廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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24.前哨戦

 ――……1、……2、……3、…………。

 多くのゴブリン達がグンゾウ達の頭上を通過していく。

 ガラガラと車輪が石畳を揺らす音とゴブリン達が行進する複数の足音。さらにチャリチャリと鎖帷子(くさりかたびら)()れる音が混じっている。

 グンゾウ達の全員が息を(ひそ)めていた。

 長く、そして苦しい。たった数十秒のはずなのに、気が遠くなるほど長い時間が流れているように感じる。

 橋の幅は広いため、グンゾウ達がゴブリン達の視界には入ることはないと思われたが、いつ見つかるか分からない恐怖が迫ってくる。

「ギャッギャッギャッ」

 ゴブリンの声がして、心拍数が上がる。音が出そうな程、心臓の鼓動を感じる。

 ショートスタッフを握る手に、(すべ)るほどの汗が出てきたので、グンゾウは神官衣の太股付近で汗を(ぬぐ)った。

 グンゾウは隣にいるアキの顔を見た。眉根を寄せて、真剣な表情をしている。いつもの伏し目がちな目が凜々しく橋の裏側を見上げている。伸びた髪が白い顔にかかり、大人っぽい表情だ。

 ――白くてかわいい。

 グンゾウは最近になって、アキは()()なんだと気付いた。下世話な話でなく、言葉のまま()()という意味だ。出会った当初は10代後半に見えたが、立ち居振る舞いや性格、お酒を飲み慣れている点等を総合的に考慮すると、化粧気のない幼い顔をしているだけで、リョータと同い年くらいなのではないかと推測している。

 お酒の飲み方に慣れていないヨシノやシムラの子どもっぽさと比べると、その差は歴然(れきぜん)だった。それにヨシノやシムラはここ数ヶ月で()()()()()()()。明らかに成長期を(うかが)わせた。

 ――だったら……俺が好きになってもギリギリセーフ……かな?

「いや、それはアウト。キシシ」

 ハイドが突然声を上げる。声を上げると言っても(ささや)くような小さな声だ。

 皆がハイドに注目すると、ハイドはひきつった顔で指を差している。その指の先にはシムラ。

 この張り詰めた緊張の中、シムラがくしゃみをしそうな顔をしていた。

 リョータとヨシノが慌てて手でシムラの口を押さえる。

「へっくしっ!」

 収まるわけもなく、小さなくしゃみが出る。

 11人の顔が全てシムラの方向を向く。全員橋の陰に隠れて上から見えないようにする。じっと耳を澄まして、上のゴブリン達に存在を気付かれていないか探る。

 緊張が最高に高まった静寂の時間が過ぎる。

 シムラが出したくしゃみの音は、川の流れや馬車の音にかき消され、ゴブリン達の耳までは届かなかったようだ。何事も起きず、ゴブリン達は大量の兵站と共に無事旧市街の方へ消えていった。

「よし、向こうの橋を補給隊が通るのは15分後だ。急いで行こう!」

 カズヒコが静かに皆を誘導する。

 全員、川に沿ってさらに奥の橋へ移動する。この所、雨が降っていないので川の水量は少ない。川の両端には乾いた砂利の河川敷ができていた。今、歩いている川はダムローの新市街と旧市街を分かつリュミエール川という。名前の由来はルミアリスからきたのではないかと予想された。しかし、そう呼ばれるようになったのは遠い過去であり、文書化された歴史は既に失われているため、詳細は不明だ。かつては旧市街の発展を支える大事な生活用水の水源であったらしい。今は新市街から流れる下水の流入先となっている。

 ダムロー市街のリュミエール川は治水工事が進んでいて、河床(かしょう)掘削(くっさく)され、両岸とも護岸されている。川幅は河川敷も含めて8メートル程だ。市街地とは高低差が3メートル程あるため、新市街側の岸に沿って歩けばゴブリン達には見つかりにくい。

