実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第67話 『ライジング・ショット』対『勝負師』

 

 五対二。

 あかつき大附属が三点のリードで勝ち越している決勝戦。試合は五回表を迎えてアウトカウントはツーアウト。

 攻撃しているのは恋恋高校で、八番打者の京町の打席を迎えている。

 カウント。黄色が二つ、緑色が三つ、とランプが灯火したツーストライク、スリーボール。

 猪狩守は、この大会中では珍しくも一人の打者にスリーボールを出していた。

 恋恋高校で唯一の一年生レギュラーである京町は、好打者でも無ければ強打者でも無い。あかつき大附属の様な強豪レベルから見てみれば決して油断するべき相手では無いと言うのは明確な事だ。

ㅤだが、しかし。

 その恋恋高校に『小波球太』と言う人物が居るという事がたった一つの問題だった。

 小波球太とリトルリーグ時代にはライバルとして戦い、中学時代は仲間として戦って来た猪狩守はその事についてはチーム内に置いて誰よりも深く良く知っている。

(『精神的支柱』。小波にはチームメイトの能力を向上させる『超特殊能力』の『能力解放』を持っている。そうじゃ無ければ、この僕が何の実力もない彼らに二点を取られる筈などない)

 グッ。と、唇を噛み締める。

 その行為は、決して悔しさからでは無く。

 自分自身の注意力の甘さに対して、だ。

 京町に対する六球目。

 左腕から放たれたのは自慢のストレート、『ライジング・ショット』では無く。キレのある変化球、横に流れるように曲がるスライダーで空振りを誘う。

(この球で流れを止めるッ!! これで空振り三振だ!!)

 京町はスライダーをスイングしてボールは双菊の構えるミットに収まって三振——、予測はその筈だった。

 が、しかしながら猪狩守が予測した結果とは大きく違った。

 京町がスライダーを読んでいたのか、はたまた偶然かは分からないが、スイングしたバットはそのスライダーを芯に対して完璧に捉えていたのだった。

 

 キィィぃィィン!!

 

(——ッ!! まさか……!? この球も、だと!?)

 

 快音を響かせた打球は、勢いよく三遊間を貫くようにレフトへと転がった。

 

「よっしゃあああああああ!! ナイスバッティングだぜ!! 京町ッ!!」

 レフトへ安打を放った京町に向かって、星は喜びの声援を贈る。

 ツーアウト、ランナー一塁。

「あの猪狩くんから続けての三連打!! いい流れが来てるでやんす!! コレはいけるでやんす!!」

 同じく矢部明雄もネクストバッターズサークルへと向かうべくヘルメットを勢い良く被る。

 この流れを止めてはならない、と。

「おいッ!! 矢部ェ!! ちょっと待て!!」

 ネクストバッターボックスに向けて足を踏み出した瞬間、星が声を掛けた。

「星くん。どうしたでやんす?」

「俺たちが野球部を立ち上げて初めて浩平達と戦った時の事を覚えてるか?」

 と、二年生の春の頃の出来事を口にした。

「確か。去年の春の練習試合だったでやんすね。勿論、覚えてるでやんす。それがどうかしたでやんすか?」

 勿論、忘れる事はなかった。矢部と星の二人の実力不足を痛感した試合だったからだ。

「そん時によォ。俺たち『強くなろうぜ』って言ったよな?」

「確かに言ったでやんす」

 コクリと頷く矢部。

 そして。

 トン。と星が握って出来た拳が、

 矢部明雄の胸に押し当てられた。

「それならあの時から成長したって事を今から証明しようぜ。テメェが、この恋恋高校の『スピードスターの矢部』だって言う事をこの場にいる全員に堂々と見せつけてやろうじゃねェか!!」

「星くん……」

「矢部。気張って行け!!」

 そして。

 トン。と返すように、

 星雄大の胸を拳で押し当てて。

「勿論でやんす!! この試合に勝って、小波くんと……皆と甲子園に行ってこのチーム全員で甲子園で野球をしたいでやんす!!」

 そこに。試合中幾度も訪れたいつものようなふざけた空気は無く、揺るがない決意のようにキリッとした表情で星雄大は矢部を送り出し、応えるように矢部明雄はネクストバッターズサークルへと走り出す。

「頼んだぜ、矢部。お前の全てをありったけぶつけて来い」

 

 

 

 ズバァァァァァァァン!!

