実況パワフルプロ野球-Once Again,Chase The Dream You Gave Up- 作:kyon99
ㅤ三回裏の攻撃。
ㅤ二点差を追う俺たち恋恋高校のトップバッターは、七番打者の御影から始まる。
ㅤマウンドに上がる聖ジャスミン高校の左腕エースの太刀川から此方ら未だにヒット数はゼロだ。
ㅤ何処かで攻略しなければならない。
「それにしても大丈夫でやんすか?」
ㅤ太眉を釣り上げながら、瓶底眼鏡の奥底で目を光らしている矢部くんが言う。
「ああ、さっきの事かい?ㅤ向こうで何かしら起きたのは、確かだろうけど……何が起きたのか此処からじゃサッパリ分からないよ」
ㅤ俺は首を捻った。
ㅤそれは、攻守交代の時だった。
ㅤ聖ジャスミン高校のベンチから大きな声が聞こえたのだ。それは逆サイドである俺たちのベンチまで小鷹の声が聞こえた。何事かと視線を向けたが、そこにはナイン全員が駆け寄っている光景しか見ることが出来ず、こちら側は何も確認は出来なかった。
「まあ、普通にグラウンドに出て来てるから大した事じゃなかったのかもしれないね。それよりはまず太刀川の攻略を探らないと」
「そうでやんすね!」
「それにしてもよォ?ㅤなんか聖ジャスミン高校の空気感って言うか……さっきよりちょっと暗く見えやしねェか?」
ㅤ星がベンチに重たい腰を据え、先制点を奪われた悔しさを滲ませた顰めっ面を浮かべ、腕組みをしながら言う。
「暗い? でやんすか?」
「うん、星くんの言う通り。その違和感はボクも感じたよ。今まではグラウンドで皆、声を出して活気に満ち溢れてたけど、この回に入ってからは一転して、随分と静かだよね?」
ㅤ早川も頷きながら言う。
ㅤ空気感が違うって事は……さっきの騒ぎは何かしらあったって言う事か?
ㅤ一体……何があったんだろうか?
ㅤ気を取り直して、今は御影の打席だ。
ㅤまず一球目、相変わらずノビのあるストレートがど真ん中へズバリと放り込まれ、キャッチャーミットが渇いた音を立てる。
ㅤ身長およそ百七十後半はあるその長身から放り込まれるオーバースローのストレートは、球速表示百四十キロをマークした。
ㅤそれにしても、かなりの良い球を投げるな。
ㅤ太刀川からそう打つのは簡単じゃないだろう。
ㅤそれに御影。
まず、バットを振らなきゃボールには当たらないぞ。
ㅤ続く二球目は、変化球であるスクリューが低めのインコースへ投げ込まれたった二球で簡単に追い込まれる。
ㅤ三球目は、またしても変化球の高速シュートを投げるが、御影は何とか苦なくカットした。
ㅤ良いストレートを持ってるのに決め球はストレートで来ない辺り、猪狩や太郎丸みたいな『速球派』では無さそうだ。
ストレートに気を取られがちだが・・・・・・変化球も相当キレの良いモノを持っているのが厄介だな。
ㅤツーストライクのまま四球目。
ストレートをサード方向へファールで凌ぐと、五球目は反して、緩やかなカーブで空振りの三振に打ち取られてしまう。
「チッ!ㅤ緩急をつけて来たかッ!!」
ㅤ星が思わず舌打ちを鳴らす。
ㅤまずはワンナウトとなり、続く八番打者はサードの毛利だ。
ㅤ先程の守備の件もあり、ややメンタル面で不安はあるが、矢部くんの見事な超ファインプレーに魅せられて、落ち込んだ調子はどっかに行っているように思える。
「行くぜェェェッ!! 来いッ!!!」
ㅤ咆哮を一つ。
ㅤ良し。
気合いを入れている辺り、今の毛利には問題はなさそうだ。
ㅤ太刀川が振りかぶってからの初球……。
「——ッ!?」
ㅤ太刀川の顔が僅かながら歪んだ。
「あいつ……」
ㅤ左腕を振り抜く一瞬だったけど、太刀川の表情が引きつった様に見えた。
ㅤ毛利は、百三十二キロのアウトローへのストレートを思いっきり叩いた。
ㅤ……コツン。
「あ、当たったッ!!ㅤ——だが!」
ㅤ当てたとは言え、打球音は鈍かった。
太刀川のストレートは重みがある上にノビがある為、何とも言えないボテボテのゴロが太刀川の前へと転がった。
「ヒロッ!!ㅤまずはファーストよ!」
「うん!」
ㅤ軽快に捌きファーストを守る美藤に丁寧に送球する……が。
「——あっ!!」
ㅤその送球は美藤の頭を遥かに通り過ぎるほどの高さで、恋恋高校のベンチ前まで転がる暴投をしてしまった。
空かさず毛利は、二塁まで脚を進めた。
「やったでやんす!ㅤ毛利くん! 上手くエラーを誘い出したでやんす!ㅤこれで反撃のランナーが出たでやんす!」
ㅤ矢部くんが喜びながら、ヘルメットを着用しバットを握りネクストバッターズサークルへと駆け出していく。
ㅤエラーを誘い出した?