 移動の途中で、リョータが思い出したようにシムラへ文句を言い始める。

「てっめぇ、このハゲ! あの場面でくしゃみとかするか? 普通」

 普通じゃないリョータに全員が同意している。シムラに全員の視線が集中する。

「とぅいまてーん。なんか昨日()中庭で寝てもうて」

 シムラはポリポリと頭を()く。そして鼻を(すす)った。

 ――直前の体調管理は重要だな。

「通過時間は、全部で何秒だった?」

 グンゾウが聞くと、チョコは零れそうな大きな目をさらに大きく開いた。

「あー、えーっと、シムラがくしゃみするまでで、54秒……その後は飛んじゃった」

「てめ、この、ちんちくりんの目だけお化け、ちゃんと仕事しろ!」

 リョータが口汚(くちぎたな)(ののし)ったので、チョコはほっぺを膨らましてそっぽを向いてしまった。

「別にいいんだよ。ただの再確認だから。馬車5両で54秒なら、大体全体で2分位で通過する感じだな。塔から監視していた時と変わらない。点火は車列の最後が橋の真ん中に差し掛かった時だね。渡り始めから1分30秒ってところだ。ハイド、ノッコ把握した?」

 グンゾウが魔法使いの2人に声をかけると、両名とも(うなず)いた。

 ハイドは元々火炎弾(ファイアボール)を習得していたが、ノッコは直近の修練で火炎弾(ファイアボール)を習得した。ノッコが今まで覚えてきた氷結魔法(カノンマジック)と今回覚えた炎熱魔法(アルヴマジック)統御法(マスタリー)が異なるため苦労したらしい。初心者の内から魔法使いギルドで教えてくれる4種のエレメンタル魔法の全てに手を出しているハイドは、特異な存在のようだ。

 ――良く考えたら、ハイドが戦闘中に氷結魔法(カノンマジック)を使っているのは見たことがないな。酒場で氷は出してくれたけど。ノッコに遠慮しているのかな? まさかな。

 グンゾウはハイドに視線をやると、ハイドは鼻をほじった指を上着で拭いているところだった。

 ――汚い……。

「よし、次の橋が見えてきた。ここは敵陣のど真ん中だから、静かに行動しよう」

 先頭で移動していたカズヒコが口に人差し指を当てて、振り向いた。

 ――確かに、ここは旧市街の一番奥だ。ゴブリン達に囲まれたらたまらない。ただでさえ、戦士達は金属鎧がガシャガシャと鳴って、隠密行動とは言いがたいからな。

 次の橋の下で、もう1回同じ緊張を味わうことになる。グンゾウは溜まったストレスを発散するように長い溜息を吐いた。

 ――次は誰もくしゃみしませんように。

 

 

 グンゾウ達は2週間に1回の兵站補給日に合わせて予行練習を実施した。

 いかに監視砦からよく観察をしたと言えど、実地調査をせずに命懸けの計画を実行する程、グンゾウ達は大胆ではなかった。当初から予定していた通り、ダムロー旧市街への侵入路はダムロー市街を流れるリュミエール川に沿って南東からとした。

