IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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今回ほどタイトルに偽りのない回はない!









てか、一週間更新はやっぱり難しいにゃ


暴龍帝、降臨!

 

 

 

 IS学園の恒例行事であり、最も重要なイベントのひとつである『学年別トーナメント』の開催が明後日迫ったとして、皆が一同に気持ちを浮つかせていた。

 学園に入学している生徒達にとって、自分の今後を占う大事なトーナメントであり、日頃から培っている操縦技術を存分に発揮し、トーナメントに観戦に来ている政府や大企業のスカウトの目に留まらないといけないからである。また、専用機持ちと言われるそもそも政府や大企業に所属している生徒も、無様な姿を見せることはできず、己の存在意義をトーナメントの試合という形で上役達に見せ付けないといけないからである。

 

 だが、そんなトーナメントが開かれようとする中、生徒達を別の意味で衝撃を与える出来事がつい先日発表された。

 

『織斑千冬教諭が、今度のトーナメントを機に、長期療養のため休職する』

 

 という旨が、生徒達に正式に発表されたからである。

 

 世界最強のブリュンヒルデであり、生徒達の憧れの的である彼女がしばらくIS学園から離れるという話は、瞬く間にIS学園中に広まってしまう。ただでさえ、彼女はIS学園において特異であり、そして今では何かと話題に事欠かない『対オーガコア部隊』発足の張本人であり、そんな彼女の離籍は、学園中にある種の不安を蔓延させてもいる。

 

 ―――もし、彼女のいない間にIS学園にオーガコアがくればどうなるのだろうか?―――

 

 彼女自身は指揮官であり、決して現場には出張らないことは知られているが、やはり彼女の存在感は大きく、実働隊のメンバーのことをよく知らない生徒にしてみれば、『彼女あっての部隊』という見方もあるのだ。いくら彼らが結果を出しているとはいえ、それも彼女のおかげだと思う者がいてもおかしくはない。

 

 色々と不安要素が募る千冬の長期離脱。

 彼女自身は淡々と自分の後任となる代理司令官兼1-A担任代理の真耶が楽になれるように、引継ぎ作業をしつつ、周囲にそれとなくフォローを入れてもらえるように頼みまわる中、現場において一括して指揮することを頼まれたこの男は、皆が寝静まった世深け過ぎにおいて、一人で黙々と『訓練』に明け暮れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 分厚い雲が星空を隠した夜更け過ぎ、学園の時計塔の頂上に、素手と素足で上り詰めた上半身裸の陽太は、全身に汗を噴出しながらも、厳しい死線で何も写さぬ曇り空を見つめ続けていた。

 

 ―――今のお前では、100%『あの女』には勝てない―――

 ―――全ての操縦者が辿り着くべき、究極の境地『スカイ・クラウン』―――

 

 己の師である千冬の言葉を、普段は半信半疑で受け流しているように見せ掛け、彼自身は頭の片隅でそれが事実であると無意識に捉えていた。

 

「くっ!」

 

 そのためか、特に一人の時間になると心の中から噴き出す、アレキサンドラ・リキュールへの敵愾心、自分よりも格上であると称されるその実力に、苛立ちと焦りを感じずにはいられなくなるのだ。

 フラストレーションが溜まる中、彼は意を決するように視線を地面に向けると、その苛立ちを振り切るように、軽いジャンプで手すりの上に登ると、なんと頭から地面に向かって飛び降りてしまう。

 

「!!」

 

 他者から見ればどうあがこうが投身自殺をしている風にしか見えない。しかも塔の高さは優にビルの10階以上に相当する高さがあるのだ。

 

 だが、IS戦闘の申し子とも言われる陽太にとって、ビル10階からの落下の速度と高度など、まるで児戯にも等しく、若干の高揚感を与えても、恐怖などまるで感じることはない。

 そして彼は垂直に落下しながら、塔の壁を蹴り、あろう事かジグザグに動きながら更に加速し始める。地面にどんどん近づき、その瞳に地面以外の『モノ』を映していた陽太は、地上ギリギリ………それこそ高度10cmを切った瞬間、その右手を高速で地面と顔の間に差し込む。

 

 ―――舞い上がる粉塵と衝撃波―――

 

「……………」

 

