実況パワフルプロ野球-Once Again,Chase The Dream You Gave Up- 作:kyon99
これが、太郎丸龍聖の本気・・・・・・!?
きらめき高校と山の宮高校の準決勝戦が始まりを告げた同時刻。
早川あおいの出場問題で、高野連から大会出場停止処分を受け、棄権を余儀なくされた恋恋高校野球は重たい雰囲気を醸し出していた。
本来なら、きらめき高校と試合をして、もしきらめき高校に勝利していれば次に勝ち進める事が出来、敗北をしたのなら秋の大会に向けて練習に打ち込んでいるはずなのだが、今は誰一人として練習をしにグラウンドに向かうものが居なかった。
部室に集まってはいるものの、誰もが黙ったままで、ただただ時間だけが過ぎていく。
「皆、練習をするでやんす!」
そんな中、沈黙を破る矢部の声が、プレハブ小屋の静かな部室に響き渡る。
「テメェら、アホか? こんな状況だって言うのに、練習した所でどうなるんだ? はるかさんから聞いたけどよォ、早川はここ三日間学校には来てねェンだぞ?」
パイプ椅子に背もたれ小さな声で星は矢部に向かって話掛ける。
「やっぱり・・・・・・そうでやんすか。そう言えば、小波くんも二、三日学校には来てないでやんす」
「はぁ?」
矢部の言葉に、星は眉を寄せる。
「小波の野郎もいないだと・・・・・・? 早川なら理由は解るけど、小波も学校に来ていないって一体、どう言う事だ?」
矢部は無言で頷いた。なにやら小波は、早川が部室を飛び出して居なくなり皆が追いかけて星と小波が取っ組み合いなり星が後を追った後に、一人で考え事をしていたらしい。そして、何かを閃いた小波は矢部に「今は、悔しを我慢をして練習に打ち込んでくれ」とだけ残したままそれっきりだと言う。
「はァ?? あの野郎・・・・・・。一体、何を考えてんだ? 今の現状で練習してどうなる? この意気消沈した空気の中で練習やっても意味ねェだろ!?」
パイプ椅子を蹴り上げ、星が吠えた。
「それでもッ! 小波くんは、オイラたちに練習に打ち込んでくれって言ってたでやんす!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「小波くんには、オイラ達が思いついてなかった考えがあるみたいでやんす。それじゃあ、星くんには何か考えがあるんでやんすか?」
「ッ・・・・・・そんなの何も、ねェよ」
「なら、キャプテンである小波くんをオイラは信じるでやんす」
そして矢部は、制服を脱ぎ始め、練習のユニフォームに着替え始めた。帽子を深く被り直して左手にはめてあるグローブを右手拳で叩きドアを開けて、一人でグラウンドへ向かうのを星は、ただ目線で追うだけだった。
「アホくさいぜ。テメェ、一人で練習なんぞ、ただの個人自主トレに過ぎ――」星は、言葉を止めた。星を除く他の部員達が次々と制服を脱いで、目を丸くしたまま座っていた。
「おい! お前ら、何してんだ? 山吹!」
「何をしてるって? 星、お前は馬鹿か? 小波がそう言ってたんだろ? だから、俺も矢部と同じく今から練習しに行くんだよ」
「正気か? お前」
「星先輩。矢部先輩と山吹先輩の言う通りッスよ。ここでジッとしてたら何も始まらないッスから、俺は練習しに行くッス。なあ、そうだよな? 御影!」
「俺っちも赤坂の意見に同感です! 小波キャプテンが行動を起こしたのなら、俺っち達も何かしらやらなければ行けないと思います」
着替えを終えて、そのまま部室から出て行って矢部と合流し、まずはグラウンドのランニングから始まった。部室の外から「恋恋高校一、二、一、二!」と活気に満ちた声が堂々と聞こえる中、星は半ば呆れた顔付きで聞いていた。
パン、と膝を叩き立ち上がる。白いワイシャツのボタンを外しながら呟いた。
「ったく、どいつこいつも物好きだ。くだらねえぜ」
星は、ふぁーあと、大きな欠伸した。その途中に部室のドアが大きな音を立てて開いた。
「コラッ〜!! 星くん! サボってないでさっさと練習するよ!」
「――ッ!!」
そこに響いた大きな声、星は驚いてクルッと顔を向けると、そこには三日間不在だった早川あおいがユニフォームでは無く、学校指定のジャージを羽織って現れた。
