IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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長すぎるというお声を、感想でもプライベートでもいただきましたので、前後編に分けました!



※4月14日改稿


WHITE TWIN DRIVE IGNITION SECOND(後編)

 

 

 

 

 雀蜂型のオーガコア達の半数を駆逐しつつ、民間人を救出するという困難な作戦であったが、思っていたよりも流れはスムーズに運び、一夏としては少しだけ肩の力が抜ける思いであった。それもこれも自分達IS学園が民間人の救助をしている中、竜騎兵達が率先して敵の駆逐を引き受けた形になったため、被害が増えるのを最小限で抑えることができたのだ。

 

「こっちの方はこの人たちで最後だ!」

 

 一夏が腰の悪い老人の患者と付き添いの看護婦を避難させ、救助者の列の中に誘導していく。その周囲には、救助者たちの列を守るために、シールドビットを展開して護衛するセシリアが、少しばかり悔しそうな表情でオーガコアと竜騎兵達の戦いを眺めていた。

 

「いくら民間人の救助が第一優先とはいえ、よりにもよってこの方達に助けられるなんて………不覚ですわ」

 

 よりにもよって自分が、叩き潰して土下座させて這い蹲らして哀願させよう、と思っていた相手に助力されている状況に、いたくご立腹なセシリアだったが、その時、空中で敵機を撃破したフリューゲルと偶然目が合う。

 

「…………ハンッ!」

「まぁっ!?」

 

 思いっきり見下しながら鼻で笑い飛ばしたフリューゲルに、頬をピクピクとさせながら額に青筋を作ったが、それをなんとか押さえつけながら、逆に言葉で迎撃に入る。

 

「まあぁっ? なんという不遜な態度なんでしょうか? やっぱり発育がよろしくないと、その辺りの人間としての成長もよろしくないのでしょ~~~か?」

 

 おもいっきり聞こえるように言い放った。これにフリューゲルは、セシリア同様に頬をピクピクとさせ額に青筋を作りながら反応する。

 

「なんですって!?」

「あら、わたくし、別に貴女のことだとは言っておりませんのよ? ああ、でもこうやってライフルを構えていると肩が凝って仕方ありませんわ。なんせわたくし、胸の方も重くて、余計に肩に負担がかかってしまうものでして………貴女がうらやましいですわフリューゲルさん?」

「い、言うじゃない!? ちょ、ちょっと大きいからっていい気になりやがって!! 私だってね! そこの貧乳よりも大きいわよ!!」

 

 そしてフリューゲルが指差した先には………龍咆で敵機を狙っていた鈴がいたのだった。当然その言葉と指に反応して、鈴がブチキレた。

 

「どぅわれが貧乳だ!! このオカマ女!?」

「何よその言い方!?」

「私はバランスが良いだけだ!! そこの筋肉質みたいに全身硬そうなわけじゃないのよ!!」

 

 鈴が指差した先………敵機を貫いたスピアーが、彼女の言葉と指先に気がつき、猛然と抗議する。

 

「筋肉質とは何だ!? 私はちゃんと鍛えることでスタイルを維持しているだけだ!? その蒼いのみたいにデカ尻にならないようにな!?」

「うんまぁっ!? 人が気にしていることを!!」

 

 セシリアに何かが戻ってきたところで、他人が聞くといたく恥ずかしい会話をしている四人に向かって、唯一IS学園に混じって誘導の護衛をしていたリューリュクがボソッと言い放つ。

 

「これがホントのバカの空中戦で………わぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 セシリアの三連バルカンがリューリュクの足元を狙い撃つ。それを見たフリューゲルとスピアーは息の合った様子で、セシリアと鈴に向かって言い放った。

 

「普段はどうでもいいけどいなければいないで困る色々面倒臭いことを押し付ける相手のリューリュクの仇!!」

「討たせてもらう!!」

「死んでません!! ってか、私の役目ってそういうの!? 酷くないッ!?」

 