 木々を揺らし、落ち葉を舞い上がらせた陽太は、右手にISを部分展開し、片手一本の逆立ちの状態で地面に着地する………部分展開する速度もさることながら、落下の衝撃を受けても微動だにせずにそのままの状態で停止できるほどに、身体能力と操縦者としての高い能力を持ちえる陽太にとって、やはり『この程度』の訓練では、物足りなさを感じて仕方ない。

 

「………違う」

 

 第六感超える、第七感の感覚領域である『スカイ・クラウン』に辿り着こうと必死になる陽太だったが、それは当初の思惑を超えるほどに難航していた。

 千冬曰く『自身で掴むしかない』という言葉は、理屈の上ではわかる。誰だって自分の視覚や聴覚を教えることなどできない。『見ろ』『聞け』………そう言われれば事足り事あり、誰もが意識することなく使えるものなのだから。

 自分の感覚である以上、自分の中に存在している第七感を、自身で感知しなければ意味がないということも理解はできる………だが理解できているからといって、今まで存在すら考えたこともない自分の感覚を呼び覚ますなど、何をどうすればいいのか、皆目検討もつかない。

 ひそかにカールや真耶などのほかの教師にもそれとなく聞いては見たものの、『スピリチュアは専門外』『先生、オカルトはちょっと………』っと、真面目に取り合ってもくれないのだ。もっともカールは操縦者ではないし、真耶に至っては、失礼かもしれないがあらゆる面でIS操縦者としては陽太の方が上である、IS操縦に関してのことを知らなくても無理はなく、ましてやスカイ・クラウンの存在など千冬以外知っていそうな事柄でもないのだ。

 

「どないせいっちゅうねんッ!?」

 

 軽く腕の力だけでジャンプし、空中でひゅるりと回転しながら地面に着地した陽太は、八方塞がりの現状に頭を抱えながら座り込む。

 

「(何をどうすれば第七感って目覚めるの? 催眠術? ヨガ? それとも仙人に弟子入り?)」

 

 最新鋭兵器を扱う訓練から遠ざかっている事に気がつき、『ISとか全然関係ないし!!』と呟きながら夜の地面の上を一人悶える陽太………見た目は珍妙だが、本人としては深刻に悩んでいるらしい。

 

 だが、そんな陽太を見かねた一人の人物が、彼の頭に無造作にタオルを落とす。

 

「!?」

「こんな夜更けに精が出るな………だがオーバーワークは感心できんぞ?」

 

 厳しい表情を作って彼に警告したのは無論、彼が唯一(でもない)頭が上がらない師匠たる千冬であった。

 本来ならとっくに就寝しているものだと思って油断してただけに、彼女の姿にビビッた陽太が後ずさりしながら問いかける。

 

「おい、もう寝たんじゃないのか?」

「どっかの馬鹿が、空の上から落っこちるという馬鹿な修行をしているのでな、心配で見に来たんだ」

 

 馬鹿呼ばわりされた陽太はというと、苦虫を潰すかのような表情になりながらも、反論したらまた殴られそうな予感がしたのか、タオルで汗を拭きながら話題を切り替える。

 

「それよりも………例の事、一体どうなってんだ?」

「『マリア・フジオカの現状』か………」

 

 その問いかけに、彼の目を見ず伏目がちになる千冬の表情に、陽太は先ほどとは別の意味で表情を苦くした。そして彼女からの回答は、案の定、予想の範疇のものであったのだった。

 

「IS委員会に問い合わせても『現在取調べ中だ』、直接面会を求めても『それはできない。守秘義務が課せられている』の一点張りだ」

 

 アレキサンドラ・リキュールが言い放った『マリアはすでに死亡した』という言葉を受けた陽太は、その日のうちに千冬にすぐさま彼女の現状を問い合わせたのだが、千冬自身も護送後の情報が一切伝わってこないことに疑問を覚えていたらしく、IS委員会に何度も問い合わせたものの、返ってきた言葉は上のものだけであり、二人にひどい不信感を与えていた。

 

「祖国のスイスの方にもツテを頼って聞いてみたんだが、そちらの方も彼女の身柄の一切をIS委員会に『譲渡』しているそうだ」

「『譲渡』? アイツを物扱いしてんのか!?」

 

 スイスと委員会の彼女のへの扱いに憤慨した陽太は、汗をふき取ったタオルを近くに置いてあったバッグにたたき付け、今すぐにでも直接IS委員会の本部に乗り込んでやろうかと本気で考え出すが、それを見透かした千冬が呆れ顔で静止する。

