廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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原作キャラと言っても、メインキャラが出るとは限りません……ごめんなさいm(_ _)m


22.オルタナのクズ

 人は狭い洞窟の中から世界を見ているようなもので、主観的な事実を、それが真実だと誤解してしまう。真実の姿は簡単に見ることができない。事実に対して、少なくとも一面は客観的な光を照らさないと、真実の影すら見ることはできないのだ。

 世の中には(くず)みたいな奴がいる。

 否めない事実だ。別に否定のしようもない。

 ただし、()()()()は残る。救いようもない(くず)か? それともちょっとは良い所もある(くず)か? 多くの人間が関わって暮らす社会では、そんなことを真剣に考えてみる必要があるのかもしれない。あなたも、そして私も実は(くず)なのかもしれないから。

 

 

 その通りは北区の天空横丁から2本奥に入った裏通り。少し(さび)れた飲み屋小路(こうじ)だ。

 千鳥足(ちどりあし)の酔っ払いや、いかにも商売風の派手な女性を連れた人間が歩いている。初めての人間だと足を踏み入れるのに躊躇(ちゅうちょ)するいかがわしさがある。

 その通りに、一軒のバーがある。その名も「オリビア」。入り口の木戸に看板が掛かっただけの質素な(たたず)まいである。知らない人なら間違いなく通りすぎてしまうくらい目立たない。

 グンゾウはその木戸を開けて中に入った。

 狭い店内。席はカウンターのみの12席。半分程度埋まっている。

「いらっしゃい。グンゾウさん」

 バーの経営者(オーナー)兼バーメイドをやっているオリビア()()だ。オリビア()()と言ってもグンゾウよりはずっと年下で、20代半ばといったところだ。昔は歌姫をやっていたらしいが、()()あり、今は一児を抱えながら昼は子育て、夜はこの店で働いている。()()の部分は詳しくは聞いていない。

 ――責任も取らないのに、そんな所まで踏み込めない。

 グンゾウはそう思っていた。

 グンゾウも義勇兵の(なら)いで、基本的にはシェリーの酒場で食事をしたり、酒を飲んだりすることが多い。しかし、カズヒコ小隊(パーティ)やリョータ小隊(パーティ)の面々の誰かは必ずいるため、たまに独りになりたい時は顔を出す。義勇兵の客は少ない。

 オリビアは濃い顔美人だ。肌は色白とは言えない。どちらかと言えば地黒な方だった。身長は165センチ位だが、顔が小さく、とても痩せているので、170センチくらいあるように見える。基本的に明るい女性だが、時々、大人びた(うれ)いのある表情をするため、ここに通う男共(おとこども)はドキッとさせられることがある。

 バー・オリビアの客のほとんどはオリビアに会いにきていると言っても過言ではない。

 グンゾウはオリビアから遠い、空いている席に静かに座ると注文をした。

「いつもの。あと、今日のお勧めは?」

「今日は、川魚の新鮮なのが手に入ったから酢漬けがあるわ。後は、グンゾウさんに教えて貰ったお肉屋さんから良い腸詰めを分けてもらったから野菜の煮込みを作ったわ」

「じゃあ、両方とも頂戴。あと、お腹空いてるからパンも欲しいかな」

「はーい。よろこんでー。はい、いつもの」

 オリビアがお酒を出す。グンゾウがいつも飲んでいるのはウワの実で作られた蒸留酒だった。ウワの実の蒸留酒はどこでも飲める一般的なお酒だが、オリビアのお店では微発泡のものを出してくれる。この微発泡の蒸留酒は、口当たりが軽く、料理と一緒にグイグイ進んでしまう。

 ――美味い! この一杯のために生きてるよなー。これでオリビアさんと()い関係だったら、もっと楽しいんだろーなー。

 グンゾウはオリビアの姿を見ながら、良からぬ妄想をし始めたが、何故かカレンの顔が浮かんだので、何かが萎縮して妄想が止んだ。

 

 

 グンゾウが発泡酒をグイグイと飲みながら、出てきた料理を食べていると木戸が開いて、3人の男が入ってきた。

「オリビア、今日は2人連れてきたよ」

「あら、クズさん。ありがとう」

 先頭の男は革製の上下を着て、羽根飾りのついた帽子を被っていた。年齢は20代前半から半ばに見えた。狐目で、唇がゆがんでいる。一見して、陰険(いんけん)そうな顔だ。

 グンゾウはこの男のことを知っていた。バー・オリビアの常連で名前はクズオカ。義勇兵で狩人をやっている。義勇兵歴で言えばグンゾウよりも先輩だ。

 クズオカは狭い店内をがさつに移動すると、3つ空いているグンゾウの隣に座った。後ろを通る時にぶつかった人達が不満そうな顔をしている。あまり周囲の空気は読まない方の人間だった。

