実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第46話 滝本雄二

「ストライクーーッ!ㅤバッターアウトッ!」ㅤ

 

ㅤ球審の甲高い声が鳴り響くと同時に、球場全体が騒ついた。

ㅤ理由は明白だった。

ㅤたった今、矢中智紀から放り投げられたアンダースローのボールが一度ホップして、ボールが急激にストンと落下したフォークボールだったのを見て、ネット裏で観戦していたスカウト達の度肝を抜き、一瞬にして騒つかせた。

ㅤ観ている人にとってそれは、あまりにも衝撃な出来事だった。

ㅤ基本的に下から腕を振り抜くアンダースローの投手がフォークボールを投げるのは非常に困難な事とされていて、ほぼ投げる投手は居ないとされて居た。

ㅤその為、落とすボールはシンカー系やカーブが一番投げやすいと言われたりもする。

ㅤだが、たった今眼前で起こった事実は紛れもなく現実であり、矢中智紀がいきなりの注目を浴びたと言うことは言うまでも無かった。

ㅤそれよりも驚いたのは、バッターボックスに立って目の当たりにした小波だ。

ㅤ上昇しバットの真芯でヒットさせようと狙いを定めて振り下ろした途端、パッと消えるように落ちた球を今まで見た事は無く、その急激の落差を見てゾッと血の気が下がる思いをしていた。

 

ㅤ矢中智紀は、人一倍に手首の柔軟性があり指先を手首につけられる程の柔らかさを持ち合わせていた。

ㅤその為、アンダースローである低いリリースポイントまでフォークボールの握りが可能である事から身につけた渾身の一球だった。

 

「このタイミングで『フォール・バイ・アップ』が完成していて良かったよ」

ㅤベンチに戻ると、神島からフェイスタオルを「ありがとう」と笑顔で受け取ると滝本の側へと近寄り、雨と汗で濡れた艶やかな髪を拭きながら安堵の表情を浮かべて矢中が口を開いた。

「まだ未完成だったら棒球だった。それに相手は油断も隙も無い小波くんにスタンドまで持っていかれていただろうからね」

「フッ、今のお前の投げる『フォール・バイ・アップ』の完成度は百パーセントだ。次の打席も来ると分かっていても打たれる球じゃない」

「そうか・・・・・・。それなら問題はないよ」

ㅤキャッチー防具を外し、滝本が矢中に向けて不適な笑み浮かべ滝本は口を開いた。

 その声は、矢中にもベンチにいる誰にも聞こえない、小さな声だった。

「しかし・・・・・・。智紀、お前はいつ見ても驚かされる。あの頃もそして、今も……きっとこの先も……」

ㅤその瞳は、遠く何かを見つめているように見えた。

 

 

 

ㅤ滝本雄二の生まれは決して恵まれていない環境で育った訳では無かった。

ㅤ父と母、そして、年が二つ離れた兄の晃一の四人の家族構成である。

ㅤだが、父は大手企業の重役を担い、母は勉学では日本一と言われ、その将来はエリートコースが確約される官僚大学を首席で卒業し、兄は現在は栄光学院大学の四年生で、一年生の頃からレギュラーを獲得し、ミート力の高さから二年連続首位打者を獲得するなど、プロからの注目を既に浴びている。

ㅤその生まれから幼い頃から雄二は両親から過度な期待を受けて育てられていたが、雄二にとってそれは大きなプレッシャーでもあり、歳を重ねる毎に次第に鬱陶しくなっていた。

 

『雄二ッ!! どうしてお前は、こんなにも簡単な事を言っているのに何故出来ない』

 

『雄二。貴方は、私たちの血を引き継いでるのよ?ㅤ滝本家として貴方に期待をしているのは当然の事なのよ?』

 

ㅤその時の雄二は只々『はい』と言う気の無い返事を返すだけだった。

ㅤ正直、世間体を気にしている両親の期待に応え様なんてどうでも良かったと思えば思うほど、滝本雄二は自身の存在価値を見失い始めていた。

ㅤ自分とは何だ?

ㅤ自分は何のために生きている?

