IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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投稿の遅さがナチュラルに癖になっている!

………本当にすみません

orz


全然関係ないですが、クリスちゃんの歌聞きながらスーパー懺悔タイムしておきますので、ご了承ください(本当に関係ない


ではでは、ついにこの章もクライマックス!

お楽しみください


いつだって、誓う時は青空で

 

 

 

 

 

 

『私と、フィーナ先輩で、話させてください』

「なに?」

 

 シャルのいきなりの問いかけに、流石の千冬も困惑が隠せない。

 見た目はもはや生気のない生きた屍同然であるマリアとでは会話が成立しないことは、今この場にいる自分が実感しているし、何よりも今、扉を開いてシャルを招き入れ、万が一にマリアが暴れだしでもすれば、それによってシャルがこれ以上負傷すれば、それこそ千冬は陽太に対して申し開きができない。

 彼女(シャル)を守る為に、これ以上、陽太が傷付くのを見たくはない。それは何よりも、一度はそんな事態を引き起こしてしまった自分が、また軽率に彼女を危険な目に合わせるわけにはいかない。

 

「それは許可できない………わかったならば、早く小僧の看病に…」

 

 だが、千冬の考えを、シャルは首を横に振って否定する。

 

『ご心配してくださっているのなら大丈夫です………それにこれは、私の意思です。私の考えをこの人に伝えたいんです』

「……………」

『お願いします織斑先生………私は……後悔したくないんです』

 

 後悔したくない………自分の内側に後悔をヘドロのように溜め込んでいる千冬にしてみれば、これ以上胸に来る言葉はない。それを知ってか知らずか………知っていて言い放ったならば、大した策士だと褒めてしまいそうだと内心で褒めながら、千冬は僅かに口元に笑みを浮かべながら部屋の鍵を開く。これには外にいる真耶が驚きの声を上げた。

 

『織斑先生!?』

「安心しろ山田先生………ただし二人っきりにする訳にはいかない。私も同席する。これは命令だ」

 

 文句は言わせんぞ? 扉の向こうで待ち構えていたシャルを、口元で笑みを浮かべ、無言でそう言い放った千冬に、シャルもまた無言の笑みによる頷きで返す。

 

 互いに目と目で意思の確認をした二人は、一緒に室内に入り、そしてシャルは未だ呆然と虚空を見続けるマリアの前に立つと、ベッドに腰掛ける彼女と同じ目線までしゃがみ込み、マリアに問いかけるのだった。

 

「フィーナ先………いえ、マリア・フジオカさん…………ヨウタを………許してあげてください」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 大量に汗をかき、喉に渇きを覚え、寝苦しさが限界に来た陽太の意識が、ゆっくりと薄暗闇の中で覚醒した。

 

「コ……コは……」

 

 記憶が曖昧だ。何があったのか思い出せない。

 体がとにかくだるくて重い。嫌な悪寒が体中を走り、節々に痛みが生じる。

 

「グッ!………そ…うか………」

 

 だがその痛みによって陽太は奇しくも、自分が置かれている状況の大部分を認識させたのだった。

 マリアとの戦い、過去を話し、彼女を力ずくで倒し、浴びせられた『人殺し』という言葉。

 あの後から記憶がない、というよりも何も考えずに呆然としていたような気がする………ただ。マリアが発した『人殺し』という言葉を脳内にリフレインさせていたのだろう。

 

「………シャル?」

 

 そしてこの時になって、ようやく陽太は彼女の存在を思い出し、自分の手に残った不自然な暖かさの存在に気がつく。

 

 ―――確かに自分の手に残る、暖かで優しい感触―――

 

 いてもたってもいられなくなった陽太は、飛び上がるように起き上がると、裸足に上半身裸のまま包帯を巻かれている状態で外に出ようと歩みだす。

 

「!?」

 

 が、数歩歩いただけで全身を襲う不快な感覚の数々。

 脱力感、虚脱感、吐き気、頭痛とマリアによってつけられた外傷が熱を持ちながら発してくる激痛に、耐えられなかった陽太は、室内の備品を巻き込んで派手に床にぶっ倒れてしまう。

 そしてその音を聞きつけて、保健室の外から勢い良くドアを開いて中に入ってくる者達がいた。

 

「陽太ッ!」

「陽太さん?」

「アンタ、ちょっと動き回って大丈夫なの!?」

「一夏、とりあえずベッドに運ぼう!!」

 

 一夏、セシリア、鈴、ラウラは、床に倒れこむ陽太を見つけると、起き上がらせてベッドに運ぼうと手を差し伸べる。

 

「おい、陽太!?」

 

 だが、一夏が伸ばした手を陽太は掴むと、上半身を億劫そうに起こしながらも、彼に問いかけた。

 

「シャルは………どこ…だ?」

「シャルはって………今はいないみたいだけど……代わりに俺たちが探してくるから、お前はベッドに寝てろよ!」

 

 彼の肩に手を回し起き上がらせた一夏だったが、陽太はそれを自ら振り払うと、真っ直ぐ歩くことすらも難しい千鳥足で蛇行しながらも、保健室から出て行こうとする。

 当然、そんな陽太を放って置けるわけもない一夏は、彼の肩をすぐさま掴むと、重症人のくせにどこに行こうとしているのかと問いかけた。

 

「お前、自分が今どんな状態なのか判ってないのかよ!」

「うる……せぇ…」

 

 もはや何時もの減らず口にすらも力が篭っておらず、喋るだけでもキツそうな陽太は、一夏の手を振り払おうと、まるで酔っ払いのように無理やり彼の手を払い………廊下に倒れて込んでしまう。

 

「ほらみろよ!」

 

 そんな様子の陽太を、若干目じりを吊り上げながらも放っておかず、一夏とラウラが両脇から抱えながらベッドに座らせる。流石に体力の限界を感じたのか、とりあえず暴れるようなことをせず、二人に黙って身体を預けた陽太は、俯きながら、ボソッと一言言葉を漏らした。

 

「み………水…」

 

 そう喉の渇きを訴える陽太に、セシリアは戸棚にあったカップに水道水を入れて急いでそれを手渡す。セシリアの手から奪い取るようにカップを受け取り、一気に飲み干す。

 

「!!………ゲホッ! ゲホッ!」

「ホラッ! そんなに一気に飲むから……」

 

