IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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自信がありませんが、大規模戦闘シーンの開幕となる今回………さあ、ちゃんと書けるかな?



さあさあ、タイムリーネタも新キャラも飛び出すこのお話、最終的にどう着地するのかな?


あと、今回の登場のオリジナルキャラについて、ハーメルンに投稿中の『IS<インフィニット・ストラトス> AAA(ノーネーム)』作者の一徒さん、ご許可とご協力大変ありがとうございます。





閉ざされる世界の輪(前編)

 

 

 

 

 

 ―――こんな馬鹿なことがあってたまるか!?―――

 

 熱気が肌を焼く砂漠において、西の夕焼けと東の空から現れた月が星の群れを連れた空の下、一人の名も知られていない兵士がボロボロの身体を起き上がらせ、周囲を見回し、絶望する。

 

 自分と同じような格好で生き残る兵士達がぽつりぽつりといる中で、それでも数の少なさに驚く。つい数分前までこの地域には数万人という数の人間がいたというのに、見渡す限りでもはや数十人といるかいないのか………。

 最新鋭の装備を揃えた連合軍、しかもその中でも選りすぐり、今回の軍事演習に借り出された優秀な兵達であったが彼らの視界一面を覆う巨大な『キノコ雲』がこの非現実的な光景が本物のものであると徐々に実感させてくる。

 

 ―――絶望に揺れる瞳が見上げる先―――

 

 一人の兵士がそれらを見つけたとき、彼らは心の中にあった仲間への復讐心も、敵への反抗心も一瞬で砕け、砂の大地に膝をつかせてしまった。

 

 

 ―――小高い丘の上で、全長数メートルのパワードアーマーの集団を率いる、夕焼けに照らされた黄金の鎧を纏った剣の騎士王―――

 

 ―――夜空に浮かぶ満月を背に、紅のISを纏う少女を従者にした月光の籠を受けた滅殺の槍を携えた女王―――

 

 ―――そして夕焼けと夜空の狭間において、10機のISを従え、銀色のボディが死と慈悲と輝く魔弾の戦天使―――

 

 

 数にすれば圧倒的に少ないはずのこの者達との戦闘で、よもやこれほどの大敗をしようなど連合側の誰もが考えてはいなかっただろう。数、質、共に圧倒していたという自負を持ち、最近少々跳ねっ返り過ぎたテロリスト(チンピラ)共に正義の鉄槌を下す。ただそれだけの簡単なお仕事だったはずなのに………。

 しかもこの結果をもたらしたのは、大部分がそれぞれの将ともいえた三機のISなのだから、彼らの絶望は一層深いものになるのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「………が、今作戦の概要です。各々、油断なきように」

 

 空中に映し出されたディスプレイに表示されたアイコンと、リアルタイム映像で写される各連合軍の姿を映しながら説明したスコールが、いつものカクテルドレス姿から白と黒のコントランスが映えるスーツに着替えた姿で全体の指揮を取るという気合の入った言葉で閉める。

 

「はいは~い」

 

 そんなスコールに向かって、いつもの和服姿のサクラが意地の悪い笑顔を浮かべながら、彼女に質問をぶつける。

 

「…………何か?」

「スコールはんの大事な大事な作戦を始める前に、是非とも聞いておかへんとあかん事がありましてね~?」

 

 超・意地の悪そうな笑顔のまま、耳にニョキリとたぬきの耳が生えるのが見えたスコールが、顔面を引き攣りながらなんとか受け応えを行う。

 

「………質問とは?」

「どうしてこないな大事な作戦を始める準備期間に、よりにもよってリキュールはんがIS学園に襲撃して、かつ敗走されてしまいはったんどすか?」

 

周囲の空気が凍りつく。それはものすごい勢いでスコールから冷気のような殺気が放たれるが、そんな事に気がついていながらあえて煽りまくるサクラに、スコールの隣で緑色の液体の入った容器に左腕を完全につけながら優雅に脚を組んでコーヒーを飲むリキュールが、笑顔で答える。

 

「よしてくれサクラ。負け犬の私に追い討ちをしてくるとは酷いぞ?」

 

 プロフェッサー特製の細胞再生装置に負傷した左腕を漬からせながらも、非常に上機嫌にそう答えるリキュールの様子を見て、誰が負けたなどという言葉を信じられよう?

 だが彼女自身が周囲に「負けた」と言い張ってやまないのだ。しかも嬉々として………まるで手柄を立てた子供を喜ぶ親のように彼女にはそれが嬉しくてたまらない様子なものだから、彼女の話に今一つ信憑性が感じられなかった。

 

「イヤやわリキュールはん? 私、何もあんさんを責めてないんやで?」

「そうなのかい?」

「リキュールはんは『戦士』として亡国におりはる。むしろ職務を忠実に果たしておりなはる上に、今回は篠ノ之束なんて隠し玉が出てきたんやさかい仕方ないどす…………ただ、戦士に指示を出す軍師殿は正直短絡的やったとしか思えまへんで」

 

 露骨な嫌味を笑顔で口にするサクラを見ながらスコールの額に青筋が浮かび上がる。そして二人の背中に狸と狐のオーラが浮かび上がりながら火花を散らしあう中、一人の少女が会議室のテーブルを右手で叩きながら立ち上がる。

 

「今は作戦前の大事なミーティングだろう!?」

 

 作戦の前の大事なときだからこそ腹が減って戦が出来なくなるようなことがないように会議中でも食事を欠かさない幹部の鏡(自称)が、左手に鮭フレークの入ったおにぎりを持ち、ほっぺたにご飯粒をつけたセイバーことリリィが二人の争いを下らないと一閃で切り落としにかかった。

 

