IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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新年明けましておめでとうございます!

どうにか休み中の更新が間に合いました。


では、ついに始まる学園最強を賭けた一戦。

勝者は果たして、炎の空帝か
それとも、霧の淑女か

ではお楽しみください


学園最強

 

 

 

 

 

 学園での生活が始まって数ヶ月、ISを与えられ操縦の訓練を行ってきた学生達の間で、密かに話題になっていた事。

 

 IS学園トップの存在である現役ロシア代表の更識楯無と、織斑千冬の直弟子であり史上二人目(正式には一人目だが束とのテロまがいの行為まで発表できないためのあえて二人目)の男子操縦者である火鳥陽太。

 この二人のどちらが本当は強いのだろうか?

 

 女尊男卑の影響か、それとも長年現れなかった男子操縦者の実体がわからないためか、はたまた普段の彼の素行の悪さからか、この噂は当初は『火鳥陽太が更識生徒会長に敵うわけがない』という予想が大半を占めていたのだが、ここ最近は少し様相が変わり始めていた。

 一つは、世界最強のブリュンヒルデである千冬が楯無を押し退けて対オーガコア部隊の隊長に推薦していたこと。もう一つはいくら情報統制しておこうと時々行われる対オーガコア部隊の戦いの様子を目にしたいくらかの生徒達の話、そして普段行われている訓練の姿などから、彼は実は凄い存在なのではないのか?

 

 そして燻り続けていたそんな噂であったのだが、わざとらしいぐらいに接触する機会がなかった両者が今朝、何の前触れもなく爆発して急遽決まった決闘に、学園中の生徒達が密かに騒ぎ出す。

 

 事態を重く見た奈良橋と真耶によって関係者以外の試合観戦は硬く禁じられたのだが、外から一目見ようと大勢の生徒達が放課後のアリーナを取り囲んでいた。

 

「だから俺は喧嘩売られただけだって言ってんだろッ!?」

 

 そんなことが周りで起こっているなどまったく気にしていないのか、第二アリーナ内でISを展開して楯無を待つ陽太は、通信越しで自分に対して怒り心頭で説教をしてくる人物達に怒鳴り返した。

 だが二人の人物………シャルロット・デュノアと奈良橋健夫は背後で呆然となっている一夏達を気にも留めずに怒鳴りあいを繰り返し引き下がる気配を一切見せないでいる。

 

『それでもワザワザ本当に喧嘩することないでしょ!?』

『最新鋭の兵器を使い、しかもアリーナを独断で使用するなど、お前達には操縦者としての自覚はないのか!?』

「さっきから言ってんだろうが!? 向こうが勝手にブチ切れて勝手に勝負することにしたんだろうが!? 自覚云々なんてむしろ向こうの馬鹿女(会長)に言えよ!!」

 

食堂の一件からアリーナに来るまでの間、空いた時間ずっとシャルから『今は陽太が謝ってとりあえず会長を落ち着かせよう』という大人な対応をしてと言われたのだが、彼はガンとしてその言葉を聞き入れることはなかった。

 

『なんで俺が頭下げてやらんといかん?』

『人がせっかく好意で無礼な態度聞き流してやったのに朝飯ひっくり返すなどという暴挙で返しやがったのだ。もう許してやらん。泣かしてしばいてもう一回泣かす』

 

 とりあえず、何か彼女にも事情があって今は焦っている事ぐらいは察したのだが、だからといって食堂でのあの態度を陽太が受け流せるわけ無く、結果として本気で返り討ちにしてやろうという闘志に火を着けてしまい、シャルや奈良橋の言葉も怒鳴り返して打ち切ってしまう始末。しかも楯無も生徒会権限と『専用機の運用試験』と称した学園側へのアリーナ使用の目的を強引に貫いて、教師である奈良橋や真耶も止める事ができなかったのだった。

 

『………とりあえず、要望通りお前のISのコアにリミッターをかけて性能を競技用レベルまでダウンさせておいた。確認はしたか!』

「………ありがとよとっつぁん!! ついでに説教にもリミッターつけてくれた嬉しかったんだけどな!?」

『ぬあんだとッ!?』

 

