IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さてお約束したとおりの後半部分です。

今回サブタイはFateファンなら一度でわかる最新の曲からとりました。


一人の人間から学んだはずのある三人の少女達………。


それゆえに、三人の道はこれほどまでも分かれてしまったのだろうか?

ではご覧ください


重ねた 愛おしい罪 優しい嘘 眠れぬ哀しみ

 

 

 

 

 

「…………束?」

 

 震える唇と顔面蒼白な状態で、世界的に有名な自身の親友の姿を見た千冬が一番最初に感じた感情は『恐怖』であった。

 

「(なぜ、このタイミングで私達の前に!?)」

 

 彼女の………篠ノ之束の姿。千冬は直接その眼で見ることは実は10年ぶりとなる。

 

「(いままで………決して『直接』会うことはしなかったのに)」

 

 この10年間、二人は懇意に接触は図っていたものの、その実は全てが電話かメールか手紙か、二人と直接深い係わり合いがある陽太からの伝言という全てが間接的なやり取りだけであったのだ。

 束が発見し、千冬が直接指導する陽太との初めての紹介の時すらも『ちーちゃんの弟子になる子を見つけたから面倒を見てあげて』とだけメールで送ってくるほどに、束が自分との対面を避けていたことを彼女自身も引っかかるものを持っていても、問いただすことはせずにいた。

 

 その理由こそが『恐怖』

 織斑千冬は、篠ノ之束の幼馴染であり、アリアと共に同じ教えを受けた親友であり、共に英雄『アレキサンドラ・リキュール』を心から敬愛した魂の姉妹。

 そして………自分たちが敬愛し、大恩があるはずの師を、束とアリアと……そして自分が本当の母親のように愛してハズの彼女をこの手で殺めた裏切り者。

 

「(私を………束は…)」

 

 怖くて聴けなかった。その先を想像することが恐ろしくて、彼女はいつもその先の言葉を束に問うことが出来ずにいた。怖くて、怖くて………何か本当に大切にしているモノが粉々になってしまいそうで。

 

「(私達を助けに? それとも………)」

 

 ―――それとも、アリアに代わって自分を断罪しにきたというのか?―――

 

 彼女の目的が何なのか? 揺れる瞳でその姿を見続けていた千冬の目の前で、二人の親友は変わらない笑顔を浮かべながら握手を交わしていた。

 

「10年ぶりだな束? 相変わらずどこにいてもお前の噂は耳にしていたが」

「あーちゃんの方こそ、ずいぶんド派手にやってたみたいだね! ようちゃんが接触しないようにするの苦労してたんだよ?」

「お、やはり陽太君と出会えなかったのはお前の差し金か………お前達だけで独り占めしようなど、ずいぶんと意地悪をしてくれたものだな?」

 

 物凄くフレンドリーに世間話をする二人にあっけに取られるギャラリーだったが、いち早く復活した陽太がまずは噛み付く。

 

「…………って、待てやぁっ! お前らぁっ・」

「ヨウタッ!! 急に叫ぶから!!」

 

 が、アバラの骨を四本折られているため、大声で腹筋を使うことで心臓が口から飛び出したかと思い込んでしまうほどの激痛にのたうつ陽太は、シャルの肩を借りながらもなんとか指を指しながら存在をアピールする。

 

「お、パーフェクト負け犬」

「!?」

 

 そしてそんな陽太に、ズバッと今一番言われたくないであろう事を束は言ってのける。

 

「あ、間違えちったね。お怪我のほうは大丈夫かな、口先だけが『天才(笑)』」

「!!?」

「喧嘩で唯一の無敗なことだけが取り柄だったのにあーちゃんにコテンパンにボロ雑巾にされちったようちゃんっ!! うんうん、口に出さなくていいよ~!! 『ラブリー束さんこんにちは! 貴方の事は愛してますッ!!』って言いたいんだよね!! うんうんっ!!」

「(ちきしょー! 怪我さえ無かったら今すぐド頭カチ割っちゃるのに!!)」

 

 激痛のために身動きがとれずにプルプル怒りに震える陽太と、そんな陽太に容赦なく罵詈雑言をぶつける束を見ながらシャルは思う。

 

「(ヨウタの攻撃的な性格って、この人との口喧嘩が原因じゃ?)」

「と、ようちゃんを支えてるのはどっかの泥棒猫だな。相変わらず役立たずっぽくて残念だなお前」

「ッ!?」

「シャルッ!!」

「気持ちわかるけどストップッ!!」

 

 いきなり口撃の矛先が自分に向けられたかと思うとこの失礼さである。思わず発砲しかけるがそれを両サイドからラウラと鈴が押し止める。

 

「お前らがちーちゃんの教え子達か。今はいいや、後で名前覚えておいてやる」

 

 相当上から見下すかのような発言をした後、彼女はキラキラとした瞳である二人を見つけてISをまとったまま突撃する。

 

「いっくんっ!! ほーちゃんっ!!」

「た、束さんっ!!」

 

 いきなり抱きついてきた自分の姉の親友である女性に、一夏は戸惑いが隠せずにいた。

 そもそもこの姉の親友であるはずの女性、篠ノ之束はいつもニコニコと笑いながら何かとんでもない騒動を起こす事で有名なのだが、今は状況が状況だ。

 

「ここは危ないですから、すぐに下がってくだ・」

「私の心配? いっくんはやっぱりテラ紳士ッ!! ようちゃんはそのあたり見習わないと………友達見習いなさい!!」

 

 陽太の方を振り返りながらプンスカッ!と怒る束と、親指が地面に向けられジェスチャーで『うるさい、死ね』なんて事をする陽太………なんだか普段から喧嘩が絶えない姉弟みたいな感じがして、自分と千冬とは違った感じを受ける。

 

「うんうん、いっくんは順調に成長してるね。白式も順調に成長してるよ………やっぱり『彼女』にも君は特別な存在なんだよね!」

「えっ?」

 

