IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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一週間更新と言う偉業を成し遂げたかのように思えるが、其れが普通じゃないのかと思えてしまう自分の冷静さにとりあえず安堵したw

と、さてさて新章スタートということで、初回は案の定←? 主人公がまるで不在だ!

え? 親方様主人公だからいい? 思っていてもそういうことは口にしない!






ヴヴヴは見たことないのに、歌を気に入ったからサブタイにしました。


四章・武力衝突
聞かせて小さな声で 貴方が愛したメモリーズ


 

 

 

 

 

 朝風呂とはやはり格別な気持ち良さがある。

 

 シャワーヘッドから出る心地よい温水を浴びながら、アレキサンドラ・リキュールはそんな気持ちよさに酔いしれていた。

 

 スーパーモデルも裸足で逃げ出すかのような、見事なプロポーションをしていながら、自身が求める戦闘理論を体現できるように鍛えられた身体が、証明に反射した光に照らされ、まるで全身から光を放っているかのような神々しさをも放つ中、彼女の心には、10年の歳月で蓄積された満たされぬ欲求が歓喜の声を上げていた。

 

 ―――相反する才能を秘めた、かつての宿敵(ライバル)の弟子二人(陽太と一夏)―――

 

 実に愉快で、意外性に富み、そして才気と天祐に満ちた、未来ある二人の操縦者の存在が彼女を駆り立てて仕方ないのだ。

 

「だが、このままでは二人は駄目になってしまう」

 

 しかし、そんな彼女にも一抹の不安要素は存在していた。

 素材としては最上位であることは間違いないのだが、素材はあくまでも素材でしかない。最上位の素材を、最上級の『戦士』にまで引き上げる、必要不可欠な『要素』が悪いのだ。

 

「千冬………お前は、10年前から進歩することを拒否したようだな」

 

 天に愛される才気、これを彼らが持ち合わせていることは最早当然の結論。

 命懸けの戦場での良質の『敵』、これからも自分自身が、彼らの現状に見合った敵を見繕うつもりであった。

 そして最後の一つ、つまり彼らを導く指導者………それこそが現状最大の問題である『織斑千冬』の人間性なのだ。

 

「(大方、つまらん罪悪感と義務感で自分を潰したな………嘆かわしい)」

 

 『元』親友の心境を弟子達のあり方から大体言い当てたリキュールは、蛇口を捻ってシャワーを止めると、浴室から出てバスタオル一枚を片手に歩き出す。

 

「(ちょうどいい。確かめがてら、久しぶりに顔を出そう……………この機を逃せば二度と食する機会もないだろうからな)」

 

 そして彼女は肩にかけたままリビングに向かって歩き出すのだった。

 

 

 一方、すっかり改造されたリビングにおいて、夕食に出されるデザートの試作品を食べさされていたジークは非常に上機嫌でそれを食していた。

 

「♪♪♪~」

 

 戦闘用に改造された自身の身体の維持をするために、日に大量の糖分を必要とする身であるが、生来が甘党である。しかも今目の前に出されている高級感漂うものだったがために、余計に彼の機嫌を良くしてくれていた。無論、それだけではないのだが………。

 

「(スコールの奴は知らないって言ってやがったが、俺の目的は間違いなく亡国にある)」

 

 彼自身が命よりも大事にしている『目的』の手がかりは、間違いなく亡国機業内部に存在している。雲を掴むかのように旅を続けて数年、ついに確実なものを手にいれたのだ。

 

『ジーク、探りはこちらで入れておくから、くれぐれも軽挙妄動は謹んで!』

 

 そしてスコールがかなり真剣な表情で話をしていた以上、組織の暗部にまで食い込んでいる可能性は極めて高い。それゆえにジークは、まずは焦らず慌てず迅速に情報を入手する道を模索する。

 

「(今度、本部に帰った時に地下のメインバンクにアクセスして情報を入手する!)」

 

 それまでは誰にも、マドカにもスコールにも気取られるわけにはいかない。彼はとりあえず日常に戻ったフリをすることで、今度こそ確実な手がかりを見つける道を選んだのだった。

 

 ―――カクテルグラスに盛られた、見た目もおしゃれな白桃のマリネ―――

 ―――生地にたっぷりキャラメルを絡めた、シュークリーム―――

 

 二つの高級デザートを平らげながら、とりえあずの愛想笑いを作り手たちに送る。

 

 そしてそれらを作ったフリューゲルとスピアーは、そんなジークをジト目で見ながらも悪い気はしていない。まあ、これが愛する親方様ならば間違いなく鼻血出しながら悶えていた場面なのだろうが、美味しく食べてもらえるというなら、基本は誰であろうとも彼女達は料理を作るのだろう………惜しくも、それだけの実力を主以外の人間に振るう場面が極端にないのだが………。

 

「それでね、鯖を下ごしらえする時は、水道水で水洗いしちゃ駄目だよ。洗うなら塩水がいいかな? 生臭さが余計に出ちゃうから」

「ふんふん………」

 