 またしても通信越しでいらぬことを言い放って奈良橋を陽太の姿を見て、頭を抱えながら『もうヤダ。ホントヤダコイツ』とブツブツ繰り返しながら呟くシャルを何とか励まそうとするが言葉が出ない鈴とラウラを尻目に、一夏はこの場に姿を見せない箒のことを隣にいたセシリアに尋ねる。

 

「なあセシリア。箒の奴どこいったか知らないか?」

「箒さんでしたら………確か生徒会の方を通して話をつけるといったまま何処かに行かれたままでしたが」

 

 生徒会の人間………のほほんのことであろうか? だが彼女が楯無会長に進言したところで今朝の感じだととても勝負を取り止めてはくれそうもない。

 では他に誰がいるのか? 一夏が心当たりを思い浮かべていた時を同じくして、箒は唯一この状況で希望となる人物をアリーナ内の通路で見つけて、詰め寄っていた。

 

「虚さんお願いします。楯無姉さんを止めてください!!」

 

 自分よりも遥かに付き合いの長い生徒会会計の虚であるなら楯無を止められるのではないのか? そう思って詰め寄ったのだが、そんな彼女の期待に反して返ってきた言葉は酷く堅く冷たいものであった。

 

「止めることはできないの。ごめんね箒ちゃん」

「そんなっ!?」

 

 返ってきた言葉があまりに軽すぎる。それにいつもの虚ならば箒に頼まれなくても真っ先にこんな『馬鹿』な真似は決してさせはしない。これは悪戯や悪乗りの度を越したことだ。陽太と楯無のレベルの高さを踏まえれば、本気を出し合った場合お互いに唯では済まない事は楯無はもちろん虚にだって理解はできてはいるはずなのに………。

 箒が更に理由を深く問いただそうとした時、彼女は気が付く。

 

「…………」

 

 足元に零れ落ちていた虚の涙に………。

 そして虚は無理やり作った笑顔を浮かべながら、こう述べたのだ。

 

「虚さん?」

「…………私って、彼女の何なのかな?」

「!?」

「ごめんね箒ちゃん………悪くないの。彼女は悪くないの………でもなんでか………急に解らなくなっちゃったのよ」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「!?」

 

 ISを展開し空中に浮かびながら10分少々、右手に持ったヴォルケーノをクルクル回しながら待っていた陽太の耳元にISが接近してきたことを告げる警告音が鳴り響く。

 

『IS一機接近確認。撃墜されるときはボクの展開解除してね。ハァ~』

「お前らはもう少し俺に優しくなろうとか思えんのか!!」

 

 自分の相棒(IS)にまで辛辣な言葉を投げかけられ、いい加減にしろと激怒する陽太だったが、その時、急接近してくるIS………楯無の『ミステリアス・レイディ』は一切減速せずに、大型ランスを構えたまま突撃(チャージ)を仕掛ける。

 

『更識さん!? まだ試合開始の合図は…』

 

 審判役の真耶の制止の声も聞かずに楯無が陽太を突き刺そうとする。

 

 ―――突き刺さる寸前に最小限の動きで身体ごと左側に回避するブレイズブレード―――

 

 ―――回避されたにも関わらずその場で制止する事もなく、追撃の薙ぎ払いを繰り出し、陽太が更にバックステップで避けると追撃の突きを繰り出し、陽太は後方に大きく宙返りしながら間合いを開く―――

 

 流石に唯の攻撃では掠らせる事すらできないと踏んだのか、楯無が武装を構え直して尚も攻撃を加えようとする姿を見て、攻撃された陽太よりもそれを見ていたギャラリーから一斉に非難の声が上がった。

 

『楯無さん、いくらなんでも!?』

『そうよっ!! 試合しようって言い出したのアンタなんだからルールぐらい守りなさいよ!!』

 

