実況パワフルプロ野球-Once Again,Chase The Dream You Gave Up- 作:kyon99
甲子園を掛けた一回戦の相手とは!?
月日は流れ、六月も中旬を迎えていた。
つい先日、テレビのニュースで梅雨明け宣言をお天気お姉さんが言っていて、本格的な夏のシーズンを迎える今日この頃。
今日の日中の気温が、今年の最高気温である三十四度を上回った三十五度を記録した。
そして、俺は練習を終えてひと段落しようと帰る前に、少し寄り道をして帰ろうと、ふと思い立ち、家から徒歩五分圏内にある、頑張駅の真ん前にある商店街に来ていた。
近所の幼なじみ、高柳春海の両親が経営している「パワフルレストラン」だ。
この時間、午後の十六時。
平均的に、夕方の時間になると、商店街は人が少なくなる。
そして、レストランの店内は毎日四、五人程度になるので話し合いの時はここが最適だ。
「はぁ〜〜あ。なんか憂鬱だなぁ」
らしくない重たいためをつきながら、注文して頼んでいたオレンジュースをストローで飲み干す。
「段々とチームの輪が乱れていっている様な気がするよ・・・・・・」
嘆き始めたのは、現在パワフル高校のマネージャーを務める栗原舞だった。
「一体、どうしたんだよ?」
「去年の夏の大会、小波くんも試合を見に来てたでしょ? あかつきに負けたのを・・・・・・そして、その次の秋の大会は、そよ風高校に負けたの」
「あかつき相手でも、毎回負けてんだろ? それより、そよ風高校なら、今のパワフル高校の戦力なら十分、負ける相手じゃないと思うけどな」
「そうなんだけど・・・・・・ねぇ〜」
栗原舞は窓を開けて外を眺める。
季節も流れて春と夏を迎え、日中の熱さとは裏腹に、心地よい涼しい風が優しく吹き付けている。これの風も、熱さに参った体には、格別な心地よさが在って良いものなのだ。
「石原先輩が引退して、尾崎先輩がキャプテンを継ぐ事になったんだけど・・・・・・。あの人、性格が熱血タイプだから周りとの温度差がありすぎて随分と空回りしちゃってるのよ。それに麻生くんが、尾崎先輩に呆れて、次第には練習サボるようになってきちゃたのよ。それを注意した戸井くんと、そこで何か揉め事みたいなのを起こしちゃったみたいで、今は二人とも口を利かないで、疎遠っぽい感じになってるのよね」
栗原の口撃。それに俺は黙って聞いていた。
「・・・・・・そうなのか」
「それより、小波くん達は、どうなの?」
「ど、どう? そんな事、言われてもな。四月の終わりに、極亜久高校との練習試合で勝つ事は出来たんだけど、試合が終わった後、各自不得意練習を積極的に行うようになったな。大分個人個人のレベルは上がってると思うぜ。後は星と矢部、特に早川と七瀬が何やらコソコソ極秘特訓を行ってるみたいだな」
俺も、頼んでいた烏龍茶を、ゆっくりと喉の奥へと流し込む。栗原は俺の顔見ながら鼻を鳴らしてニヤリとこちらを見ていた。
「・・・・・・な、なんだよ」
「早川あおいさんか・・・・・・。女性選手みたいだけど大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって、前代未聞よ!? 女性選手が高校野球やってるって!」
「ま、大丈夫だろ。早川は、昔から相当な苦労をしてたからな。アイツにはもう二度と同じ苦しみを与えたくないし、試合には出て欲しいんだ」
「ふ〜ん。『相変わらずチームメイト思い』だから安心したよ。それより、小波くんは早川さんの事をどう思ってるの?」
「はぁ!? いきなりなんだよ」
「異性として、興味は? ある? ない?」
「別にどうも思ってねえよ。ただのチームメイト。ただ、それだけだよ」