 

 山の宮高校の野球グラウンドの片隅、ビニールハウスで形取られたブルペンに二人の姿がそこに在った。

 一人は豪速球を放り投げる太郎丸龍聖、そしてその球を受ける名島一誠の姿だった。

「それにしてもやるじゃねえか恋恋。猪狩筆頭の強者揃いのあかつきを相手に随分と喰らい付いてやがる」

 パイプ椅子の上にポツンと置かれているラジオを流しながら二人は投球練習を行なっていた。

 前日。恋恋高校の小波球太にノーヒットノーランで敗北して高校野球を引退した三年生である山の宮バッテリーの二人だが、二人は既に今年の十月の末に行われるプロ野球の新人選手獲得の為に行われる会議、『ドラフト』へのプロ志願届を既に提出しおり、二人は引退してからも自主練習と言う名目で体づくりに勤しんでいた。

「今日は決勝戦。勝った方が甲子園だ。中学時代に手を焼いた小波と猪狩の元チームメイト同志の戦い。どういう試合になるか分からないものだ」

 キャッチャーミットで収めた球を名島一誠はひょいと中に上げて右手で掴み、そのまま太郎丸龍聖に向けてボールを返す。

「俺たちを破った小波達、それを迎える猪狩達。十分に見応えのある試合になる筈だ。考えるだけでこっちも闘志が燃えてくるぜ!! まあ、小波も猪狩も来年からはプロの舞台で共に戦えるってだけでもワクワクが止まらねえんだけどな!! セ・リーグ、パ・リーグで別々だったらしょうがねぇけど」

 と、太郎丸龍聖は嬉しそうに言う。

「……、」

 だがしかし、対照的に名島一誠は黙りだった。

「ん? 一誠?ㅤどうかしたか?」

「いや、恐らく小波は『プロ野球』の舞台には上がって来れないと思う」

「はぁ? お前、何言ってんだ? だってあの小波だぞ? アイツはプロに絶対来るだろ」

「ああ、まあ、そうなんだが……」

 名島の言葉を受け困惑気味の太郎丸。

 しかし、名島は昨日の試合で『ある違和感』を一つだけ感じていた。

 それは太郎丸龍聖の『アンユージュアル・ハイ・ストレート』をスタンドに運んだ時の事だった。

 小波の右側、主に右肩から鈍い音——、何かが『切れ』、何かが『砕けた』、側で聞こえて思わずゾッとしてしまう程の嫌な音を聞いたのだ。

 その事を踏まえて、名島は太郎丸に自身が感じた違和感を伝えた。

「……マジかよ」

「俺の予測だが、小波の肩は昨日の時点でなんらかの『致命的』な大怪我を負っていた。昨日の試合、四球でランナーを出したのも、今日の試合で立ち上がりで調子が悪かったのも恐らくそれが原因とも言えるだろう。もし、その怪我が更に悪化した場合、プロ野球は愚か野球すら出来ないレベルの致命的な怪我だ」

「でも、小波は五失点から立ち直って今は完璧にあかつきを封じてるのを一誠もラジオ中継で聞いてただろ?」

「『小波だから』と言ったらどうだ? 龍聖」

「——ッ!?」ハッとする太郎丸。

「小波と言うヤツは、試合が終わる最後の最後まで何をしでかすか分からないヤツだって事をお前も良く知っているだろ?」

「ああ、確かにな。アイツの怖さってのは痛いほど分かってる。それにしても残念だな。プロの世界で投げ合えるのを楽しみにしてたんだけど」

 太郎丸は少し寂しそうにしながら言う。

「ま、お前には『八雲紫音』や『一ノ瀬塔哉』に『二宮瑞穂』、それにも『滝本』『清本』『久方』と言った昔馴染みの仲間との対戦だってあるだろ」

「あの懐かしいバカ達と戦うのも良いな。それにな一誠。お前は俺がもう一人対戦が待ち遠しいヤツを忘れてるぜ」

「ん? 後に誰か居たか?」

「ああ、居るさ。なんなら他の奴らよりももっと対戦したいバッターがな。そう、『名島一誠』お前だよ」

 と、太郎丸龍聖はニヤリと笑い。

「——ッ。お前ってヤツは……」

 と、名島一誠も同様に笑っていた。

 お互い顔を見合わせながら。

 何も言わずにもう一度、太郎丸は名島のミットへと勢い良くストレートを放り込んだ。

 

 

 ズバァァァァン!!

 

「ストライクーーッ!!」

 百五十キロの『ライジング・ショット』が突き刺さる。

 ツーアウト、ランナー一塁。恋恋高校打線の九番打者、毛利が右バッターボックスに立っている中、捻じ込まれた唸る豪速球がストライクゾーンへズバッと決まった。

 海野、古味刈、京町の三連打を浴びながらも依然として猪狩の『ライジング・ショット』の球威に今のところ衰えは見られ無い。

 カウント。ワンストライク・ワンボール。

 猪狩守はこのイニングだけで二十四球を投げている。小波の牽制死でツーアウトを奪って以降、アウトが取れない中、二十五球目、毛利に対して三球目を投じる。

 ストンと落ちるキレのあるフォーク。

「ボール!!」

 しかし、ストライクゾーンからややズレてしまいボールのコールが響く。

(猪狩は、決して疲れている訳じゃない。恋恋高校の謎の雰囲気に呑まれてるんだ。あの猪狩も、そしてこの俺も……。一体、こいつらに何が起きてるって言うんだ!?)

