実況パワフルプロ野球-Once Again,Chase The Dream You Gave Up- 作:kyon99
――悪道浩平の牙が襲いかかる極亜久高校戦二話目!
恋恋高校の一回表の攻撃は、悪道浩平の『ドライブ・ドロップ』に全く手が出ず、三者三振でバットに擦りもせずに終わった。
そして、一回裏。
極亜久高校の攻撃が始まろうとしている。
マウンドに上がり、足場の土を均すのは、黄緑色の髪にお下げをぶら下げている早川あおいだ。
調子は本人が言っていた通り、絶好調。
珍しいアンダースローの投球モーションに欠かせない体重移動はスムーズであり、利き腕である右腕も綺麗に振り抜けた。
「調子は良いみたいだな、早川」
「任せてよ! さっきまで不安だったけど、あのカーブを見せられたら、ボクに火が着いたよ! だから、負けてられないよ!」
「その意気だ、頼むぜエース!」
ニコッと笑って見せ、早川の肩を優しくファーストミットで叩いて、定位置へと戻って行く。
投球練習が終わり、極亜久高校の攻撃が始まる。
「久しぶりだなァ〜星。随分落ちたモンだな。まだ矢部となんかと野球をしてきたとはよォ。しかも元女子校でな」
「ケッ! 野球をしていたってのはそりゃあ、お互い様だ。浩平、お前がまだ野球をしていたとは驚いたぜ」
「ほざきやがれ。ただ俺は、ただ犀川の野郎に付き合ってるだけで本当なら野球はしたくはないんだぜェ?」
「それなら潔く負けを認めてくれねえか?」
「キャハハはッ! 負けを認めろ? 馬鹿か? お前は、お前たちじゃあ俺たちに勝てねえよォ、このタコ!!」
――ギラリ!!
浩平の目が冷気を増し、俺の瞳をジッと睨みつけた。身の毛立つような感覚を感じ、若干だが汗を掻いていた。
チッ! 気を緩めるなよ、俺。
一番打者はこの浩平の大馬鹿野郎だ。
矢部の野郎と勝るとも劣らない走力を持っているし、コイツを塁に出すのは、とにかくヤベェぜ。
ここは凡打で引っ掛けて潔くアウトを取るとするか・・・・・・。
幸い。早川の調子は良い、指定したコースにキチンと投げ込んでくる。まずは、アウトローいっぱいにストレートを投げ込ませるとするぜ。
早川がモーションに入る。
体を沈めて、盛り上がったマウンドのギリギリから腕を振り抜こうとした時だ。
「初球。アウトローいっぱいのストレート」
「――ッ!? 今なんて!?」
見送ったボールはミットへと収まる。ストライクだ。
だが、今浩平の口から俺が指定していたコースを言ったような気がしたぞ!?
いいや、そんな事はない。
ただのマグレだ。
たまたま言い当てたに過ぎない。
「な、ナイスボールだ! 早川!」
「うんっ!」
俺は、早川にボールを返球して、二球目のサインを指示した。
右打席に立つ浩平側に落ちていく球、早川の最も得意とするシンカーを叩き込んでやる。
続く、二球目のモーションに入り、またも同じく体を沈めて、腕を振り抜こうとした瞬間だった。
「インコースやや高めのシンカー」
「――ッ!?」
——キィィィィン!!
バットを振り抜くも、バットの先端を僅かに掠らせてファールボールとなった。
おいおい、どうなってんだ一体。
一度ならずニ度も・・・・・・だと?
マグレが通用するとでも・・・・・・いや、こいつは違ぇ!
読まれてるんだ、浩平に俺のサインが、どこにどう投げさせるのか読み取っているのか!?
