ではでは繋ぎ回第二幕、今回は前回出番の無かったセシリア組からスタートです
太陽の光を反射してキラキラと光る海面の上を、銀色と蒼のカラーリングをした12枚の翼を持つISとセシリアの駆るブルーティアーズ・トリスタンが互いのビットを展開し、俊敏かつ複雑な機動で複数基操りながら激しく高機動射撃戦を繰り返していた。
三連バルカンモードのアルテミスを連射しつつ、SBビット達をオートで動作させるセシリアに対して、目の前のISはアルテミスの連射を回避し同時に反撃の一射を放ち、SBビットの一基を正確に撃ち落す。
「んのッ!?」
戦闘が始まってわずか十数秒ですでにビットの軌道を見切られた事に驚愕したセシリアは、自分も同じ事をして相手の出端を挫こうとアルテミスを縦横無尽に飛び交う敵のビット達へと銃口を構え、引き金を引こうとする。
―――目に残像しか映らない超高速で飛び交う死の羽―――
「(やはり速過ぎるっ!? これでは狙いが…)」
高速で動きながら自動制御による機械的な癖を感じさせない軌道。明らかに一基一基を脳波コントロールしているのが同じBT使いであるセシリアには手に取るように感じられ、それがいかに神技染みた芸当なのかを彼女にまざまざと見せ付けていたのだった。
破れかぶれで放つ三連バルカンが悉く空を切り周囲のビットたちが一方的に撃ち落され始める中、濃い紫色の羽が彼女の真横を音速で通り過ぎ、鋼鉄の熾天使に一直線に突っ込んでいく。
「鈴さんっ!?」
「相手と同じことしてたって埒があかないでしょうが!!」
当然その動きに気がついていた鋼鉄の熾天使―――カリュプス・ミカエルが両手のライフルで弾幕を張ってくるが鈴はその攻撃を巧みに掻い潜り、衝撃砲を撃ち返しながら加速して相手の周囲を飛び交い、背後から変形しながら斬りかかる。
「もらったっ!」
必中のタイミングでの一撃………と並みの操縦者ならそう判断するし、並以上の、たとえば陽太クラスの操縦者をもってしても回避しづらかった双天牙月の一撃を、カリュプス・ミカエルは手甲部に装備されているビームサーベルを瞬時に抜刀して受け止め、ビットを操作しながら同時並行して鈴と近接戦闘を展開したのだった。
高速で斬り合いながら次々とセシリアのBTを撃ち落としていくカリュプス・ミカエルの驚異的な戦闘力に歯軋りする鈴であったが、一瞬の隙を突かれて正面から蹴り飛ばされてしまう。
「クハッ!」
痛みと衝撃に悶絶する鈴であったが、そんな彼女にもビットは群れを成して襲い掛かってくる。重力から解き放たれたかのような自由機動で迫るビット達に対して双天牙月で斬りおとすのは不可能と判断した鈴が一瞬だけ同じ様に苦戦するセシリアにアイコンタクトを取った。
「!?」
「!!」
鈴のその視線に気がついたセシリアが両腰部の装甲を稼動させ、鈴は双天牙月をカリュプス・ミカエルに向かって投擲すると素早く両手を突き出して両手の装甲の一部を開き、内蔵されているレーザーサブマシンガンでビットたちを撃墜しにかかる。同時にセシリアは両腰部に内蔵されている三連装小型ミサイルを同時に発射し本体を攻撃しにかかった。本体とビット、集中力がものを言うBT使いにとって、同時に異なった攻撃をされるのは集中力が削がれてしまうことを、同じBT使いのセシリアが知っていたがための事前に打ち合わせしていた作戦であった。
「「これでっ!?」」
決定打にならなくても流れを変えられる。
『………』
だがその淡い期待は一瞬で瓦解する。
高速で投擲された双天牙月、三連装の計六発の小型ミサイル。ビットを操作しながら捌くには至難と思われたその攻撃をカリュプス・ミカエルは先に到達した双天牙月を事も無く柄を掴んで受け止め、向かってきたミサイル全てを切り裂いて撃破してみせたのだ。
「なっ!?」
「うそっ!!」
一瞬で最適な解答を持ってクリアする亡国機業幹部の技量に戦慄する二人に、鋼鉄の熾天使は一切の容赦を加える気は無かった。『先ほどまでは様子見だ』と言わんばかりの速度でビットが倍のスピードに加速し、レーザーマシンガンが空を切り続け焦る鈴をその牙をもって一瞬で彼女をISごと噛み砕く。
