廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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2話目を投稿です(`・ω・´) シャキーン


2.それは穏やかで退屈な殺戮の日々

「軽ーい!! 本当にサイコーだね!」

 ヨシノが跳び回りながら、白く輝く槍を振るった。その度に小さく醜悪な生物の命が奪われていく。そのヨシノの左手首には光る六芒が浮かんでいる。グンゾウの習得した光の護法(プロテクション)だ。

 ――最高じゃないと困っちゃう。なんせ高かったからな。

 光の護法(プロテクション)の習得には金貨1枚かかった。光の護法(プロテクション)は身体能力や様々な抵抗能力、自然治癒力が向上する効果がある。光明伸ルミアリスのシンボルである六芒と関係があるのか、1度に6人までしか範囲に含められない。これが6人小隊(パーティ)が最も効率が良いとされる由縁だ。光の護法(プロテクション)の効果は30分程しか効果が継続しないため、グンゾウの戦闘での管理事項に30分という時間管理も入った。

 光の護法(プロテクション)が使えるようになって神官は初心者を卒業と言われるらしい。あとは3ゴールド払って光の奇跡(サクラメント)を覚えれば一人前となる。

 ――確かに、体は軽い。まるで20代に戻ったみたいだ。

「……思ってはみたものの、20代とか、覚えてないけどねっ!」

 強打(スマッシュ)。グンゾウは戦棍(メイス)を振り下ろし、目の前のゴブリンの頭を叩き潰した。骨の砕ける感触が戦棍(メイス)を通じて手に伝わる。

 ――不快な感触だ。

 グンゾウはショートスタッフではなく、戦棍(メイス)を新調した。それは先端が出縁(でぶち)形をしており、上から見ると六芒だ。見た目の良さと軽量化、衝撃力の集中を図っている。カレンから貰ったショートスタッフに比べると武骨さは(ぬぐ)えないが、実戦的であった。

 ――光よ、憐れな怪物にルミアリスの慈悲のあらんことを……。

 グンゾウは目の前で、今まさに命を終えようとしているゴブリンに祈りを捧げた。

「オッサンやるじゃねーか。戦士に転職したらどうだ?」

 リョータがゴブリンを3匹相手にしながら、グンゾウをからかってくる。

「俺は殺生なんてしたくないの。どこかのリーダー様が、無謀にもこんな大量の群れに突っ込むから俺まで戦わなくちゃいけなくなったの」

 グンゾウが皮肉で返す。

「こんな裸のゴブリン達は数の内に入んねーんだよ! 今ならイケる! 転輪破斬(サマーソルトボム)!」

 リョータは信じられないことに甲冑を着たまま前方宙返りをして、目の前のゴブリンに両手剣を叩きつけた。

 甲冑も含む全体重を乗せた両手剣の一撃は、ゴブリンを立ったまま開きにするのに十分な威力を発揮し、地面まで斬り裂いた。新調された両手剣は肉厚の片刃で、大きな剣鉈といった風情(ふぜい)だ。

 ――まーた、派手な技を覚えてきたな。

 転輪破斬(サマーソルトボム)は空中で回転をするため、体の上下で重さの均衡(バランス)を取る必要がある。リョータはこの技を使うために、両手剣の重さを増し、鎖帷子の量を減らした。防御力を落としても派手な攻撃に資源(リソース)を費やすという、正にヤンキー理論だとグンゾウは思った。

 転輪破斬(サマーソルトボム)で開きにされたゴブリン。それ以外の2匹は恐れをなして逃走しようとする。

 刹那、白い光が横に走った。

 逃げ出したゴブリンの1匹に槍が刺さる。槍が刺さった瞬間、突進してきたヨシノの片刃の両手剣(シミター)が手足を切り落とした。

 投げられた槍は、投げ槍(ジャベリン)という槍の(スキル)だ。ヨシノはそれに独自の改良を加えた。投擲された槍の後を追って移動し、槍が当たれば止めを刺す。もし、槍が(かわ)された場合でも崩れた体勢を狙うという、一挙両得な攻撃方法だ。ヨシノの足の速さを活かした鬼の複合技(コンボ)瞬間移動撃(ワープストライク)と呼んでいる。本人的にはまだ満足な仕上がりではないらしい。

 この技を実現するために、やはりヨシノも鎖帷子の量を少し減らした。

 ここにきて両戦士が防御力を少し下げたのには理由がある。()()のお陰で後衛のために防御に徹するという必要性が減ってきたからである。その彼女は今、4匹のゴブリン達と奮戦していた。

