実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第53話 猪狩進

 まるで紫陽花の花の色の様な、赤よりも色濃い紫の瞳は、いつ見ても印象に残る。

 リトルリーグ時代からの顔見知りで、中学時代は元チームメイト、俺の一つ下であり、猪狩守の実弟である猪狩進は、今や名門にして強豪であるあかつき大附属の守備の要のキャッチャーのレギュラーを務めている。

 キャッチャーとしては、一見、身体の大きさは乏しいが、それとは裏腹に強肩かつ俊足であり、左右に打ち分けられるほど巧打のアベレージヒッターでもあり、オマケに攻守を誇る名捕手として、既にスカウトからも他校からも名高い評価を受けていたりもする。

「随分と久しぶりになるな。こうして面と向かって会うのも去年の署名活動中に会った時ぶり位か?」

「はい、約一年ぶりになりますね。小波さんは元気そうで何よりです」

 ニコッと笑いながら、進は言う。

 だが、その表情は、何処か疲労感が漂っている様に様に感じ取れるほど、窶れていた。

 流石は全国に名を馳せる程、知名度も実力も兼ね備えているあかつき大附属の野球部だけあって、俺たち恋恋高校との練習の効率の良さも上回っているのは言うまでも無い。

 それにしても、進ほどの選手なら少しは疲れる程度の感覚だろうし、こうして見て分かるほど窶れるまでやり込むなんて、進らしくは無いと感じた。

「それよりもラジオで聴いてましたよ。小波さんがマウンドに上がった事。肘の具合はもう大丈夫なんですか?」

「なんとか、な」

「それは良かった! ずっと心配していたんですが本当に良かったです! でも、小波さんならいつかマウンドに帰って来るって信じてましたよ!」

「本当か? そりゃ大袈裟だろ」

「そんな事ありませんよ! それに兄さんも喜んでいましたよ! 遂に小波と投げ合える日が来るって」

「猪狩のヤツ、そんな事言ってたのか? 当たるとなれば決勝戦だぞ? どうなるかなんてこれから分かりゃしねえのに、もう勝ち進んだ気にでもなってんのか?」

 自称天才を名乗る猪狩も此処まで来ると呆れを通り越して尊敬の念を抱いてしまう。

 しかし、猪狩守の実力は複数団のプロが注目を寄せるほど、申し分無い。

 そこがまた腹立たしくもあるのだ。

「去年、太郎丸さん達・・・・・・山の宮高校に負けた事で、僕らは今年こそ優勝旗を奪還すると決めてますから! 負けられません!」

 進のその瞳は、強い確信を持った瞳をしていた。

 それを見て、俺は思わずクスッと笑みをこぼしてしまった。

「そう言えば、いつだったっけ。可笑しな夢を見たよ」

「夢ですか?」

「ああ、決勝戦の九回表、二点差を追いかける中、マウンドに立ってるのは俺で、ツーアウト満塁の場面で打席には猪狩が立ってたんだ」

「随分熱い展開ですね! それで? その後の試合はどうなったんですか?」

「いや、なにもなかったよ。投げた所で目が覚めちまったからな。でも、俺はその続きの夢をこの夏で見れそうな気がするんだ」

「はい! 僕も兄さんも小波さんと戦える日を楽しみにしてます!」

「ああ、俺もだ!」

 ガシッ。

 お互いに手を強く組み交わす。

 進の手のひらの厚さに、今までの練習の成果が感じ取られ、甲子園出場を目指す為の気力が一気に増した。

「小波さん。兄さんは手強いですよ」

「ああ、そんな事お前に言われなくても嫌という程知ってるよ。昔からな」

 確かに、猪狩は手強い。

 だからこそ、相応しいのだ。

 現に高校最強と謳われているあかつき大附属のエースナンバーを背負う猪狩と甲子園の道を掴む戦いが出来れば、きっと今までにない楽しい野球が出来る筈だと小波は強く思っていた。

