IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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投稿が遅くて、ホンに申し訳ありません!(汗


ついにマリアとの決着です!

二年前に何があったのか!?


そして、二人の戦いは、衝撃のクライマックスを迎えます


空の流した涙

 

 

 

 

 

 

 今から二年半ほど前、オーガコアの反応を掴んだ束の情報の元、スイスの国境付近にISを展開して降り立った俺は、あの女―――モミジ・フジオカと遭遇した。

 人口数百人もいないような小さな町とも言えない村に、似つかわしい血の匂いが充満していた。もしあの場でISを解除してたら、臭いのせいで俺は吐いてたかもしれない。そしてその原因は、確認するまでもなかった。

 

 大地にばら撒かれた人の死体………一体残らずまともな形で残っているものがない。最低でも三つに分断され、正確に何人いて、誰の身体の破片なのかわからないような状態でばら撒かれていたのだ。せり上がって来る嘔吐感を無理やりこらえながら、俺は人の血で作られた惨劇場の中心に近寄る。

 

「あら、良かった~~」

 

 場に似つかわしい間の抜けた声が聞こえてくるが、逆にそれが不気味さを倍増させる。

 

 そこにいた女………展開状態のISを纏いながらも、肌も髪もISの装甲すらも、たった今斬り落としたと思われる人の生首から溢れ出る返り血で、全身くまなく真っ赤に濡らしていた………もう見るからに尋常な状態ではないことが分かったが、それ以上に恐ろしくなったのは、目の前の女は………。

 

「見たことがない、ISさんね~~~。しかも私のオーガコアが言ってるわ。『強い敵』だって」

 

 世間話をするように明るい笑顔のまま、斬り落とした生首の肉を口で噛み切り、くちゃくちゃと喰らっていたのだ。

 両手のヴォルケーノの銃口を構えながら、まっすぐに目の前の相手を睨み付けながら俺は問いかけた。

 

「ここの連中を………お前が殺したのか?」

「!?………その声! 貴方、男の子ね!!」

 

 だが、目の前の女は俺の質問を無視して、俺が男だと分かった途端、今まで以上に嬉しそうにな笑顔を浮かべながら、近寄ってくる。

 

「どの国家機関にも所属しない、オーガコアを狩る正体不明のIS………噂では男と言われ、ついた通り名が『正体不明の男操縦者(ミスターネムレス)』………貴方に会いたかったの~」

「何ッ?」

 

 ならばこの惨劇は罠か? 自分を誘き寄せるためだけにこれだけの人間を殺したのか? 吐き気は引っ込み、代わりに怒りが込み上げ来るが、次の瞬間、目の前の女の言った言葉は俺の予想を完全に裏切るものだった。

 

「早く、私を殺して頂戴」

「………はぁ?」

 

 突然何を暢気な声で言い出すこの女? 疑問符が頭の中でグルグルと渦巻くが、そんな俺を見かねたのか、女はもう一度同じことを口にする。

 

「早く、私を殺して頂戴」

「………いや」

「今、ちょうど殺したてだから、私も衝動を抑えられるし、私を回収する奴等も来てない。だから早く私を殺して」

「………ちょ、ちょっと待て!!」

「ダメよ。私もいつまで抑えきれるか解らないの」

 

 何を言っているのかまるで分からない俺に、女は先ほどの背筋が凍りつく様な笑顔ではなく、必死な形相をして自分の死を懇願してくる。

 

「私が私でいられるウチに! 早くッ!!」

 

 さっきとは違う。これがこの女の本当の表情だ。それが分かってしまっただけに、俺はどうするべきか迷い、女に攻撃するのに躊躇してしまう。

 だが、女は後炉に振り返り何かに感づくと、俺に小さな紙切れを押し付けてその場を飛び去ってしまった。

 後に残された俺の手には、小さな紙切れとそこに書かれた文字と数字………おそらく、何処かの店なのだろう………何が起こっているのか、理解できないでいた俺だったが、ISのハイパーセンサーは群れを成して上空から近づいてくるヘリの存在を示し、俺は慌ててステルスモードでその場を離脱する。

 

「スイスの国軍?………どっちにしろ…」

 

 あの女を追ってきた、もしくは回収しに来た。

 どちらにしろ、俺は手の平に残された紙切れに示された場所にいく必要がある。判らない事だらけな故に、何があるのか、何故あの女が俺に自分を殺してくれと願い出たのか、その真相を知るために、俺は罠かもしれない場所へと足を向けた。