「ちょっと、……誰かー、少し手伝ってくださーい」

 アキは忙しい。

 ()わる()わる襲いかかってくるゴブリン達を長剣(ロングソード)牽制(けんせい)したり、盾打(バッシュ)で弾き飛ばしたり、休む(いとま)がない。しかも、リョータと違い、1匹も後ろに漏らすことなく、全て引き止めている。

 アキの甲冑姿は美しかった。白い光沢のある金属で出来た甲冑に身を包んでいて、張り出している大きめの肩当に比べ、腰の部分は細身に絞られた意匠になっており、女性らしい曲線美を作り出している。元がゴブリンの装備だという点を除けば最高だ。

「ほいほーい」

 緊張感の無い声を出して、ヨシノがアキの救援に向かった。

「待て、こらー!」

 リョータは逃げるゴブリンを追いかけて行ってしまった。

 ――なんか、前よりまとまり悪くなってね?

 グンゾウはため息を吐いた。

「グンゾウさん、なんか新手が来ましたで」

 シムラが見ている先には、3匹の新手がこちらに気付いた様子だった。グンゾウ達の方に来るかどうかは分からない。(なに)せグンゾウ達の足下はゴブリン達の死体だらけだ。

 しかし、新手の3匹は賢い選択をしなかった。グンゾウ達の方に向かってきてしまった。

 ――愚かな。無駄に命を散らすこともあるまいに。

「キーーシッシッシッシ、ジェスキシシ・イーン・サルクシッシッシ・カルト・フラム・ダルト、キシッ」

 ――まあ、そうなるよな。

 ハイドが気持ちの悪い笑い声と共に、()()()()最高攻撃魔法を唱える。

 暴威雷電(サンダーストーム)の魔法だ。

 向かってきたゴブリン達の頭上から幾筋(いくすじ)もの雷が落ち、雷鳴(らいめい)(とどろ)く。愚かで不幸なゴブリン達は数本の雷に打たれ、絶命した。……と思いきや、1匹のゴブリンは上手く雷をすり抜け、グンゾウ達に向かってくる。武器は粗末な木の棒を持っていた。

「ギジジ……」

 ハイドは両手の爪を噛み、見るからに悔しがっている。「もう、寝る! キシっ!」と言うと、地面に座り込んでしまった。

 ――外れたくらいで寝るなよ……。

「ピッチャー振りかぶって、投げた!」

 本人もよくわかっていない台詞(セリフ)を言いながらシムラが、小型の刃物を3本投げた。星貫(ほしぬき)という狩人の(スキル)だ。

 投げた刃物は飛苦無(とびくない)と呼ばれる投擲(とうてき)専用の短刀で、ゴブリン目がけて真っ直ぐ飛翔し、顔に1本、胸に2本刺さった。相変わらずシムラの遠距離攻撃は命中精度が高い。投げた直後からシムラはゴブリンに近付くと、剣鉈で斬り付けた。

 ――あれなら、放っておいても勝つか……。

 グンゾウは他に注意を向けた。

 

 

 それは晴れた日の穏やかなダムロー旧市街だった。

 先程、ゴブリン達の大量虐殺を終えたリョータ小隊(パーティ)は、崩れかけた建物の影に隠れて昼食を食べていた。シムラが狩人らしく白神のエルリヒに食料の捧げ物をし、感謝の祈りをしている。

 グンゾウ達が兵站(へいたん)を奪い、補給路の橋を破壊した作戦が成功して以降、ダムロー旧市街のゴブリン達は目に見えて減っていった。特に装備の充実した新市街出身のゴブリン達が先に減っていき、今はいくつかの集団が再起を目指して大きな建物を占拠しているのを除いて、旧市街には昔ながらの粗末な装備のあぶれ者ゴブリン達が糧を求めて歩いているだけの状態に戻った。

 それらは新市街ゴブリン達との過酷な戦争を生き抜いて、成長を遂げたリョータ小隊(パーティ)からすれば、物足りない敵であった。今もリョータの独断専行で10匹以上いる集団に突撃したが、特に危険な目に遭うこと無く殲滅した。

「なんだか裸ゴブリン達じゃ、物足りねーな」

 リョータはサンドイッチを食いちぎりながら、つまらなそうに呟いた。朝、西町手前のパン屋タッタンで購入したものだ。滋味あふれる固めのクッペから、薄く切られた肉が溢れる程飛び出している。野菜は何かの葉っぱが1枚入っているだけで、あとは肉、肉、肉という肉食系男子向けのサンドイッチだ。かなり美味しい。

