実況パワフルプロ野球-Once Again,Chase The Dream You Gave Up- 作:kyon99
今回は新キャラと定番キャラの登場となっております。
「今の話はほ、ほ、本当でやんすか! 小波くん! それはオイラ達にとっては物凄い朗報でやんすよ!」
バンッ!と勢い良く手のひらを机に打ち付ける音と共に、この日一番の大声を出したのは同じクラスメイトの矢部くんだ。
「お、大袈裟だよ」
俺は苦笑いを浮かべながら自販機で購入したパックの烏龍茶をストローですすり飲みながら言った。
昨日、野球部の勧誘を断って置きながらも考えを改めた俺は朝のホームルームが終わり、一時限目の現代社会の授業が始まる間に、矢部くんに一言、入部する趣旨を説明した。
出会って二日目と言う短い時間だというのに憎たらしい顔がお似合いでと言うのが印象的であり、今日は俺が入部すると聞いた喜びからなのか、その顔からはキラキラと輝かせているかのような満面の笑みを浮かべている。俺との顔との距離は僅か三十センチ、二十センチと顔を俺に段々と近づけて大声出すものだから、昼休み時の穏やかな教室中のクラスメイトの視線は俺と矢部くんへと一気に集め、皆ドン引きしていた。
おいおい、入学早々変な勘違いされると困るぞ。
「って言うか矢部くん、今、『オイラ達』って言った気がするんだけど、もう野球部に入ってくれるヤツでも見つけたの?」
「あれ? そう言えば小波くんには言って無かったでやんすね。実はもう一人、オイラと同じ赤とんぼ中学の野球部出身の人がいるでやんす」
「それは初耳だよ。それで? そいつはどんな奴なんだ?」
「名前は星雄大くん。我が赤とんぼ中学の主将を務めポジションはキャッチャーをしていた人でやんすよ」
星雄大。
ポジションはキャッチャーか、もし俺の肘が故障してなければバッテリーを組んでいたかもしれないって訳だ。
それに、故障してなかったら俺は、今頃あかつき大附属にそのまま進級していたのだろうか?
まあ、いいか。
そんな事を考えても仕方がない。俺は、ここで矢部くんと野球を始めると決めたんだ。
考えていたって何も変わらない。
二度、三度頭を振って余計な思考を振り払った後、矢部くんが神妙な顔つきをしているのが見えた。一体、どうしたのだろう?
「どうかしたのかい?」
「え? あ、いいや。別に何ともないでやんすよ。でも、ただ一つ星くんにはオイラ以上に『癖のある人物』だと言う事は、理解していて欲しいでやんす」
「癖のある人物?」
矢部くんが漏らしたのは、凄く引っかかる言葉だった。
どうやら星雄大は矢部くん以上に癖のある人物だと言う事らしいのだが、俺が今、現在想像できるのは、今の時代いないであろう語尾に『やんす』以外に変わった語尾を付ける人物なのかと思わず聞きたくなってしまったのが、率直な感想だった。
「放課後、星くんのクラスに行くでやんす。星くんにはオイラからメールしておくでやんす。そこでどんな人物なのか分かるでやんすよ」
そう言うと矢部くんは、直様自分の席へと戻って行った。俺はどうしても気になってしまったので聞こうと思ったが、裂くように教室のスピーカーから一時限目の授業の開始を告げるチャイム音である「ウエストミンスターの鐘」が鳴り響いたので断念した。
十六時。六時限目のチャイムが鳴る。
朝から続いた長い長い授業と、ようやく別れを告げる鐘の音は、一音、一音響くたびに、身体中に広がって、染み付いた憂鬱な感情が次第に晴れていくような気がする。
「放課後を迎えたでやんす。さあ、小波くん! 星くんのいる一年B組のクラスに早速向かうでやんす」
