実況パワフルプロ野球-Once Again,Chase The Dream You Gave Up- 作:kyon99
春の陽気が睡魔を生む。
俺はそれを拒まずに受け入れるのがいつもの俺なのだが今日は違かった。
『でもよぉ。その加藤先生はさ、なんだか小波、お前に興味があるって言ってたぜ?』
昨日のランニングが終わった後だ。
星が言っていた加藤先生の言葉が気になっていた。
何故、俺に興味を示しているのだろうか。
その理由は全く分からないままだった。
まず、入学して四日目が経過したが、保健担当の加藤先生の話を他のクラスメイトが話題にしたことは聞いた事がないし、もちろんの事、中学時代も面識など無いのだからどうしようもない。
「まあ、いいか。そん時に聞けば」と、そのまま考えるように、我慢していた深い深い眠りへと誘う、春の睡魔を受け入れるかのように目の前がボヤけ、眠りにつきそうだった。
そして、目の前が暗くなり、次に目が覚めた頃には、星と矢部くんに早川が学校指定の体操着に着替えていて呆れた顔で俺を見下ろしていたのだ。
「はぁ〜。小波くん。毎日、こうも起こし辛い様にグッスリ寝てられるとこっちもなんだか起こすのが面倒になるでやんす」
矢部くんが愚痴をこぼして眠け覚しに、冷えた缶コーヒーを俺の机の上に差し出す。
「ったく、テメェはただの学生だろうが何寝てンだよ! 俺なんかクラスの女子生徒見るたびに、目が血走って眠気なんて吹っ飛ぶぜ?」
「星くん・・・・・・それは気持ち悪い」
「同感でやんす」
と、矢部くんと早川が一蹴すると「保健室に言って、加藤先生に会いに行くんでしょ!」と早川が俺の腕を掴み上げ席から離す。
だいたい俺の席から見える矢部くんの後ろで坊主頭を見るのは本当に目を覆いたくなる程、キツイものがあるからだ。
おまけにこの窓際の席だから太陽の光を直接浴てしまうから寝ちまうんだ、と言いたかったが、矢部くん本人を目にして本音を言うのはどこか気が引けてしまって言わない事にした。
そして、小さな声で『眠い』と、だけ呟いて、俺たちは教室から後にした。
この学校は主に北校舎と南校舎に分かれていて俺たち生徒の教室は北校舎に位置しており、職員室、事務室、校長と理事長室も同じ北校舎の一階に存在している。
そして、体育館、美術室、音楽室など選択科目でしか使わない教室は南校舎にあり、保健室は南校舎にある。
校舎と校舎を繋ぐ、長い渡り廊下を歩きながら俺たちは保健室へと向かう。
「あのさ……少し聞きたい事があるんだけど。一体、加藤先生ってどんな人なんだ? 俺はまだ見たこともないんだけど」
「えっ……? ちょっと小波くん。キミは何を言ってるの? 入学式の時、新任挨拶でちゃんと自己紹介してたじゃないのよ」
片眉を釣り上げて早川が言う。
新任の挨拶? そんなの入学式の時にあったか?
