実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第41話 一回戦 VS極亜久高校

ㅤ六月。

ㅤ息を呑み静まり返った夏の甲子園予選大会の抽選会場。

 俺はそこにいた。

ㅤ各高校の監督、マネージャー、主将が訪れている為、見慣れた人物も多い。

ㅤなんせ今日は高校球児に取って大事な日だ。

 夏の予選大会が決まるのだから……。

 

ㅤだが、そんな見慣れた顔ぶれが多い中、気になったのは聖ジャスミン高校の主将であるリーアム楠とマネージャーの姿が全く見当たらなかった事だ。

ㅤたまたま近くにいた春海に話を聞いた事によりその事実が解った。

ㅤ春の大会のあの試合後、左肩に痛みを訴えた太刀川は病院に行き、練習の極度のオーバーワークによる"インピジンメント症候群"と診断され投手として、今後の野球人生の痛手となる爆弾を抱えていてしまったとの事だった。

 今後の太刀川の野球人生を見据えてリーアム楠と八宝乙女が判断し本人と聖ジャスミン高校メンバーを説得し、聖ジャスミン高校は無念の出場辞退を申し出たとの事らしい。

 

 

 

 

『Aブロック、五番、ときめき青春高校』

 

ㅤハッと我に返り、既に始まっていた予選大会の抽選。

ㅤ丁度今、ときめき青春高校の主将を務める青葉春人が引いたのはAブロックで、一回戦は同じくAブロックの四番の赤とんぼ高校と激突する様だ。

ㅤ因みに俺たち恋恋高校はCブロックの七番を引いた為、一回戦の対戦相手はCの八番を引いたチームと戦う事になる。

ㅤ春の覇者であるあかつき大附属はAブロック、そよ風高校はBブロックのシードを勝ち取っていてCブロックは古豪パワフル高校、Dブロックは太郎丸と名島のいる山の宮高校だ。

ㅤ勝ち進めば準々決勝ではパワフル高校、準決勝で山の宮高校と戦う事になるだらう。

ㅤそして、決勝戦は必ず彼奴が勝ち上がってくるだろう。

ㅤ——猪狩守。

 いや、あかつき大附属が待ち伏せていると言う事になる。

ㅤこれで漸く猪狩との戦いが出来るって訳だ。

ㅤ随分、寄り道してて時間が掛かっちまって申し訳ねぇ気持ちがあるが、今の気持ちを率直に伝えるならと「楽しみで仕方がねえ」かな?

ㅤ首を長くして待ってろよ、猪狩。

 

ㅤ——ザワザワ。ザワザワ。

 

ㅤどよめいた抽選会場。

ㅤどうやら俺たちの一回戦目の相手が決まったみたいだ。

 

『Bブロック、八番——』

 

「——ッ!?」

「あ・・・・・・あの方は!」

ㅤ七瀬が目を見開いて呟いた。

ㅤそう、俺たちはそいつを知っている。

ㅤそいつは、不敵にも笑みを浮かべていた。

ㅤその手で引いた番号を明らかに、俺に向けて突き出している。

ㅤ身に纏う雰囲気はドス黒く、黒くて長い髪から覗かせる冷たい漆黒の瞳にギザギザに尖った不気味な歯、初めて会った二年前と同じで忘れもしない。

ㅤ星と矢部くんのかつての仲間である。

 

『——極亜久高校!!』

 

ㅤ極亜久高校の悪道浩平だった。

 

 

 

———

——

—。

 

 

 

「一回戦の相手は……極亜久高校だ」

「「——ッ!?」」

 

ㅤ抽選会が終わり、そのままの脚で恋恋高校へと戻った俺と加藤先生と七瀬はすぐ様、全員に部室に呼び出して伝えた。

 

「再び、悪道浩平くんと戦うんでやんすね」

「オイオイオイオイッ!!ㅤいきなり浩平とぶつかるってのかァ?ㅤなンだよッ!!! 最高にクジ運がいいじゃあねェか!ㅤ流石はキャプテン!」

「・・・・・・何だか、お前がキャプテンとか呼ぶとメチャクチャ気持ち悪いな」

「ウッセェッ!! やかましいわッ!!!」

 