「…………」

「…………」

「もきゅもきゅ………この大事な時に……もきゅもきゅ…何をジェネラル同士で……もきゅもきゅごっくん……仲違いをしているというのだ!?」

 

 とりあえず言うだけ言い終えると手に持ったおにぎりを食い終わり、お茶で胃袋に流し込んだリリィが至福の表情をしたのをみたサクラとスコールは、顔を見合わせるとテーブルの上におかれた残り二つのおにぎりに目をやる。

 

「?」

 

 リリィが首をかしげた瞬間、狸と狐は同時に獲物をくすねて無言で食しだしたのだった。

 

「あああああっ!!? 私のおにぎりがー!! おにぎりーーーっ!!」

 

 半泣きで二人の服を引っ張るリリィであったが、そんなことで動じるランサーとライダーではない。美味しそうにほうばる二人を相手に、ついに地面を叩きながら駄々をこね始めるセイバーと、その光景を微笑ましそうに見つめるバーサカー………。

 

「うううッ………みんな~~」

 

 そんな中で、渡された資料を真剣に読みながら作戦の内容を色々と考えていた幹部の鏡(真)であるアーチャー・トーラは一人涙を流しながら無駄な努力とわかりつつも口にしてみる。

 

「仲良く………ミーティングしようよ~~うう~~」

 

 凄く間抜けな光景ですが、彼女達………これでも亡国の最高幹部達なのです。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そんな会議室とは離れた通路の一角。通路に設置された自販機とソファに腰を掛ける竜騎兵達とジークとマドカ。

 作戦前の自由時間ではあるものの、みながそれなりに緊張感を持って待ち時間をつぶす中で、いつものようにお菓子を食べていたフォルゴーレが今回の作戦について素直な感想を述べた。

 

「てか、幹部の人達が揃って大きな作戦やるって初めてだよね~」

 

 足並みが揃わないことで有名な亡国幹部達が五人も一同に揃って現場に出張るという大作戦は、組織の構造が大改革された10年前から数えて一度もなかったであろう。そしてそれ以前の亡国というものは決して表側にその姿を現すことはなく、影の存在として徹してきた。

 

 だが、そんな日々も今日で終焉を迎える。

 それは『裏』から『表』に、『影』から『光』に………その舞台を移し、同時に世界中に自分達の姿を晒す事になるということ。

 

「でも………これで私達、晴れて本当のテロリストになっちゃうんだ」

 

 世界相手に正式に喧嘩を売るということであり、今日はその大事な初戦となるのだ。

 

「呆けてどうする?」

「……スピちん?」

 

 だが、飲み終えたブラックの缶コーヒーを握りつぶしたスピアーは、弱気になっていたフォルゴーレを叱り付けるような口調で話しかけてくる。

 そしてそんなスピアーに同調するように、自分の髪の毛を弄っていたフリューゲルも強い口調でフォルゴーレに言い放った。

 

「今更何言ってるのよ? そもそも世間で言う犯罪行為をしたのは今日が初めてでもないでしょ? それにね………この世界をぶっ壊して正しいものに作りかえるっていう親方様の理想に今更口出しするっていうなら………私はアンタでも容赦しないわよ?」

「フリューゲル? フォルゴーレが言いたいことはそういうことじゃないでしょ」

 

 見かねたリューリュクがフォルゴーレをフォローする中、壁にもたれながら窓の外を眺めていたジークにマドカが声をかける。

 

「なんだ? ガラにもなく緊張してるのか?」

「んなんじゃねーよ」

「何っ?」

「空は青いな大きいな~と」

 

 こうやって最近は上の空で自分との話を適当に流そうとするジークにマドカは密かに不満を覚えているのだ。まるで自分には決して知られてはいけない秘密でも抱えているような彼の態度に、怒りとも不安にも似た気持ちが溜まるマドカであったが、当のジークはそんな彼女の様子に気がつかず、作戦前にもかかわらず作戦後に自分が一人で起こす行動の綿密な予行演習を脳内で行い続けていた。

 

「(作戦終了後、全員が打ち上げで浮かれている中でセキュリティールームにあるメインサーバー直結の端末からデータを抜き出さねぇーと………あいつらが浮かれているうちに全部済ませる)」

 

 誰に悟られることわけにはいかない。これは自分自身だけで決着をつけるべきことなのだから。ただそのことだけに意識の大部分が裂かれてしまい、ついマドカへの対応が疎かになっていることにこの時のジークは気がつけずにいたのだった。

 

「プンッ!」

 

 このようにほっぺたを膨らませてそっぽを向くマドカの行動すらも目に映らない………そして『他所でやれよリア充共』という竜騎兵達の冷めた視線向けられていることにも二人は気がついてないのも問題である。

 

 そんな近い距離でかなり温度差が出ているグループに密かに近寄ってくる者がいた。

 

「おっ嬢さん方ー♪ そんな冷めた視線で誰を見つめてるのかなー?」

 

 黒に近い焦げ茶色の髪の毛に、上着は亡国機業の陸戦隊がよく羽織っている揃いの上着と黒いインナー、下はアーミーパンツにブーツという出で立ちながら、幼さが抜けきらない少年が、人懐っこそうな笑顔を浮かべ、そして右手に有名店のドーナッツが入った紙袋を引っさげて女子の輪に入ってきたのだった。

 

「あっ」

「ぬっ」

 

 フリューゲルとスピアーは彼の姿を見た瞬間、胡散臭そうな目になる。リューリュクはというと社交辞令っぽい笑みを浮かべながら、珍しくそれ以上踏み込まないかのような雰囲気を出し、唯一友好そうな笑みを浮かべたフォルゴーレが彼の名を呼んで手招きする。

 

「秋水(しゅうすい)君ッ!! おひさー!!」

 