 水を一気に飲み干して途中咽てしまった陽太の背中を擦りながら、鈴は彼の表情を覗き込む。水を飲んだことで大分落ち着きを取り戻したのか、先程よりも瞳に生気が戻ってきた陽太は、顔を伏せながらも一夏達に問いかけた。

 

「………こんな時間に、なにしてんだよお前ら?」

「えっ?」

 

 訓練をするにしても早過ぎる時間帯である。よもや一晩中起きていて、自分を心配してきた………などということではないだろうと思った陽太だったが、そんな彼に、一夏ははっきりとした口調と表情で告げる。

 

「お前が心配で、こうして皆で来た」

「!?」

「起きてるとは思わなかったけど………だけど、俺でも看病ぐらいはできるからな」

 

 一夏のはっきりとした口調に、陽太は唖然とした表情で顔を上げた。

 ハトが豆鉄砲を食らったかのように表情となった陽太に対して、他の隊員達も思う思う言葉を述べ始める。

 

「私としましても、隊長である陽太さんの看病をするのは当然というものでして………」

「アンタの場合、看病するってことは陽太にトドメ刺しに来たってことでしょうが!?」

「何ですって鈴さん!?」

「あ、私は死に掛けてるアンタの額に肉って言う文字を書きに………」

「寮で寝ずにうろうろとしていたのはお前だろうが?」

「ラウラは黙ってなさいよ!」

「私は副隊長として、隊長であるお前の管理を義務付けられている。命令だ、大人しく寝ていろ」

「た、隊長に堂々と命令を出す副隊長ってどうなのよ?」

 

ドヤ顔で命令するラウラに鈴がツッこむが、当のラウラは涼しげな顔でそれをスルーしてしまい、一人仕方なく鈴はため息をついてしまう。

 そんなメンバーのやり取りを見ながらも陽太の思考は混乱の極みに立つ。いや、言っていることはわかるのだが、理解がそれに追いついてこないのだ。

 

 自分は人殺しで、目の前の人間達は純粋に誰かを守りたい者達ばかりだ。手を血で染めてしまった自分と違い、これから先にもっと大勢の人々を救う為に戦うのだろう。

 ならば、なぜその手を自分に差し出してくる?

 なぜもっと多くの救われる人間に手を差し出さない?

 

 ―――いったい、どこまで、馬鹿でお人良しであれば、気が済むというんだコイツ等は!?―――

 

「………頭イテェ」

 

 ようやくそれだけの言葉を捻り出せた陽太だったが、彼の目の前に立つ一夏は真剣な面持ちで睨み付けると、その険しい表情のままでセシリア達に頼み込む。

 

「皆、ごめん………ちょっと席を、外してくれないか?」

「一夏?」

「一夏さん?」

 

 一夏の言葉にセシリア達が首を捻るが、保健室の入り口からビニール袋を手に持った保健医であるカールが声をかけてくる。

 

「一夏君と陽太君、二人っきりにしてやってくれないかい、淑女諸君?」

「せ、先生!?」

 

 どうしてこんな時間にと言いかけるが、不敵な笑みを浮かべた保健医はそんな彼女達の肩を掴み、強引にこの場から退室させようとする。

 

「一夏君………ガツンと言っておやりなさい」

 

 去り際に小声でそれだけ声をかけたカールと三人娘は保健室から退室し、廊下に出ると、ピシャリとドアを閉め、壁に寄りかかりながら、三人にビニール袋を手渡すのだった。

 

「パンが入っている。朝食はまだだろ? 食べていなさい」

 

 事態についていけなかった鈴がそれを黙って受け取るが、数秒後、意識が回復したのか、猛然とカールに食って掛かる。

 

「ちょ、先生!? なんで私達が締め出されないといけないのよ!?」

 

 ある意味、最もな質問であったが、納得がいかない鈴達にもカールは笑顔を崩さず、人差し指を上げながら、まるでこれか起こるであろう事態を楽しむように、彼女達に一言告げるのだった。

 

「それは、アレだよ…………男と男の語り合い」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 外に残る雨音以外何も聞こえない保健室内において、陽太と一夏は黙り込んだまま口を聞こうとしないでいた。

 ベッドに座りながら項垂れる陽太と、そんな陽太をすぐそばで立ちながら見下ろす一夏。

 一度は互いを拒絶しあい、分かり合い、また離れてしまった二人だったが、もう一度分かり合うために、一夏は拳を握り締めながら、意を決して陽太に語りかけた。

 

「俺………話聞いたよ」

「………何の話だ?」

 

 この二日間、ロクに話を聞かなかった二人だったが、それ以前並みにはお互いの険悪な空気が戻ったかのように感じ、一夏は表情にこそ出さなかったが、それをうれしく思った。

 

「陽太と………シャルのこと。あら回しと………フランスでの亡国機業との一件」

「!?」

 

 よりにもよってその話か!? と内心、毒づきながら徐に頭を掻き毟り、不機嫌そうな声で一夏に話しかけた。

 

「この学園の先公共の口は空気よりも軽いのか? まったく………どいつもこいつもよ」

「だから………改めて聞いてみたい」

 

 一夏は一度大きく深呼吸し、目を見開いて、しっかりとした表情で陽太に再び、あの質問を投げかける。

 

「お前………フランスから来たシャルの気持ち……本当に解らないのか?」

「!?」

 

 鋭い痛みが心に走る。腹の底からわけのわからない何かがせり上がってきて気持ち悪い………だがそれを必死に抑えながら、陽太は抑揚に欠く声で告げる。

 

「わかるわけないだろうが………そんなもん」

「!?」

 

 必死に一夏は自分の衝動を抑える。目の前の陽太はほとんど死に体で、何よりも自分は本来なら無関係の人間だ。そんな自分が怒りに任せて再び馬鹿なことを繰り返すわけにはいかない。一夏は感情を必死に抑えながら、陽太と話を続ける。

 

「本当に………分からないのかよ?」

「………くどい」

「お前………本当は分かってるんじゃないのか?」

「!?」

「分かってて………でも、自分はそういうのを受け取っていい人間じゃないって思い込んで…」

 

 だが、どれほど抑えていても、それでも抑えきれない想いが言葉の表面に現れ、それが不用意に陽太の心の琴線に触れてしまう。

 つい先ほどまでまともに歩くことすらできなかった筈の体で、瞬時の起き上がると、彼は烈火の如き怒りに燃える瞳で一夏を睨み付けて怒鳴った。

 

「お前に、俺のいったい何が分かる!?」

 