―――全方位からビットのレーザーで貫かれ、武装とスラスターと五体を貫かれる鈴―――
「鈴さんっ!!」
撃墜され悲鳴を上げることすらできずに海面に落下していく鈴の名を叫んだセシリアに、カリュプス・ミカエルはやり返すかのように双天牙月を投げ返してくる。
鈴のことに気が取られ、反応が遅れたセシリアはあわててアルテミスを構え直そうとするが、時遅くアルテミスが双天牙月によって破壊され、手持ちの武器が何も無くなった彼女に止めを刺すためにカリュプス・ミカエルが全砲門を開き、必殺の一撃を放ったのだった。
「!?」
鈴の本国のIS部隊を一瞬で壊滅し、艦隊の大多数を破壊した二挺のライフル、二門のプラズマキャノン、二本のレールガンによる一斉掃射によってセシリアのブルーティアーズ・トリスタンは完全大破し、彼女も鈴と同じように海面に落下していく。
時間にして約10分弱………これが通算13度目の敗北であることに、セシリア・オルコットは脳髄が焼き切れそうになる屈辱と自身への怒りを覚えるのだった。
☆
『二人とも、VRルームの使用時間を過ぎているぞ』
一瞬だけ暗転した世界から一変、周囲を無機質な白色で染められた小さなコンサートホールほどの室内でISを装着しながら膝まづくセシリアと鈴に、窓ガラス越しにラウラが声をかける。
早くから始めた学園の最新鋭設備を使ったバーチャル空間における擬似戦闘も二時間以上経過しており、二人の身体に極度の疲労を与えており、何とかぎりぎり立ち上がってみせるが今にも倒れそうな様相である。
だが二人はあろうことか再びの訓練をするために施設使用時間の延長をラウラに申し出たのであった。
「もう少し時間延長よ………ラウラ、システム再スタートさせて」
『鈴ッ!?』
「今度は作戦の内容を変えましょう鈴さん」
『セシリアまで………二人とも根を詰め過ぎだ』
身体のことを心配してこれ以上の訓練は止めさせようとするラウラの言葉も聞き入れない二人であったが、そんな心配するドイツの少女の背後から巨漢の影が現れ、ラウラは驚きながら振り返る。
「はっ!?」
「二人とも……これ以上は午前中の授業への出席に関ってくる。訓練を切り上げるんだ」
彼女の背後から現れた巨漢………IS学園の整備科講師の奈良橋は、作業着姿のままマイクで訓練室の二人に声をかけたのだ。突然の奈良橋の登場に一瞬だけ驚く二人だったが、すぐさま不満を一杯に溜めた顔で反論しようとする。しようとしたのだが、それよりも早く奈良橋が二人の反論を封じる言葉を発した。
「お前達のことは織斑先生に頼まれている。無茶をしてお前達がダウンすればまたあの人は私達の制止を振り切って無茶をされるぞ。お前達はそれでも構わんのか?」
「「!?」」
「今、お前達の機体のパワーアップのプランを学園首脳陣と各国の技術スタッフたちと一緒に考えてる最中だ………」
「「!?」」
「結論が出るまでは歯痒いかもしれないが、今は耐えてほしい」
そして静かに頭を下げる奈良橋にそれ以上食い下がる事ができなかった二人は渋々といった表情でISを解除すると、静かに奈良橋に一礼して訓練施設から退室する中、ラウラは自分の代わりにうまく二人を止めてくれた奈良橋に感謝の言葉を述べたのだった。
「ありがとうございます奈良橋教官!!」
「………先生、せめて教諭と言え。ここは軍属の部類に属するが軍隊学校ではないぞ?」
「申し訳ありません! サーッ!」
いや、だから………言葉を続けようとした奈良橋だったが、ラウラのきっちりとした敬礼を見ておそらく条件反射の領域になるほど教え込まれているであろう会話の内容をこの場で訂正することを断念する。代わりに部隊で最も小柄の身体でありながら見えない所で無茶をする少女を気遣い、サラッと釘を刺してみる。
「今の二人の無茶もそうだが、誰かも深夜遅くまで最近戦術プランの見直しのために資料室を使っている痕跡があるなボーデヴィッヒ?」
