廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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暑いと疲れますね。
後半戦もスロースタートです。

■「灰と幻想のグリムガル level.9 ここにいる今、遥か遠くへ」8月25日発売決定




15.ゴブリンバブル到来!!

 本気で言ったのではなかったかもしれない。しかし、買取り屋のおじさんが言う通り、妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)入りの武具を辺境伯(へんきょうはく)ガーラン・ヴェドイーに献上する手立てがないか、グンゾウ達は真剣に検討することにした。

 天望楼(てんぼうろう)の衛兵に聞いたところ、献上品を受け付ける正式な窓口が存在するとのこと。例えば貴重な財宝や珍品、精巧に作られた武具や工芸品、初物の農作物や珍獣等、価値のあるものは、手続きをすれば献上ができるとのことだった。

 戦利品売却係だったグンゾウを含めた5人は、早速、献上の手続きをしに行った。

 天望楼の入り口受付には、事務係であろうと思われる眼鏡をかけた初老のおじいさんが半分居眠りをしながら座っていた。

「あのー、辺境伯に珍品を献上しに来たんですけど、ここでいいですか?」

 グンゾウが話しかけるとおじいさんはパチッと目を覚まし、ずれていた眼鏡を直した。

「ああ、ああ、献上かい? あんたら義勇兵かい? 義勇兵にしては殊勝な心がけじゃの……。あー、献上品はものによって申請の書類が違うから、品物を教えてくれ。貴重品や宝石ならこの書類、武具や馬具ならこの書類、書物ならこの書類、工芸品や美術品ならこの書類、動物や怪物(モンスター)ならこの書類、農作物や食品なら……農夫じゃないからそれはないか。」

 おじいさんは立て続けに話をする。

「あー、献上する価値があるかどうかは最初にわしが見るからの……価値が低いものは、お断りの場合もあるぞ」

「はぁ」

 グンゾウは気のない返事をしてから、後ろを振り返った。

(これ)はどれになるのかな? 宝石と言えば宝石だし、武具と言えば武具だし、美術品と言えば美術品だよな」

「んー、あたしなら宝石がメインだから、宝石かなー? でも槍の穂としても超一流の切れ味だったよー」

「何でもいいんじゃねーの? オッサンの勘で」

「オッサンじゃねーし」

 グンゾウは受付のおじいさんに聞くことにした。

「すいません。あの、ダムローのゴブリンから手に入れた妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)が付いた槍の穂なんですけど、これはどの種類になるんですか?」

 グンゾウは持っていた包みを開き、槍の穂を出した。十字の中心に()まった深紅(しんく)の宝石は、相変わらず見る者を魅了(みりょう)するような怪しい光を放っていた。

 おじいさんはグンゾウの話を聞いて、驚いた様子を見せる。

「ほっ! なんと! 妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)とな?」

 グンゾウの掌の上に乗っている槍の穂を見て、2度目の驚いた様子を見せる。興奮したように槍の穂を手に取ると、グンゾウ達の方を一切向かず、宝石に見入って話す。

「これは素晴(すば)らしい。本物じゃ。どこでこんな貴重なものを手に入れたんじゃ。辺境伯様好みの逸品(いっぴん)だわい」

「簡潔に言うと、ダムローで新市街のゴブリンを倒しました」

「ほー! それにしてもこれは王侯貴族(ロード)(クラス)しか持っておらんだろう。見たところ、お主等(ぬしら)小汚(こぎたな)い見習い義勇兵にしか見えんのだがのぉ。有名な義勇兵なのかの?」

 おじいさんは興奮に任せて失礼なことをさらっと言った。

 ――失礼なじじいだな。綺麗とは言わないが、小汚くはないぞ。

「てめ、じじい! 小汚いってどういうこった!」

 意外としっかり話を聞いていたリョータが噛みつく。殴りかかりそうになるのをヨシノが押しとどめた。

 ――飼い主(ヨシノ)がいないと、危なくてしょうがないな……。でも、今回は許す。

「ほっほっほ、冗談じゃよ。冗談でもないか。これは貴重品扱いかの。この書類に記載してくれ。辺境伯は今夜外出からお戻りじゃ。この珍品なら、運が良ければ直にまみえる機会をいただけるかもしれん。一生ものの名誉じゃぞ」