「・・・・・・」
あ、そう言えば入学式の最中、校長の話がやたら長すぎたせいで眠ったまったから記憶にないのは当然か。
「早川、無駄だぜ。大体、こいつの事だ。きっと寝てたに違いねェ」
星が見透かしたように笑いながら俺の肩にポンと手を置いた。
「そうだろ? 小波」
「そうだけど、なんだ? この手は」
「いいか? 今から会いに行く加藤先生は、お前が思ってる以上に美女な大人の女性だ。だからって緊張するんじゃねェぞ?」
「あのな……。勝手に人を年上好きみたいな感じで言うなよな」
「それによォ。お前、頭は癖毛だけどこう見ると意外『イケてる顔』してるんだから、もしも加藤先生から口説かれたりしてもちゃんと断われよ! いいな、絶対だぞ!?」
「星、お前は一体なんの話をしてるんだ? だいたい俺は、年上には興味ないから安心してくれ」
「年上には興味ない。そうなんだ。良かった・・・・・・」
一人、ポツリと聞き取れない声量で早川が呟いた。
「何か言ったか? 早川」
「えっ!? あっ……。いや、何も、何も言ってないよ!」
後ろの方でボソッと早川の声が聞こえた気がしたが気のせいだったようだ。
すると、矢部くんがニヤリと笑みを浮かべて星に向かって声をかける。
「それに、星くんはもう既に加藤先生に『六回』も交際を迫るほど口説いてるでやんす。ま、全部断られてるでやんすが」
「はッ!? ちょっと待てよ矢部!! テメェ!! 何を余計な事言ってんだッ!!」
「だって昨日、ランニングの途中で転んで手当してもらってる時に星くん言ってたじゃないでやんすか! 『先生、俺と二人で生徒と教師の禁断な恋をこの学校でしてみませんか』って、確かにオイラはこの両の耳で聞いたでやんすからね!」
「ば、バカ言ってるんじゃねェよ!! 俺的には加藤先生はナイスバディでどストライクなのは、まぁ……認めるが——。まだ、ここから攻めに行くための布石に過ぎねェンだよ! 断じて振られた訳じゃあねェェェェェェェェェェェ!!」
「あははは……。やっぱり狙ってるんだね」
早川は苦笑いを浮かべていた。
まったく、こいつの女好きには呆れるものだ。
一昨日、ミーティングを抜け出して、街に遊びに行った星は、確か他校の女子生徒に声をかけてナンパ決行を試みたものの、余りの緊張のせいか、テンパって挙動不審になり、挙げ句の果てには不審者その者の様に見られて、危うく警察に通報されかけてたみたいだが、こいつの性格上女好きは一生治らないんだろうな。
頼むから野球部や学校には迷惑かけるんじゃあねえぞ、と願わんばかりだ。
「っと、此処だな。着いたぜ」
なんて、呑気に話しているうちに保健室にたどり着き俺達はコンコン、と二回ほどノックを鳴らす。
しばらく経つと「どうぞ」と返事をする声がドアの向こう側から聞こえてドアを開ける。
ガラガラ。
「ようこそ、保健室へ。そこの癖毛頭のキミが小波球太くんね、初めまして」
そう言うとバッと白衣をはためかせ回転椅子をくるりと、こちらに向ける。
オレンジ色の髪色で癖毛なのか、あえてそういう風に整えてるのか分からないが、両頬にかかる毛先を色白く細い指で撫でながら、身から放つ大人の女性の色気を撒き散らすかのような挑発した上目づかいで俺を見つめる。
星が惚れるのも、なんとなくだが、解る気がした。
「はい、小波です。初めましてです」
「私がこの度あなた達の野球同好会の顧問を担当する事になった加藤理香よ。よろしくね」
ニコリとすると後ろに立つ星と矢部が元気良く「はい! 加藤先生! ご指導の方、よろしくお願いします!」と声を上げる。
すると、隣に居た早川はややキレ気味で「はぁ〜」と、重たいため息を付くのが聞こえた。
ご指導の意味はどう言った意味なのかは聞くまでもなかった。
「それで此処に何の用なのかしら? 見るところ怪我をしてると言う訳でも無さそうだけど。それとも何かしら? まさか、そこの金髪くんみたいに『しつこく』口説きにでも?」
「金髪くん!? ちょっと待ってくれよ、先生!! 俺の……いや、僕の名前は星雄——」
「あの!! ボク達、加藤先生が顧問を担当してくれると星くんと矢部くんから聞いたので、一応お礼と挨拶をと」
早川は、狙っていたのだろうか。
星が名前を言う前に、遮る形で口を開いた。
「あら? それでわざわざ挨拶に来てくれたの? どうもありがとう。折角だからコーヒーでも淹れるわよ? それとも紅茶の方がいいかしら?」
桃色に染まった唇をぷるんと、揺らして加藤先生が問う。
「いや、結構です。あの先生。一つ聞きたい事があるんですが、急に顧問を担当して下さった理由が俺に興味があると言う事を星から聞きまして、それは一体、どういう事ですか?」
すると、にこやかだった顔つきが一瞬変わった。
眉をしかめる様に恐い表情へと変わり、また元へと戻った。
「ええ、確かに。私は小波球太くん。あなたに興味があるわ」
「それは、どうしてですか?」
「職員室で、あなたの担任先生が大声で自慢していたのよ。あなたはあの『名門』の『あかつき大付属』中学出身で野球部の元エースだったって事をね。確か小波くん、あなたは全中の大会中に肘を壊したんじゃないかしら? あれは、確か二年前。中体連の準決勝の試合中だったかしら? 百四十キロのストレートを投げた瞬間、あなたはマウンドで膝をついたのは」
加藤先生が、机に置いてある湯気立つマグカップにへと手を伸ばす。
その言葉を聞いて、全身の血が加速して強い脈を打つのが聞こえた。今言った事は紛れも無い事実だ。
この先生は一体何者なんだ?