 だが、その隣では、なんとエプロンをつけたマドカが、魚の捌き方から調理方法までを直接レクチャーされていたのだ。

 普段は料理などしようとも考えないマドカなのだが、自分と同じグータラ極まる四人が、プロレベルの料理を作れたことに大いに驚愕し、そしてそれをジークが美味しそうに食べていることが、彼女には我慢できなかったのだ。

 だが料理を覚えようにも、彼女自身がしたことがないのだ。どうすればいいのか、本でも読めばいいのか? うんうん悩んでいた所を、フォルゴーレが快く手を上げてくれたのだ。もしこれがフリューゲルなりスピアーなら、どっちかがいらないことを言って大喧嘩になる場面なのだが、そのあたりは流石竜騎兵随一の人当たりのよさで、見事に彼女との信頼関係を築き上げている。

 

「親方様ッ!?」

 

 そんな中、突然廊下からリューリュクが驚く声がしたので、全員が一斉にそっちを振り返る。

 

「私は出掛ける。昼は外で食するから用意はいらん」

 

 ドアを開いて、『濡れた全裸』のままでそう堂々宣言したアレキサンドラ・リキュールに、室内の全員が凝視するのだった。

 

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「親方様っ! お拭きください!」

 

 一人必死にバスタオルで濡れた彼女の身体を拭う中、ようやく再起動したマドカが、一番早くリアクションを起こす。

 

「あっ! ジーク、手が滑った(棒読み)」

「!?」

 

 わざとらしくない言葉で、ジークに向かって手に持った包丁をフルスイングでブン投げる。容赦も欠片もないその一撃は高速でジークに突き刺さろうと空を舞い………。

 

「フンガッ!?」

 

 ジークに白刃取りされてしまう。思わぬ事態に座っていた椅子からひっくり返るジークだったが、流石にこれは笑って流せないと言わんばかりにマドカを怒鳴りつける。

 

「テメェ!! 冗談でも、やっていいことと悪いことの区別もつかねぇーのか!?」

「ふざけるなッ! 私の前でその女の裸体を食い入るように見つめよって!」

「見てねぇーよ! 驚いて頭真っ白にしてたんだよ!!」

「嘘をつくな! この………浮気者ッ!!」

 

 何を突然言ってやがる!? マドカがなんでキレたのか理解できていないジークだったが、この時、自分が実はとんでもない状態であるということに彼自身が気がついていなかった。

 

「そうだ。君とマドカも一緒に行くかい?」

「今取り込み中だから、テメェーはあ………と……」

 

 リキュールの言葉に反応して彼女を見たジークだったが、自分の位置が実はとんでもない状態だったことをすっかりと失念していた。つまりは………。

 

 ―――全裸のアレキサンドラ・リキュールの足元に倒れるジーク―――

 

 ……………位置関係上、下から文字通り彼女の『全て』を目撃して、更に意識が硬直するジークと、そんなジークのリアクションが理解できずに首を傾げたリキュールの珍妙なやり取りが繰り広げられる。

 

「親方様」

「!?」

 

 だが、ジークの意識は、首元に感じる三つの冷たい感触によって急速に冷静さを取り戻す。

 

「親方様、お洋服はどれになさいましょう?」

「スーツを出せ。正装していかねばならない場所だ」

「承知しました」

「フォルゴーレ。スコールがもうすぐ起きてくる。おそらく二日酔いだ。味噌汁を用意してやれ」

「はい、承知しました」

「スピアー、車を回しておけ」

「はっ!」

 

 それぞれ主たるリキュールに用を賜る中、彼女たち三人が手に持った包丁をジークの首元に押し付け、そして彼女達は一瞬だけ、包丁の刃よりも鋭い眼差しでジークを見ると、目力で無言の言葉を送る。

 

『今見たものは全部忘れて早く眼を瞑れ』

「………サーセン」

 

 『やっぱりなんか納得できない』………拭い去れない不条理を感じながらも静かに瞳を閉じるジークであった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 所変わって、青空が広がる空の下、一軒の大衆食堂の二階の一室において、テレビの画面を真剣に睨み合う三人の男女がいた。 

 いつもの制服ではなく、私服を着た対オーガコア部隊の隊員である一夏と鈴、そして赤い長髪が特徴の少年である。

 

 本来なら休日はいつもの訓練漬けの日々を送っていた二人だったのだが、先日のオーガコアとの戦闘の後、とある人物から思いもしない提案が出されたのだ。

 

『お前達のIS、聞けばずっと実戦続きらしいな。ならばここらで一度オーバーホールしておこう』

 

 そう仏帳面で整備課主任教諭の奈良橋が提案を出したのだ。本人的には娘を助けてもらった礼をしたいからという理由らしい。決して仲間になったわけではない!と断固としてそこは認めていないのだが、隊長である陽太が、

 

『オッサンのツンデレとかニーズないぞ、とっつぁん?』

 

 要らない事を口走って千冬にぶん殴られたのは言うまでもない。

 

