フランス郊外の田舎道を、一台のサイドカー付きのバイクが真昼の太陽の下をひた走っていた。
白いTシャツと黒のパーカーそしてジーパンといういで立ちに、ゴーグルを付けているために年の頃はわからないが、ざっくらばんと切った黒髪と黄色人種特有の肌の色から東洋系の若い少年である。
だが、あろうことかヘルメットを着けずに煙草を加えたままで運転しているという、一昔前の不良のような振る舞いであった。
「……………」
東洋系の少年―――謎のIS使いである火鳥陽太は、サイドカーに乗せてある花束をしばし見ながら、つい半日前のやり取りを思い出すのであった。
★
「!?………テメェッ!?」
「嘘じゃないよ♪」
フロリダ基地から強奪したコアを篠之乃束に手渡した陽太は、シャワーを浴びた後、パンツとジーパンの上にバスタオルを肩にかけた状態で、束に詰め寄っていた。
彼女の胸倉を掴んだまま、視線だけで人を殺せそうなぐらいに殺気立った眼で睨みつけてくる陽太を、束は笑顔で受け流す。
「何をそんなに怒ってるのかな~~?」
「………これ以上出鱈目ぬかすんなら、お前でも容赦しねぇーぞ?」
「出鱈目も何も、束ちゃんは真実しか言ってないよ?」
あくまでも笑顔を崩さない束に対して、我を忘れそうになっているほど怒り狂っていた陽太は、思わずその細い首に渾身の力を込めてしまいそうになる。
そこへ二人の間に高速で飛来したナイフが割って入り、頭を狙われた陽太が思わず飛び退く。
「離れろっ!!」
色素の白い小学生ぐらいの少女が、両手に投げナイフを持った状態で束の前に彼女を守るように立ちふさがるのであった。
「もう、くうちゃんは心配性だな~?」
「束様に手を出すとは、拾っていただいた恩を忘れたか!!?」
「どけ小娘………今日の俺はお前とじゃれてる気分じゃないんだよ」
くう、と呼ばれる少女は陽太にナイフの切っ先を向けると、今の陽太を同じぐらい殺気立った表情で睨みあう。
普段からこの二人はとても仲が悪く、何かがあれば諍いも絶えない。しかもそれに関しては束は一切の興味を示さず、たまにニコニコしながら観戦する始末である。
バスタオルを手に持った陽太が無造作に近寄ると、くうはそんな陽太に向って容赦の欠片もなく急所めがけてナイフを投擲する。
刹那、目にも止まらぬスピードでタオルを操り、布切れで鋼の刃を全て叩き落としてしまう。
驚愕に固まるくうであったが、陽太の方はその隙を見逃さず、空中でクルクルと回っていたナイフを素早く掴むと、バスタオルをくうに投げつけて目眩ましにすると同時に、彼女に接近し、首元にナイフを押し当てる。
驚愕しながら視界を塞がれ、動揺しつつ対処したためか、陽太の動きについてこれなかったくうは、なんとかタオルを地面に投げつけ、彼の動きを見定めようとした時に、既に冷たい感触が首の頸動脈辺りに突き付けられていたのだった。
「退いてろ、小娘」
「なんで…………貴方という人は、これだけの力を持っていながら! 束様に対していちいち・」
「宗教・束教の普及なら他所でやれ。生憎俺はソイツに対しては可愛さ余って憎さ百万倍なんだ」
だがその時、どこまでも平行線を辿る二人の間に、束の愉しそうな声が割って入る。
「グフフフ〜〜〜♪、仲良しようちゃんとくうちゃんだね〜〜」
「笑えん冗談はその辺りにしてろ、ボケ兎」
「貴方はっ!」
「どうでもいいやり取りはこの辺りにして…………答えろ、束?」
真剣味の増す陽太の問い掛けであったが、束の表情には一切のブレはなく、ただ判明した事実だけを淡白に告げるのみであった。