止めどない焦りが更に俺を煽り立てる。
「オイオイ、どォしたァ? 星、顔が怯えるんじゃあねェか? 怯えている・・・・・・ハハハッ! そうだろうな! 二球続けてサインをこの俺に暴かれてるんだもんな!」
「何故、俺のサインが読めたんだ?」
「なァ〜に、簡単な事だぜ? 俺はお前のリードを何回と見てきた、正直言って、俺はテメェに呆れているんだ。相変わらず強気な、いつまでも変わらねェコース攻めのテメェのリードにな、おかげで読む手間が省けるぜ」
「――くっ!?」
「ひひひ・・・・・・星。お前、今不安になってはいないだろうな? 人にバカにされるのが嫌いな性格なお前の事だ。冷静さを失ってるんだろ?」
バカにしやがってる、そんな表情だ。
だが図星。俺は今は焦りで前も見えねえ。いや、正確に言うと早川をどうリードして行けば勝利への最善な道を行くのかする思考を起こす気力すらねえぜ。
それに俺は、犀川と言う優れたキャッチャーを相手に自分の力の底を見せ着けられた。ささやき戦術だとか言う奴の術中にまんまと引っかかってしまった。
「次の三球目は、そォだな〜。読めてはいるが、これは星のプライドの為に言わないでおいてやるとするか」
三球目、浩平の言葉通り読まれた俺は左中間を破るツーベースヒットを許してしまう。
続く犀川にも、どうやら俺のリードは読まれていた。
初球のカーブを今度は右中間に弾き返され、タイムリーツーベースヒット。あっという間に先制点を許してしまった。球数はたったの四球で一点を取られちまった。
「早川、ドンマイ! まだ初回だ!」
流石はキャプテンの小波だ。
早川にフォローの言葉を掛けるのは忘れてはいねェ・・・・・・。
だが今回は俺のミスだ。すまねえ。
そして、次の三番打者はライトの松川か。
悪道、犀川に続いてヒットを打たれちまってる。
この雰囲気は非常にマズイ・・・・・・。
どう抑えればいい・・・・・・。
俺は思考を凝らした。
悪道にコース攻めのリードを指摘された事を思い出して、早川にど真ん中高めへ落ちるシンカーを要求した。
コクリと頷いた早川は、セットポジションからモーションへ入る。
百十七キロほどのスピードのボール。
狙い通り、指定のコースへ来る!
「もらった!!」
快音を残し、三番打者の松川はバットを振り抜いた瞬間に言葉を漏らしたのを聞き逃さなかった。
「悪道と犀川の言う通りだぜ!」
マスクを外し打球の行方を目で追った。打球は高々にグングンと伸びていく。河川敷グラウンドの外野の奥は川が流れている。頑丈に結ばれた網のフェンスを悠々と超えていき、ぽしゃんと水を弾く音が聞こえた。
ツーランホームラン。一気に三点目を奪われた。
その後、極亜久高校の猛打を浴びせられた俺たち恋恋高校は一回の裏に五点差を着けられてしまった。
「皆、ゴメンね・・・・・・。ボクの力不足だよ」
声のトーンを落とし、申し訳なさそうに謝る早川が、グローブをベンチの上に置きながら言う。
力不足、と早川は自分を嘆くが果たしてそれはそうなのだろうか?