 

 明くる日、通信越しにガミガミ言ってくる束を無視した俺は、紙切れに示された場所に足を踏み込んだ。

 

 場所は、とある街中のオープンカフェだった。しかも女は、真紅の血で濡れていないスカイブルーの美しく長い髪に真っ白い私服のまま、あれだけの虐殺を働いていたにも関わらず、何も気にする様子もなく、コーヒーを飲みながら足元に寄ってきた猫に餌をやっている。その姿に俺は苦々しい表情を浮かべて、女に断ることもなく前の座敷に腰を下ろした。

 俺が腰を下ろした時の音に驚いたのか、女の足元の猫は驚いて何処かに逃げ出してしまう。だが女は走り去っていく猫に向かって手を振ると、目の前に座った俺に振り向かずにいきなり聞いてくる。

 

「まさか、ここまで若い男の子だったなんて………さてと、それじゃあ私をどこで殺してくれるの?」

「いや………だから、お前…」

 

 どうして、この女はここまで早急に死にたがっているのか?

 思わず聞こうとした俺よりも早く、女は明後日の方向を見つめながら、話し始めた。

 

「私はもうすぐ自分ではなくなってしまう」

「?」

 

 微妙に震えている手を見つめながら、女は笑顔で振り返った。

 

「私のISに私は取り込まれそうなの………こうやって普通に話していても、頭の中で『人を殺せ』ってエンドレスで囁いている」

「!?………今すぐ、ISを手放せ!!」

「無理よ」

 

 そういって、女は首の裾を捲り上げる。そしてそこには俺の想像を超えた物があった。

 

 ―――肉体に癒着している待機状態のIS―――

 

「長い間操縦者と同調(シンクロ)しているオーガコアは、宿主をゆっくりと取り込もうとするのね………自分でも命を断とうしたんだけど、この子(IS)も判っているわ。私の命に危険が及ぶと呼んでもいないのに勝手に展開しちゃってさ………」

「外科手術で………」

「無理よ。政府機関に黙って医者に見せたけど、癒着したISの機構が神経のように体のあちこちにまで伸びてるそうよ。それに、そんなことを黙ってこの子(IS)が見逃すと思う?」

 

 外部からの刺激を受ければオーガコアが暴走する可能性は大である。だがこのまま手をこまねいていれば、遠くない未来においてこの女は確実に壊れてしまうだろう。

 そして以前、束からも聞かされていたことだ。物理融合を果たしてしまえば、たとえ自分でも、もう切除することは出来ないと………。

 だからこそ、あの時の俺にはわからなかった。

 

「どうして………それで、お前は笑ってられるんだよ!?」

 

 その質問にすら、女は笑顔を崩すことなく、こう答えた。

 

「見つけたからよ………私の願いを叶えてくれる、たった一人の『希望』を」

 

 やはり、俺にはこの女の言うことが判らない。どうして今から死ぬことが、そして自分を殺す俺がお前の希望なのか? 

 そんな判らないことだらけの俺を置いて、女はまた別の紙切れをテーブルの上において、こう言い残して席を立つ。

 

「一週間後、また別の任務で国外の村を襲うわ。目的は私のISと性能実験………お願い。それまでに私を止めてね」

 

 返事もできずに紙切れを見つめる俺を置いて去っていた女を殺せるのか?

 結局俺はその事に答えが出せないまま、一週間後、俺は残された紙切れに書かれた場所へと足を踏み入れることになった。

 

 その日も、分厚い雨雲が土砂降りの雨を降らせていた。まるで俺のその後を暗示しているかのように………。

 

 後から分かったことだが、どうやらスイス政府は裏で亡国機業(ファントム・タスク)と一枚噛んでいたという事。そしてモミジ・フジオカがオーガコアに取り込まれているのは意図的なことで、詰まる所、オーガコアの支配力に対する耐性を持つ彼女のパーソナルデータをフィードバックすることで、より安定した運用を行えるようになる。

 スイス政府にしても、各国に先駆けてオーガコアの運用に漕ぎ着ければ、ヨーロッパにおいての発言権は不動の物となり、更には世界に名を轟かす大国にのし上がることも夢ではない。

 

 つまり、奴等にしてみれば、国の利益になるために虐殺される人々も、悪鬼の声と人殺しの罪悪感に蝕まれ続ける操縦者の心の悲鳴も、どうでもいいことなのだ。

 

