IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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皆さん、新年明けましておめでとうございます!

年末年始と大忙しだっために更新ができず、本当に申し訳ありません。しかも更新しても内容はちょっとグダグダ気味……ままならないな、色々と(汗


ということで、新年一発目としてはアレかもしれませんが、それでも載せないと話が進まない2014年第一話

では、お楽しみください


前途多難

 

 

 

 

 

「ちきしょう………」

 

 顔中に絆創膏を貼り付けた一夏は、自動販売機でコーラを購入し、その足で部屋に戻ることはせず、ブラブラと寮内を練り歩いていた。

 単純に、寝るにはまだ早い時間帯だし、なによりも昼間の特訓の結果、ツバメ相手に記念するべき50敗を記録し、そのことを知った陽太と鈴が『ブハッ! キャハハハハッ!! 流石に同じ相手に50回も負けるなんて大恥よ!』『おまー如き仮免四流が、空戦の達人であるツバメ先生に敵う筈なかろう。ヒヨコから出直せ』など好き放題言われ、逆ギレして大喧嘩したため、頭にきて寝るところではないのだ………しかも、一対二であっためにボロ負けしたし………。

 まあその後、鈴は調子に乗りすぎだとシャルとラウラに叱られ、陽太も『対オーガコア部隊の書類仕事+補習代わりのレポート』というダブルコンボを二人の監視の下に作業させられているのは、せめてもの意趣返しになってはいるが、それでもやはり一度湧き上がった怒りは中々収まろうとしない。

 そんなこんなで、気分転換と頭を冷やすついでに夜風に当たるか、と外に出ようとロビーした時、正面から怒り心頭の女子の集団と出くわしてしまう。

 

「なに、あの態度!?」

「ホント、調子に乗り過ぎよ!!」

「明日から、どうしてやろうか!?」

 

 そのあまりの怒り具合に、思わず声を書けることなく通路の脇に身を隠してやり過ごす。女子達が通り過ぎたのを確認した後、改めて身を乗り出して、一夏は女子たちの怒りのオーラに首を傾げるのだった。

 

「なんだ、ありゃ?」

 

 意味がわからないよ、と首を傾げながらジュースの蓋を開け、外に出た一夏だったが、その時、気持ちいい夜風に気分を和らげるより先に、夜の闇の中で、一人俯きながらしゃっくりを上げる少女を見かけ、声をかけた。

 

「の、のほほんさん?」

 

 制服の改造が許されているとはいえ、どうしてよりにもよって着ぐるみなのか? と常日頃疑問に思っていた少女が、普段の温厚かつ穏やかな表情など何処にもなく、ダブダブの袖で必死に涙を拭う、親から逸れてしまった幼女のような弱々しさだった。

 とてもただ事とは思えない様子に、のほほんに走って駆け寄る一夏は、途中で出くわした女子の集団のことを思い出し、彼女に問いただす。

 

「さっきいた、女の子達に何か言われたのかよ?」

「………ううん」

 

 だが、のほほんはそのことについては首を横に振って否定する。確かにあの女子達には良い感情を持てはしないが、それも仕方ないといえば仕方ない。彼女達は何も知らないのだから………。

 

「じゃあ、どうして泣いてんだよ?」

「………」

 

 箒と仲違いしてしまったなど言える訳もなく、答えられずにのほほんは沈黙してしまう。

 

「(それに、本当のところは………仲違いじゃないし)」

 

 届かなかった。

 たった一人で、今も必死になって戦っている友達に、自分の言葉は届かなかった。内心そのことに強いショックを受けていたのほほんだったが、同時に、今、目の前に来てくれた人物を見た瞬間、仄かに希望の光が差し込んできたような錯覚を覚える。

 

「おりむー………お願い、ほーちゃんを助けて!!」

「!?」

 

 自分だけではもう、彼女を助けることはできない。そのことを自覚したのほほんは、迷うことなく目の前にいる彼に、助けを求める。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「なるほどな………」

「箒………そんなことがあったんだね」

 