「・・・・・・僕。ふと、たまに思うんです」

 唐突に猪狩進は、口を開いた。

「兄さんと小波さんがプレーしている姿を見ていると、いつも楽しそうで、お互いが好敵手と認め合っているのが肌で感じて、それが何だか羨ましいって・・・・・・」

「進・・・・・・」

「僕自身、兄さんと違うのは勿論、分かっています」

 その表情は、先程まで強い確信を持った瞳とは一転し、暗く寂しげな表情へと変わった。

 走攻守と恵まれた実力の揃った猪狩進だが、唯一、実の『兄』である『猪狩守』に対して強いコンプレックスを抱いているのだ。

 高校生レベルを遥かに上回るキレのある多彩の変化球、抜群なコントロール、強靭なスタミナ、そして、何よりも百五十キロに迫るストレートである『ライジング・ショット』を投げ込むなど、ピッチングだけでなくバッターとしても強打者として恐れられるほど、天才と称された猪狩守は、既にプロ複数団から注目を浴びる程の人気者だ。

 その人気ぶりからか、進はどんなに活躍しても周りからは『猪狩の弟』と言う評価しかされなかった。

 実の兄の天才ぶりに対するコンプレックスに悩み、兄の話題を振られると模範解答を答えているものの内心では非常に複雑な感情が猪狩進を更に悩ませていた。

「兄さんに追いつきたい。兄さんを追い抜きたい気持ちはあります。けど・・・・・・いくら兄さんの目を盗んで練習に打ち込んでいても、その差は変わらない。広がっている気がして・・・・・・きっと僕と兄さんとじゃ出来が違うんですよ」

 進は、重みを感じるトーンで語る。

 見て分かるほど疲れ切った顔をしていたのは練習後も一人黙々と練習を続けてきた事の表れだった。

 兄である猪狩守へのコンプレックスを無くすため、弟である猪狩進は自分自身の身体を追い込む程まで練習に打ち込んで来たようだ。

「何言ってんだよ。お前と猪狩が違うだ?」

 だが・・・・・・。

 小波は、進の言葉を聞き終えた途端。

 鼻でクスッと笑った。

「笑わせんなよな。お前とプレーする時も猪狩とプレーする時も楽しさは同じだ。俺からすれば、お前も猪狩と変わらねえ昔からの好敵手だし、いつまでも仲間だと思ってるさ」

「小波さん・・・・・・」

「どうしても周りの奴らは猪狩と比べるかもしれない。それでも、お前はお前だよ。お前が信じる野球をやって、いつか『自称天才』なんて名乗るバカな兄貴を超えてやれ!」

「小波さん・・・・・・はい! ありがとうございます! その言葉だけでも嬉しいです!」

 夜も更けていた為、小波と猪狩進は別れの言葉とこれからの試合の健闘を称えて、帰路に着く事にした。

 疲れ切った表情の猪狩進はふらふらと力無く歩く。その後ろ姿に、小波はやれやれと苦笑いを浮かべながら見守っていた。

 

 

(頑張れよ、進。決勝戦で必ず会おうな)

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 小波は、稲妻のような迅速な驚愕を目に表した。

 遠方から人通りの少ない道路を走る一つの車のライトが蛇行しながら進を点々と照らしていたりのだ。

 だが・・・・・・本人は気づいていない。

 もしかすると、と言う危機を感じて小波は脚を走らせて、進の元へと向かう。

「進ーーーーーーッ!!!」

「・・・・・・」

「ッ、クソッ!!!」

 しかし、その声は届いていなかった。

 その距離は約百メートル程だろうか。

 まるで車が進に狙いを定めているかのように迫って行く。

 

 

 キキィ————ッ!!!!