「い、いや……そ、それは…その……」
「若いからといって根を詰め過ぎては、いざというときに身体がついてきてはくれんぞ? もっとも、今の状況でそれがわかっているのが果たして何人いるのやら」
『特に火鳥なぞは書類を疎かにするくせに』……という愚痴が脳髄を走りぬけ口から罵詈雑言となって出掛かってしまうがそこは社会人、喉元でなんとか留めると誤魔化す様に咳払いをし話を続けた。
「それにしても、奈良橋教か……諭はよく私達の機体の専属整備の話を引き受けてくれましたね」
「ん? いや……まあな」
への字の口元を作りながらぶっきらぼうに答えるこの奈良橋は、千冬が入院した次の日に、学園側と部隊の人間達に対して正式にバックアップ要員としての整備士の仕事を引き受けることを返事したのだ。
それは彼が世界の情勢と学園の状況、そして対オーガコア部隊の今後の事を考えていたのはもちろんのことであったが、何よりも千冬の命を賭しても教え子達を守ろうとしていた姿勢に感化されたことが一番の後押しになったのだ。
彼女は口だけの人間ではない。そんな彼女が何度も頭を下げ、自分にはそれだけの能力があるのなら、最早問答することはない。自分のできる限りの最善を尽くして対オーガコア部隊のメンバーを後ろからバックアップしようという彼の想いを病院のベッドの上にいる千冬も快く受け止めていた。そして何よりも自分がいない間、厳しく目を光らせていないと書類仕事やその他のことを放りっぱなしにするであろう陽太を怒鳴ってくれる人物というものは非常に彼女にはありがたかった。シャルの場合本気で陽太が逆ギレを起こせば煙に巻かれる可能性があるだけに、実際四の五の言わずに怒鳴りながら鉄拳制裁して机に向かわせる奈良橋のおかげで、陽太の報告書の提出速度は以前よりも上がっていたのだ………本人はそのことに非常に不服そうであったが。
かくして正式に奈良橋が仲間となったおかげで、千冬という柱の抜けた部隊もなんとかかんとかやっていけているのだが、ラウラは一つの疑問を口にする。
「あ、あのすみません。お一つ確認しておかねばならないことが」
「ん? 何だ?」
「先ほどセシリアと鈴に言っていた、我々のISのパワーアッププラン。それはどのようなものなのですか? それに国の開発スタッフと一緒に考えているとのことですが、私のほうにはそのような連絡は…」
「ああ、あれは半分嘘だ」
サラッと口にした言葉にラウラは口が開いた状態で硬直してしまう。自分と同じく嘘や冗談、ユーモラスとは無縁そうな外見をしているだけにまさか彼が平然と二人を欺いてしまうとは思っても見なかったのだが、そんなラウラの視線に気がついたのか奈良橋は口元で笑みを浮かべながら彼女の勘違いを訂正する。
「半分………と言ったはずだ。強化プラン自体は存在している」
「ではなにが…」
「考えているのは国のスタッフではない………民間の、それも一技術者だ」
「一技術者?」
いぶかしむラウラの顔を見ながら奈良橋も自分の言っていることがどれだけ非常識かを十分に理解して頭を抱えてしまうのだった。
「私が昔世話になった人物でな。どうやら織斑先生とも知り合いらしい」
「教官と知り合い!?」
「私もそこは初耳だったのだが、織斑先生経由で話を聞いたらしく、近々お前達一同を連れてぜひ自分のラボに来てくれと駄々をこねられて………ハァー」
昔と今の職場の狭間で悩みを抱える奈良橋は、深い深いため息をつきながら週末の会議(指令代行の真耶、専任整備長の自分、実働隊隊長の陽太と副隊長のラウラでする部隊のスケジュール作成)でする議題にあげなんとかスケジュールを決めようと思っていたのだ。最近のオーバーワーク気味の学生達の様子を見て彼自身も思うところがあり、なんとか彼らの負担を減らそうと思っての行為で、無論対外的に見れば相当なグレーゾーンの話ではあるが、世界情勢のことを考えれば悪くない話のはず。
「まあそういうことだ。ボーデヴィッヒも早く食堂に行って朝飯でも済ませろ。あの二人を連れてな」