「ほらほら!! 早く着替えて、練習始まってるんだよ?」
「えっ!? ちょい待ち! な、なんでテメェが・・・・・・早川がここに居るんだ?」
「・・・・・・ボク、あの後、一人で考えたんだ。いつもみんなに迷惑掛けてばっかりで悪いな、って、でも、決めたんだ。ボク、マネージャーとしてこれから頑張るよ! 選手としてプレイヤーとして野球は出来ないけど、それでもボクは決めたんだ。このチームを支えるって・・・」
「早川・・・・・・」
「それよりどうしたの? 皆、元気がないみたいだよ? 小波くんも居ないみたいだし、ここは星くんが男を見せなきゃダメじゃない?」
ニコリと笑う早川。その笑顔は、明らかに作り笑いだが、小波だったら見抜いていただろうその作り笑いには、星は全く気付かなかった。
「へへっ! しょうがねェ野郎共だぜ。・・・・・・やれやれ、この星雄大様が直々にあいつらをこき使ってやろうじゃあねェか」
そして、星も合流し、大きな檄を飛ばしてグラウンドへと駆けて行く。
少しもの寂しそうな早川は、七瀬と共にマネージャーとしてチームに復帰し、恋恋高校は二日ぶりに練習を再開したのだった。
暑い。
三十四度を記録している真夏日、さすがの暑さに滴る汗を腕で拭ったのはもう何度目の事だろうか、スポーツドリンクで乾いた喉を潤しながら俺は、商店街にいた。
ここに居る理由はたった一つ。
チームメイトである早川の出場を認めて貰う為の署名活動を始めたのだ。
俺たちが幾ら言っても高野連の本部には聞く耳を持たない事に頭を悩ませていたが、パッと浮かんだのは署名活動だった。
沢山の署名を集めて高野連の本部に届けるんだ――絶対、早川を抜きでの恋恋高校野球部にはさせたくない。絶対にだ。だから、こうして一人で俺は、署名活動を始めているのだ。
とは言ったものの、中々集まらない。
今日の朝から初めて、書いてくれたのはたったの八名だけだ。
「応援してる」「頑張れ」など声は掛けられたり、写真を撮られたりするものの、署名はしてくれず、お昼を過ぎて暑さもピークを迎えて商店街を通り過ぎる人の数も少なくなっていくが、それでもめげずに声を掛け続ける。
俺は、諦めないだ――俺は、もう二度と早川から野球を奪いたくないんだ。
「恋恋高校の早川あおいを出場させる署名活動をしてます! どうか記入をお願いします!」
俺は声張り上げ「女性選手の大会出場に同意して下さい」と書かれたビラを一枚、一枚を配って行き、たった今、サラリーマンの男性に断れてしまった。
「はぁ・・・・・・。流石に何度も断られると、俺の心が折れそうだ。しかし、中々受け取ってくれねえもんだな。一体、どの位集めりゃ良いんだ?」
それでもめげずに、声を掛け行く。するとそこに、茶髪の二人組が足を止めた。
「小波・・・?」
「ん? ・・・・・・お前は、猪狩?」
「驚いたな。聞き覚えのある嫌な声が聞こえると思ったら、キミだったのかい」
「驚くのはこっちの台詞だ! 見たくない顔が今もこうして、目の前にあるんだからな!」
「なんだと?」
「なんだよ?」
「二人とも止めてください!」
お互い睨みながら、バチバチと目線で火花を散らした。
目の前に現れたのはあかつき大附属の猪狩守とその弟の猪狩進だった。
やや吊り上がった目、その奥に青い瞳で俺を見て、ニヤリと笑みを浮かべる猪狩が早く立ち去らないか、なんて思いながら俺は署名活動のアピールを続ける。
「ところで、キミはここで何をしてるんだい?」
「兄さん、アレです」
進は、俺の手に持つビラを指を指しながら猪狩に声を掛ける。
青い瞳はスッと指先を追ってビラを眺める。
相変わらず腕を組みながら物事を見るのは、出会った頃から変わらない。
この態度は昔から気に入らないのは言わないでおくとするが、きっと猪狩はこの事については気づいているんだろうな。
ワザと相手を挑発させるのも昔から変わらない。
「署名活動?」
「ああ、 流石のお前も俺たちが既に出場停止になってる事位は分かってるだろ? 高野連の頭の固いお偉いさんは、早川の出場を取り下げるなら出場しても構わないって言って来たけど、断ったんだ」
