廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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「灰と幻想のグリムガル level.9 ここにいる今、遥か遠くへ」8月25日発売決定で、嬉しかったので夏休みとか取ってる場合じゃなく急いで更新しました。

ご愛読いただいている方は、後半戦スタートです。どぞどぞー。


14.キッカワがいた夜

「ありゃねぇぜ」

 乾杯の直後なのに、リョータが文句を言い始めた。エールの入った陶製(とうせい)のジョッキをグイッとあおる。

「ダムロー旧市街のゴブリンがあんなに強いなんて、俺も聞いていないなぁ」

 グンゾウは答える。グンゾウはウワという木の実からできた蒸留酒(スピリッツ)を生で飲んでいた。蒸留酒の中でも比較的価格の高いものを選んだ。贅沢(ぜいたく)な気持ちになる。

 グンゾウ達(正確には、宿舎で寝ているカズヒコを除く11人)は、シェリーの酒場で生還を祝っていた。カズヒコを真っ直ぐ宿舎に連れて行くために、戦利品の売却すらもしていないが、明らかに銀貨が沢山手に入ったので、今日は盛大に飲むことに決まった。

「あたしもー。毎回あんなに強いのは無理ー」

 ヨシノにしては珍しく弱気なことを言っている。そして、珍しくお酒を飲んでいる。ペルシクの実という果実をウワの蒸留酒に漬け込んだお酒を炭酸水で割ったものだ。甘いので女の子でも飲みやすい。チョコやノッコも同じものを飲んでいる。グンゾウは数名を除き、お酒飲んではいけない年齢な気がしたが、グリムガルでは特にそういった制限はないため、皆自由にお酒を飲んでいる。ただし、本当に小さい子どもはお酒の味や酔いを嫌がり飲まないようだ。

「あの、でも、当初聞いてた話より装備とか、お金とか結構持ってますよね……」

 装備が充実したアキは、低くて落ち着いた声でメリットについて触れる。アキは渋く、リーチェという穀類(こくるい)からできた醸造酒をちびちびと飲んでいた。ボトルで1シルバー以上のものを冷やして飲むときりっと()んだ甘みと共に独特な旨味(うまみ)が口に広がり、かなり美味い。しかも香りが良い。グラスだと1杯10~20カパーもする。グンゾウもお金がある日は飲む。安いものを飲むと水っぽい味がして美味しくない上に、悪酔いするので高いものがお勧めだ。

 ――あれも後で飲みたいな。

「あんなにいたら、矢が足りひん」

 シムラは陶製のグラスに入ったカクテルを飲んでた。シムラが酒を飲もうとしたところ、リョータに「背が伸びねぇぞ」とからかわれたため、混成酒(リキュール)をガナーロの乳で割ったものを飲んでいる。これは女の子に人気のお酒で飲みやすい。

「まあまあ、生き残れたし、なんだか僕らもレベルアップした感じで、良くないですか? へへへっ」

 ミッツはエールを片手にへらへらしながらお酒を飲んでいる。そのまま向いにいるチョコにちょっかいを出そうとして、嫌そうな顔をされている。

 ――そういう関係性か……。

 グンゾウは人間関係を観察していた。

「ま、ミッツの言うことも一理(いちり)ある。ダムロー攻略はカズヒコが戻ってから考えるとして、今日は飲もうぜ」

 珍しくリョータが正論を言ったので、グンゾウも同意してもう一度全員で乾杯をした。全員、今日は何回でも乾杯したい気分だった。

「よう、よう、よーう、君たち、すごい盛り上がってるじゃーん? どうしたの? パーリナイ?」

 突然、軽い口調で細目の男がエールのジョッキを片手に現れ、グンゾウ達に話しかけてきた。

 ――どこかで見たことがあるな。誰だっけ?

「あん? てめぇ、あんだこら」

 相変わらず、狂犬(リョータ)が順位を明確するため、最初に噛みつく。細目の男は「まあまあ、だいじょーぶ、だいじょーぶ、どうどうどう」とか言いながらエールをぐいっと飲んで、ついでに机の上のおつまみを勝手に食べた。

 グンゾウは細目の男が誰かを思い出そうと頭の中を検索していると、最初にヨシノが声を上げた。

「あー! 最初、塔で一緒にいた……キツネコーラ?」

 シムラが突っ込む。

「ちゃうやろ……あれや、キツメナワ」

 2人とも惜しいところまで思い出していたが、微妙に違っていた。

「キッカワくんじゃないですか?」

 タイチが正解を出す。

 ――あ、それだ。

「あれぇ? みんな俺ちゃんのこと知ってるの? ぐーきー、ぐーきー」

 キッカワは自分の事を指差して、驚いたような顔をした。ついでに隣のテーブルから椅子を奪って、ヨシノとリョータの間に座る。

 座り順としては、アキ、ヨシノ、キッカワ、リョータ、グンゾウ、ハイド、シムラだ。

 アキはお酒をチビチビ飲みながら、ヨシノと逆隣のチョコやノッコとガールズトークをしている。

 テーブルの端っこではデカいクザクが白けた顔で(ひと)りエールを飲んでいた。ほとんどしゃべらないのでほぼ風景と同化している。グンゾウはたった今まで居ることすら気付かなかった。

