実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第21話 VS 流星高校 Ⅱ

 初回、三点を先制した恋恋高校ではあったのだが、流星高校の持ち味である走力を生かした攻撃にかかってしまった。

 ノーアウト二塁と言う場面では、三番打者の森内が早川の投じた変化球のカーブを丁寧に、ライト前に弾き返すタイムリーヒットを打つと、続く四番打者の永作が、サード毛利に対して意表を突くセーフティバントを成功させる。

 あっという間に点差は一点に縮められてしまった。

 先程までの気楽さなど恋恋高校のメンバーには誰一人持ち合わせては無く、グラウンドには緊張感が張り詰める中、流星高校のベンチでは雄叫びを上げ、更にプレッシャーを与えていく。

「これで、流れはウチに来たな!」

 一番打者である野沢が、ポンと肩を叩きながら声を、一人の男に声をかけた。

「それはどうか怪しいぞ。試合は終わっていない。まだ、分からないさ」

 声を掛けられた男が返事を返すが、その表情は笑っている様にも見て取れる。ニヤリと口角を吊り上げながら、右の膝にグローブを載せ、左脚ではリズミカルにリズムを取っていた。

「何せ、相手には、中学野球時代で、あの猪狩守に次いで有名な『小波球太』が居る。お前も見ただろ? 草元先輩がスリーランホームランを打たれたのを彼は、どういう訳か知らないがピッチャーとしてマウンドには上がっていない。だが、ピッチング以外にも打撃面でもかなりのセンスの持ち主だ」

「何ならさ。その草元先輩が打たれる前に、お前自身が小波達を抑えてしまえば良い話しじゃないのかよ? なぁ、海里」

「いやいや、無茶を言うなよ。草元先輩は三年生、今年がラストイヤーだ。同じピッチャーだし、お世話になった先輩に華を添えて上げたいと言う強い思いがあるからこそ、俺はこうしてベンチで見てるんだぞ?」

 相変わらずつれない奴。

 野沢はそう思いながら「はいはい」と声を漏らしてベンチに腰を下ろした。

 そして、たった今、野沢が海里と呼んだ男・・・・・・。

 本名は花沢海里。

 流星高校の二年生でポジションはピッチャーを務める。

 球速は、ズバ抜けて速いという訳ではない。

 ゆったりとしたピッチングモーションから繰り出す、カーブ、スローカーブ、スクリュー、チェンジアップと言う多彩な変化球と緩急のついた球を放る左腕だ。

 去年の成績では、公式戦、練習試合を含めチームの勝ち頭となるほどの勝ち星を重ねるが・・・・・・。

 去年の暮れの事、変化球の精度を高める練習が仇となり膝を痛めてしまったのだ。

 春の調整では、左腕から繰り出すカーブを武器に、打者を翻弄するが、突然コントロールが乱れて降板、と言うケースが多々見受けられ、今大会の背番号が決める時、花沢自ら、エースナンバーを辞退し、三年である草元に譲ったと言うエピソードがある。

「まあ、草元先輩が崩れる前に、向こうの女ピッチャーが崩れるだろうから、コールドになる前に、一度投げてみたらどうだ?」

「雄二・・・・・・。お前ってヤツは、一体、どこまでもマイペースなやつなんだ?」

「言ったろ? 流れはウチに来てる。俺は、ただ流れを切らさないように士気を高めてるだけだって」

「全く・・・・・・お前みたいなヤツはな。その内、痛い目に遭うんだからな」呆れ顔を浮かべ、不意に立ち上がった。

 トイレか、あるいは水分補給をする為か、或いは野沢のマイペースにうんざりししたのか・・・・・・。

 だが、グローブを手に取った花沢は、プルペンの方へと脚を進めて行った。

 

 