 涙目で箒を助けてほしいと言われた一夏は、その尋常ではない様子と、のほほんの瞳に宿っていた強い意志を感じ取ったのか、本腰を入れて考えようと、一夏の中で頼りになる『二人』の元に、のほほんと共に赴き、箒の過去と現在の話を一緒に聞き終えた。

 

「シャル、ラウラ………」

 

 震える拳を握り締めながら、一夏は部屋の主であるシャルとラウラの方を見る。部屋着に着替えた二人は、当初こそのほほんを連れた一夏の様子に戸惑っていたが、二人の話を聞き、快く協力を承諾してくれた。

 

「私達に出来る事なら、なんでもするよ」

「ああ。篠ノ之には幾度か借りがあるしな」

 

 その言葉に、一夏だけではなくのほほんも表情を明るくしてくれる。

 

「のほほんさん………話を聞いて、俺がいない間に箒のやつがどんな生活送ってたのか、わかったよ」

 

 大事な幼馴染が辿った、出会い、生活、そして復讐の始まり………以前の一夏なら、理解が及ばなかったかもしれないが、奇しくもマリア・フジオカの姿を思い出し、彼は今の箒の気持ちを察することが出来たのだった。

 大切だから、本当に大切だから、理屈だけでは止まらない事だってある………だけど、そんな中でも箒は自分達を何度か助けてくれた。それは箒の中にちゃんと、暖かな誰かを思いやれる心があると言う何よりの証明になっている。

 

「箒は俺達を助けてくれた。だったら今度は俺の番だっ!」

 

 一人では出来ないことも、みんなと入ればやり遂げることができる。箒がどれほど拒絶しようと、想いはきっと届くと信じて、一夏は彼女を助けたいと、心のそこから願う。

 

「ほう………そいつはカッコイイな、一夏君よ」

 

 そんな決意を固めた一同の中を、不機嫌極まりない少年の声が響く………そして、全員の視線が部屋の隅に集中した。

 

「だけどな、まず先に・」

「余所見しない!!」

「腕を動かすことに意識を集中しろ!」

 

 ベッドに座る一同に背を向け、床の上に置かれたみかんの段ボール箱の前に正座しながら、書類と格闘する陽太が、茶々を入れようとした瞬間、鋭いシャルとラウラの叱責がそれを制する。

 

「もう今日はいいだろうが!! だから・」

「そう言って逃げようとしても駄目なんだからね!」

「報告書の作成が済んだら、補習分のレポートの作成だ! 今夜は寝かさんと思え!!」

 

 貯めに貯めたレポートやら報告書やらのツケを支払うため、現在全能力を書類作成に費やすことに集中させられている陽太が、振り返って文句を言おうとするが、それすらも許さないシャルとラウラの剣幕に、それ以上陽太は文句を言わずに黙り込んでしまう………顔を真っ赤にしてキングス〇イムのように膨らませながら、必死に無言の全力抗議してはいるが………。

 

「話を戻そう」

「そうだな」

 

 一通り陽太の介入を封じたシャルとラウラは、再び視線を一夏達に戻す。

 

「布仏さんの話を聞いて思ったのは、やっぱり箒は、大部分を自分の責任だって感じてるんだよね?」

「ああ、それは俺も感じた………あいつ、昔から超がつく真面目でさ………だからかな、友達とかあんまりいなくて……」

「うん………ほーちゃんはかんちゃんの事、心の底から親友だと思ってたから………かんちゃんを助けられなかったことを、ずっと責めてるんだ」

 

 箒のことを知っている人間としては、彼女の持つ生来の長所が悪い意味で暴走している現状と、それをどう打開するのかということに、頭を抱えてしまう。なんせ、ただお前が悪くないと言っても、余計に頑なに返してくる事は眼に見えているのだから。

 

「なあなr」

「書類っ!」

 

 会話の中に必死に割って入ろうとする陽太だったが、ラウラに瞬殺され、ついにみかんの段ボール箱に頬擦りしながら『ダンボール箱と書類だけが俺の友達だ~』とか言い出す始末………だが、そんな陽太を見ながら、シャルは一人考える。

 

「(今の箒の姿………この間までの陽太にそっくりだ)」

 

 ひょっとすれば、そんな陽太だからこそ、今の箒に対して適切なアドバイスが出来るのではないのだろうか?

