廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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サイリン鉱山お散歩編の続きです。
色々あるけど試行錯誤で頑張ってまーす。
原作がライトノベルなんだから会話の量を増やさないと駄目かなぁ、とか?

ご愛読いただいてる方には感謝、感謝の日々。


20.タリスマンより恋愛事件が欲しい

 湿った、そして冷たい空気が漂う空間。それは岩壁に囲まれた暗い部屋。

 曜華(ヒカリバナ)が放つ金緑色(エメラルドグリーン)の光が静かに(ふる)える。

 岩壁に反照する薄青い光は、人を冷静な気持ちにさせる。

 人を叱る時、感情的になってはいけない。

 理性的に、そして、相手のことを思って言わなければいけない。

 グンゾウはリョータ小隊(パーティ)の仲間を、自分の前に座らせた。

「まあ、そろそろ気付いてるだろうけど。コボルドは犬ではありません」

 シムラだけ「え?」と声を上げて、すぐさまリョータとヨシノに頭を叩かれた。

「これから第3層に下がるとエルダーコボルドという、装備も良く、知能が高く、戦術的に戦ってくるコボルドが現れ始めます。また、デッドスポットという凶悪な怪物(モンスター)の目撃例もこの辺りから多くなります。このまま君達が戦いに集中しないと、不測の事故が起きて、カズヒコ小隊のみんなに迷惑をかけたり、そして君達自身が命を落とす可能性があります。わかりますか?」

 ヨシノが静かに頷く。珍しくリョータも下を向いて「薄々は……」と言った。

「犬が大好きで、久々に狩り場も変わって、興奮する気持ちもわかります。しかし、君達が怪我をしたりするのは、私はとても悲しいです。ここだけの話、コボルドは犬の覆面(ふくめん)を被っただけの毛深いムキムキのおっさんです」

 再びシムラだけ「え?」と声を上げて、すぐさまリョータとヨシノに頭を叩かれた。

「そういうつもりで。大切なみんなの命がかかっているので、真剣に戦って欲しいと思っています。わかってもらえましたか?」

「はい」

「はーい。ごめんね、グンちん」

「はい。すいません」

「はい……、毛深いおっさんだったんかー……」

「キシ」

 グンゾウは全員から了解の返事をもらう。

「はい。わかってもらえて、私も嬉しいです。……もう、いいよー、カズヒコ」

 グンゾウの掛け声で、隣の第3層に降りるための井戸がある部屋に待機していたカズヒコと小隊の仲間も顔を出す。

「じゃあ、行きましょうか」

 カズヒコが声をかける。

「そうだね。目的地まで後2層残ってるからね」

 ――ふぅ、疲れた。人を叱るなんて柄じゃないのに。

 

 

 第3層に降りる井戸には2本の縄梯子(なわばしご)が付いているので、2名が同時に降りることができた。

 地獄の3丁目。

 第3層に降りるなり、コボルド達からかなりの歓迎を受けた。

 先頭で降りたのは身の軽いシムラだが、「あかん! いっぱいおる!」と声がした後すぐに剣戟の音がし始めた。ヨシノとリョータが追って降りている。

 すぐに戦士のカズヒコとミッツ、そしてクザクが降りる。

 乱戦で役に立たないグンゾウは自分が降りる番を待っていた。第2層にある井戸の入り口で気を揉むことしかできない。

 戦士達が降りた後すぐにグンゾウはタイチと降りた。アキとチョコは魔法使い2人(ふたり)の後に、殿(しんがり)として降りてくる。

「おるぅあぁぁぁ!!」

 リョータの声が第3層に響いた。グンゾウが降りた場所は天井の低い、狭い通路の真ん中で両側から敵に挟まれていた。

 リョータはコボルトの中でも一際(ひときわ)体格のよい個体と戦っていた。体長が170センチ位で、肉厚で包丁のような片刃刀を装備し、鎖帷子(チェインメイル)と部分的な板金鎧(プレートアーマー)を身に付けていた。

