IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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リアル生活がしんどくて寝る暇もないナリー!








更新遅れてごめんね。ちょっとマジで走馬灯見えそうで怖い


あと、予告とサブタイ一緒じゃないのは気にしないでw




落涙

 

 

 

 

「………そうですか、やはり結果は彼女の惨敗となってしまいましたか」

 

 夕日が沈もうとする放課後の、IS学園の校門の近くにある花壇の手入れをしながら、陽太と楯無の戦いの結果を真耶から報告された老人はおもむろに立ち上がると、老化によって重くなった腰をさすりながら、少し陰のある表情となっている真耶の方に振り返り彼女の報告の続きを聞く。

 

「開始の合図を待たずに相手への攻撃、故意の過剰ダメージを伴う攻撃、観客席への被害予測………朝の食堂の一件も合わせますと、彼女の退学処分すらも視野に入れなければなりません」

「………ですがそれはおそらく政府が許さないですね」

 

 彼女がもしただの学生であるなら当然といわれる処置になっていたのだろうが、あいにく彼女は『普通』ではない。

 数百年の間、日本の戦力の影の要と言われてきた対暗部組織の長であり、オーガコア関連でキナ臭い噂が後を立たないロシアから情報を受けるために取得した自由国籍を手に、国内における反発の声も覚悟の上で就任したロシア代表の称号を持つ国内屈指の操縦者だ。

 政治的な観点から見ても、今、彼女を外に放逐して代わりの人材を探してそれを当てるのは効率が悪い上にナンセンスだと切って落とされるだろう。なぜなら情報を仕入れるために代表になった以上はロシア側の機密にも関わっているのだから、おいそれとそれを外に口外させるような真似を許すはずがない。

 

 普通の学生として罰されることはない。だが職務から、ましてや戦いから、逃げることも負けることも失敗することすら許されない。勝って結果を示し国益を守る。十代の女子に求められるにはなんと過酷で歪なのもなのか。

 そう考えると今回の楯無の暴走は、IS学園に通う生徒達全てに起こりうる問題だったのではないだろうか?

 家の名誉、国の威信、世界の命運。誰が本来背負うべきものなのだろうか………沈み行く夕日を眺めながら考え込んでいた老人は振り返ると再び真耶に問いかける。

 

「それで更識君は、今鵜飼総合病院に?」

「は、はいっ!! カール先生がいらっしゃらないために、大事を取りまして」

「よろしい………ならば更識君の処分、私に預けてくれないかね? 口外していないのなら職員会議の議題には上がるまい。奈良橋先生には私から伝えよう………彼は規律を重んじる人だが、それも全て生徒の為だからね」

 

 自分の役割と戦いを見失い、道に迷う少女の未来(今後)を受け持った初老の男―――轡木十蔵は、ポケットからスマフォを取り出し、早速奈良橋に連絡を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 勝負が終わった後、自室に戻って来た陽太はベッドの上に寝転がり、気を失った楯無が担架で運ばれていく姿を思い浮かべながら天井を厳しい表情で睨みつけていた。

 勝負自体に落ち度は感じてはいない。

 不意打ちにダメージオーバーキル確定の攻撃をされたのだから、シールエネルギーをゼロにして目立つ外傷も無く気絶程度の返り討ちで済ませたのだから、むしろ寛大な対応をしたと誰かに褒めてもらいたいぐらいだ。

 だが、彼の脳裏には楯無が気を失う直前に呟いた言葉がこびりついて離れないでいる。

 

 ―――「ごめんね………お姉ちゃん、ヒーローになれなかった……簪ちゃん」―――

 

「………フンッ」

 

 思わず聞いてしまった彼女の本音が耳にこびり付いて離れない。ただの自意識過剰な女が低い煽り耐性から八つ当たりしてきただけだと考え込んでいた陽太にとって予想外の言葉で、まるで本当に弱い者いじめをしてしまったかのような気分となり、彼の気分をイラつかせる。

 

「………チッ!?」

 

 そして自分の枕を掴むと………。

 

「ムカつくっ!!」

「ボフッ!!」

 

 勉強机で必死に勉強していた一夏の横っ面に投げつけて八つ当たりを敢行する。当然怒りに燃えた一夏が枕を手に持ち、抗議の声を上げた。

 

「いきなり何すんだよっ!?」

「ムカつくっ!!」

「意味わかんないぞそれっ!?」

 

 一夏の言葉が至極当たり前なのだが、なぜか怒鳴り声を上げた一夏よりも更に大きな怒鳴り声を上げて陽太が一夏に襲い掛かってきた。

 しかもこんな理由で………。

 