 ついにはリューリュクを含めた五人でギャアギャア言い合いを始め、避難している子供が指差しながら『アレなあに?』と親に尋ねている姿を見た一夏とシャルは非常に居た堪れない気持ちで一杯になる。どうでもいいから他所でやれと言いたいが、いないといないで困る上に、口論しながらでも敵を撃破しつつ民間人を真面目に守っているのは評価に値する。ついでに口のほうも真面目になってもらえるともっと評価は上がるのだが、それを口にしたら自分が槍玉に挙げられそうな気がした一夏が、まだ病院内に逃げ遅れた人がいないか見に行こうとした時だった。

 

「そこをどけぇぇぇぇぇぇっ!!」

「貴様の方こそ邪魔だと弁えろッ!!」

 

 激しい怒声同士と刀とビームサーベルを激突させあい、もつれ合いながら箒とマドカがこちらに向かってきたのだ。もっと正確に言うなら、マドカを無視して陽太とジークの戦いに割って入ろうとする箒を、マドカがこの先には行かせまいと進路を妨害し、よりにもよって人が溢れる方に突っ込んできたのだ。

 

「お前のような雑魚にかまっている暇はない!」

 

 一旦鍔迫り合いを後方に飛び退くことで止め、箒は両足のビームブレイドを展開し、地面に手をついて上下逆さになりながらも、独楽のように回転してマドカに向かって斬り掛かる。その変則的かつ独特な攻撃に、上手い対処手段が思い浮かばず、ビームサーベルを逆手に持ち替え、シールドと一緒に交互に弾いて防御に徹する。

 

「雑魚とは言ってくれる!!」

 

 進路を塞ぐという役割である以上、自分から攻撃を回避して道を空けるわけには行かない。何よりも自分のプライドを傷つける発言をされた上に、逃げに徹するなど彼女の自尊心が許しはしないのだ。

 

「火鳥陽太(本命)はジークに譲ろう。だが、それ以外はすべて私が貰い受ける!!」

 

 背中の八基のビットを切り離すと、ビームの波状攻撃で箒を撃墜しに掛かる。これには流石の箒も攻撃に専念することはできず、両手で地面から飛び上がると、両手に刀を持ち直し、地面に着地すると同時にマドカに向かって突撃する。マドカもまたビットを自分の周囲に浮遊させ、固定砲台のように連射して箒を攻撃する。

 

「やべえっ!!」

「マズイッ!」

「皆、伏せてッ!!」

 

 だが、マドカの放つビームは悉く箒が回避し、その流れ弾が民間人の列目掛けて飛来する。多数の悲鳴があがる中、一夏が雪片を構え、ラウラがAIRを展開し、シャルがマルチシールドのEシールドを発生させ、流れ弾を受け止めた。

 なんとか被害を出さずに済んだことに安堵した一夏だったが、すぐさま煮えたぎるような怒りが湧き上がり、睨みながら怒鳴りつけた。

 

 

「(もう少しで生身の人間に当たるかもしれなかったのに………)いい加減にしろよ、お前らッ!!」

 

 

 目の前で周囲を省みないで戦う二人に、もう少しで死人が出かけたにも拘らず、平気で戦いを続行し続ける二人に、一夏の怒りが爆発したのだ。

 

「!?………一夏」

 

 その声に箒はようやく辺りの状況を理解しその刃を止めるが、マドカはそんな一夏の足元にビームの一撃を放つと、逆に彼に向かって怒鳴り返したのだった。

 

「邪魔をするなッ!!」

 

 マドカの苛立ちと憎しみに似た怒りを孕んだ言葉に一瞬だけたじろぐ一夏に、彼女は続けて言い放つ。

 

「貴様から殺してやっても構わないのだぞ、織斑一夏!!」

「なんで俺の名前を………って、今はそんなことどうでもいい!! 周り見ろよ!? お前の攻撃でもう少しで死人が出たかもしれないんだぞ!?」

「捨てておけ! そんな蛆虫共など!!」

 

 マドカの予想を超える一言に一夏が凍り付く。

 

「………だ、誰が蛆虫だと?」

「ISもなく、武器もない、戦う意志を持たず、自分を守る術一つない………そんな蛆虫共などに気を回すほうがどうかしているのだ!!」

 

 マドカの言葉を聴いた周囲の人間から、ザワザワと非難の声が上がりだしそうになるが、マドカの激しい眼光で睨みつけられ、誰も彼女の発言を責めることができずにいた………IS学園を除いては。

 