 

 

「——ッ!!」

 進は、当てられたライトでようやくハッと我に返った。同時に運転手も気づいたのか、慌ててブレーキを掛ける。だが、手遅れだった。

 鈍い音の衝突音を響き鳴らし、車は勢いよくガードレールを突き破り、ボンネットを大破させて、漸く車が止まった。

「痛ッ・・・・・・。進、無事か!?」

「すぅ・・・・・・。すぅ・・・・・・」

 小波は、地面に強く身体を打ち付けるも、間一髪のところで進を助ける事に成功した。

 気を失ってしまっているが、かすり傷は有るものの進は無事だった。

「ったく、心配かけやがって・・・・・・この大バカ野郎」

 瞬く間に、人混みが事故現場へと駆け寄り始めた。

 一人のサラリーマンの男性が小波の元へとやってきて、震え声で声をかけて来た。

「き、君。大丈夫かい? 救急車は呼んであるから安心したまえ」

「ありがとうございます。・・・・・・運転されていた人は? 大丈夫ですか?」

「ああ、それなら心配は要らないよ。どうやら居眠り運転らしい。ところで、そこの茶髪の少年は君の知り合いかい?」

「はい。俺の大事な親友の一人です」

 小波はニコッと笑みを浮かべると、ゆっくりとその場で目を閉じて気を失った・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・。っと、ここは?」

 重たい眼を開き、真っ先に飛び込んで来た景色は、あまり良いものでは無かった。

「ふっ。ようやくお目覚めかい? ここは頑張中央病院だ」

 毛並みの良い茶髪髪。

 ややツリ目の青い瞳を覗かせた猪狩守がそこに立っていたのだ。

「・・・・・・どうやら頭を強く打ち付けちまった様だ。見たくも無い変なバカが見える。もう少し一眠りするか・・・・・・」

「おい、ちょっと待て! 小波!」

「なんて、冗談だよ。それで? どうしてお前がこんな所に居るんだ?」

「どうしたもこうしたも無いだろ! 君にはどうしても感謝の一言を言わなければいけないと思ってね。小波、進を助けてくれて本当にありがとう」

 深々と頭を下げる猪狩に、小波は少し複雑な笑みを浮かべる。こうして素直に感謝を述べる猪狩を見るなんて初めての事だった。

「別にいいさ。進は無事だったんだろ? それで良いじゃねえか。当たり前の事をしたんだし感謝なんて要らねえよ」

 小波は、ゆっくりと身体を起こしてベッドから離れた。

「そうか。君らしい答えだが、ここは素直に礼を言わせてくれ。小波、本当にありがとう」

「おう」

「でも、進は暫くは、入院しなければならないそうだ」

「入院・・・・・・?」

「ああ、思った以上に身体の負担があるようでちょうど甲子園が終わる時期まで安静の様だ」

「それは・・・・・・かなり残念だな。どうせならお前ら兄弟バッテリーと戦って甲子園に行きたいと思ってたのにな」

 その言葉に、猪狩はピクッと眉を寄せた。

「小波。すまないが、今年は僕たちが甲子園に行く」

「・・・・・・」

「残りの試合、僕は進の為に、この左腕を振るう! 例えこの左腕が折れようとも、進の為に優勝旗を持って来る!」

「・・・・・・そうか、お前の気持ちは分かった。でも、そう簡単には勝ちは譲らないぜ。俺だって覚悟決めてグラウンドに立ってんだ。猪狩、決勝戦は悔いのない試合をしよう」

「ああ、だから、小波。僕と約束してくれ。決勝戦まで負けるな。君と一度も戦わずして高校野球は終えたくは無いからね」

「お前こそ、変なドジ踏んで負けたりすんなよな」

「君なんかに心配されるとは、僕も落ちたモノだね。だが心配は及ばないよ。君の『三種のストレート』(とっておき)を捩じ伏せるだけの『ライジング・ショット』(切り札)は持ち合わせているからね」

「それは望むところだ。俺たち恋恋高校の力でお前の『ライジング・ショット』を必ず打ち砕いてやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めてから猪狩と言葉を交わした後、小波は院長の許可を得て病院を後にした。