 キャッチャーミットを一球一球受ける度に双菊は恋恋高校に対して違和感を強く感じた。

(次は、カーブで空振りを取るぞ)

 双菊は猪狩にカーブのサインを送る。

 毛利に対して、四球目。

 左腕から放たれた緩やかな曲線を描いた変化球、カーブを巧くタイミングを合わせてバットを振った。

 キィィン!!

 金属音と同時に京町が走り出して加速する。

 一、二塁間の間を、京町の前を痛烈な打球が通り抜けた。

「——ッ!?」

(ふざけるなッ!! この球も……打たれただと!? こんな素人同然のチームに!?)

 双菊はマスクを取り唇を噛み締める。猪狩は振り返り打球の通過点を睨みながら、三塁のベースカバーへと足を進めた。

 好スタートを切った毛利は既に二塁を蹴り上げて三塁へ進塁しようとしていたのだ。

「椎名!! ホームに行けるか!?」

「毛利先輩ッ!! ここはストップです!! ストップ!!」

 三塁コーチャーの椎名繋が、毛利が三塁ベースを踏んだ所で静止させた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっー!!」

 湧き上がる歓声。

 ツーアウト、ランナーは一、三塁。恋恋高校の攻撃は止まる事を知らない勢いだ。

 

 

 

 

 

 片手に自販機で購入したアイスコーヒーの缶を持ち、明日光は妹の明日未来と後輩の六道聖が居る場所へと脚を進めていた。

 先程、球場を後にしようとしていた明日光であったが、同い年と思われる『聖タチバナ学園』中等部の制服を纏った水色髪の女性を見かけた事で光は帰ることに対して思い留まる事にした。二人が待つシートへと戻って来てみると、いつの間に恋恋高校のスコアボードに二点の得点を示す数字がある事にまず驚いていた。

「あっ!! 光〜。どこ行ってたの〜?」

 耳に飛び込んだ声。その声の主は同じ赤色の髪の毛。

 まるで鏡写しの様な同じ顔の妹である明日未来は明日光に向けて手を振りながら大声で声を掛けてきた。

「うん。まぁ、ちょっと喉が渇いてね……」

「一人だけずるいな〜。私ってば、光はもう帰っちゃったとばかり思っちゃったよ〜。あはははは〜」

「……、」

 と、本当は帰るつもりだった明日光は何とも言えない表情を浮かべて自販機で購入したアイスコーヒーを片手に明日未来の隣にゆっくりと座る。

「ねえねえ、光!! 今はなんと!! 絶賛フィーバータイム中なんだよ〜!! 恋恋高校が凄い勢いで追い上げて来てるんだよ〜凄いでしょ〜!!」

「……見てれば分かるよ」

 言わなくても分かる。そんな表情で光は小さい声でボソッと言う。

「全くつれないな〜〜。昔の光だったら今の私くらいのテンションで大はしゃぎだったのに〜」

 口を尖らせる未来。

「……。昔の事は関係ないよ」

「む?ㅤ光先輩は昔は未来先輩の様に明るかったのか? それは初耳だな。でも確か小学五年生までは友人と一緒に少年野球のリトルチームに所属していたのだろう?」

 と、六道聖が興味を示す。

「うん!! そうなんだよ〜。光はね〜。もう根っからの野球少年だったんだよ〜」

「それでは未来先輩も光先輩と一緒に野球をやっていたのか?」

「ううん」

 と、未来は首を振ると、再び言葉を続ける。

「私はね〜。光が野球を辞めた次の年、小学六年生から野球を始めたんだ〜。だから光と一緒に野球は勿論。キャッチボールすらやった事は無いんだよ〜。それに、さっきも私言ってたでしょ? 私の『夢』は光と野球をやる事だ、って」

「だから僕はもう野球やらないって……」

 明日光は露骨に嫌な顔を見せた。

 灰色の光の目、青い色の未来の目。両者の目に同じ顔が映り込むと、未来は笑い始めた。

「あははは〜。そうだったっけ? そう言えばそうだったね〜」

「昔と言えば。未来先輩は昔から今の様にうるさ……明るい性格だったのか?」

「えっ? 私〜? 私はね。昔は――、」

 

 

 と、明日未来が言いかけた時だった。

 

 

 

 キィィィィン!!

