予想外の風邪
そして休日出勤の日々………
ほぼ一月ぶりの更新なのに、出来がイマイチっぽいのはなぜだろうか…
皆さん、大変お待たせしました!!
―――この敵は、私一人の手に余るかもしれない!!―――
頬を叩き付ける衝撃波の中を目を凝らしながら、紅椿を纏った箒はそんな囁きを己の耳の内に聞いた。
頭を左右に振り、自分の心に芽生えた弱気の虫を払い落とす。
「チッ!!」
周囲に円を描くように振るわれた刃が、敵を二対まとめて斬り裂く。
瞬転、斜め上に飛び掛るように上昇しつつ、自分に向かってくる敵三機を、すれ違いざまに居合い抜きのような鋭い斬撃な二本の刃がバラバラにした。
そして、その勢いを殺すことなく、紅の竜巻と化した紅椿が敵の群れの中を一方的に蹂躙しながら突き進んでいく………だが、敵の数が減っているようにはとても思えない。
『個』としての能力はこちらが遥かに上なのだが、如何せん数の見劣りだけはどうしようもない。敵の数はセンサーが反応しているだけで数百、たいしてこちらはたった一人だ。
相手は数に物言わせ、その最大の武器である鋼鉄の『針』を、機関砲のように発射してきた。
瞬間、箒は考えることもせずに低空飛行から一気に高度を100m近く上げる。が、それを待っていたと言わんばかりに、地上からも針の雨を対空砲火のように撃ちまくり、猛威を振るう。一瞬の判断が迫られ箒は決断した、全てをなぎ払うと。
「展開装甲、雨月!」
背中のビットを切り離し、雨月と一体化させた箒は、迫る針撃に向かって吼えながら刃を振るう。
「剣撃乱舞!! 蓮華咬鎖(れんげこうさ)!!」
紅の閃光を纏い、雨月がその刃をまるで鎖のように延ばし、その刀身を10数mほどに引き伸ばすと、箒は自身を中心に円陣を組ませるように展開装甲で強化された雨月を振るい、球状の結界としたのだった。
直後、甲高い金属音を鳴らしながら、千本以上の針が箒に襲い掛かるが、その全てを雨月の刃が弾き返していく。数秒………いや、十秒以上の時間が経過し、針の雨が止んだ瞬間を彼女は見逃さず、好機を捉える。
「散桜刃舞(さんおうじんぶ)!!」
両肩両脚の展開装甲から離れたミサイルを全方位に撒き散らし、『敵』達に対して、叫んだ。
「地面に這い蹲れ!!」
瞬時、弾頭からレーザーブレードを発振したミサイル達が、次々に『敵』達はレーザーの刃に串刺しにされていく。
敵の動きが停まったことを確認した箒は、すぐさま索敵を開始し、眼下に見下ろす敵の中から『本体(おやだま)』を見つけ出そうとするが、目下全ての索敵が完了した時、レーダーに映ってほしいと思っていた肝心のオーガコアの反応は『LOST』の表示を示し、箒は舌打ちして、降下して地上に足をつける。
「………これで三度目か」
目前で蠢く、羽の生えた大型の虫………その容姿はオレンジ色に禍々しい黒縞が全体に走り、鋼鉄すらも砕けそうな鋭い顎と、細い足、何よりも大きな胴と、その先端にある鋭い針………。
日本人ならば、誰もが子供の頃に絶対に危険だから近寄るなと言われているであろう『スズメバチ』の姿をしたオーガコア達の分体達は、頭部にレーザーブレードを突き刺したまま、それでもノロノロと起き上がろうとする。が、箒が振るった蓮華咬鎖によって、目の前にいた数十匹のハチ達は、瞬く間に体を五分割にされ、残骸となって地面に転がる。
「(………やはり、私一人では手が回りきらない)」
日本政府からの直接の依頼で動いている箒は、IS学園に入学していながらも、まったく別の指令系統に組み込まれているために、基本、戦闘中の直接支援を受けることは出来ないでいた。最も、ISの直接支援が出来るのはISのみであり、通常兵器しか持たない自衛官などがそばにいられればそれだけで動きが制限されるし、何よりも箒自身が仲間を持つことを拒み続けているのが、一番の問題なのだが………。