「俺がムカついてんだからお前がどうにかしろ!!」

「理不尽にも程があるっ!?」

 

 枕を投げ返し、それをあっさり受け止められた一夏が机から立ち上がるが、その時すでに陽太は鋭く光る眼光と獣のような動きで彼の頭上を両足を抱えたまま回転して通り過ぎ見事に着地すると、流れるような動きで背後から両足を内側から引っ掛けて両手をチキンウイングで絞り上げる、天空を優雅に飛ぶ大鷲を思わせる某ロシアのロボ超人のフィニッシュホールドを一夏に仕掛けたのだった。

 

「いだだだだだだだだだだだっ!!」

「フッフッフッフッ………二流のなんちゃってアイドル顔をしたおまー如きが俺に歯向かうなど二度とできないように、このバ〇スペシャルで思い知らせてくれるわ」

「痛いっ! 肩が!? 腕がぁっ!?」

 

 部屋の外まで響く悲鳴を上げる一夏を陽太は黒い笑顔を浮かべて高笑いして見下ろす。唯一無二の目の上のタンコブである千冬がいない今、このIS学園は自分の天下なのだ。

 

「うるさぁーーーーーいっ!!!」

 

 ―――ワザワザ自分の部屋からダッシュで廊下を走り、怒り心頭でドアを乱暴に開けて入ってくるシャル―――

 

「すみませんっ!!」

 

 すかさず〇ロスペシャルを解いて陽太が土下座して謝る。三分も持たない天下終焉である。

 そして腕を摩りながら、『なんでそうシャルに弱いのにワザワザ近くで威張ろうとするのかな?』と腑に落ちないと言った表情で一夏は二人の様子を見守るのだった。

 

「どうして君という奴は静かにできないの!? 何を騒がないと生きていけないの!? 何で問題が解決もしてないのに次から次へと問題を発生はさせてはややこしくするのかな!? それに今は皆が心休まる時間だっていうのに、ヨウタはいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもぉぉぉぉーーーー!?」

 

 怒涛のシャルの言葉に口を挟む暇がない陽太であったが、とりあえず一息ついたところで彼女に平然とした表情でこう問いかける。

 

「機嫌悪いな。今日は『アレ』の日なの?」

「!?」

 

 瞬時に顔を真っ赤にしたシャルが座っていた陽太の頭部目掛け………。

 

「今日の事を言ってるのっ!!」

「ぶへっ!?」

 

 見事な踵落しを決め、頭に足を乗っけながら睨み付けたのだった。その威力に頭から煙が上がる陽太であったが、真剣な表情のままもそっと頭を上げて、彼は普段着である薄手のカーディガンとミニスカートを履いたシャルに対して更に言い放つ。

 

「パンツ見えるぞ?」

「!!」

 

 ―――部屋の外まで連続して鳴り響く、重い打撃音―――

 

 男子勢の周囲の部屋の住人が『ああ、またか』と諦めの言葉を吐いて不介入を決め込む中、部屋の床に転がされ血文字で『理不尽』と書いた馬鹿を見下ろしながら、シャルはようやく落ち着いた表情で話し始める。

 

「どうして今日の会長………やっぱり変だった」

 

 一時は陽太を殺しかねない攻撃をした楯無に怒りも沸いたが、すぐさまそれも消え失せた。気絶する際に見せた楯無が幼い少女のように、そして何かに強いショックを受けていたから。それはあの現場に程近い場所にいた一夏も同様に感じ取っていたことだ。

 

「………それに何か焦ってたみたいな動きも見えたぜ」

「一夏?」

「………悪い、下手クソの俺が言っても説得力ないかもしれないけどさ」

 

 怒りはある。もう少しで大事な仲間を殺されるところだった。

 憤りもある。IS学園生徒会長という立派な役職についている人が、卑怯な事を平然としていたことに。

 だからといって怒り心頭のまま、かつて陽太とシャルが決闘した時の状況を繰り返すわけには行かないし、なぜどうしてそうなったのか、ちゃんとした理由を二人は知りたいのだ。

 

 そしてそれはこの男もそうであった。

 

「下手クソは大正解だし、今回だけはお前の勘が正解だ」

 

 横たわり鼻血を出しながらも真剣な表情となった陽太が、シャルのスカートの中身を目線で探りながらそう告げる。

 

「みんなそこまではなんとなくわかってるんだけど、そうなっちゃった理由がよくわからないんだよ」

「ああ………一緒に戦った事は一回しかないけど、あんな殺気振り撒いてるような感じじゃなかったしな」

 