 何のことを言っているというのだ? 事の真相を聞きだそうとする一夏だったが、横から束に向かって腕を差し出して引き剥がし、まるで敵を警戒するかのような厳しい視線の箒が彼の言葉を遮ってしまう。

 

「一夏から離れてください、姉さんっ!!」

「お、二年ぶりのほーちゃんは、やっぱりヤキモチ焼きーっ!!」

 

 茶化した物言いに大いに神経を逆撫でされながらも、眉をピクピクと動かす程度に止めた箒が、厳しい口調で彼女に問い詰める。

 

「何をしにきたというのだ、今、この場に!?」

「ん? 友達に会いに来たんだよ? 後は、ようちゃんとほーちゃんといっくんとその他大勢を助けるのと、諸々聴きたいこととか確かめないといけないこととか山盛りてんこ盛り!!」

 

 あっさりばらした束の様子に、むしろ唖然とする箒………いつもこういうときはのらりくらりとはぐらかす場面だというのに………。

 だから血の繋がった姉妹だったからこそ気がつくこともあったのかもしれない。

 

「!?」

 

 ―――ほんのわずか、痙攣しているかのような微妙に汗ばんだ束の肩―――

 

「………姉さん?」

 

 今度は純粋に心配した口調で束に話しかけた箒だったが、それを束自身の大きな声が覆い隠す。

 

「オオッ!! これはこれはっ!!」

 

 ―――押さえ込まれるジークの姿―――

 

「にゃはっはっはっ!!」

 

 スキップしながら漆黒のISに自ら近寄ると、しゃがみながら彼女は開口一番に彼の本質に迫る言葉を発する。

 

「この子が『アンサング』?………いや、今は『ディザスター(凶ツ風)』かな?」

 

 ―――ドクンッ!!―――

 

「て、テメェ………」

「呪いという意味じゃ、あーちゃんの相棒(ヴォルテウス)を超えてるものね………23人もの生贄は美味しかったかな、『アンサング(意味を持たざる者)』?」

 

 彼女の言葉によってジークの視界が一瞬で真っ赤に染まる。

 高出力なゴーレムに二機がかりで押さえつけられながらも、激高したまま起き上がろうとするジークは、彼女をバイザー越しで睨み付け、その視線で射殺そうとするほどに怒り狂った。

 

「何にも知らねぇテメェがぁぁぁぁぁぁっ!!」

「少なくともISに関しては私は知らないことなんて無いんだよ? そう。例えばそのISは………無価値で、無意味で、どうしようもないこの世界に生まれた可哀想な子達を再利用するための装置にされてたんだってことぐらいは知ってるんだから………でもよかったじゃないか。価値のない事が嫌だったんだろ?」

「!?」

「価値がようやく出たんじゃないか、ソイツ等………『喰われた』おかげで出来たデータと、そのおかげで強くなれた君。塵も積もればなんとやらだね?」

 

 その言葉を引き金に、本来のスペックでは跳ね返すことができないはずのゴーレム二機を押し返したジークが、刃のように研ぎ澄ました手刀の一閃を彼女に向かって放ち、場を凍らせてしまう。

 

「シネッ!!」

 

 ―――何も知らない、天の高みから見下しながら吐き捨てるなッ!!―――

 ―――『アイツ等』のことを何も知らないお前が、見下したような口をききやがって!!―――

 

 憎悪で真っ赤に染まったジークの渾身の一撃だったが、それが届くには彼はあまりにも周囲の状況を省みてはいなかった。

 

「………」

 

 ジークの一撃にもまったく動じることなく微笑むだけの束を守護するための銀の鋼鉄兵達は、ジークの一撃にも過敏に反応しており、彼女にその一撃が届く前にジークの手刀を二機掛りで受け止め、先ほど跳ね飛ばされた二機も加わり、計四機がかりでジークの両手両足、そして首と胴体を掴みながら今度は地面にうつ伏せの状態で叩き付けたのだった。

 

「クッ! 離せ、ガラクタ共ガッ!!」

「あー、ガラクタは酷いな~~~。これでもスペックだけなら今の君やようちゃん並の戦闘力持ってるんだよ?」

 

 一機一機が自分並みの能力を有しているという束の言葉を一切効かず、彼はなんと上司の許しが無くては使用を許可されていない、自身の愛機『ディザスター』の最大の武器を使用としようとする。

 

「今すぐそのムカつく面を血で染めてやるよ!!」

 

 彼の意識を引き金に、取り押さえられている状態であるにも拘らず異様な気配を出し始めるディザスターであったが、そんなジークの意識が唐突に終わりを迎えてしまう………彼女の一撃によって。

 

「それ以上はペナルティーだ」

 

 ―――黒を強調したISの脊柱に突き刺さる黒鋼の拳―――

 

「ガハッ!!」

 

 敵かどうかも怪しい束の挑発を受けて易々と命令違反を犯そうとしたジークであったが、リキュールの鉄槌は見事に彼の意識を刈り取り、彼のISは強制解除されてしまう。

 

「スコールにこれ以上の心労を加えるような真似はするな………君の『ソレ』が発動しては、取り押さえるのは私でも一苦労するというのに」

 

 そして意識を失ったジークから手を離すゴーレム達を尻目に、リキュールは乱雑にジークを掴みあげると、目配りだけでフリューゲルを呼び出し、彼女に手渡してマドカの元に送ると、あえて『あんな言葉』をジークに投げつけた束に問いかけた。

 

「ウチのジーク君をあまり挑発してくれるな。普段は冷静に振舞っていても、陽太君並にキレやすいというのに」

「ニャハハハッ! それは失敬失敬!」

 

 舌を出しながら笑う束………本当に反省しているかどうかはかなり怪しいところであったが、彼女は尚を笑いながら話を続ける。

 

「うん。わかったよ………やっぱりそういうことか」

「?」

「あのIS………まだ『生きてる』子もいるってこと」

「!?」

 

 何の話をしているのか、束の言っていることに唯一感付いたリキュールであったが、そんな彼女の横をすり抜けた束は、最後に彼女自身にとっても何よりも重大な人物との『直接』の邂逅を遂げる。