 降り続く雨の中、他人に自分の体も心も弄ばれ続けるモミジ・フジオカと俺の死闘は一時間以上続いていた。

 

「はぁー、はぁー、はぁー………」

 

 装甲を幾つか切り刻まれ、白いボディを血で濡らしながらもフレイムソードにプラズマ火炎を纏わせて構えた俺は、同じように全身を負傷しつつも鋼糸を構えているモミジ・フジオカに質問を投げかける。

 

「どうしてだ?」

「はぁー、はぁー、はぁー……何が?」

「どうして俺が希望なんだ!?」

 

 モミジ・フジオカと俺が同時に地面を蹴り、高速で斬り結び合う。一見出鱈目に振るわれているように見えるフレイムソードが、目に見えない速度で迫る鋼糸全てを弾き返す。

 

「貴方が強い操縦者だから!」

「強いだけなら俺以外でもいるだろうが!!」

 

 右の太腿と肩をやられ、血が噴出したが気にしない。激しさを増した嵐の斬撃を鋼糸の防壁にぶつけながら、なおも言葉を続ける。

 

「そしてもう一つ!」

「!?」

 

 だが、一瞬の緩急の隙を突いてフレイムソードを弾き飛ばされる。後方に突き刺さったブレードを拾いに下がろうかと躊躇した俺だったが、モミジ・フジオカはそれを許さず、一瞬で奴の鋼糸が俺の首に巻きつけられてしまった。

 

「貴方は私を殺せるチャンスを見逃してくれたわ」

「それは………ただ…」

「あの後ね、私、会ってきたのよ」

 

 誰に? そう問いかけようとした俺の言葉がわかっていたのか、モミジ・フジオカは笑顔で答える。

 

「妹………私のたった一人の家族」

「!?」

「そして会って理解した………私はもう限界ギリギリ。妹を一目見た瞬間にこの鋼糸で八つ裂きにしかけてしまった………いえ、頭の中で実際にしてしまったわ。そして悟ったの。私は実験のために人を殺しているんじゃない………自分の自我を保つために人を殺しているということに」

 

 その時、モミジ・フジオカの形相は今でも忘れない。

 

 右の顔で、薄く笑い、頬についた血の感触を楽しみ、左の顔で、瞳から涙を流しながら深い悔恨に苛まれている。

 

「お願い………もう私は耐えられない。人を殺すことに………人を殺さないと自分を保てない自分自身に」

「!?」

「お願い………私を解放して! 貴方にしかできないの!!」

 

 雨に濡れた鋼糸にいくつもの水滴がついては落ちる。まるでそれが目の前の女の涙であるかのように………そして俺も悟った。

 

 彼女を開放してやれるのが、この世で俺一人だけなのだと………。

 

「………わかった」

「………ありがとう」

 

 一粒の涙が彼女の左目から流れ、地面に零れ落ちた。

 俺の指が鋼糸に触れる。モミジ・フジオカの右手が同時に揺れ………。

 

 

 

 

 ―――透明な雨の中に、真っ赤な花が一輪咲き誇った―――

 

 

 

 

 胸の合間を切り裂かれ、ゆっくりと崩れ落ちるモミジ・フジオカを俺は抱きとめる。

 切り裂かれた胸から大量の出血をさせながら、それでも彼女は微笑みながら何とか言葉を発する。

 

「ひ、秘伝の………鋼糸返し……まさか一時間で習得されちゃうなんて……思ってなかったな」

「………アンタが手加減してくれなかったら覚える暇なんてなかったよ」

 

 彼女の手が俺の手に触れ、そして彼女の首元に向けられた。

 

 わかっている。『コイツ』を彼女から引き離さないと、彼女の苦しみは永遠に終わることないということに。

 わかっている。『コイツ』を彼女から引き離せば、生命維持ができなくなり、彼女の命が失われてしまうことに。

 

「そ、その技………で、出来たらで、い、いいから……覚えておいてね?」

「お前がいなくなれば永遠に使う必要はない」

 

 そして最後に彼女は、展開状態のISの上から、俺の頬に触れながら、微笑みながら目を閉じて言った。

 

 

 

 

「ありがとう、そして………さようなら………………私の苦しみを終わらせてくれた…………心優しい空の王」

 

 

 

 

 再び咲いた真っ赤………。

 