 だが、新しく隊員となった箒の紅椿も損傷しており、またこのところずっと訓練と実戦が続いてただけに、一息入れるのも悪くないという理由で、千冬がその提案を受け入れ、土日の連休を利用して奈良橋と整備課の有志数名により、対オーガコア用ISのオーバーホールが実施されたのだ。

 そして隊員達は、久しぶりに手に入れた休日をそれぞれが利用する中、一夏は完全に存在を忘れていた実家の様子を見に行くついでに、中学時代の友人に顔出しに来たのだ。家で掃除をしている最中に鈴が何食わぬ顔で現れたのはびっくりしたのだが………。 

 

「っで、二日間の臨時休暇を貰ってわけ………ギャアアアアッ!! ウソォォッ!? カード全部捨てられたぁぁぁ!!」

 

 TV画面の向こうで、悪魔の貧乏神がいとも容易く行った惨劇に、目じりに涙をためながらコントローラーを握り締める一夏が、心の底から叫ぶ。

 

「まさか一緒に出かけようとか言われて、此処に来るとはね………いっしゃあっ! デビル地獄から完全に立ち直ったぁぁぁっ!!」

 

 コントローラーを片手にガッツポーズを取った鈴は、合わせて7億8千万の物件を購入し、自身の完全復活を高々と宣言する。

 

「しっかし、まさかIS学園に鈴まで転校してたとはな………その……何とか部隊? すげぇじゃねぇーか、一夏?」

 

 そして悠々とカード集めをしながら電車を目的地に走らせる、この部屋の主こと『五反田(ごたんだ) 弾(だん)』は、ニヤニヤと自身の優勢を勝ち誇るように言い放つ。一夏よりも背が高くバンダナで巻いた赤毛の長髪が特徴の、中学時代からの一夏と鈴の共通の友人である少年は、ゲームしがてら一夏達の近状報告を受けていたのだ。

 

「ああっ! 俺、IS学園行けて本当によかったと思う………本当に目指すべき目標もできたしな」

 

 そしてそう笑顔で答える一夏の姿に、親友が少し見ない間に随分と頼もしくなってしまったことに、微笑ましくもくすぐったい気持ちに弾はなる。

 

「(なんか………天然でバカっぽいところは全然変わってないのに、随分男らしくなったじゃん、一夏)」

 

 親友の成長に感動した弾ではあった、次の鈴の発言によって、感動が一瞬で瓦解してしまう。

 

「目標って何よ? 例のファースト巨乳幼馴染を押し倒すこと?」

「!!??」

「なっ!?」

 

 どうしてここでそれを蒸し返すのかと鈴に噛み付こうとする一夏だったのだが、そんな彼よりも早く肩を掴む男がいた。

 

「ファースト巨乳美少女とはいったい何なのか、ワタクシにもわかるように説明を要求するマイフレンド……だった奴」

「だった奴とか何で過去形なんだよ!? てか何で箒にあってないのに美少女ってわかるんだよ!」

「お前は息をしているだけで美少女を吸い寄せる、全人類の半分を敵に回す特殊能力を持っているからに決まってんだろうがゴルァッ!? ええっ!? それも押し倒したとか、いったい何なんだ!? お前は何しにIS学園にいったんだよ! 返せ! 俺の感動を今すぐ返せ!! そして代わりにお前の毒牙にかかってない美少女紹介してください。マジで切実に」

 

 血涙を流し(イメージ)ながら、一夏の両肩を掴み、高速で前後に振り、怒りながら懇願する親友の扱いに切迫する一夏と、そんな一夏の隣で、『ロープでグルグル巻きにされた私の恨みを思い知れ』と鼻で笑い飛ばす鈴………グルグル巻きにしたのは陽太なのに、というツッコミを一夏が入れることは当然ないのだが、そんな和気藹々?とした三人組がいる二階から下の一階、『五反田食堂』の店舗において、愛想よくお辞儀をする美人と美少女がいた。

 

「ありがとうございました~」

「ありがとうございました~~、またのお越しを~!」

 

 笑顔が魅力的な、落ち着いた雰囲気を醸し出している大人の女性と、弾と同じ髪の色を持ち、髪をヘアクリップで纏め上げ、タンクトップとショートパンツというラフな姿をした10代前半の少女が同時に最後のお客に挨拶をして、送り出したいのだ。

 

 大人の女性の名前は、五反田(ごたんだ) 蓮(れん)

 少女の名前は、五反田(ごたんだ) 蘭(らん)

 

 この五反田食堂における二枚看板娘達である、弾の実母と、実妹である。そしてそんな看板娘達に厨房から声を掛ける齢80過ぎの老人がいた。

 

「ういっ! それじゃあ昼にでもすっかっ! 蘭、弾を呼んできてくれ」

「はいは~い!」

 

 熱気で肌焼けしたため浅黒い肌を持ち、とても80過ぎの老人とは思えないほどの筋骨隆々としたがっしりした体格は、この道50年を超える、中華鍋を振り続けて作られた物である。

 