「知ってるも何も、俺等と同期じゃねーか、馬鹿か」

 ヨシノとの間に入られ少し不快な顔をしたリョータが話す。

「えええー? ほんとー? 俺ちゃんの同期はレンジやハルっちだけど……」

 キッカワは訳がわからないという風に頭を捻っている。しかし、元々お気楽な感じの人間なので大して悩んでいないように見えた。むしろグンゾウ達の方が頭を(ひね)りたい状況だった。

「うへへへ、何言ってるんだよ、キッカワちゃん、俺達のこと忘れちゃったのかな? へへへ」

 キッカワは遠くにいるミッツにまでいじられ始めた。

「いやー。ごめーんね、俺ちゃん顔が広いからさー」

 キッカワはヘラヘラしながらエールをあおった。

「なんやキッカワ、ええ格好してるな?」

 シムラがキッカワの格好に目を付ける。シムラの言うとおり、キッカワの服装はグンゾウ達の着ている服よりも生地の(しん)がしっかりしている。デザインもそれなりでオルタナの服装(ファッション)としてはお洒落(しゃれ)な部類に入る。古着ではなく新品の服のように見えた。

「えへへ、俺ちゃんが着る服は全部よく見えるって? いやー、うれしいーなー、せーんきゅ!」

 キッカワはウィンクしながら、左手でピースの形を作って目の部分に当てた。あまりに軽薄(けいはく)な会話に、グンゾウ達の間に少し寒い雰囲気(ふんいき)(ただよ)った。

 グンゾウは一番気になっていることを聞いた。

「ところでヴェールはどうしたんだ? ヴェールを追っかけて行ったんじゃなかったっけ?」

「えーっと、ヴェールって誰だっけー? ど忘れしちゃってー。 ごめーんね♪」

 キッカワは「てへぺろっ」と言って自分の頭を叩いた。

「なんだそりゃ」

 リョータが呆れたように言った。

「バカだ……キシシ」

 独りだけジュースをチビチビと飲んでいたハイドが口を開いた。

 グンゾウはリョータ、シムラ、ハイドの耳を引っ張って(ささや)いた。

「もしかしたらさ、戦闘で頭を打ったりして記憶がないのかもしれないぞ? だって、あんな美人をそう簡単に忘れるか? ついでにヴェールに置いていかれたりして……」

「それもそうだな。オッサンもたまには鋭いこと言うな」

 リョータは憎たらしく笑った。

「オッサンじゃねーし、お前の3倍はいつも鋭いし」

 シムラは大袈裟(おおげさ)に首を縦に振りながら、納得した。

「確かに、あんなべっぴんさん忘れるなんておかしいですよね」

「キシシ、バカにつける薬は無い、キシシシシシシ」

「だとしたら、かわいそうだから、話を合わせてやろうぜ」

 4人で(うなず)きあう。そんな様子をキッカワは「あれれー?」などと言いながら覗き込んでくる。

 ヨシノはお酒に弱いらしく、顔を真っ赤にしてぽーっとグンゾウ達を眺めていた。

「いやー、キッカワも大変だったと思うけど、俺達もダムローで大変だったんだよ」

 グンゾウが今夜の飲み会の趣旨(しゅし)を話し始めた。

 

 

 キッカワの細い目の奥がキラッと光る。普段からニコニコしているので細く見えるが、実はそんなに細くない。切れ長の凜々(りり)しい目をしている。

「それはー……新市街のリンゴブかもねー?」

 キッカワは親指と人差し指をL字にした手を(あご)に当てながら、いかにも分かっている風に(うなず)いた。

「ハルっちがダムローのリンゴブを狩りまくってたからねー。ごいすー。ごいすーね。新市街のリンゴブが流れこんできた的な? それはばいやー? 意味変わっちゃう? やばいー的な? リンゴブの単体は弱いけど、繁殖力(はんしょくりょく)が半端ないし、数が多いからねー。ネズミ(ざん)ならず、ゴブ算的に増えてくー的な? 流石に新市街はリンゴブの根城だから、突っ込んでいく義勇兵もいないー的な? おねーちゃん、もういっぱい、ちんかちんかのルービー!」