矢部くんは、帰宅した前の女子生徒の席の椅子に勝手に腰を下ろしていて、言葉を吐くと同時に重たい腰をあげながら、うーんと背を伸ばし、だらしない欠伸をした。
その様子を俺は見てしまい、先ほどまで俺の中の晴れ晴れとした気持ちがどこか遠くに行ってしまいそうな顔面だったので、心の中で少し後悔した。
そして教室を出てすぐ右へ曲がる。横の階段を下るとそこには一年生のA・B・Cのクラスが校舎一階にある。俺たちのクラスはD組だけは、何故なのかその上の二階に位置するのだ。しかも二年生のA・B・C組の三クラスも同じ階に存在する。二年生はこの三クラスだけで全員が女子生徒と言う訳もあり、俺個人は少し廊下を歩くのが、随分気が引けると思っている。
それでも、授業中、矢部くんのスッキリ刈り上げた坊主頭がチラホラ視線に入って集中力が散ってしまうので、正直言って耐えられないので、時にはいい目の保養になっていたりする。
当然。そんな事は、本人には告げず矢部くんと暫しの談笑を交わしながら星の待つクラスへと歩いて行った。そして、あっという間にB組の前に辿りつき、真新しい引き戸のドアを音を立てずに心地良く引いて、教室の中へと入って行く。
そこには、星と思われる人物を除いて誰もいなかった。
一番後ろの端、教室の窓から光が逆光になって顔は良く見えなかったが、金髪に染まる髪が光に当たって輝いて見えた。不敵な笑みを浮かべている風に見え、ドンっと構える佇まいはまるで、不良少年を見ているかのようで、ブレザーを脱ぎ捨てワイシャツを肘まで捲り、腕を組み机の上に腰を下していた。
影の奥底からギラリと睨みつけてくる。俺もその瞳をジッと見つめていると、間に入るように矢部くんが口を開いた。
「星くん。この人がさっきメールで連絡した。小波球太君でやんす」
矢部くんが、星に俺の事を紹介した。
顎を左手に置き、不揃いに生える無精髭をなぞりながら、体を乗せていた机から腰を離しニ、三歩進むと、ツンツンと整髪料で固めた金髪を揺れ、ニカっと笑うと、刺々しい八重歯が見えたのが特に印象的だった。
「よォ。お前ェが小波球太だな? 俺の名前は星雄大。矢部にも聞いてると思うが、赤とんぼ中の主将やってたんだ。ところで確かめたい事があるんだが、本当にお前があのあかつき中のエースナンバーを背負ってて、全中記録を更新した小波か?」
「確かに俺だ。あかつきのエースって言ってもそれは、中学二年までの話であって、あの全中の準決勝で肘を壊して退部した。だから肩書きなんてそんな大それたモンなんてねえよ」
自己紹介をして見ると一見見た所、変な風には感じなかった。矢部くんが言ってた「癖のある」というのは一体何のことなんだろうか、と疑問に感じたまま星が言葉を発した。
「ところで小波。お前に一つ言っておくぞ? 俺たちはな、野球が好きだからって言う簡単な理由だけで、わざわざこの恋恋高校で野球部を作ろうとしている訳じゃあねえんだ。いいか? 俺たちにもキチンと明確な目標があるって事を忘れんなよ?」
星の目を真っ直ぐに見ながら聞いていた。その目には嘘はない。
なんだよ。矢部くんが言っていたのは俺に脅しをかける冗談だったのか・・・・・・。癖のあるどころか、赤とんぼ中の主将を務めていただけある。見た目によらず随分の熱血野郎じゃあないか。
「分かった。俺にも目標があるし、出来れば聞かせてくれないか? お前たちの目標を」
俺は、こいつらとなら良いチームが出来そうな気がした。——のだが、次の言葉を聞いてそんな思いはボロボロと音を立て崩れ行ったのだった。