 老人名前は五反田(ごたんだ) 厳(げん)。五反田食堂を一代で築いたこの食堂の主であり、一夏が千冬並に頭が上がらず、そしてマナーの悪い奴にはおタマと鉄拳を見舞う食堂の生きたルール(ラスボス)でもある。

 

「もう、お兄も手伝えっての!」

「そうだよな蘭。アイツはすぐに理由をつけてサボリやがる………ったく、これだから最近の若い者は……」

「お養父さん………弾は、お友達が来てるとかで」

「それに引き換え、蘭はいい子だな~~! さすが俺の孫娘!!」

 

 どうやら男に厳しく、女には弱い人間性のようである………孫という意味では平等に二人のことを愛しているのだが、扱いまで平等にする気はないという考えをした厳が、腕を組みながら『ガッハッハッ!』と笑う中、休憩中の看板を蓮が外に掛けようと入り口に近づいた時、彼女よりも早く扉を開けるものがいた。

 

「失礼」

 

 短く言って引き戸を開けて入ってくる人物に、蘭は一瞬で言葉を失う。

 

 浅く焼けた肌の上から黒いスーツを羽織り、パンツスーツの上からでもわかるほどの脚の長さと、優雅な歩き方、190近い長身と、光を反射させて煌くプラチナの長い髪を後ろで束ねた女性の声に、魂が抜けかかった蘭は思う。

 

「(次元が違う………すごい美人なのに……男よりも男らしい雰囲気がある)」

 

 女性としては異例の空気を放つその女傑………アレキサンドラ・リキュールは、蓮が持っていた看板を見て、表情を曇らせる。

 

「おや、今から休憩でしたか………昼食をいただきたかったのですが、時間を改め…」

「んっ?」

 

 そして中華鍋を洗っていた厳が、厨房からにょっきりと顔を出し、彼女と視線を合わせる。

 

「これは大将………ご無沙汰しております」

「……………」

 

 一瞬、気が抜けたかのように怪訝な表情となる厳だったが、段々と目の前の人物が誰だったのかを思い出し、そして………孫の蘭が見たこともないような表情で破顔して、厨房から大慌てで出てくる。

 

「………ひょっとして、『先生』のところのお嬢ちゃんか?」

「10年も空けてしまい、申し訳ありません……………お久しぶりです大将」

「やっぱり、『先生』のところのお嬢ちゃんかっ!!!」

 

 そして彼女が誰なのかを言い当てると、帽子を外して、彼女の両手を握りながら、遠く離れていた肉親が戻ってきてくれたかのように、目に涙をためながら彼女との再会を心から喜ぶ。

 リキュールもそんな厳を、いつもの戦士の表情ではなく女性の顔で、穏やかに笑いながら話しかける。

 

「やっぱり………グスッ、こんな大きくなって………!! って、その顔の傷はどうした!?」

「やんちゃが過ぎていた頃の物です……大丈夫、今はもう痛むものではありません」

「女の子がそんな傷を作っちゃいかんぞ!!………ああ、だけど本当によかった」

 

 彼女の若い頃から知っているだけに、今の成長をした姿がどうしても想像ができなかっただけに、逆にそれが嬉しさを増幅させていたのだ。

 

「今日は久しぶりに裏メニュー………いただきに来たのですが、時間を変えたほうがよろしいですかね?」

「そんなこと気にするな! 今から腕を掛けて作ってやっからな!」

「それと………お前達、入って来い」

 

 入り口に向かってリキュールが呼びかけると、四つの顔がひょっこりと店の中に顔を出す。

 

「入ってもよろしいのでしょうか親方様?」

「よろしければ、我々は外で待機しておりますが」

「まさかこのような場所でご昼食とは………てっきりシティーホテルとかどこかと」

「おいしそうな匂いしてる……ジュル」

 

 いつもの竜騎兵(ドラグナー)の四人が、私服姿で中に入ってくるが、リキュールが『構わない』と言い出すよりも先に、店の主である厳が、大いに喜びながら両手を振る。

 

「なんだ!? あの先生のとこのお嬢ちゃんが、今度は先生してんのか!! こいつはいい! 早く入って来いお嬢ちゃん達! 俺が美味いもんたらふく食わせてやるぞ!」

「ですが………」

「気にするな気にするな! 裏メニュー『特上鯖味噌定食』五人前! すぐに作ってやるかな!!」

 

 機嫌よく四人を迎え入れ、恐ろしく上機嫌のまま腕をまくりながら厨房に入ると、彼は普段使っている業者用の冷蔵庫の隣にある、賄い用の冷蔵庫の扉を開いて、中から隣の県で取れた日本でも有名な鯖を取り出し調理し始める。その様子を見たリキュールが『座れ』と短く命令すると、四人は疑問を持つことなく席に座り、最後に彼女もゆっくりと着席した。

 

「そんなっ!! いつも注文しても使わないままに廃棄されていた鯖が!? 理由を聞いても『食わせたい人を待っている』っと言って、頑として注文をやめなかった鯖が!? 私も食べたことない、幻の裏メニューが、今、調理されている!!」