 だが怒鳴りつけられた一夏も、もう押さえ切れないと言わんばかりに逆に手首を掴んで、怒鳴り返す。

 

「分かるわけないだろうが! お前みたいな分からず屋の馬鹿野郎の気持ちなんか!?」

 

 二人っきりにした途端ブチ切れあう二人の様子を、入り口のドアの隙間からこっそりと覗いていた三人娘は『止めたほうがいいんじゃなくて?』『確かに』『行くか』とヒソヒソと小声でしゃべり、そんな三人の襟首を掴みながら、保健医は『まあ、もう少し見ていなさい』と暢気なことを言い出す。

 

「分かるわけないだろうって………分かれよ! 大事な幼馴染で家族なんだろうが!?」

「ああ、分んなくて悪いな!………そうだよな!! 大事な幼馴染と家族に守って貰ってる誰かさんのお言葉は、やっぱり違うよな!!」

「!?」

 

 今度は一夏の心の琴線に、頭に血が上った陽太が不用意に触れてしまい、思わず一夏は拳を振り上げ………そのまま止まってしまう。

 

「俺は………お前の言うとおりだ」

「!?」

 

 振り上げた拳を震わせながら、心から溢れ出す気持ちを抑え、言葉にして、陽太に話し続ける。

 

「お前と違って………守って貰ってばっかりで………戦場に出ても何もできなくて……俺は……」

 

 陽太への気持ち。震える身体。喉に詰まったまま出てこない言葉。

 

「俺は………俺は!!」

 

 そして溢れてくる彼への想いを一夏はぶちまける。

 

 

 

 

「お前みたいになりたかったよ!!!」

「!?」

 

 

 

 生まれて初めて………たぶん千冬にすら言った事がない言葉を陽太にぶつけるように言い放ち、一夏は訳も分からずにその拳を陽太の頬にぶちかました。

 

「(俺みたいに………なりたかった?)」

 

 そして、生まれて初めて、そんな言葉をぶつけられ、完全に呆然となった陽太は、一夏の拳をまともに受けてベッドに倒れこんでしまう。

 

「……………」

 

 熱い。

 殴られた頬が焼けるように熱い。

 

 今までどんなに殴られてもこんな痛み、感じたことがない陽太は、そのまま倒れこみながら、呆然とした表情で一夏を見つめた。

 

 怒ってんだか泣いてんだか恥ずかしがってるのか、色々と混ざり合ったまま赤面して陽太を見つめる一夏は、ぐちゃぐちゃになった感情と考えのまま、それでも唯一残っていたちゃんとした『伝えたい事実』を陽太に告げ始める。

 

「陽太! お前………確かに、マリアさんの姉さんを殺したのかもしれない! それをお前が自分自身を許せないでいる気持ちもわかる!」

 

 陽太の自責の念………一夏にも理解できる。いや、簡単に理解できるという重さじゃないことも。

 でも、陽太には揺るがない事実がある。

 

「それでもさ! お前は………」

 

 一夏が話を聞いて、一つだけ感じたこと。

 陽太が気がついてない、陽太の事実。

 

「お前は………」

 

 そうだ。それこそ、織斑一夏が最も感じた、火鳥陽太への深い『共感』と、なぜだか無性に嬉しくなった事実……それは

 

 

 

 

「ちゃんと、フランスでシャルのこと護ったんだろうが!!」

 

 

 

 

 その言葉を聴いた、セシリア、鈴、ラウラ………カールのみ深く一度だけ頷き………。

 

 陽太は目一杯、瞳を見開き、一夏の顔を見た。

 

「お前、ちゃんとシャルのこと護れるんだろうが! だったら、なんでそれを続けていかないんだよ!」

「あっ」

「続けろよ!! ちゃんとこっち(日本)でも護ってみせろよ! お前がどんなに罪深かろうが、お前がちゃんと大切な人間を護ったって事実は揺るがないだろうが!!」

「えっ」

「それが贖罪になるとか言わないさ!………でもよ! お前、一生そうやって自分を責めてるだけで人生終わる気なのかよ!? 誰かのためになれるぐらいに強いくせに、そうやっていつまでも自分責めてるだけで終わりなのかよ!! 違うだろうが!?」

 

 ―――俺が、シャルを、護っていた?―――

 

 ―――何を言ってる?―――

 

 ―――俺は、シャルのことを………―――

 

「否定なんてさせないぞ!」

「なっ」

「シャル、笑ってなかったのかよ!!」

「…………」

「シャルは、お前と一緒にいて、笑ってなかったのかよ!! どうなんだ!?」

 

 一夏の言葉により、記憶の蓋は開かれ、今の今まで忘れていた、陽太の心の最も奥底にあったもの。

 彼が、大切に、大切にしまっておいた………本当に大切なものを、陽太はようやく見つけた。

 

『ヨウタ…………私を助けてくれて、ありがとう』

 

 古びた協会で、シャルは確かに心からの笑顔で、陽太にそう告げてくれた。本当に幸せそうに笑ってくれた。その時の笑顔は、確かに、陽太の中で宝物として、心(たましい)の一番深いところにちゃんと保管されていたのだ。

 

「言い訳すんなよ! 泣かすなよ! お前にしか出来ないことあるんだって自覚しろよ! ちゃんと自分が出来たことを見ろよ!!」

 

 今まで考えようともしていなかった事実に、呆然となっている陽太を置き去りにして、一夏は怒鳴って猛然と保健室のドアを開いて出て行ってしまう。

 

「あっ!」

 

 当然、保健室の前で待っていた三人と出くわす訳だが、部屋を出た途端、今し方自分が言った言葉を思い返し、相当こっぱ恥ずかしいことを口走ったのではと考え、彼女達と目が合った瞬間に赤面して一夏は明後日の方向を向く。

 

「はは~~~ん………熱血青春街道爆進中の一夏君でも、あの熱い魂の叫びは恥ずかちいのでちゅわね?」

「なっ!?」

 

 小悪魔的な表情を浮かべた鈴のツッコミに、より顔を真っ赤にした一夏が無言で鈴を睨み付けるが、面白うに鈴は一夏をからかい続ける。

 

「あら、今度は私にどんな熱血な迷言を吐いてくれるのかしら?」

「がああああああああっ!!」

 

 頭を掻き毟りながら、鈴の首根っこを捕まえようとする一夏と、捕まらまいと逃げる鈴という二人。そんな二人を楽しそうに見つめていたカールだったが、セシリアがベッドに横たわったまま動こうとしない陽太を心配して近寄ろうとするが、それをカールが静止する。

 

「大丈夫……心配ないよ、彼」

「テュクス先生」

「今、彼は、とても大切なことを、自分の中から見出そうとしている」

 

 大切なこと? と首をかしげるラウラを見ながら、カールは眼鏡を外し、手元で拭きながら話を続けた。

 

「そう、自分が何をしてきたのか、そして、これから何をしていこうというのか………自分自身から、彼は見出そうとしているんだ。とても大切なことだよ。特に『男』にとってはね」

 

 それはきっと、これからの陽太にとって、もっとも大切にしなければならないこと。

 たとえ陽太が、卓越した実力を持とうとも、圧倒的な才能(センス)に恵まれようとも、それだけでは決して解決できなかった問題があった。

 

 人を殺した者は、何を以って罪を償うというのか?