「知ってるんですか? 俺が故障をした時の様子を」
「ええ、二年前のあの日、あの試合を見ていたわ。当時の私は、医学界の知り合いの『ある博士』の助手を務めていたのよ。ちょうどあの時、全中に出ている『ある子』の視察をしにね」
医学界の『あの博士』?
『ある子』を観察?
この言葉が妙に引っかかるが、加藤先生は早く話題をかき消すかの様に言葉を続ける。
「安心しなさい。あなたには全く『関係の無い子』よ。まぁ、それはどうでもいいわね。肘を壊した次の日に、あなたは医者の診断を受けあかつきの野球部に退部届けを提出したわね? その日の事を覚えてる?」
「……、」
一瞬記憶を振り返った。
確か俺は診断を受けた次の日に、顧問に退部届けを提出した。色んな人に止められたりはしたけど、野球が出来なくなったというショックで心あらずだったことは思い出せる。
だが、その後のことは思い出せなかった。
その日の夜に確か両親と話をしたことは思い出せるのに……。
——、おかしい。
まるで記憶の一部分が欠けているかの様だ。
「いえ、思い出せないです」
「やっぱりね……」
加藤先生が呟き、手に持っていたマグカップを机に戻すと、はぁーとため息を付いて、髪をくしゃくしゃと掻き毟る。
「やっぱり?」
「あ、ごめんなさい。なんでもないわ。それより、あなたの中で何所か変わった所はないかしら?」
「変わったところ? いや、特に変わった所はないですね。ここ何日前から再びボールを投げ始めてはいるんですが、肘に違和感は消え位で何も異常はない感じです」
「そう」
と、不安げな顔が一転、安心した表情を見せる加藤先生だった。
「そういえばあなた達、練習はしてるの?」
「はい、一応。昨日から練習を始めてはいます。取り敢えず、今は決められた場所が無いので、ロードワークとか河原の空いてる場所や校庭の隅っこの所で軽くキャッチボールとかしている程度です」
それもそうだ。
確かに練習と言う練習は今のところ出来ていない。
部員がいないのも確かだが、練習場所が無いので出来ることは限られてしまう。
「それならソフトボール部の練習場を貸してもらえる様にソフト部の顧問に掛け合ってみるわ。ソフトボール部はグラウンドを二つ持ってるみたいだけど、今は一つしか使ってないみたいなのよね。あなた達はソフトボール部のキャプテンに掛け合ってくれる? 確か同じ一年生がキャプテンを務めてるらしいから話しやすいでしょ?」
「ソフトボール部のキャプテン……」
後方、早川が呟いた。
「ん? どうかしたのか? 早川」
「えっ……? ううん、別になんでもないよ」
早川は顔を横に振る。
「……」
本人は何ともないと言っているが、俺は少し気振舞ってる様にも見えた。
早川に何か声を掛けてやるべきだろうか。
少し間を置いて声を掛けようとしたが——、
「よっしゃァァァァァァァーッ!! 矢部ェ! こうなったら早速、ソフトボール部のキャプテンと話を着けに行こうぜェ!!」
「OK、でやんす!!」
矢部くんと星が勢いよく保健室から出て行った。
ドタドタと廊下を走る音が次第にフェードアウトして行く。
「もう!! 随分と勝手なんだから!!」
呆れと怒りが混ざった早川も二人の後を追う様にドアへ向かって歩き出していた。
だが、まだ立ったままで動こうとしなかった俺を早川が「どうしたの?」と声をかける。
「先生、俺はまだ『答え』を聞いてない様な気がするんです」
「答え? それは、どういう事かしら?」