「成る程・・・・・・。それで早川あおいさんを出場させる為の署名活動なんですね?」
「そういう事だ。早川は俺たちの仲間だ。だから欠けさせる訳にも行かねえ。あいつも含めて俺たちは、恋恋高校の野球部だからな」
「フッ。チームメイトはどんな奴でも仲間でありそれを見過ごす訳にも見捨てる訳にも行かない、という訳か。キミはいつまでも甘いな」
鼻で笑う猪狩。
そして、簡易の台に近寄りペンを左手で握り、記入欄に自分の名前を書いた。
「猪狩・・・・・・、何してんだ? まさか・・・・・・」」
「勘違いしないでくれよ? 僕はキミみたいな凡人を助ける為に名前を書いてるんじゃない。ただ、ライバルと戦えなくなるのが嫌なだけさ」
「僕も兄さんと同意見です。僕は、リトルリーグの時の様に小波さんと野球で戦いたい。勿論、勝つのは僕たちですけど」
猪狩がペンを渡し進も名前を書いてくれた。
「お前ら・・・・・・」
「それじゃ、僕たちはキミたちと違って、明日の決勝戦に備えて練習をしなくちゃいけないんでね。もう行くとするよ。凡人の君はそこで精々頑張るがいい」
「はいはい、お前の様な天才さんに早く追いつける様に、凡人は努力はしますよ〜」
俺と猪狩は、ニヤリと笑った。
いつか戦うその日が来るまで、絶対負けるんじゃないぞと言う意味も含めて、俺たちは無言の会話をし、猪狩達は遠くの方へと見えなくなっていった。
「そう言えば、今日は準決勝戦か。春海達は今頃、山の宮高校と試合か。どうなってるんだろうか気になって来たな」
俺は、携帯を取り出してインターネットを開き、頑張地方の大会速報をクリックしてページを開いた。
「ストライクーッ! バッターアウトッ!」
球審の甲高い声と主に球場がどよめいたのは同じタイミングだった。
山の宮高校のエースナンバーを背負う二年にしてエースを受け持っている左腕の太郎丸龍聖が投じたストレートで二打順目を迎えた三番打者の館野彰正を空振りの三球三振に仕留めてチェンジとなった。
対する館野に対して一切の遊びもせずに球速百四十後半を連投、そして今の三振を奪った球速は百四十七キロとバックスクリーンに表示されていたので観客席は驚きの声を上げた。
打者十二人に対してこれで十二個目の奪三振だったのも含まれている。全てストレートで三振を奪っている圧巻のピッチングだ。
試合は四回の表が終わり、〇対〇の同点。
未だどのチームも点を取れていない投手戦となっていた。
たった今、三振に仕留められた館野彰正は、悔しさを滲ませた表情でベンチへと引き下がっていく。
準決勝となると流石に今までの試合よりも求められるレベルは上がっている。
そう実感せざる終えなかった。
きらめき高校のエースの大島も負けずに持ち味であるテンポの良さと、館野の采配によるストレートと変化球を巧く組み合わせた投球で次々と山の宮打線を抑えていく。
四回の裏を三者凡退に抑えて、試合は五回表へと突入した。
四番打者、サードの目良浩輔が二打席のバッターボックスに入る。右打席でバットのグリップを握り締めてボールを待つ。
目を凝らしバックスクリーンのスコアボードを見ていた。
ヒット数は〇と完璧に抑え込まれている。
そして、目線を十八メーター先にいる太郎丸を捉えた。
真剣な表情をしており、ここまで手も足も出さない状況の中、年下の投手相手にも気を抜いていなかった。
一打席目は、インコースに矢のように突き刺さるストレートを見逃ししたが、今度こそヒットを打ってやる、と言う威圧感を見に纏っている。
一球目。
アウトローに百四十六キロのストライクボールが入る。
ノビのあるストレートは七十球を超えた今でも衰えておらず、その勢いは衰えるどころか増していた。
二球目は、緩急を付いてきたチェンジアップは百十三キロと四十キロ遅い球を目良は、タイミングが合わずに空振りをしてしまいツーストライク目を取られてしまった。
「太郎丸のやつ・・・・・・、チェンジアップも持っていたのか」
目良が空振りをして尻餅を付いた時、ベンチで見守る館野彰正は、ボソッと呟いた。
「えっ? どういう事? 彰正くん」
