「軽ーい!! 本当にサイコーだね!」
ヨシノが跳び回りながら、白く輝く槍を振るった。その度に小さく醜悪な生物の命が奪われていく。そのヨシノの左手首には光る六芒が浮かんでいる。グンゾウの習得した
――最高じゃないと困っちゃう。なんせ高かったからな。
――確かに、体は軽い。まるで20代に戻ったみたいだ。
「……思ってはみたものの、20代とか、覚えてないけどねっ!」
――不快な感触だ。
グンゾウはショートスタッフではなく、
――光よ、憐れな怪物にルミアリスの慈悲のあらんことを……。
グンゾウは目の前で、今まさに命を終えようとしているゴブリンに祈りを捧げた。
「オッサンやるじゃねーか。戦士に転職したらどうだ?」
リョータがゴブリンを3匹相手にしながら、グンゾウをからかってくる。
「俺は殺生なんてしたくないの。どこかのリーダー様が、無謀にもこんな大量の群れに突っ込むから俺まで戦わなくちゃいけなくなったの」
グンゾウが皮肉で返す。
「こんな裸のゴブリン達は数の内に入んねーんだよ! 今ならイケる!
リョータは信じられないことに甲冑を着たまま前方宙返りをして、目の前のゴブリンに両手剣を叩きつけた。
甲冑も含む全体重を乗せた両手剣の一撃は、ゴブリンを立ったまま開きにするのに十分な威力を発揮し、地面まで斬り裂いた。新調された両手剣は肉厚の片刃で、大きな剣鉈といった
――まーた、派手な技を覚えてきたな。
刹那、白い光が横に走った。
逃げ出したゴブリンの1匹に槍が刺さる。槍が刺さった瞬間、突進してきたヨシノの
投げられた槍は、
この技を実現するために、やはりヨシノも鎖帷子の量を少し減らした。
ここにきて両戦士が防御力を少し下げたのには理由がある。
「ちょっと、……誰かー、少し手伝ってくださーい」
アキは忙しい。
アキの甲冑姿は美しかった。白い光沢のある金属で出来た甲冑に身を包んでいて、張り出している大きめの肩当に比べ、腰の部分は細身に絞られた意匠になっており、女性らしい曲線美を作り出している。元がゴブリンの装備だという点を除けば最高だ。
「ほいほーい」
緊張感の無い声を出して、ヨシノがアキの救援に向かった。
「待て、こらー!」
リョータは逃げるゴブリンを追いかけて行ってしまった。
――なんか、前よりまとまり悪くなってね?
グンゾウはため息を吐いた。
「グンゾウさん、なんか新手が来ましたで」
シムラが見ている先には、3匹の新手がこちらに気付いた様子だった。グンゾウ達の方に来るかどうかは分からない。
しかし、新手の3匹は賢い選択をしなかった。グンゾウ達の方に向かってきてしまった。
――愚かな。無駄に命を散らすこともあるまいに。
「キーーシッシッシッシ、ジェスキシシ・イーン・サルクシッシッシ・カルト・フラム・ダルト、キシッ」
――まあ、そうなるよな。
ハイドが気持ちの悪い笑い声と共に、
向かってきたゴブリン達の頭上から
「ギジジ……」
ハイドは両手の爪を噛み、見るからに悔しがっている。「もう、寝る! キシっ!」と言うと、地面に座り込んでしまった。
――外れたくらいで寝るなよ……。
「ピッチャー振りかぶって、投げた!」
本人もよくわかっていない
投げた刃物は
――あれなら、放っておいても勝つか……。
グンゾウは他に注意を向けた。
それは晴れた日の穏やかなダムロー旧市街だった。
先程、ゴブリン達の大量虐殺を終えたリョータ
グンゾウ達が
それらは新市街ゴブリン達との過酷な戦争を生き抜いて、成長を遂げたリョータ
「なんだか裸ゴブリン達じゃ、物足りねーな」
リョータはサンドイッチを食いちぎりながら、つまらなそうに呟いた。朝、西町手前のパン屋タッタンで購入したものだ。滋味あふれる固めのクッペから、薄く切られた肉が溢れる程飛び出している。野菜は何かの葉っぱが1枚入っているだけで、あとは肉、肉、肉という肉食系男子向けのサンドイッチだ。かなり美味しい。
リョータがつまらなそうなのはゴブリン達が弱いからだけではない。
ダムロー旧市街の奪還後からグンゾウ達はカズヒコ
別に
「あたしは、
「俺も、剣鉈の練習はゴブリンじゃないときついで。あ、あとダムローは弓が撃てるからええ!」
ヨシノとシムラは
「だがよー、裸ゴブリン達だと、稼ぎもいまいちだしな」
リョータは稼ぎについても物足りなさを感じているようだった。
「チョコ達もカズヒコ
アキは最近でもチョコやノッコとよく話をしているみたいで、リョータにカズヒコ
――確かにカズヒコ達だけでエルダーコボルド狙いは、少し危ないかもなー。
グンゾウはリョータ達の話を聞きながらも、頭半分では別のことを考え始めていた。
