一人の人間で、決して操り人形でもなんでもないのだから………。

 

「お前の判断に任せたい………陽太を、お前はそれでも助けたいと言ってくれるのか」

 

 そして、そんな千冬の真摯な言葉を聴いた一夏は、少しだけ間を置いた後、千冬に向かって迷いを振り払い、はっきりとした意思を伝える。

 

『陽太を助けたい、千冬姉!! 俺に行かせてくれ!』

「………そうか」

 

 千冬が、僅かに口元に笑みを浮かべながら、一夏が行ってくれた言葉に、心の底から感激した時、隣にいた真耶が、大声を張り上げる。

 

「い、いました!! 二人、いました!!!」

「!?」

 

 隣で千冬と一夏がしている会話に耳を傾けながら、自分の膝の上に映し出されていた、監視カメラの映像の中に、映し出されたシャルとマリアの姿に、驚き、思わず大声を張り上げてしまったのだ。

 

「どこだ、山田君!」

「ええっと………消息を絶ったファミレスから南西三キロの地点のコンビニの防犯カメラです!」

 

 その言葉を聴いた千冬は、すぐさま膝の上ののノートパソコンを開き、付近の地図をにらみつけ、すぐさま当たりを引き当てる。

 

「ココだ」

「ココって………もうすぐ開店するっていう大型ショッピングモール!」

「敵がどの程度の想定をしているのかはわからないが、IS同士の戦闘になったときに、有利に状況を働かせるための、ある程度の空間と遮蔽物の双方を持った場所があるとしたらココしかない」

 

 すぐさま学園で待機しているであろう、楯無に連絡を入れようとする千冬だったが、手元の携帯が通話状態だったことを思い出し、電話越しにいる一夏に声をかける。

 

「一夏、聞こえているか」

『ああ! 山田先生の声が聞こえたけど、いたって陽太か!? シャルか!?』

「デュノアの方だ………だが、どうやら亡国機業の内通者(スパイ)と一緒にいるらしい。そこには何人で聞き耳を立てている?」

 

 受話器の向こうで息を潜めて千冬と一夏の話を聞いていたセシリアと鈴の存在に感づいていた千冬に、向こうの二人が、申し訳なさそうな声を出しながら謝罪の声を出す。

 

『も、申し訳ありません』

『す、すみませんでした!! 決して野次馬根性で話を聞いてたわけじゃ!』

「今はいい………ラウラにはこちらから連絡を入れる。案内人を向かわせるから、そいつが着き次第ISを使用しての市内地上空の飛行を許可する。三人とも今すぐ、現場に向かってくれ」

『『『了解!』』』

 

 すぐさま司令官としての命令を下す千冬であったが、隣にいた真耶がすぐさま千冬が下した命令に噛み付いた。

 

「織斑先生!! 政府の許可なく市内地上空の飛行なんてしたら!」

「………責任は私が取る。アイツらが万全に戦えるようにしてやることが、私の戦い(責任)だ」

『千冬姉?』

 

 電話越しに戸惑う一夏に、千冬は姉としての素の声で話し変けた。

 

「後、一夏………帰ったらお前に話しておきたいことがある。私自身についてだ」

『!!?』

「必ず話す。だから今は目の前のことにだけ集中しろ。いいな」

『ああっ!』

 

 そして千冬は携帯の通話ボタンを切ると、すぐさま楯無とラウラに連絡を入れ始めた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

『展開装甲起動。雪片弐型参式・烈空』

 

 迷いなく放れた白い斬撃は、紫色の弦術師を確かに捉え………。

 

「!?」

「まっすぐな瞳、まっすぐな斬撃………嫌いじゃないわよ、個人的には」

 

 弦術師の指先から放れた、三本の鋼糸に受け止められ、空中で静止してしまう。さらにそこから、マリアは指を踊らせ、鋼糸を波打たせた。

 

「でもそれだけじゃ、私には永遠に届かなくてよ?」

「なっ!?」

 

 手加減抜きではなった烈空だったが、踊る鋼糸が刃に巻きつくと、あっさりと噛み砕いてしまったのだ。

 一瞬だけ、呆然となる一夏だったが、マリアは止まらない。

 

「相手から目を離しちゃ駄目?」

「!!」

 

 瞬時に懐まで進入したマリアは、優しく一夏の腹部に手のひらを置くと、

 

「で、ないと、こんな風なこと、さ・れ・ちゃ・う・ぞ!」

「ぐふっ!」

 

 マリアの足元が陥没すると同時に、凄まじい衝撃が一夏の腹部を貫き、彼を天井まで叩き飛ばしてしまう。

 

「ガハッ!」

 

 天井に叩きつけられた一夏は、地上に落ちると、二度バウンドして地面を転がっていく。

 腹部に凄まじい衝撃を受け、天井に叩きつけられ、地面でも転がされた一夏だったが、何とかISの防御機構のおかげで失神することなく、意識を保ったまま顔を上げた。

 

「火鳥 陽太以外には危害は加えたくないのに………仕方ないわね」

 

 指先から放たれた鋼糸が、周囲の物体を切り刻みながら踊る中、対オーガコア部隊のメンバーと楯無がぞっとするような瞳で彼らを見ると、紫色の弦術師は口元で薄く笑いながら、告げる。

 

「今までの暴走させているだけの操縦者『モドキ』と、オーガコアを使いこなしている亡国機業のIS操縦者との違い、はっきりと魅せてあげるわね?」

 

 

 

 

 




というわけでの久しぶりの更新。
スランプで死に掛けなところに、かなり難しい話だったので、余計に難産しました

突然ですが、すごい難しんですよ。人の考え方とか、思想とか、罪の意識の考え方とか………。

でもこういうことは、ほんとちゃんとキチンとやっておきたいんですよね。

というわけで、次回はいよいよ、マリアさんの本領発揮タイム


オーガコア搭載機を、本物ののIS操縦者が使うとどうなるか、ご覧ください!

ではでは!
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