「どう聞いても、俺がただあかつきのエースだったからって理由が顧問を受け持つ決め手だとは思えないんです」
「……中々、感が鋭いのね。それもそうね。でも小波くんあなたがあかつきのエースだったのも『一つの決め手』よ? 後もう一つ、これは後々いう事にするわ」
「後々……」
どうやらはぐらかされてしまった、みたいだ。
加藤先生は両目に綺麗にアイシャドーがかかる大きな瞳で俺を見つめる。そして、片目を閉じてウィンクをしてみせた。
「はいはい、もうこの話は終わりよ? ほらほら、さっさと練習戻りなさい。折角の貴重な練習時間が無駄になってしまうわよ」
俺たちを邪魔者扱いするかのように手をバッバッと、箒の様に動かして教室から追い出された。
「……」
「小波くん。キミ、大丈夫?」
「ん? 何がだよ」
「えっと……。さっきの加藤先生との会話を聞いて思ったんだけど、もしかして小波くん、キミって『記憶喪失』なの?」
「記憶喪失? ああ、さっきの話の事か。別に対したことじゃ無いだろう? ニ年も前の事なんだし、忘れる事くらいあるさ。ただのド忘れかもしれないし気にした所でどうとかなる訳じゃない、いつかふとした時に思い出すはずだろ」
保健室から離れて早川が心配そうに尋ねてきた。
そして今から俺たちは、矢部くんが向かったであろうソフトボール部の練習場へと足を向けて居た。
ちらっと早川を見てみるが、一歩、一歩進むたびに、その顔には覇気が無いと感じ、どこか嫌そうにも見えた。
「なぁ、早川。お前はどうして野球同好会を選んだんだ? 恋恋高校ならソフトボール部でも良かったんじゃないのか?」
「……。キミは随分と変なことを聞くんだね。ボクはね、ソフトボールより野球が好きだからに決まってるでしょ? なんて言ったって小学生の頃にボクはリトルリーグの『おてんばピンキーず』に入ってたんだからね!!」
「おてんばピンキーズ??」
早川の言葉を聞き、ピクッと身が反応した。
懐かしい、と言う感想が一番しっくり来る。
俺もリトルリーグに入っていた時、何試合か練習試合をした事があるのを覚えていた。とても刺激的であり、楽しかった。
「当時の『おてんばピンキーズ』のチームメイトの殆どが、『ボク達』が男の子の中に混ざって野球をしている事に対して良いとは思ってる人はいなかったよ」
「……」
チラッと横目で早川が話す表情を見ていた。
今にも思い出したくないと、早川本人が言わなくてもそれが俺にでも分かってしまう位、悲しく、寂しく、辛そうな表情をしていた。
それでも、早川は話を続ける。
「でもね? ある試合であるチームと練習試合をした時にチームメイトから揶揄う声が飛び交ってる中、相手チームの投手の男の子がマウンドにボクが登るのを待っててくれてたの。その男の子が笑顔でボクにある言葉をかけてくれたんだ」
「……ッ!?」
待て。今の早川の話を聞き、俺は思わず足を止めた。
身に覚えがある光景。
遠い昔の記憶が一瞬、脳裏に鮮明に流れ込んできた。
あの日、あの時、あの試合、あのチーム。
「……ッ!!」
そうだ、思い出した。あれは早川だったんだ。
先日、栗原と話をしていた時、『昔どこかで見覚えがある』と思っていた人物は、今こうして目の前に居る早川であり、早川にマウンドで声をかけた人物は……俺になる訳だ。
そして、その時、早川に言った言葉はあやふやだが覚えてる。
確か、『周りの目なんて関係ねえ、楽しくやろうぜ』とか、そんな感じだっただろうか?