 試合と銘打っている以上はルールは守れと叫ぶ一夏と鈴に、セシリアとラウラも発言こそしなかったが明らかに顔色は非難の声を上げていた。

 

『更識さん、貴女ほどの操縦者なら正式な手順での試合開始の仕方はわかっているはずです!!』

『これ以上のルール違反は即刻お前の反則負けと見なすぞ更識!?』

 

 教員である真耶と奈良橋も、開始の合図を待たないで行った先制攻撃を立場上笑って許してやることができないでいた。

 だがそんな中で対峙している陽太、そしてシャルだけは楯無の行動異常におかしな様子に気がつく。

 

「(目が死んでやがる)」

「(何か………すごくおかしい。どうしたんですか会長?)」

 

 目の前に対峙している、映像に映し出されている楯無の瞳からは一切の光はない。黒い色に全てが塗りつぶされて一切の輝きを放っていないのだ。そしてそれによって普段浮かべている笑顔も陽気さが鳴りを潜めた不気味を際立たせたものに変形し、尚更に彼女の様子の異常さを際立たせている。

 

『さあ規則は守れ更識、火鳥!!』

「………」

 

 ルールに則った厳粛なる練習試合をさせようと声を張り上げる奈良橋だったが、突然アリーナに鳴り響いた一発の銃声がそれをかき消し、全員が何事かと驚き、その銃弾を放った人物を凝視した。

 

 ―――空に銃口を掲げ、硝煙が立ち上るヴォルケーノからマガジンを取り出す陽太の姿―――

 

「当人同士無視してギャラリーうっさい。これ以降私語厳禁」

 

 マガジンを取り出し銃弾の様子を眺めながらサラッと言う陽太の姿に、一瞬呆気に取られていたメンバー一向だったが、いち早く復帰した奈良橋がまだ何かを言い抱えるが、陽太がモニター越しに手を差し出して制止の声を遮ると、視線を合わせずに楯無にも問いかける。

 

「アンタもその方が集中できていいよな?」

「…………まったく」

 

 だが問いかけられた楯無の方は表情を更に険しいものとして、陽太に敵意と憎悪に満ちた視線をぶつけ、自分の獲物を構え直しながら叫んだ。

 

「私程度の相手なら、試合開始前の不意打ちぐらいどうってことないとでも言いたいわけかしら?」

「………そのあたりはご自分で判断してくれ」

 

 マガジンを再び入れ直して、陽太が左手にもヴォルケーノを展開すると、高速で両方を指で回転させながら挑発めいた口調で言い放つ。

 

「それじゃ始めましょうか。俺の弱い者イジメタイム」

「その余裕、死ぬほど高くつくわよ?」

 

 真耶の試合開始の合図を待たず、楯無が特殊なナノマシンによって超高周波振動する水を螺旋状に纏ったランス『蒼流旋(そうりゅうせん)』を構えながら、内蔵されてる四門のガトリングガンを放つ。同時にその射線から逃れるように身を屈めた陽太だったが、同時にさきほどマガジンからこっそりと抜き出しておいたヴォルケーノの銃弾を左手を背中に隠しながら放物線を描くように楯無に向かって放り投げたのだった。

 

 キラキラと光りながら自分に向かってくる物体に強い警戒心を抱く楯無であったが、一瞬の隙を突いて彼女の『意識』から消え去った目の前の敵の存在を思い出し、これがただのフェイントだったと思い込む。

 

「(大口叩いておいてセコイ真似を!?)」

 

 一瞬で自分の真下あたりまで移動した陽太を心の中で罵倒した楯無であったが、対して陽太はいたって真面目に右手の指二本をクイッと折り曲げてまるで何かに対して指示を送るかのような動作を行ったのだった。

 

 ―――先ほど放り投げられた銃弾が空中で破裂し、プラズマ火球を一瞬で形成して楯無に襲い掛かる―――

 

「!?」

 

 ハイパーセンサーがアラームを鳴らすのと同時に楯無がそのことに気がつくと、彼女は最速の動作で自身のISの防御の要であるアクア・ヴェールを前方に展開してプラズマを受け止め、四散させる。