 シムラがよくわからないという顔で「そんなに?」と(つぶや)く。

「預かっておくから、明朝2つ目の鐘でここに来なさい。あ、忘れとった。そなたら正装(せいそう)を持っとるかね?」

 おじいさんは聞いてきたが、全員首を横に振る。リョータは怒ったままそっぽを向いている。

「じゃろうなぁ……。じゃあ、神官衣を持っとる人間だけじゃの。神官衣は正装と見なされるからの。ルミアリス様に仕える神官か聖騎士だけ、明日の早朝こちらに来なさい」

「はあ……」

 少し心配だったが、グンゾウ達は受付のおじいさんに妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)を預け、天望楼を後にした。

 翌日、失礼な受付のおじいさんの指示に従い、翌朝2つ目の鐘が鳴る時間を目指して、グンゾウとタイチとアキの3人は天望楼に向かった。クザクは眠いし、だるいとのことで欠席した。

 

 

 夏の太陽が真上からグンゾウ達を容赦(ようしゃ)なく照らしつける。太陽の熱は肌を()がすように熱いが、風が吹いているので体感気温はそこまで暑くない。

 グンゾウ達はいつものように宿舎の中庭に集まっていた。

 中庭には(つが)いの大きな黒い(ちょう)が、ひらひらと一緒に舞って地面に咲いた花々を周遊(しゅうゆう)している。オルタナ南区の静かなお昼だった。

 グンゾウの手には上質な深紅(しんく)の布で出来た包みが収まっていた。ゆっくりと包みを開いて、全員に見せる。

「20ゴールドぉ?!」

 その場にいた全員が一斉に異口同音で大声をあげる。ハイドだけは「キシッ!」と言った。

 静かな宿舎の中庭が一気に(さわ)がしくなる。

「はい。20ゴールドです。まあまあ、落ちついて。座ろう」

 既に衝撃を味わっていたグンゾウは冷静に全員をなだめる。隣にいるタイチとアキも同様だ。

 シムラは興奮のあまりワナワナと震え、イガグリ頭を両手で掻きむしっている。

 ――禿げるぞ。

「1ゴールドって確か100シルバーやから、20ゴールドって、えーっと200シルバーくらいでっか?」

 シムラが混乱して全然違う計算をしていると、イガグリ頭をバンバンと平手でひっぱたきながら、リョータが興奮して叫ぶ。リョータの分厚(ぶあつ)い手に頭を叩かれて、シムラは目を白黒させている。

()鹿()! アッホ! イガグリ! 1ゴールド100シルバーなんだから、20ゴールドは500シルバーくらいの価値はあるだろっ!」

 ――リョータ(こいつ)も混乱してやがる。

「さっきから全然計算合ってないんだけど……この2人って……馬鹿なの?」

 大きな目をくりくりさせながら、チョコが突っ込みを入れる。可愛(かわい)い顔をしてなかなか辛辣(しんらつ)だ。それに対してグンゾウ、ヨシノ、アキ、ハイドの4人は否定しようもなく、(なま)ぬるい笑顔を浮かべて(うなず)くしかなかった。