 意味の無い自問自答。

ㅤ幼い頃から既に人生の迷子となり、両親のプレッシャーに押し潰される日常に楽しみなど何一つ見出せないまま、惰性の日々を過ごしていた。

ㅤそんなある日の事だった。勉学の息抜きとして兄である晃一は野球を始めた。

 毎日、泥だらけで帰って来ては満面の笑みを浮かべて帰って来る兄を見て、羨ましいという気持ちが芽生えた。兄が話す野球の楽しさ練習の辛さ、聞くもの全てが雄二にとって新鮮そのものであり、生き生きと語る姿と、晃一の楽しそうな姿を暖かな目をして真剣に聞く両親の姿を見て、自分も野球をしたいと思い、影響を受ける形で野球を始めた。

 野球を始める事に、両親は直ぐに賛同してくれた。

 

 

ㅤ野球を始めたと同時に楽しみなど何一つ無いと感じていた雄二の退屈な日々は終わりを告げた。

ㅤ野球をやっている時だけは幸せだと感じていたのだ。家に帰れば深夜まで分厚い参考書と睨めっこすると分かっていても、野球が出来るのなら苦痛とは感じず、我慢出来た。

ㅤそして・・・・・・十二歳を迎えた誕生日。

ㅤ両親から野球道具の一式のプレゼントしてくれたのだ。今までは難しい外国語の辞典や参考書ばかりだったのに、今年のプレゼントを見ては、目を丸くしてただただ驚いた挙句、言葉なんて一言も出なかった。

ㅤこれは兄に聞いた話で、野球を始めてからの自分は幸いにも成績も徐々に上がっていたのを知り『雄二なりに頑張ってるんだな』と母と話し合ってこのプレゼントを選んでくれたようだった。

ㅤ子供心ながらも人生で初めて父から認められた様な気がして、嬉しくて涙が溢れると同時に野球に出会えた幸せを改めて噛み締めた。

 

 

ㅤしかし、その幸せは余りにも短すぎた。

 

 

 

ㅤ事件はそれから一年が過ぎ、雄二が中学一年になった秋に訪れる。

ㅤ雄二の通う中学校は普段から先輩たちが後輩に対して威張ったり怒鳴り散らしたり、脅したりするのが当たり前だった。

ㅤ何度も何度も同級生が被害に遭い退部していく友達を見て、我慢の限界を超えた雄二は、何度も何度も監督に相談を試みたりもした。

 だが・・・・・・。

『上級生も上級生で色々悩みを抱えてるんだ。私の方で何とかしおく。滝本、すまないが、今はとにかく我慢してくれ……』

『でも先生、幾ら何でも度が過ぎます!』

『滝本ッ!! いいか? 何度も同じことを言わせないでくれッ!』

ㅤと、一貫して真面に話なんて聞いてはくれなかった。

 雄二は只々、友達を救いたかった。

 こんな野球はやりたくなかったから正しい在り方を見出そうとしただけだったのだ。

『チッ・・・・・・。ったく、面倒くせェな』

ㅤ職員室を後にしようとドアを閉めようとした時だ。監督がポツリと言葉を零して舌打ちを鳴らしたを聞き逃さなかった。

 

 

ㅤそして——。

 

 

ㅤ秋に行われる大会である新人戦に雄二は一年生の中で唯一のレギュラーの背番号「2」を貰い、打順は四番バッターを任された。

ㅤしかし、それが事件の発端となったのだ。

ㅤ背番号を貰った翌日の事、野球部の部室の前には沢山の生徒たちが群れを成して野次馬がグラウンドを囲んでいた。

『きゃああああああッ!!』

『ヤバイぞ!! 野球部の部室に近づくな!!』

ㅤザワザワと騒つく中、女生徒たちは目を瞑り甲高い声で叫んでいた。

 

 

『滝本!! も、もう止めてくれッ!!』

『俺たちが悪かったッ!!』

 

 

——バチィッ!!

