廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

10 / 59
9.職業選択の事由 AHAHAh!

「ふーん、そんなことあったんだー。大変だったねー。よちよち」

 これはグンゾウ達が西町で遭遇した災難の話を聞いたヨシノの反応だ。

 ――別に幼児ではない。プレイのようで、なんだか赤面してしまう。

「俺だったら、全員ぶっ飛ばしてるな。お前達弱すぎなんじゃねーの」

 そして、これはリョータの反応。

 ――いつか同じ状況に追い込んでやろうか。

「……西町には絶対行きたくないですね」

 最後はアキの反応。

 ――一番しっくりくる反応。

 小隊(パーティ)内で西町の危険性を共有していると、カズヒコ達も全員戻ってきて情報交換が始まった。

「よし、じゃあ、僕たちから報告をしよう」

 カズヒコ達はグンゾウ達が感心するほど、よく調査をしてきていた。

 街の造りは大体歩いて把握した通り、西町が貧民(スラム)街であるという点を除けば各区天望楼(てんぼうろう)付近に商業施設や付随的(ふずいてき)な工業施設が多く、その周辺に住宅地が存在するという造りになっている。商業施設といっても商店や屋台、工業施設と言っても工房(こうぼう)と言った方が正しい表現かもしれない。住宅地の中にも生活に密接した商店や工房が点在(てんざい)していたり、住宅地の縁辺部には軍の訓練所等の大型施設があったりもするとのこと。街の出入り口として南門は天竜山脈に(さえぎ)られ、限られているので、義勇兵の主な主戦場は北門外方向になるようだ。

 行政は辺境伯が行政長官であり、天望楼を中心として行政機関が点在をしているとのこと。しかし、お金もなく、記憶も喪失した人達を助けてくれるような福祉制度は存在しておらず、結婚や死亡ということがなければ特にお世話になることもないようで、とりいそぎグンゾウ達に関係することはなさそうだということだった。

 医療も充実とはほど遠いことがわかった。怪我はほとんどが神官による神の奇跡によって完治してしまうので、外科のニーズは極めて少なく、医療といえば病気が中心であるとのこと。しかし、町医者では民間療法が少々行われている程度で、辺境伯お抱えの典医でもなければ高度な医療は望めなそうだ。驚くべきことに医者はどちらかと言えば賎業(せんぎょう)に近いイメージらしい。

 ルミアリス神殿の調査でも怪我が神の奇跡によってほぼ完治するので、神官は尊敬されていた。そして神殿にも病気治療の研究をしている一派がいるので、そこに属さない医者はどちらかと言えば変わり者という方が正しいかもしれない。オルタナの外の世界には神官とは別系統の呪医(シャーマン)と呼ばれる職業(クラス)も存在するらしい。

 金融に関しては「ヨロズ預かり商会」がほぼ独占的に両替、預金、引出等の業務を実施しているということがわかった。業務は朝の7時から夜の7時ということだった。

 生活費に関して、宿屋は1人部屋だと安くても1晩50カパー(!)程かかることがわかった。ただし、前払いで長期に借りる前提なら、交渉によって下げることができるかもしれないとのこと。稼ぎが悪い新人の内は1部屋1泊10カパーの義勇兵宿舎を活用するのが良さそうだ。

 食費に関しては自炊すれば1日10カパー以内くらいに抑えることはできるが、外食をすると1日20カパー程度かかる。

 情報収集は北区の市場から少し入った花園通りの入り口にあるシェリーの酒場が義勇兵の溜まり場となっていて、()()()()情報収集が可能だということ。ただし、まともな義勇兵であれば昼間は外で戦っており、夕方から夜にかけて集まるので、情報収集の効率性を考えれば夕飯の時間帯以降を狙うのが良いと分かった。カズヒコ達の情報収集もシェリーの酒場にいた義勇兵に多少(おご)ることで得たものがほとんどであるということで、義勇兵同士の横の繋がりが義勇兵生活を続けていく上では重要そうだった。

 カズヒコ達はそれ以外にも職業(クラス)について情報を得ていた。オルタナで就くことができる職業は全てで7つ、戦士(せんし)聖騎士(せいきし)暗黒騎士(ドレットナイト)狩人(かりうど)盗賊(シーフ)神官(しんかん)魔法使(まほうつか)いとのこと。それぞれの職業にギルドと呼ばれる職能団体(しょくのうだんたい)があり、そこに8シルバー納め、見習いとして初心者訓練を受けるとその後、技術指導や身分の保証が得られるとのこと。ただし、新たな技術指導を受けるには追加で指導料を納める必要があるとのことだった。長年ギルドに所属して、技術を磨けば指導者にすらなることができるらしい。これらはグンゾウ達がルミアリス神殿で得た情報と一致した。