「いや、今までの太郎丸ならストレートで追い込んでストレートで三振を奪いに来ていた。しかし、この回からチェンジアップ、つまり変化球を入れて来たという事だ」
「うん」
「俺が持ってるデータでは、太郎丸の変化球の球種は全くノーデータなんだ。何を投げるのかすら全く知らない」
「それじゃあ・・・・・・太郎丸くんを攻略するのにも時間が掛かっちゃうって事よね?」
「ああ、太郎丸を攻略出来れば良いが・・・・・・先ずは、キャッチャーの名島を攻略しなければ始まらない。太郎丸をリードしてるのは奴なんだからな」
館野から、冷や汗が垂れ落ちる。
「それでも、目良先輩は打ってくれますよ」
「春海・・・・・・」
「だって、目良先輩、言ってたじゃないですか! 俺たちも一緒に甲子園に行くと、そして山の宮高校をぶっ飛ばすって、俺は信じてます!!」
「ああ、そうだな」
二人は、ニヤリと笑みを浮かべる。そしてマネージャーである高柳千波は、心配そうにバッターボックスに立って三球目のスライダーをカットした目良を見つめ「浩輔くん・・・・・・」と小さな声で呟いた。
小さく息を吐いた。
初見のスライダーを当てた事で、少し心の面でも余裕が見えて来た。
目由浩輔はしっかりと足場を均しながら、太郎丸からどう打つかの対策を練っていた。
――凄えストレートだ。
流石に猪狩守を凌ぐとも言われる左腕だけあるぜ。
全く、大したもんだよ。
だけど、俺はまだ負けてるなんか思っちゃあいねえぜ?
へっ、それでも打てる気が全くしねえのは弱音の内には入らねえよな?
ふと顔を空へと見上げる。
滴る汗が喉仏を通り過ぎた時だ。
試合前の自分が千波に言った言葉がふと、頭を過ぎった。
『今日のラッキーカラーは白と青なんだ。千波も確か白と青の水玉パンツ持ってたろ?』
『本当、浩輔くんって最低っ!!』
やり取りを思い出しながら、浩輔は空を見上げたまま、目を見開いていた。
口元は自然とニヤけていた。
「はは! なんだよ、あるじゃあねェか!! 俺の今日のラッキーカラーは、白と青・・・・・・。こんな近くにあったとは思わなかったぜ。今日の天気そのものじゃあねえかよ!」
――来いよ、太郎丸!
確かにお前は凄えピッチャーだ・・・・・・。
だけど・・・・・・俺は、俺には行きたい場所と連れて行かなきゃいけない奴がいるんだ。
お前達に邪魔なんかさせねえ――!!!
勝つのは俺たち、きらめき高校だ!!!
四球目、太郎丸の左腕から放たれた決め球のフォークボールを掬い上げるアッパースイング気味になりながらもバットを振り抜いた。
快音と共に痛烈な打球が高々と打ち上がる。
「――クソ!! 今のを打つのか!? 俺のフォークを」
「レフトッ!! 下がれッ!」
太郎丸と名島は同時に叫んだ。
快音は真芯で取らえていた。
レフトが走り落下地点へと追いかけるが、足はそこで止まってしまった。
誰もいない無人の外野スタンドの芝生に当たる。
打球はレフトスタンドの中段に突き刺さり、きらめき高校の待望の一点を目良浩輔がソロホームランで手に入れた。
ドッと湧き上がる歓声が球場を揺らした。
きらめき高校のベンチと試合観戦をしに来た同校の学生達はかつてない盛り上がりを見せる。
対する山の宮高校の太郎丸龍聖は、推定百三十メートルの落下地点であるレフトスタンドの中段を腰にグローブを当て眺めていた。
三試合連続無失点の記録を破られた事は気にしていない様子で、そのまま立ち尽くす太郎丸に相棒である名島が駆け寄る。
「龍聖。すまない・・・・・・。今のは今日、調子の良いストレートで抑えるべきだった」
「いや、一成のせいじゃねえさ。例え今、ストレートを投げていても結果は同じだったさ。さっきの打席の目良さんに、俺はとてつもない信念を感じていた。きっと、打たれていただろう」
「龍聖・・・・・・」
「なあ、一成。やっぱり俺たち、頑張地方に来て正解だったぜ。ようやく出会えた気がするぜ、骨のある相手によ!」
「ああ、そうだな!」
「ふぅー」
太郎丸は息を吐いた。
先ほどまで余裕のある表情は吐く息と共に消え、闘士の宿る瞳を浮かべていた。
「一成、ここから俺は点を取らせねえ。お前のリードを信じて投げ込むぜ」
「ああ、任せておけ。俺もお前のピッチングを信用してリードしてやる。だから」