 普段のゴブリン戦であれば、一撃必殺の両手剣(ツヴァイヘンダー)が、エルダーコボルトAの剣に受け止められ鍔迫り合い(バインド)状態になっている。攻めあぐねている様子だ。

 ――あれが、エルダーだな。この状況、巻撃(ウインド)が使えれば違ったのになぁ……。

「やぁ! はいっ! といやっ!」

 もう1匹、エルダーと思われるコボルドをヨシノが相手にしている。

 井戸の下の空間が狭いため、ヨシノは槍を諦めて、片刃の曲刀(シミター)を抜いている。両手構え(デュアルウィールド)だ。

 体格的には劣っているかもしれないが、とにかく手数が多く、動きに無駄がない。息も吐かせぬ攻撃でエルダーコボルトを圧倒している。斬撃(ざんげき)の合間に、エルダーコボルドBの(ひざ)踵蹴(かかとげ)りを入れるなど、技の組み合わせも多彩だ。

 ――ヨシノは戦闘に関する天才だな。

 グンゾウが周囲を見渡すと、エルダーコボルドがさっきの2匹で、その他に労働者(ワーカー)コボルドが5匹いた。カズヒコ、ミッツ、クザクが労働者コボルドと相対しているが、数的に不利なせいでじりじりと押されている。

 ――シムラがいない?! シムラは?

「シムちゃん、下がりなさい!」

 ヨシノの声がする。

 ――いた。

 シムラは別の労働者コボルドの1匹と対峙していた。剣鉈(けんなた)で労働者コボルドのシャベルと斬り合っている。弓術が極めて優れているだけにシムラの剣鉈術は見劣りがする。武器の相性もあるのか、見ていて危なっかしい。

 「どさっ」という音がして、グンゾウの背後に井戸からハイドが落ちてくる。続いて、ノッコ、チョコ、アキが降りてくる。

「ギジジジジジ……」

「早速で悪いんだけど、アキはシムラと替わってあの労働者コボルドを。ハイドとノッコはカズヒコ達の支援を。チョコは2人(ふたり)の護衛で」

「はい!」

 アキは素直に返事をすると、労働者コボルドAに向かっていく。

「ジール・メア・グラブ・テラ・カノン」

 ノッコが氷結球(アイスグローブ)を唱える。空中に巨大な氷球が出来上がり、カズヒコの目の前にいた労働者コボルトBの顔面に当たった。カズヒコがすぐに追撃する。

 ――あれは痛そう。

「オームキシシ・レル・エクトキシシ・ヴェル・ダーシュキシッ!」

 ハイドの杖から黒い藻のような塊が飛んでいき、ミッツの目の前にいた労働者コボルドCに当たった。影魔法(ダーシュマジック)の初級技、影鳴り(シャドービート)だ。労働者コボルドCは痺れたように震えている。

 ミッツはここぞとばかりに労働者コボルドCの胸部に深々と長剣を突き立てた。リョータも使う一本突き(ファストスラスト)だ。

 ――よし、これで少し余裕が出るはず。

「いてててて……。すいません、グンゾウさん治せますか?」

 シムラがグンゾウの所に頭を押さえながら戻ってきた。(ひたい)は腫れて赤くなり、少し切れた部分から血が(にじ)んでいる。シャベルの傷跡に見えた。

「おお。すぐに治そう。光よ、ルミアリスの加護のもとに。癒し手(キュア)