 また、ギルドにはそれぞれの(おきて)があり、それを守らないとギルド員としての資格を失ったり、刺客(しかく)を差し向けられることすらあるらしい。掟の一例として、暗黒騎士ギルドの「一度入ったら二度と出られない」や、盗賊ギルドの「特になし」なんてものがある。

 小隊(パーティ)を編成する際に、重装備で盾役(タンク)となる戦士又は聖騎士と、治療者(ヒーラー)となる神官は必須であるとのこと。重要であるが故に、当該職業の死亡率は高く、特に神官は装備が薄く、敵も真っ先に狙うため死亡率が高いという不吉な情報も得ていた。

「神官とか魔法使いにはなりたくねーな」

 リョータが(つぶや)いた。

 ――どう考えても向いてないしね。

 グンゾウは大人なので、心の内に留めておいた。

 

 

 カズヒコ達の報告に重ならないことを報告すると、リョータ小隊が集めてきた情報は少なかった。グンゾウは少し恥ずかしい思いだった。

 義勇兵宿舎は南区の西町近くにあること。造りは極めて質素である。率直に言えばボロいということ。3棟あってガラガラなので、広く使えること。共同だが沐浴(もくよく)部屋やトイレは完備されているとのこと。各棟には管理人がいて、みんな引退した元義勇兵とのことだった。

「トイレは……掃除……できれば改築したい感じです」

 アキがしょんぼりした顔で言った。伏し目がちなので、そう見えるだけで彼女として普通の表情なのかもしれない。

 ――やっぱりかー。

「でも、お風呂は狭いけど良さそうだったよー」

 ヨシノがニコニコと報告をした。

 ――ポジティブな人が居ると救われるな。

 調理器具や裁縫道具等の日常生活用品は管理人から借りることができるため、新たに買わなくても大丈夫とのことだった。

 グンゾウはルミアリス神殿と西町の様子、屋台「肉18番」のことを報告した。

「……ということで西町は危ない地域もあり、できれば行かない方がいいと思われる」

「へへへへ、肉喰いてぇ、でも西町こえぇ」

 ミッツがヘラヘラしながら怖がっていた。

 ――いまいち感情がわからない男だな。

「でも、ベテラン義勇兵の話によると、盗賊(シーフ)はそれなりに有用な職業のようだよ」

 カズヒコが真面目な顔をして言った。西町を思い浮かべただけでグンゾウ、シムラ、ハイドの顔は暗くなった。

「大体、状況は掴めたようだね。どうだろう今日は早々に宿舎に向かって、各小隊(パーティ)でどのギルドに所属するか打ち合わせするって方向で。生活費も限られているし、早速明日にはギルドに入ろう!」

 カズヒコが解散を提案したので、全員賛成をして、宿舎に向かうこととなった。

「よし! 俺様に付いてこい!」

 リョータが親指を立てて自分の顔に向け、ニカッと歯を出して笑った。

 ――職業か……。俺には何が向いてるのかな? 戦士って(がら)じゃないしな、盗賊はちょっと……なりたくないしな。

 宿舎への道。いつの間にか、宿舎へはヨシノの先導で行く形になっていた。リョータは往き道を忘れてしまったらしく、ヨシノに教えてもらいながら隣を歩いている。

 ――何をしてたんだ、あいつ?

 グンゾウはリョータを呆れた顔で見ながら、少し離れた後ろを付いていった。隣にはシムラがぶつぶつ言いながら歩いている。

「シムラ、どうかした?」

 シムラははっとした顔をして、グンゾウの方を向いた。

「あ、すいません。いやぁ、職業を何にしようか悩んでまして。体小さいんで、戦士とかは無理やなぁと。でも神官とか、魔法使いとか、勉強が必要そうで、それもちょっと……」