「早川、気楽に行くぞ!」

 タイムアウトを取った恋恋高校。内野がマウンドにいる早川を囲む様に、打開策を練ろうとしていたが、誰も無言のままだった為、痺れを切らした星が早川に声を掛けた。

「う、うん」

「あのな・・・・・・星。ここは、どっちかと言えば、気楽と言うより気合だろ?」

 横を向くと、いつも通り優しい表情を見せる小波が腕を組みをしていた。

「確かにピンチだ。ピンチだけど、この場面でどれだけ自分の持ってる最高のピッチングが出来るかどうかだぜ」

「とは言っても、そう上手く行くかな?」

「良いか? 早川。勝とうと思ってない奴は、勝てないぞ? それは言い方は悪いけど、敗退行為ってやつだろ?」

「――ッ!!」

 小波の言葉に、誰もが驚く。

「お、おい! 小波、テメェ! それは何でも言い過ぎじゃあねえのか!?」

「星くん。大丈夫だよ! そ、そうだよね。小波くんの言う通り。ボクは、勝ちたいと言う気持ちは確かに在るけど、不安の方が大きかったから、切り替えて投げるよ」

「おいおい・・・・・・正気かよ、早川」

 目を点にしながら、星はあんぐりと口を開けたまま呆れた顔で見つめていたが、小波が依然として笑みを崩さずに居た事が気になった。

「気合、入れたからな。早川、しっかりここは抑えてくれよ」

 小波が大きな手で早川の背中をポンと軽く叩いた。すると早川は帽子のツバの位置を治しながらしっかりとした定位置を確認し、青空の様な青い瞳はより一層キリッとしまった。

「よし! 皆! ここからは打たせて行くからしっかり守ってね!」

 ここでこの試合初めて、早川から野手たちに向けての言葉が出て来た。その声を貰った野手たちは、早川に負けじと大きなレスポンスを返した。またも、唖然とした星は、ニヤリと笑みを浮かべて定位置へと戻る小波に目を移す。

「あの野郎、早川に気合を入れさせる為、ワザと厳しい言葉を言いやがった訳か。ったく、恐れ入っちまうぜ。早川だけじゃなく、他の野手たちにも気合を入れさせるンだもんな・・・・・・。いやいや、俺たちのキャプテンは怖ェぜ、全くよ」

 マスクを着用し、星も踵を返してキャッチャーの定位置へと足早に歩いて行くのであった。

 

 

 

 小波の言葉を受け、早川は自信を持った投球を見せる。ノーアウト一、二塁のピンチの場面を迎えながらも力強い、自慢のコントロールの良さを見せつける様な、際どいコースに投げ込むピッチングで、後続を凡打に抑え込んで流星高校の攻撃は終わった。そして、二回の表の恋恋高校の攻撃は八番・ライトの古味狩から始まる。

 草元の左腕から繰り出すサイドスローに全く手が出せない古味狩は、四球目に放り込まれたシュートを引っ掛けてしまい、サードゴロに倒れ、ワンナウトとなり、次は九番の早川あおいが打席へと向かう。ウグイス嬢に名前を呼ばれると、スタンドからはたちまち割れんばかりの歓声が飛び交った。

「おっ! 出て来たな。今、頑張地方を飛び出して全国的に話題の早川あおいがよ」

 耳を覆いたくなる程の歓声を浴びる早川を三塁側の観客席に腰を下ろしながら、一人の青年が揶揄っているように意地悪い笑みを浮かべながら呟いた。

 その青年は、球八高校の野球部員である塚口遊助だった。

「それもそうだろ。高校野球に女子が出場してるって前代未聞な事だぞ? それにしてもピッチャーで、今時では珍しいアンダースローとはビックリだよな?」

「そうかァ? アンダースローなら、嫌というほど、毎日拝んでるだろ?」

「あっ! そっか! そう言えば、智紀のヤツもアンダースローだったな」

 塚口がケラケラと笑う。そして、それを隣に座る青年が、片眉を釣り上げながらため息を漏らした。夏服の制服を第二ボタンまで開き、中には赤いシャツを着ていて、高校生ながら両方の耳朶には黒いピアスが開いてあり、一見、不良にも見える。手に握るスポーツドリンクのペットボトル飲料を口に流し込みながら、グラウンドに目を向けていた。この男も塚口遊助と同じ球八高校の二年生で、名前は滝本雄二だ。