「それでね? その男の子がボクに向かって何て言ったと思う? 『周りの目なんて関係ねえ、楽しくやろうぜ』って言うんだよ? ふふ、なんだか可笑しくて笑っちゃうよね。だって、どう考えても小学生が言う様な言葉じゃないんだもん」
「……」
クスッと昔の出来事に思い出して笑みを浮かべる早川。
それに対して、
俺は少し恥ずかしくなっていた。顔の周りが妙に熱を帯びているのはきっと、今の俺の顔は赤くなっているのだろう。
「嬉しかったな……。その男の子のリトルチームにもマネージャーさんだったのかな? 女の子が居たんだけど、皆が皆、仲が良さそうで羨ましかったんだ」
「……」
栗原の事か。
「それで男の子から勇気を貰って、中学生になっても周りの目なんか気にしないで楽しくボクの好きな野球をやろうと思って野球部に入部したんだけど、結局ボクは中学で『三年間一度もマウンドに登ること無く』ベンチにただ座って、周りから『色眼鏡』で見られて辛い思いをしたんだ。だから……」
「そんな思いを二度としたく無いから、早川は野球部のないこの恋恋高校に入学した、って訳か」
「うん。でも、ちょうどそこに野球部を作るって言うキミたちがいるんだもん。最初は避けようとも思ったんだ。……きっと、また同じ目に遭うのかもって、被害妄想しちゃって。でも、実際、声掛けて良かったと思ってる。今、こうして此処にキミたちと一緒に野球部を作ろうとしているのは、ボクが心から望んでいたのかもしれない。だからアンダースローなんか見せつけた。未だボクの中で野球への愛情や熱意は、まだ胸の奥に残ってて消えてなかった……ううん、消せなかったのかも」
「そうか」
——俺も同じだ。
早川とは理由は違えど、俺も一度野球から離れた身だ。
肘を壊して、挫折し、勝手に終わった気持ちになっていただけで、でもやっぱり野球がどうしようも無く好きで、だからこうして再び野球を始めようとしている。
でも早川の野球を離れた理由は、俺の個人的理由とは違う。
仲間からの拒絶、見世物にされたショックからだろう。
——そんな思いは絶対にさせたくない。
俺は早川に昔の様な辛い思いを絶対にさせたくないと強く思った。
「それに、小波くん。『キミ』だからどことなく安心出来るしね」
と、早川あおいは小波の顔を見て囁いた。
小波には聞こえない、とても小さな声で。
「ん? 何か言ったか?」
「何も言ってないよ!!」
ニカッ、と笑う。
ㅤまるで悪戯っ子の様に早川あおいは笑みを浮かべる。
「早く行こう!!」
少し照れて赤く染まる頬を見せぬように早川は廊下を駆け足で走っていく、小波は首を傾け不思議そうに眺めて早川の後をゆっくりと歩いて行く。
ザワザワ。
ザワザワ。
グラウンドに出ると、何やら人だかりが出来ていた。
きっと星たちとソフトボール部が揉めていて、女にモテたい二人組が無駄に格好つけて反感を買ってるのだろうと、安易に思いつく。
「だ・か・らッ!! 何回も言わせんじゃねェよ!! 俺たちは絶対に甲子園に行くって言ってんだよ! だからグラウンドを貸せ!」
「そうでやんす!! オイラ達は近い将来、恋恋高校のヒーローになるでやんす!! だから首を縦に振って欲しいでやんす!!」
耳を塞ぎたくなるほどの大きな声。
もう校庭に居る視線がそこに釘付けだ。
星と矢部の張り上げる馬鹿高い声は、ソフトボール部の第一球場から離れた下駄箱まで響いて聞こえてくる。
最早、お願いと言うより煽りに近い。
まったくの逆効果なのでは無いだろうか。
「不良金髪気取りと腐れオタクメガネはグラウンドから出て行け!」
ソフトボールの部員のに一人が叫ぶ。
その声を筆頭に徐々に連なって「出て行け! 出て行け!」とコールアンドレスポンスが響く。
どうやら二人ともソフトボール部の部員達に相手にされてないみたいだけど、このままだと状況的に悪化して野球同好会の肩身が狭くなってしまう。
小波は駆け足で星達の方へと向かう。
すると、一人の女子生徒が大声を張り上げた。