 朽葉(くちは) 秋水(しゅうすい)………亡国でも数が少ない十代の『少年』の構成員であり、セイバー・リリィが率いる亡国陸戦隊の一員である。

 

「これはフォルさんおひさー! 貴方がお呼びなら何時でもどこでも駆けつけさせていただきますよ………後はい、これ差し入れ」

「!! 秋水君、さすがだよ~!!」

 

 紳士的な態度で大喜びのフォルゴーレにドーナッツを差し出す秋水。女性主権の現・亡国においてこれほど寧ろ女性との接触を避ける若い男性が多い中で、彼は変わり者のレベルで女性と接触の機会を設けようとする人物でもある。

 

「……………」

「……………」

「……………」

「♪~♪~♪~」

 

 鼻歌交じりでドーナッツを頬張るフォルゴーレを上機嫌そうに見つめる秋水であったが、他の三人は彼の視線が微妙にフォルゴーレの顔から若干したに向けられていることに気がついてた。

 

「♪~♪~♪~」

 

 ISスーツ姿のフォルゴーレが微妙に体を揺する度にプルプルと震える豊満な胸に目がいきながら、凄くいい笑顔を浮かべる秋水に対して、三人の少女は即座に行動を開始する。

 

「「「じゃ~~ん、け~~ん~~」」」

 

 三人が同時に手を上げて、険しい表情となって秋水を見た瞬間………。

 

「グーッ!」

「ゴフッ!?」

 

 スピアーのリバーブローが秋水の鳩尾に深々と突き刺さる。

 

「チョキッ!」

「ギャンッ!?」

 

 続けてフリューゲルのチョキが彼の両眼にもろに入った。痛みにより悶絶しながら両目を押さえる秋水………。

 

「パーッ!」

「ブッ!?」

 

 そしてトドメといわんばかりにリューリュクが特大のビンタをかまし、地に倒れた秋水を見下ろしながら三人が怒りの主張をし始める。

 

「アンタッ!? 毎度毎度フォルゴーレだけ贔屓し過ぎなのよ、このオッパイ星人ッ!!」

「そんなに胸の脂肪ごときがいいというのか!?」

「そうですそうですっ!! そこの二人はいざ知らず、私だって実はこう見えてもEカップの隠れ巨乳でして…」

 

 カップ差を大変気にする二人と批判の中に微妙な自己主張を含める一人が詰め寄る中、両目を抑えながら痛みを我慢して立ち上がった秋水が、左手で待ったをかけながら何とか言葉を紡ぎ出す。

 

「す……少し、お三方は誤解している事がある」

 

 今更何を言う気だ?

 三人のそんな言葉を含んだ厳しい視線をぶつけるが………次の言葉に唖然となる。

 

「女性に一切の貴賎無し!! だけど俺も生身の人間、一人一回の相手が限度である以上、ここはひとつオッパイの大きな娘から順番にゾンビゲッ!!?」

 

 三人で綺麗なサイドキックが秋水の頭と胸と腹に突き刺さるのを見たジークは、大の字で廊下に寝転がる彼の姿を見ながら、ふと心の中で突っ込む。

 

「(コイツ、女に殴られるのが実は好きな人種か?)」

 

 世界にはそういうことが大好きな男もたまにいるのだが、何も今日この場の自分の前でしなくてもいいのに………などと考えるジークであったが、客観的に見ると彼も端から見れば『コイツMじゃね?』と秋水に似ていると思われる行動の数々をしていることには気がついていないらしい。主に、世話焼きに関しては。

 

 

「………?」

 

 だがこの時になってジークは気がつく。自分のすぐそばでグオグオと負のオーラを撒き散らす荒ぶるアホ毛の存在に………。

 

「!? セ、セイバー・リリィ!?」

「ぬおッ!?」

 

 マドカも思わぬジークの言葉にびっくりしながらも何とか敬礼を送り、そんな彼女の行動に竜騎兵達も一斉に社交辞令としての敬礼を行うが、肝心のリリィはそんな彼女達に目もくれずに大の字で寝転がっていた秋水の襟首を掴むと、彼を引き起こしながら怒鳴りつけた。

 

「秋水ぃぃっっ!!!」

 

 自分の配下の見るに耐え切れない醜態にキレたのか? それともだらしの無い女性関係を行う部下を断罪しようとしているのか?

 大事な作戦前だというのに、血の雨が降るかもしれない。嫌な予感が場を包み込む中、打撃の衝撃からようやく復帰した秋水とリリィの視線が絡み合う。

 

「………よぉ、会議終わったのか?」

「………貴様」

「一応迎えに来てやったんだから、そんなに怒ることでもないだろうが?」

「………何故」

「???」

 

 震える手と唇、怒りに燃える瞳、それらが臨海にまで達し、彼女は隠すことなく吼えた。

 

 

「私のドーナッツを用意せずに、なぜ他の奴に食べさせているんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 秋水の、ジークの、マドカの、竜騎兵(フォルゴーレ除く)の時が一斉に停止する。

 

「私だって食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいんだぁぁぁぁっ!!」

 

 腹の底から吼えるリリィに一切の嘘偽りが感じられないことがかえって副官連中に『コイツ、本気で言ってやがる』という認識を与え、彼らに言い知れぬ不安と衝撃を与え続ける………が、そんな状況を変えるようにフォルゴーレがドーナッツの箱を差し出すと、ふとリリィに声をかけた。

 

「あ、あの………一緒に食べますか?」

 

 流石に自分の上司と同階級の人間なだけに敬語になったフォルゴーレではあったが、そんな彼女の方を鋭い視線をしたまま振り返ったリリィは、強烈な目力を保ったまま言い放つ。

 

「いただきますっ!!」

 