 

ㅤ鈍い音を立てて一人の野球部員を拳で右ストレートを叩き込み、もう一人を回し蹴りで地面に叩き付けると、マウントポジションを取って、何度も何度も顔を目掛けて拳を振りかざした。

 やがて、周りは全員地面に倒れる中、背丈の高い少年が口と鼻から血を垂らして立っていた。

ㅤ学校指定の白いワイシャツは、上半身の殆どが赤く染まっていた。

ㅤその少年は冷静さを失い、怒りに満ち溢れた表情を浮かべていたのは、滝本雄二だった。

 

ㅤ理由は、雄二の父からプレゼントで貰った大切な野球道具であるグローブとスパイクが何者かにカッターナイフで無残に切り裂かれ、専用の金属バットは、地面に何度も叩き付けたのだろうか、L字にへし曲げられて捨てられていたのだった。

ㅤ犯人は、三年生のと二年生の二名だった。

ㅤ拳を喰らった被害者の一人は、滝本が入部する以前は四番バッターを務めていて、蹴りを喰らって袋叩きに打ちのめされた一人は元キャッチャーを務めていた部員であった。

ㅤ滝本が二人からレギュラーの座を奪った事に対してよく思わなかったらしく、腹癒せとして野球道具を壊したのだ。

ㅤ二人はそのまま救急車で病院に緊急搬送され、滝本は駆け付けた先生達四人に取り押さえられる形で職員室に連れていかれて事情聴取を受けた。

ㅤ罵倒と怒号が瞬時に飛び交う中、滝本は今までしてきた部員イジメと道具を壊された事を必死に主張したが、教師たちからは全く聞き入れられず、三年生である上級生の今後の進路の為を気遣ったのか、その事件は表沙汰になる事は無く、『常に問題児である』滝本が一方的に暴力を振るったという事で時間は解決し、滝本は野球部を強制退部、二ヶ月の休学を言い渡された。

 

ㅤ休学後、学校には登校せずに街をふらつく様になった。

ㅤ以前のような幸せに満ち溢れていた瞳には光は一切浮かんでは無く、昔みたいな惰性の日々を過ごす毎日だった。

ㅤ街へと繰り返す雄二はいつしか不良グループとつるむ様になり、他校との喧嘩の紛争の日々に明け暮れる。

ㅤ殴っては殴られ、殴られては殴っての繰り返す毎日を過ごし、赤とんぼ中学の不良グループのリーダー的存在として君臨していた悪道浩平とはこの頃からの付き合いだった。二人は、五回程の喧嘩を繰り返した後、直ぐに意気投合した。

ㅤ雄二は傷だらけ、血まみれ、痣にまみれた顔を引きずって帰宅しては両親からの説教を受けるが、心には何一つ響かなかった。

ㅤ始めのうちはきつく叱っていた両親ではあったのだが……もう諦めたのか、ある日ぱったりと何も言わなくなった。

 

ㅤそれから二年の月日が流れ、中学三年生となった雄二は、繰り返す喧嘩紛争にも飽き飽きとしていた。

ㅤ夕暮れの空に照らされるように河川敷を歩いいると、乾いた音が一つ、また一つと耳に入って来た。雄二にとって、それはとても懐かしい音だった。

『よっしゃー!ㅤ智紀ッ!!ㅤナイスボール!』

ㅤ下方、河川敷グラウンドでは二人の姿が目に映った。見るからに投球練習をしている様に見えるが、自然とその脚は止まっていた。

 

(アンダースローのピッチャーか……今では珍しい物好きもいるもんだ)

 

ㅤ暫く眺めていると、心の奥から何かが込み上げてくる感覚があった。

ㅤそれはとても熱く、今にも身体を燃やしてしまうかのように全身に拡がるのを確かに感じると否や、脚は動き出していた。

 

 ダッと、脚を駆け出してピッチング練習をする二人の前で脚を止めた。

『おい!』

『え?』

ㅤ声をかけると、何事かと此方を振り返るピッチャーは、百四十センチほどだったろうか、長身である滝本から見て身長が余りにも小さかった。

 見た目から小学生だったので『俺は小学生なんかを相手に熱くなっているのか』と戸惑い、恥ずかしくなった。

『なんですか?』

『今時、アンダースローとは……珍しいな』

『そうですかね?ㅤこれでも『中体連』の最後の大会は、順々決勝まで行ったんてますけど……』

ㅤ中体連、最後の大会と言うキーワードを聞いて正直、頭が混乱した。この少年みたいな男は中学生であり、オマケに同い年だとでも言うのか?ㅤそうとは思えない成り立ちで?ㅤ頭の思考を振り切り、同じ中学生と言えば恥ずかしさは消えていた。