「ふざけるなよッ!! ここにいる人達の、誰一人として、断じて蛆虫なんかじゃねぇー!!」

「いくらなんでも、自分を高く見過ぎよ!! アンタちょっと選民思想に染まりすぎてんじゃないの!?」

「ISを持つ、即ち力を持つとは、より高度な精神を持つということ………今の貴方にはISを纏う資格はありませんわ!!」

「我々は彼らを守るためにここにいる。お前の主義主張と論議するためではない………だが、虫唾は走る!」

 

 だが、一夏達の主張をマドカは鼻で笑い飛ばす。

 

「フンッ。所詮、有象無象の雑魚共め………だがな」

 

 そして、彼女の激しい怒りが今度は仲間にまで及んだのだった。

 

「フォルゴーレ! フリューゲル! スピアー! リューリュク!! お前ら、ジークの命令を忘れて何をしている!!」

「な、何って…………そりゃ、オーガコアと戦いながら………人命救助を」

 

 バツの悪そうな表情で最後のあたりはかなり小声になりながら話をするフリューゲルだったが、マドカはそんな彼女達を激しく叱責する。

 

「お前達まで何を言い出している!! 蛆虫など捨てて、早くコアを回収しろ!!」

「だ、ダメだよ!!」

 

 敵であるIS学園と群れてまで周囲を守ろうとするフリューゲル達の行いを、許し難い裏切りの行為だと思ったマドカの肩を掴んだフォルゴーレが、彼女を制止しようと必死に言葉をつむいだ。

 

「オーガコアは回収しないといけないけど、だからって他の人たちに迷惑をかけるなんて…」

「!?」

 

 その言葉を聴いた瞬間、目の色を変えたマドカが言葉もかけずにフォルゴーレを裏拳で殴り飛ばし、まともに一撃を受けて吹き飛びそうになったフォルゴーレを、一夏は病院の病棟に激突しそうになるのを寸でのところで受け止めたのだった。

 

「テメェ!! 自分の仲間になんてことを!!」

「コイツらなぞ、もはや仲間でもなんでもない!!」

 

 言われたフリューゲル達もショックではあったが、むしろその言葉を聴いていた一夏の方がショックを受けてしまい、表情を歪ませる。だがそんな一夏にフォルゴーレは左頬を腫らしながらも、笑顔で答える。

 

「だ、大丈夫だよ………ありがとう」

「お、おい! 無理に動くな!!」

 

 仲間のことを特に攻める様子も無く起き上がろうとするフォルゴーレの姿を見た一夏は、怒りよりも先に何故か悲しみが湧き立ち、彼女(マドカ)に祈るように問いかけた。

 

「………わかりあえないのか?」

「なに?」

 

 今までの互いの主張を否定しあう言葉ではない声に、マドカは思わず振り返ってしまう。

 

「………なあ……俺は竜騎兵(ドラグナー)達のこと、ホンの僅かな時間だけど一緒に戦えて、ちょっとだけ分かり合えた気がしたよ……」

「それが………どうした?」

「だからさ………俺達、分かり合えないのかな? 俺と………」

 

 腹の底から嫌なモノが湧き上がったものが暴れ出し始める。

 

「………お前で!」

「!!?」

 

 一夏の言葉が、引き金になる。

 

「……………」

 

 マドカの表情を覆っていたバイザーを彼女自身で投げ捨てると、血走った目と、怒りが支配した表情と、憎しみと苛立ちをを込めた言葉を、目の前の………自分と同じ『血』を引く『きょうだい』にぶつけた。

 

「ウルサイィッ!!」

 

 怒りのあまり裏返った声、そしてその言葉を発したのが、自分の姉と瓜二つの少女だったことに、一夏は驚愕する。

 

「分かり合えるものか!! ましてや、お前と私が!!」

「お、お前………千冬姉?」

「気に入らない、気に入らない、気に入らない、気に入らない、気に入らないぃぃぃっっ!!! わかってないことをペラペラ知った風に口にするお前がぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「!?」

 

 肩で息をしながら、全身で一夏を否定したマドカは、ライフルの銃口を向けてくる。一夏もまた黙って撃ち落とされるわけにはいかないとその場から飛び退き、射線から退避しようとした。

 

 それ故に一夏は思い知った。自分がこの場になにをしに来たのか、何と対峙していたのかということに………。

 