だが、反応があるたびに、無数の敵に囲まれ、相手をしているうちに逃げられる………この一週間で、今日を含まれば三度目となるこの展開に、箒は正直、焦りを覚えていた。
現状はスズメバチの習性なのかは知らないが、出現場所が山手に限られているため、人的被害は出ていないが、もし次に都会の街中にでも現れられようものなら、死傷者が何人出るか判ったものではない。それ故に早期の決着を望んでいるのだが、政府の方も、オーガコアの出現をしてからしか箒に連絡を入れないために、対応が後手後手となってしまっている。
「このままでは………!」
一瞬だけ、一夏達『対オーガコア部隊』のメンバー達の顔が浮かぶが、すぐさま首を横に振って、その考えを箒は打ち消す。自分は彼らの仲間ではないし、何よりも日本政府がIS学園の人間に好き勝手されるのを嫌っているのだ。
10年前の『白騎士事件』によって端を発したISを中心にした社会情勢の変化と、篠ノ之束という一人の人間のせいで、世界中から迫られた責任問題によって無理やり作らされたIS学園という存在に、未だ強い敵愾心を持っている政府高官も多く、国内という自分の縄張りにおいて好き勝手に活動されることを、それこそアナフェラキシーショックのごとく強烈に嫌っている。
IS学園もIS学園で、そんな政府の分からず屋共の態度を鼻で笑い、『本当に大変となっても手伝ってやらないぞ』と言い出す者までもいるのだ。
陽太がこのことを知れば、どちらも鼻で笑い飛ばしながら『アホ共が』と言い出しそうだが、そう言った事情を更識経由で教えられた箒としては、守秘義務として勝手に部外者に事情を話して助力を願うわけにも行かないのだ。IS学園に籍を置きながら、IS学園の学生として友達を頼れないという自分に、自嘲気味に噴出した箒は、今週に入ってから三度目となる屈辱の連絡を入れ始めた………。
☆
自衛隊の仮説本部から返ってきた言葉は、案の定『別命あるまで通常待機』という物だった。だが、去り際に『役に立たない小娘が』という言葉を箒は背に受けたが、無言でその言葉を受け流し、詰め所を後にして、電車に乗り込んだ箒は、この二年ほどの自分の在り方の変化にちょっとだけ驚いてた。
「(以前なら、あんな風に言われれば怒り心頭で噛み付いていたものだが………冷静に受け流せるようになったのは、事実だからかな?)」
千冬ほどの実力があれば、敵オーガコアが好き勝手させる間もなく、問答無用で瞬殺しているだろう。
束ほどの知力があれば、即座に対策を立て、的確な作戦を立てて敵を追い詰めることもできよう。
だが、二人に遠く及ばない自分は、そのどちらも出来ず、こうやって使いっ走りをするのが限界だ。確かにコレでは役立たずと思われても仕方ない。あの自衛官の言葉も当然と思えてしまう。
「………簪、やっぱり私は変われないよ」
電車から降り、バスで二駅ほどいった所で下車した箒は、ポツリと誰にも聞こえない言葉を紡ぐと、正面を向いて、無理に笑顔を作って歩き出す。
今、箒が下車した場所………様々な白い建物が立つ小さな町ほどもある『鵜飼総合病院』という、更識家の分家が経営する日本有数の総合病院であり、思った以上に任務が早く終わってしまい、空き時間が出来てしまった箒が、とある人物たちのお見舞いに来たのだ。
様々な専門病棟の群の中を進み、一際大きな外科の病棟に辿り着いた箒が、入り口の自動ドアを潜る。
「 ほ う き ちゃぁぁぁぁーーーんっ!!!」
「ふんっ!」
入院患者の着る患者衣を着た楯無が数メートルの距離をルパンダイブしてくるのを、箒は動じも迷いもせずに、襟首を掴むと、倒れこみながら巴投げで楯無を病院の外まで投げ飛ばす。
「ぐへっ!?」