「何度聞かれても同じだよ? ようちゃんの探し人の一人、エルー・ダリシンは既に亡くなられています〜。残念でした〜〜!」
「……………」
「あり?………どうしたのかな~?」
陽太が急に黙り込んだの不思議そうに見つめる束を尻目に、彼は無言のまま背を向け、そのまま部屋を出て行こうとする。そんな陽太に束が背中に纏わりつくのであった。
「もう~~~、ようちゃんは他の女のことなんか気にしないで、この束ちゃんのために働いてくれちょ♪」
その言葉が引き金になったのだろう。パンパンに張りつめていた陽太の殺気が室内に充満し、くうなどは引き攣った表情のまま硬直してしまう。動けば殺されると………。
それを証明するように振り返って束を見る陽太の視線は、本気で激怒した百獣の王(獅子)の如き威圧感を伴っていた。
静止する室内………絡み合う視線と視線……
「………外に出る。しばらく俺に声を掛けてくるな…」
陽太の手が束の方を向き、そして彼は静かに彼女の手を振りほどくと、一言告げて今度こそ振り返らず部屋を後にするのであった。
★
そのままひた走ること数十分―――山間の中を抜けて、潮の香りが漂う港町に走りついた陽太は、そのまま町中に入ることなく、小さな墓標が立つ墓地にバイクを向かわせる。
古びた墓標がいくつも立ち並ぶ中、小さな駐車場にバイクを止め、煙草を咥えたままといういささか不謹慎な状態で歩く陽太は、目的の場所に辿り着く。
そこには掃除がよく行き届いた比較的新しい墓標が、ポツンと佇んでいた。
「……………」
手に持った花束を添えることもできず、短くなった灰が地面に落ちるのも気づけないほどに呆然となった陽太が、墓標に刻まれたその名をいつまでも凝視し続けていた。
『エルー・ダリシン』
何度見てもその名が違えることはないというのに、それでも陽太は何度もその名を心の中で読み上げる。
―――少女の隣で、慈愛に満ちた笑みと瞳で自分を見てくれた人―――
陽太の記憶にある大人というものの大半は、他人を平気で騙し蹴落とし自らを顧みることができない器の矮小なものであった。その中でも一握りのみ、己の力で立つ誇りを持った者達であったが、彼女はそのどちらでもなかった。
本当の意味での慈愛という言葉を自分に暮れたただ一人の女性………一度も言うことができなかった、陽太にとっての「おかあさん」
それがエルー・ダリシンという女性なのだ。
「………色々………言いたかった……色…々………ありがとう……って…」
歯を食いしばりながら俯く陽太。
優しさ、尊さ、愛しさ、笑顔………どれだけ空を翔け続けても得ることのなかったものが心の中で浮かんでは消えていく。
もうそれは二度と戻ってくることはないというのに………。
その時、海からではなく山の方から吹く風のおかげで我を取り戻した陽太は、この場所に近づいてくる人の気配に気がつく。
「(五人………)」
普段ならば別段知り合いもいないこんな場所で隠れる必要もなく、万が一IS関連で自分に対して危害を加えようと考えている人間であるならば返り討ちにしてしまうのだが、恩人の死ということに動転してしまったのか、それとも『そうすることが定まっていた』ことなのか、思わず近くの木の陰に隠れてしまった。
段々と近寄ってくる足音………三人は葬儀屋という割にはゴツイ体格をした男性、一人は眼鏡にショートヘアとスーツという如何にも堅そうな人物。
そしてその集団の中央にいたのは、白い帽子をかぶり水色のワンピースの上にホワイトのカーディガンを纏った金髪の少女であった。