 今日はあくまでも実地による下見のため、火薬は持ち込んでいない。虎の子の火薬を川に落として濡らしてしまったら大事(おおごと)だ。

 2基目の橋下での実地調査を無事に終え、グンゾウ達はリュミエール川を歩いてダムロー市街脱出のために移動していた。

「ホブゴブリン、思ったよりデカくね? 170センチ位とか聞いてたけど、今日のは180センチ級がごろごろいたな」

 一番体の大きいクザクがホブゴブリンの大きさに驚いていた。

「びびってんじゃねーぞ、一番デカイくせに。2メートルの奴は俺がやるから、普通のはお前等で処理しろよ」

 リョータが呵呵(かか)と笑いながら、クザクのお尻を叩いた。

「……全く、リョータとは(はなし)したくねーな」

 クザクがぼそっと呟いた。それを聞いてチョコが大きく頷いている。

「ほら、クザクんも、リョータもまだダムローの奥地なんだから、静かにー。早く脱出しよっ!」

 ――そうそう、油断してはいけませんよ。

 ヨシノの正論に触発されて、全員黙って、早足で南東の出口へ向かっていった。

 リュミエール川は大きく蛇行をしながら市街を流れている。そのため、堤防が曲がり、先が見えない場所もある。行き道では、そういう箇所ではシムラやチョコを斥候にして進んでいたのだが、今日の監視作業は終わっているという気の緩みがあったのか、帰り道は全員気にもせずに進んでいた。

 もうすぐ最初の橋という所で、突然、思いがけない光景がグンゾウ達の目の前に現れる。

「なんやっ!」

 先頭を歩いていたシムラが思わず声を上げる。

 目の前の川に荷馬車が落ちて、川を塞いでいる。馬が暴れたのか、橋から転げ落ちたようだ。

 そして、その落ちた荷馬車を道まで持ち上げるために、2匹のホブゴブリンが上から荷馬車を縄で引っ張り、4匹のホブゴブリンが川から荷馬車を持ち上げようとしていた。監督役のゴブリン達が3名程いる。

 ゴブリン達もグンゾウ達に気付き、既に逃げることはできない。何より、南東方向の出口が荷馬車で塞がれ、逃げ道がない。逃げるためには荷馬車を乗り越える必要がある。

 ――まずい、まずすぎる! 逃げ道が無い。北側は新市街。早く片付けないと仲間を呼ばれたら危機(ピンチ)だ。俺達は川にいる。市街地は高さが上なので、市街から複数匹に弓を使われたらなぶり殺しだ。

「戦闘隊形っ!」

 カズヒコが鋭く声を出す。すぐに戦士達が前に出て、魔法使い達が後ろに下がる。

「ギャギャギャっ!」

 甲冑に身を包んだ1匹のゴブリンが指示を出す。

 岸に居た2匹のホブゴブリンが川に飛び込んできて、川にホブゴブリンが全部で6匹になった。さらに甲冑ゴブリンの両脇にいた2匹のゴブリン達も川に降りてきた。後ろの回り込まれる。

 ――後ろに回り込まれたのは何だが、岸から攻撃されるより、川に降りてきたもらった方がいい。あの甲冑ゴブリンは紅鎧とは戦術センスの格が違うようだ。

「丁度()い! どちらにしろ全員がホブゴブリンを倒せないようでは勝てない。やろうっ!」

 カズヒコの掛け声で、戦士5人と聖騎士のアキが前に出る。

「あの一番デカイやつは俺がやるぜ!」

「じゃあ、あたしは2匹いくー!」

 リョータが勇ましく吠えると、ヨシノはそれを上回る勇ましさを見せた。

「おいおい、そりゃねーだろ、ヨシノ」

「えー、できるよー、たぶん、狭いから相手になるのは1匹ずつでしょー?」

「じゃ、じゃあ、俺も2匹いってやるぜ! ミッツ、アキ、お(めぇ)らは、後ろのゴブリン2匹を()れ! 速攻で戻ってこい」

「へへへ、へいっ!」

「はいっ!」

 リョータの手先と化しているミッツと、優等生のアキが後ろに向かう。概ね目標が決まり、前衛が防衛戦を築く。狭い川の中での戦いなので、横は4人程が並ぶのが限界だ。それはホブゴブリンも同じで、6匹いても実質は4匹しか戦線には加われない。