一寸の容赦もない箒の技に、受身を取ることもなく頭から地面に激突した楯無………無情に自動ドアが閉まる中、服についた埃を払いながら立ち上がった箒が、一言そんな彼女に振り向かずに言い放つ。
「『仕事が立て込んでいる』と虚さんが迷惑していました。それだけの体力があるなら、とっとと退院して学園に戻ってください」
そして荷物を持ち上げると、さっさと歩き出す。途中、背後で自動ドアに『ガンッ!』と何かが当たる音がするが、それにも一切振り返らずに歩き続ける箒だったが、エレベーターのボタンを押そうとした所を、背後から楯無が鼻血を若干出しながら抱き止める。
「そんなっ! 箒ちゃんが、せっかくこうやってお見舞いに来てくれるのに、それを棒に振るように学園に戻れと!? お姉ちゃん、大ショック!!」
「私は『簪の!!』お見舞いに来ました」
「うん、予想してたけど一瞬の迷いもなく言われると、ちょっとだけショックよ箒ちゃん………それに自動ドアに顔をぶつけたこの痛みの分も、心配もしてくれないし」
「セクハラを働こうとさえしなければ、私は普通に抱きとめますよ」
「セクハラ? それって………」
キンッ! という音と共に降りてきたエレベーターに乗り込む二人だったが、二人っきりになった途端、口元に怪しい笑みを浮かべた楯無が、止せばいいのに鍛えられた気配遮断技術で箒の背後に回りこむと、後ろから彼女の胸に手を当て、揉み始めたのだった。
「う~~~ん。Fカップから更に成長しようとしている、この15歳とは思えない豊満かつエロスに溢れたボディを、毎日点検しておかないと、もしもの時に大変でしょう? あ、ちなみにもしもの時っていうのは………箒ちゃんと、一夏君が、ラ・ブ・ラ・ブ……な、関係になったときねッ☆」
「!!ッ」
キンッ! という音をさせて止まったエレベーターに乗り込もうとする医者や入院患者達だったが、開いたドアの先にあった、耳を真っ赤にしているポニーテルの少女が、同じく年若い少女の首根っこを両手で掴みながら締め上げているという異様な光景に、同じエレベーターに入ることを全員が戸惑ってしまう………因みに持ち上げられている少女が『ギブギブ、箒………ぢゃん、マジぐるじい……』と呟いていたのは言うまでもないが………。
再び閉じたドアが、目的である最上階に辿り着き開いた時、中から出てきた、怒り心頭の箒と、首を摩りながら『おこっちゃヤダ』とまったく反省していない楯無だったが、そんな二人を恰幅の良い中年の看護婦が声をかけてくる。
「あら、箒ちゃんじゃない!?」
「………婦長さん」
さっきまで楯無にしていた不機嫌な表情とは一変し、柔らかい笑顔になった箒は、目の前の女性に会釈する。
「楯無ちゃんは、さっきさまね。もう………朝からずっと簪ちゃんにべったりなのに、まだ足りないのかしら?」
「えへへっ………」
「でも、いい加減自分の病室に帰らないと、先生が心配するわよ」
照れたように頭をぽりぽりと掻きながら扇子で顔を仰ぐ楯無は笑顔で誤魔化そうとするが、彼女をやんわりと叱ると、箒に首を傾げながら質問をする。
「あら、この時間はまだ学校じゃないの?」
「実は、急な任…じゃなくて用事が出来て、学校を休まざるえなかったのですが……その用事が思った以上に早く終わったもので…」
「それで、お見舞いに来たのね………ちょうど良かったわ。簪ちゃんの着替えの時間だったから、手伝ってくれるかしら?」
「はい! 手伝います!!」
「私も私も!!」
「残念………楯無ちゃんは、検診の時間ね」
笑顔で返事をする箒と、泣きながらトボトボと自分の病室に帰っていく楯無………二人が異常に聞き訳がいいのも、この婦長の人格から来るものなのだ。
そして箒を引き連れて簪の病室に向かおうとする婦長だったが、途中、部屋に入る前に箒の顔を見て、少し心配そうに問いかける。
「………大丈夫かい、箒ちゃん?」
「? どうしたのですか?」