 

「馬鹿なことを考えるな。お前だけで取れる責任ではなくなるぞ?」

「だけどなっ!?」

「マリアのこともそうだが、どうやらこれからは回収したオーガコアを本部に容易く渡すこともできないようだな」

 

 亡国機業とIS委員会が裏で一枚つるんでいる………その可能性が極めて濃厚になってきたことに、千冬と陽太に強い危機感を覚える。

 本来は後ろ盾になる組織そのものが敵に通じているということは、容易に自分達の寝首をかける状況を作れるということだからだ。仮に組織全体ではなく、一部の人間だけの関わりだったとしても、これからは誰をどのように信じたらいいのか、それすらもあやふやになってしまいそうになる自分たちの状況に、苛立ちを覚えて仕方ない陽太であった。

 

「イラつくぜ………表でヘラヘラこっちを信じてるフリして、裏で笑い飛ばしてるって事だろうが?」

「そちらの調べは最重要項目として、とある人がおこなってくれることになっている。安心しろ、信用のできる人物だ。お前は当面、現場の方に専念しろ」

「とある人物って………誰だよ、ソイツは? 名前も知らん胡散臭い奴信じろって言われてもできっかよ!」

 

 ブスッとした表情で言い放った陽太であったが、そんな彼の側頭部を千冬の拳骨が強襲する。

 

 ―――ゴスッ!―――

 

「ギャンッ!!」

「(お前がいつも失礼を働いて申し訳ないことこの上ない学園長だと言えたらどんなにスッキリするだろうか)お前が知る必要はない。今はな」

 

 『私の事、当分内緒ね。その方が色々と面白いから♪』といらん茶目っ気を見せる学園長と、地面に転がりながら悶え苦しむ陽太の間に挟まれた千冬は、深い深い溜息をつく………持病の進行速度加速の件は、半分はコイツ等の責任だと思いながら………。

 

 

「てか、寝ろ。入院前になんかあっても責任取らんぞ?」

「………陽太」

 

 ようやく痛みからカムバックし、『病気治ったら絶対に倍返しに殴る』と心のに誓いながら、バッグから上着のTシャツと、スポーツドリンクを取り出していた陽太は、自分の名前を呼んだ千冬の方に嫌そうな顔をして振り返る。だが………。

 

「焦るな。そして独りだけで答えを出そうとするな」

 

 いつになく真剣な表情をした威厳ある師としての顔を見せた千冬がそこに立っていたのだ。

 

「お前には才能がある。それ以上の負けん気と根性もある。師などいなくともお前ならきっと天才と呼ばれていただろう」

「……………」

 

 師として、弟子が限界を感じて内心焦っている事、それを乗り越えようと『壁』が立ちはだかっていることを理解しているからこそ、彼に見失って欲しくないことがあると、伝えようと言葉を紡いだ。

 

「だが、独りには決してなるな。周囲との『ズレ』を、『壁』を感じても、決して誰かと判り合う事を諦めるな………そうすれば、きっとお前の中のスカイ・クラウンを掴む事ができる」

「……………千冬さん?」

「お前は独りではない。仲間がいる。友がいる。想ってくれる者がいる………孤高の存在などには決してなるな………『アイツ』と、先生と同じようにな」

 

 それだけ言い残すと、千冬は寮に向かって歩き出していく。

 後に残された陽太は、千冬の中にあった微妙な感情の揺れを感じ取り、思わず呟いてしまう。

 

「………なんでそんな遺言みたいな言い方すんだよ?」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 あの後、引継ぎとトーナメント運営のためにいろいろと忙しい千冬と落ち着いて話ができないままに時間だけが過ぎた陽太は、結局何も聞きだせずにトーナメント当日を迎えてしまう。

 最も、トーナメントを開くにあたり、最初からエントリー除外を受けている対オーガコア部隊の面々にしてみれば、むしろ平日の授業を公然とパスできるとして、顔に出してはいないものの、皆がリラックスした表情で、人の少ない食堂で優雅に遅めの朝食をとっていた。これはトーナメント中は授業を行わないものの、彼等の訓練に回すアリーナが存在せず、また一般学生に優先させた結果でもある。

 