ㅤいいや。それは違う。
ㅤ今のは単なるエラーとかじゃない。
ㅤもしかすると、太刀川の奴……。
「オイ・・・・・・小波。テメェ、今の見たかァ?」
「星、ああ。お前も気付いたか?」
ㅤ太刀川の事を珍しく星も気付いたようだ。
ㅤ頬に汗を垂らして真剣な目つきでマウンドを見てる。
「あんなにコントロールも良い『広巳ちゃん』がまさか此処で暴投とは、こりゃ驚いたな……」
「…………はあ?」
「あン?」
ㅤやっぱり・・・・・・。
こういういつもの返しが来るって事は、既に分かりきっている事ではあったが、星は試合中でも安定の星のままなんだな。
ㅤそれより何だよ!
何が『広巳ちゃん』だ。
なんで、いきなり下の名前で呼ぶ必要があるんだ?
お前は、八宝乙女推しじゃなかったのか?
ㅤ…………疲れるな。
ㅤやれやれ。
ㅤ星に対してツッコミをする気力など勿論起きる事など一切なく、出来れば今打席に立つ早川に是非とも目覚めの一発のビンタをすぐ様星に向かって手のひらを振り抜いて欲しいと頼みたい気分になった。
「小波くん。もしかしてあの娘……肩に爆弾を抱えてるんじゃない?」
「えっ?ㅤあ……はい。間違いないです」
ㅤ今日の試合中、一言も喋らなかった俺たちの監督である加藤先生が急に話をするものだったから俺はまず驚いてしまい、真面に返事を返す事が出来なかった。
「やはりね……。原因はやっぱり……」
「はい。先生が思ってる通りです」
ㅤそう言葉を返し、マウンドに立つ太刀川へと視線を返す。
ㅤ冷静さを保つ為に無理した笑顔を振りまいてはいるものの……太刀川は肩に爆弾を抱えている。これは間違いないだろう。
ㅤ恐らく原因は、オーバーワークか?
ㅤこれはあくまで投げすぎていた場合だ。
ㅤ筋肉には弾力性があり本来はある程度の柔らかさがあるのだが、投げ込みなどの使い込みでストレスを受け筋肉は緊張し、硬くなってしまう。そして筋肉がそのストレスに対して耐えられなくなると痛みへと変わってしまう。
ㅤ以前、太刀川と握手を交わした時だ。
ㅤ違和感を感じとったのはスイングして出来た掌の豆では無く、指先が異様に硬かった事。
ㅤ相当の練習、投げ込みを重ねた努力の結晶と試合前に思ってはいたが、故障しそうなほどまでやり込んでいたとは……もう既に肩に出来た爆弾もいつ爆発してしまうか分からない状態だ。
ㅤ元々九人しかいない聖ジャスミン高校だが、他の奴らは太刀川が爆弾を抱えていると言うことを知っているのか?
ㅤ視界が霞んだ。
ㅤ視線の先に腰を据える小鷹が青色のゴーグル越しさら不安そうに太刀川を見つめていた。
ㅤポタリ、ポタリ……と、褐色の肌から汗が垂れ落ちる。
ㅤハッとした顔で汗を拭い、何事も無かったかのようにマウンドの土をスパイクで均し、ゆっくりと左肩をグルリと前後に回す。
ㅤ——ズキッ!!