 そう考えたシャルは、ダンボール箱に頬擦りしつづける幼馴染に問いかける。

 

「ねえ、陽太………聞いてもいい?」

「!?」

 

 シャルに名を呼ばれた陽太の隠された耳と尻尾が高速で揺れた………ように見えた三人は、黙ってその光景を見守ってみる。

 

「ん?………うん? なんだね? 見ての通り俺は今、溜りに溜まった書類の整理に忙しいのだが?」

「うん、それは全てにおいて陽太が悪いから………陽太なら、こんな時にどうする?」

「ッ!?」

 

 サラッとシャルに切り捨てられつつも、陽太は頬をぴくぴくさせながらなんとか自分を保って話を続ける。

 

「(軽く終わられた!?)お、俺ならな………」

 

 内心でショックを受けたけど、プライドの高さから何とか表に出さず(自分ではそう思っている)に、陽太は右手で前髪をサラッと上げ、無駄にもったいぶった態度で言葉を続けた。

 

「言葉では止まらない。態度で出さないといけない………つまりは、だ」

「つまり?」

 

 一呼吸置き、彼は高々と言い放った………意気揚々としたドヤッ顔で………。

 

「ゲンコツでブン殴って自分のやっていることをわからせる!! これに限るッ!! なぁに、一夏は実力的に無理でも、俺ならものの5秒あれば可能だ。という訳で俺に任せr「うん、ありがとうね………じゃあ、早速作戦を考えないとね」

「ああ、篠ノ之の実力は、私の目から見ても貴重だ」

「そういう言い方するなよラウラ………本当は心配してくれてるんだろ?」

「そ、それはっ!」

「ほーちゃんのこと心配してくれてありがとうね、らうっち~」

 

 ドヤッ顔のまま硬直している陽太を無視し、四人が一致団結して箒の凍てついた心を何とか溶かそうと作戦を練り始める………が、一人取り残された奴が、ちょっとだけ泣きそうな表情で振り返ってシャルに詰め寄る。

 

「自分達から聞いといて、一方的に仲間外れとか、酷くないですかシャルロットさん!?」

「そうだね………ゴメンナサイ、ジブンノシゴトニモドッテクダサイ」

「うおっ!? なんで今日は、何時にも増して扱われ方が雑イッ!?」

「とりあえず陽太………物理的に解らせようとか、この間のシャルの件をまったく反省していないお前が悪い」

「こ、ココでソレを蒸し返すの!?」

「よーよー………いい加減さ、成長しようよ」

「追い討ちに容赦がない!!」

「成長しろよ、陽太っ!」

「テメェーだけには言われたくねぇーよ!」

 

 最後の一夏にだけは何とか言い返した陽太だったが、それ以上自分に構ってこない四人に怒り、『もう、ゼッテェー手伝ってやらねぇーからな!』と捨て台詞を吐いて、背中を向けて書類に一人立ち向かうのだった。

 

 

 

 

「あ、あの………ちょっとだけコレ、マジで手伝ってよ」

 

 

 

 

 後になって頼んでみたが、相手にされなかったのは言うまでもないが………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 そんなこんなで、日が明けたあくる朝。

 結局は報告書やらレポートやらで徹夜になってしまった陽太は、目の下にクマを作りながら、重い身体を引きずりつつ、千鳥足で職員室へと向かう。

 

「ね、眠い………とりあえず、今日はコレ出したら夕方まで屋上で昼寝だ」

 

 そんなことをしているからレポートをしないといけないのだが、まったく反省した様子がない陽太は、勢い良く職員室の扉を開くと、大声で叫んだ。

 

「ウルァッ! 恋人いない歴が年齢と同じ陰険教師!! 持ってきてやっr」

 

 ガスッ! という音と共に高速で飛来した、出席簿の角が陽太の額に突き刺さり、地面にひっくり返りながら悶どりのた打ち回る。

 

「誰が陰険だと小僧?」

 

