実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第3話 四人だけの野球部

「早川あおい?」

「ああ。栗原……お前はその名前に聞き覚えとかあったりするか?」

「うーん……どうだろう。聞いた様な気もするし聞いたことが無いような気がするんだけど……ゴメンね、小波くん。やっぱり私は覚えてないかもしれない」

 栗原が申し訳なさそうにそう言う。

 昨日、早川あおいが仮ではあるが野球部に入りたいと言い出してから、妙に気に掛かった事があったのだ。

 早川あおい、と言う名前とあのアンダースローのフォームは昔どこかで見覚えがあると言う事だった。

 その記憶はきっとリトルリーグ時代であり、相当昔の事だから既にあやふやになっている。

 俺より遥かに記憶力の良い栗原に尋ねてみたのだが——。

 どうやら栗原も『アンダースローのピッチャーが居た』と言うのは覚えていたが、その名前については覚えはないようだった。

「でも、良かったよね!」

「何がだ?」

「だって、その早川あおいって女の子が野球部に入りたいって言ってきたんでしょ?」

「まぁ、これで部員は四人にはなったな」

「あれれ? なんだか幸先が良い感じゃない?」

 と、栗原は感心しながら、先ほどレジにて購入した新鮮なトマトとレタスに店特有のオリジナルソースと、肉汁が今にもじゅわりと出てきそうな厚切りのハンバーグを挟んだ「パワフルバーガー」と呼ばれるハンバーガーを小さな口で一噛みした栗原は、このボリュームで七百四十円は安くて美味しいと、喜びながらも口にソースを付けてニコリと笑う。

「さぁ、どうだろうな。幸先が良くても九人も居ないんじゃ話にならないだろ。それにしても晩飯がハンバーガーだなんてお前……アメリカ人にでもなるつもりか?」

「小波くん、それは偏見だよ? 向こうの人だってキチンと主食に副食も食べてるんだからねッ!」

「そんな事は知ってるよ。……ほれ、口元にソースついんぞ。高校生にもなって口元にソースを付けて平然としてるのは、流石にどうかと思うぞ」

「あ、ありがとう」

 俺はソースが口元についたのが気になり、ハンドペーパーを二枚ほど抜き取るとすぐ様栗原に渡した。

「ところでさ、栗原に聞きたい事があるんだけど」

「うん? なに?」

「いや、パワフル高校の野球部は実際どんな感じなんだ? 中学時代に強豪のチームで活躍してたスーパールーキー的な一年とか入ってきたりしてるのか?」

「どんな感じって言われても……。あっ、でも一年上の尾崎先輩が言うのには『猪狩ブルースシニア』出身の麻生くんとパワフル中学の戸井くんがもう戦力として数えられてるわね。もう夏の大会にはレギュラーとして試合に出られるんじゃないかって言ってたわよ」

「へぇ……、麻生に戸井ね。パワフル中学の戸井は兎も角、麻生ってヤツの名前は聞いたことがないな。それに『猪狩ブルースシニア』に居たって言うのなら去年と一昨年と二年連続全国に出場したチームじゃねえか。シニアに居たって事はあの『猪狩ブルースリトル』にも所属してたのか?」

 と、尋ねるが栗原は首を横に振った。

「ううん、彼は「育成会」上がりなの。地域でやってる軟式野球チームに所属していて、ブロードバンドジュニアスクール中学では、訳があったのか野球部には入らず、猪狩ブルースシニアのチームに入って今年パワフル高に入学したらしいのよ」

「成る程、育成会上がりか……。そいつは意外と努力人なのかもしれないな」

 栗原は、カバンから取り出した分厚いメモ帳に記されたデータを読み上げる。マネージャー業もちゃんと立派にこなしてるんだと、俺は感心もして安心もした。

 いやいや。なんて感心してる場合では無いのが今の現状で、俺たちにはこの先の事は一寸先は闇である。

 まずは部員集めに監督・顧問、グラウンドの確保など難関はこれから山の様にある訳だ。

 それにまず、学校側が俺たちが野球部を作ろうとしている事に対し認めてくれるかどうかだが、それはきっと何とかなる筈だ。

 