 そう言うとシムラはまた悩み始めてしまった。

「シムラはこれから背も伸びるだろうし、身が軽いから、何でもできると思うよ」

 グンゾウが慰めると、シムラは明るい顔になった。

「へへ、そうですかね? まあ、他の人とのバランスを見ますわ」

 ――悩むよなぁ……。みんなは若いから伸び代(のびしろ)があるけど、俺は明らかに衰えていく一方な気がするし……。こういう時は悩まなそうな奴にも話を聞いてみるか。

「ハイド、お前はどう考えてるんだい?」

 グンゾウの後ろを歩いていたハイドは急に話しかけられて、少しびくっとなったが、すぐにいつもの不敵な笑みに戻った。

「キシシシ、僕は魔法使(まほうつか)い。魔法使い一択(いったく)だ。キシシ」

 明確なお答え。相変わらず判断に(よど)みが無い。

「そうなんだ。すげぇな、相変わらず。悩んだりしないのか?」

「キシシ、そうだ。大体、魔法使い最強! 魔法使いマンセー! と相場は決まっている。フシシ」

「お、おう。良く分かんないけど、自信の程は伝わってきた」

 ――本気(マジ)でよく分からない奴だが、とりあえず、すごい確信だ。

 少し前には、アキ、チョコ、ノッコが並んで歩いていたが、3人とも職業について楽しそうに話をしている。ガールズトークというやつだ。

 ノッコが明るく話し、チョコが()ねているような口で鋭く突っ込む、アキは聞き役というような感じに見えた。

 グンゾウはアキに職業の選択希望について聞きたかったが、3人のガールズトークを邪魔すると、後々評判(レピュテーション)に悪そうなので、我慢をした。

「へっへっへ、チョコはどうなの? 何の職業を選ぶの?」

 ミッツがグンゾウを後ろから走り抜いていって、急にチョコ()()に話しかけた。

 案の定、チョコは少しひいた感じでミッツを見て、拗ねたような口で何かを言っていた。他の2人もミッツから半歩遠ざかった感じだった。

 ――あれはあかんやつや。若さ故の過ちだな……。

 ミッツを追いかけてか、タイチが後ろからやってきてグンゾウ達の前を歩き始めた。

「タイチ君はギルドどうするか希望あるの?」

 グンゾウはタイチに聞いた。

「うーん、まだこれってのは無いですけど……。みんなの役に立てる職業が良いですかね」

 とタイチは振り返って、人の良さそうな回答をした

「なるほど、偉いなぁ」

 ――うーん、役に立つ……。神官(しんかん)とか?

「タイチ、優等生回答やなー」

 シムラがタイチに絡んでいった。

「なんだよ、シムラはどうなんだよー」

「それ聞いたらあかんねん。全然頭回らへんねん」

 シムラが口を半開きにして、目は空を見つめ、(ほう)けた顔をして、タイチを笑わせていた。

「あはは、いつもだろー」

 ――あー、俺も全然決められないわ。とりあえず、風呂入りたいな。

 グンゾウ待望のお風呂が付いた義勇兵宿舎は目の前に迫っていた。

 

 

「管理人のおじさん、どうもありがとー」

 ヨシノが義勇兵宿舎3号棟の管理人にお礼を言っている。

 義勇兵宿舎についたグンゾウ達はさっそく宿泊の手続きをした。1号棟は既に先輩義勇兵が1組いるということなので、どうせなら広々使おうということでカズヒコ小隊(パーティ)は2号棟を、リョータ小隊は3号棟を根城とすることに決めた。各棟には沐浴部屋やトイレ、キッチンに中庭等の共用部が付いていて、詰め込めば全部で50人程が泊まれる設備がある。現在は1棟を6人で占有しているので、本当に広々としている。ベッドは干し草の上に毛布を敷いたものだが、管理人が真新しい毛布を持ってきてくれた。ヨシノが新しい毛布を頼んでくれたらしい。

 ――ナイス! ヨシノ!

 特に荷物も持っていないグンゾウ達は、施設の確認とトイレを各人済ますと、早々に中庭のテーブルに集合し、小隊の編成について話し合いを始めた。

 ヨシノとアキが陶器製のカップに()()()()んで各人に配ってくれた。

 リョータが話し合いを仕切り始める。大袈裟に両腕を大きく開いて、全員の注目を集める。

「よし、じゃあ、それぞれ希望を聞いていこう。俺様は暗黒騎(ドレッドナ)……」

「はい! あたしは戦士(せんし)!」

 リョータの発言を(さえぎ)って、ヨシノが手を挙げて宣言をした。

「えっ?! ……お、俺様も戦士だぜぇ!」

 ――いま、暗黒騎士(ドレットナイト)って言おうとしなかったか、リョータ(こいつ)