 丁寧に返事を返し、超上機嫌そうにフォルゴーレの隣に座ると、もきゅもきゅとドーナッツを笑顔で一緒に食べ始めるリリィを見たジークは、ふと、心底こう思うのであった。

 

 

「(……………まともな幹部がほしい)」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「………ううっ」

 

 結局会議は当初の軽い打ち合わせで決めていたこと通りという、またなんともしまらない結論で締めくくられ、結構気合を入れて会議に臨んだトーラを激しく落胆させる結果となる。ピクニックの予定を組み立てている訳ではなく、これは人の生死がかかった『戦争』のはずなのだ。

 

「………だけど、割り振りは流石だよスコール………ボクがしっかりしておけば少なくとも部下の人達は怪我させずにすみそう」

 

 少なくとも今回の自分の役回りは自分がしっかりしておけば隊としての被害はゼロに抑えられそうだ。

 

「(本当は………敵になる人達にも犠牲になってほしくないんだけど)」

 

 だがそれは適わない事。如何に自分が組織の幹部であると言っても命令をおいそれと断ることはできず、また今回の作戦は幹部が複数人で行う大事なものだ。好き勝手振舞うわけにはいかない。

 

「そういう意味じゃ………」

 

 心配になるのはリリィの部隊だ。戦力としての主力を引き受けるのは自分だが、彼女の部隊はその代償として敵陸上兵力のほとんどを引き受けることになっている。

 それに彼女の真っ向突撃思考も心配の種だ。ジェネラルとしての高度な実力を持っているからおいそれと遅れを取るような事態にはならないだろうが、万が一ということもあり得る。

 

「………それに」

 

 そんなことになれば、きっと『あの人』は命を懸けてリリィを助けに行くのだろう。どれだけ言葉ではそんなつもりはないと言っても、『あの人』の瞳は絶えず彼女を見つめて離さない。

 チクリッ、と心に刺さった小さく鋭い痛みを覚えながら、廊下の角を曲がろうとした時………。

 

 

「ったく、その取り込んだ質量はどこに消え去ってるのか説明してみろ?」

 

 

 ―――ドクンッ!!―――

 

 この声を聴いた瞬間、トーラは廊下の角に隠れながらこっそりと向こう側を覗き込む。

 

「もきゅもきゅ………戦の前の腹ごしらえはしっかりしていないとな!」

「うん! ハグハグ………食い溜めは肝心だよね!」

「もしものこと考えて包み三つ持ってきて正解だったよ………てか!?」

「ん?」

「ん?」

 

 両手持ちの状態でリリィとフォルゴーレに食され、次々と消えていくドーナッツ達に哀愁の涙が隠せない秋水………もしもの事と言っておきながら、実はリリィ用に取っておいたものなのだが、異常なペースで消えていくドーナッツ達に、一日に糖分を大量に摂取することが義務付けられているジークすらもドン引きのペースである。

 

「ちなみにさ………これ俺のポケットマネーな訳なんだけど」

「もきゅもきゅ………感謝する!」

「いや、感謝よりも経費として落としてくれると・」

「ならば戦でドーナッツ分、私がお前を守ってやる」

 

 食うことに真剣になっているリリィのおざなりの対応に秋水は『じゃあ今日の作戦抜けていい? お前の護衛とか絶対に俺が酷い目にあう未来しか見えないんですけども?』と小声で愚痴るがまったく聞き入れてもらえなかった。

 そしてそんなやり取りを影からこっそり見守っていたトーラはというと……。

 

「(リリィ、食べてる姿凄く可愛いね! 秋水………なんだかしょんぼりしてる。ボク……慰めた方がいいのかな?)」

 

 一人ポワポワした空気を醸し出しながら二人を静かに見守っていた………リリィと秋水を除く全員が『何であの人あんな場所で覗き込んでるんだ?』と不審者を見つめる生暖かい視線を送っていることにも気が付かずに熱中して見守るトーラであったが、彼女の背後から出てきた黒い影に、まずはジークとマドカが緊張した面持ちになり、遅れてトーラも背後の気配に気が付き、すぐさま振り返り驚愕する。

 

 190以上の長身、オールバックにされた髪に所々白髪を混じらせ、彫りの深い顔はロシア系であろうか………顔の所々に古傷を作った陸戦隊の制服を着た初老の老人が、彼女の背後に立ちながら無言でリリィ達を見つめていたからだ。

 

「あ………の」

「………失礼、ジェネラル・アーチャー」

 

 深々と一礼し彼女の横を通っていくと、ツカツカとリリィと秋水に接近し、彼らを冷めた表情のまま見下ろし続ける。

 

「ぬっ?」

「ゲッ!?」

 

 そして彼の存在に気がついたリリィが挨拶すように手を上げ、秋水の表情が明らかに歪み、急に左右をキョロキョロと見ながらどこかに隠れようとする。

 

「総隊長………そろそろ出撃のご準備を」

「いでぇっ!?」

 

 低いがよく通る声でリリィに頭を下げながら出撃の時間が迫っていることを告げる同時に、右拳が秋水の頭部に真上から振り下ろされ、脳天から足先にまで突き抜ける衝撃が秋水を襲う。

 

「もうそんな時間か………もきゅもきゅもきゅ」

 

 最後までドーナツを食べ尽くし、口の周りについた食べカスをハンカチで拭うと両手を合わせて『ごちそうさまでした』と丁寧にフォルゴーレ達に挨拶し、勢い良く立ち上がる。

 

「では出撃の準備を………何をしている秋水!?」

 

 未だに頭を抱えている秋水を無理やり立たせると、そのままツカツカと廊下を歩き出すリリィと引きずられる秋水の斜め後ろを、初老の老人は付き従うように歩き出す。

 