 

 

 快音が鳴り、追いかけるように未来と聖は視線をグラウンドに向けた。

 その、視線の先。一番打者の矢部の打球がライトオーバーの長打を放ち、打球は深く転がっていく。三塁ランナーの毛利が生還して三点目のホームを踏み、京町も懸命に脚を進めて三塁ベースを蹴り上げた所で三塁コーチャーの椎名は勢い良く腕を回したのだ。

「——ちょっ、椎名先輩ィ!? あんたは鬼ですかッ!?」

 三塁ベースで止まろうとしていた京町は思わず椎名の指示に声を荒げる。

「こればかりは仕方ない。もう矢部先輩がこっちに向かってるんだ」

「ひぃぃぃ〜ッ!! 何やってんですか!! あの眼鏡先輩はッ!!」

 

 

 

「おっ!? 狙うのか四点目ッ!! タイミング的には間に合うかどうか分からねえぞ!?」

 思わず前のめりになりながら、球八高校の塚口遊助が大声を上げて叫ぶ。

「いや、四点目を取るに行かざる終えないだろうね。何せ矢部くんがもう既に二塁を蹴り上げているからね」

 と、冷静に言うのは矢中智紀だった。

 矢中の言葉通り。打った矢部本人は俊足を飛ばして二塁ベースを蹴り三塁ベースを狙っていた。

「おいおい……。マジかよ!? 時代に似合わない瓶底眼鏡の矢部ってあんなに足って速かったっけか?」

 と、驚きを隠せない中野渡恒夫。

「いいえ、違うわ。彼の走力の能力が上がっているんだわ……」

 パタンと足元に殴りつけた様に文字が書かれたノートを落として、球八高校のマネージャーを務める神島巫祈は『目』を開いきながら横に首を振る。

(小波くんは選手の基礎能力を僅かに向上させる『精神的支柱』の『能力解放』を持ってるのは確定している……)

 神島巫祈が得意とするデータ収集の中では、恋恋高校の大凡のデータは既に入手済みである。その中でも小波球太の『怪童』と『精神的支柱』、星雄大の『勝負師』と言った『能力解放』が出来る選手はこの二人だけだと割り出されていた。

 

 けど、それとは別に。

 

 いや……、まさか。

 

 そして、一塁ランナーだった京町が三塁ベースを蹴り上げてホームへと突入する。

 アウトかセーフか。誰もがその結果の行方を見届けてようと視線はバックホームに釘付けになっている最中。

 神島巫祈は見逃さなかった。

 ゆらり、と一瞬。

 その僅かだけ矢部の身体が『金色』のオーラを見に纏っていた事を彼女は見逃さなかった。

(まさか……!? 『超特殊能力』の一つでもある『高速ベースラン』の『能力解放』をしたとでも言う事!?)

 

 

 結果的に、京町はホームベースを踏み生還してあかつき大附属に追い詰める一点の追加点を決めた。

 スコアは、五対四。

 遂に一点差まで追い詰めた恋恋高校。

 タイムリースリーベースを打った矢部は三塁で足を止めて恋恋ベンチに向かって高く強くガッツポーズを掲げていた。

 

「ハッ!! 馬鹿が呑気に浮かれてやがる。まだ追い付いた訳じゃねェのによォ。全く愉快な野郎だぜ」

 不機嫌に声のトーンを落としながら言葉を口にしたのは元チームメイトである悪道浩平だった。

 目付きの悪い視線で腕を上げて喜ぶ矢部を見つめる悪道浩平は、ギザギザに尖った歯を剥き出しにしている。

 隣に居る滝本雄二から見てみれば、その表情は特に怒りを表していると言うより何処となく嬉しそうな表情に見て取れた。

「意外と素直な奴なんだな。お前は」

「……あ!? 何か言ったか? 滝本ォ」

「いや、別に。何も言ってないさ」

 悪道浩平は、滝本を鋭く睨みつけると小さく舌打ちを鳴らした。

 

 

「おいおい。見た事ねぇぞ!! なんだ!? あの足の速さは!!」

「矢部ってヤツ、あんなに足が速かったか!?」

 ざわざわ、と。

 恋恋高校二番打者の赤坂がバッターボックスへと向かい、三番打者の星はネクストバッターズサークルで数回素振りをしながら、微かに観客席から聞こえた矢部の足の速さを称賛する声を聞き逃さなかった。

(矢部。テメェ、最高だぜ!! 最高に漢を見せつけてくれたじゃねェか!! 俊足、まさに『スピードスターの矢部』だ!!)

 高ぶるテンション。

 星のモチベーションも最高潮に達する勢いだ。

 

『二番、ショート、赤坂くん』

 

「よっしゃあああああ!!」

 気合を込めた咆哮を一つ。恋恋高校二年生の赤坂紡がバッターボックスに立ち、猪狩守に向かって吠えた。

 ツーアウト、三塁。

 一打出れば同点の場面で、恋恋高校にとって大事なチャンスの場面を迎える。

(頼むぜ、赤坂。何としてでも矢部の野郎を返してくれ。同点ならまだ勝機はある)

 チラッと、ベンチを見る。

 星の目には、プロ野球選手と言う自分の夢と自身の右肩を壊してまで甲子園に連れて行くと自分勝手で我儘を言った小波球太の姿が映る。

 今にも倒れそうな程、疲れ果てた小波の姿は見ていられない。

(絶対、テメェを甲子園の舞台に引っ張って行ってやるからな。後一歩の所まで来てんだ。こんな所でぶっ倒れんじゃねェぞ、小波)