 

 二年前の惨劇から、ずっと陽太が探し求めてきた………捜し求めた末に、その答えはないと、一度は自分の命ごと手放そうとしたこと。

 誰も答えを知らない。誰も答えてはくれない。

 

 なぜなら、それは陽太の中にしかないものだから………。

 

 一夏に殴られた後が燃えるように熱い………そうして陽太はその認めがたい『心地良い痛み』を噛み締めながら、今一度思考の海に潜る。

 

 自分の心の底にある、もっとも大切に想う者を見つけるために。

 

『いいお友達に巡り逢えたのね、陽太』

 

 何故かそんなエルーの声を、陽太は聞いた気がしたのだった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 室内に通されたシャルは、目の前で微動だにせずに虚空を見つめるマリアの前に立つ。

 ここに来るまで色々と考え、そして迷いに迷った。

 どんな風に話しかけ、どんな風に理論を展開していけばいいのか?

 だが、目の前の生気の抜けた人形のように成り果てたマリアの姿を見た時、そんな自分のちょこざいな考えなど、何の役にも立たないとシャルは悟る。

 そもそも自分はこの場に論争をしにきた訳ではない。陽太の正当性を主張するためにマリアを論破しにきた訳でもない。

 

 そんな心のないことをしたいわけじゃないんだ。

 

「………フィーナ先輩」

「………何?」

「!?」

 

 シャルに話しかけられたマリアが反応したことに若干驚く千冬。今まで自分がどれほど話しかけても反応すらしなかったというのに………それだけ、この学園において彼女にとってシャルは特別な存在なのかと千冬は納得する。

 

「……………」

 

 舌が、喉が渇く。

 自分の鼓動が嫌に大きく聞こえる。

 

 だがシャルはまっすぐマリアの前に歩み寄ると、数分間立ち尽くした後、背筋を真っ直ぐに伸ばしながら、静かに頭を下げた状態で、この言葉を紡ぎだした。

 

 

 

「ヨウタを……………ヨウタを………許してあげてください」

 

 

 

 たくさん考え、たくさん悩んだ末の言葉がこれかと、シャルは自分の語学力の無さに悲しくなってしまうが、それでも彼女は、ようやくその言葉を紡ぎだす。

 

「(ああ………私、すごく自分勝手だ)」

 

 誰を救う?

 そう自分自身に問いかけた果ての回答は、結局マリアではなく、陽太であったことに、シャルは少しばかりの失望を自分に覚える。

 

 ―――皆は、私を優しいと言うけれど、それは違うよ―――

 

「………それで?」

 

 僅かに呆然とした表情になった後、マリアは口元を歪めながら引き攣らせ、明らかに目の前のシャルを嘲るように、鼻で笑い飛ばして言い放つ。

 

「『わかったわシャルちゃん。私、間違ってた………陽太君を許すわ』なんて、言うと思ってたの?」

「……………言いません」

「わかってるなら、もういいでしょう? 今すぐ消えて頂戴。私、はっきり言って貴方に失望したわ」

「……………嫌です」

「消えなさい。貴女の姿は目障りだし、貴女の声も耳障りよ」

「……………嫌です」

 

 シャルの言葉に苛立ったマリアは、ベッドの横においてあったトレーを放り投げ、シャルに怒鳴りあげる。

 

「今すぐ消えろって言ってんのよ、何にも知らない小娘!!」

 

 トレーは顔面スレスレを通過して、壁にぶつかって砕けてしまう。

 

「何にも知らないくせに、しゃしゃり出て来るな! お前なんて、ただの舞台装置の為の飾りだったんだ! 飾りなら飾りらしく、最後まで背景に徹してろ!!」

「……………嫌だ」

「人を殺したことも、殺されたこともない、お綺麗な人間は、暖かい場所でお友達と友情ごっこしてりゃいいんだよ! 黙ってろッ!!!」

「……………黙らないッ」

「まだ言うか!」

 

 マリアが立ち上がり、シャルに掴みかかろうとするが、流石にそれは不味いと思ったのか千冬が二人の間に無言で割ってはいる。何も言わずにマリアを無理やり座らせたのは、二人の話の結末がどうであれ、最後まで黙って見届けるという、彼女なりの気遣いなのだろう。

 千冬に力尽くで座らされながら、マリアはシャルは睨み付け、話を続ける。

 

「許せ、というけれど! お前はもし、大事な人間を目の前で殺されたら、殺したソイツを許せるのか!?」

「……………」

 

 しばしの沈黙。

 そしてシャルは、首を横に振ることで無言の回答をする。それを見たマリアは、荒い鼻息で彼女を笑い飛ばし、目の前の矛盾だらけのことしかいえない、何も知らないお嬢様を言葉で鞭打つ。

 

「ホラ見ろ。お前の言い分は矛盾だらけで、勝手が過ぎるのよ」

「…………わかってる」

 

 ―――私は、我侭で自分勝手だ―――

 

「それでも………」

 

 ―――だって、二人を救うって言っておいて―――

 

「それでも………」

 

 ―――心の中に映っているのは、一人で雨に打たれるヨウタの背中だから―――

 

「それでも………私は、こうやって頭を下げることしかできません」

 

 ―――一人ぼっちで、哀しみに暮れる彼の背中を見るのが………悲しくて、悲しくて―――

 

「こんなことで、貴女の痛みも苦しみも悲しみもなくなるなんて、これっぽっちも思いません。だけどッ!!」

 

 ―――悲しくて、悲しくて………愛おしいと思ったから―――

 

「もう………傷付けあってほしくないんです。二人には………」

 

 そう言いながら、シャルの瞳から涙が溢れて、零れ落ちる。

 