「いやね………週に二回、どんな時でも来てくれるからね………学校、大変でしょう?」
婦長の曇った笑顔にも、箒は晴れやかそうな笑顔を浮かべて答えた。
「大丈夫です! 私はちゃんと学業を怠っていませんから!」
「そう………それならいいんだけどね」
心配そうな婦長を気遣い、箒は空元気をしながらドアを開く。
「簪! 会いに来たぞ!!」
そう言って、ドアを開いて病室の中に入る箒は、窓から差し込んだ光が当たっている簪を見て、ほんの一瞬だけ、唇をかみ締める。
―――このドアを開けた瞬間、そこには元気な笑顔を浮かべながら起き上がっている簪がいる―――
もう何回したか知らない夢想ではあったが、だが現実はいつも過酷で、今日も簪はカーテンが風に煽られている個室の中で、幾つかのチューブを鼻の中に入れられた状態で白いシーツの上で眠り続けていた。
「………簪…」
辛そうに顔をしかめる箒だったが、すぐさま明るい色に染めた笑顔を作り、箒はカバンを置いて、いつも通り植物状態となっている簪に話しかけ続ける。
「3日ぶりだな簪。今日はちょっと時間が空いてな、簪が寂しくないようにと思ってきたのだぞ~」
制服の袖をまくりながら、備え付けの棚からタオルと洗面器を持って、少し温めのお湯を入れる箒と、体温や瞳孔などを見て、彼女の状態を確認する婦長。そして全ての診断が終わり、婦長が診断書に書き込みをする中、箒は手際よく簪のパジャマを脱がせていく。
そして二年の寝たきりによって、すっかりとヤセ細った簪の身体を箒と婦長は、温めのお湯で濡らしたタオルで拭き始める。途中、二人で何度か簪の身体の体勢を慎重に変えながら、隅々まで吹き終えると、新しい下着とパジャマを着せて、再び寝かしつける。
「はい、綺麗になって気持ちよかったわね、簪ちゃん?」
婦長はシーツを簪に掛けると、箒に一声かけた。
「それじゃあ、後はお願いね箒ちゃん。何かあったらナースコールで呼んで」
「はい。ありがとうございます」
再び会釈をする箒を、また少しだけ心配そうに見つめた後、婦長は病室から静かに退室する。彼女を見送った箒は、ベッドの横にある椅子に座ると、痩せて棒のようなってしまっている簪の手を掴むと、自分の頬に当てながら、慈しむように笑いかけた。
「大丈夫………大丈夫だぞ簪……私はちゃんと待っているから、いつでも戻って来い」
簪の手をしっかり握り締めながら、箒は彼女にそう願い続ける。そしてその手を握るたびに、決意を改め、脳裏の中に『あのIS』を思い浮かべる。
「(だから待っていろ!? 全身装甲の黒いISッ!!)」
あのISを見つけ出し倒すことこそ、簪の目を覚ませる最大の願掛けになる………そう思い込むことで、箒は今の自分を必死に支え続けるのだった………。
そんな箒と眠り続ける簪をそっと見守る、扉の向こうから中の様子を伺っていた婦長は、静かに病室を後にすると、ナースステーションに戻る。
だが、ナースステーションに戻ってくると、どうしたものかナース達の上機嫌の声が聞こえてきたにわかに騒がしい。
「あっ! 婦長さん!!」
「楯無ちゃ~~~ん?」
そしてナースステーションに戻ってきた婦長が見たのは、いつの間にか持ってきた高級お菓子を他のナース達と一緒に食べている楯無の姿だった。もっとも他のナース達はというと婦長の姿を見た瞬間、蜘蛛の子を散らすかのように四方八方に散って、それぞれ仕事に戻っていく。さすがに上司の目の前で堂々とサボるほど、この病院のナース達は不真面目でも手抜きでもないようだった。
四方八方に走り去るナース達を見送りながら、手に持ったボードと共に未だお菓子のクッキーを食べている楯無の対面に座ると、黙ってカルテに記録の続きを書き始める婦長は、自分と目を合わせずにいる楯無に何気なく話をし始める。
「………あんまりよくないね」