 リョータがつまらなそうなのはゴブリン達が弱いからだけではない。

 ダムロー旧市街の奪還後からグンゾウ達はカズヒコ小隊(パーティ)と別行動をすることが多くなった。

 別に仲違(なかたが)いをしたという訳ではない。純粋にお互いの望む狩り場が変わったからだ。もちろん、ヤンキーリョータとクザクやチョコの仲が良くはないことが遠因(えんいん)であることは否定できない。しかし、主な要因はゴブリンスレイヤーの活躍でデットスポットという悪名高い怪物(ノートリアスモンスター)がいなくなり、サイリン鉱山の狩りが安全になったため、カズヒコ小隊(パーティ)は実入りが安定するサイリン鉱山での狩りを望んだことにある。そして、リョータ小隊(パーティ)の面々はグンゾウを除きコボルド狩りを好まないため、ダムロー旧市街に通っている。そのため、別々に行動することが多くなった。

「あたしは、(スキル)の練習ができるから、ゴブちん好きだけどなー。強い敵だと、練習はできないしねー」

「俺も、剣鉈の練習はゴブリンじゃないときついで。あ、あとダムローは弓が撃てるからええ!」

 ヨシノとシムラは(スキル)の確認に余念が無い。

「だがよー、裸ゴブリン達だと、稼ぎもいまいちだしな」

 リョータは稼ぎについても物足りなさを感じているようだった。

「チョコ達もカズヒコ小隊(パーティ)6人ではエルダー狙いというよりは、労働者(ワーカー)がほとんどで、稼ぎはゴブリン狙いとさほど変わらない感じだと言ってた。タリスマンを持ちかえるのは楽らしいけど……」

 アキは最近でもチョコやノッコとよく話をしているみたいで、リョータにカズヒコ小隊(パーティ)の状況を説明している。

 ――確かにカズヒコ達だけでエルダーコボルド狙いは、少し危ないかもなー。

 グンゾウはリョータ達の話を聞きながらも、頭半分では別のことを考え始めていた。

 ここ数日、ずっと頭に残っていたことだ。

 それは光の護法(プロテクション)を習得しに、ルミアリス神殿に行った時のこと。

 当然、修師(マスター)カレンによる厳しい()()を覚悟(期待?)して修練に臨んだが、指導に現れたのは初老の男性修師だった。名前は既に覚えていない。長い白髪を頭の上できつく縛っていた。

 カレンは重要な祭事があり、アラバキア王国本土にあるルミアリス神殿の本部に出張中とのことだった。初老の男性修師は、厳しいながらも的確()つ確実に光の護法(プロテクション)を指導し、最後にはグンゾウのことを「義勇兵の中では、近年(まれ)に見る天賦の才と真摯さだ」と褒めてもくれた。深く感謝の意を表して、ルミアリス神殿を下山したグンゾウだったが、下山後、何か物足りなさを心に感じていた。

「なんだか、……物足りないな」

 グンゾウは思わず心の中が口を()いて出てしまった。

 それを聞いたリョータは破顔し、グンゾウの肩をバンバンと叩いた。グンゾウは3ダメージ喰らった。

「おっ! なんだよ、オッサン、わかってんじゃん。そういうことなら、これから少し西の拠点を潰しに行こうぜ。あいつ等、雑魚ゴブリン達を取り込んで、今、15匹位になってきているから、少しはやり甲斐あるぜ!」

 ――あ、しまった。またやっちまった。

「ほえー。慎重なグンちんが珍しい」

 ヨシノが目を皿のように丸くしている。

「キシシ、グンゾウはスケベ」

「なんでやねん!」

 ハイドは的確なことを言ったのだが、ボケたと認識され、シムラの突っ込みを後頭部に受けた。眼鏡を飛ばされ、数字の「3」のように目を細めたハイドが、地面に落ちた眼鏡(めがね)を手探りで探す。

眼鏡(めがね)眼鏡(めがね)……」

 定番のやり取りだが、皆、声を出して笑った。グンゾウはリョータ小隊(パーティ)がだんだんひとつになれてきたように感じていた。

 ――6人での狩りもいいな。今日は本当に穏やかな日だ……。

 グンゾウの神官衣はゴブリン達の返り血で染みだらけだったが、そんな非日常も当たり前になり、心は平穏そのものであった。

 

 

 西の拠点にいたゴブリン達の殲滅戦もさほど苦労はしなかった。

 建物の外にいた歩哨(ほしょう)3匹はシムラが狙撃で仕留める。叫び声を上げたため、建物の中から4匹程飛び出してきたが、これらもシムラの弓とハイドの暴威雷電(サンダーストーム)餌食(えじき)となった。そもそも何匹か(おび)き寄せる前提だったので、止めを刺さないようにしていた。グンゾウの計画は常に合理的で残酷だ。