「小波くんがそう言うなら、そう言う事にしておこう!」
「ああ、そういう事にしておいてくれ」
「それより、明日は予選大会の抽選ね! それでもって来週には予選大会が本格的に始まるわね!」
「ああ! そうだな。俺たちにとって初めての大会だ。正直どこまで行けるか分からないけどさ、俺たちなりに頑張ってみるよ」
「それじゃあ、帰ろうか」
「そうだな」
俺は、半分ほど残っている烏龍茶を、一気に飲み干した。栗原もオレンジュースを飲もうとしたが、先ほど飲み干してしまった様で、既ににグラスには氷が溶けかかった状態となっていた。どうしても喉が渇いて飲みたかったのか、財布の中身を確認し、小さく「とほほ」と呟いてから、オレンジュースのオーダーの追加を頼むと、数分後、アルバイトの人じゃなく、春海の母親が持ってきてくれた。
四十を超えても、幼い頃からよく面倒を見てもらった頃を思い出してしまうほど、変わらない笑顔をしながらオレンジジュースをテーブルの上へに置くと、サービスと言いながら、俺の烏龍茶オマケしてくれた。
「あれ? おばさんが持ってきてくれるなんて珍しいね! 春海のヤツはいないの?」
「そうなのよ、最近は特にね。春ちゃんも部活が忙しくなったみたいでね? ちなちゃんも、ほら野球部のマネージャーでしょ? 練習に付き添っててね。ここのところ遅い時間に帰って来ちゃうから店の手伝いは休ませてるのよ」
「へぇー。流石、ベスト四まで行ったチームは違うな。この前もデパート街で春海達にあったんだけど、当たると良いなって話をしてたんだよな」
「小波くんてば、かっとびレッズの時以外に春海くんと勝負したことってあるの?」
「いや、どうだろう。中学時代は・・・・・・無いから、無いな」
「ねえねえ、もし、今、小波くんと春海くんが、勝負したらどうなるかな? 『安打製造機』の高柳って昔は言われてたじゃない?」
「へっ、そんなの昔の話だろ? 今じゃあ、どうなるのか分かんねえだろ? ね? おばさん」
「そうだね。春ちゃんと球ちゃんの戦いをもう一度、見てみたい気がするけど・・・・・・、なんて言ったって球ちゃんはもう、ピッチャーじゃあないんだもんね?」
おばさんは少し悲しげな表情を見せた。
でも、春海経由で俺が再び野球を続けると知った時には、凄く喜んでくれたらしい。
そして俺は「千波さんと春海によろしく」と伝えてくれと言い残し、お会計を済ませ店を後にした。
栗原とは、家も近所の為、途中まで一緒に歩いていたのだが、何故か俺の事を心配そうにチラチラ見てくるのが目に入って気になってしまった。
「ん? さっきからなんだよ。俺の顔に何かついんのか?」
「えっ!? ・・・・・・いや、違うよ。小波くん・・・・・・、あまり無理しないでね? 私、何か嫌な予感がするの」
「嫌な予感って? ああ、俺の肘の事か? それなら心配しなくても、もう大丈夫だぜ」
「違うよ、肘とかじゃあなくて、恋恋高校全体に関する・・・・・・嫌な予感」
栗原は目に少し小さな粒を浮かべて俺の顔を見つめる。
「気のせいだろ? 兎に角、夏の予選で俺たちと当たった時は、よろしく頼むわ!」
俺たちは十字路の前で脚を止めた。右を曲がれば栗原の家で、真っ直ぐ進めば聖の実家の寺が見え、隣には家がある。
俺は真っ直ぐ脚を進めて、振り返り、手を振って栗原と別れる。
そして、栗原の言っていた悪い予感が当たる事などこの時の俺は知らずに、夏の予選を迎えることになる。
全国高校野球選手権大会の開会式の始まりを告げる選手宣誓は、地方球場で行われ、優勝旗の返還をした後、あかつき附属高校の二宮先輩が務めた。