ㅤ文字通り上機嫌と言った所だろう。

ㅤ常に顰めっ面の不機嫌な星がこんなにもニヤニヤと喜びを十分に表現した顔付きをしているのを見るのは初めてじゃないのか、という程余りにも馴れ馴れしくこうして呑気に肩に手を掛けてくる星に八割程、ウンザリした目で見つめ掛ける手を振り払った。

ㅤそして、トーナメントの一覧表を加藤先生に人数分コピーしてもらい皆に配った。

 

「一回戦は極亜久高校。二回戦はバス停前高校と球八高校の勝者。三回戦はきらめき高校が勝ち上がるとしても……、何処も力のある学校ばかりでやんすね・・・・・・」

「ンだよ!! 最悪なクジ運ねえじゃねェか!ㅤ見損なったぜ、この馬鹿野郎ッ!」

 

ㅤバシッ!

ㅤ何故だか知らないが肩を叩かれる。

ㅤそして今の言葉、さっきの言葉の反対語で台詞を吐いた。

ㅤどうやら星の中では『キャプン』の反対語は『馬鹿野郎』らしい。

 

「かなり厳しい戦いになりそうだね……」

ㅤ一覧表を眺めながら早川が呟くと、全員が黙ったまま頷いた。

ㅤ確かに……早川の幼馴染がいる矢中智紀率いる球八高校も春海達のきらめき高校はここ何度かの大会ではかなり力を付けて勝ち進んでいる印象が強い。

ㅤオマケに古豪パワフル高校も最近じゃ麻生と戸井の投打コンビが起爆剤となり今では"強豪復活か?"と言わしめるほどの実力を認められているほどだ。

 

「ここで嘆いていても仕方がねえ。よし!ㅤ早速、練習に取り掛かろう!」

「よっしゃー!ㅤそれじゃまず、俺様の華麗なノックから始めるとするぜッ!」

「えーー。星くんのノックなんてほぼ意味ないでやんす!」

「うるせェな!ㅤ黙ってノックを受けやがれ、クソメガネ!ㅤこの前の聖ジャスミン高校の試合であのノックが役に立っただろうが!」

「え〜あれはたまたまでやんす! 星くんのノックなんて役に立ってないでやんすよ!」

「テメェ・・・・・・」

 

ㅤあちゃー。

ㅤいつも通り二人のあーだこーだが始まってしまった。

ㅤまあ、このやり取りをしてるのなら二人はまだ一安心だろう。特に星に見られる落ち込んだ時、練習のやる気がトコトンなくなってしまうほど、メンタル面ではかなり弱い部分もあるからある程度は余裕がありそうだ。

 

「おっと、こんな所で油売ってる暇なんてねェぜ!ㅤいいか、テメェら!ㅤさっさと表にでやがれ!!ㅤ沢山しごいてやらぁ!」

「あー。ちょっと待った、星」

「あん?」

「お前は早川とピッチング練習。早田と椎名もブルペンで投げ込みをして欲しいんだ。まあ、ある程度投げたらバッテリーを交代して、そのまま続けてくれ。他は守備練習から始めるぞ、ノックは俺がする!」

「チッ!ㅤ解った。仕方ねえな……」

「わーい、わーい!ㅤやったでやんす!ㅤ小波くんのノックならどっかの誰かさんと違って的確で安心でやんすからね!」

「なんだと、テメェーー!!ㅤ試合は的確には打球は来ねェんだぞっ!!」

「ノックでホームラン打って自己満足してる星くんなんかよりは数十倍もマシでやんす!」

「言わせておけば・・・・・・テメェ、ふざけんなよ!ㅤ今、そのヘンテコな瓶底メガネカチ割ってやンぞ!」

「っもう!! 二人ともうるさい!!」

ㅤボカボカッ!!ㅤ鈍い音が聞こえると、二人は一瞬にして黙り込んだ。

ㅤそりゃあそうだ。久しぶりに早川のゲンコツを直々に食らったんだから、それは痛い筈だ。

ㅤ取り敢えず、多少の不安はあるが何とか大丈夫そうだろう。

「星くん!ㅤいつまでそこで倒れてるの?ㅤ早くブルペンに行くよ!」

ㅤそう言い残し、早田と椎名を引き連れて勢い良く部室を飛び出していく早川の背中を未だに焦点が合わない眼で眺めながら溜息を漏らす。

「何だ?ㅤ早川の奴、元気ありすぎじゃね?」

ㅤ星がゆっくりと腰を上げ、キャッチャー防具が入ったバッグを取り出して部室を後にしようとした。

「あ、星!ㅤ言い忘れた事があった」

「あん?ㅤなんだ?ㅤ馬鹿野郎」

ㅤ……まだ、馬鹿野郎呼ばわりされるのか?