 ―――パジャマ姿で、ヨチヨチと頼りない足取りで泣きながら病院から出てくる幼い少女―――

 ―――そしてそんな少女を、悪魔の毒針で狙い撃とうとするオーガコア―――

 

 最悪なことに自分以外いまだ誰も気がついていない。しかも割って入るには絶望的な距離だ。烈空の射程距離ではオーガコアを仕留め切れない。

 絶望的な考えが一夏の脳裏を締め付け、そして言葉に変換して彼に叫ばしていた。

 

「誰かぁぁっ!! あの子を助けろぉぉぉ!!!」

 

「!?」

 

 その一夏の言葉に最初に気がついたのは、避難民の誘導を最優先に行っていたシャルだった。

 彼の言葉に驚きながら振り返った時、彼女はいち早くオーガコアの存在に気がつき、両手に銃を構えて発砲しようとしたが、寸での所で踏み止まる。

 

「!?………距離が近すぎる!!」

 

 少女とオーガコアとの距離が近すぎたのだ。もしそのまま発砲して敵機が爆発でもしようものなら間違いなく少女にも被害が及んでしまう。それでなくても一撃で仕留めきれずにオーガコアが暴れだしたら、真っ先に命を奪われるのは一番近くにいる者に決まっている。

 両手に持った銃器を投げ捨て、シャルは80口径リボルビングパイルバンカー『ネメシス』を振りかざして突撃する。

 

「間に合わない!?」

 

 だが、気が付くタイミングがあまりに遅すぎた。ほかの者たちにしても、シャルよりも後に気が付いたため、シャルと同じ理由でオーガコアを撃墜できず、接近を試みるが、とても誰もが間に合いそうにない。

 

 ―――怪しく光るオーガコアの眼―――

 

 まるで今のシャル達を嘲笑うかのように瞳を輝かせながら、オーガコアが幼女に向かって毒針を発射しようとする。

 

 ―――シャルの視界の脇に映る紅の影―――

 

「!?」

 

 そして、毒針が発射されると同時に、金属が砕ける甲高い音と………少女を抱えながら地面を転がる防人の姿をシャルは見て、思わず叫んだ。

 

「箒ィィッ!!!」

 

 右肩に数本の針が突き刺さりながらも、少女をしっかり抱きしめながら地面を転がっていく姿にシャルがブチギレた。

 

「女の子相手に、何てことするのっ!!」

 

 突進の威力を上乗せした80口径リボルビングパイルバンカー『ネメシス』が見事にオーガコアの左側面に突き刺さり、毒蜂の女王が苦悶の声を上げ、痛みでのた打ち回る。

 そこからシャルは、突き刺さった杭を支点に、素早く回転しながら体勢を入れ替え、地面に着地すると同時にパイルバンカーから、威力重視の62口径連装ショットガンと59口径重機関銃『デザート・フォックス』をフルバーストで連射して弾幕を形成し、この場所からオーガコアを少しでも後退させようとしたのだった。

 

「箒ッ!! 返事して、箒!!」

 

 オーガコアに視線をやりながら、箒に問いかけた自分の言葉に、僅かに箒が身体を動かして反応したのを一瞬だけ振り返って確認したシャルは、何としても二人を守ろうとする。そんなシャルに呼応したのか、銃弾を浴び続けるオーガコアの右側から突撃してきた一夏が、雪片を敵の装甲に突き立て、吠える。

 

「うおおおおおおおおっっっっっ!!!」

 

 この場面に細かな力技はいらない。全身全霊の力と出力全開のスラスターによって、自分の倍以上の体躯を持つオーガコアを、地面を削りながらこの場から引き剥がす。徐々に押されながら後退し続けるオーガコアだったが、いつまでもいいようにやられるわけにはいかないと自分に密着している一夏を刻み殺そうと、鋼鉄の顎を一夏の頭部に向けるが………。

 

「だから、もうちょっと考えなさいよ!!」

「貴様ッ! 相手の反撃を考えてもいないのか!!」

 

 一夏を叱りながらも、彼を助けるために飛来した鈴とスピアーが、双天牙月とへヴィーランスを突き刺し、一夏をフォローする。

 

『前衛の方々、離れてください!!』

 