 ――相変わらず恥ずかしい。

「お前、役立たずの目だけお化けの(くせ)して、今、俺のこと馬鹿にしなかったか?」

 ――目だけお化け……。

 リョータがチョコに喰ってかかろうとしたところ、ヨシノが押しとどめる。

「馬鹿にしてないよ。恥ずかしがり屋の愛情表現(あいじょうひょうげん)よ。リョータ、グンちんの話を聞こう」

「お、おおぅ。それならいいわ」

 ヨシノがリョータの胸を手で押さえので、満足して引き下がる。チョコは「ふんっ」という感じでそっぽを向いた。チョコに対してはアキがフォローをしている。

「はいはい。みんな興奮していると思うので、正確にしておくと、20ゴールドは2000シルバーです。そのまま分配すれば、1人当たり約166シルバーということです」

 グンゾウは淡々(たんたん)と説明した。

 話を聞かされたメンバーの間で「おおおっ!」「わぁ!!」といったどよめきが起こる。

「一気にバブル来ましたね!」

 昨日まで青白い顔をしていたカズヒコも顔を紅潮させている。

 興奮冷めやらないシムラがグンゾウの神官衣(しんかんい)(つか)んで、(つば)を飛ばしながら聞いてくる。

「グンゾウさん! ということは、肉18番の飯が8カパーやから……えーっと200回食えるってことですか?!」

「いや、約2000回だよ、シムラ。君は単位換算(たんいかんさん)が苦手なようだね。今度、勉強を見てあげよう」

「それはあかん! 勉強とかあかん!」

 シムラは頭を抱えて、地面に寝っ転がってしまった。

 ――テンションが高すぎる。

 全員、興奮が冷めない。急に見たこともない大金が舞い込んできたので、当たり前と言えば当たり前かもしれなかった。

 

 

「よし。現状を整理しよう」

 カズヒコが声をかけて整理を始める。いつもの流れだ。

「お金の使い道は、各人の判断だけど、この先、どのような道を選ぶかで少し変わってくると思うから、少し情報を共有しよう」

 一旦、区切る。

「ダムロー旧市街は、恐らくゴブリンスレイヤーがゴブリンを狩りすぎたせいで、強力な新市街のゴブリンが流れ込んで新人の穴場ではなくなっている」

「ゴブリンスレイヤーが(わぃ)ぃ」

 リョータが腕組みをしながら不満げに文句を言った。

「そういう訳では無いよ。彼等は彼等で生きていくために、真面目(まじめ)に仕事をしただけさ。敵は義勇兵(みうち)じゃない」

 グンゾウがリョータの思い込みを正す。リョータは「へいへい」と悪態(あくたい)をつく。カズヒコが軽く笑ってから話を進める。

「リョータとヨシノが追い払った紅鎧(べによろい)が所持していた武具からには妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)という宝石が付いていた。これは王侯貴族(ロード)(クラス)のゴブリンが所有している高価な宝石らしい。明らかに新市街のゴブリンぽい持ち物だ。紅鎧(べによろい)が王族なのか、褒美(ほうび)を貰った優秀な戦士なのかはわからないけどね」

 それからカズヒコは指を3本前に突き出す。

「僕らには今後の行動目標として選択肢がある。1つ目は、森の中で野良のゴブリン(など)を狩り続ける。2つ目は、なんとかしてダムロー旧市街で狩りをする道を探す。3つ目は、狩り場を変える。有名なのはサイリン鉱山とかね。みんなの意見はどうかな?」

 カズヒコが全体を見渡すと、ぼちぼちと意見が出てくる。

(おら)ぁ、森の中は木が邪魔で戦いにくいから嫌だ」

 リョータがだるそうに伸びをして、鼻をこする。

「大振りすぎなだけじゃねーの?」

 クザクが珍しく口を開いたかと思えばリョータの心臓を(えぐ)る一言を放った。

「おいっ、クザク、やんのか? なんだ、カズヒコ小隊(パーティ)は俺に喧嘩売ろってのか? 畜生(ちくしょう)、感じ(わり)ぃーぞ! カズヒコの教育がなってねぇ!」

 チョコに引き続きクザクからも砲火(ほうか)を受けて、リョータが五月蠅(うるさ)(わめ)いている。火付け役のクザクは相手にしてないといった風で、無視していた。

「まあまあ、みんなリョータ(を馬鹿にするの)が好きってことだよ。愛情表現だって」

 今度はグンゾウがリョータをなだめた。リョータはいまいち納得いかないような顔をしている。

「キッシシシシシシシ」

 ハイドはリョータが馬鹿にされるのは愉快(ゆかい)らしく、笑っている。

 その騒ぎの横で、おずおずとアキが右手を挙げる。

「私も森の中は効率が悪いから(いや)……かな。歩きまわって疲れた後に戦うのも、危ない気がするし」

 この意見には何人か頷く。グンゾウも森の中を歩き回るのは正直、遠慮したかった。

「へへっ、ダムロー旧市街で普通に狩りができれば、いいなぁ、へへへ」

 ミッツがへらへらしながら発言する。木のベンチに座っていたヨシノが立ち上がる。

「あたしは……。ダムロー旧市街で狩りをしたいというのもあるけど、あの紅鎧(べによろい)を倒したい!」

「確かに! あの野郎、許さねぇ!」

 リョータが右手の握り拳を左手に打ち付けて「バシッ」っと音を鳴らす。

「僕もそう考えていた。正直、やられっぱなしは(しゃく)(さわ)る。」

 そう言いながらカズヒコは(さわ)やかな笑顔を見せた。

紅鎧(べによろい)を倒せば、また妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)が手に入るかもしれんし?」