 そう言えば、何故、こんな所に居るのかと言うとだ。

 栗原と飯を食べる前、学校の授業が終わって少しばかり四人でその事に関してミーティングをした。

 その打ち合わせをしている最中に矢部くんと星は『こんな所で時間食うのは勿体無い! だから俺たちは今から街に行って女の子に声かけて遊びに行くぜ!』

 と、二人は話の途中で放り出し、足早に外へと出てしまった。

ㅤ結果は言うまでもないだろう。

 何も解決方法が浮かばなかった、だ。

 残された俺と早川はお互いの顔を見ては呆れ笑いし、十七時の学校の鐘が鳴った頃に、俺と早川は帰る支度をして二人とも別れ、帰り道にいつもの河川敷で栗原とばったり会い、立ち話をしていたら雨が降り出してきて近くの「パワフルバーガーショップ」と呼ばれる店に雨宿りしているのだ。

 

「まったく幸先が良くねえよ。これじゃ先が思いやられるぜ」

 俺は頭を掻きむしり言う。

「なによ? どうしたの? 急に」

「いいや、気にしないでくれ。今のは何でもないただの独り言だよ。それより毎年『打倒あかつき』を掲げるパワフル高校は、何か打開策の一つや二つはもあるのか? どうせ戦うつもりで居るだろ?」

「ゴールデンウィークに全国の各校と何試合か試合をする合同合宿があるのよ。夏の大会、予選前の調整らしいわ。経験を積ませて場数をこなせると言うのが監督の目論見でね」

「成る程な。経験を積ませる……か。それは全く羨ましい限りだぜ。なんせ俺たちはまだ試合も愚か、部としてすら成り立ってなんかいねえんだかな」

「こらこら、嘆いてても仕方ないでしょ? あっ、そうだ小波くん。あれから肘の調子はどうなのよ?」

 少し不安そうな顔で栗原が尋ねて来た。

 右肘を壊して野球を辞めた事は人伝で聞いたみたいなので知っているのは当然だ。

「それが驚く程に調子が良いんだ。この前、キャッチボールをしてみたんだけど、それが痛みもなんとも無かったんだぜ?」

「どうせまた『聖ちゃん』相手に無理矢理練習に付き合わせたんじゃないでしょうね?」

「えっと、それは……」

「いい? 小波くん。聖ちゃんは私たちの四つ下とは言えどまだ小学六年生なんだからね? ましてや相手は女の子なんだしちょっと位は優しく手加減を——」

「分かってる分かってるって、俺もあんまり調子に乗らない様にちゃんと抑えてるし、それに聖の性格もお前も知ってるだろ? しっかりしてる、いや、しっかりし過ぎてる。オマケに融通の利かない頑固者と来たもんだ。まぁ、そこは心配しなくても大丈夫だよ」

 大好物を利用して、練習を長引かせていると言うのは栗原には内緒にしておこう。きっと、怒鳴られるだけだから。

「……そう? それなら良いけど」

「ほっ……」

「それじゃ小波くん達の当分の目標は、頑張って今の同好会を部活動へと仕上げなくちゃね。今年は、どうしても無理で来年になっちゃうけれど、私たちのパワフル高校と戦うの楽しみに待ってるわよ」

「はは……随分と簡単に言ってくれるな。このまま三年間部にならないままで終わる可能性もなきにしもあらずだぜ?」

「あら、そうかしら? 小波くんならしっかりとした強いチームを作ってくれる様な気がするのよね」

「はぁ? その根拠はどっから来るんだよ」

「ふふ、それは幼馴染の勘ってやつかしら? あっ! もうこんな時間? ゴメン小波くん。今日はお母さんと晩御飯作って家族で食べる約束してたの忘れてたわ! 先に帰るね」

「おう。またな栗原」

 慌てる様に荷物を持ち、店のドアを開けて栗原は家へと一目散に走り去って行った。

 栗原の姿が完全に無くなったのを確認し、俺は残っていた烏龍茶を飲み干した。

 それにしても今、ハンバーガーを食べたばかりだと言うのにこれから晩御飯を作って食べるのか……食欲旺盛だこと。

 

 グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー。

「……」

 俺も他人の事は言えないな。

 なんて思ってると俺も食べたばかりだと言うなのにお腹がなってしまった。ふと、無性にオムライスが食べたくなった俺は、制服のズボンのポケットから携帯電話を取り出して電話帳を開き、ある人物の名前を探した。

 カチカチカチカチ。

 その名前は、た行に在った。

 俺は電話をしようとしたが、急に面倒くさくなり手短に「今から行く」の一言だけメールを送信する。

 送信から二分程経った頃、一通のメールが届きアラームが鳴り、確認してみると『了解。俺はいないけど、もしかしたら姉さんならいるかもよ』と返信が返ってきたので俺はお会計を済ませて店を後にした。

 

 

 