 

 五点のリードを奪っていたが、遂に一点差に追い詰められたあかつき大附属ナイン達にもいよいよ焦りを隠しきれ無いと言った様子だ。

 マウンドに上がるエースナンバーを付ける猪狩守は流れる汗を青色のアンダーシャツで拭って冷静をギリギリに保っては居るが、小波球太の『能力解放』の一つである『精神的支柱』による恋恋高校の猛攻を止める為の打開策が思い浮かずに居る。

 アウトはツーアウト。残るアウトは一つで攻守交代の所まで来ているのだが、あかつき大附属には嫌な流れが漂っていた。

(完全に試合の流れが恋恋に持っていかれたな。この流れを止められるのは、……もう、進しか居ない……)

 この球場には居ない入院している弟の猪狩進の存在が必要不可欠だと、猪狩守は思った。

 ベンチの椅子に立て掛けられている「2」と刺繍されたユニフォームに目を向ける。

 本来なら目の前で、自分のボールを受けている筈の猪狩進のユニフォームを見た。

ㅤもし、この場に居たのなら試合展開は変わっていただろう。

 と、猪狩守にとっては珍しいと言っても良いほど集中力が散漫になっていた。

 

 対する赤坂に投じた初球。

 狙いは高めのインコース。

 振りかぶって腕を振り抜く——。

「ッ!!」

 指先からボールが離れた瞬間。

 猪狩は思わず声が漏れる。

 左腕から放たれたボールは……。

 

 

 

 

 ドスッ!!

 

 

 

 

 と、鈍い音が鳴る。百四十キロの球威の無いストレートが赤坂の背中に当たった。

 あかつき大附属のベンチと場内は騒然。そう、此処まで無死球で投げ抜いて来た猪狩守の今大会初めての死球者が出たからだった。

「赤坂ッ!! 大丈夫か!?」

 次の打者である星が、蹲る赤坂に駆け寄り声を掛ける。

「痛ててて。俺は大丈夫ッス」

 それよりと、赤坂は激痛に顔を歪ませながらも星に言葉を返す。

「星先輩。後は任せたッス」

 そう言葉を残して赤坂は一塁へと走り出して行き、一・三塁の場面で三番打者星に打席が回る。

 

 

 

「さあテ、これでツーアウト。一塁、三塁でバッターはチャンスの場面に最も効果を発揮して、その能力を持つに相応しい『勝負師』の『能力解放』を持つ星くんダ。これは見ものだネ」

 と、リーアム楠が腕を組みニヤリと笑いながら言う。

「行けェーーッ!! 打てェーーッ!! 猪狩くんをけちょんけちょんにぶっ飛すべェーーッ!! 頑張れェーー!! 『愛しのダーリン』!!」

 ブラウン色に染まった髪を靡かせて、瓶底眼鏡の女生徒の矢部田亜希子が誰よりも大きな声で叫んでいた。

 おまけに左手には普段から使用していたグローブを填めて、いつでもホームランボールが来ても取れるように用意周到だ。

「あははハ。日本の恋する女性ハ、熱くなると口が悪くなるなんテ、日本に三年間過ごしていて今日初めて知ったヨ」

「……、矢部田さんは別よ」

 と、呆れ口調で言葉を返すのは八宝乙女だ。

「それにしても矢部くんに『能力解放』の素質があったとはネ。見るからにやや不完全だけド、恐らく『高速ベースラン』と言った所かナ?」

「まあ、そうでしょうね。巫祈さんが驚いているのが目に浮かぶわ」

 クスッと、意地悪そうに笑う。

 

 

 

 

 

「三番 キャッチャー 星くん」

 

 右打席にゆっくりと入る星。

 睨みつける視線の先、猪狩を捉えた。

 前と変わらず一打出れば同点。さらに長打が出れば逆転と言うチャンスに星が立ち向かう。

 

 対する初球。

 猪狩守は左腕を振るう。

 

『ギュルルルルルルルルルルン!!』

 全身のバネと回転をボールに伝え、まるで拳銃の弾丸の様な高速横回転をかけて放つホップする猪狩守のストレート、『ライジング・ショット』

 

 ズバァァァァァァァン!!

 

「ストライクッ!!」

 球速表示、百四十九キロ。

 この回。既に四失点をして打ち込まれても尚、劣らない猪狩守渾身の『ライジング・ショット』がど真ん中に突き刺さった。

 球に込められた『もう打たせない』と言う猪狩守の強い想いが露わになった『ライジング・ショット』の球威に星は思わずブルッと体を震わせる程だ。

 

「……」

 おいおいおい、震えてるじゃねェか。

 まさか、ビビってるってか??