早川自身のピッチングは通用する。それはこの前のキャッチャーボールの時に肌で感じた。
俺は、極亜久高校の奴等に何かがあると睨んでいる。
「よし! やられっぱなしで終われはしねえ! 気持ちを切り替えて行こうぜ!」
「・・・・・・・・・・・・」
シーンとした空間だけが流れ込む。
恋恋高校のベンチの誰もが落胆した顔を並べていた。
それもそうだ。
五点も取られたんだ。
ショックは大きいだろう。
でもまだ二回の表、俺は諦めないぜ。
「——早川が悪いんじゃあねえ・・・・・・」
「星くん」
「俺が悪いんだ・・・・・・全部な」
「一体、どうしたでやんすか?」
下唇を噛み締めた星が呟き、矢部くんが隣に座り、マネージャーである七瀬が用意した冷たいタオルを手渡しで渡す。
「早川が通用しない訳じゃあねェ!! あいつらは俺のリードを読んでいたんだ! 俺の成長のしなさが招いた結果だ。我ながら笑っちまうよな・・・・・・」
「・・・・・・星」
星の言っていた通り、やはりリードは読まれていたのか。そうじゃあないかと思ってはいたが、これ程まで徹底的にやられる形になるとは思いもしなかった。
「小波、最悪の場合だ。俺をベンチに引き下げて椎名をキャッチャーで入れても構わねえんだぜ?」
「・・・・・・」
「だって、そうだろう? 原因は俺だ! このままじゃあ、アイツらの意のままになるだけ!! オメェらにも迷惑をかけちまう!」
「本当にそう思ってるのか? 星」
「そうじゃなければ・・・・・・こんな事言うかよ」
「・・・・・・そうか」
これ以上は何も言わなかった。
星の瞳には薄っすらと輝くものが見えたからだ。本当に悔しいのだろう。今もずっと拳を握りしめているのだ。
何かを言いかけた時だ。
早川が俺に声をかけてきた。
「次のバッターは小波くんだよね? 急がないと!」
「ん・・・・・・ああ。そうだな」
そして、四番打者の俺は、ネクストバッターズサークルの中でバットを三度、素振りをして、右のバッターボックスへと足を向けた。
ベンチから見ていた、悪道浩平のドライブ・ドロップは今まで見たことのない程の変化量のキレを持つボールだ。俺でさえ打てるかどうかってところだろう。
悪道を巧みなリードで操り、ささやき戦術を用いているキャッチャーの犀川投貴にも油断は一切出来ねえ・・・・・・。
「小波球太。久しいな」
へっ、白々しい。
始めましてと言った極普通の青年は何処に行ったんだよ
「お前、おしるこ中学の正捕手だったやつだよな?」
「ほほう、なんだ、思い出したていたのか。俺は、あの時お前たちあかつき大附属に負けたのを忘れられなくてよ? 特に小波! テメェの『三種のストレート』には随分、苦難を強いられたぜェ!」
「そりゃあ、どうも。それに、お互い様だ。俺たちもお前の『ささやき戦術』を破るのに相当の苦労したもんだ」
トントンと、バットの先端でホームベースを軽く叩いた。
「だがな、聞いた話だとお前は『三種のストレート』の多様で肘を壊したらしいじゃあねェか! 聞いた時は嬉しかったが、恋恋高校で野球を始めたと聞いた瞬間、今度はお前を負かしてやるって思ったのよ! この五点差、お前達は取り返すことは出来ねえ!」
「・・・・・・・・・」
俺は、黙りながら悪道浩平の方を見つめていた。そう言えば初めて悪道と会った時の別れ際に言っていたな。
――犀川の奴が気にしていたな・・・・・・あかつき大附属中学の小波球太って野郎が恋恋高校で野球部を立ち上げたって、お前のことだったのか。
やれやれ、飛んだ大物が現れたもんだぜ。
一球目の投球が始める。
悪道の大胆なオーバースローからインコース高めにストライクボールが捻じ込まれたが、俺はバットを振らなかった。
「オイオイ? 突っ立っててもボールは前には飛んでいかねェぞ? インハイのボールにビビってんのか?」
「・・・・・・・・・」
二球目。今度はアウトコースへ逃げていくスライダーを見送った。
「ストライク!!」