 

 血塗れの手でオーガコアを握り締め、天を仰ぎながら、俺は思った。

 

 

 

 

 結局………俺に出来たのは、壊れる前の彼女を殺すことだけだったということを………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「………今でも思う………」

 

 静まり返ったショッピングモールで、陽太の声だけが木霊する。

 シャルも、一夏も、箒も楯無もセシリアも鈴もラウラも聞かされた真相に言葉も出ない。

 

「俺には………もっと別の選択肢があって、ひょっとしたら彼女を救えたんじゃないのかって………」

 

 もし、たら、れば………言い出したらキリがない。だがそれでもあの時の行動が最善であったとはとても思えない陽太は、ずっと彼女の死を引きずっていたのだ。

 

「じゃ、じゃあ………フィーナ先輩のお姉さんの仇っていうのは……」

「間違ってない………彼女を殺したのは俺だ…………なら俺が仇だ」

 

 我慢できずに問いかけたシャルの言葉に、陽太は迷うことなく言い返す。

 

 だがシャルにしてみれば、そんなのはあまりに哀し過ぎる。陽太は彼女を救ったのではないのか?

 苦しみ続けていた彼女の命を絶ったことを良かったこととは決して言わない。だが、それでも彼女の苦しみを解き放った陽太が、どうしてフィーナの仇にならないといけないのか? それでどうして陽太が苦しみ続けていないといけないのか?

 

 これでは理不尽すぎる。もっと他に罰するべき者がいるはずだ。

 

「悪いのは………スイスの政府と、亡国機業(ファントム・タスク)じゃないか!」

「そうだ陽太! お前は………」

 

 シャルと一夏が、これ以上、陽太に罪悪感を持つ必要はないと言い掛けるが、それを陽太自身が怒鳴り声で遮る。

 

「黙れぇっ!!!!」

「「!!」」

「例え………モミジ・フジオカを利用したのがスイス政府と亡国機業(ファントム・タスク)だったとしても、俺が殺したことには変わりない!………そして、例え政府と亡国をぶっ潰しても……モミジ・フジオカは蘇らない」

 

 陽太が一歩前に出て、マリアに近づく。

 

「そうだ………死んだら、終わりだ………もう二度と会えない。声も聞こえない………謝る事さえ………できない」

 

 その搾り出すような陽太の声に、マリアは伏せていた表情を上げると………。

 

「クックックッ………ハハハハハッハハハハハハッ!!! キャハハハハハハッ、イヒヒヒヒッ………作り話はそれでおしまい?」

 

 その瞳に一層強い憎悪と嫌悪感を漲らせ、鋼糸を地面にたたきつけて叫んだ。

 

「そんな三流の作り話で私の同情心でも買おうとしたの!! 笑えないわ」

「……………俺は」

「黙れ!!」

 

 陽太の足元を鋼糸が切り裂く。

 

「黙れ! 黙れ!………黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェッ!!!!」

 

 何度も何度も何度も………狂ったようにマリアは鋼糸をモール内で振り回し続ける。狙いを定めずに振り回し続ける鋼糸に危険を感じたのか、一夏達は一旦後方に飛び退いて退避するが、陽太だけがその場から一歩も動かず、まるで彼女の怒鳴り声を受け止めるようにたたずみ続ける。

 

「私は認めない! 亡国機業(ファントム・タスク)は、行き場を失くした私に生きる場所と仲間と戦う力をくれたんだ!! それが実は仇でした? それを仇の口から聞かされて私が納得すると思うの!?」

「………俺はアンタには嘘をつきたくはない」

「それが嘘だって言うのよ!!」

 

 振り回し続ける鋼糸を陽太にぶつけるが、鋼糸返しが陽太の身を守り、彼は自分のコントロールに納めた鋼糸で、マリアの鋼糸を弾き返し、ついには絡め取ってしまう。

 

「認めるもんですか! お前が仇だ! お前が私の敵なんだ! 敵だ敵だ敵だ敵なんだぁぁぁぁっ!!!!」

 

 自分の二年を、悲しみと苦しみの二年を………敵のコイツに否定されてたまるか!!

