「ふーん、そんなことあったんだー。大変だったねー。よちよち」
これはグンゾウ達が西町で遭遇した災難の話を聞いたヨシノの反応だ。
――別に幼児ではない。プレイのようで、なんだか赤面してしまう。
「俺だったら、全員ぶっ飛ばしてるな。お前達弱すぎなんじゃねーの」
そして、これはリョータの反応。
――いつか同じ状況に追い込んでやろうか。
「……西町には絶対行きたくないですね」
最後はアキの反応。
――一番しっくりくる反応。
「よし、じゃあ、僕たちから報告をしよう」
カズヒコ達はグンゾウ達が感心するほど、よく調査をしてきていた。
街の造りは大体歩いて把握した通り、西町が
行政は辺境伯が行政長官であり、天望楼を中心として行政機関が点在をしているとのこと。しかし、お金もなく、記憶も喪失した人達を助けてくれるような福祉制度は存在しておらず、結婚や死亡ということがなければ特にお世話になることもないようで、とりいそぎグンゾウ達に関係することはなさそうだということだった。
医療も充実とはほど遠いことがわかった。怪我はほとんどが神官による神の奇跡によって完治してしまうので、外科のニーズは極めて少なく、医療といえば病気が中心であるとのこと。しかし、町医者では民間療法が少々行われている程度で、辺境伯お抱えの典医でもなければ高度な医療は望めなそうだ。驚くべきことに医者はどちらかと言えば
ルミアリス神殿の調査でも怪我が神の奇跡によってほぼ完治するので、神官は尊敬されていた。そして神殿にも病気治療の研究をしている一派がいるので、そこに属さない医者はどちらかと言えば変わり者という方が正しいかもしれない。オルタナの外の世界には神官とは別系統の
金融に関しては「ヨロズ預かり商会」がほぼ独占的に両替、預金、引出等の業務を実施しているということがわかった。業務は朝の7時から夜の7時ということだった。
生活費に関して、宿屋は1人部屋だと安くても1晩50カパー(!)程かかることがわかった。ただし、前払いで長期に借りる前提なら、交渉によって下げることができるかもしれないとのこと。稼ぎが悪い新人の内は1部屋1泊10カパーの義勇兵宿舎を活用するのが良さそうだ。
食費に関しては自炊すれば1日10カパー以内くらいに抑えることはできるが、外食をすると1日20カパー程度かかる。
情報収集は北区の市場から少し入った花園通りの入り口にあるシェリーの酒場が義勇兵の溜まり場となっていて、
カズヒコ達はそれ以外にも
また、ギルドにはそれぞれの
「神官とか魔法使いにはなりたくねーな」
リョータが
――どう考えても向いてないしね。
グンゾウは大人なので、心の内に留めておいた。
カズヒコ達の報告に重ならないことを報告すると、リョータ小隊が集めてきた情報は少なかった。グンゾウは少し恥ずかしい思いだった。
義勇兵宿舎は南区の西町近くにあること。造りは極めて質素である。率直に言えばボロいということ。3棟あってガラガラなので、広く使えること。共同だが
「トイレは……掃除……できれば改築したい感じです」
アキがしょんぼりした顔で言った。伏し目がちなので、そう見えるだけで彼女として普通の表情なのかもしれない。
――やっぱりかー。
「でも、お風呂は狭いけど良さそうだったよー」
ヨシノがニコニコと報告をした。
――ポジティブな人が居ると救われるな。
調理器具や裁縫道具等の日常生活用品は管理人から借りることができるため、新たに買わなくても大丈夫とのことだった。
グンゾウはルミアリス神殿と西町の様子、屋台「肉18番」のことを報告した。
「……ということで西町は危ない地域もあり、できれば行かない方がいいと思われる」
「へへへへ、肉喰いてぇ、でも西町こえぇ」
ミッツがヘラヘラしながら怖がっていた。
――いまいち感情がわからない男だな。
「でも、ベテラン義勇兵の話によると、
カズヒコが真面目な顔をして言った。西町を思い浮かべただけでグンゾウ、シムラ、ハイドの顔は暗くなった。
「大体、状況は掴めたようだね。どうだろう今日は早々に宿舎に向かって、各
カズヒコが解散を提案したので、全員賛成をして、宿舎に向かうこととなった。
「よし! 俺様に付いてこい!」
リョータが親指を立てて自分の顔に向け、ニカッと歯を出して笑った。
――職業か……。俺には何が向いてるのかな? 戦士って
宿舎への道。いつの間にか、宿舎へはヨシノの先導で行く形になっていた。リョータは往き道を忘れてしまったらしく、ヨシノに教えてもらいながら隣を歩いている。
――何をしてたんだ、あいつ?