去年の夏は、甲子園に進んだものの、一回戦目で、アンドロメダ高校に負けてしまったが、甲子園連続出場の記録を八年と更新し続けているため、周りからは凄く期待が高まっている様子だった。メディアの報道陣が一斉にシャッターを切っている。
そんな中、新設校として恋恋高校と、ときめき青春高校の紹介をされて今日はお開きとなった。
「ときめき青春高校・・・・・・? それって、全国の不良が集うチームでやんすか? ひぃぃぃ!! オイラ、怖いでやんす」
「あのな? ビビってる場合か? 一回戦の相手がときめき高校なんだぜ? 戦う前に弱音吐いてる余裕なんかねェぞ!」
星と矢部くんが後ろを歩きながら会話をしていた。
俺たちの一回戦の相手は、同じ新設校で初大会のときめき青春高校となった。全くノーマークでありノーデータなチームの為、どう攻めていくかも全く頭に浮かばない。しかし、それは相手も同じだ。
さてと、どうしたものか・・・・・・。
考え事をしていた時だ。
早川は脚を止めて、何かを見ていた。
「おい、早川! どうかしたのか?」
「えっ!? いや、ちょっとリトルリーグ時代で同じピッチャーだった知り合いを見かけたんだけど・・・・・・話そびれちゃった」
「ま、同じ地区のチームが此処に集まっているからな」
「小波くんこそ、何を見てるの?」
「えっ? ああ、俺はトーナメント表だよ。一回戦の相手は、ときめき青春高校だろ? 勝ったら次は、流星高校と当たるな、なんて思ってたんだ」
各高校のキャプテンに配られたトーナメント表を眺めながら、どことどこが戦って勝ち上がってくるかを、脳内で組み上げた。
猪狩が居るあかつきは別ブロックの為、当てるとするなら決勝戦。
更に、春海がいるきらめき高校と当たるなら、三回戦まで勝ち上がらなきゃならない・・・・・・。
不思議と活気が身体中に駆け巡っていく。
よし、やってやるぜ。こうなったら、行けるところまで登りつめてやる!
猪狩守がいるあかつき附属の初戦はバス停高校となり、戸井と麻生がいるパワフル高校の初戦は、秋季大会のリベンジには最適なそよ風高校高校、高柳春海、目良浩輔、館野彰正がいるきらめき高校の初戦は、ブロードバンドスクール高校となっていた。
そして、波乱に満ちた夏の予選大会の始まりを告げたのだった。
――――。
夏の予選大会、初戦の相手が恋恋高校と決まって開会式ご終わった後の事。
練習も終わり、グラウンドを整理し、帰宅途中の誰も居ない夕暮れ時の河川敷を歩いき、バラバラと落ちている小石を蹴って石と石が当たる音と、小さくて重たいため息を漏らす艶のある金色の髪を靡かせた≪青年≫が、一人歩いていた。
金色の瞳に眉毛はやや太めで、金色の髪はポニーテールで縛り上げていて、顔立ちやら体付きやらは、どこからどう見ても可愛い女の子にしか見えない成り立ちでいるが、背中にはバットケースをぶら下げており、妙なことに学ランを着てる所を見ると野球部所属の男子生徒なのだろう。しかし更に奇妙な事に、この≪青年≫の声質は≪女の子≫の様な高い声をしていた。
「はぁ〜。僕たちもようやく地区大会に出場したって言うのに、何処も練習試合を受け入れてくれる学校が無かったから、実践不足が明確過ぎて、なんだか、不安だな・・・・・・」
青年が通ってる学校は、恋恋高校と同じ地区であり、その中でも治安の悪い有名であり、言わば不良が通う≪ときめき青春高校≫の生徒のようだ。
ときめきと言う言葉を見るだけで、ドキドキやワクワクの青春学園生活を送れると思いがちではあるのだが・・・・・・実は全国の不良高校生が集い、通うヤンキー高校なのだ。
『彼』はどう見ても不良には見えないのだが、実はヤンキー達の恐喝などに怯えながらひっそりと野球部同好会を立ち上げては、良き仲間達に出会い、支えられて今年の春にようやく同好会から部活動に昇格したのだ。