 怒りと憎しみと悲しみと憤りと色々な感情が混ざり合ったマリアは、渾身の一撃を放つ………自分自身の二年間のありったけを込めて………。

 

「ストリンガーレクイエム!!!」

 

 マリアの指が超音速の連撃を放つ。

 

「…………」

 

 だが、そんなマリアの一撃を、あまりにもあっさりと陽太は跳ね返し、マリアのISを見るも木っ端微塵にしてしまうのだった。待機状態に強制的に戻り、彼女とは別々に地面に落ちるオーガコア………。

 

「(ウソ………なによコレ? まるで私が相手にならない………ううん、まるでモミジ姉さんの鋼糸返しを受けているみたいじゃない!?)」

 

 認めたくなかった。それだけは認めたくなかった。もし認めてしまえば、最愛の姉が、自分を何よりも大事に愛して育ててくれた姉が、自分を裏切っていたことになるではないか!?

 

 それでは、まるで、仇の話が本当にあったことみたいではないか。

 

 これでは、まるで、自分の二年間が無意味に終わってしまうではないか?

 

「認めてたまるか………認めて………たまるか!!!」

 

 地面に崩れ落ちながら、マリアは強制的に待機状態に戻らされたオーガコアのリミッターを解除しようと、手を伸ばす。

 自分への侵食を抑えるオーガコアのリミッターを解除すれば、今の自分なら確実に醜い化け物に成り果てるだろう。

 だがそれでいい。このまま仇を前にして何も出来ずに終わってしまうなど、殺されるよりも遥かに屈辱的だ。なら、いっそのこと化け物になって暴れ回って、火鳥陽太だけは殺して、後は他の人間に殺されてもいいではないか!?

 

 絶望の中に差し込んだ一条の希望のように思えた、恐ろしい考えだったが、それにいち早く気がついた人物がいた。

 

「!!………ッッ馬鹿野郎ォォォォッ!!!」

 

 目の前の陽太は待機状態のオーガコアを蹴り飛ばすと、フレイムソードを抜き、回収を優先されていることすら忘れ、全力で燃やし尽くしにかかる。

 

「やめ・」

「フェニックス・ファイブレードォッ!!!」

 

 マリアの目の前で、彼女の最後の希望が、炎の不死鳥によって一瞬で蒸発してしまう。紅蓮の不死鳥は悪しき魂を銜え込むとモールの天井を突き破り、大雨の空の中に消えていく。

 

「アアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 自分の希望が………敵討ちをするための最後の力が………燃やされた。燃やされてしまった………憎い、憎い仇に………。

 その光景を呆然と見つめていたマリアに、陽太は初めて烈火の如き怒りをぶつけた。

 

「お前の姉貴と同じ結末になる気か!!」

 

 もう少しで、またあの時のようなことを繰り返しかけた。もう二度と繰り返したくないと思っていたあの日を繰り返しかけたという憤りをぶつける陽太だったが………。

 

 そんな陽太の言葉に、マリアは何も答えず、よろよろと起き上がると、憎しみと悲しみと憤りと切なさが入り混じった表情で、泣きながら陽太に近寄ってくる。

 

「………返せェ」

「!?」

 

 途中、崩れた瓦礫の中に混じっていた鉄パイプを拾い上げ、弱々しい力でブレイズブレードの装甲を叩くマリア………鋼糸と比べることも出来ないほど力がなく、決してISの装甲を傷つけることは出来ないだろう。

 

 だが、その言葉が、陽太の心を、何よりも抉った。

 

「返せぇ………かえせぇ………かえしてよぉ!!……姉さんを………」

「…………」

 

 鉄パイプを打つ力もなくし、鉄パイプが手から離れてしまうが、だがマリアはそれでも握り拳をつくって陽太を叩き続ける。

 

「お姉ちゃんを……モミジおねえちゃんをかえせ!!」

 

 そして彼女は、涙を流し、まるで感情の行き場を失った幼子のような口調で、陽太に決定的な一言を言い放った。

 

「おねえちゃんをかえせ!! この………人殺しッ!」

 

 鋼糸よりも、何よりも、彼の胸を穿つ、その言葉を………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

  

 現場に千冬達が到着したのは、決着がついて約5分後のことだった。

 さすがにこれだけ大暴れしたためか、そこにはIS学園の職員だけではなく、警察や消防官、そして少なくない日本政府の関係者などが多数詰め寄ってきた。警察や消防官は近隣に住んでいる人間の通報、政府関係者はIS学園からの関係であろう。

 

 先程の弱弱しいマリアが陽太に詰め寄っていた姿………それは一夏達にも大きな衝撃を与えていた。

 