 家までの帰路を急ぐ中、静寂な空間に広がる夜空の星がとても綺麗に思えた夜だった。

 そんな中、小波の頭に先程の猪狩の言葉が突然に過ぎる。

 

『残りの試合、僕は進の為に、この左腕を振るう! 例えこの左腕が折れようとも、進の為に優勝旗を持って来る!』

 

「ったく・・・・・・。そのセリフは俺のセリフだって言うのに。俺の方が先が短いに決まってんだろ・・・・・・。あのバカ野郎」

 ふと、小波は自分の右肩に触れる。

「——痛ッ!! やっぱり・・・・・・な」

 みりみりと骨が痛む。

 そのあまりの痛さに思わず顔を歪ませた。

 その痛みは、先程、猪狩進庇った時にアスファルトに強く打ち付けたのは小波の右肩だったのだ。

「こりゃ・・・・・・。思ってる以上にヤバいかもしれねえな。けど、そんな事関係ねえよな。この右腕が壊れようがアイツらに甲子園の土を踏ませてやるって事をとうの前から腹括ってんだ。もう、やるしかねえんだよ」

 覚悟を決めた小波の闘志は、地獄の業火となった。

 

 

 

 

 

 

 そして、遂にパワフル高校との試合を当日に迎える。

 一昨日の進の件は、どうやら表沙汰にはなっていないらしく、俺もその事には何も触れずに何事も無かったかの様に、いつも通りの様子でやり過ごしていた。

 それにしても、星と矢部くんの様子に違和感を覚える。

 今までモテモテライフと言うか変な夢を掲げて日夜練習に励んでいた二人に対し、やや失礼な発言になるが・・・・・・昨日の練習、今までに無かった『やる気』と言う情熱が初めて感じられたのだ。

「二人とも一体、どうしたんだろうね。何か良い事でもあったのかな?」

 その様に早川も気付いたのだろうか。

 少し、悪寒を覚えた様な、不気味な物を見るような目付きで二人を見ていた。

「さあな。やる気に満ちてるなら、それだけで充分だろ。相手は同じベスト八に上り詰めただけある強敵だからな」

「そうだけど・・・・・・。ま、いつも見たいな気持ち悪い雰囲気よりはだいぶマシかな?」

 早川は、フッと苦笑いを浮かべる。

 すると聞こえたのか、星と矢部くんがズカズカとスパイクの音をワザとらしく鳴らしながら此方へと向かって来た。

「オイオイ!! 気持ち悪い雰囲気ってなんだァ? もしかして、矢部の事を指して言ってるンだよな? あんまり本人を目の前して言うなよな、モチベーションの低下に繋がるぜ!」

「なんでそうなるでやんすか! 気持ち悪いのは、いつだって星くんだって相場が決まってるでやんす!」

「あン? なんだよッ!! 相場って!!」

 ワーワーギャーギャーと喧しい。

 ま、ともあれいつも通りのやり取り。

 どうやら俺の勘違いだった様だな。

「まァ、どうやら俺たち二人が今までの俺たちとは違う事に気付いたのは褒めてやるよ」

「なんで、そんな上から目線なの?」

 ズバッと早川がツッコミを入れる。

「・・・・・・まァ、見てろッ!! この試合間違い無くお前らとパワフル高校をギャフンとビックリさせてやるからなッ!! 此処でかっこ悪い姿見せちまうと・・・・・・」

 星は、途中で言葉を区切る。

 ギュッと自分の右手を力一杯に握り締める。その顔は心の底から湧き上がる『何か』を懐かしむ様でもあり、少し切ない気持ちを抱く様にも見えた。

 隣に立つ矢部くんも同じ顔をしていた。

 そして、ニヤリと八重歯を光らせ——。

「きっと、あのバカ野郎にいつまでも意地悪く嘲笑われちまうからな」

 と、付け足した。

「あのバカ野郎? それって一体誰のことなの?」

 早川が疑問を投げかけた時だった。

 既に球審から集合の合図が掛かっていた事をマネージャーの七瀬から言われ、慌てて俺たちはベンチ前へと駆け上がり、俺たちは一斉にホームを目掛けて走り出した。

 甲高い声で、主審が右手を高々と上げ、試合開始の始まりを告げると、甲子園予選大会も既に佳境を迎えた頑張地方の第四回戦目であるパワフル高校と恋恋高校の試合は、先攻・パワフル高校から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 楽しみで仕方がない。