そして気配りを忘れない奈良橋が学生の身体を気遣い、しっかりと食事を取るように催促する………が、この時の彼はまだ知らなかった。
その食堂で、またしても彼を悩ませる問題が今浮上しているということに………。
☆
「決着をつけましょう? 私と貴方、どちらがIS学園最強に相応しいのかをね?」
挑発的に微笑む楯無の表情に若干の戸惑いを隠せない箒は、それを受けた陽太がどう答えるのか不安で気が気でない。今の楯無は明らかに何か冷静さを欠いている。長年の付き合いからそのことを直感した箒は、陽太の返答次第で本当に流れがもっと不味い事になることを察知して割って入ろうと前に一歩出た。
「断る。今のお前しばき倒しても何の自慢にもならない」
が、そんな箒の悪い予感を的中させた陽太の一言で、楯無の表情が更に強張る。ついでに箒の表情も青褪める。
「それは………どういう意味かしら」
「まんま。わかったなら早く帰れ。こっちは忙しいんだ」
「はっきり言ってくれないと私も納得しかねないわ。仮にもIS学園生徒会会長でこの学園で最強の操縦者である私を倒して『自慢にならない』とはどういう意味か判りかねるわよ?」
相手にもされなかったことに酷くプライドが傷付いた楯無が陽太に詰め寄るが、その今言い放った楯無の言葉こそが自分が相手にしない理由だと、彼女に箸で掴んだエビフライを突きつけながら陽太は冷めた言葉を紡いだ。
「それが理由だよ。今更『学園最強』になったところで何の自慢になる?」
「貴方は何を言っているのかわかって・」
「お前も知ってるだろ? 最強って奴がどんなもんか」
「!?」
陽太の言葉が楯無の心の一番深い場所に突き刺さり、彼女の胸の内側に黒い染みが溢れ出した。その事に気がついていない陽太が更に言葉を続ける。
「あれを見せられて、手も足も出せないでボロ負けしててよ………なんでそんな今更値落ちする『学園最強』なんかに執着しないといけない? 俺はゴメンだ」
「………けるな」
「俺の獲物はあの『最強(爆乳)』だ。アイツに勝つまで寄り道する気はない………わかったなら大人しく生徒会室に引きこもってなさ・」
陽太がそっけない態度でこの話を終了させようとした瞬間だった。
―――ガラスが複数砕ける音とテーブルが砕ける音が食堂に鳴り響く―――
「ふざけるなッ!」
ブチギレた楯無が右腕にISを部分展開して上に載っていた食器ごとテーブルを真っ二つにしたのだ。生徒会長の初めて見せる剣幕の凄さに息を呑む。近くにいた箒すらもその怒りに飲み込まれてしまい言葉が出ないでいたのだが、しばしの沈黙の後に陽太がようやく言葉を搾り出す。
「………何、焦ってんだ?」
「!?」
「どうしても相手してほしいっていうならしてやらんこともないが………何をそんなに『焦って』やがるんだ?」
そっけない態度であろうとそれぐらいの感情を読み取ることは陽太でもできる。逆を言えばこの時の楯無が日常生活の感情の機微に疎い陽太ですらも読み取れるほどに狼狽していたのだが、楯無はその理由を話すことはなく彼に背を向けると、
「………勝負は今日の放課後、第二アリーナを貸し切っておくわ。必ず来なさい!」
一方的に言い残し呆然とする面々を置き去りに食堂を早足で出て行く彼女の背中を見つめていたシャルが急に陽太の方を振り返り強烈な視線で『どうしてそういう言い方しかできないのキミは!?』と無言の抗議を上げ、その視線を受けた陽太が両手を挙げて『俺に言うなよ。向こうが勝手にキレたんだろうが!?』とこれまた無言の反論を述べる中、心配でいてもたってもいられなくなった箒が彼女の後を追いかけたのだった。
☆
一方、VR訓練を終えて早々にシャワーを浴びたセシリアと鈴は、制服に着替え終えるとラウラと共に朝食をとりながら放課後の訓練内容を変更するための許可を陽太に取りに向かっていた。
「本日は個人スキルを重点的に磨くべきだと先程から述べているではありませんかラウラさん!?」