グンゾウはリョータを呆れた顔で見ながら、少し離れた後ろを付いていった。隣にはシムラがぶつぶつ言いながら歩いている。
「シムラ、どうかした?」
シムラははっとした顔をして、グンゾウの方を向いた。
「あ、すいません。いやぁ、職業を何にしようか悩んでまして。体小さいんで、戦士とかは無理やなぁと。でも神官とか、魔法使いとか、勉強が必要そうで、それもちょっと……」
そう言うとシムラはまた悩み始めてしまった。
「シムラはこれから背も伸びるだろうし、身が軽いから、何でもできると思うよ」
グンゾウが慰めると、シムラは明るい顔になった。
「へへ、そうですかね? まあ、他の人とのバランスを見ますわ」
――悩むよなぁ……。みんなは若いから
「ハイド、お前はどう考えてるんだい?」
グンゾウの後ろを歩いていたハイドは急に話しかけられて、少しびくっとなったが、すぐにいつもの不敵な笑みに戻った。
「キシシシ、僕は
明確なお答え。相変わらず判断に
「そうなんだ。すげぇな、相変わらず。悩んだりしないのか?」
「キシシ、そうだ。大体、魔法使い最強! 魔法使いマンセー! と相場は決まっている。フシシ」
「お、おう。良く分かんないけど、自信の程は伝わってきた」
――
少し前には、アキ、チョコ、ノッコが並んで歩いていたが、3人とも職業について楽しそうに話をしている。ガールズトークというやつだ。
ノッコが明るく話し、チョコが
グンゾウはアキに職業の選択希望について聞きたかったが、3人のガールズトークを邪魔すると、後々
「へっへっへ、チョコはどうなの? 何の職業を選ぶの?」
ミッツがグンゾウを後ろから走り抜いていって、急にチョコ
案の定、チョコは少しひいた感じでミッツを見て、拗ねたような口で何かを言っていた。他の2人もミッツから半歩遠ざかった感じだった。
――あれはあかんやつや。若さ故の過ちだな……。
ミッツを追いかけてか、タイチが後ろからやってきてグンゾウ達の前を歩き始めた。
「タイチ君はギルドどうするか希望あるの?」
グンゾウはタイチに聞いた。
「うーん、まだこれってのは無いですけど……。みんなの役に立てる職業が良いですかね」
とタイチは振り返って、人の良さそうな回答をした
「なるほど、偉いなぁ」
――うーん、役に立つ……。
「タイチ、優等生回答やなー」
シムラがタイチに絡んでいった。
「なんだよ、シムラはどうなんだよー」
「それ聞いたらあかんねん。全然頭回らへんねん」
シムラが口を半開きにして、目は空を見つめ、
「あはは、いつもだろー」
――あー、俺も全然決められないわ。とりあえず、風呂入りたいな。
グンゾウ待望のお風呂が付いた義勇兵宿舎は目の前に迫っていた。
「管理人のおじさん、どうもありがとー」
ヨシノが義勇兵宿舎3号棟の管理人にお礼を言っている。
義勇兵宿舎についたグンゾウ達はさっそく宿泊の手続きをした。1号棟は既に先輩義勇兵が1組いるということなので、どうせなら広々使おうということでカズヒコ
――ナイス! ヨシノ!