 陽太の顔を足で踏みつけたシャルと、脇においてあったティッシュを箱ごと投げ渡した一夏が交互に頷き合うが、そんな二人に対して陽太が直に向き合った者しかわからない感想を述べた。

 

「テンパってたんだよ。何勝手に思い詰めてんのか知らねぇけど」

「テンパる?」

「大方あの爆乳戦で何も出来なかったとか思ってんだろ? あの女の戯言を中途半端に真に受けて俺に八つ当たりしてきたんだ。そんで『この素敵な殿方に勝てないなら、私の価値って、この人の肉奴隷になるしかない~ッ!!(はーと)』とか思っててイダダダダダダダダダダッ!?」

 

 最後に余計なことを言い放った陽太のこめかみを踵で力強く踏みしめたシャルだったが、陽太の言葉にようやく合点がいく。自分自身の価値観の揺らぎが不安と自身が非力だという認識を与えて、暴龍帝や亡国幹部への劣等感をそのまま陽太にぶつけてしまったのだ。彼に勝てない限り自分に存在価値がないと思い込んでいたのだろう。

 一夏にも覚えのない話ではない。千冬が生死の境を彷徨っていた先日の手術中、もし千冬の手術が成功しなかったら、彼女が帰らぬ人になっていたら、自分がもう一度立ち上がれなかったら、彼女のように身近な人間に錯覚してしまった憎悪をぶつけてしまったかもしれない。

 そう思うと急に楯無が酷く悲しく哀れに思えてきた一夏とシャルだったが、そんな二人を冷めた目線で見つめながら立ち上がった陽太はそそくさと部屋を出て行こうとする。

 

「アホらし」

「陽太?」

「『私、悲劇のシンデレラなのよ!?』ってか? ヴァカじゃねーの?」

「コラっ!? そういう言い方は…」

「戦う理由なんてみんな持ってんだろ? それが揺るがされたからってイチイチヤツ当たりしてるようじゃざまぁないね…………まあ、とりあえず今回は俺がボコボコにしてやったし、『戦利品』も貰ったし、手打ちにしてやる」

 

 そう言いながらポケットから白い物体を取り出し、背後から見つめているシャルに見せ付ける。

 最初はそれが何なのかわからなかったシャルだったが、すぐさま理解すると顔を真っ赤にしてスカートを押さえつけながら陽太を怒鳴りつけるのだった。

 

「ヨウタァッ!?」

「ウッヒョヒョヒョヒョッ!! 戦利品ゲットだぜぃ!!」

 

シャルから奪い去った白い布切れをポケットに突っ込んで走り出しす陽太と、顔を真っ赤にしてスカートの裾を手で押さえながらその後を追いかけだしたのだ。廊下に出て数秒後、女子生徒達の叫び声がキャーキャーと聞こえる中、一人取り残された一夏はため息をつきながらこう呟く。

 

「楯無会長の事、心配なら心配だって言えばいいのに………」

 

 なんとなくではあるが、確かに通じ始めている仲間の胸の内をズバリ言い当てた一夏だった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そして寮の二階の窓から隠れながら飛び降りた陽太はというと、未だに騒がしく寮内でシャルが騒いでいるのを察知し、しばらく外で時間をつぶすことを決めてブラブラと夜の校内を歩き出す。

 口笛を吹きながら寮の裏庭の池の前まで来ると、人の気配がない事を確認した上で、彼は盛大なため息をつき、夜空を見上げながら一人考え込んだ。

 

 楯無が抱える迷い………自分自身の力を信じられなくなる事。

 ならば自分は信じているのだろうか? 火鳥陽太は、本当に強いのだろうか?

 

「(………だが俺よりも強いやつがいる)」

 

 頭の中で高笑いをしながら『いつでも待っているよ負け犬君』と指差しながら見下す言葉を言い放つ暴龍帝の姿が自動で再生され、彼のこめかみに青筋が走る。

 生まれて初めての実戦での完敗。しかも半端な負け方ではない。一対一で完膚なきまで全てを上回られ、仲間と力を合わせた第二ラウンドですら相手が手加減していなかったら仲間を死なせていただろう。最後には『強くなったら続きをしよう』という情けを貰って生かされた始末だ。

 

「(そういう糞が付くほどムカつかせてくれる気遣い、感謝してやるぜ爆乳ッ!?)」

 

 決めた。絶対に三ヶ月以内にあの女よりも強くなって台詞をそっくりそのまま返してやる。

 何の根拠もない期間を心に決め、拳を強く握り締める陽太だったが、その時、自分の手に握られていた白い『布切れ』の存在を思い出し、ちょっとだけ呆然となりながら更に周囲を挙動不審なぐらいに警戒しながら見回すと、伸ばしながら見つめて、ポツリと漏らすように言い放つ。