 給仕の娘が「はーい」という返事をする。キッカワは空っぽになったジョッキの外側に付いていた泡を指で(すく)って舐めた。

「けっ! (つえ)ぇーのもいんだよ」

 おつまみの肉を噛みちぎりながら、リョータは吐き捨てるように言った。

「旧市街の入り口周辺から殺気(さっき)()ってて、やばかったー」

 ヨシノはジョッキの中を見つめながらつぶやいた。

「うん、うん、そうなんだー」

 キッカワはジョッキを持っているヨシノの手を触ろうとして、リョータに叩かれた。

「キシシ、僕の手にかかれば一撃、雑魚ばっか、キシシシシシシ」

 ハイドが偉そうに笑っている。そのハイドに今夜はシムラが噛みつく。ハイドの首に腕をからませ、裸絞め(スリーパーホールド)を決めた。

「偉そうに。お前にはよういわんわ。魔法一発で寝てまうくせに。大体、何なんだよあの魔法は!」

「そうそう、あれ、何なの?」

 ハイドの魔法(あれ)には興味があるのか、突然外野からノッコが割り込んできた。

「ギジジジ、あ、あでは、ギュ、ギュードン力学と……とく……てん……よ」

 シムラとノッコが同時に「はぁ?」と言った瞬間にシムラが絞めすぎたためハイドは落ちてしまった。

「こらこら、ハイドが死んじゃうだろ、いい加減にしなさい」

 グンゾウはシムラをハイドから離した。ハイドは椅子にもたれる。ハイドの首に手を当てて、脈と呼吸を確認してから、念のため癒し手(キュア)を首から頭にかけて(ほどこ)しておいた。

 ――少し性格も良くなりますように……。

「キッカワ、ハルっちってゴブリンスレイヤーのこと?」

 グンゾウがキッカワに聞くと、キッカワはお金を払って給仕のお姉さんから()()()()()()()()()()()を受け取っていた。

「そーそー、知ってるのー? 俺ちゃん、同期でダチのマブだからさぁー。紹介しよっかー? まだ来てないけど」

「んー、まだいいかな。その内、お願いするかもしれないけど」

「そっかー、じゃあ、俺ちゃんもよく酒場(ここ)に来てるから声かけてよー、バイバーイ」

 グンゾウが断ると、キッカワはジョッキをあおってから他の席に移動して行ってしまった。ふらふらと離れていったキッカワは「よう、よーう、やってるー?」と離れたテーブルにいる義勇兵に声をかけている。

 ――相変わらず(せわ)しない奴だな。

「あの有名なゴブスレか、余計なことしやがって! 俺等(おれら)がゴブリン狩れねーじゃねーか」

 リョータは酔いが悪い方向に入ってきたのか、苛々(イライラ)している。

 ――()()か。

 リョータはお得意の()()を封印したようだ。

「明日、カズヒコも入れて相談かなぁ」

 グンゾウは独り言のように(つぶや)いた。

 

 

 事件は次の日に起きた。

 次の日、カズヒコは起きて、食事をしたりすることもできるようになった。しかし、まだまだ体調が悪そうだったので、狩りはお休みにした。前日獲得した銀貨は全てで63枚あった。昨夜の散財(さんざい)9シルバーを差し引いても54シルバー残ったので財政的(ざいせいてき)には余裕があった。

 カズヒコの大事を取って、宿舎でお祝いをしようということになったので、アキ、チョコ、ノッコの3人は料理の準備で材料の買い出しへ行った。

 残りのメンバーは買取り屋でゴブリン達からの戦利品を売り払うことにした。買取り屋には交渉役のヨシノとグンゾウ、ヨシノの付属品としてのリョータ、そして荷物持ちにシムラとミッツが来ていた。

 宿舎は鍵もかからず、出入りもほぼ自由なため、クザクとタイチには装備のお留守番で残ってもらった。ハイドも魔法の検証がしたいとお留守番を申し出た。

 宝石類や装備品はそこそこの値がついたものがあり、買取り価格は全部で58シルバーであった。現金も合わせて1人当り10シルバー程の稼ぎとなる。命がけだったとは言え、半日の稼ぎとしては破格だった。

「う……うまい」

 買取り屋から値段を告げられた時、同行していたシムラが呟いた。

 唯一、値の付かなかったのは、ゴブリン・リーダーが残していった槍の穂だった。グンゾウ達は他のゴブリンと区別するためにゴブリン・リーダーの事を「紅鎧(べによろい)」と呼ぶことにしていた。

 グンゾウ達が、値段が付かない理由について買取り屋の親父に尋ねると、興奮したように早口で説明をしてくれた。

「信じられない。お前さん達は知らないで手に入れたのか? その槍の穂先に付いている赤い宝石は『妖魔柘榴石(ゴブリンカーバンクル)』と呼ばれる宝石で、新市街に住む王侯貴族(ロード)階級(クラス)しか持っていない貴重なもんなんだ。欲しいが、正直、そんな装飾まで施された武具には値が付けられない。辺境伯(へんきょうはく)あたりに献上するのがいいんじゃないのか?」

 価値の分からないグンゾウ達は冷静に「ほぉーお」位の反応しかできなかった。

 ――辺境伯か……、どうすれば会えるんだか?

 グンゾウは値が付かなかった妖魔柘榴石(ゴブリンカーバンクル)を眺めた。深紅の宝石は相変わらず怪しく魅力的な光を(たた)えていた。

 ――最終的にどうにもならなかったらヨシノの玩具(おもちゃ)だな。

 

 天望楼に住まうオルタナの領主。辺境王とも呼ばれる辺境伯ガーラン・ヴェドイーへの武具(ぶぐ)献上(けんじょう)など、考えつきもしなかったグンゾウ達は翌日に行動を起こす。




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