「お前等、何でも美味(うま)いから、何でも頼め」

 クズオカは連れの2人に対して、偉そうな感じで声をかけた。2人は後輩義勇兵か何かなのだろうか。

「グンさん、お久しぶりっす」

 クズオカはグンゾウに頭を下げた。

「久しぶり。元気だった? クズちゃん」

 本来は新人義勇兵のグンゾウに対して、クズオカは先輩義勇兵である。しかし、グンゾウの見た目もあり、クズオカはグンゾウが先輩義勇兵だと勘違いしていた。

 出会った当初はオリビアを狙っている男と誤解され、感じの悪い対応をされたが、酔っ払って転んだクズオカの治療をしたり、クズオカの愚痴を聞き流してあげたりする間に誤解もほぐれ、今は良好な関係になっている。

 

 一番面白かった愚痴の中に、こんな話があった。

 クズオカは、過去にグンゾウ達と同じように記憶を失ってグリムガルにやってきた人間を1人、仲間に入れてやり、知識を(さず)け、戦士ギルドも紹介してあげた。そして、しばらくの間はクズオカ小隊(パーティ)定宿(じょうやど)に一緒に泊まらせてやった。戦士になって小隊として戦ったが、どうにも使えず、仕方ないので今までの宿代と食事代をなけなしの2シルバーから奪って、突き放したそうだ。

 お金を奪って突き放すことは(ひど)いことだとグンゾウは思ったが、金額自体は至って理由の通る金額だった。

 そうしたところ、その新人が作った新たな仲間から、クズオカは新人義勇兵のお金を全額巻き上げた、せこい義勇兵として見られているとのことだった。戦士ギルドの指南料8シルバーと当面の生活費を差し引けば、義勇兵団からもらったお金の残りは限られているのに……だ。「あいつ、バカバカ飯食いやがった癖に……」とクズオカはぼやいていた。

 クズオカも誰かに嫌われることを(こころよ)くは思っていない。

 

 程度の問題はあれ、クズオカの他人に対する行いや態度はかなり(くず)な面があるため、グンゾウは表面上の付き合いに(とど)めていた。

 ――後輩に偉そうな態度取っちゃうとことか、あんまり好きじゃないんだよね。

「なんとかやってます。グンさんは最近も新人の面倒()てダムローでやってるんですか?」

 面倒臭そうなので、クズオカにはそう説明をしていた。

「ああ、うん、まあ。ここのところはサイリン鉱山でエルダーコボルドとかだったかな」

「なるほど。エルダーコボルドは初心者でも、まあまあ安定して稼げる相手ですよねー。ダムロー旧市街の奪還は諦めましたか?」

「あれ? 俺、そんな話したっけ?」

「ははは、この前会った時は地図を見ながら、悩まれてましたよ」

 クズオカは敬語で話しているが、どこか馬鹿にした感じを受ける損な話し方や顔立ちだった。

 ――あっ、あの日か。ゴブリンスレイヤーの(ランタ)とかいう暗黒騎士への苛立ちが治まらず、オリビアでべろべろに飲んだんだった。

「いやー、恥ずかしい所をお見せした。ダムローの新市街勢力を撤退させるための戦略は進んだんだけど、いくつか課題があってさ」

「聞かせてくださいよ。おい、お前等、早く注文しろよ」

 クズオカは後輩義勇兵に注意しながら、食い入るように顔をグンゾウに向けた。グンゾウは少し鬱陶(うっとう)しく思った。後輩義勇兵は急いでオリビアに料理の注文をする。

「重装備のゴブリン達40匹とホブゴブリン数匹を一遍(いっぺん)に倒さなきゃいけないって制約があってさ。12人だと少し厳しいなって思ってるんだ」

 グンゾウが正直に説明すると、クズオカは大袈裟(おおげさ)に顔を(しか)めて、黙って考えごとをしていた。

 ――大袈裟で生理的にむかつく顔だな。

 しばらくして、クズオカが口を開く。

「40匹のゴブリン達を倒すと、いくら手に入るんですかね?」

 グンゾウもそれは気になっていたところだった。補給物資に大量の貴金属等が含まれていれば、人を雇うのもわけないのだ。

「正直わからない。予想では貴金属で2ゴールド近くはあるんじゃないかと試算してる。後はゴブリンの食料とかなんで、人間には価値無いかな。装備品は重いんで、ちょっと持って行くのも難しそうだし。馬車は奪えるといいなと思うね」