 恋恋高校と流星高校の次の試合が、球八高校とそよ風高校の試合を迎える為、二人は偵察を兼ねて、試合を観戦していた。

「どうだ? 滝本。本職のキャッチャーであるお前から見て、早川あおいのピッチングってのは、なんかグッと来るものでもあるか?」

「正直言えば、特にない」

 滝本と呼ばれた男は、すぐ様答えた。

「まあ、わざわざ比べる程じゃないが・・・・・・・、ウチの智紀のピッチングの方がリードのやり甲斐があるな」

「なるほどな。データを見るとカーブ、シンカーしか変化球を投げられないらしいし、それに比べて智紀は豊富だしな! なんて言ったってアイツにはアイツしか投げられない決め球があるからな」

「・・・・・・そういう事だ。ここぞ、という時に決める事の出来ない決め球がないピッチャーは、所詮、そこまでのヤツだ。決して高みを目指す事は出来やしないんだ」

「ほほう。それは、それは厳しい一言だな」

 またしても塚口がニヤリと笑う。滝本は、気にも止めずに鼻で「フン」と鳴らし、もう一口と、ドリンクを喉に流し込みながらグラウンドの方へと目を向ける。しかし、その目は、何処か遠い昔を思い出しているかの様に、ぼっとした瞳を浮かべていた。

「なあ、滝本。智紀のヤツは、まだ来ないのか? 一回戦の時もそうだったけど、アイツ恋恋高校の試合を随分気にしてるんだが、何かあるのか?」

「さあな、そこんところ俺も良く分からん。だが、アップ前に偵察にして来い、と珍しく指示をしたって事は何かあるんだろうな」

 滝本は興味を示さずに素っ気なく「どうでもいいけどな」と付け足すと、塚口は気になってしまったのだろうか、顎を撫でながら、智紀は実は早川あおいが気になっている、本当は恋人関係、など、試合に関係ない事ばかり思い付いていた。

 

 

 そんな考え事など、試合には一切関係なく進んで行った。

 対する流星高校のエースナンバーを背負う草元の気迫のこもったピッチングで恋恋高校打線を封じて行くが、それに負けじと早川あおいも本来以上のピッチングで要所要所締めて行き、気が付いた時には九回の表の攻撃まで進んでいた。

 九回の表、先頭打者である古味狩の第四打席を迎える。ここまで四打席ノーヒットと抑え込まれているが、簡単にツーストライクに追い込まれた後、インコースへ厳しい変化球を空振りし、三振に倒れてしまいワンナウトとなり、草元の球数は百四十九球を超えた。

「草元さん・・・・・・」

 ブルペンでは花沢海里が見守り、センターを守る野沢雄二も心配そうに、その背中を遠くから眺めていた。

「草元先輩ッ!! ここは踏ん張って下さいッ!! このまま一点差なら、最終回でサヨナラ勝ちをしてみせますッ!!!」

 誰もが見守る中、九番打者の早川が打席に立った。

 その初球だった。

 疲労から手元が狂ってしまい、抜けた甘い球を見逃さなかった早川は綺麗に、センター前に弾き返した。

「ナイスバッティングです! あおい!」

 恋恋高校のベンチでは、マネージャーの七瀬が大きな声を挙げて、バッティングを讃えた。

「今のは確かに甘い球を見逃さなかった早川のナイスプレーだ。早川の集中力はまだ切れちゃあいねェぜ!」

 星も続いて、喜びの声を上げる。それを見て小波は一人だけニヤリと笑っていた。初回の流星高校の攻撃の時、マウンドに集合して気楽よりも気合を入れさせた小波だが、この効果は薄れずに今も尚、チームのモチベーションをも持続させていると言う事に対して笑っていた。