「今の早川の"高速シンカー"は今までよりも"一味違う"ぜ?」

「一味違う?ㅤ何のことだ?」

「オイラも気になるでやんす!」

「それはお楽しみだ」

 

ㅤ不安はある……。

ㅤけど不安だけじゃない。

ㅤ希望はキチンと確かにある事だ。

ㅤあとはやる事をやり、挑むだけ。

ㅤそう……。後はやるだけなんだ。

 

 

 

 

ㅤ蝉の鳴き声が鳴り響き、燦燦と照りつける日差しがチリチリと肌を焦がす。

ㅤようやくテレビで梅雨明けを公表し本格的な熱さを感じる七月に入り、俺たちの最後の戦いである夏の甲子園大会が幕を開けた。

ㅤ対極亜久高校との戦いは、丁度二年前。矢部くんの一件で練習試合を組んだ時以来になる。

どこまで喰らい付いて行けるか、どの程度引き離せるか相手の力もまだ未知数だ。

ㅤそして、悪道浩平の織り成すオリジナルの変化球である"ドライブ・ドロップ"を如何に早く見極められるかが勝負の鍵になるだろう。

ㅤチラリ、とバックスクリーンの時計へ目を移す。

ㅤ時刻は十一時二十七分を廻っていた。

ㅤ試合まで残り三分。そろそろ始まるな。

 

「よし!ㅤ皆、集合!ㅤスターティングメンバーの発表だ」

ㅤ俺の掛け声と共に全員が一斉に集まる。

ㅤ円陣を組み俺は真ん中に立ち見渡す。

ㅤ皆、気合い充分だ。

 

「夏の大会初戦だ!ㅤ取り敢えず気を楽にして俺たちの野球を楽しんでやるぞ!」

「「おうっ!!」」

「一番ㅤセンターㅤ矢部くん!」ㅤ

「"スピードスターの矢部"の力を見せるでやんす!」

 

「二番ㅤショートㅤ赤坂」

「矢部先輩の盗塁の援護は任せろっス!」

 

「三番ㅤキャッチャーㅤ星」

「浩平の野郎をぶッ潰す!!ㅤただ、それだけだ」

 

「五番ㅤレフトㅤ山吹」

「おっしゃ!ㅤ行くぞぉ!」

 

「六番ㅤセカンドㅤ海野」

「いつも以上に暴れて行こう!」

 

「七番ㅤライトㅤ御影」

「存在感を見せつけてやってやるッスよ!」

 

「八番ㅤサードㅤ毛利」

「春の俺とは一味違うところを見せてやる」

 

「九番ㅤピッチャーㅤ早川」

「遂に始まるんだね。ボク達の最後の夏が」

「ああ、楽しみで仕方ねえ!」

「奇遇だね。ボクも楽しみだよ」

ㅤニヤリと笑みを交わし、ベンチに出る。

ㅤ夏の暑い日差しがグラウンドを照らす。

 

「両チーム、整列っ!!」

ㅤ球審の掛け声と共に俺たちはホームベース前と駆け出した。

ㅤ今目の前に立ち並ぶ極亜久高校悪、そして道浩平は此方を凝視して笑っていた。

 

「オイオイ・・・・・・なンだなンだ?ㅤ揃いに揃ってどいつもこいつもやる気に満ち溢れたって顔してやがるぞ?ㅤ恋恋高校の皆様は、随分とお利口さんだよな?ㅤおい」

「ケケケッ!」

「偉い偉い!ㅤマジお利口さんッス!」

ㅤ悪道が大声で笑いだすと悪道の取り巻き達が一斉にして揶揄い始めた。

「いいか?ㅤ其処に居る眼鏡は、この俺の一番目の子分だからオメェら優しく接しろよ?」

「確かアレですよね?ㅤ赤とんぼ中学でかなりの有名人だった、パシリの矢部先輩ッスよね?」

「あははははッ!!!」

「顔からしてそうだろ!」

 