 それを聞くと、クズオカは返事もせず、またむかつく顔で考え事を始めた。

「あと、強そうなのが最低2匹いるんで、これが出てくると、こちらは主力級の戦士を2匹割かれちゃうから、それも考慮に入れないと……」

 グンゾウも言葉にすると解決することの困難さに、段々と考える時間が増えてしまった。

「いやはや、俺に神が降りてきちゃいましたよ。いや、俺が神なのかもしれない。あ、神官の前で言うことではなかったですね」

 クズオカが自信満々の顔でグンゾウを見た。

「俺の仲間達(フレンズ)、いや舎弟達(しゃていたち)の中から最適(ベスト)な人選をすれば、解決できますね。グンゾウさんは俺に感謝しますよ!」

 クズオカは人差し指を立てて、グンゾウの顔に突きつけた。

 ――くぅー、むかつくー。感謝とか予告されたくねー。

「そ、そうなんだ。じゃあ、先にお礼言っとくわ。ありがとう」

 グンゾウが頭を下げようとすると、クズオカはそれを制した。

「待ってください。それは、成功(サクセス)してからにしましょう。分け前は全員平等ってことでいいですよね? 俺が活きが良いのを20人は集めます。まあ、少し抑えないと、一声かけたら20人以上集まっちゃうかもなー」

 クズオカは自分語りに酔って、遠い目をした。グンゾウは正直うざいと思った。

「本当に? すごいね。それはお願いしたい。じゃあ、決行日が決まったら、早めに連絡するわ。シェリーの酒場の掲示板でいいかな?」

「いや、オリビアに言付(ことづ)けてください。な、オリビア」

 クズオカは再び人差し指を立てて、オリビアを指差す。特別な関係を匂わすような台詞(セリフ)と視線を送ったが、特に何もないだろうとグンゾウは思った。

 オリビアは嫌な顔もせずに「はい。大丈夫よ。お待たせー」と言いいながら、後輩義勇兵達に料理を出した。

「じゃあ、まあ、今日は前祝いと言うことで、クズちゃんに一杯(おご)るよ」

 グンゾウが杯を掲げると、クズオカは陰険(いんけん)に見える()の顔で笑顔を作った。

「あ、本当ですか? じゃあ、オリビア、この店で一番高いお酒を! あ、ダブルで、いやボトルで!」

「はーい」

 オリビアはいつものように明るい返事をした。グンゾウは顔色が変わらないように努力したが、脇の下から少し汗が出てきた。

 ――ほんと、こいつ天然(ナチュラル)(くず)だな。まあ、一応、40匹ゴブちゃんの問題も解決したってことでいいかな?

 

 

 翌日、グンゾウは朝の中庭でクズオカの話を全員に共有した。

「そのクソオカって奴は本当に信じていーのかよ?」

 うちの屑(リョータ)の第一声。

()()()()ね。まあ、話半分だな」

 グンゾウも正直な感想を言った。

「でも、話半分でも10人集まれば、うちの仲間と合わせて22人ですよね? 我々より手練れの義勇兵を合わせて22人いれば、40匹のゴブリン位行けそうじゃないですか?」

 カズヒコはいつでも前向きだった。グンゾウもカズヒコの意見を支持する。

「俺もそう思う。正直、(スキル)もない頃だから同数程度のゴブリン達にも苦戦したけど、今の俺等なら同数くらいなら一瞬じゃないかと思っている」

「あったりめーよ、今は俺1人で10匹は一瞬だな。いや20匹だな」

 自信過剰の屑(リョータ)が周りの仲間を白けさせる。

 ――じゃ、片方の補給部隊にはリョータを単独で突貫(とっかん)させるか……。

「そうなると。後は紅鎧(べによろい)やホブゴブリン達への対応策ですね」

 アキが低い、でも可愛い声で最後の課題に触れた。

 アキはミディアムヘアがすっかりロングヘアになっていて、ますますグンゾウ好みになっていた。

 ――かわいい……。

「それにはちょっと、あたしに秘策があるんだよねー、ふっふふ」

 ヨシノが楽しそうに笑っていた。皆の注目がヨシノに集まる。

「是非、教えてよ。ヨシノ」

 カズヒコがヨシノに訊くと、ヨシノは悪戯(いたずら)っぽく微笑(ほほえ)みながら、もったいつけた。

「どうしよっかなー、あはは。まあ、いっか。それはね……」

 

 

 戦闘の天才ヨシノが思いついた秘策とは……。

 

 




作者も思いついていないヨシノの秘策とは?! ( ̄Д ̄;)誰か教えて。
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