 

「横紐とかシャルさんにはまだ過激すぎます。よってこれは没収………………………ちょっとだけいいかな?」

 

 そして彼は青少年特有の若さ故の突き上げてくる情熱を我慢することなく、『とりあえず被ってみますか』と並の青少年が思いついたって実行はしないであろう、人に見られれば爆死するしかない行動をしようとゆっくりと白い布切れを頭に被せ様とした………時だった。

 

 

 ―――見ィたァぞォ~~~~~!―――

 

 

「!?」

 

 地の底から湧き上がってくる声に陽太はびっくりしながら振り返るが、周囲には人影はない。だが何かの聞き違いとも思えない。一体何処から聞こえたのか?

 陽太が周囲を見回す中、異変はすぐ背後で起こっていた。

 

 ―――ブクブクと池の水面に上がってくる気泡―――

 

「!!」

「トウッ!」

 

 陽太が気が付くと同時に水面から飛び出た人影が、彼の頭上で見事な空中宙返りを決めながら飛び越え、彼の背後に降り立つと、手に持っていた獲物を容赦なく突き立ててきたのだった。

 

「(銛!?)」

 

 漁業などで使われる三叉の銛が陽太を襲うが、腰に常日頃から装備されているハンドガンを居合いの刀のようにすばやく抜きさって銃身でその一撃を見事に受け止める。強化ステンレスの強度が甲高い音を上げるが、銃身には傷一つなく、銛の持ち主が感心したような口笛を鳴らし、銛をいったん引っ込めた。

 

「へいへい~! ただの下着泥棒君かと思ったんだけど、中々やるな?」

「どぅわれが下着泥棒………」

 

 頭に幼馴染の下着を被った立派な下着泥棒の言葉が途中で失速していく。自分に銛を突き立ててきた奴は何者かと思っていたら、予想を上回る人物像だったからだ。

 

 ―――潜水用のゴーグルとシュノーケル、ツインテールに結ばれた深緑色の髪、手に持った三叉の銛、そして………―――

 

「……スク……水…だと?」

 

 今や絶滅したと言われているスクール水着を装着し、見た目のサイズが真耶に匹敵するであろう巨乳を揺らした謎の侵入者は、頭に幼馴染の下着を被った下着泥棒に対して不敵な笑みを浮かべながら彼に問いただしたのだった。

 

「若いからって、逸る気持ちは抑えないといけないよ下着泥棒の少年?」

「誰が下着泥棒だ、この不法侵入公然猥褻痴女!?」

 

 下着泥棒と不法侵入者の二人は、一瞬の静寂の後、互いに間合いを取り合うと高速で夜の森の中を走り出す。

 IS操縦者として鍛え抜いていると自負する自分の速度についてくる脚力があることを確認し、どこかの国の諜報員か、もしくは亡国の手先かと疑う陽太に対し、スク水と銛を持った不法侵入者はすばやく間合いを詰めてくると、今度は手加減抜きの連続した突きを放ってくる。

 

「殺さない程度に痛めつけてあげるわ!!」

 

 かなりの速度で放たれる連突き。

 だが今の陽太にそれを恐れて守勢に回る気勢はない。

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

 連続して放たれる突きを、残像が残るほどの速度で回避しながら前進すると、一瞬で目の前の不法侵入者の前に躍り出て、銛を掴みながら拳銃の銃口を柄に合わせる。

 

「中々やるようだが、俺を捉えるには遅すぎる」

 

 ―――発砲して柄を砕く陽太―――

 

「!!」

 

 陽太のその動きに驚愕したのか、大幅に後ろに跳んで間合いを開き、砕かれた銛を見つめると不法侵入者は尚もやる気を失わず、今度は銛としてではなく棒として獲物を振り回し構え直す。

 

「中々やるようね、ちょっと甘く見てたわ下着泥棒の少年!」

「そういうあんたは大したことないな公然猥褻+不法侵入女!」

 

 腰のホルスターに拳銃を戻し素手となった幼馴染の少女から下着を剥ぎ取った下着泥棒(刑法176条抵触)は、今は亡き某カンフーアクションスターの有名なポーズを取りながら、目の前の公然猥褻罪(刑法174条抵触)に対してぬけぬけと言い放つ。

 

「警察に突き出してやる、犯罪者!!」

「それはコッチの台詞だね、犯罪者!!」

 

 ※この時点で二人とも立派にお互いに犯罪者です。現行犯逮捕余裕です。

 

「それにプラス、そのスク水剥いで縄で縛り上げて読者サービスにしてくれる!!」

「こっちこそ、坊やを池〇の某喫茶店で裸サスペンダーで半年間ウエイターの刑にしてあげるよ!」

 