 

 よっぽどその光景が珍しかったのか、驚愕した表情のまま蘭が固まってしまう。そして、数秒後『お兄ちゃんにも教えてやらなきゃ!!』と言って、大急ぎで二階に駆け出していく。そんな中、五人にお手拭と水を出した蓮も、軽く驚いた表情になる。

 

 が数秒後、二階から………。

 

『キャアアアアアアッ!! 来てらしたんなら、声をかけてくれたらいいのに!?』

『ゲッ!?』

『グッ!? リ、鈴さんまで………』

 

 そして何か一人の少年を挟んで二人の少女が口論をし始めたのだった………。

 

 

 

「まあ、4年ぶりぐらいかしら? お義父さんが裏メニュー作っているの?」

 

 そんな殺伐とした二階とは裏腹に、義父が普段は見せないぐらいに上機嫌で調理し始める姿に、彼女も釣られて笑顔になる。普段は厳しい表情が多いだけに、リキュールの来店がよほど嬉しいのだと感じたのだ。

 

「あらあら、お義父さんにも、あんなにお若くて美人な恋人がいらっしゃるなんて、フフフッ」

「!?」

 

 息子の嫁の思わぬ言葉に、手に持っていた鍋を落としかけた厳が大慌てで訂正を求める。

 

「オイオイ! 蓮さん、冗談がキツイぜ!! 蓮さんも知ってるだろう? ほら………『ちーちゃん』と『たーちゃん』といつも一緒に来てた、『あーちゃん』だぜ?」

「あら………」

 

 その言葉を聴いた蓮が、数秒間思い出そうと首を傾げ、そして記憶を符合させて、手で相槌を打つ。

 

「あらっ!? じゃあいつも『アサガオの浴衣』を着ていた女性(ひと)と一緒にいたお嬢さんね! 思い出しました………まあ~~~、大きくなって………」

「そうだろそうだろ。10年ぶりか………そりゃ、一瞬誰だか判らないぐらいに成長しちまうわ……」

 

 そして鯖をちょうど良いサイズに切ると、鍋に火を掛けながら蓮と話を続ける。

 

「しっかし………『先生』のところのお嬢さんが、先生になっちまうとは………グスッ」

「あらあら、お義父さん」

「歳食うと涙腺が緩んじまうから困る………たーちゃんは世界的な開発者だし、ちーちゃんはIS学園で教師してるしな………みんな、ホント立派になった。『先生』も喜んでるぞ、きっと」

 

 月日の流れを感じながらも、自分が『先生』と慕って止まない女性の跡を継ぐように立派になっていく記憶の中の少女達の姿に、またしても涙が溢れそうになり、厳は袖で拭う。

 

「蓮さんには話したことなかったか………」

「はい?」

 

 突然の言葉に首を傾げる蓮と、神妙な面持ちになりながらも手を動かす厳は、フライパンで軽く焼き、余分な油を落として生臭さを消した鯖を、改めて鍋に移して火に掛けながら話を続ける。

 

「この鯖味噌な、俺の自己流じゃないんだ………元々のレシピは『先生』が作ったものなんだ」

「!?」

 

 そして、何かを懐かしむように厳は手元に目をやりながら、普段の荒々しさから微塵も感じさせない繊細な手つきで調理を進める。

 

「いや、それだけじゃない。『先生』のおかげで、俺は家族を持てたし、店も持てた………命よりも大事なもんを、あの人が全部俺にくれたんだ」

 

 

 

 ―――俺が今の弾よりもちょっとだけ歳が上ぐらいのときだったか―――

 

 ―――戦争が終わってな、何もかも焼け落ちちまって………俺も家族を失って、一人で放り出されちまった―――

 

 ―――この国は一から全部立て直さないといけない真っ最中で、皆、自分が生きていくのに精一杯だった。俺もなんとか生きていこうと必死だったが、そのうちに力尽きてな。フンッ………金もない、住む場所もない、食う物さえない………そんな中で、とうとう盗みを働いちまった―――

 

 ―――とある店の吊り篭からデブの主人が目を離した隙に金を盗んでよ………人ごみの中を紛れながら、なんとか逃げ切ってやろうとした所で、日傘を差して浴衣着て歩いてた『先生』と出くわしてな………どうせ良い所のお嬢さんか何かだろと、『退けッ!』って叫んだ瞬間、俺が逆にブン投げられちまった―――

 

 ―――金持ちのお嬢さんみたいな気品が良い人なのに、おっそろしく強くてよ………一瞬で意識飛ばしちまったよ―――

 

 ―――そんでその後だ。俺の後追ってきた店の主人が、俺のこと殴りまくりながら『警察に突き出してやる』って言ってきてな………あんときは、人生の終わりを覚悟したよ。このまま犯罪者になって、誰にも見取られることなくどっかでくたばる人生を送ることになるのかって―――

 

 ―――だけどな、そんときだ。現場に居合わせた『先生』が、俺のために頭下げてくれたんだ。『この子をどうか許してあげてほしい。皆と一緒で、今を生きようと必死になっているだけなんだから………自分が責任を取りますから』って言ってな―――