「ってか、何で俺だけ殴られるんだよ!?」

「愚問………隊長を迎えに行かせた者が油を売っていていたのだ。駄賃代わりの拳骨で済ませただけでも感謝しろ」

「そうだ! 未熟者のお前が怠けるとな何事だ!?」

「お嬢が暢気にドーナツ食ってたから叱られてるって、気がついて言ってんのか!?」

 

 両脇に部下二名を従えて歩いていくリリィの背中を見送る竜騎兵達………四人とも『変わった部隊の皆さんだね』と自分達の事を棚に上げた感想を覚える中、マドカは窓際に寄りかかっていたジークに問いかけた。

 

「ジーク………あの男、何者なんだ?」

 

 顔だけではなく全身から『歴戦の兵』というオーラを発してた初老の老人に興味を覚えたマドカの問いかけに、ジークも今度は彼女を見ながらしっかりと答える。

 

「そうか、テメェは初めてか………あのオッサンの名前は『ウォルフ・レオンハート』。陸戦隊………てか、それ以前の亡国から所属している在籍ウン十年の古参の隊員らしい。スコールなんかも一目置いてる実力者で、本来ならあのお嬢ちゃん(リリィ)じゃなくて、あのオッサンが陸戦隊率いてたって話だったんだが、なんでかオッサンの方から辞退して今はあんな感じだ」

「ほうほう」

 

 IS操縦者以外でもあれほどの者がいたのかと感心するマドカと、しっかりしてそうでやっぱり抜けてる面が多々あることに溜息が出るジーク。

 

「あっ………」

 

 そして壁に隠れながら呆然としたまま、結局二人に声をかけることができなかったトーラであった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 巨大な格納庫において並ぶ高さ4m以上の鋼鉄の山を見上げる秋水は、自分の愛機が万全の状態に仕上がっていることを確認するように各所をチェックし始める。

 

「おい秋水!! お前の要望通りメインスラスターの調整(セッティング)を変えといたから確認してくれ!」

「了~~解」

 

 近くにいた中年の整備員が大声で叫ぶのを聞いた秋水が、慣れた動作で『コックピット』に潜り込むと素早くOSを立ち上げ、正面のモニターが起動すると同時にスロットルを何度か捻りながら、エンジンの具合を確かめる。

 

「ありがとオッサン!! 調子いいよ!」

「あたぼうよッ!!」

 

 安全扉が開いた状態で顔だけ出した秋水が、その整備員に礼を言うと親指を立てて陽気に返事を返しくれた。

 再び秋水はコックピットに座り直すと、今度は現在装着状態の各武装のチェックを行い、全てがリクエスト通りに仕上がっていることにようやく満足そうな笑みを浮かべる。

 

「(右アサルトライフル。左ショットガン。対近接ナイフとバックパックに大型の増加スラスター四基は仕上がり完璧。ミサイルパックの残弾フル………ガトリングはともかくバズーカは拡散式に変えてもらってもいいかもしれないな)」

 

 そして機体各部のチェックをそつなく行った秋水はコックピットから這い出ると、3m以上の高さをハシゴ無しで着地し、自分の愛機の姿をもう一度見直す。

 

 ―――戦闘機に手足を生やした歪なフォルム。戦闘機とロボットの中間のような鋼鉄の鎧―――

 

 その名を『GS(ギガント・スレイブ)』。直訳するなら『従属する巨人』と言われる機動兵器である。

 

 戦車、戦闘ヘリ、戦闘機………これらの従来の兵器郡のカテゴリーと、21世紀を超えた辺りから普及し始めた民間作業用の重機。それらを一つに融合させ、新しい世代の兵器として華々しい期待をかけられていた次世代機動兵器であったこのGSを、秋水は僅かばかりの哀愁を込めた瞳で見つめる。

 

「(世が世なら、お前もトップエース扱いされてたんだよな………まあ、今となっちゃそれも…)」

「何を呆けている?」

 

 突然話しかけられ、不機嫌そうに振り替えった秋水を不思議そうな顔で見つめるリリィ………そう。GSが華々しく新時代の旗になりえることはなく、今の時代はただの数合わせの多数の一つとして扱われていることにはいくつかの理由がある。

 

 GSの最大の強みとは様々状況に適応できる順応性の高さであり、周囲を見ても秋水のような高機動用に改造を施した物から、両肩に実弾式の長射程砲を備えた機体、格闘用のブレードと大型のシールドを持った物、索敵用のレーダーを搭載し狙撃用にチューンされたものなどなど、非常にバラエティーに富んでいるのだが、汎用性に富んだ代わりに失ったものもあったのだ。

 戦闘ヘリを越える機動力を持つ代わりに運動性においてやや劣り、戦闘機よりも運動性に優れてはいるが機動力で劣り、陸上でも優れた空間戦闘が可能であるが装甲と火力で戦車に劣り、ある程度の水中稼動も可能であるが潜水艦には遠く及ばない。ましてや一機だけで戦略レベルの脅威になれず核兵器のような国家レベルの抑止力にはなりえない。

 つまりは現行旧世代兵器にトータルバランスで勝るものの、特化力において未だに及んでおらずいるのだ………だが、それ以上の最大の要因が、今、秋水の隣にいる彼女(リリィ)にあった。

 

「なんだ? 私の顔に何か付いているというのか秋水?」

「(完全上位互換がいられちゃな)」

 

 そう。ぶっちゃけ全部IS(コイツら)のせいである。

 

 戦闘機を、戦闘ヘリを遥かに凌駕する機動力と運動性。戦車数個師団に匹敵する火力に、リミッターが解除された状態なら理論上核兵器の直撃すらも耐え抜くといわれるシールドバリア。装備換装無しで深海や宇宙にいける汎用性能。更に原初のISである白騎士は並みいる核兵器を一機で撃墜し、世界中の軍事バランスを崩壊させたと言うではないか。