 翌日。

 春空は雲ひとつない晴天だった。

「はぁはぁ……」

「お、おィ!! 小波、早川!! ちょ、ちょっと休もうぜ?」

「おいおい、何言ってんだ? 星」

「小波くん。オイラも星くんの提案に賛成でやんす! オイラ……も、も、もう限界でやんす!」

「えっ? ちょっとキミたち……もうバタてたの?」

「バテたでやんす!」

「嘘でしょ? だってまだ走り始めたばかりだよ?」

 早川は呆れ顔で何も言えないと言った表情をしながら言う。星と矢部くんは冗談言っている様な余裕な顔付きではなく、本気の本気で言っている様だ。

「仕方がないでやんす。あおいちゃんと小波くんはピッチャー経験者じゃないでやんすか! オイラは外野手、星くんはキャッチャーでオイラ達二人と違って体力は有り余ってるはずでやんす! これは不公平でやんすよ!」

「そ、そんな事ないよ! 小波くんはどうかなんて知らないけど、ボク自身はスタミナを強化する事を課題にしてるほど、スタミナに自信がないんだからね! そんなにキミたちとそんなに差はないよ」

「おいおい、お前らな……喋ってる余裕があるんだったら足を動かせよな。それに矢部くんと星は休憩はさせねえからな? お前ら昨日のミーティングをバックれたんだから、その罰だ」

 俺はそう言って、止めていた足を動かす。

「——ひッ!!」

 後ろの方から矢部くんと星の声にならない声が漏れている様な気がしたが、気にしない。自業自得だ。

 

 今日の野球同好会は、まずランニングから始まった。

 校外近辺の往復約五キロを地図で調べ上げ自分たちで作り上げたロードレースコースを星が『恋恋ロード』と命名した。

 息の切れている星と矢部は次々とペースが落ちていく、やれやれと思っていたら、俺の横を早川が駆け抜いていく。その表情は後ろからは見えないが、なんだか余裕そうで軽やかに走っていた。

「オイラ……もうダメでやんす。ギブアップでやんす!!」

「オイ、バカ野郎ォ!! 矢部ェ!! テメェ、急に足を止まんじゃねェェェェェェェェェよッ!! って、わっ――!!」

 瞬間に、激突。

 コントみたいに力尽きた矢部くんが足をピタッと止めてしまい、後ろを着いていた星がぶつかり、二人が転倒して叫び声が聞こえた。

「はぁ……。ったく、昨日と今日といい、あいつらのおふざけは大概にしてほしいもんぜ」

「同感だよ。ボクもそう思う」

 二人同時にため息を漏らし呆れた。

 すると、目の前を走る早川が振り向きもせずに口を開いた。

「ねぇ、小波くん」

「ん?」

「キミって意外とスタミナあるね」

「まあ、こう見えて元あかつき大附属中学でピッチャーをやってたからな。自分で言うのもアレだけど、一応あかつき仕込みのキツいトレーニングはこなして来たんだ。だけど、こう見えて体力も随分と落ちたもんだぜ?」

「そうなんだ」

「でも、早川。お前もすごいな。男の俺に食らいついてくるなんて」

「それてもしかして褒めてくれてるの? ありがとう。でも、ボクはキミたちみたいな男の子に負ける気なんてーーーないよ!」

「ーーッ!?」

 踏み込みを強くして早川は、更にスピードを上げた。

 緑色の綺麗な髪がふわりと靡く。俺の前を一メートル先を走る早川から、ほんのりと柑橘系シャンプーの匂いがしてきた。微かに香るシャンプーの匂いが消える頃、ちらっとこちらを向いて早川が「どんなもんだ」とでも言うかのように満面の笑みで俺を見た。

 とても女の子とは思えない男勝りっぽい性格をしている早川だったが、それを感じさせない女の子らしい笑顔を見せるので俺は苦笑いを浮かべながら俺は心の中で、こう呟いた。

「あのな? これはランニングなんだぞ? 別に勝ち負けなんてある訳ねえだろ」

 何も知らない、何も聞こえない早川は次第にペースをあけわて悟られぬ様に押し殺し冷静に呟き、矢部くんと星の方をちらっと見るものの、もう随分離れていてしまったのか、二人の姿はまったく見えなかった。

 

 

 

「うう……」

 小一時間くらいで俺と早川は学校の校門の前に辿り着いたのだが、早川は何かと不機嫌だった。いつまで経っても帰ってくる気配の無い星と矢部くんを待っているからなのだろうか。