「フォーメーションを御座なりにしようとか言ってんじゃないのよ。ええ、連携は大事よ。だけど今は個々の力を高めるべきだわ」
「だから二人とも!? その考えが危険なのだ」
だが連携の訓練を削ってまですべて個人スキルの修練に当てようとする二人とラウラの間で激しい口論が繰り広げられており、一向に話が纏まる様子がない。それもこれも数日前に千冬がツテで手に入れた動画を見せられたことに発端してる。
それは亡国と連合軍の大規模紛争が終結し、セシリア達も俄かに信じられないといった気持ちを持ちながらも訓練に勤しんでいた日の事………。
『お前達にも見せておきたい』
今は臨時の部隊の仮の指令所となっている第三アリーナの管制室に集められた面々は、心臓の手術を受けていながらも、驚異的な回復力を見せる千冬が通信越しで握力を鍛えるハンドグリップで訓練しながら見せた動画に対オーガコア部隊の面々は冷や汗を垂れ流し、愕然となる。
「なっ!?」
「………有り得ない」
「………ふざけんじゃ…ないわよ!!」
「これが………」
「亡国………機業の……幹部級だと!?」
「こんなことって……」
「……………」
―――陸上部隊を蹴散らし空を引き裂く閃光を放つ金色の騎士型IS―――
―――圧倒的な制圧力で海上艦隊を追い詰める戦天使のようなIS―――
―――そして言語を絶する砲撃で連合を壊滅に追い込んだ砲撃型IS―――
あの暴龍帝と呼ばれたISに勝るとも劣らない底知れなさを垣間見せる亡国機業の幹部級IS達の性能に言葉を失った対オーガコア部隊の面々の様子を見ながら千冬が話を続ける。
『最初はこの動画を見せるのは戸惑った。お前達の今感じている気持ちをそのまま私も感じたからだ………今の私達が仮にあの女ともう一機連れてこられれば、間違いなくこちらが全滅だ』
たった一機であれほどてこずったのだ。
否、あの女はあれでも手を抜いていた。最初から全滅が目的なら戦闘は五分と持たなかっただろう。
それほどのISが後三機もいる………いや、ひょっとするならまだこの作戦で姿を見せていないISもいるかもしれない。
ましてやこれらのISよりも強力な力を持ったISが存在していてもおかしくない。亡国機業は用意周到にそこまでの戦力を世界に気取られぬように蓄えていてもおかしくない組織である。
絶望的な考えが皆によぎる中、一人管制室から背を向けて出て行こうする男がいた。
「………ヨウタ?」
シャルの呼び声に足を止めた陽太は振り返ることなく、退室の理由を手短に話す。
「訓練、続きやるだけだ」
普段と変化のない声でそう告げる陽太に、セシリア達は驚きを隠せない。あれほどの力の差を見せ付けられ、ましてや亡国にはそれに匹敵する者達がまだ多数いるというのに、なぜ彼は闘志を鈍らせることもなくいられるというのか。
「とりあえずわかったことがある」
だがシャル達は勘違いしていた。
「あの女よりも若干劣るが、強い奴が亡国にはいる………面白ェ」
陽太の背中から湧き上がっていた闘志は鈍ることなどしていない。この部屋に入る前と比べても明らかに倍増していたのだ。
「感謝するぜ千冬さん」
『………何?』
「挑める敵がいる。俺はまだまだ強くなる余地がある………」
そこで振り返る陽太の表情は………心底嬉しそうな、それでいて見ているものが背筋に寒気を覚えるような、そんな攻撃的な『笑み』であった。
「じっとなんてしてられるか。相手がこっちよりも強いっていうなら、それよりも強くなってアイツ等まとめてぶっ飛ばせばいいだけだろうが?」
『単純な話だ』と言い残して出て行く陽太の後姿を見つめていた一夏も気合を入れ直すように両手で頬を叩くと、通信画面の千冬に一言声をかけて走り去っていく。
「とりあえず今日は亡国の情報ありがとうな千冬姉!! 俺もこれから陽太と一緒にトレーニングするから!! 無茶だけはするなよ!!」