「………何がですか、婦長さん?」
「分かってるくせに………本音ちゃんも心配してたよ。『無理し過ぎてる』って」
「あの子、普段は生徒会に来てないのに……」
カルテに文字を書き終えた婦長は、テーブルに肘を着くとため息をついてしまう。
「はぁ~~~………あのままだと、近いうちにポッキリ折れちゃうかもしれないわね」
「……………そんなことありません。ていうか、私がさせません」
「貴方も無理しすぎなところあるわよ………御当主の仕事、生徒会長の仕事、そして今度は妹達のお世話かしら?」
苦そうな笑みを浮かべた婦長を半睨みで無言の反論をする楯無………自分が生まれる前から社会に出て、この多くの命が行き交う仕事をしている目の前の人物には、どうにもこうにも当主としての威厳も、年下相手にのらりくらりとした態度で回避するスタイルも通じなくて、どうしても素の自分に戻ってしまうのが楯無としては不満でしかたなかった。
「貴方も箒ちゃんも、本当に生真面目で手の抜き方を知らない娘達ね………もう少し肩肘から力を抜いて生活しないと」
「私はよく不真面目だと虚ちゃんと箒ちゃんに怒られちゃうけど?」
「あら、だったらどうして時々夜中に突然ベッドからいなくなっちゃうのかしら?」
「なっ!」
どうして気が付かれている? この対暗部の組織の長である自分が、よもや監視されていることに気がついていなかったなんて? 一人、戦慄する楯無だったが、婦長はそんな彼女にしてやったりといった表情で言い放つ。
「やっぱりいなくなってたのね?」
「あっ! 今のただのハッタリだったんですか!?」
「これも人生経験の差よ………だからね」
「なんですかっ!!」
カマをかけられ、見事に自爆したのが気に入らず、不貞腐れながらクッキーを頬張る楯無に、婦長は目を細めながら静かに呟く。
「少しでいい、周りにいる人間を頼ってほしい………それは弱さでもなんでもないんだから」
弱さを見せないように、強い自分を形作ろうと、必死に一人であることを律し続ける箒のことを思っている婦長の姿を見た楯無は、温かい笑顔を作りながらクッキーを婦長に差し出す。
「頑張り屋さんの婦長さんに、私からのプレゼントです」
そういってきた楯無の姿に、まるで子供からプレゼント受け取った母親のような喜びを噛み締めながら、婦長も暖かい笑顔でそれを受け取る。
「頑張り屋さんの楯無ちゃんからのプレゼント、受け取ったわ」
すっかり遅くなってしまった。と内心で思いながら、日の傾きかけた病室から出てきた箒だったが、すぐさまナースステーションから聞こえてくる声に耳を疑った。
「それでね、婦長さん!? 一夏君ったら、箒ちゃんのこと聞いたら、『彼女とは唯の幼馴染です(キリッ)』って本気言い放つのよ! どう思う!?」
「う~~~ん………確かにそれは、男として問題があるね」
「でしょ! 私的には、今すぐ箒ちゃんと一夏君がラ・ブ・ラ・ブゥ・なバカップルになってほしいのよ!!」
「……………」
机を思いっきり叩きつけながらそう主張する楯無と、そんな楯無を背後から、この上ない冷たい視線で見下ろす箒と、そんな箒の姿に気がつき、困ったように笑う婦長………適当に相槌を打ちながら彼女は、楯無の背後を黙って指差す。数秒後、それが何を示しているのか気がつき、途端に顔色が青く成り果てる。
「随分と、楽しそうですね、楯無姉さん?」
「あ、あらぁ!? 箒ちゃ・」
愛想を振りまいて必死に状況回避しようと振り返った楯無であったが、そんな彼女に対して箒は一瞬の躊躇もなくクビを九十度捻り上げ、ゴキリッ! という本来ならあってはならない鈍い音を響かせながら失神させてしまう。
床で泡を吹きながら気を失う楯無を置き去りにして、とっととナースステーションを後にしようとする箒だったが、彼女を婦長が呼び止める。