身なりからかなり裕福な家の少女なのか、わざわざ護衛を連れてこんな場所に墓参りにくるだなんてと今更隠れたことに後悔する陽太。彼には金持ちの知り合いなど一人もいない………その気になればクラッキングしていくらでも金を捻出できる兎耳付けた女ならいるが………。
手に持った花束をどうするか、とりあえず墓に添えるかと出て行こうとした時、彼の動きが止まる。なぜならその集団がエルー・ダリシンの墓の前に止まったからだ。
「お嬢様、数分だけですよ? 我儘を聞けるのはそれだけの間ですから?」
「………理解(わかっ)ています」
抑揚のない声で少女に話しかけるスーツの女性と、そんな女性とは対照的に何かを我慢するような声で返事をする少女。
少女は手に持っていた花束を墓前に添えると、まるで祈るようにその場に跪き、両手を握りしめて静かに目を閉じる。
「(………アレは………まさか!?)」
ある意味、先ほどよりも動揺した陽太がその少女をさらに注意深く観察し始める。
長い金色の髪の毛も、肌の色も、そしてその声色も間違いない………エルーの娘であり、そして自分と空を飛ぶという約束をした………
「………シャル……ロッ・」
陽太が木陰から歩み出ようとした時である。
いつまでもその場から動こうとしない少女に苛立った女性が、少女の腕を無理やりつかみ上げたのだ。
「痛っ!」
「お嬢様!! お別れのご挨拶はもうそのぐらいでよろしいでしょ!! さあ、屋敷に戻りましょう!!」
「離してっ!! まだ『お母さん』と話を……」
「(!!)」
「死人と話をするなどとはナンセンスですわ!! そのようなことでは旦那様も奥様もお嬢様に落胆してしまわれます!!」
「あの人達は………」
「いつまでも女々しく母親に甘えるようでは、次期社長夫人として失格ですわよ!!」
「それは………」
「いい加減にしなさい、『シャルロット・デュノア』!! 私は貴方をデュノア社次期社長のジョセフ様に相応しい妻になるように教育しろと、社長と夫人から言い渡されt・」
女性が何かを言い終わるよりも早く、『花束』が女性の顔面に直撃する。
「あ………悪ぃ。なんか滑った」
いけいけしゃあしゃあっといった感じで木陰から陽太が放り投げたのだ。
突如現れた謎の東洋人の少年に警戒したのか、三人のボディーガードが即座に二人の前に立ち塞がる。
「なんだお前は?」
「用がないなら引っこんでろ!」
最前線に立った二人のボディーガード。
陽太の身長が大体170前半に対して、二人の身長は2m近く体格も筋肉がついたレスラーのような体型である。だがそんな二人にも全く動じることなく余裕の歩みで近づく陽太。
その態度に腹が立ったのか、目の前のゴーグルをつけたままの少年に対して左側にいたボディーガードが殴りかかる。
―――ボディーガードが自分に向って放った拳を、内側に捻りながら足を払いテコの原理で一回転させて地面に叩きつける陽太―――
一瞬だけ唖然となる護衛であったが、瞬時に頭を切り替えたのか懐にある銃を引き抜き発砲しようとする。相手の方を見ることなくそれを察知していた陽太は、銃を持った腕を自分の手で逸らし、その反動で思わず発砲させてしまうのだった………転がされながらも同じように銃を抜こうとしていたボディーガードの肩目がけて……。
銃弾は見事に命中し、この世の終わりのような絶叫を上げるボディーガードと、思わず同僚を撃ってしまったことに激しく動じるもう一人のボディーガード。
そんな彼の腕をまたしても捻り上げ、脇に挟みながら渾身の肘と膝を腕にぶつける。