 いいや、違う。理由は一つ、至ってシンプルだ。

 早川は最後に俺に抜かされたことが不満だったみたいで『最後にスピード上げるなんて卑怯だよ!』などと、若干目に涙を浮かべてふて腐れた様子だった。

「ま、最後の最後でペース配分の失策だったな」

「……」

 無言の早川。

「でも、驚いたよ。なかなかスタミナあるじゃねえか」

「むっ……。褒められても、全然ッ嬉しくないもん!」

 プクッと頬を膨らめせ、顔は避ける様にそっぽを向いていた。

 おいおい、さっきはありがとうって言ってたじゃんかよ。

 早川あおい。コイツ、相当な負けず嫌いで短気な性格をしているんだな。

 

 そして、最初に到着してから十五分過ぎた頃だった。

「着いたでやんす!! オイラもう限界でやんす!!」

 ようやく先に終えていた俺と早川の二人と合流した星と矢部くんだったがどこか様子がおかしかった。

「遅えぞお前ら!」

「申し訳ないでやんす!! でも、小波くんとあおいちゃんがただただ早すぎるだけでやんすよ!!」

「そうだ! そうだ! テメェらは体力が在り余りすぎるんだよッ! 少しは体力がねェ俺たちにも配慮ってモンをちょっとは考えてほしいもンだぜッ!!」

 星と矢部くんは、ニヤリと笑っていた。

「ねぇ」

 早川は何処か違和感を感じていた。

 それは、二人がなんだかニヤついているからだ。

「キミたち、何がそんなに面白くて笑ってるの?」

「え? オイラ達笑ってるでやんすか?」

「う、うん。それに矢部くん、キミのその笑顔……出来ればやめてくれないかな?」

「えっ? どうしてでやんす? あおいちゃん」

「後、ボクの事を、その……『あおいちゃん』って呼ぶのも止めてくれると助かるんだけどね。なんだか気持ち悪くて……」

「き、キモ——ッ!? あおいちゃん! いや、早川さん? な、何を言ってるでやんすか!」

「おいおい、何を喚いてやがるンだ? それに関しては早川の言う通りだぜ。矢部、テメェの笑顔はなんかムカつく」

「星くんまで!? なんででやんすか? みんなしてオイラの扱いが酷いでやんす!!」

 涙を流して泣き噦る矢部くんを見てケラケラと笑っている星に近づいて尋ねてみた。

「それで? なんかあったのか?」

「あッ!! そうそう! いいかァ? 聞いて驚くんじゃねェぞ? なんたって野球部の顧問をしてくれる先生がさっき見つかったんだからよォ!!」

「そうでやんす! オイラ達は、ただただ笑ってただけじゃないでやんすよ! 担当してくれる顧問を見つけたからこそ、こうして笑っていたに決まってるでやんす!!」

「顧問が……」

「見つかった?」

 二人の言葉に小波と早川は同時に口にした。

「いやいや、それは流石に冗談でしょ? だってキミたちはランニングしてふざけてただけなのに、何で顧問が見つかるの?」

 俺も思った事を真っ先に早川が、不思議に思って話を聞いてくれた。

 どうやらあのコントみたいな茶番をしていた後に、星が足を擦りむいて怪我をしてしまった様だ。その時にたまたま通りかかった新任の加藤先生と言う先生が手当してくれたらしく、白衣に身を包んだ年上の女性を前に有頂天にたどり着いた矢部くんが一目惚れして勢いで頼んだら、見事に二つ返事で承諾してくれた、との事だった。

「なんだか、話がうまく行き過ぎじゃないか?」

「そうだよね。ねえ、その加藤先生って人って野球に詳しかったりするの?」

「いや、野球は『知り合いの付き添い』で観に行ったり、プロ野球の試合は適当に付けて流れる夜のニュース番組のダイジェストでしか見た事がなくて、ルールとかはまるっきり知らないみたいでやんす」

「そ、そうなんだ」

 ルールも知らない顧問って、大丈夫なのだろうか。

「でもよォ。その加藤先生が言うには、小波。何故だか知らねェけど、テメェに興味があるって言ってたぜ?」

「えっ? 俺に興味? なんでだ?」

「知らないでやんす」

「俺だってしらねェよ。言っただろ、知らねェけどって」

 なんで聞く必要があるのんだ、とでも今にも言いそうな二人のマヌケな顔にムカッとしてしまい「理由位聞いとけよ!」と思わず口走りそうになってしまったが、何はともあれ問題の一つである顧問を見つけてくれた二人を立ててやろうと「二人とも顧問見つけてくれてありがとう」と、礼をする事にした。

 これで顧問が見つかった。

 明日でもその先生に挨拶でもするか。

 そして、その時になんで俺に興味があるのかを聞いてみるとしよう。

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