 グンゾウが当てた掌の下で、シムラの傷がどんどん癒えていく。

「あー、ちもきいいっすー。やっぱり、この剣鉈(ぶき)で前に出るのは少し無理がありますね」

 シムラは剣鉈に目を遣ってから、腰の(さや)にしまう。

「そうだね。ちょっと辛いよね。シムラは弓術があるから、前へ出なくてもいいんじゃないかな?」

「はい。でも師匠は、剣鉈も極めれば前線で戦えるって言うんですよね」

「そっか。でも、無理はしないで。治ったよ」

 グンゾウは治療が終わったので、シムラの肩を優しく叩いた。

「はい。もうちょっとゴブリンで練習してからにします。狭いところは嫌いやねん。弓撃ちたい」

 ――さて、戦況を確認しないと。

 グンゾウが再び周囲を見渡す。

 カズヒコ達はそれぞれ1対1になり、戦況は好転していた。ハイドとノッコも魔法は温存に入っている。

 リョータはエルダーコボルドAと真っ向から切り結んでいた。エルダーコボルドの実力を体感しているといった感じに見えた。兜の隙間から見える口元が笑っている。

 ヨシノはあと少しの所まで、エルダーコボルドBを追い詰めていた。エルダーコボルドBはヨシノの斬撃が(かわ)せなくなって、狼狽(うろた)えている。ヨシノはエルダーコボルドBの両脚、膝の上辺りを同時に斬りつけた。エルダーコボルドBが傷に気を取られた隙に、敵の左側から後ろに回ると背中に片刃の曲刀(シミター)を一刀勢いよく突き立てる。そしてもう一刀。(ひね)ってからゆっくり抜くと、エルダーコボルドBもゆっくり倒れた。

 ヨシノは兜のバイザーを上げて敵の死亡を確認すると、労働者コボルドの群れに飛び込んで行った。

 ――あっちは終わったな。俺が行くべきは、あそこかな?

 グンゾウはショートスタッフを構えると、アキと相対している労働者コボルドAに向かっていった。

 労働者コボルドAはシャベルでアキを攻撃していた。アキは歩兵用の凧型盾(ヒーターシールド)でシャベルを連続して盾受(ブロック)している。時折、アキも反撃に出るが労働者コボルドAは素早いバックステップで躱してしまう。

 ――俺はずるいからね。

 グンゾウは素早く労働者コボルドAの後ろに回ると、労働者コボルドAの肩口に強打(スマッシュ)を打ち込む。

「ギャヒィン! キャン! キャン!」

 労働者コボルドAは犬のような鳴き声で悲鳴を上げた。そして、驚いて後ろを振り返ると、シャベルを上段に振りかぶって、素早い振りでグンゾウに殴りかかる。

「グンゾウ()()()()の狙い通りだけど、いいのかい?」

 グンゾウは口元がにやつく。労働者コボルドAのシャベルをショートスタッフで受けると、その衝撃力を活かしてショートスタッフを回転させ、そっくりそのまま労働者コボルドAの脳天に打撃を加える。

 ――突き返し(ヒットバック)。これカレンに散々やられたんだよねー。

 労働者コボルドAは頭がぐらつき、酷く酔っ払ったかのように千鳥足になる。そこへアキが剣を右上段に振りかぶってから、斜め左下へ振り下ろす。懲罰の一撃(パニッシュメント)だ。労働者コボルドAは斬撃を背中に受け、前のめりに倒れる。

 次の刹那、「ごめんね」とアキが小さな声で(ささや)きながら、倒れた労働者コボルドAの後ろ首に長剣を突き立てた。

 ――成長したな……。

 そこには以前ゴブリンに止めを刺さず、神官衣を切られたアキの姿はなかった。

「お疲れ」

 グンゾウがアキの肩当てを右手の甲で軽く叩くと、アキがグンゾウを見上げて目が合う。

 乱れた息。少し赤い鼻。アキの目は少しだけ涙で濡れていた。

「ちょっと、可哀想で、辛かったです……」

 アキは目元を(ぬぐ)った。グンゾウは愛おしくて、すぐにでもアキを抱きしめて慰めたい気持ちになったが、犯罪になりそうなので諦めた。

「辛かったね。……ハイド達の所に戻ってて。タリスマンは俺が回収するから」

「はい……」

 タリスマンとはコボルドが信仰の理由から必ず1つは身に付けているお守りで、人間界においても貴金属としての価値があるため、小さくて軽いのに換金率が高い。持ち帰るには最適の戦利品だ。

 ――タリスマンより恋愛事件(ロマンス)が欲しい。

 

 

「あるよっ!」

 ヨシノが声をあげる。

「えっ? 恋愛事件(ロマンス)?」

「何言ってるのグンちん、そのギャグうけるー」

 ヨシノがお腹を押さえてけらけらと笑った。皆が笑っている。グンゾウは恥ずかしくて汗がじわりと出てきた。リョータだけが嫉妬したのか「100点満点で10点」と言って苦い顔をしている。