ボキリッ、嫌な音があたりに鳴り響いた。間違いなく腕の骨が砕けた音だ。
そして仕上げとばかりに砕けた拍子に落とした銃を地面につくよりも早く蹴り上げ、手で掴むと、すでに銃を構え終えている三人目に対して発砲し、銃を弾きあげる。更に衝撃で一瞬だけ頭をかがめてしまった三人目に急速に近寄り、陽太は勢い良く掌底で顎を殴り上げた。
これまた骨が砕ける音がし、口から大量の白い歯が血とともに噴出される。
ほんの一瞬の間で三人の屈強なボディーガードを使い物に出来なくした陽太は、そのままツカツカと近寄ると、完全に青冷めてオタオタとする女性の額に銃口を突き付ける。これでは普段は女尊男卑の風潮によって守られている女性といえども、完全にお手上げであろう。
「ヒィッ……た、たたた、助け…」
「彼女から手を離せ、制限時間は三秒」
「ヘェッ?」
「ひと~つ、ふた~~~つ、みぃぃ~~」
「ヒィッ!!」
ゆっくり数える陽太の言葉に怯えて、少女から慌てて手を引く女性。そんな女性に更に陽太は手を出してあるものを要求する。
「出せ、携帯」
「ヘェッ?」
「持ってるだろ、それぐらい……」
「は、ハイッ!!」
震えた手でバックから携帯を取り出すと、陽太におっかなびっくり手渡す。
受け取った瞬間、素早くボタンを押し三度ほどの電子音が鳴った後、陽太は話すよりも早く簡単に言付けをすませるのであった。
『はい!、こちら救急・』
「町外れの墓地に怪我人三名。一人銃弾が肩に貫通、一人腕の骨が複雑骨折、一人顎の骨が砕けて歯がだいぶ抜け落ちた。いい腕の形成外科と歯科医を紹介してやれ」
一方的に言いきると電話を切り、女性に返すと、女性の首筋に手刀を撃ちこみ意識を奪う。
倒れる女性を受けとめながら割とぞんざいに地面に置くと、完全に目が点になっている少女の手を掴み、歩き出す。
「あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああのあのあのあのの~~?」
「………ったく、予想外もいいところだ」
何が起こっているのか未だに理解できないといった少女―――シャルロットと、イライラしながら吐き捨てるように謎の言葉を言い放つ陽太は、そのまま少女の手をひっぱり止めてあったバイクに跨るのであった。
「えっ?、えっ?、えっ?………あの、これって一体…」
「いちいち聞き返さんでくれ………俺も半分以上混乱してんだ」
少女をサイドカーに座らせると、シートからヘルメットを取り出し、シャルロットに手渡す。
「危なくなるようなことはないし、このバイクもそうそう簡単なことじゃ壊れんが万が一ってこともある。着けてろ」
「は、はい!」
思わず丁寧に返事をしてくれシャルロットと、なぜか頬が少しだけ赤らんでいる陽太。少しばかり先ほどとは違った面持ちの緊張感が走る。
シャルロットが帽子を脱ぎヘルメットを着けると、陽太は途中で拾った花束を一瞬だけ眺めるのであった。
「………どうしたんですか?」
「最悪だ………もうこんなもん渡せねぇーじゃねぇーか……」
頭を一瞬だけ掻き毟ると、陽太はそのままシャルロットに花束を手渡し、新しい煙草を咥えて火をつけるとエンジンを吹かして走り出してしまう。
来た時よりも平均30kmは早い速度で疾走するバイク。
「……………」
「……………」
反対車線から来る車すら稀有な田舎道の中で、無言のままの二人………。
少女は不思議で仕方無かった。なぜこの少年は自分を『助けた』のか?
少年は不思議で仕方無かった。なぜこの少女を自分は『攫って』しまったのか?