 

「………ちーちゃん」

「………束」

 

 震える千冬を見下ろす束………10年越しに見つめあう二人の視線が、長い月日の中に積み重なった複雑な感情を映し、瞳の中の心が揺れ動き続ける。

 

 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはやはり束の方であった。

 

「ちーちゃん、もう駄目だよ~~。身体がをもっと労わらないと」

「た、束………私は」

「私、ちーちゃんのことなら何でも知ってるんだから。この10年間無理して投薬治療だけで留めながら、ブリュンヒルデとしてISに関わって、皆をちょっとでも導こうとしたんだよね」

 

 その言葉に千冬の肩が震える。なんとか言葉を搾り出そうとするが、うまくまとめられずに途切れ途切れになってしまう。

 

「私は、束………違うんだ。聞いてくれ」

「わかってるって………ちーちゃんは先生の跡を継いだんだよね」

「!?」

「先生の代わりに、この世界を導く英雄になろうとしたんだよね………わかってるよ。今まで一人でご苦労様………そして御免なさい。ちーちゃん一人に背負わせてしまって」

 

 束の腕がゆっくりと千冬の首の周りに回され、彼女の暖かな体温が千冬を包み込む。

 

「もう一人で頑張らなくていいよ。もう一人で苦しまなくていいよ………後は私が引き継ぐ」

 

 暖かな言葉と、束の匂いが千冬を包む中………彼女は口にする。

 

 ―――先生ノ平和ヲ実現サセルタメニ、虫ケラ共ヲ根絶ヤシニシテアゲルネ―――

 

「………束?」

 

 先ほどまでの暖かな空気が一瞬で絶対零度にまで凍り付き、千冬の背筋が凍てついてしまう。

 

「準備は整ったよ。偽りの10年間で、いろいろふざけた方向に進んじゃったけど、これからはきちんと先生が望んだ平和を私が実現してみせる」

「………束」

「先生に守られて、先生に支えられて、先生が命を賭けたのにッ!!………それを忘れようと、なかったことにしようとした世界は終わるんだ」

「束ッ!!」

「これからは先生の遺志が世界を統べる。私がそれを成す。正しい平和が訪れるんだ。先生が望んでいた平和が………これで先生も安らげるよね」

「………私が」

「その前に間違いを正さなきゃ………まずは先生をなかったことにしようとした国を地上から根こそぎ滅ぼして……後はISのことを勘違いしてる馬鹿共をひねってあげて」

「私のことがッ!!」

「ちゃんと世界を綺麗にすれば、そこにはちゃんとした平和が訪れるよね………私達が大好きだった先生の夢が実現するんだ!」

 

 次々と恐ろしい事を口にする束に我慢ならなくなった千冬は、彼女を引き剥がして肩を掴むと、この10年間聞きたくて、でも怖くて口に出来なかった問いをぶつけた。

 

 

「私の事が憎いのか!!」

 

 

 先生を殺し、世界の嘘を守り、でも結果的にそれが原因で歪み続ける現実を作り出した事が、束は許せないのではないのだろうか? 千冬が心のまま、涙を流しながら問いかけた言葉だったが、その言葉を聴いた束は首をかしげると、何を言っているのかわからないといった表情になるのだった。

 

「何言ってるのちーちゃん?」

「わ、私が先生をッ!! この手でッ!!」

「それが必要だったんでしょう?」

「!?」

 

 息がつまり、呼吸がうまく出来なくなった千冬が、全身から冷や汗をかきながら束をゆっくりと見つめる。

 

「先生が自分で殺すように仕組んだんだよ。わかってるよ………ううん、ちーちゃんは悪くないよ」

「!?」

「私が作ったISが先生を殺したんだ」

「たばッ・」

「ちーちゃんは何も悪くないよ。先生を殺したことも、先生よりもいっくんを選んだことも、私達から先生を奪ったことも、私から先生を奪ったことも、先生を殺して世界を我が物顔で支配した気になった豚共の側についたことも、先生を殺して英雄として称えられたことも、そのせいで先生は皆に永遠に侮蔑と嘲笑の対象にされたことも、私が作ったISを先生が世界征服に使うための超兵器だなんて勘違いして先生を殺してISを奪おうとしたことも、先生が死者を出さずに必要最低限で追い払ったのに勝手に報復に怯えて責任を擦り付け合ったあげく先生が全ての責任を一人で背負うと決めた途端に手の平返して先生の策に乗ったことも、先生が死んだ途端に私にISの特許申請を認めて勝手に金儲けに走ろうとしたことも、誰も先生の生き様と死に様なんて見ずに目先の金が欲しかった事も、みんなみんな、ちーちゃんが悪いわけじゃないからね」

 

 歪んでいる。

 どす黒く歪んだ何かで、束の笑顔が歪み、目の前の親友が何か得体の知らない怪物に変貌していたことに千冬はこの時初めて気がついたのだった。

 

「………頼む。束………私が憎いなら、私を殺して終わりにしろ。お前のその憎しみで世界とそこに生きる人達まで焼きつくそうだなんて考えないでくれ!!」

 

 その言葉に一夏と陽太の表情が歪むが、千冬の思いはブレることはない。

 自分が壊してしまった世界が、親友が、自分の命一つで元に戻るというのなら喜んで自分はこの命を差し出そう。必死な思いで問うた千冬の言葉だったが、そんな彼女の言葉も今の束の心を何一つ揺らすことができなかった。

 

「もう、何を言ってるのかわからないよちーちゃん? 私が焼くのは嘘だけ。真実を世界に明かすのっ!!」

 

 彼女の変わらない笑顔を前に千冬はこの時、本当の意味で悟る。

 束が自分をやはり恨んでいる事。恨んでいるがこそ彼女の憎悪は世界を焼き尽くす気でいるのだと。

 

「先生こそが正しかったんだ。先生が望んだ平和じゃない世界こそが間違いなんだ。そうに違いないんだ」

「…………束」

 