 ――川のゴブリン、ホブゴブリン達は前衛6人に任せるとして、上の甲冑ゴブリンは……。

「シムラ、チョコ、岸に()がって、甲冑ゴブリンを素早く仕留めてきてくれ。仲間を呼ばせないように」

「りょ!」

「うっす! グンゾウさん」

 チョコは背負った(かばん)からゴソゴソと鉤爪(かぎづめ)の付いた投げ縄を出し、回し始める。シムラは弓を背負い直した。シムラの弓はサイリン鉱山で甲冑を着たコボルドに通じなかった。シムラはそれを気にしていたらしく、貯めたお金で合成弓(コンポジット・ボウ)を新調していた。これで甲冑をも貫く必殺の一撃が放てる算段だ。

「魔法使いはホブゴブリン側に集中。タイチはミッツとアキを見ててくれ」

 グンゾウが指示を出すと、ハイドとノッコはそれぞれ「キシシ、了解」、「わかりました」と杖を構えた。タイチはグンゾウが指示するより早くミッツとアキの後ろに張り付いている。

 既にホブゴブリンとの戦端は開かれている。

 リョータは一番大きい180センチメートル級のホブゴブリンAとグンゾウからみて右岸で対峙していた。ホブゴブリンAの武器は1メートル程の棍棒だ。筋肉隆々とはまさにこの生物のことで、あのリョータより一回り大きい肉体をしている。しかし、防具はほとんど着けておらず、裸同然だ。

「しゃあーーら! おらぁ、おらぁ、おらおらおらおらおらぁ!」

 最近熱心に素振りをしていたリョータの剣筋は一段と速度を増していた。そして元から()()

 技術の低いホブゴブリンは打ち込まれる両手剣(ツヴァイヘンダー)を棍棒で受けるのが精一杯で、全く攻勢に出ることができない。

 ――あれは時間の問題だな。強くなったなー、リョータ。

 カズヒコとクザクは170メートル級のホブゴブリンB、Cと戦っていた。慣れないせいか、動きがぎこちなく、少し危うい。初めての敵に面した時、カズヒコ小隊(パーティ)は実力が発揮できない傾向がある。今日は良い訓練だったのかもしれない。ホブゴブリンB、Cも武器が棍棒なので頭部への直撃を避ければ致命傷にはならないだろう。

 川の左岸で戦っているのはヨシノだ。

「ほいちょっと、はいっ、はいっと」

 緊張感の無い声を出しながら、ヨシノが槍を振るっている。

 ヨシノは宣言通りホブゴブリンD、E2匹を同時に相手にしていた。こちらは170センチメートル級なので、ヨシノと変わらない背丈だが体格はまるで違う。こちらも両方とも武器は棍棒だ。

 ヨシノはホブゴブリン達を子どものようにあしらっている。

 足払い(フットウィープ)で転ばしたり、多段突きで牽制(けんせい)したりしている。転んだホブゴブリンDが立ち上がろうとした瞬間、槍の石突きで顔面を叩いて、吹っ飛ばした。

 ――あれは、遊んでるな……。

「ヨシノ! 遊んでちゃ駄目だ。ここは早く脱出したい」

「あれ? ばれてたー? グンちんはよく見てるなー」 

小姑(こじゅうと)みてぇだろ? うるせーんだよ、オッサン。うわっと」

 リョータが反対側から余計なことを言っているので、ホブゴブリンAから反撃を受けた。棍棒で叩かれ、両手剣で受ける。鍔迫り合い(バインド)状態だ。

 ホブゴブリンAの力に押されて、リョータも本気で押し返している。

「戦いに集中するんだ、リョータ!」

「うるせぇ……、だから……、小姑みてぇだって……言ってんだろ!」

 リョータは鍔迫り合い(バインド)状態から両手剣を後ろに少し引く。相手の棍棒が滑ってリョータの方に振り下ろされる形になった。その瞬間、剣と棍棒が噛み合っている部分を起点に、両手剣の先を半時計周りに動かし、両手剣の先でホブゴブリンAの頭部に剣先をぶつける。

「ガウァーッ」

 ホブゴブリンAの左前頭部がぱっくりと割け、血が飛び散る。

「ちゃりーん。巻撃(ウインド)