しばらく無言が続いたが、耐えきれなくなったのかシャルロットの方が少年に話しかける………もっとも、何か取り留めない話題を探していた少女がようやく見つけたことであったが………。
「このお花、奇麗ですね………どなたかに供えるために?」
「………さっきまでそのつもりだったんだが、あんなアホ女の化粧がついた花束なんざ供えられん。どっか途中で適当に捨てるから、それまで持っておいてくれ」
「!!?………駄目だよ!!、こんなに奇麗な花なんだから!!」
急に真剣な表情で自分を怒ってくるシャルロットを、不思議そうに見つめる陽太………その視線に気がついたのか、少女も急に気恥ずかしくなって縮こまってしまう。
「あ、あの、すみません!!………急に大きな声出して…」
急に怒ったかと思えば、急に畏まる。
その様子がいたくツボに入ったのか、陽太は急に笑い出してしまう。
「プッ!………プププッ………ハハハハハッ!!」
「……………」
対してシャルロットは『馬鹿にされた』と勘違いしたのか、頬を膨らませてそっぽ向いてしまうのであった。まあ、その様子も少年はえらく気に入り、笑いが止まらなくなりかけたのは秘密であったが。
「悪い悪い………馬鹿にするつもりはなかったんだ」
「………ぶぅ~……本当ですか?」
「本当本当」
いまいちノリが軽い少年のリアクションに、忘れそうになっていた話題を思い出したシャルロットは急に顔を険しくして少年に警告する。
「そうだ!! 今すぐバイクを止めてください!! このままじゃ貴方が誘拐犯になっちゃう!!」
「あっ………そういやそうだった。ソイツは大変だ……」
「そんな軽く考えてちゃ駄目だよ!! 私の家は………」
「流石に誘拐犯は体裁が宜しくないな………あの馬鹿兎が知ったら煩いんだろうな。あ………煩いのは兎よりも束信者のチビの方か……困ったぞ…」
「あの~、聞いてますか? 私の話?」
「ああ、聞いてるぞ?………でも嫌なんだろ?」
またしても軽いノリであったが、彼女の内心をズバリ一言で纏めた言葉で彼は少女に問いかける。
「今の家が嫌でしたかないんだろ?」
「どうして………そんなことが………ついさっき会ったばっかりの貴方に…」
「少なくともさっきのやり取りは普通の家のやり取りじゃない………普通がどんなもんか知らんが」
「それは………」
実際に嫌かどうかと言われれば、考える間もなく嫌であるのは確実である。
だが、なぜ彼はそのことが………
「……………」
シャルロットが真剣な表情で少年の横顔を眺める。
実は彼女は少年を見た瞬間からある既視感に襲われていた………心のどこかで自分はこの少年に見覚えがあるという声が聞こえてくるのだ。
「…………あの…」
「どうした………」
「………貴方、どこかで私と会ったことありませんか?」
「!?」
思わず急ブレーキをかけて停止してしまう陽太。
その様子に何かを感づいた少女が更に詰め寄る。
「墓地にいたということはお墓参りに来ていたということですよね?、今日はどこもお葬式なんてしてませんし、なによりもその格好でお墓に来る人いないだろうし…」
「い、いや……」
「そもそもどこに供えるつもりだったんですか? この花束!?」
「そ、それは………」
「お母さんのお墓じゃ………!!」
少女の脳裏に電流が走る。
そしてその電流はやがて記憶の底から、ある答えを導き出すのであった。
「……貴方……キミは……ひょっとしてヨウタ?」
「……………」
「ヨウタ………なんだね!! ちょっとゴーグル外して顔を見せて!!」
シャルロットがサイドカーから乗り上げて少年のゴーグルに手をかけた時、思わずその手を掴んでしまう陽太。そして二人はしばし見つめ合うのであった。
「ヨウタ………ヨウタなんだよね?」
「………がう」
「ヨウタ?」
「違うっ!!」
陽太は自らゴーグルを外すと、まっすぐに少女を見ながら、固い決意と悲痛な叫びを同居させたような声で目の前の少女に告げる………今の自分のことを。
「俺は………キミの知ってる火鳥陽太じゃない」
「どうして!?、ヨウタはヨウタじゃない!?」
だが、嬉しさのあまり涙を流すシャルロットの顔をまっすぐに見れなくなり、ヨウタは再びゴーグルを掛け直すとバイクを再発進させる。
「ヨウタ!? なんで、どうして?」
「違うって言ったら違う!!」
彼女の声が、顔が、奇麗な涙が、なおさら今の自分の輪郭をくっきりと心の中に浮き上がらせる。まるで光に照らされた影のように。
「君の知ってる火鳥陽太はもういない!! 『ソイツ』はもう………死んだ」
「それ………どういうことなの?」
そして陽太は空を見上げたまま、静かに何かに懺悔するような声で、彼女に告げるのであった。
「君の目の前にいるのは………単なる『空飛ぶ凶器』だ」