『お前のアンダースローに興味がある。俺と一打席勝負しろ』

『あん?ㅤテメェ、急に練習の邪魔しておいて勝負だと?』

『ツネ。口が悪いよ。……大丈夫!ㅤ受けて立つよ』

『と、智紀!?』

『"例の球"の練習の結果を試したい。実戦では中々投げれないからいい機会かもしれない』

ㅤ智紀と言われた男は笑顔で承諾し、ツネと呼ばれた男は『勝手にしろ!』とやや不貞腐れたながらも自分のバットケースからバットを取り出して突き出すように雄二に渡した。

 

ㅤバッターボックスに立ち、バットのグリップをギュッと握りしめると、バッターボックスから見える景色を久しぶりに見たと率直な感想が浮かんだ。

ㅤしかし、違うのは目の前には一人の男しか居ない事でバックは勿論、誰も居ない。

ㅤ夕日が向こう側へと沈みかけ始めた。橙色に染め上げる空も若干暗く成り掛ける。

ㅤ初球。アンダースローのストレートがインコースへと抉るかのように特有のホップボールと化して突き刺さった。

『——ッ!!』

『うしッ!ㅤワンストライク、だ』

ㅤ無言でコクリと頷く。

ㅤ初めて経験するアンダースローから放り込まれるボールは、予想以上に軌道を描く。

ㅤ思わず口角が釣り上がっていた。

ㅤ続く二球目。

ㅤ今度はアウトコースに逃げるスライダーを見送る。僅かながらに外れボールとなった。

 

ㅤしかし何故、だろうか。

ㅤやはり何処と無く身体が熱く感じる。

ㅤ血が燃え滾る様だ。

ㅤあの日を最後に、野球を捨てた。

ㅤだが、捨てたけつもりでいただけで、どうやら捨てれなかった様だ。

ㅤ感覚だけは忘れていなかった。

ㅤそれは『今』確信した。

ㅤ自分は、未だ野球が好きだと言うことを……。

ㅤ捉えて腕の力で掬い上げる。

『来いッ!! 打ち返してやるッ!!」

 

 ニヤッと笑みを浮かべる小さい青年。

 振りかぶり、投げ抜かれたボールを強く想いを込めてバットを振り抜いた。

 

ㅤ——キィィィィン!!!

 

ㅤ手応えとしては完璧だった。

ㅤ引っ張った打球は、レフト方向へと高々に打ち上がっていくが僅かにファールグラウンドに落ちてツーストライクへと追い込まれる。

『ファールって事で、ツーストライクだ』

『ああ、そうだな。次は打ち返してやる』

『へい、兄ちゃん。やる気まんまんな所大変悪いが、次の球をアンタは打てないと断言する。なんせ次投げる球は本来"投げれるはずの無い球"だからな』

『何?』

ㅤ"投げられるはずの無い球"を投げる・・・・・・。

 これはハッタリか?

ㅤこの言葉がどうしても気にかかる中、三球目のボールが放り込まれた。

ㅤスピードはさっきのストレートよりもやや遅めでありながらも『グゥン』と下方から跳ね上がる様に上昇した。

ㅤただの遅いストレート。

ㅤやはり、今の言葉はハッタリか?

ㅤそれはそうだ、投げられるはずの無い球なんて実在する訳が無い。

ㅤストレートの軌道を捉え、バットを叩き込む様にフルスイングをした。

ㅤ——シュン!!

 

ㅤボールは忽然と眼前に映らなくなった。

『——なッ!!』

ㅤ大きなスイングは虚しく空を切る。

 パァァァァん!!!