「箒ちゃん、もうお帰りかい?」
「すみません、本日はこれぐらいで………」
「来たくなったら、いつでも来てくれたらいいのよ、私も簪ちゃんも嬉しいんだから………だけどね、箒ちゃん」
「はい?」
「くれぐれも無理はしないでね………皆が、貴方の事を大事に思っているんだから」
実の娘に言い聞かせるように、優しい声色で言った言葉に、一瞬だけ頬を赤く染めて呆ける箒だったが、すぐさま首を横に振り、いつもの硬い仏頂面を作って、頭を下げる。
「そのお言葉だけ、貰っておきます。それでは………」
「あっ」
早足でエレベーターに乗ってしまう箒に、言葉を続けることができなかった婦長はというと、またしても深い溜息をつき、日が傾いている夕焼けの空を見ながら、ポツリと漏らすのだった。
「そういうガチガチに自分を固めちゃうから、余計に心配になっちゃうのよ」
☆
急ぎ足でバス停に飛び込み、乗り継ぎと途中で電車に乗り換えた箒がIS学園に戻ってきたとき、すっかり空は星空へと変わっていた。
街灯が点いた寮へと続く道を歩く中、婦長が何気なくかけてくれた言葉を、黙って考え込む。
『くれぐれも無理はしないでね………皆が、貴方の事を大事に思っているんだから』
「(私に………そんな資格なんてない)」
だが、どれほど温かい言葉をもらっても、箒にしてみれば自分という存在は簪を守れなかった、大切な人達から大切な人間を奪ってしまった人間だ。
「(ISが簪を傷付けた………そして私は、そのISを作った人間の妹だ)」
ISを束が作った物で、それが簪を傷付けた以上、自分はどこまで行っても加害者の側でしかない。ある意味極論とも言えるような意見をずっと心の中で反芻し続けている箒は、そうやって他者の好意を、無理矢理遠ざけようとしていた。
と、寮の正門まで箒が辿り着いた時だった。寮からの明かりに照らされているといえ、周囲が真っ黒な夜の闇の中で、一人ホウキで寮の周りを清掃している人物を見つける。
「布仏?」
「あ、しののん、お帰り~!!」
ダブダブな着ぐるみを身につけ、眠たそうな表情とゆったりとした言葉遣いをしている、通称『のほほん』こと、箒のクラスメートであり、ルームメイトであり、そして中学時代からの親友でもある少女であった。
テケテケともっそりとした速度で走ってくる少女を見た箒は、僅かに微笑み肩の力を若干抜きながら、のほほんが自分に飛びつく前に、手を前に出して彼女のを押さえ込む。
「むぎゅ」
「今頃、正門掃除などして、どうした?」
「あ、ああっ!! ちょ、ちょっと、ド忘れしてて~」
「普段のお前なら、そのまま無視してしまいそうな場面なのに、珍しく……」
妙に挙動不審だ。それにIS学園の生徒会書記に入っておきながら、姉に雑務を押し付けて、ほとんど自分は仕事をしないくせに、今日に限って豆に清掃活動などをしているなど、どういった風の吹き回しか………と思ったときだった。箒は落ち着いて考えると、とある事実に気がつく………今日の寮前の清掃は自分が当番ではなかったのか、と。
「本音!」
「きゃうっ!!」
つい、厳しい言葉と剣幕になってしまったが、すぐに落ち着きを取り戻すと、のほほんが持っているホウキを奪い、申し訳なさそうにしている彼女に謝罪して、自分が後はやると言い出す。
「すまない本………布仏。後は私がやる」
「で、でも~……もう暗いよ?」
「問題ない」
中学時代の呼び名で自分を呼ばなくなった箒を、寂しそうに見つめるのほほんは、すぐさま箒のホウキを奪い返そうとする。
「しののん、お仕事でお疲れなんだから~、後は私がやるよ~」
「いい。というか離せ、布仏!!」
「い~や~だぁ~~!! 呼び方を元に戻さないと離してあげない~」