 シムラは嬉しそうにニコニコしながら、両手の親指と人差し指で丸を作り、お金のハンドサインを顔の前に掲げた。その顔は満面の変顔(へんがお)だ。皆の間に笑いが広がる。

「ははははは、そうだね。シムラの言う通りだ。なんとなく、みんなダムロー攻略を目指す感じで()いかな?」

 カズヒコは再び全体を見回す。反対していそうな人はいなかった。

「よし! みんなが再挑戦をしたいと思っているなら、それを目指して頑張ろう。初めはダムロー旧市街がこんな状態だなんて情報が不足していたから苦戦したけど、きっと準備をしっかりすればもっと戦えると思う。装備とそれにスキルだ。お金も大分(だいぶ)手に入ったし、装備とスキルを充実させよう! そして、できればだけど……ダムロー旧市街を取り戻そう!」

 カズヒコの掛け声に、各人思い思いに頷いて、同意を示した。

「おっしゃ! やってやんぜ!」

「あたし、もっとゴブリンが狩りたーい!」

「へへへ、やるぜ、へへ」

「んー、でも、まずは可愛い服が欲しいな」

「あ、私も欲しい!」

「いいねー! 買いにいこー!」

「そんなんにお金使っちゃ、あかんでしょ?」

「いや、シムラ、いいんじゃないか? きっと俺等(おれら)も嬉しいぞ」

 カズヒコの意気に触れることで、不思議と皆の顔に元気が(あふ)れてきた。皆、近い未来の成功を想像して、楽しい気持ちになっていると思われた。

 ――カズヒコは良いリーダーだな。

 そう、グンゾウは思った。

 その後、今回獲得した資金の分配に関しても話し合いを行った。

 まず、ゴブリンから得た現金と戦利品については各人に9シルバーずつ配布し、当面の生活費とした。

 次に妖魔石榴石(ゴブリンカーバンクル)を辺境伯に献上したことで得られた褒賞金20ゴールド=2000シルバーは、120シルバーを12人に均等配布し、各人の裁量(さいりょう)で装備及びスキルをできる限り充実させることになった。

 残りの560シルバーの中からは、全員分の正式な団章購入費として20シルバー×12人分の240シルバーを拠出(きょしゅつ)することに決まる。

 そして、さらに残りの320シルバーは各小隊で折半し、前衛が防具を買う際の補助や、不測の事態への備えとするためヨロズ預かり商会で保管(プール)することになった。

 カズヒコ小隊は160シルバーをカズヒコ名義で、リョータ小隊はリョータが自分名義で預かろうとしたが、なんとなく小隊全員が不安に思ったようで、多数決の結果、グンゾウ名義で管理をすることになった。リョータは「なんでだよっ! 俺がリーダーだぞぉ!」と文句を言っていた。

 ――普段の行いです。

 グンゾウはリョータの声が聞こえないふりをして、素知(そし)らぬ顔で160シルバーを(ふところ)にしまった。

 

 

 稼ぎの分配が決まったところで、皆、何を買うか、どんなスキルを磨くか等を楽しげに話し合っている。

「実際問題、スキルを磨いたとしても正面突破は難しそうだな。各人のスキルアップを前提としても敵の数が多すぎるよなぁ」

 雰囲気を壊すことまで気が回らず、グンゾウはどうしても気になっていることを思わず(つぶや)いてしまった。

「そうですよね」

 カズヒコはグンゾウの呟きを聞き逃さなかった。

「俺等がスキルアップすれば、なんとかなんじゃねーの?」

 リョータはベンチに鼻くそをほじりながら寝そべった。

「グンちん、あたし頑張るよ!」

 ヨシノは両腕でガッツポーズをする。

「ありがとう。でも、俺はできる限りみんなのリスクを下げたい。スキルを習得してからでいいけど、ゴブリン達(あいつら)の数を減らす方法や、士気(しき)を下げる方法がないかなぁ?」