「ぐっ!!」
ㅤ肩に激痛が走った。
ㅤ今にも倒れこんでしまいそうな痛烈な痛みが太刀川を襲う。
ㅤだが、その痛みに身を委ねる事を考えもせずワンナウトランナー一塁の場面、恋恋高校は九番打者の早川あおいがバッターボックスに入っているのを見送る。
ㅤ同じ女の子同士の戦いにどれだけ楽しみにしていたことか。太刀川の口元は少し緩んだ。
ㅤその初球。
ㅤキィィン!!
ㅤ左腕を振り抜く事が出来たが肩の痛みに気を取られてしまい真ん中高めの百二十キロほどの力のないストレートを叩き、レフトを守るリーアム楠の前にヒットを放つ。
「やったでやんす!」
ㅤ一塁、二塁のチャンスに一番打者の矢部まで回る。チャンスに強いと言うわけでは無く、寧ろチャンスに弱いバッターだ。
ㅤストライクを先行し、ツーストライクに追い込んでからの三球目、力無いストレートをやや浅めに守っていたライト前に弾き返され恋恋高校は満塁のチャンスとなり、二番打者の赤坂に打順が回った。
「タイム!」
ㅤピンチの場面、八宝乙女が塁審に声をかけてタイムを取った。
ㅤ内野手がマウンドまで駆け寄って、太刀川を囲んだ。
「ヒロ……あんた、まさか肩が痛むの?」
ㅤと、小鷹が問う。
「いや、なんともないよ。少し力んでるからかも」
ㅤ首を振って否定する太刀川。
「でも、大丈夫!ㅤここはきちんと抑えるから。任せてよ!」
「それは……出来ませんわ」
ㅤここで八宝乙女が言葉を挟んだ。
神妙な顔つきで太刀川を見つめている。
「太刀川さん。先程の打席……腕の力でヒットを放った時、痛めたんじゃありませんの?」
ㅤ軸をブラされ腕の力だけで早川あおいのボールに食らいついた時、肩にまで負担がかかってしまった。
左投げであり右打ちである太刀川にとってさっきのスイングは大ダメージを受けてしまったと言う事だ。
「その痛みが攻守交代の時に激痛が走り、思わず倒れてしまったのではありません?」
「………」
「肩を故障してる選手をこのまま試合に出せる訳にはいきません。それがチームメイトなら、尚更のことですわ」
「——な、なんでそれを!?」
「ちょっと、ヒロ!ㅤ肩を故障してるってどう言う事ッ!!」
「えっと……それは……」
「言い逃れしても無駄、ですわよ?ㅤ因みに私とキャプテンは貴女の故障の事は、既にご存知ですのよ?」
「そうなんだ……。それは、参ったな。とても厄介な二人に既に見抜かれていたなんて……」
「これ以上の投球は、貴女の今後の野球人生に大きく関係するでしょう。もう、これ以上は——」
「それは……。私たちは負けを認めろってこと?」
「・・・・・・。残念ですけど、そうなるでしょうね……」
「それだけは、絶対嫌だッ!!!」
「——なっ!?」
「うん!! 大丈夫!ㅤ私は、負けないよ。例え・・・・・・この肩を壊してでも……私は勝ち進みたい!」
ㅤ太刀川が叫んだ。その怒号の様な声に全員が黙り込んでしまった。
ㅤ暫くの沈黙が続く。
ㅤ一向に諦める素振りも無い太刀川を見て、これは何度言っても言う事を聞いてくれそうに無い。
観念したのか、八宝乙女は「やれやれ」と首を捻る。
「はぁ・・・・・・。この八宝乙女が一度だけ許可しますわ。ただし、無理はなさらない事、よろしくて?」
「うん、ごめん……」
ㅤグローブとグローブでタッチを交わす。お互いに真剣な表情をしたまま八宝乙女は定位置へと戻って行った。
ㅤ二番打者の赤坂は少し緊張気味にバッターボックスに立つ。満塁のチャンスの場面、ここが試合の分岐点になるかもしれない。
ㅤ最悪、引っ掛けてボテボテのゴロを打ってダブルプレーになるのはどうしても避けたい所ではあるが……赤坂次第だ。
ㅤ左肩の痛みに気を取られるように投げ込む太刀川。一球、一球に前ほどの力は無い。