 ※実際に〇袋の某ロードにはそういう人向けの喫茶店はありますが、皆きっちりとした制服を着てます。期待も落胆もしないように。

 

「おのれ、犯罪者の上に貴腐人とか救いようがない変態め!?」

「そういう君は放課後の無人の教室で好きな子の縦笛舐めるタイプだな!?」

 

 ぐおぐおと渦巻くよくわからないオーラを発した二人に対してツッコミを入れる人間がいないことが非常に惜しまれる中、互いに構え力強く大地を蹴った二人が激しい衝突音を響かせ、激突したのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 夕食と面会時間が終わり、大まかな一日の仕事が終了して静かになった鵜飼総合病院において、恰幅の良い中年の看護師の女性が見回りを行っていた。

 看護師というと看護婦に代表される医者の仕事のサポートをしていると思われがちであるが、無論彼女達の仕事はただ医者の助手をしていることだけではない。

 医者の指示の元、問診や各種検査、点滴や注射、食事・排泄の補助、患者移送、検温や入浴の介助、体位交換、記録、巡回など、患者の症状を正確に把握し医師に報告し、ときには患者だけでなくその家族への対応も行うハードな職業なのだ。

 そしてこの箒や本音からも昔ながらの「婦長さん」と言われて病院内外から慕われる女性も、そんな職務を何十年という間続けてきたエキスパートであり、今夜は数日間特別に入院することになったこの病院一番のVIPの様子を覗きに来ていた。

 一流ホテル並の設備を持つ病院で一番高額な個室のドアを開いた婦長は軽い驚きとヤレヤレと言った溜息が漏れる。

 

「あら~~………今度はどこに脱走したのかしらね?」

 

 ここに今日は安静に眠っているはずの少女、自分達従者の家系にとって絶対的な主である宗家・更識の現当主の姿がどこにもない。

 一瞬だけこの病院に一緒に入院している彼女の妹の方に行ったのかと思ったが、それも違うと思いつく。何故ならこの部屋に一つ前の巡回が彼女だったからだ。

 

「………だったら、きっとあそこね」

 

 この病院で妹の病室以外の場所に彼女が行きそうな場所はただ一つだけ。婦長は静かにその場所に足を運ぶのだった。

 

 

 日中は日差しと暑さが厳しい屋上であるが夜になれば吹いてくる風が心地よく、楯無は入院着の格好のまま屋上から見える夜景を呆然と見つめていた。別に風景を見たかったわけではない。

 ただ病院の中にはいたくなかった。でもどこにも行く宛なんてなかったから。

 気がついて最初の数十秒、何があったのかわからずに呆然としてしまい、そして意識が覚醒すると自然と自分が何をしてどうなったのか理解し、ここで夜景を見ていた。

 

「そっか………私、負けたんだ」

 

 負けたのだ。

 火鳥陽太に、アレキサンドラ・リキュールに、そして自分自身に。

 

「なんだ………これが私の本当の姿だったんだ」

 

 夢の中の彼女(アレキサンドラ・リキュール)の言葉は正しかった。

 自分は金メッキで、有象無象の石ころが装飾を施して他のものよりも煌びやかであると嘯いていただけだ。本当の黄金(陽太)と比べれば、容易く地金を曝してしまうのは必然だったのに、それを認められず挙句の果てが見事な自爆だった。恐らく明日の学園中に無様な姿がふれ回っているだろう。

 

「………ッ………うッ…ぅッ……」

 

 必死に今、自分が流そうとしているものを抑える。この行為を無意識にできるようになったのは何時の頃からだったろうか?

 

 

 

 

 ―――おとうさま、おかあさま、『かたな』は『さらしき』をつぐものとしてひびしょうじんいたします―――

 

 人生最古の記憶は三つの時。宗家の次期当主のお披露目として分家の全ての人間を呼び寄せて行われた誕生会の時に、自然と漏れたその言葉に物静かで厳格だがどこか暖かだった父と、身体は病弱だが美しくとても気丈で優しかった母の二人はしばし沈黙すると、何も話さずに頭を優しく父は撫で、母はそんな自分を抱きしめると耳元でこう囁いた。

 

 

 ―――そう。貴女はいずれ『更識』を継ぐ『楯無』となる。でも一人ぼっちにはならないでね―――

 

 ―――時々でいい。肩の力を抜いて周りを見渡しなさい。広い目で見れればきっと多くの想いがあることに気がつけるわ―――

 

 