 各国からVIPが大勢くるということで、亡国機業(ファントム・タスク)からの襲撃の予想も十分に考えられるだけに、トーナメント開催中は会場警備という任務を承った対オーガコア部隊は、それに向けての最終ミーティングを行っていたのだ。 

 

「じゃあ、最後の確認を取るけど、入り口付近の警備は箒と私でやるね」

 

 司会進行役を勤めるシャルが、学園の地図をテーブルの上に広げながら、人員の配置を書き写していく。

 

「会場警護といっても、我々の主任務はあくまでも亡国襲撃時の迎撃だ。見回りや映像、入り口付近でのセキュリティーチェックは先生方にお任せすることになっている」

 

 右手にマグカップを持ち、朝からステーキを食しながらも、気合の入った表情でラウラがそう補足の説明をしてくれた。

 

「そして各アリーナに、陽太、一夏、鈴、セシリア、ラウラが張り付き、有事の際には即座に対応する………無論、襲撃のあった場合、ほかのメンバーは即座にその場所に応援にいく」

「だなっ!」

 

 同じ鮭定食を食する箒と一夏が、そう言いあって頷く。その隣では、中華定食を食べていた鈴が、酢豚を摘みながら、おどけた調子で言い放った。

 

「まあっ、応援が来る前に、私なら瞬殺して終わらしちゃうかもね!」

「まあ!! 鈴さん!?」

 

 調子に乗るのは厳禁! と紅茶を片手に、イギリスの淑女は高々にポーズつきで忠告する。

 

「油断大敵と言いますわよ!? ですがご安心ください!! 通信回線は開いておきますので、いつでも助けを呼んでくださいまし!」

「 だ が 断 る !!」

 

 はっきり断る鈴と、『どうして断るのですか!?』と詰め寄るセシリア………中英の仲良し凸凹コンビのそんな漫才が始まりそうになる中、カツどんをかっ食らう手を止めた陽太が、真剣な面持ちで先日の千冬とのやり取りを思い出していた。

 

「(やっぱり何かおかしい………最近の千冬さんは何か変だ。いや、元から我侭で自己中で野蛮でいい加減で自分が気に入らんかったらすぐに俺を殴る暴力癖があって、どう見ても普通に変な女だが)………変だな」

「何が変なのヨウタ?」

 

 心の中で失礼極まること事を愚痴っていた陽太の口から思わず出てしまった言葉に、一向に話し合いに参加してこないことを心配したシャルが反応する。

 

「あっ………いや、その………食欲が出なくて」

「カツどんをすでに三杯食べてる人が言う台詞?」

 

 ほっぺたにご飯粒をつけている状態の陽太は、自分の隣にある丼を見て思わず話を誤魔化すのを失敗したことに気がつくが、引くに引けぬと強引に話を押し込もうと、握り拳を作りながら高々と言い放つ。

 

「いつもの俺ならすでに五杯目の半分ぐらいは平らげてる!」

「はいはい、食欲旺盛なヨウタ君はこれでも調子が悪いんですよね」

 

 そう言いながらも、ほっぺたについたご飯粒を人差し指で取りそれを口に含むと、無邪気そうに微笑みながらも、どこか心配そうな口調で陽太に注意する。

 

「どうせ聞いても答えてくれなさそうだから聞かないけど………あんまり無茶しないでよ?」

「お、おう………」

 

 『頬っぺたにご飯粒』『さりげない気遣い』というシャルの心配りを受けた陽太が、しばし呆然としながらぶっきらぼうな態度で答えるが、一夏達外野には見えていた。どう見ても目に見えない陽太の尻尾が嬉しさのあまりに高速で左右に揺れていることに………。

 だが、そんなシャルは陽太の様子がいつもと違うことに、この時酷く嫌な予感を覚え、そして脳裏に『彼女(アレキサンドラ・リキュール)』の姿を思い出していた。

 

「(なんでなんだろう………関係あるのかどうかすらもわからないのに、嫌な感じが止まないよ)」

 

 振り払えない嫌な予感………だが、この時のシャルには、それが数時間後、現実のものになるなどとは、夢にも思ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 VIPの来賓達に先程から頭を下げ続けていた千冬だったが、その仕事を一段落させ、とある人物に会うために職員室に向かっていた。

 廊下を歩く中、幾名の女生徒達がすれ違いざまに頭を下げる中、千冬はVIP達との挨拶の中で聞いた情報に思わず目元を険しくさせる。

 

「(近々、中東の砂漠地帯において大国間での大規模軍事演習が執り行われるだと?)」

 

 VIPの一人である某国の政府官僚がまるで世間話するかのように、そのような機密情報を千冬に漏らしたのだ。その官僚の情報管理能力の無さには呆れるばかりなのだが、問題はその軍事演習だ。

 

 なぜ、この時期にそのようなことを執り行うというのだ?