 続く、一番打者の矢部が右打席に構える。ワンナウト一塁の場面、矢部は手堅く送りバントを決めて、星へと打席を繋ぐ。ランナー二塁と言うチャンスの場面、ここで、自前の勝負強さを持つ星が打席に立つ。疲労感に尋常じゃない程の汗をアンダーシャツで拭う草元、抑えればチームが点を取ってくれる、まだ最後の夏にはしたくない、とまだ勝負を諦めてはいないものの、拭った汗と共に目には涙と思われる結晶が溢れていた。ここは抑えたい、抑えて次に勝ち進みたい、だからここで渾身のストレートを投げ込んでやりたいと言う、投手としてのプライドと三年生と言う最後の年の意地を持って、星へ投げ込んだ。

 しかし、草元の気持ちを打ち砕くかのように勝負強さを持つ星に、真芯を捉えられる快心の一撃を打たれてしまった。快音を残した痛烈な当たりは、センター野沢の頭を軽く超えて行った。その当たりを見た誰もが、これはホームランになるだろうと思っていたのだが・・・・・・。

「チッ・・・・・・。真芯を捉えたって言うのに手応えがねえ!」

 星が舌打ちを鳴らした後、歯を食いしばり悔しさと共にボソッと漏らした。手応えがない言葉通り打球は段々と減速し始めている。ツーアウト、ランナー二塁の早川は構わずホームベースを踏んでいた。ホームランなら二点、フェンスに当たれば一点の追加となるが、センターを守る野沢は、打球の減速とは真逆で、打球を見ず全力疾走をしフェンスへと向かっていた。

「星、お前の勝負強さは意外だった。こんなにも苦戦を強いられるとは思わなかったぜ! だけど———!!!」

 そして、野沢はフェンスの前に辿り着くと勢い良くフェンスに飛び乗ったのだ。顔を上げると、既にボールは、すぐそこまで落ちてきていた。見送ればホームランと言うボールをフェンスから体を乗り込ませて腕を伸ばしてグローブを突き出した。ボールは見事にグローブへと収まった。

「――グッ! 海里に言われた通り、痛い目に遭うってのは重々承知だッ!! 俺たちだって、そう易々と勝ちを譲れんねェーンだ!」

 ギュッとフェンスの上部を強く握り締める。手を離して落ちてしまえばホームランになってしまう。離さないように、離さないようにと野沢は体を勢い良くグラウンドの方へとジャンプさせて着地し、グローブを高く突き上げた。

「アウトッ!!」

 駆け寄った塁審が高々と張り上げた声で叫ぶと同時に、「ワァー」と響めきが起きた地方球場、野沢雄二のホームランボールを取ると言うファインプレーで、恋恋高校は追加点を挙げることが出来ずに攻撃を終える。

「ナイスプレーだ、野沢!」

「草元先輩もナイスピッチングですよ!」

 野沢と草元は互いに顔を合わせた途端、ニヤリと笑ってハイタッチを交わす。それを花沢海里がブルペンから微笑ましく見つめていた。

 

 

「畜生ッ!! 雄二のあのプレーと言い、草元の気迫の篭ったピッチングに気持ち負けと言い、流星高校は未だ負けを認めてはくれてねえみてェだな・・・・・・」

 野沢雄二を睨みながら、星は悔しさにベンチへと引き下がっていた。歯を食いしばり手に握るバットのグリップを力強く握り締めていた。ベンチに戻ると矢部がキャッチャー防具を手に持っていて星を待っていた。

「ドンマイでやんす!」

「ドンマイ、なんて呑気な事言ってンじゃあねェよ! 雄二と草元にやられたンだ!!! 当たりこそ良かったものの・・・・・・奴らの執念ってやつか? 負けねェぞっていう気持ちに負けちまったぜ」