 唯一の難点が配備数と操縦者適正がごく限られているという欠点があるものの、ただ一機いれば旧兵器群を根こそぎ殲滅できるこの超兵器がGSの存在意義を決定付けてしまったと言える。

 

「はぁ………お嬢の顔がおかしいのはいつものことだろうが?」

「なにぃ!? それはどういうことだ!?」

 

 同時期に同コンセプトの兵器が二つ同時に出て、どちらが優秀だったのかと聞かれた時点で、GSはその名の如く天空の戦乙女たるIS達に従属する巨人となることを義務付けられ、今もこうやって裏の人間である自分達に使われ、正規軍において対IS戦闘における後方支援などの裏方に回されるハメとなっていた。

 

「私のいったい何がおかしいっ!?」

「あ゛あ゛ぁーーー!! 俺が悪うござんした。私の勘違いであります」

 

 しつこく付きまとうリリィ相手に根負けしたのか、前言を撤回した秋水に気を良くしたのか、スキップしながら彼を追い抜くと、資材などが置かれていたコンテナの上に立つと、彼女は手に持っていた鞘に収まった剣の切っ先をコンテナに勢いよく振り下ろす。

 

 ―――空間に良く響き渡る音―――

 

 その音のおかげで誰もが自分の方に振り返っているのを確認したリリィは、静かに笑みを浮かべながら彼女は良く通る声でこの場にいた全員に話しかける。

 

「みんな、聞いてほしい!」

 

 ただ一声。その言葉だけでなぜか吸い込まれそうな魅力が彼女にはある。自分には持ち得ない『何か』を感じ取った秋水も、心から彼女の話に耳を傾ける。

 

「これより、我が隊は連合軍の陸上部隊と刃を交えることになる………先に言っておけば、敵連合軍の主力であるISはアーチャーが率いる特殊戦術部隊が引き付けることになってはいるが、代わりに我々は援軍無しで陸上戦力の大半と戦うことになった」

 

 いくら亡国最大人数の陸戦隊とはいえ、その戦力はGSが二十数機、足の遅い戦車はおらず、代わりの軍用装甲車が十数台。普段は輸送用に使っている戦闘ヘリが一機だけで、歩兵が合わせても300人もいない。

 対して連合国側は戦車だけでも合わせて1000機以上、戦闘ヘリ800以上、GSも700機を上回り、歩兵になればそれこそ数万人を超え、見ただけで数の差は歴然だった。これでもIS台頭による軍縮の煽りで規模が大幅に削られての数である。

 

「知っての通り、我々は数において圧倒的に不利、しかも今回は敵陣に自分達から攻め込むため、地の利も向こうにあると言える」

「(普通に冗談じゃないんですけど………)」

 

 よし止めよう。即座にそう思いついた秋水だったが、そんな彼の心を知らずにリリィは笑顔ではっきりと告げる。

 

「だが心配するな。私が皆を守る」

「!?」

「一見、ただの愚機のように思える今回の作戦だが、私はこれは好機だと思っている」

 

 この部隊におけるIS所有者は彼女一人。つまこの作戦は初めからふざけた数の敵の大半をリリィ一人が相手にしようというものであるのだが、しかしそれをチャンスと考えている自分達の隊長の考えが今の秋水には本気でわからない………。

 

「私は世間のことを良く知らない。そして世間において皆は日陰者と笑われているらしい………だが私は思う。皆は断じて誰かに恥じる存在か? 誰かに恥を、間違いを問うほど世界は正しい姿をしているのか? それを世間に知らしめるには今回は良い機会だ」

 

 だがそんな秋水と瞳をあわせた彼女は、凛々しい微笑を浮かべありのままの気持ちを言葉にしてみせる。

 

「恥じるな、媚びるな、前を向け! 我らは剣を取り、銃を構え、世界に問いかけ直す! 正しい姿をしているのはどちらかをだ!」

 

 剣を抜き去り、それを高々と掲げた騎士姫の威光。

 彼女が掲げた刃が日の光に反射し、宣言する姿、彼女の言葉が秋水の奥深い所にちゃんと収められたのだった。

 

「もし、この作戦を拒否する者がいるならこの場で言え。快く作戦から外れてもらう」

「…………」

「どうした!? 遠慮はいらんぞ!!」

 

 彼女のその問いかけに、場にいた一人の中年の兵士がクスリッと笑いながら逆に言い返した。

 

「姫さんよ……」

「『姫さん』は言うなっ!! 隊長と言え!!」

「アンタ一人に任せたら、どこまでだって突っ込んでいくだけだろ、姫さん?」

「当たり前だ! 戦場にわざわざ敵に後ろを見せに行ってどうする!? あと『姫さん』は止せ!」

 

 普段から『姫』扱いされることを極度に嫌うリリィであったが、この場にいる隊員全員が彼女よりも年上ということもあり、その様子を見た瞬間から先ほどまでの威厳はどこかに吹き飛び、小さな笑い声を無数にあげながらツッコミが飛び交う。

 

「つまり何時も通り、突進する姫イノシシの援護が俺たちの任務かよ」

「なんだ、毎度のことか姫さん」

「まったく、ウチの姫様は前置きが長いからいけねぇー」

「安心してくださいよ姫さん。難しい言葉使わなくてもちゃんとついていきやすから」

「弾薬追加で積み込め中止しろ! 姫さんが敵陣で暴れだしたら逆に重りのせいで逃げれなくなるぞ!」

「弁当の用意はできたか!? ウチの姫様を空腹にする不届き者は陸戦隊にはいまい!?」

 