 更に後方からの通信に前衛三人は申し合わせたかのように、獲物を敵から引き抜くと、三人同時でオーガコアを蹴り飛ばし、反動で自分達も素早く退く。前衛が安全圏に逃れたことを確認した、後衛グループである、セシリア、リューリュク、フォルゴーレ、そして獲物をアンチマテリアルライフルに持ち替えたシャルが、複数の方向からの同時斉射を行ったのだ。

 

「狙い撃ちます!」

「とりあえず、コレでもう終わって!」

「ごっつんこ!!」

「フィニッシュ!!」

 

 高出力レーザーと大口径炸裂弾、そして小型ミサイルの一斉掃射を食らって爆風の中に消えるオーガコア…………姿は見えないが、確かな呻き声を上げているのを全員が聞き、思わず溜息が漏れる。

 

 しかし、そんな一同の輪から少し離れた場所において、今にも命の灯火が消えようとしている者が、静かに自分の行動を思い返していた。

 

 

 

激情に任せたままマドカと激しく争っていた箒は、一夏の叫び声によって我を取り戻し、そして愕然とさせられる。

 

 ―――自分とマドカを、オーガコアを見るのと同じ目で、恐ろしい何かのように見てくる民間人達―――

 

 その怯えきった瞳が物語っていることは、今、自分は防人としてオーガコアから人々を守ってはいなかった。

 ただ、簪を半死半生にした者への憎しみだけで剣を振るっていた、ただそれだけだったことを彼女は人々の瞳から悟ったのだ。

 

 ―――私は………何をしていた?―――

 

 愕然としながら、手に持った刃を見つめ、箒は自問自答する。

 

 ―――防人としての役目………人々を守るための剣―――

 

 だが、自分は憎しみでしか刃を振るっていなかった。しかし、箒を愕然とさせていたのはそれだけではない。憎しみで戦った結果、半壊している病棟を見て、更に彼女はショックを受けたのだ。

 

 ―――簪のことも忘れて………私は何をしていた?―――

 ―――オーガコアのことも、簪のことも忘れて、私はただ、自分の恨みを晴らそうとしていたのか?―――

 ―――なんだ………それでは、まるで私は簪のことを口実にしていただけではないか?―――

 

 簪を傷つけられた怒りではない。

 簪を傷つけられ、それゆえに自分が再び傷ついてしまったことに『怒っていた』と、結局は我が身が一番可愛かったのだと自分で証明した………箒自身がそう感じ取ってしまったのだ。

 

 ―――ハハハッ………私は………なんて浅ましいんだろ?―――

 

 乾いた笑みを浮かべ、箒は刃に映った自分の姿を見続ける。

 

 なんて、なんて醜いんだろう?

 なんと恩知らずで、なんと自分勝手なのだろう?

 

 簪………更識 簪。ただ人形になりかけていたはずの自分に、心(いのち)を再び吹き込んでくれた、かけがいのない親友。

 新しい居場所を、信じてくれる人達を、守りたい世界を暮れた、大切な人を忘れて、自分は結局真っ先に自分を慰めるために、仇(ジーク)を追い求めていたのだ。

 

「わたしは………私は……」

 

 防人としても、剣としても、自分はこの上なく失格だ。と、絶望しかけた時、箒の瞳がオーガコアを捉える。

 

「……………」

 

 皮肉にも、彼女自身で否定しかけている二年間による戦闘によって、無意識でも敵の動きを追おうとする習性が染み付いての行動だった。

 

「……………」

 

 オーガコアを目の前にしても、すでに敵意も殺気も放つことはない。なぜなら篠ノ之 箒は、人を守る防人(つるぎ)に値する価値もない、ガラクタなのだから………だが、彼女自身がどれほど自分自身に絶望しても、鍛え上げた彼女の習性(わざ)は無意識に働いてしまう。

 

 そうやって、オーガコアの動きを見つめつづけた先に………見つけたのだった。

 

「グスッ……ふえっ………おとうさん」

 

 取り残されたのか、どこかに隠れていたのに今頃出てきたのか、パジャマ姿の幼い少女が病院内から出てきたのだ。

 しゃっくりを上げながらヨチヨチと歩いてくる少女だったが、そんな幼い少女相手だろうと、オーガコアは一切の手加減はしない。まるで、自分のテリトリーに侵入してきた者全てを刺し殺す雀蜂の習性のように………。