 無論、ここまで容赦のないツッコミをしたのは千冬以外はいないのだが、それにしてもちょっと手荒い。たぶん陰険よりも前に言った言葉が、ひそかに禁止ワードになっているのだろう。

 

「ぐおおおおおっ! 額がマジで割れたぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「アロン〇ルファぐらい貸してやろう」

「ひ、人を安物のプラモと一緒にグヘッ!?」

 

 地面に転がる陽太のほっぺたをヒールで踏みつけ減らず口を封じた千冬は、地面に錯乱した書類を拾い上げると、そのまま自分の席へと戻ってしまう。

 途中、職員室に入ってきた真耶が、いまだに寝転がって復帰しない陽太に一言、『そんな所で寝ると他の人の邪魔になりますよ』と言い放てたのは、すでに彼と出会って数ヶ月の間に、陽太がいらんことを口走って千冬に殴られるという図式が、彼女の中でも日常となりつつある証拠でもあったのだろうか………?

 

 千冬が最後まで書類を読み終え、『まあ、今のお前に上等なものなど望んでいないから、これでOKにしておいてやろう』と言った頃、ようやく痛みから復帰した陽太が、涼しげな顔で何かの書類を纏めている千冬に詰め寄った。

 

「てめぇ………コレが見知らぬ男なら直ちに瞬殺モノだぞ?」

「では女に生まれてきたことを感謝しよう………コレが次の分だ」

 

 なんてことはない。サラっと追加分の書類の束を渡す千冬に、陽太が床を拳で連打しながら再びブチギレる。

 

「いい加減にしろよ!! なんでこんなに書類あるんだよ!? ふざけんなっ!!」

「ふざけてなどいない。お前がサボっていたツケが回ってきているだけの話だ。コレに懲りたら提出期限は必ず守れ」

「それで、シャル達は箒にかまけて、俺はまた一人で孤独にミカンの段ボール箱とお友達になってしまうのか!? 犬猫でも安らぎの場所があるのに、俺にはそれすらも与えられないのか!?」

 

 ヤダヤダヤダッ! と地面に転がりながら幼児のように手足をジタバタさせる陽太を心底冷めた目で見下ろす千冬と真耶………コイツ、面倒クセェーと溜息を漏らすが、千冬は陽太の発言の中に気になるキーワードを見つけた。

 

「箒にデュノア達が感けているとはどういうことだ?」

「きこえな~~い! 私の耳は今日からストライキ~~!!」

 

 面倒クセェー上にウゼェーという二重のダメ属性を千冬の中で付加されたことに気がつかない陽太に、彼女は溜息をつきながら、とある提案をする。

 

「その書類の束、二割負けてやろう」

「……………」

 

 床に転がりながら口笛を吹いて拗ねた陽太だったが、その言葉に一瞬だけ沈黙し、横目で千冬を見ながらポツリと言い放つ。

 

「………四割」

「ふざけるな」

「三割五分」

「三割だ。これ以上は下げんぞ?」

 

 値切りの交渉に見事成功して嬉しいのか、急に立ち上がり千冬に敬礼してハキハキとした態度で報告しようとする。

 

「イエス、マムッ! 一から説明させていただきます!!」

「とりあえず場所を移すぞ?」

 

 話を聞くために場所を移そうとしたのだったが、この調子のよい返事と態度を見た千冬は、隣で、自分が対オーガコア部隊を長期不在するための引継ぎ作業に没頭しながら、『ああっ! これってどう書くんでしたっけ? あっ!? 後これも!!』とプチパニックを起こしている真耶と両方見比べ、先ほどとは違う重い溜息をついた。

 

「(私は…………こいつらを信じて任せていいのですよね、先生?)」

 

 無論、亡き恩師が心の中で返事をしてくれる事もなかったのだった………。

 

 

「………なるほど」

「生真面目な子が迷うパターンだね、それは」

 

 場所を移した先である保健室において、校医であり、すっかり対オーガコアチームの相談役となってしまっているカールと共に、昨晩起こったであろう話を聞いた千冬は、自分の親友である束の妹の箒に起こっている事態を聞き、表情を曇らせる。