 

 昨日の太平洋艦隊壊滅の一報により、世界中の政府は亡国機業に対して警戒心を高めている。それに対応して、軍事演習をすることで亡国に対して大国達が戦力を見せつけ、敵の気勢を殺ぐことを目的にした。という理由なら理解はできなくもない。

 だが千冬はその理由を『否』だと直感していた。

 いくらなんでもそれだけのために莫大な軍事費がかさむ演習を、大国が合同とはいえ同時に行うとは考えづらい。それで亡国が白旗を揚げる確信など、誰も無いのだから………。

 

「(まさか………亡国と正面から衝突する気か!?)」

 

 千冬の背筋が凍りつく。

 オーガコアを複数所有する亡国機業と、大国の同盟軍が正面から衝突する………もしそれが本当なら、結果次第ではただ事では済まされない。

 大国の同盟軍が勝利すれば良い。

 だが万が一、同盟軍が敗北すれば世界中のパワーバランスが一気に崩壊しかねないことになる。

 

「(10年前の再来になるぞ………)」

 

 それはISが初めて歴史の中に姿を現し、そして世界中を震撼とさせた『白騎士事件』の再来を意味する。

 世界中にある種の革命と大混乱をもたらしたあの事件の再来は、今度はおそらく更なる騒乱、そしてその果てにある恐るべき事態へと発展することを意味していた。

 

 そう、この暖かな平穏の時代が終わり、世界を覆う灼熱の時代が到来することを意味している。

 

「(お前は、自身の手で『世界大戦』を勃発させるつもりなのか!?)」

 

 そしてその中心にいる者が………『彼女(先生)』から共に教えを受けた『親友』が、『彼女(先生)』が大事にしていたものをを否定しようとしているのだとしたら………。

 

「私がお前を止める。何があろうとも」

 

 それだけが自分にできるただ一つの贖罪なのだから………強く拳を握り締め、改めて決意した千冬が歩を早める中、廊下の角を曲がり職員室の入り口に差し掛かったとき、彼女が探していた人物が中から現れ、声をかけた。

 

「奈良橋先生」

「ぬっ、織斑先生!」

 

 ツナギの作業着姿に、右手で小さな箱を持っていた奈良橋も、どうやら彼女を探していたらしく小走りで近寄ってくる。

 

「対オーガコア用ISの整備(オーバーホール)、本当にありがとうございました」

「いえ、私から言い出したことですからお気遣いなく」

 

 まずは、本来なら部外者であるはずの彼が、教え子達のISの調整を無償で受けてくれたことに心からの礼を頭を下げながら送った千冬に、これ以上の気遣いは無用だと言い張った奈良橋は、もう一つ、彼女から極秘に受けた『願い事』を彼女に手渡す。

 

「調整は済みました。職員用のファイルからパーソナルデータをダウンロードしています。フィッティング(最適化処理)はいつ行いますか?」

「自分でそれは行います。これから奈良橋先生はトーナメント用ISのレギュレーションの確認があるのでは?」

「いや………確かにありますが」

「二度も無理を強いたにも関わらず、お付き合いいただき本当にありがとうございました」

 

 そして深々と頭を下げた千冬が、『それでは』とこの場を後にしようとするが、奈良橋はそんな彼女を後ろから呼び止める。

 

「織斑先生!!」

「?」

「それがどうして今更必要なのですか!? 貴方は来週から……」

「……………」

 

 奈良橋のそんな質問に彼女は僅かな時間、瞳を伏せ、そして刃のような覚悟を決めた鋭い視線でこう答えた。

 

「私が自分で選んだ責任のためです」

「!?」

「奈良橋先生………もし宜しかったら、時々、教師と生徒という形で、ウチの奴等の話を聞いてやってはくれませんか?」

「織斑先生……?」

「戦士としての戦いの日々が続く中で、せめて、貴方にはアイツ等の子供としての本音を聞いてやっていてほしいのです」

「わ、わかりました」

 