 何を言っているのか判らなったが、とりあえず心配されたのだろうか? 私が更に厳しい表情を作ると母はまだ言葉を覚えたての妹を抱き上げながら『貴女のお姉ちゃん、とても頑張り屋さんね♪』と囁き、晴れ着を着せられた妹が釣られて笑っていたことが忘れらずにいたのだった。

 

 そして次に古い記憶。それはそんな気丈で優しい母の顔に白い布を被せられ、白い着物を着せられて寝かされている場面だった。

 妹を生んでから更に体調が悪化していたのだが、父を支えようと本家の裏方の仕事を彼女は手を抜くことは無く、自分たちの面倒を見ながら父を支え続けた先の結果であった。

 

 いつも以上に物静かで表情が厳しい父、すすり泣く家の者達、何が起こったのか理解できずに自分の手を握る妹………私は漠然ともう二度と母に会えないことを理解し、大好きだった母が心配しないように、心の中で『立派な楯無になる』ことと『母に代わって妹を守る』ことを私は己の胸の内で密かに誓いを立てる。

 

「(大丈夫、心配しないでお母様………私が絶対に簪ちゃんを守ってみせるから!)」

 

 誰にも知られたくない誓いの言葉を秘め、火葬を終わらせ母の葬式が済んだ日の夜、父は私と妹を部屋に呼び寄せると、表情を崩さずにこう問いかけてきた。

 

「選ぶがいい。今日この日をもって、私を父とは呼ばずに師として、現当主として接するか否かを」

 

 突然の言葉に幼い妹は父の態度に戸惑い、何と答えたらいいのか分らず隣に座る私の顔をじっと見つめてくるが、私の返答はすでに決まっていた。この言葉に対する返答は私がずっと幼い日から考え続けていたことだから。

 

 

「………『楯無』様、ご指導のほどお願いします」

「…………うむ。それでこそ『楯無』を継ぐ者だ」

「わ、わたしは………」

「貴女は何もしなくていいわ、簪ちゃん」

「!?」

 

 その瞬間、私と父の関係は親子から先代楯無と次期楯無のものとなった。そして妹には生まれて初めての強い口調の言葉を有無を言わさず投げつけた。息を呑む妹が気がかりだった、これだけは譲るわけにはいかないことだと自分自身に言い聞かせる。

 これはきっと師として接しないといけない、弟子として接しないといけない父と妹への気遣い。少なくともこれなら簪ちゃんは父と母を失うことはない。父は娘二人を同時に失うことはない。妹を親として愛し続けることできるはずだから。

 

 痛みを受け取るのはここからは『私一人』でいいはずだから。

 

 そして母を失った日、私は父を失い師を得た。刀奈は死に、『楯無』となる者が生まれた。

 

 これは後からわかった話ではあるが、本来時期当主となる者は、生まれた瞬間から当主となるべく特殊な教育を受けるものなのだが、不思議とは私は幼少時は普通の子として育てられていた。そしてどうして父が母が死んだ日に話を切り出したのか話しを聞かされた時になんとなく理解できた。

 

 きっとそれは母を本当に愛していたから。

 夫として妻の目の前で娘を赤の他人として接する姿を見せたくなかったから。

 そして娘を愛する父として傷付いている母の姿を見せたくなかったから。

 

 物静かな父は、私と妹を本当に愛してくれていたのだ。

 

 その事を理解できたからか、修行の時間は父は特別に厳しかったが恨んだ事は一度もなかった。

 他の子供達のように外で遊ぶこともなく、それまで親友として接していた幼馴染の従者の子と接する時間も極端に減り、普通の子供らしい時間など何一つなかったが、そんなことで泣き言を言っているよりも、一日も早く父の後を継ぐのにふさわしい人間となって妹を守れる人間になりたかったから。

 

 

 ―――それが父と亡き母の願いだと思っていたから―――

 ―――その為に私はこの国を守る不敗の楯であり、矛となるのだから―――

 

 

 だけど時々、そんな私の姿を見た父が何か言いたげな表情となることがどうしても気に掛かっていたが、その解答を得るのは修行を始めて数年後のことだった。

 

 僅か数年の修行で私は師である父に限りなく近づき、その事を分家の人間が褒め称えていた中、私はあっけなく師を失うことになる。

 首相と国賓の会談の護衛中に第三国からの突然の奇襲。慌てる警察や公安を尻目に更識は首相と国賓を守り抜き、一番間近で護衛を行っていた父は敵の凶弾に倒れたのだ。

 

「………嫌な予感はしていた」

 

 病院で血塗れの上から包帯を巻かれ、息絶え絶えとなっている師と対面した時、彼は蒼ざめた表情で私にそう語りかけてきた。

 