 

「(起こるべくして起こった事態なのか………束の妹だけあって、人付き合いが苦手なのにも係わらず、思い入れの強い相手だと暴走しがちになることは察してしかるべきだったが)」

 

 分け隔てなく誰とでも付き合えるわけではなく、それであるがゆえに少ない人との繋がりに強い執着を見せる傾向がある人物像を知っているだけに、箒へのフォローが足りなかったと反省しようとする千冬だったが、明らかに表情を変えた彼女に対して、陽太は涼しげな顔で話しかけた。

 

「教師は所詮教師だ。四六時中誰かに貼り付けねぇーだろ? ましてや生徒個人の交友関係にまで口出ししてくんなよ、うっとおしい」

「………陽太」

「私も彼の意見に賛成だ。君は少し背負い込みすぎだよ? 信じて委ねるのではなかったのかね?」

 

 口の悪いながらも千冬に非はないと言ってくる陽太と、自分のなんでも一人で考えて結論を出そうとすることは間違いだと指摘するカールの二人に、千冬は頼もしさと信頼感を改めて覚え、そして微笑みながらコーヒーを啜った。

 そしてそんな千冬と陽太を見ながら、カールは手元の書類にサインをしつつ、ポツリと独り言のように漏らす。

 

「だがしかしだ。この学園にはどうしてこう………真面目なのに人の話を聞く余裕がない人間が多いのかね? どこかの重症患者や新米隊長さん筆頭に」

「「………」」

 

 校医である自分の仕事を増やしてくれる、とボヤキながら振り返るカールを睨み付ける師弟二人に、思わず苦笑してしまう。

 

「はい、陽太君」

「ん?」

 

 カールは何気なく陽太に書類の束を手渡す。それをめくりながら、なんじゃこりゃ?と首を傾げた。

 

「こいつは………」

「君達のISの予備パーツの部品発注書だ。量産機なんて物があるとはいえ、なんせISは基本、一品物が主流だからね。ISが損傷すれば、その損傷した部分を外して同じパーツと取り替えないといけない。これはそのパーツを作るための部品発注所だ」

「そんなもん………自己修復があるだろ?」

 

 陽太が首をかしげながら、さも当然のようにカールに質問し返す。

 『自己修復』………兵器としては異例の能力とも言える、破損した部分を自分で修復する能力を、全てのISが有していて、特にオーガコア搭載機にもなれば、戦闘中の短時間で修復してしまうものもザラにいるために、最優先で念頭に置くべき能力ともいえるのだが………。

 だが、そんな陽太の質問に、カールは首を横に振りながら、残念そうに告げた。

 

「残念なことに、君達のISはカスタム化が激しい。よって自己修復機能を持ってしても、通常機の数倍の時間がかかってしまう。それにISは完全メンテナンスフリーというわけじゃないことは知っているだろう? 鳳君のISなんかはまさにその例だ。あの程度の傷であるにも拘らず、本国から技師を呼んで修理と調整を行わないといけなかったじゃないか?」

「あ”っ!」

 

 そういえばここ数日、鈴が練習にも顔を出さずに、修理と調整に追われていたことを思い出し、頭を抱える。流石に何かあるたびに、いちいち技師を呼んであれよこれよと修理を頼むなどという面倒な真似をしたくない陽太は、即座に問いただす。

 

「………なんという面倒臭さなんだよオイ。てか、この学園の人間で修理できないのか?」

 

 戦闘に出て機体が損傷してしまうことなどあって当然であり、そのあたりのバックアップも出来ていると勝手に思い込んでいた陽太が、その辺りのことは当然してあるんだろうなとジト目で千冬を見た。

 

「……………」

 

 一瞬だけ陽太と目を合わせた、千冬だったが………徐々に視線を明後日の方向に向けて逸らしてまう。これには当然のように陽太が怒った。

 

「目線外すな! てか、マジ使えねぇっーーーー!! アレもコレもソレもダレも足りないとかどういうことなんだよ!?」

「………いや、これはだな」

「あぁぁぁぁっーー!! もういいっ!! もういいですっ! わかったよっ! アンタ、やり手に見せておいて、実はポンコツ指揮官だろう!?」

「!? キサマァッ! 言わせておけば!!」

 