専用機を貰った直後から、日本政府の依頼を受けて積極的にオーガコア退治に出向くようになった箒は、それに反比例するように更識の人間達に壁を作るようになり、高校入学と同時にのほほんのことも呼び名を最初の頃の苗字に戻ってしまった。だが、それは箒なりの周囲へのけじめであり、罪悪感から来た不器用な気遣いだということも、のほほんは知っているのだ。
「い~や~!!」
「離せ、本n」
一本のホウキを取り合う二人の少女だったが、その時、そんな二人を寮の入り口から、何人かの女生徒達が冷やかな視線で見つめていることに気がつく。
「………何か用か?」
「きゃぅっ!」
そんな女生徒達の視線を、負けず劣らない冷やかな視線で見返す箒………急に手を離したため、のほほんは勢いあまってスッ転んでしまったが………。
箒のその挑戦的な視線が気に入らなかったのか、女性との一人が小馬鹿にするような表情で鼻で笑い飛ばしながら箒をヤジる。
「いえ、政府からのお仕事で忙しい篠ノ之さんは、こんなところで雑用しているおヒマはないんじゃないのかと思いまして?」
「何だと?」
箒の声のトーンが若干下がり、のほほんがまずいと感じるが、女生徒達の『口撃』は止まらない。
「そうよ。篠ノ之さんは政府のお仕事で忙しいんだから、ワザワザIS学園に戻ってくる必要もないんじゃない?」
「授業休んでも、単位貰えるんだからね」
「あ、それともお姉さんに裏で手を回してもらってるとか? なんせあの『篠ノ之束』でしょ?」
「ありえるかも~………なんせ、お姉さんから政府と押さずに直接手渡されている専用機でしょ?」
「ほんと!?………じゃあ、学校休んでも、授業休んでも、寮の当番サボっても、全部お姉さんが何とかしてくれるの? うわっ、それって超ラッキーじゃない!!」
「てか、そんなに自慢したいなら、どっか他所でやってほしいよね。ワザワザIS学園にきて、授業出て頑張ってる他人の努力を馬鹿にすんなっての」
「というか、あの着ぐるみの子、ひょっとして篠ノ之さんに取り入って、甘い汁啜ろうとしてるの?」
「篠ノ之さん通して、篠ノ之束にIS作って貰おうって? やだぁー。何それ?」
「人間、そんなところまで堕ちたくないわよねー」
好き勝手口々に言うその姿に、のほほんは憤激しながら箒を庇おうとする………が、それよりも早く、箒は女生徒達に対して、口元に笑みを浮かべながら、一言言い放つ。
「姉は、関係ない」
そう、純正の『殺気』を込めながら言い放った言葉に、周囲の喧騒はピタリと止む。正確には『言葉を封じ』こめたのだ。
「そして、言い回しがクドイ…………言いたいのなら言え。『篠ノ之箒の好き勝手が気に入らないからIS学園から去れ』とな」
「なっ!?」
「そして私も言わせてもらおう。気に入らないなら立会いでもしようか? 訓練機同士で戦っても私は構わないぞ。負けるつもりなど毛頭無いがな」
包み隠さない本心から嘲る様な言葉と、完全に目の前の人間達を小馬鹿にしているような口元の笑みに、ザワザワと取り巻きの女生徒達も殺気立ち始める。
「ちょっとっ!!」
「いくら篠ノ之束の妹だからって、調子に乗らないでよ!?」
「しかも自分の専用機も無しに…」
「調子になど乗っていない………私が言っているのは純然たる事実………それにな、無関係の人間まで巻き込んで私の陰口を叩いているお前達如きに負けるなど、防人としての覚悟を決めた、この『篠ノ之箒』自身が決して許さん」
のほほんにまで向けた悪意の言葉に、表面上は冷静な表情をしていた箒だったが、どうやら内面ではすでに怒り狂い、今にも全員相手に大立ち回りをしようかという状態にまでキレていたのだ。
そして間に挟まれたのほほんが、必死に両者を落ち着かせようとした時だった。
「こんな時間に何をしている、お前達」
決して大きな声ではないが、よく通る低い男の声に、全員がそちらの方に注目する。
「あ、なっちー!?」