 グンゾウは誰に対してと言うわけではなく、聞いた。

「キシシ、普通は監視と削りだな……キッシッシッシ」

 ハイドが何かの本を読みながら答える。読んでいるのは魔法使いギルドでもらった教本のようだ。

「監視……」

 グンゾウは呟く。

「どうやって監視するんですか? まさか私が忍び込むとか……?」

 チョコが大きな目をぱちくりさせながらグンゾウに聞いてきた。

 グンゾウは大きく首を左右に振る。

「チョコひとりにそんな危ない真似(まね)はさせられないよ。そういえば、山腹(さんぷく)からダムローの西側を見た時、ダムローを見下ろせる位置の森に監視塔みたいなのが建ってなかったっけ? あそこから監視できないかな?」

「ちょっと遠くないっすか?」

 今日はクザクが良く話す。

 ――クザクは人見知りさんだったのか?

「大きめの望遠鏡(ぼうえんきょう)があれば、監視できそうですね」

 カズヒコが案を出す。

「望遠鏡か……、買えればいいけど、高そうだな。できればどこかで借りたいな。誰か持ってないかなぁ?」

 グンゾウは眉根(まゆね)を寄せ、目を(つむ)り、顔を空に向ける。太陽の明るさが(まぶた)を通して感じられる。

 ――首の(すじ)が伸びて、気持ちいい。

「あの……私、どっかで見たんですけど? 望遠鏡」

 アキが低く落ち着いた、でも可愛らしい声を出す。グンゾウはすぐに目を開き、アキの方を見る。

「あれ? あたしも見たかもー?」

 今度はヨシノが声を出す。グンゾウはぐるんと首を回して、ヨシノを見る。

「あれだ! 棚だよ。棚。どっかの棚にあった」

 ノッコが頭をぽこぽこ叩いて思い出そうとする。

 チョコが左の掌を右拳で「ぽんっ」と叩く。

「あ、私、分かったかも。ブリトニーの後ろの棚だ」

 ――すげぇな、この女子4人の記憶力。

「そうか、ブリトニーが持っているなら話は早い。僕らは正式な義勇兵の団章を買えるようになったんだし、早速行こう」

 カズヒコの音頭で、全員が義勇兵団事務所に向かう。ハイドは特に興味がないらしく、自らお留守番を買って出た。

 義勇兵団事務所の中にゾロゾロと入ると、筋肉ムキムキのブリちゃんが正面のカウンターに座って、紙で出来た本を退屈そうな顔をしながらめくっていた。グンゾウ達に気付くと「あらぁ♪ 久しぶりー、どんだけー」っと両手を細かく振って出迎えてくれた。

 ブリちゃんは黒々とした長くて多い睫毛(まつげ)をバサバサと鳴らしながら、カズヒコに熱い視線を送っている。

「カズヒコったら、あたしに会いたくて来ちゃったのー?」

 ブリちゃんは片目を瞑り、投げキッスをした。

「今日は用件があってきたよ、ブリトニー」

 投げキッス(あれ)(ひる)まないところがカズヒコのすごいところだとグンゾウは思った。グンゾウはブリちゃんに見つからないよう、でかいクザクの陰に隠れている。

 ――久々に見ると改めて……きっついなぁ。

 グンゾウが怖い物見たさでブリちゃんを眺めていると、ブリちゃんはその視線に気付いた。

「あらやだ、グンちゃん、そんなに見詰(みつ)めないで。隠れてても()()()()()わ。痩せて、精悍(せいかん)になって、いい男になってきたじゃない。今なら、ペットにしてあげもいいわよぉ」

 ブリちゃんは両手で自分の頬を押さえ、くねくねと(しな)(つく)った。

「なっ!」

 グンゾウは言葉に詰まる。ブリちゃんのペットにされている自分を想像する。背中から服の中に氷を突っ込まれたかのように、グンゾウの体を強烈な寒気が走った。グンゾウは身体が石化したようになる。