陽太の後を追いかけていく一夏の後姿に『あ、こら!! まだ話が………というかお前ら急に仲が良くなってないか? というか私の扱いを雑にするなど陽太の入れ知恵か!?』とちょっと寂しげな表情になってしまう千冬であるのだが、残されたメンバー達は繰り返し再生される亡国機業製IS達の能力に釘付けとなっていた。
「この剣士タイプのIS………西洋流か? ただの性能に頼った戦い方をしていない。下手をすると千冬さんクラスの剣の技量を持っているぞ」
セイバー・リリィの戦い方に脅威よりも感服したといった表情となる箒とは対照的に、母国が誇った精鋭部隊を一瞬で薙ぎ払ったISに鈴は止まらぬ冷や汗を拭い去ることもできずにいたのだった。
「劉(リュウ)さん………」
部隊の隊長を務めていた元中国代表にして世界ランク最高4位にまで上り詰めた『劉(リュウ) 春燕(チュンイェン)』とは、接点こそあまりなかったものの優秀な操縦者であることは本国にいたときも聞かされた話であり、ミスが少なく堅実で隙がない戦い方をよく手本にするようにと第一開発局にいた時に何度も言われたこともあって、ここまであっさり撃墜されるとは鈴には俄かに信じがたかった。
「このIS操縦者………」
そしてもう一人。
その元中国代表の手練れを苦も無く部隊ごと撃墜させしめた武器がBT兵器だったことにセシリアが強いショックを受けていた。
「(最大10機のビットをマニュアルで同時に操作しながら高速機動と高精度射撃を行い、あまつさえその射撃が針の穴を突いたかのような正確さで急所を紙一重で回避している)」
セシリアが理想としていた戦い方。つまり将来的にOSの補助なしでもBT兵器を操作しながらの高速機動と高精度射撃の同時使用。
その彼女の理想をあっさりと行う敵が亡国にいるというのだ。しかもセシリアにはその操縦者がまだ本気を出していないことが手に取るようにわかった。縦横無尽に飛び交うビットの軌道が全てを物語っている。
「その気になれば偏向射撃程度、造作も無く行えるのでしょうね」
「セシリア?」
「間違いありませんわ………少なくとも、このIS操縦者。BT使いとしては現在世界最強でしょう。私など比べる事もできないぐらいに」
同じBT使いとしてはマドカもいるが、彼女と比べても遥かに格が違う。同じ次元で語ることすら許されない差がこの操縦者と自分の間にはある。それを目の当たりにして、セシリアは唇から血が流れるほどに悔しさをにじませたのだった。
そんなセシリアの様子も気になりながらも、最後に連合にトドメを差した超威力のビーム兵器を搭載したISにシャルは強い警戒心を抱く。
「だけど………こんな砲撃、ISに搭載するだなんて」
おそらくこの砲撃の威力と射程があれば、世界中どこにいてももはや安全とは言い難い。これがもし量産されていたのなら核兵器に代わる新たなる脅威として世界を震撼させるだろう。
ISに核兵器を搭載することはアラスカ条約で全面的に禁止されている。これは操縦者にとっては常識とされおり、ISの隠密性を考えれば都市部で即時展開して発射させられる危険性を持っているため、ある意味禁じ手とされていることは理解できるのだが、この衛星兵器はその核兵器に代わる新たなる脅威足り得る威力と恐ろしさを持っていたのだ。
亡国機業がこの砲撃型ISを量産などして世界にばら撒けば、間違いなく人類が滅びる最後の戦争の火蓋となってしまう。冗談ではすまない予感がシャルを襲うのだ。
そして時は戻り………。
衝撃の映像を見せられ直接の被害を受けてはいないものの、自分達が挑もうとしている存在に対して改めて強い危機感を覚えた対オーガコア部隊の一行は、特にセシリアと鈴の二人が強い焦りと苛立ちを見せる中で、不思議とラウラは映像に映し出されていたIS達よりも強くイメージが焼きついた者達を思い浮かべていた。
「(あの陸上部隊………)」
セイバー・リリィを背後から支えていたGSと生身の兵士達。映像に写されているだけでも分かる、正規の軍兵達とはまるで違う動き。ドイツにいた頃に教材として見せられた様々な国の兵士達の物ともまるで違う。
一人一人違う人間のはずなのに、まるで全員が一つの生き物であるかのように連動した動きで連合を圧倒していた。