 ヨシノは希望の理由を話し始めた。

「あたし、たぶん体動かすのとか好きだし、結構丈夫だし。華麗に舞う女戦士ってすごい憧れるんだー」

 グンゾウは念のため、ヨシノに確認した。

「カズヒコ達の話じゃ、戦士は敵の前に体を(さら)して、結構危険な職業だって言うけど、大丈夫かい?」

「そうだぜ、俺が戦士をするから、ヨシノは後衛でもいいんだぜ!」

 リョータも同じように聞いた。

「んー。少しは不安だけど……、でもリョータが戦士をしてくれるなら、盾役(タンク)は任せていいんでしょ? 飛び回って攻撃するよ!」

「お、おう、任せろってんだ。敵なんざ俺1人で止めてやんぜ」

 リョータは少し顔を赤らめながら胸を叩いた。

 ――リョータは聖騎士(せいきし)って手も有ったけど……、ルミアリス神殿は似合わないか。結構いいんじゃないかな。この2人の前衛は。

「よし! 前衛は決まった。あとの4人はどうするんだ?」

 リョータが周りを見回す。

 やはり、あの男が手を挙げる。

「キシ……ぼ、僕は魔法使(まほうつか)いだ。これで、さ、最強。キシシシシシシ」

 ハイドは少し緊張をしながら、しかし迷いのない口調で魔法使いになりたいと希望した。

「んー。他に魔法使いになりたい奴いるか? いないなら、オタクでいいや」

 リョータはヨシノと自分が決まったのでほとんど興味を失っているらしく、対応が適当になってきている。

「オタクじゃなくて、ドイハっちでしょ。リーダーならちゃんとして」

 ヨシノが凜々(りり)しい顔でリョータを睨んだ。

 ――まあ、ドイハっちも違うけどね。

「はいはい、ハイド、ハイドと。ハイドは魔法使いと。次は誰だ?」

 ――あれ? このままだと一番死ぬっていう治療者(ヒーラー)がいなくね?

 グンゾウが治療者(ヒーラー)について考えていると、シムラが迷いを振り切るようにシャキッと手を挙げた。

「あん? イガグリどうした?」

 全員の視線がシムラに集まる。

「俺は狩人(かりうど)やるっす。俺、狩人はできる気がする」

 シムラが希望を告げた。リョータは呆けた顔をして少し時が止まる。

「狩人ってなんだっけ? わりぃ、印象薄くて覚えてないわ」

 全員ずっこけそうになる。

「キシシ。ゆ弓使い。遠距離アタッカーだ。キシシシシ」

 ハイドが珍しくリョータをフォローする。

「おお、そうかそうか。よしよし。イガグリは弓使いと。……ん? いまのとこ神官(しんかん)いねーじゃん。小隊で一番大事なんだろ?」

 今度は希望を出した4人の視線がグンゾウと隣に座っているアキを交互に行き交う。アキは伏し目がちの目をますます伏して、地面を眺めていた。

 ――一番危険な神官(しんかん)をアキにさせるのはちょっと心苦しいな……。ここは俺がやるしかないか。

「じゃあ、お……」

 グンゾウは手を少しだけあげて口を開こうとしたところ、ハイドが急に割り込む。

「神官はグンゾウで。キシシシシシシ」

「ぬぉ?」

 グンゾウは変な声を出してしまった。

 ――なに、ハイド(おまえ)、勝手に……。

 リョータも変にハイドへ理解を示して納得した。

「そうだよな。オッサン一番長く生きてるんだから、危ない職業(やつ)で。オッケーイ! これでほぼ小隊完成だ! ぱぁっと飲みにでも行こうぜ!」

 ――え? どういうこと?

「ちょ、()っ!」

 グンゾウが一応自分から、希望を言おうとした。

「あん? 何、オッサン神官嫌なの?」

 リョータがグンゾウを五月蝿そうに見る。

「いや、そうじゃないけど」

「なら、オッケーイっしょ」

 リョータが仕事が終わった感満載で片付けようとすると、良識のあるヨシノが口を挟んだ。

「ちょっと、ちょっと、勝手に決めちゃ駄目でしょー。グンちんが神官なのはいいと思うけど、アキちゃんの希望も聞いてないしー」

 ――あ、俺の神官はいいんだ。

「この流れ面白すぎるやん。ずるいわぁ」

 シムラは別の方向で何かに感動を覚えている。

 グンゾウは完全に味方がおらず、会話の流れに乗れないことに絶望していると、アキが「はい……」と言って、おずおずと手を挙げた。

 ――もしかして、アキが神官を希望するとか?! 治療者(ヒーラー)は2枚いても良いよね。神官衣ってちょっとかわいいし、いいかも。

 全員の視線がアキに集中する。

 見た目とは違い、意外と低く落ち着いた声、でもかわいらしい女性の声がアキの口から絞り出される。

「私……。聖騎士(せいきし)になります」

「えっ?!」「ええっ?!」「おっ?!」「へっ?!」「キシ?!」

 

 

 これでグンゾウを除く全員の希望が通って、小隊の編成は決まった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。