 なんという傲慢な言葉だろう。とマリアはすぐさま目の前にいるシャルを殴ってやろうと拳を握り締めたが………動き出せずにいた。

 それは隣に待機している千冬の存在が気がかりだったわけではない。

 これから自分を待つ処罰が重くなることを恐れての行動でもない。

 

「(………どうして?)」

 

 頭を下げるシャルの斜め横に、マリアにしか見えない『幻』が、静かにマリアを見つめていたからだ。

 

「(………どうして? そんな目で私を見るの!! 姉さん!?)」

 

 その姿を見間違えるわけはない。二年前、その命を陽太によって散らされたはずのモミジ・フジオカが、僅かに悲しみを携えた瞳で、じっとマリアを見つめていたのだった。

 

「………先輩」

 

 頬の涙を拭うことなく、マリアを見たシャルは、徐に右手を差し出す。

 

「私達………間違えました」

「………な、なにを!?」

 

 右手を差し出したシャルの姿が、徐々にマリアにしか見えないモミジ・フジオカと同化し、彼女の動揺が大きくなっていく。

 

「先輩の中にある、恨みとか、悲しみとか止める方法はまだわかりません………だけど、始めることならできるから……」

 

 揺れる瞳でシャルを見つめるマリア………。

 

「こんにちは。私、シャルロット・デュノアといいます………貴女のお名前を聞かせてください」

 

 シャルは、柔らかく微笑むと、彼女にこう言った。

 

「私と………友達になってくれませんか?」

 

 ―――何を言っている、この娘は?―――

 

 ―――何をやっている、この娘は?―――

 

 ―――友達?―――

 

 ―――なぜ、自分とそんなものになろうとする?―――

 

 ―――お前の大事な人間を殺そうとした人間と友達になる?―――

 

 ―――馬鹿げているのにも限度がある。頭の中がどうにかなっているのではないのか?―――

 

 ―――だけど、どうしてなの………?―――

 

「どうして………」

 

 真っ直ぐとした瞳、差し出された右手………そして、涙が頬を濡らしたままの優しい笑顔を見た時、先ほどまで湧き上がっていた敵意が、嘘みたいに心の中から消え去っていくのを感じたマリアは、理解する。

 

「(この娘は………どうして、こんな風に笑えるのだろうか?」

 

 何も知らないからなのだろうか?

 何も考えていないからであろうか? 

 いいや違う。この娘はそんな無知でも馬鹿でもない………ならば。

 

「………あ、貴女は本当に私と、と、『友達』になりたいというの?」

 

 動揺をできるだけ悟られないようにしてみたが、どうしても言葉に緊張感が篭ってしまう。

 合っていてほしいという期待と、そんな馬鹿なことはないという否定………不思議な不思議な矛盾を抱えるマリアに、シャルが行ったことは………。

 

「……………」

 

 

 

 ―――何も答えず、微笑みはそのままに、手の平を返してみせた―――

 

 

 

 文字にしてみれば、たったそれだけの行為だった。

 

「………プッ」

 

 

 だが、それだけで良かった。それだけでシャルの偽りのない気持ちがマリアに伝わったのだ。

 

 

「クックックッ………ハハハハハッ!!」

「…………」

「ハハハハッ! ヒィッ! ヒヒヒッ!!」

「もう、そんなに笑わないでくださいよっ!」

 

 お腹を抱えてベッドに転がるマリアに、笑顔を崩さず抗議するシャルに、マリアはお腹を抱えて笑いながら手だけを上げて、謝罪をする。

 

「ご、ゴメンナサイッ! ちょっと待ってッ! ヒィッヒッヒッヒッ!………ダメ、ちょっとツボに入って止まらない!!」

「私、そんなに可笑しかったんですか!?」

 

 流石にそこまで凄いギャグだったのかと、シャルは若干赤面しながら抗議を続けるが、お腹を抱えた状態のマリアは中々笑いが止まらない。

 

「貴方、本物よ! ホント………本物の天然よ! ちょ、ヤダ、記念撮影してもいいかしら?」

「ど、どういう意味なんですかそれはっ!?」

 

 お腹を抱えること数分間、ようやく落ち着きを取り戻すと、シャルの方を見ながら、ゆっくりと今の自分の心境を語り始める。

 

「まったく………貴女、最低に最高よ! ただの火鳥陽太を釣るための餌だと思ってたのに………あーあ、まさかここまでしてくれちゃうなんてさ………」

「先輩……」

「マリア………マリア・フジオカよ」

 

 上半身を起き上がらせ、シャルの手の平の上に自分の手を置いて、マリアは自己紹介をしたのだ。満面の笑顔のまま………。

 その笑みを見た、シャルも笑顔で手を握り、自分の名前を告げる。

 

「シャルロット・デュノアです!」

「ええ………てか、ホント可愛いっ!」

「キャアッ!」

 

 手を引っ張られ、悲鳴を上げてベッドに転がるシャルロットの頬っぺたを頬ずりしながら、マリアは『可愛すぎるから私のホント妹になっちゃいなさい♪』など言いながら脇をくすぐり始める。『止めてください!!』と言いながら暴れるシャルと、『嫌も嫌もいいの内よ!』と言いながらじゃれ付き続けるマリアを見ながら、本来なら止めに入るはずの千冬も、壁に寄り添いながらその光景を微笑ましく見続ける。

 そんな千冬に、ドアの向こうから状況があまり理解できていない真耶が、戸惑いながら問いかける。

 

『あ、あの織斑先生? 止めなくていいんですか?』

「危険がないなら止めに入る必要はないさ」

『ですが、もし彼女がデュノアさんを人質に取ったりしたら』

「大丈夫………二人はたった今、友達になったところだ。だから心配無用だよ」

 

 真耶は千冬のその言葉を聴いて、二の句が告げなくなる。対して千冬は、目の前でマリアに胸を揉まれだすシャルを見つめながら、心の中にあった、とある疑問を氷解させていた。

 

「(なぜ束はデュノアに、対オーガコア用ISを託したのか………最初は陽太の幼馴染だから……陽太の心の支えにするためだと思っていた)」

 

 無論、彼女自身の能力値の高さと、潜在的な伸びしろも考慮したのだろうが、主だった理由は、陽太と言う存在の支えにするためにISを与えたのだと千冬は考えていたのだ。だが今はそのことを恥じて、首を横に振る

 

「(束………お前は私よりもずっと早く気がついていたのだろう?)」

 