 リョータがニヤリとしている。

 ――やっと覚えたか……。

 リョータは狼狽(うろた)えて棍棒を振り回すホブゴブリンAの血で見えない右側に回ると勢いよく両手剣を首筋に突き立てた。ホブゴブリンAはしばらく暴れていたが、すぐにぐったりとした。

「ふふふ、()()一番手柄だぜ!」

「ざんねーん! もう、あたし1匹倒してるよー」

 久々の()()宣言に酔っているリョータにヨシノが水を差した。グンゾウが目を向けると、既にヨシノの足下にはホブゴブリンEが横たわっている。ヨシノはさらにホブゴブリンDを死の淵に追い込もうとしていた。

「何?! 俺様の一番手柄が……」

 リョータが動揺していると、ホブゴブリンAの後ろに居たホブゴブリンFがリョータに襲いかかってくる。

「おわっと」

 リョータが体を捻って躱すと、ホブゴブリンFはそのまま戦線を抜けて後衛の方に襲いかかってくる。「やべぇ! 抜けちまった!」というリョータの間抜けな声が聞こえる。

「ウアウァー、ガー!」

 ホブゴブリンFの狙いはグンゾウだ。ホブゴブリンはとろくさい雄叫びを上げながら、棍棒を上段に振り上げて突進してくる。

 ――どうしよ、あの棍棒をショートスタッフで受け止められるだろうか?

 グンゾウが咎光(ブレイム)と護身法のどちらにしようか一瞬判断に迷っていると、グンゾウの右脇を白い影が通り過ぎていく。

「はっ!」

 白い影は跳躍すると、ホブゴブリンFの顔面を右から左に盾で払いのける。

 ――盾打(バッシュ)?!

 ホブゴブリンFは、打撃の衝撃で脳を揺らされ、足が蹌踉(よろ)めく。そこを白い影が長剣(ロングソード)で切り刻む。傷は浅いが、ホブゴブリンFは全裸に近いため、全身が傷だらけになる。(かぶと)から黒い髪の毛が(こぼ)れている。

「アキ! どうして?」

「もう、ゴブリンは片付いていたので、こちらに来ました」

 グンゾウが後ろを振り返ると、ゴブリン2匹は変わり果てた姿となって、川の流れに()かっていた。ミッツも既にカズヒコとクザクの助っ人に入っている。

 ――はやっ! そうか、普通のゴブリンはもう敵じゃないのね。

 グンゾウが皆の成長に感心していると、戦況はどんどん好転していった。

 「ドシャ」という音がして、グンゾウの目の前にゴブリンが1体落ちてくる。

 ――今日の天気は晴れ時々ゴブリンか?