 周りで見ている人間にも手に取るようにわかる。千冬の言葉は何一つ束に響いていない。どんなに千冬が叫んでみても、束は首を傾げるだけで取り合おうとすらしていない。

 

「それには異議を唱えさせてもらうぞ束?」

 

 だが、まったく交わらない二人の平行線の会話に、堂々と進入してくる者もこの場にはいたのだ。

 

「何かなあーちゃん?」

「正しいのは先生ではない。正しいのは『私』だ。そこは認識を改めてもらう」

 

 束よりも遥かに高い身長をしたリキュールが、彼女に近寄りながら言い放つ。

 

「もう、あーちゃん? まさか冗談で言ってるわけではないよね?」

「私は冗談は嫌いなのでな。束もいい加減『先生(親)離れ』はしないといかんぞ?」

「………先生の意見に逆らうなら、ちーちゃんでもあーちゃんでも私は容赦しないよ?」

「おお。そうかそうか。ならば私も改めて宣戦布告しないとな………先生(彼女)は負け犬だ。そして私が勝者だ。お前も素直に私に頭を垂れるなら、親友として手厚く迎えよう?」

 

 見下ろしながら微笑むリキュールと、見上げながら微笑む束………共に温厚そうな表情をしながらも、背中から発せられているオーラは、親友同士の友愛に満ちたものとはかけ離れ、戦場で刃を向け合う仇同士そのものと化していた。

 

「………やっぱりこうなっちゃったか。今日のメインはあーちゃんの意志を確かめに来たんだけど~~~?」

「お前がここに来てくれたことは予想外だったが、私も束の意志を確認できて幸いだった………つまりは私とお前で………」

 

 

「「戦争だ(ね)」」

 

 

 驚くほどあっさりと殺し合いをしようと言い放つ親友同士の姿に言葉を失くすギャラリー達。家族同然でもあったはずの同門達が極めて軽い口調であまりに重たい事態を決定したことに誰もが言葉を失くす。

 

「待てッ!! 貴様等ァッ!!」

 

 そう、彼女ただ一人を除いて………。

 

「何を考えているのだお前達はッ!! 戦争だと!? 殺し合いをしよう? 気でも狂ったとでも言いたいのか!?」

「………ハァ…千冬」

 

 お前の方こそ何を言っているのだ千冬? とでも言うように心底物分りが悪い人間なのだなとあきれた表情になるリキュールと、そんな千冬にスキップしながら近づく束は、笑顔のままで彼女に問いかける。

 

「じゃあちーちゃん!? ちーちゃん達は『どっち』の味方についてくれるのかな?」

「束ッ!! 私が言いたいことは」

「もう~~~! どっちつかずはよくないよ~? 10年前だってちゃんと覚悟を決めててくれたら、私もあーちゃんもちーちゃんに味方したのにね~~!! だからこそ………」

 

 

 ―――私がオーガコアを作らないといけなくなったんだからね!―――

 

 

『!?』

 

 全員の時間が今度こそ停止する。束の言葉の意味が、あまりにも愕然とする事実であっただけに………。

 だが束はそんな驚愕する若者達にもさしたる興味を示さず、ただ自分の実妹と弟同然の少年のほうを見ると、変わらない笑顔で聞いてくる。

 

「みんな驚いた表情になってはいるけど………少なくともほーちゃんとようちゃんは薄々予想してたんでしょ?」

「「!?」」

「それはそうだよね? 二人とも私しかISコアを作れないことを知ってるんだから、ISコアの派生であるオーガコアを私しか作れないことぐらい考えつけない訳無いもの?」

 

 陽太と箒の表情が同時に歪み、そんな二人の心境に耐えられなくなったのか一夏は必死な形相で束を説得しようと試みた。

 

「なんで束さんがオーガコアを!? オーガコアのせいでどれだけの人が犠牲になって、世界がどれだけ

混乱したと思ってるんですか?」

「それは違うよいっくん?」

「?」

「オーガコアによって犠牲になった人間は………先生の平和には必要じゃない人間だったんだよ」

「!?」

 

 彼女のその言葉に、陽太と一夏の脳裏にオーガコアによって人生を狂わされた人達の姿が一瞬で過ぎる。

 

「オーガコアは云わば世界を浄化するための装置なんだ。自分の欲望で我を忘れる程度の人間相手には丁度良いじゃないか!! 君達も見ただろ? 過ぎたるモノを求めて狂う操縦者の姿、そしてその操縦者をコントロールしようと逆に食われるバカ達………自分達がどれほど薄汚れているのか知らないから、あんな無様な…」

「ふざけるなぁっ!!」

 

 大声で叫んだ一夏に、束は一瞬だけ言葉を詰まらせる。

 対して一夏は彼女の看過できない言葉に、激しい怒りを覚え、束に一歩一歩近づきながら叫び続ける。

 

「そんな身勝手な理屈があってたまるかよ!! 丁度良い? 平和には必要ない? 束さん、アンタ自分が何を言ってるのか本当にわかってるのかよ!?」

 

 ―――オーガコアが原因で理不尽に姉が死んだマリア、そして物言わぬ身体にされてしまった簪の姿―――

 

「俺は認めないぞ!! そんな勝手な理由で、傷つけられなきゃいけない人間がいるなんてことをっ!!」

 

 そんなこと認めてたまるか。家族を奪われてしまった苦しみが、親友を助けられなかった悔しさが、当然のことだなんてまかり通ることを一夏が、そしてこの男が許すはずもなかった。

 

「ふぬはっ!!」

 

 ―――束とリキュールに向かって放たれるプラズマ火球―――

 

『!?』

 

 二機のゴーレムがそれぞれ自身の腕を盾にしてその攻撃を防ぎきる。そして皆の視線は釘付けにするように、痛む身体を無理やり動かしながら一夏の肩を叩いた陽太は、珍しく素直な賛辞の言葉を一夏に送ったのだった。

 