 そう、自分の遠い地にいる親友は、シャルの本質に気がついて、この学園に彼女を寄越したのだ。

 

「(彼女は………シャルロット・デュノアは、私達よりも、ずっと『先生』に近いんだ。そう、魂の在り方が………)」

 

 ―――千冬、大丈夫よ。だって、私は信じているんだもの………人間(みんな)の未来を―――

 

「(束………先生が信じた未来……私が信じる現在(いま)。それはお前も同じなんだろう?)」

 

 自分の胸の傷を服の上から触れながら、シャル達から視線を外し、近い将来、再会する事を直感で感じ取っている親友に対して、誰にも聞こえない小声で、本心を漏らす。

 

「それでも………お前は世界が……そして私が、憎いと言うのか?」 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「陽太君、いいかな?」

 

 アレから数時間、すっかり陽も登った朝の時間、呆然と保健室のベッドの上に寝転がっていた陽太に、カールが話しかける。

 

「もうすぐ、マリア・フジオカを護送するためのヘリが到着する。彼女の身柄は国際IS委員会本部に引き渡すことはすでに決定済みだからね」

「……………」

「この機を逃せば、いつ話ができるのかわからない…………君はいいのかな?」

 

 カールのその言葉を聴いた陽太は、しばし悩むように天井を見つめると………何かを決心したように起き上がり、カールに話しかける。

 

「了解した………」

 

 それだけ言い残すと、彼はベッドから飛び出し、包帯だらけの体の上から脇にかけてあった上着に袖を通すと、靴を履いて保健室を出る。

 

 目の前にいた一夏と仲間達………しばし、両者の間に気まずい空気が流れる。

 

「……………」

 

 陽太は、仲間達から視線を外し、マリアが護送される場所に向かって歩き出した。

 その後を追うべきなのか、否か?

 戸惑う仲間達だったが、陽太は、急に立ち止まると、決して振り返らず、一言ぽつりと漏らすように呟いた。

 

「………助けに来てくれて、サンキューな」

「「「「!!??」」」」

 

 何を言った?

 あの火鳥陽太が、素直に礼を言った?

 ウソだろ、オイ?

 

 何かとてつもなく信じ難い物を見たかのような目で一夏達は、心の中でそんな感想を漏らしながら、陽太の背を見つめるが、陽太は再び歩き出す。慌ててその後を追い出す四人とカール。

 

 

 静かに廊下を歩いた一行………陽太は特に急がず、だが止まることも速度も緩めることなく、数分の後に、IS学園にある、来賓用のヘリポートにたどり着く。

 そこには、すでに国際IS連盟から派遣された大柄な男性達がマリアの身柄を受け取るために待機していた。

 

「……………」

 

 長く降っていた雨は既に止んでいるが、未だに分厚い雲に空は覆われ、青空がその素顔を見せることはない。陽太はそんな空を見上げながら、今すぐ逃げ出したいという負い目と、もう逃げるわけにはいかないという開き直りの狭間で、苦悩し続けるが………迷いの時間はマリアの到着という形で終焉を迎える。

 

 千冬と真耶の間に挟まれ、腕に手錠を掛けたマリアがやってくる。千冬の斜め後ろにはシャルもおり、意識を戻している陽太の姿を見ると、驚いた表情で駆け寄ってきた。

 

「ヨウタッ!!」

 

 駆け寄ると、ヨウタの身体の調子を心配し始める。

 

「そんな大怪我しているのに動き回っちゃ!」

「………ちょっとだけ待っててくれ」

 

 シャルの瞳を真っ直ぐに見ることが未だ出来ずにいるが、特に邪険に扱うこともなく、陽太は優しくシャルを横にずらすと、マリアに向かって歩き出す。

 

「………マリア・フジオカ」

 

 名を呼ばれたマリアは、憎しみの表情こそ作らないが、それでも敵意に満ちた瞳で陽太の瞳を真っ直ぐ射抜く。

 

「…………俺は………俺は……お前に……」

 

 喉が、唇が渇く。動悸が激しくなり、背中に嫌な汗が吹き出て、立ち眩みに襲われ、今にも意識を手放したくなる。

 だけど、ここで止めるわけにはいかない。

 

「………謝らないと・『黙りなさい』」

 

 だがその陽太の謝罪を、マリア自らが遮り、彼女は自分の隣にいる千冬の方を見ると、驚くべき要求を真摯な瞳でする。

 

「私の手錠を外してください」

「!?」

 

 その提案に、千冬よりもむしろ連盟から派遣されてきたエージェント達が過敏に反応する。

 

「ふざけるな!! 貴様は自分の立場がわかっていないのか!?」

「いいだろう。ただし用事があるならすぐに済ませろ」

 

 だが、当の千冬は、そのマリアの要求をあっさり了承すると、手錠に鍵を入れて開錠してしまったのだ。

 一瞬で色めき立つエージェント達だったが、彼らの前に温和な笑顔を浮かべたカールが立ち塞がると、落ち着くように言い聞かせる。

 

「まあまあ、ここはウチの千冬を信じてください」

「しかし!」

「大丈夫大丈夫………決着はつけさせてあげたいんですよ、彼女」

 

 そういって無理やりカールに押し込められるエージェントたちを尻目に、マリアは自由になった手をさすりながら、早足で陽太に近寄る。

 

「……………」

「貴方のその面も『見納め』になるかと思うと………余計に腹立たしくなるけど………これだけは言っておきたいの。そして二度と忘れないように胸の内に刻み込みなさい」

 

 マリアはその手に渾身の力を篭めると………。

 

「私はお前を許さない! だから、殺してなんてやらない!! この世界で死ぬまで苦しみ続けろ!!」

「!?」

 

 陽太の頬を思いっきりぶん殴ったのだ。その威力に吹き飛ばされ、ヘリポートにたまっていた水溜りに倒れこむ陽太。

 シャルが、一夏達が急いで駆け寄るが、周りの者よりも早く、陽太に近寄ると、彼の襟首を掴んで、鋭い眼光で睨みながら、腹の底から湧き上がる怒りと憎しみを抑え、怒鳴りつけた。

 

「そして、何よりも………シャルロットちゃん(あの子)を不幸にしてみなさい!!! 今度こそ、私が

必ずお前を殺してやるッ!!!」

「……………あっ」

「返事しろッ!!」

「………あ、ああ………わかった」

 