特に荷物も持っていないグンゾウ達は、施設の確認とトイレを各人済ますと、早々に中庭のテーブルに集合し、小隊の編成について話し合いを始めた。
ヨシノとアキが陶器製のカップに
リョータが話し合いを仕切り始める。大袈裟に両腕を大きく開いて、全員の注目を集める。
「よし、じゃあ、それぞれ希望を聞いていこう。俺様は
「はい! あたしは
リョータの発言を
「えっ?! ……お、俺様も戦士だぜぇ!」
――いま、
ヨシノは希望の理由を話し始めた。
「あたし、たぶん体動かすのとか好きだし、結構丈夫だし。華麗に舞う女戦士ってすごい憧れるんだー」
グンゾウは念のため、ヨシノに確認した。
「カズヒコ達の話じゃ、戦士は敵の前に体を
「そうだぜ、俺が戦士をするから、ヨシノは後衛でもいいんだぜ!」
リョータも同じように聞いた。
「んー。少しは不安だけど……、でもリョータが戦士をしてくれるなら、
「お、おう、任せろってんだ。敵なんざ俺1人で止めてやんぜ」
リョータは少し顔を赤らめながら胸を叩いた。
――リョータは
「よし! 前衛は決まった。あとの4人はどうするんだ?」
リョータが周りを見回す。
やはり、あの男が手を挙げる。
「キシ……ぼ、僕は
ハイドは少し緊張をしながら、しかし迷いのない口調で魔法使いになりたいと希望した。
「んー。他に魔法使いになりたい奴いるか? いないなら、オタクでいいや」
リョータはヨシノと自分が決まったのでほとんど興味を失っているらしく、対応が適当になってきている。
「オタクじゃなくて、ドイハっちでしょ。リーダーならちゃんとして」
ヨシノが
――まあ、ドイハっちも違うけどね。
「はいはい、ハイド、ハイドと。ハイドは魔法使いと。次は誰だ?」
――あれ? このままだと一番死ぬっていう
グンゾウが
「あん? イガグリどうした?」
全員の視線がシムラに集まる。
「俺は
シムラが希望を告げた。リョータは呆けた顔をして少し時が止まる。
「狩人ってなんだっけ? わりぃ、印象薄くて覚えてないわ」
全員ずっこけそうになる。
「キシシ。ゆ弓使い。遠距離アタッカーだ。キシシシシ」
ハイドが珍しくリョータをフォローする。
「おお、そうかそうか。よしよし。イガグリは弓使いと。……ん? いまのとこ
今度は希望を出した4人の視線がグンゾウと隣に座っているアキを交互に行き交う。アキは伏し目がちの目をますます伏して、地面を眺めていた。
――一番危険な
「じゃあ、お……」
グンゾウは手を少しだけあげて口を開こうとしたところ、ハイドが急に割り込む。
「神官はグンゾウで。キシシシシシシ」
「ぬぉ?」
グンゾウは変な声を出してしまった。
――なに、
リョータも変にハイドへ理解を示して納得した。
「そうだよな。オッサン一番長く生きてるんだから、危ない
――え? どういうこと?
「ちょ、
グンゾウが一応自分から、希望を言おうとした。
「あん? 何、オッサン神官嫌なの?」
リョータがグンゾウを五月蝿そうに見る。
「いや、そうじゃないけど」
「なら、オッケーイっしょ」
リョータが仕事が終わった感満載で片付けようとすると、良識のあるヨシノが口を挟んだ。
「ちょっと、ちょっと、勝手に決めちゃ駄目でしょー。グンちんが神官なのはいいと思うけど、アキちゃんの希望も聞いてないしー」
――あ、俺の神官はいいんだ。
「この流れ面白すぎるやん。ずるいわぁ」
シムラは別の方向で何かに感動を覚えている。
グンゾウは完全に味方がおらず、会話の流れに乗れないことに絶望していると、アキが「はい……」と言って、おずおずと手を挙げた。
――もしかして、アキが神官を希望するとか?!
全員の視線がアキに集中する。
見た目とは違い、意外と低く落ち着いた声、でもかわいらしい女性の声がアキの口から絞り出される。
「私……。
「えっ?!」「ええっ?!」「おっ?!」「へっ?!」「キシ?!」
これでグンゾウを除く全員の希望が通って、小隊の編成は決まった。