 

 オーガコアは少女に向けて毒針を向けている………対して、IS学園も亡国機業も、避難民達すらもそのことに気がついていない………一夏とマドカの言い争いに飲み込まれてしまっているのだ。

 

「……………」

 

 少女の危機にも、オーガコアの凶行にも、もう箒は何の感慨も湧きはしない………ハズだった。

 

 ―――箒の瞳に、簪の姿と少女の姿が重なる―――

 

「!?」

 

 気がついた時、箒は地を蹴って、少女の元に一目散に駆け寄る。

 

「(どうして、私は疾走(はし)っている?)」

 

 自分にはもう、そんな資格などないはずなのに。誰かを助ける資格などないはずなのに………どれほどそう自分に言っても、脚は止まらず、紅椿を目の前の少女の元に向かわせようとする。

 そんな箒に気がついたのか、オーガコアが毒針を少女へと発射し、同時に箒が地面を蹴った。

 

「?」

 

 何が起こったのかわからずにキョトンとする少女を抱きかかえたまま、箒は地面を転がる………右肩から激しい痛みと、自分の根本を削る何かが全身へと広がっていく感覚を感じながら、閉じていた瞳を開いて少女を見る。

 

「おねえーちゃん………大丈夫?」

 

 自分に何が起こったのかはわからないが、とりあえず箒が自分を救ってくれたことだけは理解できたのか、舌足らずに問いかけてくる幼女の頭を撫でながら、自分でも驚くほど優しい声で箒は彼女に話しかけた。

 

「大丈夫………私は、大丈夫」

 

 優しく頭を撫でながら、箒は全身の力が抜けていくこと、右肩の装甲に突き刺さった毒針から流れ込んでくる毒が、自分の命を容赦なく奪い取っていることを感じながら、静かに瞳を閉じた。

 

 ―――私は、結局何者にもなれないまま、死んでいくのか―――

 

 ―――剣にも、防人にもなれないまま―――

 

 ―――だが、最後にこの子を助けることができてよかった―――

 

 ―――ごめんな簪。私は結局お前の仇、取ることができなかった―――

 

「箒ッ!!」

「箒………これはっ!!」

 

 急速に弱っていく箒に駆け寄った一夏とシャルは、彼女の血色の変化に気がつき、大声で呼びかける。そしてシャルはあわててISのコンソールを操作して、バイタルを表示し、凍り付いた。

 

「脈拍、呼吸、体温が急速に低下………どういうことなの!?」

 

 ISの構造に詳しいシャルではあったが、人体の構造はあくまでも学生の領分を越えるものはもっていない。オーガコアの攻撃によって箒の身体に異常がでていることまで突き止められても、そこから先に、どうやった処置を取ったらいいのか見当もつかない。

 

「箒、箒ぃぃぃっ!!」

 

 そのシャルの隣で、箒の名前を必死に呼び続ける一夏は、血色の悪くなる一方でありながら、彼女の表情が何かの諦めを受け入れているかのように安らいでいることに、激しい危機感を覚えていた。

 

「駄目だッ! お前………簪のこと放って、一人死んじまう気なのかよ!?」

 

 それは駄目だ。彼女はベッドの上で戦っているというのに、箒が一人、先に全てを放り出して死んでしまうなど許容されるはずはない。

 

「そんなの………駄目だ」

 

 ―――嫌だ。そんなのは嫌だ………全部を背負った箒が、結局、何も報われないまま死ぬなんて、そんなのは絶対に嫌だ―――

 

「そんなこと………させない」

 

 ―――微かに、低い駆動音を鳴り響かせ始める両肩―――

 

 地面が僅かに盛り上がっていることに、一夏達はまだ気がついていなかった………。

 

 一夏とシャルが、箒に方に向かうと同時に、ラウラ、鈴、セシリアと竜騎兵、そしてマドカは互いに牽制をしながらオーガコアへと近づいていた。それは無論、コアの入手のためであり、そしてコアを手に入れる前までがIS学園と亡国機業の共同戦線であり、ココから先は早い者勝ちであったからだ。