ㅤワンストライク、ツーボールからヒッティングを試みた赤坂だったが、軽く掠めるだけでキャッチャーフライに打ち取られてしまった。
『三番、キャッチャー星くん』
「星ーーッ!!ㅤ頼むぞ!」
ㅤエラーで試合の流れを渡してしまった事に罪の意識を感じている毛利が大きな声を上げて星に向かって叫んだ。
「オウよ!!ㅤ任せておきな!」
ㅤここで頼れる恋恋高校随一チャンスにめっぽう強い男、いや"勝負師"の星が打席に立つ。
ㅤ緊張感が漂う中、その初球だった。
ㅤ左腕から放たれたストリートは右打席に立つ星の胸元へと放り込まれたクロスファイヤーを振り抜いた。金属バットの真芯で捉えたのがよく分かる快音が鳴り響くと同時に、勢いよく飛んで行く打球はレフトスタンドの奥へと消える場外ホームランとなった。
「やったぁぁぁーっ!ㅤ逆転満塁ホームランっス!!」
「流石!ㅤ星先輩っ!!」
ㅤ先ず、赤坂と御影が叫ぶ。
「ナイスバッティングでやんす!」
「期待してたよ!」
ㅤと、早川と矢部くんが悠々と走り、ホームベースをガッツリと踏み込んだ星に向けて拳を突き出して喜びを露わにした。
ㅤこれで二対四。逆転だ。
ㅤまだ序盤だが、嫌なムードからは一変、流れは俺たちになんとか流れてきた様だった。
「ナイスバッティングだ!ㅤ星!」
「ヘッ!!ㅤあったりまえだぜェ!!ㅤこれが俺だッ!!ㅤどうだ、見たかッ!!ㅤバカヤロッ!!」
ㅤパァン!ㅤと、ハイタッチを交わしてから俺は打席へと向かった。
ㅤバッターボックスに立ち、マウンドを見て見ると、やはり太刀川の調子は良く無いようだ。
ㅤ一球、一球ボールを投げ込むたびに肩の調子を探るように肩を回しているのを見て思った。
ㅤここで引導を渡してみせる。
ㅤ俺はスパイクの先端で足場を固め、ギュッとバットのグリップを握り締めてボールを待った。
ㅤ
ㅤ
———
——
—。
ㅤ夕暮れ時、橙色の色に染まった雲が静かに流れて行く。
ㅤ春の暖かな風は、耳元に大きな風の音を響かせて何処かへと吹き流れていった。
ㅤ聖ジャスミン高校にある小さな野球部の部室には、九人の姿があったがその表情は何処かしら暗く見えた。
「ヒロぴー……。大丈夫だべか」
ㅤボソリと矢部田が呟いた。
ㅤその言葉に周りの聖ジャスミン高校のメンバーは一度は反応して見せたがそのまま暗い顔を下に向けた。
ㅤ先程行われた春の大会、対する恋恋高校戦は星の逆転満塁弾で試合の流れを変え、そして四番小波のソロホームランを含め、最終的には四対十四で五回コールド負けで一回戦敗退となってしまった。
ㅤ試合後、すぐ太刀川とキャプテンであるリーアム楠は近くの総合病院へと向かった。肩の痛みに耐えきれず蹲ってしまった太刀川の検査をする為に……。
ㅤ負けた悔しさもあるがそれ以上に太刀川と言うチームのエースの負傷の具合が何よりも気になって仕方がなかった。
ㅤ
ㅤプルルルル……。
ㅤプルルルル……。
ㅤここで携帯の着信音が鳴る。
ㅤ八宝乙女がスカートのポケットの中から一つスマートフォンを取り出し、相手の名前を確認した。
ㅤ着信相手はリーアム楠からだった。
「もしもし、私です」
ㅤ緊張感のある部室には、「ええ……」「そうなの……」などの八宝乙女の相槌だけが木霊した。
ㅤ暫くの問答が終え、五分が経過した。
ㅤそして……電話を切った。
「どうだったの?ㅤヒロの具合は!」
「大丈夫なのかにゃん!?」
ㅤ全員が八宝乙女に押し掛ける。
ㅤ近寄られるのが嫌なのか、不機嫌な顔で追い遣り、一息ついて口を開いた。
「太刀川さんは、大丈夫みたいよ」
「本当に!?」
「よかった……」
「本当、よかったべ……」
ㅤ安堵の息が漏れ全員が心を落ち着かせる。だが、八宝乙女は少し晴れない顔でただ黙ったままその場に目を向けていた。
ㅤ涙を浮かべて太刀川の無事を喜ぶ姿に、本当の事が言えないままでいた。