 試合前の練習中、そう呟いた男の顔は今まで見た事が無い程、言葉通りとても楽しそうな顔つきだった。

 パワフル高校のエースナンバーを背負う麻生は、一番打者がゆっくりとバッターボックスに向かう後ろ姿を見つめながらニヤリと笑みを浮かべている。

 去年までの彼なら誰も想像が付かなかった表情だろう。

 しかし、そよ風高校に負けたあの日から、麻生を筆頭にパワフル高校は変わったのだ。

「さて、今日の試合は恋恋高校だ! 恐らく手強いぞ! また一段と気合を入れないといけないな! な? 麻生」

 爽やかにキラッと歯を光らせ、麻生の隣に腰を下ろすキャプテンの戸井鉄男。

「・・・・・・。戸井、お前ってヤツは本当に一々五月蝿え野郎だな」

「そんなこと言うなよ。今日は石原キャプテンと尾崎キャプテンが試合を観に来てくれてるんだ。良いところ見せないとな!!」

「フン、オレ様も落ちたモノだな。その二人が来てるからといって躍起になるとでも? 誰が観てようが、オレ様はオレ様のピッチングをするだけだッ!!」

「はいはい。分かったよ。それより先発は早川あおいか・・・・・・。個人的には小波が投げて欲しかったけど、肘の調子は悪いのかな」

 一塁を守る小波を目で捉えながら、勝負出来ない悲しみに満ちた顔をしていた。

 戸井は、きらめき高校と恋恋高校の試合を観戦していたのだ。

 高柳春海に投じた最後の球である『ノースピン・ファストボール』に興味を示していた。

「ノースピンと言う異質の直球が、一体どんな球なんなのかバッターとして一度は拝んで見たかったところだったんだが、ウチのエース様はどうやら王道がお好きなようで」

 チラッと横目で麻生を見る。

 ギラッと苛ついた目つきで戸井を見ていた。

「相手が女だろうが小波が投げようがオレ様には関係ねえ。ただ立ち塞がるヤツはオレ様のストレートで問答無用で抑えてやるッ!!」

「それなら良いけど・・・・・・。まさかのお前が太郎丸と猪狩に触発されるとは誰も思っちゃいないだろうよ」

「麻生くんのストレート・・・・・・。知らされたのってつい最近だもんね。どこで練習していたんだか」

 クスッと笑いながら、マネージャーを務める栗原が間に入ってきた。

 戸井も釣られて笑みを漏らす。

 それに恥ずかしくなったのか、麻生は舌打ちを鳴らし、グローブを手に取る。

 丁度、三番打者が大きなフライを打ち上げところで守備に着く用意を始める中、麻生は空をジッと見つめ。

 

 あの日と同じ空が広がっていた。

 あの日、負けた悔しさ。

 あの日、戸井が掛けてくれた『悔しいなら這い上がれッ!!』と言う言葉は、まだしっかりと麻生の胸に刻み込まれていた。

 ギュッと帽子のツバを握りしめる。

 

(オレ様は・・・・・・今まで野球が何なのか知らずにいた)

 

(一人で点を取って、一人で抑える。そんな一人相撲を野球と呼ばないことを知った)

 

(本当は、こんなバカなヤツらと野球って言うスポーツがしたかったのかもしれねえな。それを教えてくれたのは戸井・・・・・・紛れも無くお前だよ)

 

(今のオレ様がマウンドで腕を振る理由はそれだけで充分だ)

 

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