 そして不意打ちによって受けの体勢を取らざる得なくなった楯無にも陽太は容赦することはしない。以前よりも速度が増したかのような左のヴォルケーノの早撃ち(クイック・ドロウ)で速射してくるが、その全弾を再びアクア・ヴェールで受け止め、返す手で蒼流旋を撃ち返し、陽太が距離を開く。

 

 ―――再び動く陽太の右手―――

 

「まさかっ!?」

 

 一瞬で気がついた楯無が動こうとしたがそれよりも早くアクア・ヴェール内部の銃弾がプラズマ火球と化し、内部で小規模の水蒸気爆発起こして楯無を大きく吹き飛ばしたのだった。

 

「チッ!」

「(やっぱ競技レベルまでリミッターかけられてるとプラズマの威力が落ちるな)」

 

 本来の状態ならば今の一撃で楯無に大ダメージを行えたのだが、競技レベルまでリミッターがかけられている状態では一瞬で収束できるプラズマエネルギーの量が微少で、陽太もそのあたりの誤差の修正を求められていた。

 

「(ビデオで確認していたよりも反応が速くなっている? ISの出力が落ちている状態なのに?)」

 

 出力が落ちているはずなのに、映像で研究した陽太よりも動きにキレが上がっている。しかもこうやって対峙して見ると改めて思い知らされることもある。今の陽太から感じ取れる気配が以前に感じたものとは違い、ずいぶんと暴龍帝のモノに近くなっているではないか。

 

「(いいわ………そういうことなら願ったりかなったりよ。彼を倒せば私の中の霧も少しは晴れるってモノよ)」

 

 学園最強の称号を守ると同時に、自身の気の迷いも晴らせる。彼女が認めた強さは自分が下してみせる。

 あのテロリストの言うことに正しさなどありはしない。正しいのはこの対暗部組織の長『更識楯無』なのだ。そんな彼女の中の歪んだ何かが獰猛な牙をむき出す中、対峙していた陽太は以前のような燃え上がるような闘志を出さずに、無風の水面のような普段通りの平常心のままで思考し続ける。

 

「(時間かけたらいつもどおりの威力のプラズマ撃てるが………はてさて、どうしたものか)」

 

 相手の出方を伺いながらカウンターを放とうとする陽太に対して、そんな陽太にこれ以上デカイ面はさせないと闘志を剥き出しにした楯無は武装の一つである蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を展開して、縦横無尽に振るいながら斬りかかった。

 通常の刀剣や槍などの直線的な軌道とは違い、鞭のようにしなりながらも刀としての切れ味も持つ蛇腹剣相手にしても陽太の動きに戸惑いはない。高速で迫る蛇のような動きにも遅れずに剣筋を見切り、神速の動きで回避しながらヴォルケーノを発砲するが、楯無は先ほどの教訓からかアクア・ヴェールでの防御には拘らず、蛇腹剣で銃弾を切り裂いて弾き飛ばしながら、ショートステップで回避する。陽太が再び距離を開こうとすると、蒼流旋のガトリングを連射して追い立て、蛇腹剣で行く先を遮るような剣戟を放つ。

 

 伊達に陽太との戦いを何日もかけて想定してはいない。ここ数日の彼の異常な訓練によって彼自身の身体能力と反射速度が向上しているようだが、出力の抑えられたISを纏っている以上、誤差の範囲で済まされるレベルであり、このまま大きくミスを犯さなければ完封もそう難しくはないと楯無は判断を下す。

 

「(予定通りの高度にまで……落とした!!)」

 

 そして蛇腹剣の攻撃と蒼流旋の銃撃で彼をアリーナの地面スレスレまで追い込むと彼女は必勝の策を迷うことなく発動した。

 

「ミステリアス・レイディ!!」

 

 彼女が叫ぶと同時に、蒼いISのパーツ各所からものすごい量の蒸気が吹き出て10秒も待たずにアリーナ内部を覆い尽くしす。

 