 それだけ言い残すと、水溜りに再び放り投げ、千冬に向かって歩き出す。

 

「………すっきりしました」

「………そうか」

 

 手錠を再び着けられたマリアは、一度だけシャルの方に振り返る。

 

「マリア先輩」

 

 シャルは見た………彼女が泣いていたのを。そして悟る。

 彼女は不器用に、でも必死に、自分の中の憎しみと戦って、憎しみ以外の答えを出してくれたのだと………それも自分のために。

 

「先輩ッ!!」

 

 エージェント達に連れられ、ヘリに乗り込むマリアに声を掛けるシャルだったが、彼女は若干、肩を震わせるだけで振り返ることはしなかった。

 

 ―――ヘリのドアが閉められ、ヘリのプロペラが回り始める―――

 

 すぐさま高速回転を始めたプロペラが、ゆっくりと機体を浮かび上がらせる。

 

「先輩ッ!! 私、まだファミレスのお金、返してません!!」

 

 聞こえるわけないと分かっていながら、それでもシャルは叫ぶ。

 

「必ず返します! 返しますから………また会ってくださいッ!!!」

 

 轟音の中、両サイドをエージェントに挟まれているマリアに向かって、叫んだシャルに、マリアは微笑みながら振り向くと、唇で、シャルにこう伝えた。

 

 バ・カ・ネ。オゴリダッテイッタデショウ?

 

 シャルには、確かにマリアがそう言ったように見えた。

 その言葉を聴いたシャルは、涙を流しながら、手を振る………まるで、長年連れ添ったが、どこか遠い場所に行ってしまう友人に、それでも再会するんだと信じて、手を振り続ける。

 

「………馬鹿ね………バカ…」

 

 シャルの姿を見ながら………ゆっくりと遠くなっていく姿を見ながら、頬から一筋の涙を流しながら、ジャイロが煩いヘリの中では誰にも聞こえない小声で呟いた。

 

「………そんなに嬉しそうに、笑わないでよ姉さん?」

 

 仇も取らず、あまつさえ敵同然とも言える人物と友達になってしまうような、姉不幸者の自分に、心の中の姉は、確かに優しく微笑みかけてくる。

 

『いいお友達に巡り逢えたのね、マリア』

 

 何故かそんなモミジ・フジオカの声を、マリアは聞いた気がしたのだった………。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 小さくなっていくヘリを見上げながら、本日二度目の鉄拳を受け、陽太は水溜りの中で大の字に寝転び続ける。

 

「………俺は………許されたのか?」

 

 許すとも、絶対に許さないとも、両方とも意味を取れる言葉を一方的に言われ、反論する隙すらなく行かれてしまった………。

 

「(結局、俺は何もできなかった………)」

 

 謝罪すらもロクに出来ない………つくづく自分は戦うこと以外のことが出来ない人間なんだと、自嘲する陽太だったが、そんな陽太を見下ろすように人影が現れる。

 

「そんなところで寝てると、また熱がぶり返しちゃうよ」

 

 先ほどまでヘリに向かって手を振っていたシャルロットであった。未だ別れの余韻を残すように、瞳に涙を残しながら、しゃがんで見下ろすシャルロットを見ながら、陽太は彼女に問いかけた。

 

「…………こうやって、まともに話すの……久しぶりな気がするな」

「ハハッ!! そういえば、ここ数日、会話なんてほとんどなかったね」

 

 陽太の右手が、ゆっくりとシャルの頬に触れる。

 

「ヨ、ヨウタッ!?」

 

 突然のその行動に、硬直してしまうシャルロットだったが、陽太の瞳に宿っている物を見て、彼女は表情を引き締めた。

 

「………空に逃げてた」

「………ヨウタ」

「空は、誰も拒まない………だから、そこにいれば………ひょっとしたら、忘れられるんじゃないのかと思ってた」

 

 陽太が、シャルに、一夏達に初めて、胸の内(弱音)を晒しているのだ。

 

「だから………だから、ずっと一人で戦うことが当たり前だと思ってた」

 

 空になんて生きていない。

 空にしか居場所がないわけではない。

 

 そのことは、ずっと前からわかっていた。だけど、人を殺してしまった者が、人を純粋に助けることの出来る人間達の輪の中に戻ることなど、永遠にないものだと思っていた。

 

 ―――ちゃんと、フランスでシャルのこと護ったんだろうが!!―――

 

 だけど、さっき一夏に言われたその言葉が、陽太の心にあった分厚い雨雲に、一筋の光を差し込ませた。

 

「……………」

 

 陽太が、セシリアを見る。

 いつかオーガコアと戦ったときに、彼女は陽太の隣に立ち、彼女にしか出せない輝きを陽太に見せたことがあった。

 

 ―――『蒼穹輪舞(ロンド・オブ・サジタリウス)』 セシリア・オルコット!! 狙い撃ちます!!―――

 

 次に、鈴を見た。

 自分のせいでオーガコアに取り込まれた少女を、憎まれている相手を彼女は命懸けで救出した。

 

 ―――だから………だから、アンタは私『達』が絶対に救ってみせる!!―――

 

 隣にいる、ラウラを見る。

 小馬鹿にして、ろくに隊長としての職務をしない陽太を必死に立て、彼女は隊を纏めようと懸命に動いてくれていた。 

 

 ―――いえ、この場にいる全員の総意です。陽太を助ける………それが私達の使命ですから―――

 

 答えは、ずっと自分と一緒にあったじゃないか。

 

 ずっと一人で戦ってきた時、ずっと一人でブレイズブレードを駆って、空を飛んでいたら、永遠に手に入らない答えが………。

 

「俺は………間違ってた。たった一人で………何が出来ると思ってたんだろうな?」

「それは………私も………ううん、私達も一緒だよ、ヨウタ?」

 

 シャルは微笑みながら、そんな陽太の本音を否定する。

 陽太の気持ちも考えずに、自分達は気持ちを押し付けてしまった………自分を守ろうと、必死になって戦っていた陽太のことを間違っていると、一方的に彼の気持ちを否定して………。

 

 今なら解る気がする。

 

 人を殺してしまえば、その人に永遠に逢えなくなるだけじゃない。

 取り返すことの出来ない、大きな傷と、なによりもこの世界に理不尽を生んでしまうのだ。その傷が、幾千幾万幾億の痛みとなり、そしていつか大きな憎しみに替わって、殺した人も、殺された人も一緒に破滅させてしまう。その大き過ぎた罪に陽太は押し潰されかけ、罰という甘い罠でマリアは破滅に向かっていた。