ㅤ足元の方で乾いたミットの音が聞こえ、そちらに目を向けると、ボールは其処にあった。驚いては、言葉も出ず、唖然と立ち尽くす。

 

『なんだ・・・・・・今の球。俺は・・・・・・アイツは今、何を投げた?』

『へっ!! アンダースローの投手が投げれる筈のないフォークボールだ!!』

『・・・・・・まさか。フォークボールとは思いもしなかった。俺の完敗だ』

ㅤ悔しさが募るが、その顔は何処かスッキリしていた。雄二はバッターとしてでは無くキャッチャーとして思ったのだ。この球を取りたい……と、強く思った。

 

『おい、お前。名前はなんて言うんだ?』

『ん?ㅤ俺か?ㅤ俺は中野渡——』

『いや、お前じゃない。ピッチャーの方だ』

『矢中智紀。中学三年生だよ』

『同い歳か……。これは好都合だな』

『……??』

ㅤ矢中の元へと歩み寄り、雄二は深々と頭を下げた。

『えっ??』

『俺は滝本雄二ッ!! お前の球を取りたい!ㅤ高校で俺とバッテリーを組んでくれ!』

『——ッ!!』

ㅤ突然の出来事に、矢中と中野渡は吃驚した。

 

ㅤそして、今までの出来事を二人に語る。野球をしている時が一番幸せである事、先輩からの恨みから暴力事件に発展した事、不良の道に入ったことを隠さずに明かした。

ㅤその時、矢中は滝本の手を取り、笑みを浮かべて小さくコクリと頷いた。矢中の相棒を務める中野渡もブツブツと小さな文句を言いながらも理解をしてくれた。

ㅤこれが、矢中智紀と滝本雄二の最初の出会いだった。

 

 

 

———

 

 

 

ㅤ雨は次第に強く降り注ぎ、試合は八回の裏まで進んで一対0で、球八高校がリードしている。

ㅤ早川あおいは、変化球のコントロールの良さもあり、徹底的な低めの攻めでカウントを取り追い込みから、高めのストレートで凡打の山を築いていく。ここまで被安打は八つ、球数は八十球を超えていた。

ㅤ対する矢中は多彩な変化球、そして"フォール・バイ・アップ"で三振を取り、被安打は三つで、球数は百五球とやや多めだった。

 

ㅤバッターボックスには二番の赤坂がバッターボックスに入り、ネクストバッターズサークルには星が構えている。

「いよいよ、ヤバェな。雨が強くなって来てるぞ?」

「もう試合は七回を終えてるでやんすから、コールド条件は満たされてるでやんす」

ㅤ海野が強く雨を心配する声を漏らすと、恋恋高校のナイン達に一気に不安が募り始める。

ㅤここまで完璧に打ち取られているのは事実であり、矢中智紀の前に俺は何一つ三三振と攻略出来ずにいた。

ㅤあの厄介なフォークボールさえ撃つことが出来れば可能性はあるのだが……。

「今の智紀くんの調子は絶好調・・・・・・。二点どころか一点さえ奪えるか……へっちゅん!ㅤご、ごめん」

ㅤ早川の身体が濡れて冷えて来ている。流石にマズイな。風邪をひいてしまう前に早い所ケリを付けたいところだが・・・・・・。

ㅤ仕方がない。"コレ"は体力がかなり消耗しちまうが、出し惜しみしてる場合じゃないもんな……やるしかねえよな。

「ストライクーーッ!ㅤバッターアウトッ!」

ㅤ赤坂が倒れ、ワンナウト。

ㅤ俺はネクストバッターズサークルにいる星の元へと駆け寄り耳打ちをした。

「あん?ㅤマジでやんのか!?」

「ああ、頼む。お前が塁に出れば勝ちに繋げられる」

「チッ!ㅤ打つ気満々だってェーのに、失敗しても文句言うんじゃあねェぞ!」

「俺としては成功を祈りたい、けどな」

「へっ、吐かせ」

 

ㅤ頼んだぞ、星。

ㅤこの作戦、ランナーが一人出ていれば勝機が見える。

「…………」

ㅤ俺はネクストバッターズサークルに入り、静かに目を閉じた。

ㅤ音を遮断し、感覚を研ぎ澄ませる。

ㅤ全てを矢中智紀の勝負に注ぎ込む為、集中力を高めるんだ!

 

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