 

「………ッ!?」

ㅤ相変わらず、卑劣な野郎だ。

ㅤ今にもその大口開けて余裕を見せている憎たらしい顔をぶん殴りたいと言う気持ちを押し殺し、ギュッと握りこぶしを作った。

 

「君、私語を慎みたまえ!」

ㅤ塁審の方が注意を促すと、悪道は大きな舌打ちを鳴らして黙り込み、此方を睨みつける。

ㅤこの試合「何も無く」終わる事は決して無いぞと言わんばかりに圧力を掛ける酷く冷徹な目をしていた。

 

「礼ッ!」

「「お願いします!!」」

 

ㅤ今から試合が始めると言わんながりの合図が空に向かい、響き渡るサイレンが鳴る。

ㅤ先攻は俺たち恋恋高校からだ。

ㅤマウンドに立ちボールを投げ込む悪道。

ㅤズバンっと球威を見せつけるかの様に轟くストレートは二年前に対戦した時よりも一回りスピードもノビも威力を増しているようだ。

 

「一番ㅤセンターㅤ矢部くん」

ㅤ気合いの入った咆哮を上げ、右のバッターボックスへと向かって行く。

ㅤ初球。放り抜いたストレートがズバァンと乾いた音を鳴り響かせる。

ㅤ球速百四十八キロ。インコース高めにズバリと決まった。

ㅤ二球目は大きくアウトコース低めへと落ちるフォークボールをスイングするが空振りしツーストライクとなる。

ㅤストレートにフォーク、以前戦った時と同じ攻め方だ。簡単に追い込むことが出来たのなら恐らく次に来るのは……。

"ドライブ・ドロップ"

 

ㅤ悪道は振りかぶり豪快なオーバースローから三球目を投じる。矢部くんの頭へと目掛けて投げられたボールは緩やかに向かって行く。

ㅤククッと急激に落ちて行くボールを矢部くんは仰け反ることなく、思いっきりバットをスイングするが……。

ㅤズバァン!!ㅤ快音響かず空振り。

ㅤ以前より変化球にキレが昇華して居ることに驚いたが、それ以上に驚いたのは、キャッチャーの犀川が捕球したのはアウトコース低めギリギリストライクゾーンだった。

ㅤ以前は顔から落としいた"ドライブ・ドロップ"だったが、今のは頭から落とした。

ㅤ落差が桁違いに大きくなっている。

 

「ストライクーーッ!ㅤバッターアウトッ!」

「はははッ!!!ㅤざまぁねェな!ㅤテメェの様な雑魚に、用はねェンだよッ!! さっさと失せやがれ!!!」

 

ㅤ悪道は大きい声で笑う。

 いちいち喚かないと気が済まない様だ。

ㅤ嘲笑う悪道の事など気にもせず矢部くんがベンチへと引き下がり続く二番打者、赤坂が打席に立つ。

ㅤ球速のあるストレートから緩めのシンカーでタイミングを僅かにズラし簡単に追い込む。

ㅤどうやら切り札以外の球種も磨きがかかって居るらしく、そう簡単に手出しは出来ないようだ。

ㅤ極め付けに三球目は、やはり進化を遂げた悪道浩平の"ドライブ・ドロップ"の前では、バットに掠る事すらままならず空振りの三振に仕留められてしまった。

 

『三番ㅤキャッチャーㅤ星くん』

「オラァーーッ!ㅤ来やがれッ!!!ㅤ浩平ッ!!! テメェの甘ったれたカーブ、この俺が打ち砕いてやるぜ!」

「チッ・・・・・・黙れ、雑魚が!ㅤ好き勝手にほざきやがれ、その余裕面を今からぶっ潰してやるぜッ!!!」

 

 

 