 この大事な場面で、この俺が……??

 

 ——チッ、ふざけんじゃねェぞ!!

 

 俺たちは後どの位、小波の野郎に負担をかけさせるつもりだ。

 肩を壊してる事を黙ってて俺たちを甲子園に連れて行くって勝手に決めてたバカが漸く一緒に甲子園に行くってアイツが言ったんだぞ!?

 だからよォ!!

 だから、この絶好のチャンスだけは。

 この打席だけは、ただの凡打なんかで終わっちまったらダメに決まってんだよ!!

 いい加減目を覚ませよな、星雄大。

 そろそろ一丁、派手にぶっちかましてやろうじゃねェか!!

「さぁ、来やがれ!! 猪狩ッ!! テメェのご自慢の『ライジング・ショット』を今ここでこの俺が打ち砕いてやらァ!!」

 

 ピクリ、左手が微かに動く。

 今の星の言葉に、猪狩守は僅かながら反応を示した。

 分かりやすい挑発だった。

 小波の『精神的支柱』の『能力解放』で基礎能力が上昇して一点様で追い詰められる形に陥ったこの状況で、猪狩守や双菊を含め星の安い挑発に乗るつもりは毛頭無い。

(猪狩。気にするな。お前はただコイツを打ち取れば良い、それだけだぞ)

 双菊はマスク越しにアイコンタクトを送る。

(ああ、分かってる)

 猪狩はすぐ様顔を縦に振った。

 

 二球目。

 アウトコースに逃げるカーブをファールでカットした。

 三球目。

 スライダー、フォーク、カーブ。

 星は続く球全てバットを当ててファールでしぶとく粘って行く。まるで他の球をずっと待っているかのように。

 一球外したボール球を見逃して、カウントはワンボール、ツーストライクとなった。

(こいつ。本気で猪狩の『ライジング・ショット』を待ってやがる。本気で打つつもりでいやがる)

 ゴクリ。と双菊は生唾を飲み込んだ。

 

 

「星くん!! 頼んだよッ!!」

 恋恋ベンチ。

 早川あおいが底力のある、訴えるような叫ぶような声を上げた。

「星さん!! お願いします!!」

 と、早川あおいの隣で祈る様に手を重ねてマネージャーの七瀬はるかは小声で囁く。

 一打同点。

 このチャンスの場面で、星がヒットを放てば振り出しに戻る。そうすれば試合はまだ分からなくなる。

「……、なんて事なのかしら」

 驚き隠せずに思わず言葉を漏らしたのは、恋恋高校の監督を務める加藤理香だ。

 この回は小波球太の打席から始まり、牽制でタッチアウト、山吹の三振であっという間にツーアウトとなったのにも関わらず、粘り粘ってあかつき大附属から四点を奪って一点差まで追い詰めてるチームの団結力に驚きを隠せずに居た。

(小波くんがチームに及ぼす影響力はこれほどまでの力だったとは……『精神的支柱』の『能力解放』を持ってるとは言え。小波くん、君はなんて選手なの!?)

ㅤ加藤理香は、ネクストバッターズサークルで次の打席を待つ小波球太を見つめる。

 今にも倒れそうなほど、疲弊した小波球太の限界はすぐそこまで来ている。

(今ならようやく理解出来たわ。ダイジョーブ博士が四年前に診るはずだった『あの子』じゃなくて、何故か小波くんに目を着けて彼の右肘を勝手に手術したのかを、そう、小波くんには唯一博士の気を引きつかせた『真』の『素質』が在ったから……)

 すると、加藤理香は下唇を噛み締めていた。

(『超特殊能力』を超えた『真・超特殊能力』を開花させられる唯一の選手が小波くんだったと言う訳ね)

 もう小波くんには全てを話しても良いのかもしれないわね、と加藤理香は心の中で言う。

 

 

 

 

 

 

 球場のバックネット後方。

 白衣に身を包んだ禿げた老人と、何やら奇妙な紫色の着ぐるみを纏った謎の物体(?)が、グラウンドを眺めていた。

「オー。ヤッテマス、ヤッテマス。イヤー、球児達ノ活躍ハ、イツ見テモ心ガ踊ルモノデスネ」

 と、老人がカタコトの言葉で愉快げに喋る。

「ギョ」

 と、紫色の着ぐるみが返事を返す。人の声とは思えず、まるで機械を通したノイズ混じりの声色が聞こえる。

「サテサテ、誰カ目新シイ『実験体』ハ居ナイデスカネ?」

 キョロキョロと周りを窺う老人。

 すると。一塁側、恋恋高校の応援に駆け付けた三人組に目を止めた。

 紫髪で赤目の着物を羽織った少女が一人と、顔がそっくりな赤毛の男女が二人の三人組が老人のキラリと光る丸い眼鏡に映り込む。

 オッ、と思わず口元が緩んだ。

「げどークン。コレハ素晴ラシイ『実験体』ヲ見ツケマシタヨ。アノ『赤毛ノ子』ナンカハドウデショウ? 中々、有望ナ素質ヲ持ッテルト見テモ良イデショウ。要ちぇっくシテオイテ下サイ」