これで、カウントはツーストライク。
簡単に追い込まれた。
「貴様、打つ気がないのか?」
「そう見えるならそう思えば良い。ただ、俺は待ってるんだよ。悪道浩平のとっておきの『ドライブ・ドロップ』をな」
「ハハッ! 馬鹿かお前? 初見で浩平の『ドライブ・ドロップ』なんかバットに当たるどころか擦りもしねェぜ!」
「そんなの分かりゃあしねえだろ。マグレで大当たりって場合もあるぜ? でもな、俺は打ってやるよ」
「クッ! こいつ・・・・・・コケにしやがって!」
荒っぽい舌打ちを鳴らして、犀川が唸る。
やれやれ、どうやら犀川の奴を怒らせちまった様だな。
これでドライブ・ドロップを投げてくれると良いんだが・・・・・・油断は出来ないぜ。
三球目、悪道から放たれたボールは外角を大きく外しボール球だった。
するとだ。後ろに座る犀川がイキナリ怒鳴り声上げた。
「浩平ッ!! 俺のサインを無視するんじゃあねェ!! 今のサインはインローのボール球だっただろ!」
「チッ!! 悪い悪い、今のは気が確かじゃあなかったぜ!」
黙ったまま、マウンドの上に立つ悪道。
どうやらバッテリー内でのサインミスがあった様だ。
「オイ、小波ィ! お前、今、俺の『ドライブ・ドロップ』を打てるとか抜かしやがったか!?」
悪道が俺に向かって吠えた声を上げる。
「上等じゃあねェか! それならお望み通りに投げてやるよ! 俺のとっておきの『ドライブ・ドロップ』をよォ!!」
ギリギリと歯と歯を削る音が聞こえそうと思ってしまうほど、尖った歯を剥き出しにして怒りの表情を見せていた。
火をつけちまったらしい・・・・・・。だけど、それはこっちとしては好都合だ。
カウント。ツーストライク、ワンボール。
対する四球目、悪道は公言通りに、俺の頭を狙っているかのように山なりの少し緩いカーブを放り投げる。
――来たぞ、ドライブ・ドロップだ!
仰け反ってしまうのは頷ける程の威圧感があるボールだ。だが、僅かに軌道は顔を逸れていく。
俺は、バットを振った。
当たるか当たらないかは一か八かだった。
決して見切っていた訳ではないのに、俺の腕は動いたのだ。
仲間をバカにされた怒りが自然と力をくれたのかもしれない。
――負けられなねえ!
スイングのタイミングはバッチリだった。
快音が響くと共に打球はライト方向へと流打ちで飛んでいく。
「――ッ!? 打たれた浩平のとっておきを・・・・・・こいつ!?」
「俺のドライブ・ドロップを初見で当てやがっただと!?」
犀川と悪道が同時に驚いた。
打球は高々と飛んで行き、フェンスの向こう側へと飛んで行く。
小波は、悪道からソロホームランを放ち一点を返してのだった。
「嘘だろ!? マジかよ・・・・・・小波の野郎」
星が唖然と呟き。
「やったぁ! あのドライブ・ドロップをホームランにしちゃうなんて!」
早川が喜びの声を上げる。
「もしかすると、小波くんはオイラたちの救世主になってくれるんじゃあないかと思うでやんす」
馬鹿にされた悪道に一矢を報いってくれた小波に対して尊敬の念を持って囁く矢部と恋恋高校のベンチから小波に向けて反撃の狼煙を上げるかのような喝采の檄が飛んだ。
ダイヤモンドを一周し、一点目のホームベースを踏んだ時だ。悪道と犀川が小波の目の前に立っていた。
「・・・・・・なんだよ」
「ふざけんなよ!? 小波、テメェ・・・・・・俺のドライブ・ドロップを初見でホームランにしやがって!」
「お前には絶対負けやしない! 徹底的に潰してやるぞ!」
ギロリと睨みつける。
だが、小波はその目に微塵も怯まなかった。
「やれるもんならやってみろよ。俺たちも負けやしねえ気持ちは同じだ! 星も矢部くんもお前らが知らない所で成長してんだ!」
恋恋高校と極亜久高校の試合はまだ二回表、波乱に満ちた試合になるのはこの後の事だった。
そして、恋恋高校のベンチに座る星雄大に、野球人としての隠れた才能が少し、少しずつと異変が訪れていたのであった