「俺たちの目標だぁ? そんなの決まってんだろ? ここで野球部を作る理由はだな。女は男の頑張ってる姿を見ると恋に落ちるって、この間本で読んで閃いた訳よ! だから俺は男の少ねえこの学校で野球の才能を存分に見せつけ女どもは俺に酔いしれる。そして、俺たちは『モテモテライフ』を送ると言う算段なんだぜッ!」
静まり返る教室に、星の叫びが何重にも響き渡った。
拳を胸に当てどうだ、と言わんばかりの星の顔はが、輝きに満ち溢れている顔だった。
そして、当然、俺は顔に手を当てて落胆した。
癖のあると言うことは、ただ女子生徒に好かれたいと言う下心満載の人物だと言うことは一目瞭然だった。
さっきまでの俺の思いは泡を立てて消えて行った。前言撤回だ。
「俺たちって事は、もしかして矢部くんもそうなのか?」
「そうでやんす。オイラ達は、赤とんぼ中学、いや今まで全くと言うほど女の子に相手にされなかったでやんす。だから、ここで一花咲かせないんでやんす。星くんなんて金髪に髪を染めるほど気合いを入れてるでやんすよ!」
「へっ、矢部。そう言うのはあまり言うもんじゃあねェぜ。男たるもの少し厳つい方が良いだろ?」
「流石・・・・・・星くんでやんす! オイラ感服したでやんす!」
おいおいおい。全く流石、って褒めてる場合じゃあないだろ。
「俺たちはここで伝説作るぞーッ! 矢部!」
「おう、でやんす!」
完全に置いてけぼりになった俺は、もはや笑みの一つも出てこなかった。出てくるのはため息だけだった。ここで野球を始めるのは中々骨が折れそうだ。
翌日の朝。まだ誰も登校する気配の無い早い朝だ。
星と矢部くんの基礎能力がどのものなのか見定めたいと言う俺の提案で校庭のグラウンドで軽めのキャッチボールをする事になった。
広々とした校庭、周りを囲む木々、草花、そこで俺たちは三人でボール回しをしていた。
「・・・・・・」
ボールを投げる事など怪我をして以来実に二年ぶりになるので、少し不安な気持ちになったものの、軽く放っても張りや痛みが全く無かったので安心した。この調子ならピッチング練習も再開したいもんだ。
「矢部ぇ! テメェはボールを取ってから投げるまでの間が長すぎるぞ!」
「すまないでやんす!」
星が叫ぶ。
見て思った率直な感想は、捕球の巧さ、肩の強さ、スローイングの正確さは中々良いセンスをしている事だ。赤とんぼ中学には勿体無い人材だろう。実際、恵まれた環境下で野球を学んでいれば強豪校の正捕手も務まるだろう。
もし星があかつき大附属に居たなら正捕手争いで『あいつ』と良い勝負が出来るのでは無いかと思うほどだ。
方や、矢部くんの方は問題大だ。
自ら名乗る「スピードスターの矢部」が頷ける程の俊足の持ち主なのは分かるが、捕球、スローイング、おまけに弱肩と言う守備面に不安になる要素が多いがまだ伸び代はある。
守備面は大体どの程度か把握したが、こうなると打撃面が不安になる。それは追って見定める事にしよう。
「オイ、矢部ェーー! 今のボール位普通に取れるだろうがァ!」
再び、星の叫び声が聞こえる。どうやらなんとも無いただの送球をグローブで弾いて後逸したらしい。不安が更に募っていく。
「ゴメンでやんす!!」
転がって行ったボールは、一人の女子生徒の足元に辿り着いた。
自慢ではないが、遠目でもはっきりと見える程、目の良い俺は、その女生徒をジッと見ていた。
透き通った黄緑色の艶やかな髪に可愛らしいお下げ髪をぶら下げている。
女生徒は手に持っていたカバンを地面に置き、ゆっくり腰を下ろし、ボールを拾い上げる。
「此処でやんす! このグローブに向かって投げて欲しいでやんす」