 彼が初めて見る、険しさと強さを併せ持った『ブリュンヒルデ・織斑千冬』の姿に飲まれる中、彼女は自身の願いを了承してくれた同僚教師に、最後に深々と頭を下げると、今来た道を戻り、アリーナの方に向かって歩き出す。

 

 後に残された奈良橋は、彼女のその背中を見ながら、ぽつりと呟いた。

 

「まるで………もう自分が話を聞いてやれないような言い方をされるのですか?」

 

 

 

 

 

 

 ―――関東上空約90000m地点―――

 

 真夏の陽光に晒され、黒いボディが眩しい反射光を輝かせる中、大型輸送用ステレス機『ドミニオン』の内部において、7機のISがハンガーの固定用のフレームに接続された状態で、刻一刻と迫る出撃の時に備えていた。

 

 左右一列ずつ向かい合わせにフレームで固定された、竜騎兵(ドラグナー)達と、本来は直属の部下ではないものの、今回の出撃において特別要請を受けたジークとマドカもISを展開して同行する予定なのだ。

 

 そしてそんなIS達の中で、群を抜いた巨体からくる威圧感と存在感の塊ともいえる、亡国機業(ファントム・タスク)が七人の率いる者(ジェネラル)の一人、狂戦士(バーサーカー)のアレキサンドラ・リキュールと、愛機『ヴォルテウス・ドラグーン』が、乱気流で揺れるハンガー内部でありながら、信じられないほど通る澄んだ声で全員に話しかける。

 

「では、これより作戦を行う………なあに、内容は簡単だ。私が戦う、お前達は観ていろ………それだけだ」

「「「「ハッ!!」」」」

 

 竜騎兵達にとって、もはやそれは常識となっていることであるため、当然のように四人は返事をするが、彼女の部下ではないジークにしてみれば、とても黙ってられる内容ではない。

 

「おいちょっと待て………なんだ、そのふざけた作戦は?」

「………私はいつも真面目だよ、ジーク君?」

 

 小首を可愛らしく傾げるリキュールに、本気でキレそうになるジークだったが、流石に自分よりも階級が上の人間相手に安易に怒れないと自制する。

 

「てか、俺達も見ているだけなら、何でワザワザ作戦に参加させるんだよ?」

「必要だからさ。特に君はね」

 

 『特に君は』の部分を強調するリキュール相手に、黙って事の成り行きを見守っていたマドカが不信な眼を二人に交互に向け、そしてジークにプライベート・チャネルで問いかけた。

 

『どういう意味だジーク? いつの間にお前はそこまで仲良くなった?』

『どういう意味だって言うのは俺の台詞だマドカ!? コイツと仲良くできる要素が俺の中に一つたりともない!』

『仲良くできない人間の全裸を見て、お前は鼻の下を伸ばしていたのか!!』

『伸ばしてない!! そしてそのネタをいい加減忘れロ!」

 

 プライベート・チャンネル越しに痴話喧嘩を始める二人であったが、無情にもハンガー内部にベルが鳴り響く。出撃の時間だ。

 

 ハンガーの床が開き、猛烈な突風が内部に巻き起こる中、竜騎兵達が当然のように宣言する。

 

「では、親方様!!」

「先行させていただきます!」

「いきます!」

「発し~ん!!」

 

 彼女に先行して四人の少女達が、フレームを解除して地上に向かって落下し始めた。

 

「俺たちも行くぞ」

「ッ!? 帰ってきたら質問に答えてもらうからな!」

 

 ちょうどいいタイミングだと、ジークもマドカを引き連れ機外に飛び出していく。

 

「……………」

 

 一人残ったリキュールはというと、瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。

 

 これから出向く場所には、彼女が長年待ち望んでいた敵になりうる二人がいる。

 これから出向く場所には、彼女に長年絡みついていた過去の象徴がいる。

 

 それらすべてに彼女は思いを馳せ、高々と言い放った。

 

「(今日は存分に楽しもうぞ。陽太君!! 一夏君!!)」

 

 瞳を開き、それと同時にフレームを解除した彼女は、自由落下に従い、ゆっくりと地表に向かって落下し始める。

 