 建物は、入り口の正面に2階への大きな階段があり、高低差がある攻防は多少手間取った。弩を持ったゴブリンが数匹いたためだ。2階から射撃をされる。

 それはアキを先頭に侵入し、家具で拠点を作ると、最後はハイドの暴威雷電(サンダーストーム)で相手の陣を乱し、ヨシノとリョータが突貫した。

 新市街の甲冑ゴブリンとホブゴブリンが最後の敵だったが、光の護法(プロテクション)で強化されたヨシノとリョータの敵ではなかった。途中、隠れていた1匹の裸ゴブリンに背後から攻撃されるという想定外の出来事はあったが、勝負の趨勢(すうせい)は揺るがなかった。

「ふぅ……、思ったより、数が多かったな。みんなー、怪我はないー?」

 グンゾウは額の汗を神官衣の袖で拭った。

 ――まさか咎光(ブレイム)からの強打(スマッシュ)を使うと思わなかったぜ。

 甲冑ゴブリンのいた部屋は暖炉があり、高級そうだがボロボロの青い絨毯が敷かれ、ソファなどが置かれていた。ソファの前には低い食事用の机(ダイニングテーブル)が置いてあった。

「俺等より、良い暮らししてやがんな」

 リョータがソファに腰掛け、面防(バイザー)を上げながら言った。足を乱暴に食事用の机(ダイニングテーブル)の上に置く。

「そうねー。でも、ちょっぴり掃除が足りないかなー?」

 ヨシノが暖炉の上に置かれた小さな額縁に息を吹きかけると、埃が煙のように舞った。額縁の中に絵は無い。ヨシノは鼻がむずむずするのか、くしゃみをしそうな顔をしたが、結局出ずに元の顔に戻った。気持ち悪そうな顔をしている。

 ――しないんかーい!

「そろそろ、私達も宿舎から出て、宿屋に泊まってもいいかも? 女性専用の宿屋とかあるみたいだし……泊まりたいなー」

 アキが遠い目をしている。ボロい宿舎暮らしに限界を感じているのかもしれない。

 ――女性専用の宿屋か……。アキと1つ屋根の下で暮らせなくなるのは、……寂しい。正直、嫌だ。

「ん? なんや?」

 既に硝子(ガラス)()まっていないボロボロの窓。その窓から外の景色を眺めようとしたシムラが素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。

「どうしたー?」

 グンゾウが声をかけると、シムラは床板を何度も踏んでは覗き込んでいる。シムラが踏む度に床板はガタガタと大きめの音を立てた。

「なんだか、ここの床下に何かあるみたいなんす」

「罠じゃねーの? もしくは1階に抜けてるとか?」

 リョータがケラケラと笑った。

 シムラが床板を引っ張ると、周囲の数枚が簡単に外れた。床下から一抱え程の大きさの麻布で作られたゴブリン袋が現れる。ゴブリン袋は中身の形が分かる程、ぎっしりと何かで詰まっていた。グンゾウはその様子をシムラと一緒に眺めていた。

「おっ、大きいゴブリン袋だな。いつもながら何だか喜びを感じるね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな」

「詩的だねー。グンちん」

 ヨシノも飛んできて、楽しそうな顔をしながら床下のゴブリン袋を覗き始めた。シムラが床下に足を下ろし、ゴブリン袋に手をかける。

「グンゾウさん、これ、ごつい重いっす。()()()()の予感がしてならないっす」

 シムラは笑顔で上を向いた。

 床上に上げられるゴブリン袋。置いた瞬間床板が(たわ)んでキシキシと嫌な音を立てた。皆が集まってきて、注目している。

「いくでー!!」

 シムラは袋の口を思い切って開けると、勢い良く中身を床に出した。ゴブリン袋からは大量の銀貨と銅貨、そして、高価そうな宝飾品がザラザラと音を立てて出てきた。

「おおおっ!」

「おーっ! きれーっ! やたーっ!」

「うわぁ、すごい」

「キシっ!」

 皆が喜びの声を上げる中、グンゾウは驚いて声が出ない。ゴブリン袋の中身は、ぱっと見で1ゴールド近い価値があるように見えた。

 ――ダムロー旧市街でゴブリン達を倒して、ゴブリン袋から戦利品を()る。これが新人義勇兵暮らしの醍醐味(だいごみ)なのかもな。

 

 

 少し新鮮みの失われた義勇兵暮らし。グンゾウはそんな暮らしの中にある小さな幸せを改めて再認識した。

 

 




光の護法(プロテクション)が欲しい、今日この頃です。
20代の体力があれば今頃全話書き終えてる……(´・ω・`)
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