「ぬお?」

 

 わりと緊張感がないそんな声を発しながら自身の周囲を覆い尽くした霧の成分をハイパーセンサーで陽太は確認し始める。

 

「(ダメージなし、各種センサー異常なし、特に何か動きに制限されてる感じなし)………八つ当たりが上手くいかんかったらその場で引き篭もろうとか、何を考えているんだね君はっ!?」

 

 霧の向こう側で自分を睨んでいるはずの楯無に煽るかのような発言するが、返ってきたものは煽り返す言葉でも余裕のない捨て台詞でもなかった。

 

 ―――肌で感じ取る突き刺さるかのような殺気―――

 

「!!」

 

 陽太が右側に全力で飛び退いたゼロコンマ数秒後、突如、爆発することないはずの空間が爆発したのだ。

 

「なんざコラッ!?」

 

 流石にこれには驚きが隠せないでいた陽太だが、先ほどの殺気がすぐさま今度は自分の背後から『発生』する。今度は地を蹴って前転するような動きで爆発から逃れるが、第二、第三の爆発が続きざまに起こり、陽太を容赦なく追い込んでいく。

 

「チッ!!」

 

 砲撃や爆撃ではない。明らかに爆破物なんて存在していない空間が突然に爆発する現象に目を白黒とする陽太だったが、おそらく霧がこの爆発と何か関係していることはすでに思いついてはいた。相手の手品の種が割れているならワザワザ付き合う必要はない。

 

「だったら霧から外に出てやれば・」

「させると思う!?」

 

 楯無の声と共に、陽太の頭上で上昇を防ぐように広範囲の爆発が起こり彼の行く手を完全に遮ってしまう。逃げ場所を失った陽太が再び地上に足を着けることを余儀なくされると、彼女は今度こそ陽太に止めを刺すための特大の一撃を見舞うために全神経を集中させるのだった。

 

「(広域の清き激情(クリア・パッション) 、制御は成功したわね)」

 

 通常は屋内などの閉鎖空間で使うこの技を楯無は徹底的に磨き上げ、屋外の使用を可能にしただけではなく、アリーナ全域とある程度の高度までナノマシンを含んだ霧を発生させることで、霧の内部ならば特定箇所の任意爆破を可能としたのだ。

 当然、ISにかける負担も大きく、ナノマシンの霧を量子変換して武装とするという手間がかかってしまうのだが、見返りも大きい。

 

「ナノマシンを含んだ霧の量が多ければ多いほど、爆発の威力は増すわよ」

「って、ちょ、おまッ!?」

 

 楯無の言葉を聴いた陽太が耳を疑うかのような声を上げる中、管制室からも楯無のこれからやろうとしている行動に非難の声が上がる。

 

『この規模の爆発なんて、リミッターがかかったISのシールドエネルギーが持たないわ!』

『やめなさい更識さん!! これは試合であって殺し合いじゃないのよ!?』

『やめんか更識ッ!! いくらなんでも度が過ぎているぞ!!』

『楯無さんやめてっ!!』

『会長!?』

 

 鈴が、真耶が、奈良橋が、シャルが、ラウラが制止の声を上げるが楯無は躊躇することはしない。

 

 まるで願うかような声で。

 自身に巣食った黒い染みを消すために、存在意義を再び取り戻すために。

 

 彼女は一言呟いた。

 

「消えて」

 

 

 ―――陽太と楯無を包む閃光。アリーナ全域を揺らす振動と、学園中に響き渡る爆発音―――

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「!?」

「!!」

 

 アリーナの中で試合も観戦できずに呆然としていた箒と虚だったが、突如アリーナに響き渡った轟音に何事かと驚き、そして震源がアリーナ内部であったことに驚愕する。

 

「今のは………陽太? それとも楯無姉さん?」

「………!!」

 

 二人の決着がついたのかどうなのか?