ㅤ俺たちの視線はバチバチと火花が散らす様に睨みつけ合う。

ㅤ相変わらず浩平の野郎は気に食わねえ。

ㅤ確かに前とは違う雰囲気は感じられるのは認めてやるぜ。

ㅤだがよぉ、目の前にしてああも矢部の事、仲間を貶されると普段口の悪い俺が言うのもアレだがかなりムカッ腹が立つぜ。

ㅤ ギュッとグリップを握りしめる。

「浩平の球はこの俺が絶対に打ってやる」

「ふっ、それは無理だな」

ㅤふと漏らした声に反応したのか後ろからポツリと呟く声が聞こえ俺は、僅かに視線を下に向ける。

ㅤそうだ。そうだった。

ㅤそう言えばテメェも此処に居たんだったな。

ㅤやはりテメェも立ちはだかる気か……。

ㅤ"ささやき戦術"の使い手、犀川。

ㅤここでテメェが俺にこうして話を掛けて来たって事は、前と同じく揺さぶりに来た訳だ。前回はまんまと術中に嵌り随分と振り回されちまったが今回はそうは行かねえぜ。

 

「そう警戒するな。俺たちはお前達に感謝してるんだ」

「…………」

 

ㅤ感謝、だと……?

ㅤ一球目、浩平が真ん中高めにフォークボールを落とした所をスイングしたがバックネットへと飛んで行った。

ㅤチッ……。

ㅤ今のはセンター前に叩き込むつもりだったがタイミングを合わせられなかった。

 

「一度、俺たちはお前達に負けた。それで浩平も俺もようやく目が覚めた。自分たちの実力じゃ勝てないと、な」

ㅤ二球目。ストレートギリギリ外れたボールを見送り、カウントはワンストライク・ワンボール。

ㅤ顔を何一つ動かす事なく浩平を見つめながら犀川が呟いた。

ㅤその言葉に、俺はゾクッと悍ましい何かを感じた。

 

「そして理解したのさ」

「何をだ?」

「フッ、それはシンプルな答えだったよ。勝てないのなら勝てば良い……そう・・・・・・勝てないのなら潰せば良い、とな」

「——なッ!?」

 

ㅤキィィン!!ㅤ力の無い金属音。

ㅤしまった。

ㅤ今の犀川の言葉に思わず気を取られちまった。

ㅤ打球は弱々しく打ち上がりファーストフライの凡打に打ち取られてしまう。

 

「クソッ!!ㅤやっぱり今のは俺の集中を削ぐための罠だったワケか!」

「さぁな、そいつはどうかな?」

「ぐっ……この野郎ォォ」

 

 

ㅤ無得点のまま恋恋高校の攻撃が終わり、一回の裏極亜久高校の攻撃へと変わる。

ㅤ一番打者は、ピッチャーの悪道浩平からだ。

 鋭い目つきが星の顔を捉える。

 

「息巻いていた割には、呆気なかったなァ? 星」

ㅤ嘲笑いながら右打席に立つ。

「チッ、五月蝿ェ野郎だ。たった今からリベンジしてやらァ!!」

 

ㅤ球審の「プレイ!」の合図を受け、早川が投球モーションへと移行し、アンダースローからストレートを放り投げた。

ㅤ——パァン。アウトローへ百十八キロの緩いカーブが星のミットに収まる。

「………?」

「ストライクーーッ!」

 

「ナイスボールだ!」

ㅤ星が早川へとボールを返球しながら言う。

ㅤ悪道はギラリと凍てつく様な瞳で星を強く睨みつけていた。

「なんだテメェ、何見てんだよ」

「キヒヒヒ・・・・・・少しはやる様になったじゃあねェか」

ㅤギリリ……と歯を食い縛る。

「お前のリードだから、てっきりインコースのストレートだと予想していたんだがな」

ㅤ星は黙ったまま腰を据える。

ㅤ態度が気に食わなかったのか、自分が立てた予想外なリードをされた事にイラついたのかは定かでは無いが、大きな舌打ちを一つ鳴らした後、ホームベースにバットの先端をコツンと叩いて次のボールを待った。

 

(インコース。高めのストレート)

 