「しっかりしてください楯無様!!」

「部下からは直接前線に出向くなと言われていたのだがな………今回だけはどうしてもと押し切ったのだが………人生とはどうしたものか。嫌な予感だけはよく当たってしまうものだ」

 

 いつも以上に口数が多い師の姿に、これが最後の会話になると予感し、私は動揺しないように自分に言い聞かせ、されど必死な表情で彼に励ましの言葉をかけ続ける。

 

「いつもの強気な師の姿はどこに行かれたのですか!? 貴方は更識のご当主なのですよ!?」

「当主………そうか……当主か」

 

 師は私の揺れる瞳を見つめて、いつかの日と同じ目であの時言えなかった言葉を言ってくれた。

 

「これよりの言葉は当主としての最後の物とする。お前達もよく聞いておけ」

「!?」

 

 私だけではなく、周囲にいた数人の分家の重鎮達にもはっきりとした口調で話しかける。

 

「第16代『楯無』は今日この日をもって引退。目の前の者を第17代『楯無』とする。これを私の最後の言葉してしっかり刻んでほしい」

 

 そして師は念を押すように配下に念書を持ってこさせると拇印を押し、それを公式の言葉としたのだ。

 

「これで………今日この時をもってお前が『楯無』だ」

「そんな………待ってください!! まだ私は貴方に沢山教わりたいのに……」

 

 呆然としている私に対して、淡々と作業のように自分の役目を譲る姿に今度こそ我慢できずに慌てふためきながら彼にしがみ付く私の頭を撫でながら、彼は生まれて初めて聞く優しい口調で話しかけてくれた。

 

「………私もつくづく自分勝手な男だな。当主であることを早く辞めたいと常に思っていたのだから」

「!?」

「これで………昔のように『父』としてお前を抱きしめてやれるよ刀奈」

 

 私を片手で力強く抱きしめると、『父』は耳元で彼は語りかけてくれた。

 

 ―――当主であることを辞めたかった。そしてそれ以上にお前を当主にしたくなかった―――

 ―――お前が簪に『何もするな』と言った時、私もお前に対して『弟子になろうなど思うな』と言いたかった―――

 ―――実の娘を赤の他人として接するような男を師匠など呼ばせたくはなかった―――

 ―――母さんによく似て気丈なお前のことだ。きっと簪にこれ以上心配かけさせたくない、簪から父親を取り上げたくないと思って言ってくれたんだろ?―――

 ―――お前が簪に遠慮している姿が辛くて仕方なかった………もっと娘として私に我侭を言ってほしかった、もっと私を困らせてほしかった―――

 ―――私は本当に駄目な父親だ―――

 

 初めて聞く優しい声で、初めて話す父の胸の内に、唇が振るえ目尻に熱い物が溜まる中で、彼は呼吸が荒くなっていく中を必死に耐えながら言葉を紡いでくれる。

 

「簪も………お前に遠慮されてることが寂しいと……ゴホッ」

「お父様っ!!」

 

 咄嗟に出た言葉。

 ずっと言いたかった言葉。

 その言葉を聴いた父は、一瞬だけ呆気に取られると………本当に心から嬉しそうな表情で涙を浮かべる。

 

「最後に………約束してくれ」

「最後などと言わないでください!! これからはまた三人でっ!?」

「簪のことを………頼めるか?」

 

 これはきっと私への気遣い。簪ちゃんをこれから守っていきたい私への最後の気遣いの言葉。

 『お前も妹も等しく愛する娘だよ』と言ったことを理解した私は、何とか一言だけ言葉を搾り出した。

 

「………はいっ」

「お前なら………変えていけるのかもしれん。『楯無』を………『更識』を……」

「お父様?」

 

 掴まれた手が解ける瞬間、私の大好きだった『お父様』は、『お母様』の待つ場所に旅立たれる直前にこう言い残された。

 

 

 ―――刀奈、簪。優しいお前達の父であることが、当主以上の私の『誇り』だ―――

 

 ―――ずっと愛しているよ。刀奈、簪―――

 

 

 

 

「だけど………私は…」

 

 自分は負けてしまった。不敗でなければならない『楯無』が負けてしまったのだ。これもそれも全ては不出来な自分であるばかりに…………。

 彼女自身が目指していた理想が砕けた今、もう自分にはこの世のどこにもいるべき場所が見つけられそうにないと、泣き崩れそうになっていた楯無であったが、背後から近づいてきた女性はそんな彼女に対してこう声をかける。

 

「『楯無とは誤字。本来の意味は『楯と成す』という意味』」

「!?」

「先代様が昔そう話して下さったのよ『刀奈』ちゃん?」

 