「絶対に勝つぞ!!」
同時に言葉を言う。
そして、踵を返し名島はキャッチャーの定位置へと走っていく。
名島の顔は自信と確信を持った表情をしていた。
その表情は、確かだった。
目良浩輔にホームランを打たれたショックなど最初からなかったかのように太郎丸の左腕はしなやかに振り抜かれる。
百四十七キロ、百四十八キロとストレートはギアを上げていくようにスピードとノビとキレがより一層増していき、きらめき打線の五番、六番、七番打者をバットに一切当てずに連続の三振で斬り伏せて攻撃が終わった。
そして、この試合、太郎丸龍聖はさらなる成長を遂げるという事は誰も知らないまま試合が進んで行く事になる。
一対〇のまま。
準決勝は炎天下の中、熱い投手戦が繰り広げられて行く。
きらめき高校のエースである大島は、ここまでの疲れが出始めて来てしまい、ストレートのノビ、変化球のキレと共に乱れが生じてしまった。
それに漬け込んだ山の宮打線は見逃さずに猛攻、名島、太郎丸の連続タイムリーヒットで三点を奪い取って二点リードする。点差を広げようとする山の宮だったが、ツーアウト満塁のチャンスの場面できらめき高校の守備の面でなんとか凌いだ。しかし、二点のリードを許したきらめき高校は逆転を試みようとするが、無得点のままだった。
エース太郎丸の持ち前のスタミナ力で涼しんだ表情で投げ抜いていくが、球を受ける名島には違和感を感じていた。
その予兆が見えたのは、八回の表だった。一番打者をこの試合十九個目の三振を奪いツーアウトとなった。二番打者の高柳春海がネクストバッターズサークルからバッターボックスへと向かう。
ここまで、百八球を投げ抜いてる太郎丸は回を跨ぐ毎に尻上がりに、調子を上げていっていた。春海に対する初球、左腕から繰り出されるストレートがインコースを抉るような鋭いストライクボールでカウントを取る。
「・・・・・・」
百四十八キロ。
名島はバックスクリーンに表示される球速を見た。
違和感はそれだった。
打者の手元で急激に伸びるのが特徴の太郎丸のストレートだが、この試合ではその球が今まで以上によく伸びている事、さらには球速表示以上の速さとミットで捉えるボールの球威が群を抜いて居る事だった。
球速表示では百四十八キロのボールは体感速度では百五十三キロあるようにも感じていた。
それは、打者である春海も同じように考えていた。
今まで見たことのないボールに全く手が出なかった事に対して冷や汗が流れる。
続く二球目は、アウトローいっぱいのストライクボールを見逃してツーストライク目をコールされる。
三球目。
太郎丸の左腕から繰り出されるスリークォーター投法。
しっかりと振り抜くと同時に、太郎丸から『黄金色に光るオーラ』を放っていた。
ボールはど真ん中を貫くストレート、球速百五十一キロのストレートは、春海のバットに当たりもせず、ただただ虚しく空を切って攻撃が終わった。
百五十キロの大台を乗り越えた太郎丸に対して観客席からの歓声が湧き上がる。
「ナイスリードだ! 一成!」
「お、おう。ナイスピッチ」
「なんだ? どうかしたのか?」
「いや、今のストレート・・・・・・。今まで何千球とお前の球を受けて来たが、今までとは違ったように感じたぞ」
名島はキャッチャーミットをはめている左手に目線を変えながら呟いた。
その左手はプルプルと震えていたのだ。
太郎丸は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらニカッと白い歯を見せる。
「アンユージュアル・ハイ・ストレート!!」
「アン・・・・・・なんだって?」
「一成、俺もお前も日本一の選手になるのが夢だろ? 俺は日本一の投手、お前は日本一の捕手にな? その過程の中で、俺もお前も成長してるって訳だ」
「・・・・・・なるほどな、龍聖。お前のボールのノビを特化させて、更に経験を積んで得た特殊なストレートが、今の『アンユージュアル・ハイ・ストレート』って事か・・・・・・。こりゃ、リードの幅が増えて助かるもんだわ」
「へへ、頼りにしてるぜ! 相棒!!」
二人は笑い、試合は八回の裏の攻撃へと移っていく。