 ――シムラとリョータのギャグよりマシだけどね。

「エルダーコボルドのタリスマンですよ。グンゾウさん」

 カズヒコが説明をしてくれる。

「このタリスマンは最低でも5シルバーするらしくて、サイリン鉱山が狩り場になっている理由は実入りが安定するからのようです」

「へー、そうなんだ」

「俺は……ゴブリンの方が狩りやすいな」

 リョータが腕組みをしながら言った。やはり犬顔の生物を狩るのは気が進まないのかもしれない。

「あー、あたしもゴブちんの方が罪悪感はないなー」

 ヨシノの発言にアキが首を何度も縦に振った。ハイドもこっそり(うなず)いている。

「俺も坑道内は弓が使いにくくてあかん。広い場所で戦いたいねん。俺の才能が。天に与えられし、俺の才能がー!」

 野生児シムラが両手を上げて主張している。暗くて狭い場所の所為(せい)か、シムラにしては珍しくストレスが溜まっているようだ。

 ――それともシャベルで頭叩かれて、少しおかしくなったかな?

「リョータ小隊(パーティ)は随分ダムロー派だね。まあ、第4層はコボルドの農場になっているらしいので、相当(ひら)けた場所のようだよ」

 情報通のカズヒコがシムラの喜ぶ情報を提供した。

「やったるでー!」

 シムラが大声で叫ぶ。

「ここ敵地なの忘れてない? 声がでかすぎなんだけど……」

 少しひいた様な顔でクザクが突っ込む。サイリン鉱山に来て初めて声を聞いた。

 そのクザクの指摘の通り「ワウッ! ワウッ!」という犬の鳴き声がして、第4層への井戸があるという通路の方向から4匹のコボルドが顔を出した。エルダーコボルド1匹の労働者コボルド3匹といったところか。

「バッカ、イガグリ!」

 リョータに叱られたシムラは「とぅいまてーん、毛深いおっさん死ねや!」と言いながら弓を引き絞って、一矢放つ。先頭のコボルドの心臓付近に刺ささり、「キャフン」という声を上げて倒れた。

 ――毛深いおっさんを信じてんのかいっ! 反対側からも来るかも知れないから、油断禁物だな。

「ここは通路だから後ろも警戒を怠らないように。後ろの警戒はアキとクザクとチョコ。前は戦士4人で一気に片付けよう」

 コボルドへの慣れもあり、グンゾウ指揮の下、12人が安定して稼働し始める。こうなると数の暴力で、安全な狩りとなった。

 

 

 その後も何回か戦闘になったが、危険な目に遭うこともなく順調に奥へ奥へとやってきた。

 ――まあ、人数多いしね。

 回収したタリスマンもそこそこの量となり、金庫番タイチの袋の中でチャリチャリと音を立てている。

 ――今夜は熱々(あつあつ)のリーチェで一杯かな。

 途中、第4層に降りれる井戸が何個か見かけたが、カズヒコは無視をした。グンゾウは気になって聞いてみる。

「あれじゃないの?」

「ええ、第4層は広くて見通しがいいため、敵に見つかりやすいらしいんです。だから、なるべく目標にしている第5層に降りる井戸の近くに降りた方がいいみたいです」

「そうなんだ。まるで来たことあるかのように詳しいね」

「知人に地図を貰って、しっかり説明を受けたので……」

「知人?」

「ええ、知人です」

「どんな知人?」

「知人です」

「恥ずかしいって書く方の恥人(ちじん)?」

「知ってるって書く方の知人です」

 カズヒコは爽やかな笑顔をして、親指を立てた。

 ――絶対女だよ、これ。もう、(うらや)ましくて、けしからん。

 カズヒコが複数いる知人の1人(ひとり)からもらった地図のお陰で、迷うことなく第3層を進んでいく。進んでいるのは4人程が並んで通れるくらいの広めの通路だ。

「その奥の部屋に、あまり使われていない井戸があるようです」

 カズヒコが指差した方向は通路の行き止まりだった。その岩壁にはボロボロの壊れかけた木戸が付いていて、木戸の上には「用具置き場」と書いた看板があった。この辺りはコボルドも来ないのか曜華(ヒカリバナ)が少なく、薄暗い。坑道の奥であるため、妙に湿った冷たい空気が淀んだように漂っている。