 

 ―――呆然と見ているだけの俺はよ、何度も何度も俺のために頭を下げてくれる理由が全然判らなくてよ………そしたらそのうちに、店の主人のほうが折れてくれてな。そんで『先生』が俺を引き取ってくれてよ………付いて来いって言われて、『先生』の家に連れられたんだ―――

 

 ―――てっきり、お屋敷か何かだって思ってたら、びっくりするぐらい普通の平屋でな。聞いたら日本人じゃなくて、日本に色々学びに来てるだけの外国人だって言うし………しゃべり方も立ち振る舞いも日本人よりも日本人してんのにな………そしたらな、先生は台所でこの鯖味噌を作ってくれて、そんで俺に振舞ってくれたんだ―――

 

 ―――『今、この国は貧しいのかもしれない。お金も食べ物も足りないのかもしれない。でもそんな中でも立ち上がって前に進もうとする人達を見て、私は心の底から震えた。自分の苦しみよりも、他者への苦しみを見て、それを何とかしようと立つ、人としての『気高さ』があるのだと、この国の人達は私に見せてくれた。だから、立ち上がることを諦めないで………心の中まで貧しくしないで。お腹が空いてどうしても我慢できないのなら、またここに来なさい』―――

 

 

 

「………美味かった。心の底から震えるぐらいに美味かった。こんなに美味いものがあるんだって思えて、食いながら何度も泣いちまった」

 

 落し蓋をした鯖を見ながらそう告げる厳の姿に、蓮は目元に涙を貯めながら彼女は相槌を打つ。

 

「それからだ………『先生』が仕事先と住み込み先を紹介してくれてよ。俺は必死に働いた………今度は『先生』に俺が何かご馳走したくて、働きながら料理の修業して………『先生』が仕事で日本を離れちまって、10年したぐらいかな? またひょっこり戻ってきた『先生』が、知り合いの不動産屋に話をして、この土地を提供してくれて、そんで食堂を立てさせて貰ったんだ。それから………婆さんと結婚して、バカ息子が生まれて、蓮さんが嫁に来て、二人の可愛い孫が生まれた」

 

 落し蓋をあけて、鯖がいい感じに出来上がると、厳はそれを器に移し、細かく切った刻み生姜を上に載せて、鯖味噌を完成させる。

 

「時々、『先生』がきたときに、必ずこの鯖味噌出すんだよ………『先生』はそれだけでいいて言うんだけど………俺にしてみれば割りに合わねぇーよ。命賭ける位の恩義は十分以上に貰ってるのによ」

 

 お盆に鯖味噌と白米、味噌汁と漬物を載せ、それを蓮に渡しながら彼はいつもの豪快な笑みを浮かべた。

 

「そんな『先生』のお弟子さんなんだ。俺が考えられる最上級の『おもてなし』しないと、五反田厳の名が泣くってもんだろ!?」

 

 80を超えても欠けることなく生えている白い歯を見せながら、少年のように笑う厳を見て、蓮も思わずいつもよりも幼い感じで笑ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「…………美味い」

「「「「!?」」」」

 

 出された鯖味噌を一口食したリキュールが言った感想に、四人の竜騎兵が衝撃に固まる。

 

「(親方様が美味いって言った!?」

「(私、言われたことない!)」

「(私も言われたこない!!)」

「(くやしいーーー! でも箸が止まらないほどに美味しいーーー!)」

 

 悔し泣きしながら嬉し泣きして黙々と食べ続けるとても器用なフォルゴーレを残し、フリューゲル達が驚愕するが、嬉しそうに鯖味噌を食べるリキュールにどう声をかけたらいいのかわからず呆然となってしまうが、そんな三人の様子に気がついた彼女が、不審そうに声をかける。

 

「何をしている、折角の馳走だぞ?」

「あ、いや………その…」

「も、申し訳ありません……しかし…」

「お、親方様が鯖味噌定食を食べられるとは……その……イメージが」

 

 リューリュクの言葉を聴いたリキュールが、本当に珍しい、困ったような眉を落とした表情を作って逆に聞き返す。

 

「なんだ、私が鯖味噌を食べてはいけないと言うのか?」

「「「いえっ! 決してそのようなことはございません!!」」」

「?」

 

 必死になって首を横に振る三人を見てそれ以上の追求をせず、リキュールは再び目の前のご馳走に食しようと箸を動かし続ける。これほどまで穏やかに上機嫌なリキュールというのは最近ではめったに見れずにいただけに、三人も徐々にその様子を好意的に受け止め始める。戦場で、強者を見つけたときのハイテンションも嫌いではないが………。

 そんな五人に近寄る厳は、腕を組みながら彼女達の様子を喜ぶ。

 

「いやいや、ひっさしぶりに作ってみたが、腕の方は落ちてないようだな」

「はい………流石は大将、もうこの味には貴方以外では出せないでしょう」

「なになに!! 『先生』にはまだまだ勝てないって!!」

 