 『仮にも全てを教わった師匠に向かってその口の利き方は何だ!?』『だからどうしたこのヘッポコ師匠!?』と保健室の中で取っ組み合いながらマジギレして叫びあう師弟を冷めた視線で眺めつつ、カールは手元の書類を書き込みながら、コーヒーを飲み干す。

 

「(暴れるなら外でやってもらいたいんだが)君達のカスタムISを整備できる人間ともなると、そうそう多くはない………この学園では奈良橋先生ぐらいだろうね」

「にゃ、にゃにゃはしぃ?」

 

 放って置くと永遠に言い争いを続けそうな二人に、いい加減うんざりきたのか、カールは解決策とも言える人間の名前を口にする。千冬に頬っぺたをひねり上げられながらも、その言葉に反応した陽太が聞き返すとカールは、カルテに目を通しながら答える。

 

「整備科の主任教師の奈良橋先生だよ。学園でも少ない男の先生でね………基本に誠実且つ丁寧な整備の仕方をされると、生徒の子達にも評判だよ。それにこの学園に勤める前は日本有数のIS開発室の『倉持技研』にも出向されていたそうで、なんでも元は航空自衛隊の実験開発を行っていたそうだ。腕は確かだと思うよ?」

「じゃあ、そいつに頼めば!?」

 

 そんな人間がいるなら、ぜひとも自分達のISを見てもらおう。うんそうしよう。音速で決定した陽太が立ち上がったが、それを堂々と真横からへし折る者がいた。

 

「駄目だな。既に断られた」

「嘘んっ!?」

 

 千冬が頬を掻きながら、微妙に冷や汗を垂らしながら何かを思い出すように呟く。

 

「奈良橋先生については、当初、お前がこの学園に来る前から整備士として動いてくれないかと打診していたのだが、見事に断られた」

「なんでだよ!?」

「お前達学生を前線に出す私の理念を受け入れられない………とのことだ。元自衛隊員としても、一人の大人としても、子供に戦わせるのを了承しかねるとな……返す言葉もない」

 

 教師が学生の身の安全を守る。当然ともいえるその正論を前に、千冬はそれ以上の反論も理屈も言うことなく閉口してしまったことを思い出し、今日何度目かのため息をつく。

 目の前にこれから起ころうとしている激戦を前に、足りていない物が多すぎる。戦闘要員だけは何とか間に合いそうだが、肝心な練度が心許ない。バックアップのための人間も自分が抜ければ真耶とカールのみ、しかも生身の人間はともかく、ISの整備をするには設備があれども、行うための人間がいない。劇的に戦闘能力が向上した反動で、その分複雑な内部構造とプログラムで動く対オーガコア用ISを整備するには学生では力不足なのだ。これを整備、修理するには高度な技術を持っていて、かつ国家の縛りが少ない人物でなくてはない。一応の出向という体裁は整えているが、『他国の国家機関の手先が自国のISをいじるなど何事か!?』と言ってこないとも限らない。そうでなくても、政府やIS委員会の一部においても、この対オーガコア用部隊を『合法的テロリズム』などと言う者達もおり、そちらにも気を配らないといけなかった。

 これでは陽太が怒るのも無理はない。しかもこれから自分は長期間抜けようとしている。

 

「………カール、陽太、やはり私の・」

「ヤブ医者先生。その奈良橋とかいう先公どこいんだ?」

「今の時間帯ならば整備室でいつも通り練習機の点検をされているのかもしれないな………だが、それよりも先に私に対しての呼び名について、ここで小一時間ほど語り合おう。ああ、私は怒ってはいないよ。俗に言うところの『ムカついて』いるだけだ」

「サンキュー!!」

 

 聞くや否や、カールの小言を華麗に総無視してすっ飛んでいく陽太に、先に無視された千冬はというと、怒りが沸き立つこともなく呆然と立ち尽くしてしまう。事態についていけないそんな千冬を見兼ねたのか、カールは怒り心頭で散らかった保健室を片付けながら、語りだした。