噂でしか聞いたことがない、およそ世界で類を見ない強さを持つ実働部隊と言われる陸戦隊。
仲間への強い信頼、全員が一つのイメージを共有してのみ行える動き、指示待ちになることもなく一人が出来うることの限りを尽くす姿勢。
部隊として理想とも言うべきその姿を戦場で見せたことに、ラウラは知らず知らずのうちに敵幹部ISよりも強く食い入るように何度も陸戦隊の姿を見つめていた。彼女は歴戦の兵士達の一糸乱れぬ連携と戦いぶりに無意識の憧れを抱き、自分達への目標としたのだ。
それゆえに個を伸ばすべき時期だと言い張るセシリアと鈴と、今こそ連携をもっと練習するべきだと主張するラウラとの間で軋轢が生まれ、こうやって空き時間で口論が起こることも増え始めていた。
「お前達の意見も分かるが、だからこそ現状で取れる最善を模索するべきだ!!」
「現状の最善って………それやって『暴龍帝(あの女)』に手も足も出せなかったこと忘れたの!?」
「ラウラさんには悪いですが私も鈴さんと同じ意見です。あの日の悔しさは忘れるべきではありません」
「忘れたことなどないし、個人の技能向上は必須だっ!! だがお前達も陽太達もそれだけに傾倒するのは……」
結論の出ない議論が白熱しかける中、三人に向かって走ってくる人影が大声で呼びかけてきて、ラウラは振り返る。
「ボーデヴィッヒさん!! オルコットさん!! 鳳さーん!!」
「山田教官?」
軍隊式の挨拶で真耶を出迎えるラウラは、ゼェーゼェーと肩で息をする真耶の様子を不思議そうに見つめながら問いかけた。
「出撃の命令ならばISの通信で呼びかけてくれれば…」
「い、いえ………そうじゃなく…て…ゼェーゼェー……お三方は…さ…さ」
「「さ?」」
「更識さんを見かけなかったですか?」
更識という名前に最初は誰のことか分からなかった三人だったが、数秒後にこの学園の生徒会長の苗字であると思い出して三人は一斉に首を横に振り、真耶にリアクションする。
その様子を見て『やっぱり』と頭を抱えながら溜息をつく真耶にラウラが問いかけた。
「あの、更識生徒会長に何か?」
「何もこれもありません!! 食堂で突然、火鳥君に決闘申し込むわ、無断で部分展開してテーブル叩き割っちゃうわ、突然姿を消しちゃうわで……」
「「「決闘!?」」」
なぜいきなり陽太と楯無が決闘することになったのか? まったく予想だにしなかった単語に三人が声を裏返して驚愕してしまうのだった………。
☆
「会長!! どういうことなんですか?」
一方で真耶が捜し求めている楯無はというと、学園内にある整備室、それもロシア代表である自分のために用意された専用の整備ルームで一人黙々とディスプレイを睨み付けながらISの調整をし続けていた。
通常学園のISは専用機訓練機問わず専用の整備ルームなどは与えられないのだが、学園生徒会長でロシア現役代表、そして非公式で数々の機密に関わる更識の当主である楯無にのみ許された特権であった。
そしてそんな専用の部屋に彼女以外で入室を許可されている人物。眼鏡にヘアバンドと髪を三つ編みにした楯無よりも一つ上の三年生になる女生徒………。
「答えてくださいお嬢様!!」
IS学園生徒会会計の『布仏 虚(のほとけ うつほ)』が楯無に激しく詰め寄っていた。
名字が示す通りのほほんこと布仏本音とは実の姉妹関係であり、だらしのない妹に対してお堅い雰囲気を持ったしっかり者で、簪の従者である妹同様にその姉であり現更識家当主である楯無の従者で、学園に入学する遥か以前の幼少時から堅い主従の絆で結ばれた、公の場では口にできない親友同士でもある。
普段から色々と学園の雑務や更識関係の仕事でも彼女の秘書役を務め、割と突発的に色々と周囲を振り回す事のある楯無の行動には慣れている虚であったが、今日の楯無の尋常ではない様子の異常さに強い危機感を覚えていた。
「強引に施設を借り入れて模擬戦を申し込むだけじゃなく………こんなものまで用意して!?」