 いてもたってもいられなくなった二人が同時に駆け出し、通路を出てアリーナの観客席まで出たとき、目の前の光景に愕然となってしまう。

 

 広がる土煙、まだバリア越しに伝わってくる熱い空気。

 間違いない、何かとてつもない攻撃がアリーナ内部で起こったのだ。

 

「この爆発は………楯無姉さんの清き激情(クリア・パッション)か?」

「でもこんな規模を屋外で出せる訳ないわ!!」

 

 自分達が知っている楯無の技にしても、威力があまりに大きすぎる。それにこんな爆発をもし受けてしまえば競技用ISでは一たまりもあるまいに………。

 とりあえず箒は管制室で何が起こったのかを聞いてこようとした矢先、血相を変えた一夏とセシリアがISを展開して、今にもアリーナ内部に突入しようと武装を構る。

 

「一夏ッ!?」

 

 何が起こったのか? 一夏のただならぬ様子に箒が問いかけるが、彼は普段の彼らしくないほとんど怒鳴る寸前のような荒々しい口調で箒に答える。

 

「ふざけやがって!! 会長は陽太を殺すつもりなのかよ!?」

「!?」

「どういうこと!?」

 

 箒ではなく虚が問いかけるが、次に一夏ではなくセシリアが返した言葉に愕然となってしまった。

 

「アリーナ全部を覆い尽くせる霧を出したかと思ったら、それ全部爆弾にしたんです!! あれでは中にいた陽太さんの逃げ場なんて何処にもありませんわ!!」

「そんな!?」

「………嘘ッ」

「ウソなもんかよ!! 二人ともどいてくれ。俺の零落白夜でバリア切り裂いて…」

 

 陽太救出のためにアリーナのバリアを切り裂こうとした一夏だったが、モクモクと立ち込める土煙の中から姿を現した楯無の姿を見つめて、思わず怒鳴ってしまうのだった。

 

「楯無さん!! アンタって人はぁッ!?」

 

 いくら見知った人とはいえ、やって良いことと悪いことがある。そしてこれは明らかに試合の範囲を超えた範疇のことだ。それがわからない人ではなかったと思っていただけに、一夏の中で僅かに芽生えた「裏切られた」という気持ちが叫ばせたのだ。

 

 対して楯無の方は、暗い感情からようやく脱出できるのかと期待してたのだが、沸きあがってくるものは何一つないことに呆然となってしまう。自分の存在意義を脅かしていたものを倒して、ようやくいつも通りに戻れると思っていた。そうしなければ自分を保てないと感じていたから。

 だが実際はどうだ?

 今目の前に広がっている光景は自分が行ったことで、この爆発の中には陽太がいた。確かに目の敵にしていたのは事実だけどそれはあくまでも自分よりも強くて自分のコントロールできない人物であるだけだ。それはただ苦手というレベルの人間でしかなく、殺意を向けてしかも実行に移すべきものだったのだろうか?

 そう………自分の居場所を取り戻すために行ったことがなんだったのか? 頭に昇っていた血が一気に下がり、落ち着きを取り戻し始めてきた楯無が自分のやってしまったことに愕然とし始める中、立ち込めていた土煙がようやく晴れ始める。

 

「………」

 

 全員が陽太の安否を心配し、アリーナの中を凝視し続ける。

 

「………?」

 

 最初に異変に気がついたのはやはり対戦している楯無であった。土煙が晴れていく中で地面に倒れているであろうはずの彼のシルエットが一向に浮かび上がってこない。

 

「(アリーナの壁に吹き飛んだ………違う!?)」

 

 どこを探しても本来あるべき彼の姿がどこにもない。いったい何が起こったというのか? 完全に視界が晴れた時、その答えを彼女は見つける。

 

 ―――陽太が爆発寸前にいた地面に掘られた大きな穴―――

 

「まさかっ!?」

 

 爆発から逃れるために地面に穴を掘ったのか? と考えが行き着くと同時に、彼女の真下から赤い炎の塊が地面を割って飛び出してくる。

 

「!?」

 