 

「ないことを嘆いても仕方ない。君もわかっているだろう?」

「あ、いや………そうだが」

「今はとにかくどんな小さいことでもまず動く。それがいずれ大きな突破口へと繋がる………あれは多分知らずにやっているんだろうが、彼は行動で皆を率いようとしている」

「カール………」

 

 散らかった書類を整えながら、カールは口元で軽く微笑んでみせ、ここ数ヶ月の間で彼が見てきた少年は、合いも変わらずハチャメチャな行動の数々をしでかすが、その内容が少しづつ変化してきているようで、もう少し落ち着きというものを持ってほしいという小さな要望もあるが、その本音は、彼の成長の在り方が嬉しく思っていた。

 

「君が期待した通り、あれで何故だか見込んでしまいたくなる背中をするようになったね、彼?」

 

 そんな同僚の言葉に、千冬も知らずの内に口元に笑みを浮かべながら、散らかった保健室を片付けにかかる。

 

「手伝わせてもらう」

「当然では? あとそれと………」

「?」

「私は断じてヤブ医者ではないからね?」

 

 意外に自分の評価を気にする同僚だったのかと、新しい一面に違った笑がこみ上げてきたのは、また別の話だったが………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 休み時間のA組の教室において、女子生徒達がそれぞれグループを作りながらそれぞれ年相応の話に興じる中、そんな輪には一切興味を示さず、日本政府に手渡されたオーガコアの出現ポイントが描かれた用紙と近隣の地図とを両方眺めながら、敵の出現パターンを知ろうと躍起になっていた。

 自分が失敗すれば、被害が出てしまう………それだけはなんとしても食い止めなければならない。

 だからこそ、その為には周囲にも協力してもらう………という思考にならずに、自分を更に追い込むような考えをしてしまうのが、今の箒なのだった。

 

「ほー………じゃなかった、しののん?」

「よっ! 箒っ!」

 

 そんな箒に、のほほんと一夏、二人の親友と幼馴染が声をかける。見ればシャルとラウラが心配そうにその様子を見ていた。無論、今の箒の状況を変えるため、何よりも今の彼女を救うためである。

 

「……………」

 

 だが、二人の言葉にも箒は一切の反応を示さず、手元のマップにひたすら目を走らせるのみ、取り付く島もない。だがこの程度のことで引き下がってもいられない。

 

「なあ、箒? さっきから何見てんだ?」

「あ、ひょっとして、しののん一人でどこか美味しいもの食べようとか、考えてるの~?」

「……………」

 

 またしても無言で返される。だが一瞬だけチラッと視線だけはコチラに向けたので、こちらに気がついていないということはない………と思うと、強く持ち直した一夏が次なるアクションを起こす………それが引き金になるとは知らずに。

 

「なあっ、実はさ、ISのことでちょっと教えてほしいことが………」

 

 何気なく、本当に何気なく箒の肩に手を置こうとした一夏だったが、その手を一瞬で鋭い目付きになった箒が、鋭い音を上げながら手を弾いてしまう。

 

「!?」

「私にこれ以上構うな、一夏、布仏」

 

 その様子にクラスの女子達が驚きながら、振り返り、息を呑む。

 

「痛ってぇ………いや、箒、あのな…」

 

 結構痛む手をプラプラと振りながら、笑顔で尚も話しかけようとした一夏だったが、箒はそんな一夏に厳しい言葉を投げつけた。

 

「大方、布仏に何か言われたから話しかけてきたのだろうが、私には不要だ。そして一夏………お前も戦士(防人)となったのならば、覚悟を決めろ」

「さ、さきもり? かくご?」

「下らない愛想笑いなど不要だといっているのだ」

 

 一夏に対してのその言葉に、教室中が一斉に殺気立つ。

 

「ちょっと、織斑君の幼馴染とか言われてくるくせに、何なのよその態度は!?」

「昨日といい、今日といい、貴女、何様?」

 