ㅤㅤ二球目。

ㅤ悪道浩平の予想を又しても覆した。又してもアウトローへのカーブを投じ、手を出す事なくボールを見送った。勿論、ストライクだ。

「——何ッ!?」

ㅤ目を見開き、唖然とした顔をする。

ㅤカウントはツーストライク。

ㅤ早川がゆっくり振りかぶり足を踏み出した。

ㅤ身体を沈めて腕を振る。そのピッチング動作が悪道にはまるでコマ送りでもしたかのように見えた。

ㅤ三球目は早川の得意球である高速シンカーだった。

ㅤ右打席に立つ悪道から内側へと急激に曲がって落ちてくる様に見える高速シンカー。内角低めやや膝下の高さは、悪道の一番好きなところだ。

「雑魚如きが……舐めた真似してンじゃねェェェェェッ!!!」

ㅤ力一杯スイングした。

ㅤ打球音が響くと場内からは「ああ〜」と落胆した声が沸く。高々と打ち上がっていく打球を眺めて、悪道は舌打ちを鳴らしバットを地面に叩きつけた。

「クソッたれがッッ!!」

ㅤセンター矢部がグラブで捕球しワンナウトとなった。

 

 

 

「あちゃー。今のスイングは力み過ぎだろ」

ㅤ地方球場三塁側のスタンド席から、悪道が放ち大きく打ち上がったフライを眺めながら言葉を漏らした。

「さっきの試合で気合い入りすぎた上に四タコのお前が言うのには余り説得力が欠けるな。雄助」

「ツネ。それは本人の目の前で言っちゃダメなの言葉だろ……」

「あはははは!ㅤ悪いって、そう落ち込むな」

ㅤ高笑いを浮かべているのは球八高校の中野渡恒夫と、落胆した暗い顔立ちをしているのは同じく球八高校の塚口雄助だ。

ㅤ恋恋高校と極亜久高校が戦う一試合前、球八高校はバス停前高校と戦った。

ㅤ結果は八対〇で球八高校が二回戦へと勝ち進み、今は次の対戦相手を見定める為に球場に残っていた。

「なぁ、ツネ。お前は恋恋高校と極亜久高校のどっちが勝ち上がると思う?」

「どっちだろうと戦って勝つだけだろ?」

「でもさ、お前達的には恋恋高校が来て欲しいんじゃねえのか?ㅤ早川あおいとは同中だったんだろ?」

「同じ元チームメイトでも容赦はしない。きっと智紀に聞いてもそう答えるさ」

ㅤジッと視線をグラウンドへと向ける。

ㅤ丁度、二番打者の犀川がワンストライク・ツーボールのカウントから大きくライト方向へファールを打った所だった。

「ま、そうだな。でも俺は戦うなら断然、恋恋高校が良い!ㅤだってあの女マネージャー可愛いからな。・・・・・・それに極亜久高校と試合なんかゴメンだぜ。小さな事で、直ぐに乱闘騒ぎになりそうだ」

ㅤ想像しただけで悍ましい、と言わんばかりのジェスチャーをする塚口雄助。

「でも、もし乱闘騒ぎになったら、雄二が何とかしてくれるだろ?」

「だな!」

ㅤ二人は、声を上げて笑った。

 

「それはどうかな?」

「智紀・・・・・・」

「今の雄二はそんな事はもうしないと思うよ」

ㅤ二人の笑い声を制止させ、二人の横に座る。

ㅤ高校球児とは到底思えないほど小柄で、塚口と中野渡と同じ高校三年生とは思えない幼すぎる童顔の青年はそう答えた。

ㅤそう、その青年は球八高校のキャプテンを務める矢中智紀だった。

ㅤ先ほどの試合バス停前高校相手に九回完封勝利と好投を収めたエースだ。

「雄二。そうだろ?」

「ああ、そうだな」

ㅤ矢中の隣に座る百八十後半はある長身をしていて、一見不良青年にも見て捉えらるほど、隣に座る矢中とは正反対の顔立ちをしてる青年は球八高校三年生の四番打者・滝本雄二だ。

ㅤ犀川が三振に打ち取られツーアウトとなり、三番打者もサードゴロに仕留めらてチェンジとなった所で、滝本は静かに呟いた。

「恋恋高校と極亜久高校……俺はこの試合、少し嫌な雰囲気を感じる」

ㅤその視線は、マウンドへと歩いていく悪道を捉えていた。

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