 格納庫各所から飛び交うこんな言葉に、リリィは顔を真っ赤にして猛然と抗議の声を張り上げる。

 

「ふざけるなお前ら!! ピクニックにいくんじゃないんだぞー!? あと姫は止めろー!!」

 

 ぶんぶん剣を振り回して抗議するが全然聞き入れてもらえず、結局は何時もの出撃前の喧騒に戻ってしまうのだが、若干呆けていた秋水の背後から彼の肩を叩く者がいた。

 

「!?」

「秋水………お前は作戦開始時から離れずに隊長を守れ」

 

 いつの間にか背後に立っていたウォルフ・レオンハートが、リリィを見つめながらしっかりとした口調で秋水に話しかけてきたのだ。

 

「?」

「聞いていなかったのか? 隊長を守れと言っている」

 

 言葉少なくそれだけ言ってくる厳格な男に秋水が戸惑う中、周囲にいた隊員達がそんな彼の言葉をフォローするように口々に秋水に告げて行ってくれる。

 

「レオンの奴はな、俺達のために大事な大事な姫さんが一番危険な最前線に行って心配で心配で悶えそうなんで、俺達のGSの中で一番足が速いお前が護衛しろって言ってんだ」

「姫様に後方待機を言っても聞いちゃくれねぇーんだからよ?」

 

 両脇からレオンという愛称で呼ばれた老人の肩に寄りかかる同年代の隊員が二人………。

 

「いいか、絶対に守れ」

 

 秋水の隣にいたアラブ系の中年の兵士が、静かに言い放つ。そして隣にいた黒人の老兵も続くようにライフルの手入れをしながら秋水に告げる。

 

「俺達は傭兵だ。小銭貰って敵殺してるクソッタレだ。だから戦場で誰かに殺されるのが妥当なんだよ………だが姫さんは違う」

 

 それは上官を心配する部下の目というには、あまりに愛情に満ちた瞳で老兵は彼女を見ながら話を続けた。

 

「ここ以外の場所を知らない、与えられない、教えられてない……ただそれだけの人で、本来ならもっと広くて大きな場所で光に当たる人だ」

「……………」

「さっきの言葉はあの世への行きがけの駄賃にしては値が高すぎるっちゅうことだ」

 

 自分だけではなかった。

 彼女のあまりに真っ直ぐな言葉は、秋水だけではなく彼らの心の奥深い所にちゃんと届いていたのだ。そんな彼らの心境が理解できたのか、頬を若干赤く染めてそっぽを向きながらも秋水は短く返事をする。

 

「ああ」

「いよしっ!」

 

 背中を軽く叩きながら陽気に笑う老兵達に、秋水は悪い気分こそしなかったがふとした不安を感じ取り、一瞬だけ表情を曇らせてしまう。

 

「(ジジィ共が………なんか変なフラグ立てるみたいな言葉使いやがって)」

「ん?」

 

 彼の表情の変化を感じ取った老兵達が悪戯小僧めいた顔をして、一斉に彼を囲んでふざけだした。

 

「なんだ? まさか俺達のこと心配してくれてんの秋ちゃんよ?」

「おうおう………いつもは女のケツ追い回すしかない小僧っ子かと思ってんだが………おっちゃん達のことも心配してくれる素直になれない思春期の父親っ子だったか」

「はぁ?」

 

 思いっきり顔を歪めながら『馬鹿にするな』という表情を作る秋水だったが、彼の肩に絡んだラテン系の男が、ふと彼に問いかける。

 

「ところでよ秋水?」

「んだよっ!?」

「女のケツ追い回すのは大いに良い! 人生の休息を感じ取る神聖な行為だ!」

 

 大声で自分は『尻派』だと宣言するレゲエ親父に賛同する者、『俺はオッパイ派だ!』『ふともも一択』『うなじ最強』『腋こそ至高』『足首の存在こそ究極』『脇腹に癒しを求める』『手首の良さを理解できない田舎者共が』『前髪上げる動作の存在感』『泣き黒子の哀愁』『てか女体オールOK』など叫ぶ下品極まりない集団であったが、とある言葉が一瞬で静寂を作り出す。

 

 

「姫さんのケツ………狙ったらお前殺すぞ?」

 

 

 個々が女性に感じる好きな部分を超越した親バ………上官への愛情が静寂の中に含まる強烈で純正の殺意の視線を作り出し、それが一斉に秋水に突き刺さり、彼は人垣の向こう側に追いやられて『何をしているー!! 話を聞けー!! てか楽しそうなことなら私も混ぜろー!』と叫んでいる騎士姫を除いたすべての人間が自分に決断を強いていることを理解した。

 

「いや、お、おれはどちらかというおっぱい派だからお嬢は・」

『返事はどうした坊主?』

 

 ―――全方位から聞こえる銃のセーフティーを外した音―――

 

「(…………〇ンリミテッド・ガンズ・ワークス(俺だけを狙う無限の銃声)」

 

 自分だけをピンポイントで狙う固〇結界なんていつの間に編み出されたんだよ? というツッコミが瞬時に浮かんだ秋水だったが、自分の左頬に触れるアサルトライフルの冷たい銃口と、右胸に押し付けられているデザートイーグルの固い感触が自分に要求されている言葉を理解させ、涙を飲み込みながら彼は短く返事をする。

 

「(………なんでさ)………はい」

 

 すごく、すごく理不尽な気持ちで一杯になり涙を我慢する姿がなぜかとてもよく似合う秋水であった………。 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

『全隔壁正常稼動確認』

『分離シークエンス、スターティングOK』

『各艦ジェネレーター始動』

『ECSモード、効果99.87%維持』

『作戦領域、気象良好。作戦開始時におけるデメリット、マイナスと予想されます』

 