「ギョ」

 何処からともなくカシャリ、とシャッター音が一つ鳴る。

 そして、再び視線をグラウンドへ。

 点灯するスコアボードに目を向けた。

 静かに、独り言を。

 語りかけるように、囁くように、

「ソレニシテモ、小波球太クン。ドウヤラコノ試合デ更ナル成長ヲ遂ゲタヨウデスネ。アノ虹ノ光ノ正体ハ……『真・怪童』デス。金色ノ光ヲ纏ウ『超特殊能力』ヲ超エタ『真・超特殊能力』デスネ」

「ギョギョ?」

 『ゲドーくん』と呼ばれた謎の紫色の着ぐるみがふにゃりと歪に首を静かに傾ける。

「彼ニハ元カラソノ素質ガ在リマシタ。現在ぷろ野球、めじゃーりーぐデモ『真・特殊能力』ヲ開花サセタ人物ハ未ダ誰一人トシテ居ナイノデス。ダカラ私ハ、『彼』デハ無ク小波クンニ目ヲ付ケタノデス。未知ナル力ノソノ先ガ知リタクナッタノデース」

 口角を吊り上げた不気味な笑みで言うが、困り眉をしながら言葉を続けた。

「ケレド……小波クンハ、コノ先ノ野球選手トシテノ道ハモウ無イノガトテモトテモ残念デスネ。医学ノ進歩、発展ノタメニハ犠牲ガツキモノデース」

 

 

 

「うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁああああああッ!!」

 大声で叫び、バットを振り抜いた。

 大きな金属音が鳴り響くが、打球は後方バックネットに突き刺さるかの様に飛んでいた。

 左腕・猪狩守と勝負師・星雄大の対決。

 カウント。ツーボール・ツーストライクからの七球目の変化球のフォークボールをカットした所だった。

 対する星の打席では未だ『ライジング・ショット』を投じていない猪狩と双菊バッテリーもいよいよ投じる球も無くなって来た様子だ。

「しぶといヤツだな。いい加減大人しく三振して楽になりがれ」

 と、双菊は不満を露わにした。

「バカ言ってんじゃねェよ。俺はこの打席は死んでも打つって決めてんだ。右肩を壊した小波の為にも三振や凡打なんかで終わる訳にはいかねェんだよ」

 と、星は負けじに本心を吐露する。

「……」

 星の言葉を双菊は聞き逃さなかった。

「すみません。タイムお願いします」

 スッと定位置から立ち上がり、タイムをかけた双菊は猪狩守の元へマウンドへと走りだす。

「おい、猪狩。ここは敬遠を取るぞ」

「何? 正気か? 次のバッターは小波だぞ?」

「ああ、その小波だが。どうやら右肩を壊したらしい」

「——ッ!?」

 一瞬。猪狩は顔を顰めた。

「ここは星を敬遠にして、満塁の場面で小波を仕留めるぞ。そうすれば奴らに絶望感を与えてられるし流れを変えられる」

 ニヤリと笑う双菊。

 勿論、弟の猪狩進に優勝旗を持って帰ると言う約束を交わしている猪狩守。今日以上に勝ちに拘った試合はないと言う程、猪狩の心は燃えている。

 大事な試合で今後の試合展開を左右する大事な場面、自分の提案した作戦が通ると双菊は思っていた。

 ……、けるなよ。

 耳元に微かに聞こえた猪狩守の声。

「ふざけるなよ。相手を舐めるのもいい加減にしろ!! 双菊」

「猪狩……?」

 飛び込んで来たのは賛同する声では無く、全く逆の非難する言葉だった。

「此処まで追い詰められているのは僕たちが想定以上に恋恋高校を甘く見ていたからだ。それに僕は小波が右肩を壊していると言う事には既に気付いている」

「それなら簡単に打ち取れるだろ!? 何を心配してるって言うだよ」

「お前は知らないだけだ、小波球太と言うプレイヤーの実力を。小波が右肩を壊しても未だグラウンドに立ち続けている以上、僕は勝負から逃げるつもりは毛頭ない」

 これ以上、何を言った所でいい返事が返ってくる事はない。

 そう感じた双菊は観念した。

 くるっと踵を返して自分の本来の定位置へと戻って行く。

「それでよ。サインは決まったのか? 俺に投げる球。もうたった一つしかねェだろ?」

 戻ってきた双菊に、星が声をかける。

「ああ、そうだな。お前を捻じ伏せる球は一つしか無さそうだ。この球でこの流れを断ち切ってやる」

 そう。残りはたった一つしかない。

 星が待ち望んでいる。

 猪狩守の『ライジング・ショット』だ。

 

 ピリピリと、

 緊張感が漂う球場。

 その場で見守る観客席に座る人達は、その勝負の行方を見届けようとしている。

 一点差に詰め寄られたあかつき大付属。

 一点差を追いかける恋恋高校。

 ツーアウト。一、三塁。

 右打席に立ち向かうのは三番打者、星雄大。

 猪狩守は、小さく息を吐いて投球モーションへ移る。

 力と想いを込めた『ライジング・ショット』が猪狩守の左腕から打ち放たれた。

 

 

 

 カキィィィィィン!!