 咄嗟にその攻撃をアクア・ヴェールで受け止めた楯無であったが、地面から飛び出してくるプラズマ火球はこれだけではない。続けざまに数発の火球が次々と飛び出し、彼女に襲い掛かってきたのだ。

 楯無はアクア・ヴェールでの防御を諦め空戦マニューバで火球を避けるが、彼女に避けられたはずの火球は途中で消滅せずに、弧を描きながら再び彼女を追いかけ始める。

 

「プラズマ火球の遠隔操作!? そんなことまで出来るというの!?」

 

 今までの陽太では考えれらない技術だ。いや、元から出来た技術だったのかもしれないが、人目につくのはどちらにせよこれが初めてであり、楯無が動揺するのも仕方ない。だがしつこく追いかけてくる火球を振り切れないと判断し、高速機動しながら蒼流旋で火球を相殺していく。

 

 ―――アリーナ上空で咲く小型の水蒸気爆発の数々―――

 

 水分の塊である蒼流旋の弾丸が超高温の火球で熱せられ瞬間的に膨張して出来た水蒸気爆発がアリーナ上空で咲く中、いつのまにか火球を撃墜することに気を取られ、地面に背を向けてしまった楯無にむかって、炎の不死鳥が地面から飛び出してくる。

 

「てんめぇ、もう勘弁してやらんからなッ!!」

 

 ―――フェニックスファイブレードで楯無に突撃するブレイズブレード―――

 

 紅蓮の炎を纏わせたブレイズブレードの姿を見た楯無は激しい怒りを覚えた。

 

 ―――損傷は何一つしていない姿―――

 

 つまり楯無が仕掛けたあの攻撃を陽太は一瞬のひらめきだけで凌いだということで、先ほどまで消えかけていた黒い気持ちが一気に膨れ上がる。

 

「(オマエは………オマエ達は!?)」

 

 ―――如何なる努力も一瞬で踏み砕く『本物』の天才―――

 

「私は………私は!!」

 

 激情に駈られた楯無が、諸刃の剣である禁断の攻撃を仕掛ける。

 装甲表面を覆っているナノマシンを含んだ水―――『アクア・ナノマシン』を一点に集中し攻性成形して小型気化爆弾4個分のエネルギー総量を持つ攻撃を直接相手に叩きつける楯無の一撃必殺の大技『ミストルテインの槍』を作り出したのだ。

 それを見た虚と箒は血相を変えて彼女を制止するために声を張り上げた。

 

「やめてくださいお嬢様っ!! その攻撃は!?」

「楯無姉さん!! 『ミストルテインの槍』は貴女自身も!?」

 

 一撃必殺の威力を得る代わりに、防御用のアクア・ヴェールまでも攻撃に転用してしまったがために、至近距離で起こる爆発を敵と一緒に我が身に受けるこの技の危険性を知っている虚と箒の制止の声も振り切った楯無が、アリーナ上空で陽太と激突する。

 

 ―――剣と槍の切っ先が激突し、紅蓮と蒼色が空の上で激しいスパークを引き起こす―――

 

 上空で衝撃波が発生し、目も眩む閃光に包まれる中、互いの必殺技同士が激突させ我が身の危険も顧みず強引に突破しようとした楯無とは裏腹に、陽太は落ち着いた表情で彼女の攻撃をいなしてみせた。

 

 ―――一瞬の力加減で切っ先を巻き上げ、炎の不死鳥は相克の槍を咥え、上空高く舞い上がる―――

 

「なっ!?」

 

 一瞬の早技で槍ごと技を奪われた楯無は、目の前の陽太を驚いた表情で見つめる。

 

「死に急ぎたいのかテメェは?」

 

 ―――ブレードを鞘に収めると同時に、フェニックスファイブレードが上空でミストルテインの槍を噛み砕いて大きな爆発を起こした―――

 

 気化爆発する前で大量の水分を含んでいた槍が破裂してしまい大量の雨がアリーナに降り注ぐ中、攻撃を凌いだだけではなく、結果的に自分を救った陽太の姿に今度こそ呆然となってしまう楯無に向かって陽太は容赦ない追撃を仕掛けた。