「星くん・・・・・・。悔しいでやんすか?」

 嬉しそうに矢部が問いかける。

「当たり前だろッ!!!」

「星くん。中学生の頃とはまるで別人の様でやんすね」

「あん? 急に何言ってやがンだよ? テメェは、一体何が言いてえんだ?」

「中学時代は負けるのが当たり前だったから、負けていても悔しさなんて微塵も感じ取れなかったでやんすが、今はこうして悔しさを滲ませてるでやんす」

「お、おう。だからなんだ?」

「変わったなあと思っただけでやんすよ。ま、オイラは今の星くんの方が好きでやんす」

「す、好き!?」

「あ、今のは告白ではないでやんすよ?」

「ンなこたァーーー分かってるわッ!!! テメェ、俺の事をバカにしてンのか!?」

「ひぃ〜〜!!! 怖いでやんす!!!」

 星は、顔を真っ赤にしながら怒り、矢部は慌てながらベンチを飛び出してセンターへと思いっきり走って行った。しかめ面で渡された防具をつけて行くと、小波が肩をポンと叩いたが星の顔を一切見ていなかった。

「え〜と、その・・・・・・なんだ? まぁ、俺は男同志でも何とも思わないから」

「はっ?? ちょっ・・・・・・小波!?」

「矢部と星の二人なら、これから仲良くやっていけるさ」

「や、山吹まで!?」

「末永く仲良くやるんだぜ?」

「海野ッ!? テメェまで!!」

 小波に続いて、山吹、海野が星に向けて祝福混じりの嫌がらせの言葉をかけ、グラウンドへと向かっていく。その横で後輩である赤坂はクスクスと笑みを堪えきれずに吹き出す。

「早く守備につけよッ!!! からかってンじゃあねェぞ! テメェら!」

「まあまあ、落ち着いてよ! 星くん。みんな冗談で言ってるんだから間に受けちゃダメだよ」

「分かってるって! ああ、もう! からかわれるのは苦手だぜ。それより早川、次の回は締まって行くぞ。抑えれば三回戦だ」

「うん、そのことなんだけど。小波くんには話をしてるんだけど、ボクの新しい球種をサインに追加してくれない?」

「ん? 新しいサイン?」

「うん。この『高速シンカー』を今日の試合で試したいんだ」

「高速シンカー?」

「ボクがずっと練習して来たこの球で抑えるよ!」

「良し、分かった。不安はあるが、やってみようぜ!」

「ありがとう!」

「そして、勝つぞ! この試合!」

 

 そして、一点リードし、最終回。

 九回の裏の流星高校の攻撃を迎える。

 この試合、幾度なく投げて来たシンカーを凌ぐ、早川あおいの新種の『高速シンカー』を前に全く手が出さず流星高校の打線を封じる。ショートゴロ、ファーストライナーで打ち取り簡単にツーアウトへと持ち込んだ。