「よう言った一夏。それでこそ俺の下僕(ポ〇モン)368号」

「いつから俺はお前の下僕にっ!? てかポケ〇ンとか中途半端に古い・」

「俺達の返事は今の通りだ束………そのクソみたいな考えを今すぐ捨てるなら、半殺しで済ませてやるぞ」

 

 ヴォルケーノの銃口を束とリキュールのそれぞれに向けながら、彼は吠えた。

 

「IS学園はお前ら両方をぶっ飛ばす。平等に、丁寧に、九割殺しじゃっ!」

 

 衰えぬ闘志と、反骨精神の塊のような性根が言わせたその言葉に、束は先程までの笑顔とは一変させ、

僅かに緊張感を含んだ表情で問いかける。

 

「このISの生みの母に戦いを挑もうとか考えてるのかな~? 負け犬ようちゃんは?」

「うるせぇっ!! てかそれ以上負け犬連呼したら、光速で人生終わらせっぞっ!!」

 

 禁句を連呼する育ての母に激しく噛み付く陽太に対して、束はこれ見よがしに胸の谷間に手を突っ込むと、魅惑の隙間からピンク色のクリアカラーのUSBらしきものを取り出して、指で遊ばせながら見せつけ、そしてとんでもないことを口走った。

 

「さてとここでクイズで~す? ようちゃんが使われると泣き出しちゃうものってな~んだ! ヒントはピーマンよりも強烈です!」

「何だとッ!?」

「動じるなよッ! それとピーマン食えないとかどんだけ小学生なんだよ!!」

「正解は…………世界で唯一つの『全ISの強制干渉制御装置』でした~!!」

 

 IS学園側も亡国機業側もその台詞には背筋を凍らせ、武器を用いて直ちに彼女の手元から引き剥がそうと構える。

 あのピンク色の物体が本物かどうかは判別できないが、ISコアを作ったのは篠ノ之束である以上、すべてのコアにそのような細工を施していても不思議ではない。それに今の彼女の思想を聞いていれば、ISコアを停止させ、世界中を混乱させることになんら躊躇しないことも明白であった。

 

「これは掛け値なしで世界で唯一の特殊なキーで、束さんでも合鍵は作れませ~~ん!! 本当にこの世に唯一つのもので~す!」

「チッ!」

「だ・か・らっ!」

 

 『アレ』を使用されたら、オーガコアに対する対抗手段を失うことになる。そうすれば世界中でどれだけの犠牲者が出てしまうのか想像すらできない。

 何があろうともそれだけはさせないと身構える陽太だったが、しかし束はまるで最初からそうすることが目的だったかのように………。

 

 ―――あっさりと目の前でへし折り、地面に欠片を落とすと更に念入りに踏み砕いた―――

 

「なっ!!」

「これでISに対しては束さんももう強制的に干渉する手段を失いましたとさ♪」

 

 絶対の切り札とも言えた物をあっさりと破棄したことに驚きが隠せない陽太達だったが、束はさっきまでの血の通わない得体の知れない怪物の表情から、血の通った陽太がよく知る『篠ノ之束』の表情となって彼らに話しかけた。

 

「今日のあーちゃんとの奮戦と、ようちゃんといっくんの決意のご褒美にしてあげる」

「………どういうことだ?」

「だって戦いなんだから………簡単に勝負が決まっちゃつまらないよね? あーちゃんもそう思うでしょ?」

「ああ、勿論だよ束」

「だから、向かってきなよ学生諸君? 私とあーちゃんは世界を壊す。君達がそれを阻止する。分かりやすい構図になったね」

「無論、私と束も対立する………三つ巴とは中々面白くなってきたな」

 

 二人が簡潔に状況をまとめる言葉を述べたのを受け、陽太達も対抗するように言い放った。

 

「ああ、俺達が束さんと亡国機業を止めてみせる!」

「うん、これ以上貴方達の好き勝手にはさせない!!」

「あんまりテロリスト共が調子に乗らないでよ!」

「そうですわ、ましてやっ!!」

「教官を侮辱して否定したお前達を、私は許んぞっ!!」

 

 一夏、シャル、鈴、セシリア、ラウラと吠える中、箒は一歩前に出て、実の姉である束に揺れる瞳で問いかけた。

 

「姉さん………」

「ん? どうしたのかなほーちゃん?」

「………私は……許さないっ!!」

 

 空裂の切っ先を束に向け、彼女は今にも泣き出しそうな表情で激しくまくし立てた。

 

「貴方がオーガコアを作ったせいで、簪が………私の親友が深手を負って今も意識が戻らないっ!!」

「……………」

「ましてや、貴方のせいで私達の家族はめちゃくちゃになったというのに………どうして貴方はいつもそうやって自分勝手なんだ!!」

「……………」

「答えて………姉さん。なんで? どうして?」

 

 自分達家族よりも今はもういない恩師の遺志の方が大事なのか?

 では自分は? 父や母は貴方にとってなんだったというのだ?

 どうか答えてほしい!! そんな縋るような妹の瞳を受けた束はただ微笑み返しながら呟く。

 

「ほーちゃんは相変わらず本当に優しい子だね………私をまだ姉さんと呼んでくれるんだもん」

「姉さん!? 今は私が言っているのは!?」

「『あの人達』はとっくの昔に私の事が娘じゃなくなっていたのにね?」

「!?」

「先生との約束………ただ一つだけ守れそうにないものがあるね」

 

 遠い日に恩師との間に交わされた約束の中に、どうあがいても自分ではかなえられないものがあるのだと思い知り、驚くほどに自分の心に痛みが走っていることに内心で驚きながらも、彼女はまったく表情を変えずに妹に背を向け、再び親友達の方に向く。

 

「それじゃあ私も続きに参加しようかな?」

「ほう? 私対束対陽太君達か………流石に分が悪いな」

『!?』

 

 腹心である竜騎兵達ですら聞いたことがない暴龍帝の『分が悪い』という発言に、亡国サイドが戦慄する。

 『あの』天上天下唯我独尊唯一絶対のプライドの持ち主であるリキュールが自身の劣勢を口にするなど、有り得る訳がないと思っていただけに、竜騎兵達は特に信じられないものを見るかのような目で主の姿を無言で凝視し続ける。