 木戸の奥はよく見えない。壊れた隙間から向こう側が少し見えるが、薄暗い通路よりもさらに暗い空間が広がっている。

「なんていうか……、この扉を開けるのは勇気がいるね」

 グンゾウが声を出すと、皆が扉から離れていく。

「え? どういうこと?」

 グンゾウが質問をすると、リョータが答える。

「ほら、なんつーか、寿命も近いオッサンだし?」

「意味がわからない。コボルドが飛び出てくるかもしれないから戦士が開けるんじゃないの?」

「いや、なんつーか、神官だし?」

「もっと意味がわからない。神官だから装備薄いし」

「わかんねーかなー。察し(わり)ぃぜ」

 グンゾウは馬鹿(リョータ)に馬鹿にされる。そこへヨシノが補足をする。

「ほら、なんか……出そうじゃない? グンちんなら聖職者だし、オバケさんに年齢も近いし」

「ヨシノ、俺はそんなに歳じゃないよ。それに神官はタイチもいるし。お化けなんてこの世には……いるのか」

 グリムガルには()()。このグリムガルの辺境で死んだ者は、長くても5日、短ければ3日の間に火葬しないと、不死の王(ノーライフキング)の呪いで動く死体と化してしまう。動く死体となった者を()まわしい呪いから解放するためには解呪(ディスペル)という光魔法を使うしかない。

「俺、解呪(ディスペル)使えないけど……」

 グンゾウは照れ隠しに、横顔をぽりぽりと()いた。

「てめぇはまたか、つくづく使えねぇオッサンだな」

 ――あー、腹立つ。咎光(ブレイム)ってたまに誤爆するんだよなー。

「こらっ! リョータ。グンちんは使えるオジサンでしょ?」

 ヨシノが助けたのか、(けな)したのか分からないことを言った。ハイドが「キシシ」と笑っている。

「使えるオジサン……」

「あっ、間違った。優秀なお兄さん……でしょー」

 ヨシノは言い直しながらちょこちょこと移動して、クザクの影に隠れた。クザクの身体は身を隠すものとしてとても有用だ。

「あの……一応、僕が解呪(ディスペル)使えます。この前、グンゾウさんが浄化の光(ピューリファイ)を習得中に僕も修練へ行ったので」

 タイチがおずおずと手を挙げた。

「おおっ! 流石、タイチだな。どうだ? リョータ小隊(うち)にくるか? いつも必要な時に必要な魔法を覚えてない神官はクビにするからさっ!」

 リョータは、タイチと肩を組んでムカつく笑顔でグンゾウを見詰めた。グンゾウは(まぶた)がピクピクと痙攣(けいれん)するのを感じた。

 ――こいつ。まぢで移籍したろか。

「ま、じゃあ、襲われても解呪(ディスペル)できることがわかったから全員でジャンケンだな」

 グンゾウが提案すると、カズヒコが「時間ももったいないし、そうしましょう」と言った。

 

 