追いかけていた矢部くんの足が止まり、グローブへ投げる様に声をかけた。
すると、いきなりその女子生徒は、クイックモーションに入り、体をグイッと沈ませた。
「——ッ!?」
地面ギリギリから右腕を振り抜き上げ、球はまっすぐ矢部くんのグローブにバシッと収まり、矢部くんは呆気に取られたのかそのまま立ち尽くしていた。
「おい、小波」
「ああ」
「今、あの女が放ったフォームはアンダスローだよな? プロのピッチャーでもほとんど投げない投法の一つの」
「そうだ。それにしてもあいつ、中々体の関節が柔らかく上手く鍛えある。場慣れしてるって感じがするぜ。上手い具合に体重移動をこなせている。そして、あの慣れている感じ。きっと野球経験者だろう」
「野球経験者だ? だが、シニアや中学野球にも女が野球してたなんて、そんな話聞いた事がねえぞ?」
「なら、リトルリーグの時代はどうだ?」
「はぁ? リトルリーグだと?」
「俺は昔、かっとびレッズリトルってチームに所属してたんだ。そん時、リトルリーグの大会の対戦相手のチーム『おてんばピンキーズリトル』には、アンダースローを投げるピッチャーが『二人』も居たんだ。その内の一人が女の子だったぜ?」
「はぁ〜ん。なら、あのアンダースロー女がそうだって言うのか? 経験者だとしても野球部の無い恋恋高校にわざわざ入学してるって事は、あいつは野球を諦めてるって事かもしれねえぞ?」
「まだ分からねえな。少なからず俺みたいに、まだ諦めて無い可能性だってあるはずだ」
ああ、そうだ。簡単に好きなものなんて手放せる訳がねえんだ。だから、あいつに話を聞いてみて野球部に誘ってみるのはどうだろう。
アンダースローは基本的に先発完投型だ。肘の調子次第で俺がピッチャーをやるつもりだったから、リリーフをしたとしても負担は軽減されるだろう。
よし、早速話をしよう。そう思った時だ。
「小波くん! 星くん! 聞いてくれでやんす。四人目の入部希望者でやんすよ! この子がオイラ達の野球部に入りたいって言ってくれてるでやんす!」
「え?」
「は?」
喜びを露わにし、矢部くんが俺と星の元へと走ってくる。二人同時に気の抜けた返事を返してしまった。
矢部くんの後に、その女子生徒が歩いていく。凄く晴れた空が青く広がり、風は揺れ、四月の満開の桜が舞い散った。
風が撫でる様に、黄緑色の髪を揺す。
くっきりと大きな瞳は、まるで空の色をそっくり写した青い目。
「ボクは早川あおい。君たちと同じ一年生だよ。今、そこにいるメガネの子から聞いたんだけどここで野球部を作るんだって? 良かったらボクも混ぜてくれないかな? ボクも野球好きなんだ」
早川あおいと名乗った女子生徒は、俺の目を見つめながら言う。
ぷるんと揺れる桃色の唇に思わずドキッとしてしまったが、俺も自己紹介を返した。
「俺は小波球太だ。まだ部とは言えねえけど野球が好きなら大歓迎だ。こっちこそよろしく頼む」
俺と早川は互いに手を握った。
これが俺と早川の二度目の出会いだと言うことはこの時の俺は、まだ知らなかった。
登場人物の紹介
小波球太
恋恋高校の一年生。右投げ右打ちで、ポジションはピッチャーとファースト。
元あかつき大附属出身。オムライスとウーロン茶が好物。
冷静沈着、洞察眼が鋭く、野球センスは抜群に良いが、野球以外の事に対しては消極的である。
星雄大
恋恋高校の一年生。右投げ右打ち。ポジションはキャッチャー。
元赤とんぼ中学出身。女の子にモテたいが女の子と話す時はやや緊張気味になったりする。
口は悪いものの、時には優しい一面を持つ。