 周囲が一斉に箒を取り囲むように迫ってくる。その様子にどうしようかと戸惑う一夏とのほほん。頼みのシャルやラウラもどうしようかわからず、鼻歌交じりでお手洗いから戻ってきたセシリアにしてみれば、状況が掴めずに目が点であった。

 

「こ、これはどういうことですの?」

 

 何故か朝の穏やかな時間のはずなのに、自分が少し席から離れて戻ってきたら、いつの間にか戦場と化した教室の有様に、セシリアではなくても戸惑ってしまうだろう。

 

「………なるほど、ではこうすればいいのだな」

 

 そんな状況を動かしたのは、やはり箒であった。彼女はおもむろに立ち上がると、鞄に荷物をまとめ始める。

 

「な、何を?」

 

 戸惑う一夏を尻目に、箒は短時間で荷物をまとめると、その足で教室から出て行こうとしたのだ。

 

「待てよっ!?」

 

 流石にそんなことさせられないと、一夏は行かせられないと、教室の入り口に佇んでいるセシリアの横を通り過ぎようとした箒の左手を掴んで彼女を無理やり止まらせたのだった。箒は無言で振り返りながら一夏を睨み付け、力づくで引き剥がそうとするが、一夏の手にこめられた力は想像以上に強く、中々引き剥がせずにいた。

 

「待てよっ! 箒!! 話を聞いてくれ!?」

「私はお前と話すことなど何もない!」

「さっきから、理解(わか)んねぇーことだらけだ!! 防人とか覚悟とか!!」

「理解できないのならばそれでも構わんッ!!」

「だけどさッ!」

 

 一夏は無理やり手を引き剥がそうとする箒の手を放すと、急に離され一瞬だけ体が流れた箒の両肩に両手を置くと、彼女と目と目を合わせて、はっきりと言い放つ。

 

「箒が、一人で苦しんでるの………俺は嫌なんだ」

「!?」

「俺だけじゃない、のほほんさんだって嫌だ。一人で何でも背負い込んで、一人で傷ついて欲しいとか、誰もお前に望んでない」

「………一夏」

 

 一夏のその言葉に、一瞬だけ箒の中にあった『何か』が崩れかける。

 それは二年前、彼女がもう何も失うものかと心に誓ったあの日から、ずっと封じ込めてきた『何か』であり、それが今更になって鈍痛のように、心の中で響きだしたのだ。

 

「箒………のほほんさんから聞いた。お前、一人でオーガコアと戦ってるって………」

「………私は」

「一緒に戦おう。ここにはお前だけじゃない………一緒に戦ってくれる仲間がいる、陽太や千冬姉だっている………そんで、頼りないけど俺もいる。だからっ!!」

『くれぐれも無理はしないでね………』

 

 簪の見舞いに行ったときの、婦長の言葉が心の中で疼く。このまま一夏の手を取ってもいいのではないのだろうか? 一人ではないと言ってくれる、この暖かな場所にいてもいいのではないのだろうか? そんあ思いが湧き上がってくるが………。

 

 ―――血溜りの中で微笑む、親友の姿―――

 

「!?」

 

 それでも今の箒は拒絶するしかないのだった。

 一瞬だけ俯いた箒だったが、一夏の手を思いっきり跳ね飛ばすと、彼に背を向け、再び歩き出す。

 

「箒っ!!」

 

 尚も箒に声をかける一夏だったが、箒は振り返ることなく、彼にきっぱりと告げた。

 

「私は………お前を受け入れられない」

「!?」

「力を合わせ、一夏、お前と………お前達と共に戦うことなど、この篠ノ之箒が許せるはずがないのだからな」

 

 それだけ言い残すと、振り返ることなく、一夏の視界から去っていったのだった………。

 

 

 

 

 




一夏を主役にしようとしたら、やっぱり陽太が主役だったよというお話

戦闘員が揃っても、それだけでチームとしては機能できない。バックアップがいて、初めて全体が回れるよという感じです

と、さてさて、

次回、オッサンキャラの動向は?

陽太は会って何を言うのか?

そして箒さんは一人、何処を彷徨うのか?


だが、平和な日々が続くことを、悪鬼の魂はけっして許してはくれない

次回、お楽しみください
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