ㅤ太刀川の肩の状態は其処まで良くなく、夏までの間には完治は無理だと言うことを聖ジャスミン高校のメンバーはその事実をするのはもう少し先になると言う事を。
ㅤ
ㅤ空は雲一つない晴れた空。
ㅤそんな晴れた土曜午後二時。春の大会が行われている地方グラウンドは今日も騒がしい。
ㅤ静かさなんてある訳がないと言っていいほど活気のある声が飛び交うのは毎度のことだ。なんせマウンドに立っているのは、あかつき大附属の猪狩守に次いで今年のプロドラフト要注目のエースが投げているのだから……。
ㅤ苦笑いを一つ浮かべながらマウンドに立つのは山の宮高校三年、太郎丸龍聖だ。右手にはめてある赤い色のグラブから一つのボールを取り出して指先で弾き左手で掴んだ。
ㅤツーアウトランナー無し。
ㅤここを抑えれば俺たち山の宮高校の勝利だ。
「まだだ!ㅤ来いッ!!」
ㅤ視線の先に立ち今も尚、諦める素振りなど見せずにバットを握りしめるのは、対戦相手であるの四番打者にしてエースも受け持つ悪道浩平がドス黒い瞳をギラリと光らせてバッターボックスから睨み付けていた。
ㅤ太郎丸龍聖はここまで極亜久高校に対して打者二十六人に対し、被安打はゼロ。初回の先頭打者に投じた四死球一つだけとノーヒットノーランピッチングを見せていた。
ㅤその試合を見守る観客は今か今かとノーヒットノーランと言う大台を迎えるのを待つ。
『ワァァァーー!!』
ㅤ三百六十度、囲まれた視線と声援など気にも止める事なく眉間に力を寄せ、太郎丸はマウンド越しから十八・四十四十メートル先を見つめた。
「龍聖ッ!! こいつを締めて有終の美を飾るぞッ!!」
ㅤパシッとキャッチャーミットを拳で叩き低い声を飛ばす名島一誠。
ㅤその励ましの声に太郎丸はいつも元気を貰う。
「チッ!ㅤ早く来やがれッ!ㅤテメェの『アンユージュアル・H・ストレート』とか抜かすふざけたボールを打ち返してやるぜッ!」
ㅤガツ、ガツと地面を蹴り、前のめりになって金属バットを構え直す悪道浩平。
ㅤやかましい、と小さく呟く。
ㅤだが、口の悪さは置いといて、チーム一のパワーヒッターでもありその打撃センスは確かなものだ。当たればデカイ。得意なコースはインコースの高め、所謂インハイ。
ㅤキャッチャーの一名島が抜かりなく揃え見抜いた苦手コースのデータでここまで抑えて来たが、太郎丸は相手が強いほど燃えるタイプであり、また相手が得意なコースに投げて打ち取らないと気が済まないなど、やや危ない橋を渡りがちな人物だ。
ㅤツーアウトツーストライク。
ㅤ太郎丸は渾身の"アンユージュアル・H・ストレート"をインハイへと放り投げる。
ㅤ——ズバァァァン!!
ㅤ悪道浩平はバットを振り抜いたが、太郎丸のストレートは虚しくも掠める事なく名島のミットへと突き刺さった。
「チッ————。クソッタレがァッ!!!」
ㅤそのストレートは、球速百五十四キロを記録した。
「ナイスピッチング!ㅤ龍聖!」
「ああ!ㅤナイスリードだぜ、一誠!」
ㅤ二人はお互いの顔を見て笑った。
「次の対戦相手は、聖ジャスミン高校と恋恋高校のどっちかだな。俺的には猪狩守と同レベルとも言われていた小波球太と戦いたいぜ」
「龍聖、それは俺も同感だ。だが、小波は中学二年生の時に故障した男。マウンドには立つ事はないぞ?」
「ああ、それは知ってる。けど、あいつは打者としての才能もあるからな!ㅤへへっ」
ㅤ太郎丸は笑った。
「龍聖?」
「ピッチャーとしての性なのか分からねえけどさ、何だろう…どうしても捩じ伏せてやりたいって気持ちしかねえ!」
「強い相手を倒したい。お前らしいな。なら、捩じ伏せてやろう。その為に俺がいるんだからな」
ㅤニヤリと笑い、山の宮高校が二回戦へと勝ち進むこととなり、恋恋高校は次に太郎丸と名島が率いる山の宮高校と激突する。
ㅤ