 

「(これで一応の体裁は整ったな。ナイスだ束)流石に時間をかけすぎた………今回は私の敗北ということにしよう、IS学園諸君?」

「………はあぁっ?」

 

 『いやぁ~~負けた負けた。完敗だ』とどう聞いても余裕しか感じられない声に、屈辱と敗北感で燃え滾っている陽太が両手のヴォルケーノを構え、振り返れと叫ぶ。

 

「んなもん認められっかぁっ!! こっち向け爆乳ッ!! きっちり俺がぶっ殺してやるッ!!」

「………では言い方を変えよう」

 

 ―――静かに振り返った紅玉の瞳が、暴龍の咆哮の如き殺気を陽太にぶつける―――

 

「!?」

 

 桁違いの殺気と負傷の痛みによって膝を突いてしまった陽太を見ながら、リキュールは静かに言い放った。

 

「陽太君、一夏君達も、今よりも遥かに強くなれ。本気の、全力の私が殺したいと思えるぐらいに」

「な………にぃっ?」

「私と互角に戦えるようになったら挑みにきたまえ………全力で私も応えよう」

 

 あくまでも自身と互角の強敵を望むリキュールは、あえて陽太に屈辱感を植え付けた上でこの場を去ろうとする。

 彼ならば近い将来必ずその領域まで来ることができる。そう確信したが故に、今日の自分は敗北したのだ。最強のアレキサンドラ・リキュールを敗走させた彼らはこれから台風の目として世界に注目され、それによって様々な試練が降りかかってくる。そう………試練こそが人を強くするのだ。

 

「さて………私は今日は帰らせてもらうが」

「待てッ!! アリアッ!!」

 

 引き上げようとするリキュールを、彼女は何とか引きとめようとあえて忌み嫌っている本名を呼んだ。

 

「………何度も言わせるな千冬。私が『アレキサンドラ・リキュール』だ」

「違うッ! お前はッ!!」

「………その者はお前が殺した。その者の刃は操縦者としてのお前を殺した。それが10年前の全てだ」

「!?」

「わかったな千冬? 私もこれ以上はお前を責めまい………もはやお前は『終わった』のだ」

 

 今度は地に膝を突いたままの千冬をリキュールが哀れむような瞳で見下ろしながら話す。

 

「お前は陽太君達を育てた。それはお前の功績としよう………だからこそそれ以上見苦しく昔を求めるな」

「違うッ! まだ何も終わっては・」

「『終わった』のだ………お前は最後まで選択を放棄した。自身が進むことを放棄したのだ。私や束は進むぞ」

「!?」

「お前はどうなんだ束?」

 

 愕然と震える千冬と、そんな彼女を見ながら束も優しい口調で『最後通告』をする。

 

「……………ごめんね、ちーちゃん?」

「束?」

「もう………私達戻れないよ」

「!?」

 

 ―――何かが千冬の中で崩れ落ち………――― 

 

「もう私達は昔に戻れないんだ……………でも、それがわかるまで随分長く時間がかかったね?」

「ち………が…う」

 

 胸を押さえながら荒い呼吸と滝のような汗を流しながら、彼女は束に声だけで縋りついたのだ。

 

「また………私……たちは……」

「じゃあどうして?」

 

 ゆっくりと千冬が束を見上げる。

 

「どうして?」

 

 その表情………10年ぶりに見る、束の真の感情………怒りに燃えた瞳が千冬を捉える。

 

「どうして、私とあーちゃんが守ってほしかった先生をちーちゃんは殺せたの?」

 

 ―――彼女の中にあったものが―――

 

「貴方が壊した私達の優しい世界………」

 

 ―――本当に大切に思っていたモノが―――

 

「返して、ちーちゃん?」

 

 ―――粉々に砕け散った―――

 

 もうその言葉に千冬は何も答える事ができない。ただもう隠せない涙を流しながら首を横に振り続けることしか彼女には許されなかった。

 

「さようなら、ちーちゃん」

 

 硬く凍りついた言葉を投げかけたまま、千冬の横を通り過ぎ、陽太達に話しかけた。

 

「じゃあ、私も帰るね! 今後の戦い、よろしくっ!」

「………ッ!」

「ようちゃん?」

 

 無言で拳を握り締めた陽太が突然、束に殴りかかろうとしたのだ。

 

「ヨウタッ!!」

「いけませんっ!!」

 

 だがそれを背後からシャルとセシリアに羽交い絞めで止められてしまう。理由は明白。陽太が動き出した瞬間から束の周囲を守るようにゴーレム達が高出力のビームキャノンを展開してたのだ。

 

「これ以上戦ったら本当に命にかかわるんだよっ!」

「ッ!!」

「今はお願いしますから、どうか我慢してください!!」

 

 シャル達も陽太の怒りの理由が手に取るようにわかる。

 

 彼女の背中が語っていたこと………千冬は二人の親友を止めたいと言っていたが、本当は償いたかったのだと。自分のせいで大切なものを失ってしまった二人に、自分が大切なものを奪ってしまったことをずっと償いたくて、二人にこれ以上の過ちを犯してほしくなかったのだ。

 だが、二人はそんな千冬の気持ちを知りながらも歯牙にもかけず見向きもしなかった。

 

「俺が………お前等をぶん殴るッ!!」

 

 流れ出た感情が行き着き、その言葉に集約されるのを感じた束も、また笑顔でそれを受け止める。

 

「へぇ? 流石だねようちゃん達は………流石、先生の後継し・」

「知るかッ!! そんな奴の事なんざッ!!」

「!?」

「俺は俺の意志でテメェ等をぶん殴るッ!! 英雄だの平和だの知ったことかッ!! こっちから願い下げだボケッ!!」

「………」

「お綺麗な理由なんかいらん。腹立たしくて、苛立たしくて、頭にくるお前等をぶん殴るのにそんなもんが必要かっ!?」

「………そう」

 

 感情のまま、あるがままに自分に怒りを感じる陽太の姿に束は何を見たのだろうか?