ここ数日、ずっと頭に残っていたことだ。
それは
当然、
カレンは重要な祭事があり、アラバキア王国本土にあるルミアリス神殿の本部に出張中とのことだった。初老の男性修師は、厳しいながらも的確
「なんだか、……物足りないな」
グンゾウは思わず心の中が口を
それを聞いたリョータは破顔し、グンゾウの肩をバンバンと叩いた。グンゾウは3ダメージ喰らった。
「おっ! なんだよ、オッサン、わかってんじゃん。そういうことなら、これから少し西の拠点を潰しに行こうぜ。あいつ等、雑魚ゴブリン達を取り込んで、今、15匹位になってきているから、少しはやり甲斐あるぜ!」
――あ、しまった。またやっちまった。
「ほえー。慎重なグンちんが珍しい」
ヨシノが目を皿のように丸くしている。
「キシシ、グンゾウはスケベ」
「なんでやねん!」
ハイドは的確なことを言ったのだが、ボケたと認識され、シムラの突っ込みを後頭部に受けた。眼鏡を飛ばされ、数字の「3」のように目を細めたハイドが、地面に落ちた
「
定番のやり取りだが、皆、声を出して笑った。グンゾウはリョータ
――6人での狩りもいいな。今日は本当に穏やかな日だ……。
グンゾウの神官衣はゴブリン達の返り血で染みだらけだったが、そんな非日常も当たり前になり、心は平穏そのものであった。
西の拠点にいたゴブリン達の殲滅戦もさほど苦労はしなかった。
建物の外にいた
建物は、入り口の正面に2階への大きな階段があり、高低差がある攻防は多少手間取った。弩を持ったゴブリンが数匹いたためだ。2階から射撃をされる。
それはアキを先頭に侵入し、家具で拠点を作ると、最後はハイドの
新市街の甲冑ゴブリンとホブゴブリンが最後の敵だったが、
「ふぅ……、思ったより、数が多かったな。みんなー、怪我はないー?」
グンゾウは額の汗を神官衣の袖で拭った。
――まさか
甲冑ゴブリンのいた部屋は暖炉があり、高級そうだがボロボロの青い絨毯が敷かれ、ソファなどが置かれていた。ソファの前には低い
「俺等より、良い暮らししてやがんな」
リョータがソファに腰掛け、
「そうねー。でも、ちょっぴり掃除が足りないかなー?」
ヨシノが暖炉の上に置かれた小さな額縁に息を吹きかけると、埃が煙のように舞った。額縁の中に絵は無い。ヨシノは鼻がむずむずするのか、くしゃみをしそうな顔をしたが、結局出ずに元の顔に戻った。気持ち悪そうな顔をしている。
――しないんかーい!
「そろそろ、私達も宿舎から出て、宿屋に泊まってもいいかも? 女性専用の宿屋とかあるみたいだし……泊まりたいなー」
アキが遠い目をしている。ボロい宿舎暮らしに限界を感じているのかもしれない。
――女性専用の宿屋か……。アキと1つ屋根の下で暮らせなくなるのは、……寂しい。正直、嫌だ。
「ん? なんや?」
既に
「どうしたー?」
グンゾウが声をかけると、シムラは床板を何度も踏んでは覗き込んでいる。シムラが踏む度に床板はガタガタと大きめの音を立てた。
「なんだか、ここの床下に何かあるみたいなんす」
「罠じゃねーの? もしくは1階に抜けてるとか?」
リョータがケラケラと笑った。
シムラが床板を引っ張ると、周囲の数枚が簡単に外れた。床下から一抱え程の大きさの麻布で作られたゴブリン袋が現れる。ゴブリン袋は中身の形が分かる程、ぎっしりと何かで詰まっていた。グンゾウはその様子をシムラと一緒に眺めていた。
「おっ、大きいゴブリン袋だな。いつもながら何だか喜びを感じるね。
「詩的だねー。グンちん」
ヨシノも飛んできて、楽しそうな顔をしながら床下のゴブリン袋を覗き始めた。シムラが床下に足を下ろし、ゴブリン袋に手をかける。
「グンゾウさん、これ、ごつい重いっす。
シムラは笑顔で上を向いた。
床上に上げられるゴブリン袋。置いた瞬間床板が
「いくでー!!」
シムラは袋の口を思い切って開けると、勢い良く中身を床に出した。ゴブリン袋からは大量の銀貨と銅貨、そして、高価そうな宝飾品がザラザラと音を立てて出てきた。
「おおおっ!」
「おーっ! きれーっ! やたーっ!」
「うわぁ、すごい」
「キシっ!」
皆が喜びの声を上げる中、グンゾウは驚いて声が出ない。ゴブリン袋の中身は、ぱっと見で1ゴールド近い価値があるように見えた。
――ダムロー旧市街でゴブリン達を倒して、ゴブリン袋から戦利品を
少し新鮮みの失われた義勇兵暮らし。グンゾウはそんな暮らしの中にある小さな幸せを改めて再認識した。
光の護法(プロテクション)が欲しい、今日この頃です。
20代の体力があれば今頃全話書き終えてる……(´・ω・`)