 

 だがその一方で、マリアの憎しみは突然沸いた訳ではなく、彼女がそれほどまで純粋に姉のことを愛してたこと。

 だからこそ、何があっても陽太を許せなかったことを、陽太は何があっても許されないと思っていたことをシャル達は本当の意味で実感できた。 

 

「ひょっとしたら………愛しいって気持ちも、相手を憎む気持ちも、そんなに距離があるわけじゃないのかもしれないね」

 

 なぜだろうか、シャルが漏らしたその言葉に、その場にいた皆は静かにうなづく。

 コインの裏表のように存在する愛と憎しみ………自分達がこれから何とどう戦っていかなければならないのか………。

 

 ―――守る為の戦いだったとしても、犠牲が出れば、必ず悲しみと歪みが生まれる―――

 

 今回の一件は、陽太だけではなく、シャルや一夏達にそれを強烈に教えてくれたのだった。

 

「………シャル」

 

 そんなシャルを眩しそうに見上げた陽太に、彼女はしゃがみ込みながら、微笑んで話しかけた。

 

「ねえ、ヨウタ?」

「……………」

「いつも私を守ってくれて………ありがとう」

「!!?」

 

 視界が歪む。

 暖かなものがせり上がってくる。

 

 反射的に自分の手で瞳を隠した陽太だったが、指の隙間からは確かに見えた。

 

 ―――ああ、あの日と同じ青空だ―――

 

 もう空には冷たい雨を降らせていた雨雲はない。

 

 いつだって、陽太が大切な事を知る時、無限の奥行きと純度を持つ青さを大空は見せるのだ………空がいつだって変わらずに、天翔る王を見守り続けているのだ。

 

 陽太は、空に向かって手を伸ばし………握り拳を作る。

 

「………火鳥 陽太はシャルロット・デュノアの、対オーガコア部隊の編入を認める」

「!?」

 

 突然のその発言に驚く一同だったが、それだけ言うとまるで何かを待っているかのように黙り続ける陽太に、シャルは心から笑いながら、自分も拳を握って陽太の拳にコツンと合わせてみる。

 

「うん、これから………よろしくねヨウタ!!」

「あと………」

 

 寝転んだ状態で………耳たぶを若干赤く染めながら、陽太は首をずらして一夏達の方に振り返り、この学園にきて初めて………。

 

「一夏、セシリア、鈴、ラウラ………」

「「「「なっ!?」」」」

 

 彼等の名をちゃんと呼び、そして空を仰ぎながら、隊長として、彼らに想いを乗せた言葉を語ってみせた。

 

「………強くなるぞ。俺達はッ」

 

 ただ静かに、それ以上の言葉は何も語らず、だけど強い意志を宿した陽太の姿に、一夏達は当初は動揺したものの、静かに全員が満面の笑みを浮かべ、それぞれが拳を作って、陽太の拳に誓いを立てる。

 

「ああ、絶対に強くなって、オーガコアからみんなを守ってみせる!!」

「私達で、必ず亡国機業(ファントム・タスク)の野望を挫いてみせます!!」

「アタシ達がやらないで、誰がやるっていうのよ!?」

「そうだ。必ず、私達は強くなってみせるのだ!!」

 

 ―――大空の元、6人の意志がようやく本当の一つの形を作ってみせた―――

 

「…………ねえ、ヨウタ?」

「んだよ?」

 

 だがそんな中で、鈴が耳を真っ赤にしている陽太に対して、悪戯顔でとあることを聞いてくる。

 

「アンタ………私達の名前呼んで、ひょっとして照れてるのかな~?」

「!?」

「えっ?」

「どういうことだ?」

「あ、陽太………お前、耳が・」

 

 一夏が陽太の変化に気がついて、彼の耳の変化を口走ろうとしたとき、それよりも早く起き上がった陽太が、超速で一夏の背後を取ると、手足を絡ませてコブラツイストの体勢で彼を締め上げ始める。

 

「そういや、一夏ッ!? よくも人様をぶん殴ったな!? 超・許せん!!」

「ギィッ! い、いきなりなにをグオッ!!」

「万倍返ししちゃる!!」

「お、お前だって俺をな、殴っただろう……がぁぁっ!! イタイイタイッ!!」

 

 突如じゃれ付きだす男子二人………そんな二人を見ながら、女子達は呆れ顔になるが、シャルは一人小さく噴出す。

 

「(ホント………ヨウタは素直じゃないんだから)」

 

 素直に一夏に『ありがとう』と伝えるには、まだまだ時間がかかりそうないつもの幼馴染の少年の姿に、小さく吹き出してしまったのだ。

 

 そんな不器用で、すれ違いばかりを続けていた少年少女たちの姿を見ながら、真耶は鼻を啜りながら『よかったです~』と感動し、そんな真耶にハンカチを渡しながらカールは『雨降って地固まるって奴かね』と流暢な日本のことわざを言い、千冬は空を仰ぎながら、静かに、心の中の恩師に語りかけた。

 

「(先生………アナタが託した未来達………私が必ず守り抜いてみせます………だからこそ………)」

 

 心の中にあった、敬愛してやまない恩師に仰ぎながら、バカ騒ぎをしつづける一夏と陽太に向かって、彼らには今は聞こえない小声で言い放つ。

 

「一夏、お前に真実を………そして、陽太。今のお前ならば、辿り着ける」

 

 差し込んできた陽光に目を細めながら、千冬は心の中で確信していた。

 

 ―――全てのIS操縦者が最後に辿り着く………究極の領域に!!―――

 

 

 

 

 





とりあえず、無事章が終了して一段落

とにかく、今回は難産の連続で正直疲れました(笑


じゃあ、こっからちょっとしたあとがきタイム


・陽太はマリアに許されたのか、許されていないのか?

これは、読み手次第です。正直感情の問題なので、全部綺麗さっぱり解決はしていません。それだけがいえることです。

・陽太の変化

いままで、陽太は一人で気張ることしかできませんでした。それは環境によるものもありますが、一番は、やっぱり本人の「弱さ」です。
陽太は弱さを認めることができない人間でしたが、彼は仲間を得ることで、ようやく弱さと向き合いました………十蔵じいちゃんの「学ぶべきこと」を、もっとも体感した瞬間だったんでしょうね、今回が


さてさて、次回はエピソード的なお話になります







吐き気を催す邪悪の登場にご注意ください。

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