 マリアに負わされた傷を千冬に同行していた真耶に応急処置を施されている間、彼自身の価値観に大きな衝撃を与えた光景のことを思い出してた。

 

 ―――幼い少女のように泣きながら陽太に「人殺し」という言葉をぶつけたマリア―――

 

 その光景は、陽太だけでない。シャルに、一夏達にも言いようのない物悲しさだけを伝えたのだ。

 

 彼女の取った行動を、誰もが正しいとは言わないだろう。

 そのために姉を殺したオーガコアに手を出したことを正解だったとは思えない。

 

 だが、目の前で、ISを纏った陽太を握り拳で叩き続けるマリアを、大事な家族を理不尽に奪われてしまった彼女の全てを、誰が間違っていると言えるのだ?

 少なくとも、彼女の姿を見ている者達には、そんな正論は、ただの傲慢にしか聞こえない。奪われた「家族」の心をなんら助けるものではない。 

 

 そこには、一方的な正義も、悪もない。

 結果的に奪った者、奪われてしまった者がいただけだ。

 

「……………」

 

 陽太が取った行動を間違いだとは思えない………彼だって好きでそれを行ったわけではないのだから。

 では、マリアが間違いなのか? 彼女が間違っていたのか?

 

「俺は………何のためにここにきたんだ?」

「一夏さん……」

 

 隣で同じように処置されていたセシリア達も同じ気持ちだった。

 結局、自分達はまた、何一つできずに終わってしまった。陽太を助けることも、マリアを止めることもできない。あったのは、ただ真実すらも救いにならない二人が傷つけあった姿だけだったのだ。

 

 それに、今の陽太の背中を見ると、心に鋭い痛みが走って仕方ない。

 そこにはもう、普段の傲慢にも思える自信家の姿などどこにもない。自分が目指している強い操縦者の姿すらいない。

 

 あるのはただ、途方に暮れているように、孤独に佇む少年だけだ。

 

「………フィーナ」

「楯無姉さん………」

 

 救急車の担架に乗せられた楯無と、彼女の付き添いとして同乗する箒だったが、二人にしても先程のマリアの姿は衝撃的だった。

 

 千冬に腕を引かれ、拘束されて連れて行かれる時もマリアは反抗すらもしなかった。だが、ただ泣き続けていたのだ。「おねえちゃん、おねえちゃん」と………。

 それは妹を持つ楯無と、姉を持つ箒の二人には堪らない光景だった。

 

「箒ちゃん………」

「はい………」

 

 揺れる救急車の車内で、楯無はポツリと言葉を漏らす。

 

「陽太君とフィーナ………何があの二人の救いになるのかしらね?」

「……………」

 

 箒はその問いに答えることすらできずに、ただ自分の腕に巻かれた待機状態の紅椿を見つめ続けるだけだった。

 

 大勢の人間で騒がしく行きかう中、ずぶ濡れの体を温めるために毛布をかけられたシャルは、瓦礫の上に座りながらただ、陽太の背中を見て、涙を流していた。

 

 そこには、自分が空けた天井から降り注ぐ雨に、ひたすら打たれ続ける陽太の姿があった………展開中のISを解除することすらなく、雨に打たれているその姿には、いつもの戦っている時の覇気や頼もしさなどどこにもない。

 雨に濡れるブレイズブレードは、何処か、涙を流しているかのようにも思える。

 そんな彼に自分がなんと言葉を掛けていいのかわからず、そしてそんな情けない自分自身に腹が立って余計に涙が溢れてくる。

 

「(ごめん、ヨウタ………ごめんなさい、ヨウタァ………」

 

 ただ心の中で謝罪し続けるシャルの目には、雨に打たれ続けるブレイズブレードの背中は………。

 

 

 

 どこか、初めて会った時の、どこにも行き場所がなくなって、途方に暮れている幼い陽太が映っていたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 





「何があの二人の救いになるのか?」

楯無さんがつぶやいたその言葉は、私も思うところです。

さて、暗い話ですがまだ続きます(汗
武力による決着はつきましたが、二人の間の決着は、本当の意味でこれからです



次回予告

ただ真綿のように罪が自分の首を締め上げ、どこにも行き場所をなくしてしまった少年………。

だが少年(咎人)は知らない

振り返ればそこに「光」があることが。

こんなにも、こんなにも暖かく、見守り続けているということを………。
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