 だが、オーガコアが完全に沈黙したとは限らない。獲物を前に早って足元を掬われることは面白くはない………その気持ちがあったがために、互いに「警戒」と「牽制」をしながらも、徐々に輪を詰めていたのだ。

 

 未だ、煙を上げるオーガコアに近寄り、鈴とスピアーが、代表するように武器の先で真っ黒にこげた外皮を突いてみる。

 

 だがそこにあったのは、脆く崩れ落ちる外皮と………。

 

「穴ッ!?」

 

 IS一機、すっぽり通れそうな巨大な穴だけが残されていたのだ。

 

「しまったっ!!」

「すぐに索敵を!!」

 

 ラウラとリューリュクが、慌てて周囲をハイパーセンサーで索敵し始める。脱皮と同時に穴を掘って攻撃をやり過ごしたオーガコアは、まだ近くにいて、自分達を狙っている。

 半ば確信して周囲を索敵するラウラとリューリュクだったが、彼女達のセンサーが反応した場所を見たとき、愕然とし、ラウラが精一杯の声で叫ぶ。 

 

「シャルッ!! 一夏ッ!! お前達の真下に敵がいるぞっっ!!!」

 

「!?」

 

 そんなラウラの声と同時に、盛り上がった地面から、幾分かサイズが縮んだオーガコアが飛び出し、シ四人を狙い、すぐさま毒針を放とうとする。

 

「しまったっ!?」

 

 箒の怪我への対処法を学園にいるカールに聞こうとしていたシャルは、背後から突然現れたオーガコアに反応が間に合わず、一夏は箒を見続けたまま微動だにしない。

 とっさに楯を掲げて、一夏達を守ろうと立つシャル………陽太が見たら、激怒物の行動だっただろう。

 

「三人だけでも!!」

 

 だが、シャルにしても、三人を見捨てて我が身を優先するということをするなんて、選択肢の中にも入ってはいない。最悪、全身で針を受け止めよう………それぐらいの覚悟で立ち塞がったのだが、そんなシャルの予想を超えた自体が………いや、誰一人予想ができなかった事態が起こった。

 

「死なせてたまるかよおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 箒も、彼女の腕に抱かれた幼女も、シャルも………そしてこの場にいる誰一人として、死なせるわけにはいかない。

 

 箒を見続けていた一夏の感情の爆発に反応するかのように………初めて白式が自分の物になった日のように、両肩から圧倒的な白い光の粒子を放出し、その光の奔流が、オーガコアを押し返したのだ。

 

「い、一夏?」

 

 いきなり背後で起こった一夏の変化に、驚愕して振り返ったシャルは、目撃する。

 

「………一夏?」

 

 幼女を抱きしめたまま、意識が遠のいてた箒だったが、自分を包み込む暖かなモノを感じ取り、ゆっくりと瞳を開く。

 

「おにいちゃん………キレイ」

 

 そして箒に抱きしめられていた少女は、目の前で立ち上がった少年を見上げながら、素直な感想を漏らす。

 

 ―――白式の両肩から噴出した圧倒的なSEが、光の翼のようなものを形成した―――

 

「………白式」

 

 自分の名を呼んだ少年に答えるように、彼の両脇に、彼にしか見えない二人の女性がゆっくりと降り立つ。

 

 『白いワンピースを着た長く白い髪をした少女』………ナンバー007『暮桜』が問いかけた。

 

『大丈夫、箒ちゃんの命は私達なら助けられるよ』

 

 『白い甲冑を纏った手に剣を携えた黒い髪の女性』………ナンバー001『白騎士』も答えた。

 

『だから、安心して放ってくれ………千冬から君が『受け継いだ』、君だけの輝きを……』

 

 そして、二人の声に応えるために、一夏は雪片を構え、静かに一言言い放った。

 

「………零落白夜ッ!」

『展開装甲起動。雪片弐型零式・零落白夜』

 

 一夏の熱い気持ちにこたえるように、実体剣の雪片が、青白いビームソードに変形し、白式の白い光を刀身に纏わせながら、天高く輝きを放つ。

 目の前で圧倒的なエネルギーを生み出す一夏を危険視したのか、オーガコアが連続で針を放つが、その悉くが一夏に当たることなく、白式のエネルギーの前に弾かれて消滅していく。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 白き翼を羽ばたかせ、閃光の刃を手に持った白い騎士がオーガコアに向かって刃を振るう。