 背後から声をかけてくれた人………この病院で婦長と呼ばれ、古くからの分家の出身者であった中年の女性は、当主である楯無に自分が着ていたカーディガンを着せると、彼女の隣に立ち、一緒の方向を見ながら静かに言葉を続けてくれる。

 

「『楯成す」では響きが悪いだろうから、昔の人間が『楯無』にしたんだろう………って先代様は笑って話されてたんだよ?」

「………おばさま」

「そうそう………奥様はいつも自慢されてたわ。『いつか何か凄い事をしでかしてくれるとんでもない娘になる』って………ああ見えて、奥様が若い頃は刀奈ちゃんには負けないぐらいにヤンチャしてたのよ?」

「………私……私」

「そして………奥様が亡くなられた時、涙を堪えながら簪ちゃんを気遣って泣かなかった貴女の姿に、分家の私達は心が震えたものね」

「!?」

 

 初めて聞く言葉に驚いて彼女の方を見た楯無の瞳に、彼女よりもずっと長い人生を歩んできた女性の笑顔を見る。

 

「私達だって人間だもの。好きな人嫌いな人はいるわよ………だから、貴女の健気で尊い姿を見てこう思ったわ」

「………」

「『この娘は立派なご当主になってくださる』って」

 

 彼女のその言葉に楯無の瞳に期待されていたという感謝と、そんな期待に応えられない申し訳なさと惨めさが沸き立ってくるが、婦長は楯無の肩を抱くと、頭と頭をくっつけ、こう優しく囁いてくれた。

 

「今日は沢山の人にご迷惑かけちゃったわね。まずはそれは反省」

「………はい」

「あと心配してくれた人にも酷い事言っちゃったでしょ? それも反省」

「………はい」

「だからこれは私からのお説教よ刀奈ちゃん」

「………はい」

 

 自分の娘に言い聞かせるような仕草で言った言葉が楯無の心に染み渡り、深く、深い場所に広がっていく。

 

 ―――………痛い目みて、迷惑かけないとわからない気持ちだってある―――

 ―――人生の底だって思える場所に堕ちて、初めてわかる気持ちだってある―――

 ―――自分にないものに反発して、自分がドロドロになって遠くに来て初めて、身近にあったキレイに光るモノを恋しいって思えるときだってある―――

 ―――痛みには優しさが必要で、暗闇が目立つにはお陽さまが必要で、どっちもバカにできない。どっちもムダにできない―――

 ―――だから、今日のこの日の気持ちは決してムダじゃない―――

 ―――『ムダにするもんか』って思えれば、きっと自分を育てる肥やしになる―――

 

「これが、おばちゃんのお説教」

 

 楯無が失敗してつまづいて間違えたことすらも、大事に大事にしてくれる………婦長の深い、深い愛情が溢れた言葉に声を失う楯無に対して、彼女は悪戯を閃いた子供のような表情でこう言ってきかせる。

 

「これは………簪ちゃんには秘密にしろって言われてたんだけど」

「………秘密?」

「『私にとってお姉ちゃんは最初のヒーローだから、いつかお姉ちゃんと並んで立てるヒーローになってみせる!』だってさ」

「!?」

 

 彼女な愛情で接する自分にいつも簪は呆れていたのではないのか!? 今までの葛藤を覆されたかのような言葉に目を白黒とさせる楯無を面白そうに眺めると、婦長が更に強く抱き寄せながら、夜空を見上げながら、ずっと今まで誰かのために走り続けていた少女がようやく足を止めて周囲を見回してくれたことに感謝する。

 

「ずっと走ってたんだもの。つまづいて転んじゃうときだってあるさ」

「………だけど」

「だから今日は………ご飯食べて、お風呂入って寝ちゃいましょ」

「………」

「明日だって明後日だって、毎日は続いていくんだから」

 

 

「貴女の内にちゃんと答えがある。私達は貴女がどんな答えを出したってちゃんと信じているんだから………ね?」

 

 

「……………はい!」

 

 自分は信じられている。その事だけは信じていける。全てが元に戻ったわけではない楯無であったが、ようやく明るい笑顔と返事が返せるようになり、笑いながら婦長の手を引っ張って屋上を後にする。

 

 

 だが、この時、楯無は気がついていなかった。

 

「…………」

 

 自分と婦長以外誰もいないはずの屋上。

 

 

 ―――暗い貯水タンクの上で浮かぶ人影―――

 

 

 その人影が、怪しい笑みと紫色の光を放つオーガコアを持っていたことに………。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




楯無さん、復活とはいかないけどようやく調子が上向き

あとがきはまた活報に後日書きますです

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