 (とど)めとして、ブリちゃんがウインクをする。グンゾウの身体(からだ)から何かが抜けて、体重が21グラム軽くなった。

「あった、あった、これこれー」

 男性陣がブリちゃんに近付くのを躊躇(ちゅうちょ)して、距離を取っているのに対して、ヨシノはずかずかとブリちゃんの(そば)に歩いて行った。

「これ、貸してよ、ブリちゃん!」

 ヨシノがブリちゃんに笑顔(えがお)を向け、棚の上にある望遠鏡を指差した。

「あらやだ。それが用件? 正式な義勇兵になれば、貸してあげないこともないけど、見習いさん達には貸せないわぁ」

 ブリちゃんはいやらしく説明した。

「へっ、カズヒコ、俺にやらせてくれ」

 リョータは鼻を鳴らすと右手をカズヒコに差し出す。カズヒコは「どうぞ」と言って、リョータに革の袋を渡す。

 リョータはずかずかと足音を立ててブリちゃんのいるカウンターまで近付くと、「バン」と音を立てて、その袋を叩き付ける。銀貨同士のぶつかりあう音が義勇兵団事務所の中に響く。

「おら! これで俺等は正式な義勇兵だ、とっとと団章と望遠鏡をよこしな」

 リョータは歯をむき出しにして、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、ブリちゃんを睨み付ける。リョータの不遜(ふそん)な態度に、皆の間に緊張が走る。

 ブリちゃんはつまらなそうに革袋を手に取ると、中を覗く。

「ふーん……」

 顔を上げたブリちゃんは、リョータの迫力を上回る不気味(ぶきみ)な笑みを浮かべながら返事をする。

「意外と早かったじゃない? ……あなたのような馬鹿な子はすぐ死ぬと思ってたわ。おめでとう、ここからが本番よ」

 

 

 翌日から各人(かくじん)スキル習得のためギルドに戻り、2週間を目途に宿舎に再集合ということになった。2つか3つのスキルは習得できる期間だ。

「ちょっと、みんな()いかな?」

 夜、グンゾウはリョータ小隊に呼びかけて、装備購入と習得スキルについて、打ち合わせを行った。

 各ギルドで習得できるスキルには指南料(しなんりょう)の価格帯がある。初歩の技は10シルバー程度、次のレベルは3~40シルバー程度、その次は1~1.5ゴールド程度、その次は3ゴールド以上となるのが、大体の相場(そうば)だ。

 またスキルの系統によっても習得にかかる期間や費用が変わってくる。例えばアキが覚えようと考えている守護剣闘術(しゅごけんとうじゅつ)盾受(ブロック)盾打(バッシュ)の基本形なので、盾受(ブロック)を習得しておけば、後々盾打(バッシュ)を習得する際には訓練期間も短く、費用も割引がきくようだ。

 前衛のリョータとヨシノは防具とスキル習得費を半々位で考えているようだった。前衛は装備の購入に費用がかかるため早速保管(プール)金からリョータ、ヨシノ、アキに20シルバーずつ渡した。

 戦士のスキルに関して、グンゾウは考えがあり、リョータとヨシノに雄叫び(ウォークライ)だけは両人とも習得するようにお願いをした。

 アキは、装備の購入についてゴブリンから得た装備の微調整と胸当ての購入を考えているとのこと。スキルは盾受(ブロック)癒し手(キュア)、余裕があれば光刃(セイバー)の習得を考えているようだった。

 残りは装備にお金がかからない後衛だ。

 シムラは弓術、狩猟術、剣鉈術のスキル全てをバランス良く習得するつもりとのことだが、特に具体的なイメージはないらしく、イガグリ頭を(ひね)っていた。

 ハイドについては、ある意味皆に信頼をされているので誰も触れなかった。「統御法(マスタリー)」だとか、「物理法則」だとかブツブツと訳がわからないことを(ひと)(つぶや)いていた。

 グンゾウは遠距離からでも仲間の回復ができる光魔法の癒光(ヒール)を軸として、光魔法と護身法の内、可能なものをいくつか習得することを決めていると報告した。

 ――実はあんまり考えてなかったりして。でも、もうゴブリンに顔を踏まれたくないから、護身法は何か覚えよう。

 概ねの情報交換をして、意識の統一を図るとリョータ小隊も就寝した。

 グンゾウは、命のやり取りに身を置くことなく、しばらくオルタナで平和に暮らせることに幸せを感じながら眠りに入っていった。

 

 この時点おいても、グンゾウはすっかり忘れていた。

 スキルを習得するということは、再び彼女とまみえなければいけないということを。

 彼女の名はカレン……修師(マスター)カレン。

 




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