 

 ―――袈裟斬りで斬り落とされるオーガコア―――

 

 今まで猛威を振るっていたことが嘘かと思えるほどに、あっさりと斬り落とされたオーガコアの内部から、薄く紫の光を放つコアと、意識を失った女性が出てくる。それを受け止めた一夏は慌てて箒に駆け寄った。

 

「箒ッ!!」

 

 箒を抱きかかえながら、両肩に刺さった針を持つ一夏。未だ両肩から噴出す白式の光が、両手に纏いつくと、一夏は一気に針を引き抜いた。

 

「うっ!!」

 

 一瞬だけ表情を歪めた箒だったが、光が自分の傷口を包むと同時に、痛みも出血も、ISの損傷すらも直っていく。

 その驚きの現象に目を丸くする箒とシャルだったが、一夏はというと、箒の一命を無事取り留めたことを確認すると、本当によかったと破顔して、地面に座り込んだのだった。

 

 

 竜騎兵も、マドカも、そしてこの場にいないジークも予測していなかった白式の性能に、亡国機業も目を丸くする中、当然、戦いを黙って見ていた二人の幹部達もこの事態には驚愕していた。

 

「あの圧倒的なエネルギー生成量もさることながら、アンチ・オーガコア能力?………いや、対オーガコア能力というよりも、オーガコアの起こした現象を修復するような力だとでも言うの?」

 

 一夏の白式の圧倒的なエネルギー、そしてオーガコアへのアンチ能力に、スコールは内心で強烈な脅威を感じ取る。

 

「(あのISと操縦者の子………危険過ぎる)」

 

 操縦者の能力は大したことなくとも、ISの性能は危険過ぎる。

 オーガコアを本格的に運用していこうとする亡国機業にとって、あの白式(IS)は存在自体を許容できるものではない………今なら、簡単に対処できるハズ。

 

 スコールは場合によっては『自らこの場で織斑一夏を抹殺する』ことを視野に入れて、車のハンドルを強く握る………時だった。

 

「!?」

 

 ―――物理的なプレッシャーすら感じ取りそうな程の圧倒的な攻撃的意思―――

 

 狭い車内だからこそ、感じ取ってしまった変化に、スコールは恐る恐る隣に目を向ける。

 

「……………」

 

 握り締めて破裂させたマックシェイク………だが、カップを外に放り出すと、手を伝う滴を舌で舐めながら、『彼女』は唐突に………。

 

「クックックッ…………ハッハッハッハッ……」

 

 笑い出したのだった。

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」

 

 笑う。

 なぜなら、こんなに愉快な事は久しいから。

 こんなに自分の予想を超えて、そして予定通りにいかないことなど、何年ぶりだろうか?

 

「いいぞ!! 実にいい!!」

 

 暴龍帝(タイラント・ドラグーン)、アレキサンドラ・リキュールは、実に愉快な気分で一杯になる。

 

「あの千冬に連れられていた幼子が、まさかこんなに面白く、そして予想外の成長を遂げるなど誰が考え付く?………いいぞ、実にいいじゃないかIS学園!! それでこそ私達の『敵』だ!!」

 

 オーガコアへの圧倒的なアドバンテージを持つISを所有し、そして自分から見ても天才だと思える操縦者とそろって立ち塞がってくるのだ。これでは自分達の優位が覆りそうではないか?

 

 なんという不運(こううん)かっ!?

 

「陽太君に、そして織斑一夏君………君達は、何と私をワクワクさせてくれるんだろうねっ!!」

 

 実に爽快な気分で………だからこそ、心の中だけで、リキュールは彼女に抗議する。

 

 

 

「(ズルイぞ千冬(親友)………お前ばかり、こんなにも面白い子達を独占するなんてな?)」

 

 

 

 

 

 




気がついたら二万字言ったよw
というわけで二つに割りましたw



と、今回はちょっとグチャグチャ過ぎたかな?
乗っけ盛りも考え物だ!

さて、次回はいよいよ陽太VSジーク決着編だ!!


というわけで完徹なために、感想返信はちょっと夜にしますね。もうしわけない読者の皆さん!!
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