 ゴブリンの心臓には甲冑を突き破って、矢が2本突き刺さっていた。

「しゃー! やってやったで!」

 岸の上からシムラの声がする。ゴブリンが落ちてきたと思われる箇所を見上げると、チョコが()()()っと顔を出して下を覗き込んでいた。

「ごめんなさい。ゴブリン落ちちゃいました……」

「了解。そのまま上で警戒してて、後続がきたら教えてね」

「はーい」

 ――よし、これでリーダーも消えた。

 後は、調子に乗ったリョータ小隊(パーティ)にホブゴブリン達は追い詰められ、殲滅されていくだけであった。

「おりゃあぃ! ()()()()()!」

 ――なんだそりゃ……。

 カズヒコ達に割り込んだリョータの憤怒の一撃(レイジブロー)でホブゴブリンCの上半身が落ちる。

「ジェスキシシ・イーン・サルクシシシシ・フラム・ダルト、キシッ」

 雷鳴が響いて、アキと対峙していたホブゴブリンFの体がビクッっと跳ねる。

 同時に川に浸かっているグンゾウ達の足にぴりっとした刺激が走る。

「きゃあっ!」

 一番傍にいた、アキが悲鳴を上げる。

(いた)っ! ハイド、敵が川の中にいる時に電磁魔法(ファルツマジック)とか使うなよ」

「シシシシ、……正直すまん」

 ――あほハイド……。

 ホブゴブリンFは良い(悪い?)ところに通電したのか、跳ねたまま硬直して後ろに倒れた。

「アキ、大丈夫か?」

 グンゾウが声をかけると、アキは手を挙げて返事をした。

「だ、大丈夫です。ちょっと足が(しび)れて驚いただけで、行けます」 

 アキが戦闘への意欲を見せたが、丁度その時、ホブゴブリンBの首をヨシノが綺麗に跳ね上げた瞬間であった。

 

 

「しかし、ホブゴブリンってのは(なん)も持ってねーなー」

 リョータがぶつくさ言いながら、ゴブリン達の死体から戦利品を(あさ)っている。

「ゴブリンから見たら、奴隷みたいだしね」

 カズヒコが言う。

「リーダー角のゴブリンも装備くらいしか、貴重品は持ってないかも」

 アキがゴブリンの装備を物色している。ここ数ヶ月でアキの装備は大分ゴブリン装備から卒業しつつあるが、まだゴブリンの装備には興味があるようだ。

「だけど、この荷馬車どうしますか?」

 タイチがグンゾウに聞いてくる。

「2週間もあれば、その内に片付いてるんじゃないかな? でも片付いてなかったら撤退時に邪魔になるから困るね。監視砦から監視する対象にしておこう」

「あと、縄梯子(なわばしご)は用意しておいた方がいいと思う。戦士はただの縄じゃ、(のぼ)るの大変そうじゃない?」

 チョコが盗賊(シーフ)らしい提案をした。

「それもそうだね」

 グンゾウは答えた。

 ――荷馬車の監視と縄梯子……と。

「今日は、骨折(ほね)(ぞん)草臥(くたび)(もう)けだな……」

 悲観主義者(ペシミスト)のクザクがぼそぼそと呟く。

「まあまあ、今日は実地調査が目的だからトラブルがあった方が本番に役に立つんじゃないかな?」

 グンゾウはクザクを慰めた。

 その時、見張りのために橋の上に残っていたシムラが、川に目がけて叫ぶ。

「来たでっ! 結構()る!」

「よし、今日の仕事は終わったから撤退しよう。シムラも川に降りておいで」

 カズヒコの声で全員が撤退に向けて動き出す。

 荷馬車を少し動かして通路を確保すると、速やかに全員でダムロー郊外へ撤退した。

 

 

 ――ここまで来れば大丈夫かな?

 グンゾウ達がダムロー市街を抜けてしばらく経つ。

 珍しくリョータがグンゾウの傍に寄ってきた。

「おい、オッサン」

「オッサン? あ、ヨーシノちゃーん?」

 グンゾウはヨシノに話しかける素振(そぶ)りをする。

「あ、こらこら、すいません、グンゾウさん。いや、それは何かおかしい、グンゾウ」

「んー……、まあ、いいか。どうした?」

 リョータは顔を近付けて、抑えた声で(ささや)く。

「どうだった? ()いやついた?」

 リョータはニヤッと口元を(ゆが)める。恐らく()()()()について聞いてると思われる。グンゾウは少し考えた後、リョータの目を見て言った。

「ああ、それはそれは……」

 リョータの喉がごくりと動く。

「秘密! キシシシシ」

 グンゾウは歩く速度を速めて、リョータを置き去りにした。リョータはぽかんとした顔をしてから、叫んだ。

「てめぇはハイドかっ!」

 会話の前後を理解していないハイドは急に名前を呼ばれたので、「キシ?」っと言って首を(かし)げた。

 ――()()本番だ!

 グンゾウは苛立つリョータを置き去りにして、ダムロー奪還に向けての計画を具体的に練り始めていた。

 

 




あと2話+エピローグで第1章は完結予定です。
書き留めるので、少しだけ間空きます。
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