「……なんでやねん。……なんでやねん」

 シムラが暗い顔でブツブツと呟いている。

 結局、ジャンケンで負けたのはシムラだった。

「これ、美味(おい)しいぞ。美味しいってやつだ、シムラ! シムラ君のちょっと()いとこ見てみたい、無理はっ! 承知っ!……」

 リョータが他人の不幸は最大の幸せという顔でシムラを(はや)し立てる。

美味(おい)しないっちゅーねん」

「シムラ。(スケルトン)が出てくるかもしれないけど、骨は拾ってやるぜ、へへへ」

 ミッツが上手いことを言った。しかし、シムラは少しも笑わない。

 ――よっぽどお化けとか嫌いなんだな。相手が骨じゃ、弓効かないしな。

 シムラは木戸の前に立ってから、目を(つぶ)って深呼吸をした。

 他の仲間もみんな息を殺して、その様子を眺めていた。

「こんなん、開けようと思うから怖いんじゃ! 蹴り破ったる!」

 そう言うと「はいやー!」と叫んで、木戸を思いっきり蹴った。

 見るからにボロボロの木戸はシムラの蹴りを受けて、蝶番(ちょうつがい)が外れ、向こう側に倒れた。

 部屋の中は暗い。コボルドが出てくる気配はない。

 シムラは皆の方へ満面の笑みを浮かべて振り返ると「こんなん出ましたけどー」と言った。

 ――確かに出た。

「シムラぁ! 後ろっ! 後ろっ!」

 リョータが叫ぶ。

 シムラが一瞬「えっ?」という顔をしてから、振り返るとそこにシムラより頭2つ大きい骸骨(スケルトン)が音もなく立っていた。骸骨は兜に鎖帷子と甲冑の一部を身に付けた出で立ちだ。

 骸骨がゆっくりと刃渡り140センチ位はあるバスタードソードを振りかぶった。考える間もなくシムラが穴鼠という技を使って、前転でその場から離れる。シムラが居た場所に大きな骸骨のバスタードソードが振り下ろされた。

「あああ、あっぶな! だから最初から、戦士が開けんかい!」

 シムラが正論を言った。

「あへへへ、なんか、もっと出てきたぞ!」

 ミッツが叫ぶと最初の戦士風骸骨の後ろから、鎖帷子の上に神官衣を(まと)った骸骨が出てきた。さらに後ろから魔法使いの杖に法衣(ローブ)という装備の骸骨が続いた。装備の隙間から出ている部分は黄ばんだ白い骨が見え、所々に過去に肉か皮だったものの黒ずんだ残骸がこびり付いていた。昔、目があったであろう部分には光る暗闇といった、ただただ暗い空間が広がっていた。

 ――これが……動く(しかばね)

 戦士風骸骨はゆっくりと動いてバスタードソードを八相に構えた。そして、聖騎士風骸骨は長剣を抜くと盾を上げて防御を固めた。2体とも魔法使い風骸骨を(かば)うように立っている。

 ――生前のままの陣形なんだ……。

 グンゾウは死してなお、後衛を守ろうとする前衛の姿に胸を打たれた。他の仲間も驚きで、声にならないようだ。

 ――しかし、こちらも仲間を失うわけにはいかない。昇天してもらう。

「みんな、後ろっ!」

 チョコが悲痛な声をあげる。チョコが指差した方向から、労働者コボルドを3匹連れたエルダーコボルドがこちらに向かってきていた。

 ――おおおお、やばい。エルダーコボルドはリョータかヨシノでないとキツイ。前の骸骨は戦士も聖騎士も強さがわからない。第3層で死んでるから、そんなに強くないかもしれないけど、戦士は体格が良い。しかも魔法使いがいる。魔法は強力な攻撃魔法を使われると一撃で死んでしまう。支援魔法も前衛の攻撃と組み合わされると死亡事故が起きる可能性が高い。しかし、魔法使いは奥にいるから早く前衛を倒さないと。

「グンゾウさん!」

 カズヒコがグンゾウを見る。グンゾウは(うなず)くと指示を出した。

「後ろのコボルドはヨシノ、アキ、クザク、チョコ、シムラ。前の骸骨はデカイのはリョータ。聖騎士風はミッツ。カズヒコは()()。骸骨の前衛は速攻で()()。タイチは壊れた骸骨が復活する前に解呪(ディスペル)。ハイドは前、ノッコは後の支援、本気出せ。骸骨は能力が不明だ。事故る可能性が高い。一番危ないのは魔法使い骸骨だ」

 

 

 グンゾウの指示で弾けるように皆が動き始める。サイリン鉱山で初めての危機が訪れていた。

 

 




シムラ、後ろ、後ろー!(´ω`)

次回もサイリン鉱山お散歩編の続きです。
ゴブリンどこ行ったんや!

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