 ホンの僅かな間、瞳を閉じ、何かを感じ取りとりながら再び開いた眼(まなこ)が、しっかりと彼を捉えつつその成長を喜ぶ気持ちを若干映したのだった。

 

「変わったね、ようちゃん」

「?」

「昔はそんな風に真っ直ぐに怒る姿を見せたことなかったよ」

 

 歳不相応な大人な表情を浮かべることが多かった少年が、まるで年頃の少年のように、自由に自分の気持ちを表現している。

 そして言葉の中に、束自身のことを案じているからこその怒りがあることに、本当にうれしい気持ちで一杯になり、そしてもう自分の腕の中にはいないという寂しさを感じつつ、誤魔化す様にいつもの意地が悪い笑みを浮かべた。

 

「変わった………っていうよりも、そういうことができる自分がいるんだって気がついてくれたのかな?」

「!?」

「………やっぱり君はIS学園(ココ)に来るべきだったんだよ」

 

 もう少年は自分の元を巣立った………本来あるべき場所に戻ることができた。

 ならば自分はこれで心おきなく自分が決めたことを成す事ができる。

 

 

「改めて………サヨナラだよ、ようちゃん。今度会うときは敵としてだね」

「束………覚えておけ」

 

 ただならぬ決意を宿している束の瞳を受け、陽太もこれ以上ただの言葉で束が止まるとは考えず、真っ直ぐに見つめ返し、言い放つ。

 

「俺がお前をぶん殴る。いいか………お前を殴って止めるのは俺だ」

「………いいね、ソレ。今までで一番響いたよ」

 

 それだけ言い交わして去っていこうとする束であったが、陽太達の隣を通り過ぎようした束をシャルが呼び止める。

 

「篠ノ之束さんっ!!」

「?………いたのか、泥棒猫」

 

 自分の存在を完璧に忘れ去っていた束にむかっ腹が立ったシャルだったが、今はとりあえず横においておくことにする。

 

「質問があります」

「私にはないよ。てか忙しいんだから気軽に話しかけてくるなよ~~~。この間までシーツに包まってメソメソ鼻水垂れ流したくせに」

「そ、そんなことしてませんよ!!」

「鼻水?」

 

 『何の話?』と食いついてくる陽太を眼光一線で黙らせたシャルは、これ以上余計なことを言っていては聞く前に逃げられると感じ取り、手っ取り早く話の本題に入るのだった。

 

「あなたがオーガコアを作ったというなら………じゃあ、ISっていったい何なんですか!?」

「……………」

「答えてくださいッ!! オーガコアを作って世界を混乱させてるのに………どうして貴方はISをヨウタに、私たちに渡したんですか!?」

 

 オーガコアで世界を破滅に導きつつ、ISを開発してそれを食い止める。

 明らかに矛盾する行動に疑問を感じたシャルのその言葉を聴き、束はにやりと意地の悪い笑みを浮かべると、彼女は人差し指をゆっくりと地面に向ける。

 

「泥棒猫のくせに、良い所に勘付くな、汚い泥棒猫。流石は汚い泥棒猫」

「ケンカ売ってるんですか!?」

「そこまで気がついたのなら、考えてみろ………自分たちが今、何の上に立っているのか?」

 

 束の言葉に半ギレ状態になるシャルだったが、束が何を指差しているのかわからず、そのままの状態で乱暴な言葉で問いかけた。

 

「人を馬鹿にするのもいい加減にしてください! 地面見てどうするっていうんですか!?」

「やっぱりそこがお前の限界だな、半端ボイン」

「半端って!?」

「考え続けろ………『IS(インフィニット・ストラトス)』という名前に込められた『願い』と『祈り』を」

 

 ―――ISという名をつけた先生の『願い』と『祈り』を―――

 

 最後、束が何を言っていたのか小声過ぎて聞き取れなかったシャルを尻目に彼女はゴーレム達を引き連れて、空に飛び上がっていく。

 

「……………」

 

 そして最後に、ただ呆然と立ち尽くす千冬の姿を一瞥し、そして振り切るように前を向くと、二度と振り返ることなく空の中に消えていったのだった。

 

「さあ、私達も帰るとするか」

 

 束の姿を見送ったリキュールも、気を失っているジークを小脇に抱え、IS学園に背を向けて飛び立とうとしていた。

 

「今日の戦いは本当に楽しかったぞ陽太君。よかったら今度二人っきりでディナーでもどうかな?」

「結構ですっ!!」

 

 むしろ陽太よりもシャルがすばやく反応し、そんな彼女のリアクションが気に入ったのか、先ほどの話に一つ付随するような形でリキュールがシャルに言い放つ。

 

「ずいぶんと独占欲が強い小娘だな。私相手だと陽太君が浮気しないか心配なのか?」

「だ、誰がっ!?」

「では勘のいい小娘に特別サービスだ…………ISの名は約束でもあるのだよ。遥か遠い未来への」

「み、未来?」

 

 意外な言葉に首をかしげるシャルだったが、頭の中で束の言葉と行動、そしてリキュールの言葉の意味を考え始める。

 

「考え続けろ、次代の守護者に『なるかも』しれない者達………私達は私達の道を行く。三つ巴だ」

 

 今日の束の話を聞いて、自分と束は考え方は似ていても最終地点が全く違うこと。それゆえに交わることが絶対にないことを悟ったリキュールは、これからの世界の勢力図がどう変化するのかを感じ取り、身体の奥底から湧き上がる喜びに打ち震えていた。

 

「(さて、先ほどからスコールのラブコールも続いていることだし)」

 

 三秒おきに点滅する通信回線の呼び出しに、当然こちらの映像をモニタリングしているスコールが血相を変えて自分に問い詰めてくる未来図にも、今のリキュールは何一つ臆することはなかった。絶対に『なんで篠ノ之束と勝手に交渉決裂してるのよっ!! 言葉と友情を盾に懐柔せんかっ!!』と怒鳴ってくることは明白である。