 禍々しい巨大な悪魔を彷彿とさせる翼を広げ、重力によって加速していく落下のスピードを緩めることなく、黒よりも尚深い漆黒の龍帝は、その視界にIS学園を、そしてハイパーセンサーが、二機のISが試合をしているアリーナを捉えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 生憎の曇り空となってしまったトーナメントだが、予報によると雨の確率は少なく、特に支障もないということで、予定通りの時刻に執り行われることとなった。

 

 アサルトライフルを構えて発砲するラファールと、それを肩の装甲で弾きながら刀を構えて急接近する打鉄。

 

 アリーナ内部で行われている激しい試合を、観客席にある入り口付近の壁に持たれながら観ていた陽太は、今朝から感じている嫌な予感が段々と強まっていることに、強い危機感を覚えていた。

 

「(何か嫌な空だ………殺気が漲ってて淀んでやがる)」

 

 今日の空は彼がいつも愛してやまない青空ではなく、灰色の曇り空なのもそんな彼の予感に拍車をかける。

 険しい表情になりそうなのを堪えながら、陽太は運営本部であるアリーナの制御室にいる真耶に通信を入れる。

 

「真耶ちゃん、何か変わったこと起こった?」

『陽太君!? せめて山田先生と言って!!』

 

 相変わらず年部相応に幼い山田を、年上の先生として扱うことしない陽太は、そんな彼女の泣き言を華麗に受け流して通信を続ける。

 

「皆に愛されてる証拠だろ、真耶ちゃん?」

『うううう~~~………私だって…これから織斑先生の代わりに、なろって……グスンッ………カッコいい大人の女性になろうってがんばってるのに……グスンッ』

「(カッコいい大人の女性が、生徒に口で泣かされるなよ?)」

 

 とりあえず今のところは何もないのか、と安堵した陽太がタバコでも吸いに行くかとアリーナ内部から背を向けた瞬間だった。

 

 

 

 ―――深海の水圧のような濃厚で強烈な殺気の塊―――

 

「!!?ッ」

 

 息をすることを忘れるほどの『何か』が上空にいる。確信して振り返った陽太が『それ』を視界に捉える。

 

 ―――腕を組んだ状態でアリーナのバリアーに激突する漆黒の全身装甲のIS―――

 

 アリーナに展開されていたバリアーがものの数秒も持たず、武装一つ、指一つ動かしていないISによって突き破られる。それが法外なシールドエネルギーによってしかできない芸当だと、この会場にいる何人が気がついただろうか?

 

 そしてアリーナに突如飛来した黒い塊が、地表に激突し、IS学園全域に感じるほどの地震を発生させ、アリーナの地面を抉り、巨大なクレーターを形成させながら土砂を巻き上げて、試合中だった二機のISをその衝撃波だけで壁際まで吹き飛ばされてしまう。

 

 アリーナの観客席から、一斉に悲鳴とざわめきが巻き起こる中、陽太はアリーナ内部に光る、7つの光点を見つけ、額から流れ出た汗を拭い去ることもできずに、土砂が巻き上がった内部を食い入るように見つめた。

 

「お集まりの弱者の諸君!!」

 

 土砂の中から、その声は響いてくる。強く、凛として、そして何よりも圧倒的な威圧感を含んだ声が、世界全てに放ったかのように鳴り響いた。

 

「私の名前は、アレキサンドラ・リキュール!! その名前を魂の隅まで刻んでおけ!!」

 

 アリーナ内部に巨大なクレーターを作った一際異彩を放つ巨体を持ったISが、上空数メートルの地点で浮遊する六機のISを従え、高々と宣言する。

 

「偽りの世界、ぬるま湯の希望は終わりだ」

 

 腕を組んだ状態で仁王立ちしていたヴォルテウス・ドラグーンが、ゆっくりと右手を差し出し、まるでこれからダンスを踊るからパートナーとして付き合ってくれ………そう言いたげに、陽太をその朱玉の瞳で捉える。

 

 

 ―――さあ、楽しい戦いの時間だ―――

 

「………絶望しろッ!!」

 

  

 GUOOOOOONッッ!!

 

 黒い龍が如きISが、歓喜の雄たけびをあげたのだった……………。

 

 

 

 

 




ちゅうことで、親方様、ダイナミック学園訪問の回………でしたw

え? ダイナミックすぎる?



と言うわけで、次回、いよいよ陽太と親方様の直接対決が始まります………そこで放たれる言葉、そして恐るべき親方様の提案……


IS学園は、果たしてどうなってしまうのか?

乞うご期待ください
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