 そして、五打順目を迎える一番の野沢雄二が打席に入った。

 流星高校のベンチではラストバッターの野沢に向けて意地でも出塁しろと声を投げかける。

「さっきはナイスバッティングだったぜ、雄大」

「ケッ! それはこっちのセリフだ。決めたと思った俺のホームランを取りやがって、ナイスファインプレーだったぜ、雄二」

「正直、出来たばかりの経験の浅いチーム相手には余裕で勝てると思っていた。だが、お前たちの方が上手だったな。油断してた」

「へっ! そいつはありがとよ」

「だけど、未だ終わっちゃいないぜ!」

 対する野沢雄二に、早川あおいのHシンカーが突き刺さる。インコースの低めに決まってストライクコールが鳴った。

「彼女・・・・・・。こんな球を投げてたか?」

「これは早川の新しい球種だ。俺たちは、確かに出来て未だ一年しか経ってねェチームだ。だけよォ、こうして今も成長してるんだよ」

 二球目。緩いカーブをヒッティングするがファールゾーンへと一直線でツーストライクへと追い込む。

「雄大。お前も変わったんだな」

 今打った打球を目で追いながら呟いた。

「お前も言うのか。それはさっき矢部の野郎にも言われたよ。俺は変わったのか? 何が変わったのか今一つ自覚はねえな」

「変わったさ。前よりも手強くなった」

「そうか? お前に強くなったって言われて少し薄気味悪いけど、今日くらいは素直に受け止めてやるよ」

 そして、三球目。早川は渾身の力を込めたHシンカーを投じる。キレがあり球速を上げたシンカーは野沢の視界から消えるようにストンと落として空振りを誘った。

「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!!」

 球審の叫び声が響く。野沢雄二は空振り三振に倒れ、恋恋高校が二回戦を制し三回戦へと勝ち進む勝利を収めた。

 

 

 

 恋恋高校が勝利を収めた同時刻。第二地方球場では同じ三回戦進出を決める試合が行われていた。極亜久高校対きらめき高校の試合だ。スコアボードには九対二と点滅していて、極亜久高校を制したのはきらめき高校だった。

「いや〜快勝快勝ッ!」

 きらめき高校三年生でありチームの要を担う目良浩輔がタオルで汗に塗れた顔を拭いながら笑う。汗に濡れた茶髪の髪の上にタオルを置いて応援してくれていた観客席に向かって一礼をした後、次の試合の為に荷物を片付け、ベンチを空けようとしていた。

「おッ!? 見てみろ彰正! 彼処にいる子、超可愛くねェか? どこの学校だろうな? なあ、後で声でもかけてみるか」

「浩輔。いい加減他校の生徒をナンパしようとするのは辞めろ」

「あん? 別に良いじゃあねェかよ! 男は、女好きって言うのが鉄則だろ? なぁ、そうだろ? 春海。後でお前が声かけて来いよ。お前は童顔だし、それに女にモテるだろ?」

 ニカニカ笑う目良浩輔とは対処的に呆れた顔をする親友の館野彰正だった。

「お、俺はそんなにモテないですよ! それに、俺は今は野球の方が大事ですから」

「おいおい、真面目過ぎるだろ・・・・・・」

「お前が不真面目過ぎるんだ、浩輔。今のは春海の答えが正しいぞ」

 すると、館野彰正はポンと、目良浩輔の頭をグローブで軽く叩いた。

「あっ! こんな所にいた! 早く空けないと次の試合の邪魔になっちゃうから早く更衣室に荷物運んで!」

 そこにマネージャーを務める高柳千波がやってくる。高校三年ながらも高校生とは思えないルックスで一際、大人の雰囲気が漂う。

「千波ッ! 今日のお前は、また一段と可愛いじゃあねえか!」

「それはどうも、浩輔くん」

「だからさ、今日の勝利を祝って俺とデートしようぜ!」

「お断りします」

「・・・・・・釣れねェな。なら、俺と付き合わねェか?」

「お断りします」

 ニコリと満面の笑みで千波は断る。

 それでも決してめげることの無い目良浩輔だか、これはきらめき高校の野球部員にとっては日常で何度か目にしてる光景なので、もう既に慣れてしまい、今は誰も気にしない。

「あの・・・・・・目良先輩? 弟を目の前にして、堂々と姉さんに告白するのだけは、辞めて貰えませんか?」

「なんだよ。照れてんのか? 春海」

「違います!」

 これもいつもと変わらないやりとりである。

「あ、そう言えば春海。さっきの速報で恋恋高校と流星高校の試合、球太くんのチームが勝ったみたいだよ!」

「そうか! それは良かったよ!」

 高柳春海は笑った。リトルリーグ時代からの親友である小波と戦えるという喜びを噛み締めながら野球道具を手に握りしめ、きらめきナインはベンチから去っていた。

 しかし、これから起きる恋恋高校に不幸が起きるという事など、今現在、誰も知る由も無かった。

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