「うっさいわよ!! あなた達、練習サボる暇があるんだったら、さっさと練習しなさい!! さもないとメニューを倍にするわよ!!」
「ヤバッ! キャプテンだわ!」
声の主は、ボーイッシュ風の赤髪。白い鉢巻を巻いて眉毛をキリッと上げ、腕を組みながらソフトボール部の部室から出てくるのは、クラスの噂になる程既に話題に上がっている、一年生ながらにしてソフトボールのエースと四番、そして、キャプテンを努めている高木幸子だった。
「幸子……」
「……?」
早川が小さく名前を呟く、またしても悲しい表情を浮かべていた。
「そこの男子生徒、練習の邪魔するなら出て行って貰えないかしら」
「邪魔なんかしてねェよ!! 俺たちは話し合いに来たんだよ!!」
星は、高木を睨みつけながら言う。
星に負けじと、高木も睨み返す。
「話し合い? それで、用件はなんなの?」
「俺たちは野球部のモンなんだがよォ? テメェらソフトボール部のグラウンドを一つ貸しては貰えねェか?」
「——ッ!? 今、なんて……?」
高木は、顔を顰めて聞き返す。
「俺たち野球部にグラウンドを一つ貸してくれって言ってんだよ!!」
「はぁ? 野球部? この学校に野球部なんて醜悪な部活動は存在しないはずよ?」
「星くん、まだ同好会でやんす」
「……。確かに未だ部には認められてない同好会けど、その内認めさせてなるんだよッ!!」
「それで? 見たところあんた達二人だけの様子だけど? 随分と覇気の無い野球同好会みたいね。いつから野球は、『オタク』と『不良気取り』がやるスポーツになったのかしら? まあ、野球を好きな男には
高木幸子は馬鹿にしてる様に、クスッと鼻で笑う。
「俺たちだけじゃねェよ!! 俺たちには元あかつき大附属のエースの小波球太と、恋恋高校の期待の超新星の早川あおいが居るんだぜッ!!」
漸く辿り着いた小波と早川に向けて星がバッと指を指した。
その先に視線を向けると、高木幸子は目を見開いた。
「あおい……。やっぱり、アンタは是が非でも『野球』の方を取るって言う訳ね。いいわ! グラウンドの許可を出して上げようじゃないの」
「うぉぉぉーーッ、マジかよッ!! サンキュー! 幸子ちゃん!!」
「余り良い気に成らないでもらえるかしら? ただし、条件付きよ!!」
「条件付きだァ? そりゃ一体、なんだってんだ?」
「あそこに居る期待の超新星とやらの早川あおいと一打席勝負よ。一打席勝負に私が負けたらもう一つのグラウンドをアンタ達に譲ってあげるわ」
「へへ!! 別に良いけどよ、もしお前が勝ったらどうなるんだ?」
ヘラヘラしながら星が問う。
「勿論、グラウンドは貸さない。同好会なんて馬鹿なお遊び会なんて解散してもらうわ」
「なっ! 解散だァ!?」
「そ、それは……大変でやんす!! 解散になったらオイラたちの『モテモテライフ』の目論見が水の泡と化すって言うことでやんすよ!! それだけは、どうしても避けたいでやん——」
「上等だ!!」
矢部の声を遮って、小波が高木幸子の出した条件を呑む。
「えっ! で、でも小波くん。ボク……」
自信がない弱々しい態度を見せて困惑している早川の背中を小波は軽く叩いて、笑っていた。
「勝負に乗ってやろうぜ、早川。さっき言ってただろ。お前はソフトボールよりも野球の方が好きなんだって、さ」
「う、うん。でも……負けたらこの同好会は解散なんだよ?」
「負けた時は、負けた時だ。なに落ち込んだ顔してんだ? 楽しく行こうぜ!!」
小波の言葉に、リトルリーグ時代に聞いた台詞が重なる。
心の緊張が解けたのか、早川の表情の固さは無くなっていた。
「……楽しく行こう、か。そうだよね、此処で逃げちゃダメに決まってるよね」
笑顔を取り戻した早川はジャージの上着を脱ぎ小波に渡す。
高木幸子と面を向かって、早川あおいは高々に宣言をした。
「幸子、ボクと勝負だよ!! ボクが勝ってグラウンドの許可を許してもらうよ!!」
「良いわよ、来なさい!! あおいに負けるほど、私は落ちぶれちゃいないわ!!」
野球同好会のグラウンドを掛けて、
早川あおいと高木幸子の二人は熱い火花を散らした。