それでもやはり、先ほど呟いた言葉通り、他の学校はときめきの名前を聞くだけで、二つ返事で断られる事が確実なので、小さくて重たいため息の理由は、きっとこの事なのだろう。
小石を何回も蹴っていると、偶然大きな石を蹴ってしまって前を歩いている黒髪の四方八方に散らかる青年、見たところ同年代と思われるその人物の頭に当たってしまった。
「――痛ッ!! な、なんだ!?」
「あっ!! 当たっちゃった・・・・・・」
すると当たった部分を手で押さえて、目の前を歩く青年が、少し疼くまってしまった。
「――ご、ごめんなさい! その・・・・・・決して! ワザとじゃあないんです!! 本当にゴメンなさい!!」
彼は駆け寄ってあたふたしながら必死に謝った。
「あ、いやいや。別に大丈夫だ。・・・・・・君、もしかして野球部員だったりする?」
黒髪の癖毛の青年は、黒くて大きな瞳に優しい顔立ちで、先ほどの小石が頭に当たった事を忘れさせて安心させようと、痛さを我慢してニコリと笑みを浮かべていた。そして『彼』の肩に掛かっているバットケースを見ると食いつくように質問をしてきたのだ。
そして、突然の質問に慌てながら応える。
「――え? あっ・・・・・・僕は、ときめき青春高校の野球部員の小山雅って言います!!」
「俺は、恋恋高校の小波球太。よろしく!」
小波と名乗った男は、小山の小さな手を取りグッと握手をした。あまりにも男らしい手で小山雅は少しドキッと胸を鳴らす。
「ん? 待てよ? ときめき青春高校出身? ・・・・・・って事は君は、明後日の試合の相手だよな?」
「そ、そうですね! 明後日の試合、よろしくお願いします!」
「おう! 初大会出場校同士、悔いのない戦いをしようぜ」
「はい! 僕たち、野球が好きでみんなの反対を押し切って創り上げた部活なので、簡単に負けるわけにはいきません!」
「それは俺たちも同じだぜ! こっちだって負けねえよ!」
小山雅は、小波と言う男が負ける気がないと言った表情をしていた。
何故だか不思議そうに思い、それが顔に出てしまっていたのだろう。小波が気になって声をかけた。
「ん? どうかしたのか?」
「え・・・・・・、いや。普通なら僕達の学校名を聞くだけでビックリするくらい有名な学校なのに、小波くんは驚きもしないなって・・・・・・」
「そんなの気になる事じゃあないだろ? ときめき青春高校がどんな学校かは確かに噂とかは耳にして知ってはいるけど、野球としては別だ。どんな治安の悪い学校であろうと、そこに野球が好きで本気で君たちが野球部を作るほど、情熱を持ってる奴らがいるんだから、それには応えねえと相手に悪いだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
小山は驚いて声も出なかった。
初めて言われた、その言葉にただただ呆然と立ち尽くすだけだった。
「小山雅だっけ? もし、今後練習試合する相手に困ったら、俺たちなら何時でも引き受けるぜ」
小波はカバンの中から一枚のメモ用紙を千切り、そこにボールペンで、自分のメールアドレスと携帯の電話番号を書き出して、小山に渡した。
「これ俺の連絡先な」
「はい! ありがとうございます! キャプテンにも伝えておきますね! それでは、小波くん。明後日、よろしくお願いします!」
「おう! 楽しみにしてるぜ! 良い試合をしような、小山!」
夕暮れの河川敷。
小波球太は、青年と言うよりは、少し女の子の様にも見える小山雅と出会った。
そして、恋恋高校対ときめき青春高校との予選大会第一回戦の試合の日を迎えるであった。