 彼女が動き出すよりも前に左腕のワイヤーを射出し、彼女を雁字搦めにしたのだ。

 

「くっ!?」

「焦ったりキョドったり人殺しかけたり………何をテンパってんの知らんが」

 

 ―――差し出される右手と、親指を立てた拳を楯無へと向ける―――

 

「今度やるときはもっと本気のお前を俺に見せてみろ」

 

 ―――親指を地面に向け、同時に上空が突然赤く輝き始めた―――

 

『!?』

 

 全員が驚き、慌てて空の上を見上げる中、『それ』は高速で落下してくる。

 

『なっ!?』

『いつの間に!?』

 

 ―――直径数メートルの巨大なプラズマ火球―――

 

 鈴とラウラの驚きの声はこの場にいた陽太以外の人間の全ての代弁とも言えた。コアへのリミッターのおかげでプラズマの収束速度が極端に遅れている中で、これほど巨大な火球をいつの間に形成したというのか?

 陽太のこれまでの行動をお思い返していた楯無は、とある序盤のある行動を思い出し、そして叫んだ。

 

「貴方、まさか最初から!?」

 

 ―――『当人同士無視してギャラリーうっさい。これ以降私語厳禁』―――

 

 ギャラリーを黙らせるために放った警告の弾丸………気にも留めていなかった勝負の前のあの行動に隠された意味。

 彼は誰にも気がつかれないよう、遥か上空でゆっくりと巨大な火球を生成し、地面に気を惹きつけさせてその存在を今まで隠蔽し続けていたのだ。

 

「不意打ちしてきた奴がまさか卑怯とか言わないよな?」

 

 何気ない行動の中に必勝の策を潜ませておく。戦闘者の極地ともいうべき技に楯無は今度こそ強いショックを受けて、そして戦意が徐々に薄らいでいくことを強く感じ取る。

 

「(これが………本物の天才)」

 

 最初から答えは決まっていた。相手の動きを分析し、行動パターンを記憶し、それにあわせた対策と最適な行動をする。だがこれは別に自分じゃなくても、ほかの人間でも出来ることだ。つまり言い換えれば、凡人でも出来る行動を自分は得意気に行い、それで勝てると踏んでいたのだ。

 だが彼は違う。勝負が決まった時からこの放課後まで、おそらく何の対策もしていない。それどころか自分の機体データすらも見ていないだろう。でも彼はそんな自分相手に一撃たりとも食らうことなく勝利して見せた。即興で自分の必勝の策を凌ぎ、同時にまったく誰にも気が付かれずに必勝の策を見せ付ける。

 

 答えは最初から出ていたのだ。

 

「(なんだ………やっぱりそうなのか)」

 

 ―――プラズマ火球が直撃する瞬間、楯無を自分の元へ引き寄せる陽太―――

 

「(メッキと本物の違い………確かにこれは歴然とした事実ね)」

 

 ―――プラズマ火炎がミステリアス・レイディの絶対防御を発動させシールドエネルギーが同時にゼロとなる―――

 

「(なんだ………これで、おしまい)」

 

 余剰のプラズマ火炎を全てブレイズブレードは吸収し、楯無に害を及ぼさないようにする中、陽太の腕の中で彼女は気を失ってしまったのだった。

 

 試合開始から15分足らず、陽太の圧勝となってしまったのだが、腕の中で気を失いながらも涙を流している楯無の姿を見た陽太は、ただ何も語らずに地面にゆっくりと降り立ち、深くため息を漏らす。勝利の余韻になど浸れる気分にはなれないのだ。

 

 勝負が付いたということでアリーナのバリアが解除され、虚と箒が大急ぎで降り立って走ってくる中で、気絶した楯無が無意識にこう言い放ったのを陽太はしっかりと耳に拾ったのだった。

 

 

「ごめんね………お姉ちゃん、ヒーローになれなかった……簪ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきはいつもどおり活報に書かせていただきます
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