 

「……………」

 

 そしてリキュールの視線が束同様に千冬の背中を捉え、瞳に複雑な心境を浮かび上がらせる。それは彼女への同情なのか、憎しみなのか、哀れみなのか、怒りなのか………それとも失われたはずの友情なのか。だが自分の心の内を覗くことを止めたリキュールは千冬に背を向け、『最後』の別れの挨拶をする。

 

「さらばだ千冬。もうお前とは会うこともあるまい」

 

 別れの言葉を残し飛び立つリキュールと、黙ってそれに付き従う竜騎兵達………そして彼女の達の一番最後に、姉の背中を何度もチラ見しながらも暴龍帝達の後をマドカは追うように飛び立って行くのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「チッ………何が勝ちだ!?」

 

 束や亡国機業達の背中を送り出した陽太達だったが、現状彼らに勝利の余韻に浸ることなど出来はしない。

 それは束やリキュールから聞かされたISに関わる秘密と、その影に隠されていた歴史の真実。そしてオーガコアの真相や千冬が背負った罪が、あまりにも重すぎたからだ。

 

「とりあえず………ヨウタ、カール先生に」

 

 重症の陽太をどうにか医務室に送ろうとするシャルだったが、陽太がそれをやんわりと拒否する。

 

「俺よりも先に医務室に行く奴がいるだろう?」

 

 彼の視線の先にいる、呆然と立ち尽くす千冬を見る。そしてそれは一夏も同様で、静かに彼女のに近寄ると、痛々しい背中に手で触れようとする。

 

「千冬姉………今は、カール先生に・」

 

 これ以上の負担は素人目で見ても良くない。すぐさま医務室、もしくは病院に行ってもらおうとしたのだったが………。

 

「ガハッ!!」

 

 ―――大量の吐血をした千冬がゆっくりと地面に倒れようとする―――

 

「千冬姉っ!!!」

 

 それを悲鳴を上げながら寸での所で受け止める一夏。そして陽太達も慌てて駆け寄ってくる。

 

「千冬さんっ!!」

「教官っ!! しっかりしてくださいっ!!」

「早くカール先生をっ!!」

 

 陽太、ラウラ、シャルが血相を変えて叫ぶ中、一夏の腕の中で顔を真っ青にして苦しむ千冬がゆっくりと瞳を開く。

 

「い………ち…か?」

「千冬姉ッ!?」

「わ………た………し…は」

「もういいよっ!? 喋んなくていいよっ!! だから頼む。死なないでくれよっ!! 生きてくれよ千冬姉ッ!!」

 

 涙を流しながら腕の中の千冬に彼は懸命に『生きろ』と伝えてくる一夏に、大量の血で濡れた手をゆっくりと上げて、その頬に触れる。

 

 ―――私は失敗だらけだな―――

 

 ―――先生を守ることも、親友達を止めることも出来なかった―――

 

 だんだんと千冬の力が抜けていくことが一夏には理解できたのか、さっきよりも遥かに懸命に訴え続ける。

 

「嫌だ………千冬姉ッ!! 俺を一人にするな………生きてくれよぉぉっ!!」

 

 ―――だけど……お前はいつも私のそばにいてくれたな―――

 

 ―――先生を殺した後だってそうだった―――

 

『ちふゆ姉………おかえりなさいっ!!』

 

 今でも彼女の記憶の一番深い部分にはしっかりと収まっていた。

 師を殺し、友と殺しあった後、自分は狂い死ぬはずだった………こんな理不尽で、救いのない世界で生きていくことなど当時の自分では考え付くことも出来なかった。

 

 だけど何もかも失ったはずの自分が、虚無となったはずの自分が家に帰ると、そこには自分を迎え入れてくれた一夏の笑顔があった。

 

『…た、だい…………っ、ごめんっ』

 

 昼寝をしていたのだろうか? 一夏はそのときの事をもう覚えていないだろう。寝ぼけ眼で自分の足にしがみついてきた一夏を抱きしめ、彼女は嗚咽を漏らしながら何度も言い続けた。

 

『ただいま……ゴメンッ、ゴメンッ………ただいま』

 

 あの時、彼女はようやく悟る。自分はどうしてそんな理不尽の中でも生きていこうと思えたのか?

 どんなに道に迷っても、どんなに間違ってしまっても、どうしても捨てきれないものがあったことを。

 

『待たせて……ごめんっ。待っててくれて………ありがとう』

 

 ふと、恩師が昔、何気なく自分達に聞いた言葉がその時脳裏をよぎった。

 

 

 ―――あなた達は、どれぐらい道に迷って、間違って、時間をかけて………自分の答えにたどり着くのかしらね?―――

 

 

 抱きしめながら、彼のぬくもりが自分をこの世に留まらせてくれている事。自分が彼に必要とされることで生きていることを実感し、だからこそ一夏を守りたかったのだ。

 

「い………ち………か?」

 

 彼女の血で濡れた頬に触れながら、千冬の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。

 

「千冬姉ッ!!!」

「………あ……りが……とう」

 

 ―――私をお前の姉にしてくれて、本当に幸せだった―――

 

 最後まで口に出来なかった言葉………そして千冬の瞳がゆっくりと閉じられ……。

 

「千冬姉?」

 

 ゆっくりと崩れ落ちた手が………。

 

「千冬姉ッ!?」

 

 地面の上に落ち………彼の慟哭が夕日に染まるIS学園に響き渡った。

 

 

 

「千冬姉ぇェェェェェェェェェェェェェェッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のあとがきは少々長く予定なので、活動報告のほうに書かせていただきます。





 嵐は過ぎ去り、IS学園には静寂が訪れる

 己の無力を嘆く少年

 非力に苛立つ少年

 何もできずに見守る少女達


 そして彼女は、再び己が師と邂逅を果たす


 次回、太陽の翼

 『いつか君に届くはずの 名も無き幼い詩が描くワガママ』



 今は泣こう 
 
 また明日、立ち上がるために


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