正面ロビーの光に映し出されたその姿………2m近い巨体に、角刈りという堅いイメージをさせた髪形、彫りの深い顔に厳しい眼差し、薄く汚れた白い作業着に包まれた筋肉質な体型、右手に持った書類の束………女子の人口が圧倒的多いIS学園において、異質極まる30代後半の男性の登場に、全員が先ほどとは別の意味で騒ぎ出しそうになるが、のほほんは彼の姿を見かけるなり、一目散に駆け寄る。
「なっちー!! あの………」
正面まで駆け寄ったのほほんに、作業着の男は表情を一切崩すことなく、右手に持った書類の束で軽く彼女の頭を小突いたのだった。
「イタッ!?」
「『奈良橋先生』だ、布仏」
そのやり取りを聞いた女生徒の一人が、ようやくその男性の正体に気がつき、小声で話し出す。
「整備科の主任教師の奈良橋先生よ………普段は整備室に篭もり気味だから、あんまり表出てこないけど」
「えっ!? あれがっ!!」
「男っていうのは聞いてたけど………」
まるで珍しい動物を見つけたかのように小声で話をしだす女生徒達を尻目に、奈良橋は書類をのほほんに手渡すと、踵を返して背を向けた。
「私が寮内に入るといささか面倒になりそうなので、その書類を織斑先生に渡しておいてくれ、布仏。奈良橋からだと言えばわかるはずだ」
「は、はい! わかりました~」
「後それと………こんな時間に何を騒いでいるんだ、お前達………何か問題があったのなら、織斑先生に来てもらって事情を聞いてもらうことになるが…」
『あ、いえ! 失礼します!!!』
流石にそれはまずいと感じたのか、蜘蛛の子を散らすように去っていく女生徒達………去り際に一度だけ箒を睨み付けるが、箒も負けじと睨み返し、険悪なムードは解消されることはなかった。
そんな様子にさして興味もなくなったのか、そのまま歩いてこの場を去っていく奈良橋の背中を見送っていたのほほんは、振り返り、箒に話しかける。
「………しののん」
心配そうに箒を見つめるのほほんであったが、そんな彼女に一瞥もくれず、箒は鞄を持って歩き出した。
「しののん!」
「………来るな、布仏!」
「!?」
後を追ってこようとするのほほんを鋭い声で止めると、彼女は振り返り、冷めた表情で告げる。
「すまない………私は、もうお前の友ではいられない」
「しのの………ほーちゃん…」
「………だから、私に気安く話しかけてくるな」
そして再び、歩み始めると、今度は足を止めることなく、箒の姿は寮の中に消えていく。
夜の闇の中で、一人残されたのほほんは、足元に転がるホウキを見ながら、唇をかみ締めた。
「どうして、こんな………いやだ………」
ホウキにポツポツと涙が流れ落ちる………。
「やだよ………やだよ…かんちゃん……ほーちゃん」
搾り出すように漏れた嗚咽………行き場を失ってしまった『大切な絆』を、受け止めてくれるはずの幼馴染も、友達ももういない。
一人、呆然と泣き続けるのほほん………だが、運命は、まだそんな彼女を見捨てることはなかった。
「の、のほほんさん?」
「!?」
流された涙を拭う事もなく、上げた顔の先には………。
「ど、どうしたの? 泣いてんのか?」
「………おりむー!!」
顔のあちこちに絆創膏を貼り付けた、織斑一夏の姿があった………。
箒ちゃん、まさに一人修羅の道に入ってしまった………
皆から背を向け、あえて孤独になろうとする彼女を、果たして一夏は救えるのだろうか?
てか、普通にのほほんさんヒロイン、箒がヒーローでもいい気が………一夏の席はどこだ?w
と、そして登場した新キャラ!
そう、おっさんだ!!
おっさんだ!!(大事なので二回言った)
ISに足りない成分第一位のオッサン成分を、たっぷりと含んだオッサンの登場は、物語にどういう風な影響を及ぼすのだろうか?
ん? おっさんの需要がない?
フゥ太の趣味だよ!! コンチキショー!!(怒)