 

 

 

 

 

ㅤ快音が響き、

 視線は高々と打ち上がる打球へ集まった。

 

 

 

 

 

 

「まるで花火の様に打ち上がってるな。これは文句なしじゃないか?」

 腕を組んで、そう呟いたのは滝本雄二。

「フン。どでけェ花火なんざ、真っ昼間に見るモンじゃねェだろ。けどよォ……」

 打球の行方を見送りながら悪道浩平は舌打ちを鳴らしながらも、

「ナイスバッティングだ。クソ野郎」

 と、星のバッティングを褒め称えた。

 

 

 

 打ち放った打球の行先をしっかりと見つめ、確信した星はバットから手を離してゆっくりと一塁方向へと足を進める。

 三塁ランナーの矢部は大きく腕を上げながらホームベースを踏み、一塁ランナーの赤坂は高くジャンプして颯爽と二塁へ向かう。

 恋恋ベンチでは、早川あおいと七瀬はるかが目に涙を浮かべお互いに抱き合いながら喜ぶを露わにしていた。

 あかつき大付属の猪狩守は打球の着弾点を見ようとはせず帽子を深く被り下を見つめ、双菊はキャッチャーマスクを外して茫然と立ち尽くしていた。

 ゆっくりダイヤモンドを一周し、逆転の七点目の得点のホームを踏んだ星は、駆け寄る矢部と赤坂をスルーしてすぐさまネクストバッターズサークルに立っている小波の元へと向い。

 ガシッ。と、小波の身体を抱きしめた。

「小波!! やったぞ!! 俺……俺……!!」

 声は上擦り、身体は小刻みに震え、目に涙を浮かべた星は暫く離れようとはしなかった。

「星。……、痛えよ」

 と、小波は金髪の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。

「ありがとな。お前のおかげで元気出てきた。ナイスバッティングだぜ」

「……ああ、俺は未だ諦めちゃいねェからな。テメェと甲子園に行く事。『モテモテライフ』を築く事を、な」

「なら、叶えに行こうぜ。俺たちならきっと出来る筈だ」

 星は小波から身体を離し、ぐしゃぐしゃになった顔を見せない様にアンダーシャツで拭う。

「当たり前だッ!! だから……だからテメェもこんな所で終わるんじゃねェぞ!!」

 小波はバットを強く握りしめてバッターボックスへと歩いて行く。

 

 七対五。

 遂に五点差をひっくり返されたあかつき大付属のエース猪狩守は意気消沈していた。

 全ての想いを込めて放った渾身の一球の『ライジング・ショット』をスタンドまで叩き込まれたのだ。

 打ち取れる球だった。

 空振りの取れる最高の球だった。

 しかし、現実は快心の一打。

 スコアボードに刻まれた「7」と言う数字が物語っている。

 

『四番 ピッチャー 小波くん』

 

 ウグイス嬢がその名前を呼んだ。

 倒すべき唯一の好敵手——、小波球太。

 迎え撃つべき相手。しかし、猪狩守には小波を抑えられると言う確固たる自信は無かった。

 尽く自信に満ちた球は打たれ点差は二点まで離された。

 星に打たれた『ライジング・ショット』は今までにない最高の球だった。

 だが、打たれた。

 それがずっと頭の中で周り続けている。

 

 進。すまない。

 僕はもう此処で終わるかもしれない。

 小波を、恋恋高校を抑える自信がない。

 お前の為に優勝旗を持って帰ると言ったのに……。

 

「兄さん。まだ終わりじゃないよ」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 此処には、弟の猪狩進はいない。

 それなのに目の前で声が聞こえた。

 下を見つめていた顔をゆっくりと上げる。

 確かにチームカラーである青のプロテクターを纏った人物が一人、目の前で立っている。

 そこに居たのは双菊では無かった。

 同じ茶色の髪。

ㅤ左頬には馴染みのある絆創膏が貼ってあり。

 赤よりも色濃い紫の瞳で見つめていた。

「……、進!? お前、どうして!?」

「ごめん兄さん。病室でラジオを聴いてたらいても立ってもいられなくて」

 猪狩進はニコッと笑みを浮かべ、兄である猪狩守の胸にトンとキャッチャーミットで叩いた。

「これからだよ、兄さん。僕たちの力で小波さん達を倒して甲子園に行こう!!」

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