 薄暗い室内の何もないはずの空中に投影された3Dディスプレイが、様々な数値を示し、オペレーターの女性達が現在の状況を着々と指揮官のスコールに告げていく。

 マドカを隣に従え、今作戦の指揮を執る彼女は、周囲の四つのディスプレイに映し出されているジェネラル四人と瞳をあわせる。

 

「では各自、準備はよろしくて?」

『いつでも!』

『はじめましょう』

『仕方ありまへんな』

『気乗りがしないんだがね』

 

 リリィ、トーラ、サクラ、リキュールと各自の特徴のあった返事を受けたスコールは、一度だけ瞳を閉じて深呼吸をすると、いつになく真剣な表情をして作戦発動の号令をかけた。

 

 

「オペレーション・メビウス、スタート!」

 

 号令を受けた瞬間、オペレーター達が一斉に手元の3Dキーボードを操作し、同時にスコール達の耳が僅かな低音と振動を聞き取る。

 

 その様子はむしろ外から見ていたほうがはっきりとしただろう。

 

 ―――上空2万5千メートルの地点に突如現れる、全長2km近い空中要塞と言える戦艦―――

 

 ―――名を『アトラス』。古代の言語で「支える者」・「耐える者」・「歯向かう者」を意味する巨神の名を持った超弩級戦闘艦の上部、スコールたちがいる指揮所の部分と、戦闘員たちの機動兵器を収めている下部が分離し始める―――

 

 アトラス上部の指揮所は、下部と完全に切り離されると収納されていた主翼と先端を迫り出させ、一機の巨大な戦闘機となり、下部の方も上部とのジョイント部が隔壁で閉じられ、あたかも羽の生えた潜水艦のような出で立ちで地上に向かい始める。

 

『高度2万………1万8千……1万六千』

 

 猛烈なスピードで降下し始める下部には、陸戦隊、特殊戦術部隊、そしてジークを含んだ暴龍帝の特殊部隊という今回の主力部隊を乗せ、戦闘域に一直線に降下し続ける。

 

「秋水、準備はいいか?」

『こちらはいつでも?』

 

 ヘルメットを被った秋水がGSのコックピットからそう返事をしたのを受けたリリィは、自身は首元にマフラーを纏っただけの極めて軽装な格好で彼のGSの主翼の上に乗っかると、トーラとリキュールに通信越しで挨拶をする。

 

「先鋒を頂く………二人もしくじるな」

『リリィも気をつけて!!』

『楽しんでくるといい』

 

 フッ、と口元で笑みを作ったリリィにオペレーターが作戦開始の合図を告げる。

 

『高度3千到達。ジェネラル・セイバー、ミッションスタート』

「ではいくぞ、秋水っ!!」

「ああっ!!」

 

 彼女の号令と同時に床が開き、秋水のGSが一面砂漠の戦場に躍り出る。同時に彼はスラスターを点火し、その空域を飛行しながら、息を呑んだ。

 

「チッ!?」

 

 事前の情報を与えられていたとはいえ、モニター越しに見る光景に動揺が隠せない。

 

 

 ―――数えるのが馬鹿らしい戦車の群れ―――

 

 ―――巣をつつかれたハチのように湧き出すGSと戦闘ヘリたち―――

 

 

 アトラスのECSモードでギリギリまで敵に存在を気取られていなかったはずだが、分離してから数分間、ECSが使用不可能であったこともあり、連合軍に時間の猶予を与えてしまったのだ。しかも向こうは演習の真っ最中。浮き足立ってさえいなければ、すぐにでも対空砲の嵐を撃ってくるだろう。

 

「正面からいくのは流石に・」

 

 無謀だろう………そう告げかけた秋水であったが、ふと隣にいるGSの高速機動にも生身で耐えるリリィの姿がどこにもいないことに気がついた。

 

「まさかっ!?」

 

 風圧で落とされた………と思うのが普通であるが、あいにく生身でGSの上にリリィが乗るのは初めてではなく、むしろコックピットの中にいてくれる時のほうが少ないほどに、彼女は外で待機している方が多い。

 が、秋水が驚いているのはそういうことではなく、もっと別のことである。

 

「あんの馬鹿!?」

 

 思わず漏れた上官への本音を隠すこともなく、秋水は機体を翻し、目的の場所に一直線に飛行する。

 

 

 ―――数千メートル上空からGSをケリ、落下しているセイバー・リリィ―――

 

 

 敵の姿を目の当たりにして、なお彼女は引くという選択肢を選ばず、あろうことか正面から打破するという選択肢を考え、自身の剣を高々に上空に掲げ……。

 

「我が鎧よ、その輝きを世界に示せ!」

 

 彼女のISの名を告げた。

 

 

「エクスカリバー!!」

 

 

 ―――白い装甲の上から幾重ものレリーフが描かれた黄金の鎧―――

 

 ―――黒き大型の刀身をもった突撃槍―――

 

 ―――背中のバックパックは大型で高出力なスラスターが二門―――

 

 ―――そして彼女の顔を覆う白いマスクと、黄金を頂いた王者の冠―――

 

 首に巻かれたマントが砂漠の熱砂に煽られ、だがそれがまるで戦場の追い風を受けてなお悠然と立つ騎士の王を髣髴とさせる勇姿を持って、砂漠に降り立ったリリィは、獲物の槍を翻しながら自分に向かってくる連合軍艦隊に吼える。

 

「亡国機業(ファントム・タスク)、陸戦部隊総隊長セイバー・リリィ………いざ尋常に、勝負ッ!!」

 

 

 

 

 

 




というわけで、いつもどおりあとがきは活動報告にて後ほど書かせてもらいます
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