 厳が笑いながら『先生』と言った瞬間、リキュールの箸の動きが止まる。だが、それに誰も気がつくことはなく、そして厳は尚も話を続けた。

 

「そういや『先生』はどうしたあーちゃん?」

「………………それは」

「ああ! 気を使う必要はないぜ。あの人が10年ぐらい音信不通なんていつものことだし! そんな今すぐ来るように言わなくたって、俺っチはいつでも待ってるからよ!」

 

 『カッカッカッ!』と陽気に笑う厳と、リキュールを『あーちゃん』呼ばわりする老人を若干睨むフリューゲルとスピアー。そして二人とは対照的に嬉々として目の前の定食を平らげるリューリュクとフォルゴーレ………。

 

 だからこそ誰も気がついていなかったのかもしれない。

 

 リキュールの口が僅かにこう動いていたことに………。

 

 

 

 

 

『 オ マ エ ハ ニ ゲ タ ナ。 チ フ ユ』

 

 

 

 

 

「本日はご馳走様でした」

 

 食事を終えたリキュールが深々と頭を下げ、竜騎兵達も習って頭を下げる。

 

「頭上げてくれ! 大したもん出せなくて、こっちの方こそ頭下げんといかんのに」

 

 リキュール達のその行動に、逆に申し訳なさを覚えたかのように厳も頭を下げる中、そんな様子を蓮が面白そうに眺めていた。

 そして頭を上げ、厳のほうを見たリキュールの瞳にはいつもの厳しい眼差しが宿っており、彼女は部下達の方を見ることなく、短く命令を出す。

 

「お前達は先に車に戻っていろ。私は少し話が残っている」

「ですがお勘定が………」

「いらん。早く行け」

 

 それだけ短く告げると、早く行けと手を振る。竜騎兵は急に彼女の様子が変わったことを疑問に思いつつ、先に店を出て行く。

 そして店の中に残ったリキュールは、店主である厳を前に、とある事実を告げようと口を開いた。

 

「大将………少々お話があります」

「ん? どうした急に改まって?」

 

 厳も彼女の雰囲気が明らかに変わっていることに気がつく。そしてリキュールは一度だけ瞳を閉じると、意を決したかのように、話を切り出したのだした。

 

 

 

 

「残酷なお話になりますが……………知っておいてほしいのです。『先生』のことを」

 

 

 

 

「ああ~~腹減った。爺ちゃん、飯の支度まだか~?」

 

 二階で騒動を起こしていた一行だったが、蘭がようやく昼食の支度が出来上がったことを思い出し、一夏を連れて食べようと言い出したのだ。

 そして弾を先頭に一夏と、彼を挟んで左側から腕に抱きついた蘭と右側から抱きついた鈴がにらみ合いながら一回に降りてくる。この二人、中学時代から事ある毎に睨み合っては、しまいに取っ組み合いの大喧嘩までしたことも一度や二度ではない恋敵なのだ………最も、蘭は知らないが最近、新しい三人目が急浮上してきたという事実に。

 

「ふ、二人とも………ちょっと離れてくれ!」

「ですって鈴さん、その洗濯板が大層痛いそうですから、早く一夏さんから離れてください」

「アンタのそういう減らず口は大好きよ? ぶん殴るのに何の遠慮も感じなくてねッ!!」

 

 二人のやり取りを中学時代から一貫して困った表情で本当に困り果てる一夏と、そんな彼を『こいつ、どうしてこう一々俺の心の琴線に触れるんだマイフレンド』と歯軋りながら見つめる弾という構図に、一夏がほんの僅かな懐かしさを感じていた時、暖簾をくぐった弾が、声を張り上げた。

 

「じ、爺ちゃんッ!?」

 

 弾のその声を聴いた瞬間、一夏も何事かと思ってそちらの方を振り返る。

 

「……………なんでだ?」

 

 店の椅子に力無く座り込み、両肩を震わせながら、50年以上も中華鍋を振るい続けてきた両手で顔を覆い、むせび泣く厳の姿があった。

 

「な、何があったんだよ!? オイッ!!」

 

 初めて見るそんな祖父の姿に、弾はいてもたってもいられず、近くにいた母に駆け寄って話を聞こうとするが、蓮も口元を手で塞ぎながら、大粒の涙をポタポタと流して厳の方を見続けるだけであった。

 

 いつもは厳格で鉄拳をよく浴びせてくる厳とは思えない姿を見た一夏も、その弱々しく涙を流す姿に動揺を隠せずにいたが、彼がまるで呟くように言い続ける言葉に、更なる衝撃を受ける。

 

 

「なんで………アンタが死ななきゃならん? 一言………言ってくれたら………『代わりに死んでくれ』って………俺に言ってくれたら………俺は喜んでアンタのために笑って死ねたのに」

「!?」

「なんで………アンタが俺より先に死んじまうんだよ、『先生』」

 

 何の話をしているのだ? 一夏が疑問を浮かべつつ、なんとなく周りを見回したとき、入り口の引き戸に浮かぶ影を見つけ、反射的にそちらの方に向かって走り出す。

 