虚の手に握られた二通の封筒。そこに書かれていた文字はそれぞれ『辞任届』『退学届』。
この勝負に万が一楯無が敗れた場合、学園に提出しようとしている物を偶然見つけた虚が血相を変えて彼女を思い止まらせようと必死に楯無に食い下がっていたのだ。
「模擬戦の勝敗で今までの実績をすべて不意にするおつもりなんですか?」
「………つもりじゃなくて、する気よ?」
楯無がいつもとは違い堅く誰も寄せ付けない空気を醸し出しながら答える。
「それだけじゃないわ。もしここで負けるのなら、私には当主としての器も無いという何よりの証明になる。だから………虚ちゃんには悪いけど、来週早々に更識全分家を集めて私の当主辞退の話も・」
「何を考えてるの!?」
丁寧語の消えた、本心からの怒鳴り声にようやく驚いた顔で虚の方を見た楯無はこの時初めて彼女が泣きそうな顔になっていたことに気がつき、罪悪感が棘の様に心に突き刺さり鋭い痛みが走った。
「最近のお嬢様はどうなされたんですか!? こんな何もかも投げやりにする様な態度、いつも貴方が毛嫌いしていた『無責任な大人』と同じじゃないですか!?」
「そ、それは……私は違うわよ」
「どこがです、何をそんなに焦ってらっしゃるのですか!?」
「!?」
先ほど陽太にされた質問と同じ言葉が虚から出てきたことに、冷めかけていた激情が一気に熱を取り戻して彼女の心を激しく取り乱させてしまう。
作業台の上の工具を腕で払いのけながら、楯無が思わず心にもないことを叫んでしまう。
「『分家』の貴女に私の何が解るのよっ!!」
「!?」
「私は強くないといけないの! それを周囲に認めさせないといけないのよっ!? 認められない私なんている必要ないの!!」
「………ちゃん」
「だから私は今まで努力してきた。必死にっ!! なのに………今更それを偽物にされて」
「………刀奈(かたな)ちゃん?」
その名で呼ばれた楯無に電流が走る。
その名を呼べる人………もう今はいない無き両親と、今は物を喋れないでベッドで寝ている妹、そして自分が唯一昔から何もかも分け合ってきたと信じていた親友。
大事な大事な、更識家宗主の名前『楯無』を名乗る前から自分に与えられていた本当の名前。それが悲しく虚(親友)の口から呟かれていた。
「そうですね。私はただの従者。差し出がましい事を言って申し訳ありません」
―――『分家』の貴女に私の何が解るのよっ!!―――
「あっ」
「ご当主様のご意向に逆らう様な真似をして申し訳ありません。ですがこんな私にも言わせていただけないでしょうか?」
「ち、ちがうの。今のは……その…弾みっていうか」
「ご当主様はお若いために他の方々からも就任の際には疑問の声も上がっていましたが、今はそのような言葉は一切聞きません。それがなぜかお分かりですか?」
「?」
瞳から一筋の涙を流した虚がはっきりとした口調で断言する。
「貴女様は皆に認められた優れた当主です。それはこの従者・布仏虚が断言させていただきます………ではご武運を」
それだけ言い残すと左手で涙を拭いながら彼女は整備ルームから走り去ってしまう。
虚の後姿を見ながらも、彼女を傷付けつけてしまった一言を思わず吐いてしまえた事実に打ちのめされ、壁にもたれかかるように崩れ落ちた楯無の心のように、ISの整備に使う部品や工具が地面に散乱していたのだった。
「……なんで…よ」
頭を抱えながら、何故こんなことになっているのか、こんなことをしてしまったのか、もう自分自身でもわからなくなった楯無がどれほど問いかけても、この部屋で答えてくれる人は誰もいない。
全てを預けられるはずの親友すらもたった今傷付けて遠ざけた自分には、もう縋るべき者が誰もいなくなったのだから。
「………私は……私は…!?」
自分とは一体何なのか? 楯無が自分自身に囁いた言葉に、物言わぬ愛機『ミステリアス・レイディ』が見下ろすように静かに彼女を見守り続けるのだった。
次回は学園内最強決定戦(暫定)です
詳しいあとがきはまた活動報告にでも