「!!」

 

 そして引き戸を開け、周囲を見回した時、一夏は目撃する。目の前を走り去った黒い4WDの助手席に座る女………。

 

 ―――アレキサンドラ・リキュール!!―――

 

 この間会ったときとは違う服装だったが、見間違えることは無い。一夏にとって強烈な印象を与えていたあの人物が、何を目的にこの店に来たのか知る由もなかったが、彼はその4WDを追いかけようと腕を構える。

 

「白し………アッ!」

 

 だが、今日はISを所持していないことを思い出し、思わずその場で一夏は地団駄を踏む。 

 

「一夏ッ!?」

 

 そんな彼の様子を見たも、店を飛び出して駆け寄ってきた。

 

「一夏………どうしたのよ、急に!?」

「あの女だ!! あのアレキサンドラ・リキュールって奴が、厳さんを泣かしたんだ!!」

 

 思わぬ人物の名前に目を白黒とする鈴と、彼女への強い敵愾心を燃やす一夏…………。

 

 

 だが、真夏の日差しが強まる中、二人の姿………そして彼の言葉を、遥か上空の衛星圏から見下ろしながら捉える者がいたことに、一夏も鈴も当然気がついていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「そうか、あーちゃんは厳さんに話したのか~~~」

 

 衛星が拾い上げた一夏の姿と言葉を小型の端末で聴いた人物………ウサミミとゴシック風の服装をした人物、ISの母であり、陽太を拾い、彼をIS学園に送った人物である『篠ノ之 束』は、おおよそ店の中で何が起こっていたのか盗聴などせずに理解していたのだった。

 

「あーちゃんは、本当に律儀だね~~~。ちーちゃんと戦う前にもう二度と食べないつもりで厳さんの鯖味噌食べたね~~~?」

 

 束は、ソファーに座りながら、目の前に広がる青く大きな星………地球を見ながら、そこにいるかつての親友に思いを馳せる。

 

「あーちゃんはIS学園に攻めるつもり………でも今のようちゃんじゃ、100%あーちゃんに勝てない………だって、今のようちゃんはただの天才なんだもんね」

 

 自分が拾い、育て上げた『戦いの天才(陽太)』の敗北を予定調和としていた。

 

「ようちゃんに足りないものは、あーちゃんが教えてくれる………そう、ようちゃんが真の『英雄』になるのに必要なことを」

 

 そうだ、なぜなら自分の親友はすでにただの人間の域にいない。彼女のその圧倒的な『暴力(ちから)』は、ひょっとするなら自分達の『先生』と遜色が無い領域まで到達しているのかもしれないのだから………。

 

「これは束さんの出番かな? ちーちゃんともこの分だと直接会えそうだし………10年ぶりだよね、三人で会うの?」

 

 そして彼女は自分の隣に置いてあった、とある一枚の写真を手に取り、話しかけた。

 

 ―――まだ髪が肩にかかるぐらいの幼い千冬と、彼女と睨みあうリキュール。そして同じぐらいに幼い束が本当に嬉しそうに抱きついている、一人の女性………この地球(ほし)と同じ青き眼をした、ライトグリーンの長い髪を持った、浴衣を着て、三人に微笑みかけていた20代後半の女性―――

 

「………先生?」

 

 束は写真に浮かぶ彼女に微笑みかけながら、話す。

 

「許してね………傷つけあってばかりで………」

 

 ―――自分達は、この10年、戦ってばかり、誰かを傷つけあってばかり―――

 

「あなたが、守ってくれた世界なのに………」

 

 ―――後どれ程の過ちと愚かさを繰り返せば、『真の英雄』たる彼女(先生)のようになれるのだろうか?―――

 

「だけどね………私は止めないよ」

 

 ―――だが、自分はこの道を行く。たとえその果てに………―――

 

「ちーちゃんが、あーちゃんが、私の敵になっても!」

 

 ―――10年前の『あの日』、全てが始まった『あの日』、もう引き返す術さえ無くしたのだから―――

 

 

 

「私が、先生を殺した、この汚らしい世界をっ!! 全部全部全部!!! ぶっ壊す!!!」

 

 

 

 ―――たとえ、それが本当の平和を願った、『先生の遺志』に反したことだろうとも―――

 

 

 

 束はそう叫びながら、濁った瞳で星を見下ろすのだった………。

 

 

 

 

 

 

 






ということで、なんと厳さんが初登場で号泣したという衝撃的レビューになっちゃいました。

そして、最後に束さんが言った、『真の英雄』たる先生………ますますもって彼女は何者なのだろうか?

 気品があって、他者への理解をもち、国の気高さを尊び、そして人が持つ『立ち上がる強さ』を信じる人………。

 先生の死が、今後さまざまな形で物語に波紋を広げます。


 彼女を殺したのは、果たして本当に千冬さんなのか? それとも束さんが言った『世界』なのか?

 そして暴龍帝によるIS学園襲撃のときは迫る!!
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