廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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メリクリです(*゚ー゚)つ□


6.先が見えない暗闇の中で、僕等は再会を誓った

 盛り上がった筋肉が、その力の全てを刃に込めた。

 肉厚の刃が、唸りを上げて振り下ろされる。刃はカズヒコを狙っていた。バスタードソードで受け止める。

 金属が(こす)れ合う不愉快な音。

「きゃっ!」

 チョコの叫び声。

 受け太刀の衝撃(インパクト)を上手く打ち消せず、カズヒコは後ろに吹き飛ばされて、仰向けに倒れる。

「へへぇりゃぁあぁぁぃ!」

 彼を助けるために飛び出したミッツ。剣先を後ろに引き、右上から左下への斬り下ろす。

 しかし、恐怖から踏み込みが甘い。目には涙が浮かんでいた。

 彼の体格に合った小さめのバスタードソードは敵に届かず、小さな弧を描いて空を切る。

 体勢が大きく崩れる。

 そこへ、横から敵に体当たりを喰らい、数メートル空中を散歩する。受け身が取れないまま、前のめりに地面に突っ込む。立たなければ、(とど)めを刺されてもおかしくない。

「こ、こっちだっ!!」

 怯えた声。クザクが敵の注意を()く。

 敵も背後にクザクがいるため、ミッツに(とど)めを刺せない。

 3対1の数的優位。

 しかし、圧倒的に不利な状況。

 向き直った敵の気迫に押され、クザクの足がジリジリと下がる。

「下がっては駄目だ! 前へ! 距離を詰めなければ! 相手の武器の方が長い!」

 カズヒコが頭を上げて指示をする。甲冑が重く、なかなか起きることができない。

 しかし、クザクの足はさらに後ろへ下がる。敵の身長はクザクよりも低かったが、体格は圧倒的に敵が上回っていた。その圧力に押され、クザクは後ろへ後ろへと下がっていった。体が開いてしまっている。

 敵は、その口に不敵な笑みを浮かべながら、武器を下げ、クザクとの距離を無防備に詰める。

「チャンスだ!」

 カズヒコの声に触発され、クザクが長剣(ロングソード)を振り上げる。

 同時に敵は速度を上げ、一気にクザクとの間合いを詰める。

 クザクが狼狽(うろた)えて長剣(ロングソード)を振り下ろす。

 いかにも遅い。

 甲冑に守られた敵は、腰の入っていない長剣(ロングソード)など意に介さず、腰を落としてクザクの下半身へ肩から体当たりを喰らわす。大柄なクザクが後ろに吹き飛び、倒れた。

 もう誰も止める者はいない。

 敵はクザクを踏みつけると、ゆっくり刃を振り上げた……。 

 

 

 グンゾウが骨笛を吹く。

「しゅーーーーーりょーーーーー!」

 ここはオルタナを南門から出たところにある牧草地だった。

 ホブゴブリン対策で散々訓練をした場所だ。

「おいおい、まじで、こんなんでオークとやる気かよ。下手しなくても、オークは俺よりでかいぜ」

 オーク役のリョータが溜め息交じりに嫌みを言った。真実なだけに、全員苦々しい顔になる。

「リョータも本気でやりすぎ。今夜兵団指令(オーダー)に行くのに、大怪我したらどうするの?」

 ヨシノがリョータを(たしな)める。ヨシノは槍を持ってきたものの、至って軽い装備だ。お気に入りとなったドーナツをもぐもぐ食べながら、ゆったり観戦と決めこんでいる。生理中は食欲が止まらないとかで、昨日から何かを食べ続けている姿を見せていた。

 隣にいるシムラも良く分からない対抗心を燃やして、昨日からヨシノに負けまいと大量にドーナツを食べている。

 ――見てるだけで胸焼けがする。たぶん、油が駄目なんだな。2個も食べれば十分。

 グンゾウは歳の影響からか、ドーナツはそんなに食べられない。

「丁度いい。準備不足なら、むしろ行かせたくない。怪我は出発時刻を過ぎたら、オッサンが治す」

 ――後始末は俺かいっ!

「あいててててて、本当に……容赦ないな。もう足をどけろって」

 リョータの下でクザクが不満の声を上げた。リョータは意地悪に、少し強く踏んでからどけた。

「今日兵団指令(オーダー)から逃げて、賞金首になったら、リョータが追ってくるのかい?」

 バスタードソードを杖にして立ち上がったカズヒコが、苦笑しながら言った。

「まあ、それも悪くねーな」

 リョータが呵呵と笑う。

「へへっ、ちょっとだけ、不安になってきた……」

 同じくミッツがヨレヨレと立ち上がった。タイチに癒光(ヒール)の魔法をかけてもらっている。

「びびってんじゃねーぞ、お前は。踏み込みが浅いんだよ。やるならもっと踏み込まねーと意味ねーし、時間稼ぎなら、カズヒコとの間に立って防御に専念しろよ。どんなに重い攻撃だって横から打ち込めば、剣筋をずらせるだろうが」

 リョータが俺様顔で手下のミッツへ的確な指導をしている。

 ――カズヒコ達を死なせたくない気持ちは一緒なんだな。

 チョコが少し不安そうな顔をして呟く。

「やっぱり、やめた方が…………、これ、()()()()してて美味しい」

 発言の途中で横にいるヨシノからドーナツをもらって口に頬張ると、目玉が落ちるのではと思われる程、目を大きく(ひら)いた。

「にひひ、でしょー?」

 ヨシノがニコニコしている。

 カズヒコとしては、どうしてもチョコの意見が受け容れ難かったのか、真面目な顔をして言う。

「いや、今のは連携が良くなかった。次はノッコも入れてやってみよう」

「おいおい、ちょっとまて、俺に精霊魔法(エレメンタルマジック)を喰らえってのか?」

 リョータが慌てる。

「あれ? 駄目だった? 流石に氷槍(アイスジャベリン)氷結球(アイスグローブ)は使わないけど、凍てつく血(フリージングブラッド)位ならいいかなって……。リョータ、オークでしょ?」

 カズヒコが笑うと、皆が大笑いした。

 氷槍(アイスジャベリン)は氷で出来た複数の槍を勢い良く射出する氷結魔法(カノンマジック)で、氷結球(アイスグローブ)よりも殺傷能力が高い。

「ふざけっ……」

「あっ! 私、火炎弾(ファイアボール)もいけるよ」

 リョータの言葉を(さえぎ)って、ノッコが面白いことを言ったので、さらに全員が大爆笑をした。

 

 

 訓練を終えると、その日は()()()()()()って、日が傾く前に全員で就寝することにした。

 カズヒコ小隊は、集合が北門外に午前3時なので、軽く腹ごしらえをして、装備を完全に調えることを考えると、遅くとも午前2時には起きたいところだった。リョータ小隊も夜警の準備をしてから、カズヒコ達を見送ることを考え、同じく午前2時には起きたいと思っていた。

 しかし、1点、困ることがあった。新人義勇兵なので、誰も時計など持っていない。つまり太陽に頼ること無く、真夜中に起きなければならない。

 時計はドワーフの細工師しか製作することができない。以前、興味本位でグンゾウがルドゥルフに懐中時計の値段を聞いたら、目が飛び出る程高かった。その後、2度と聞くことはなかった。

 幸いにして義勇兵宿舎の玄関には柱時計が設置されいているため、それで時刻を確認することができる。時計の中でも柱時計は比較的安い。それでもグンゾウ達には手が届かなかった。

 ――これを売っ払ったら、いくらになるんだろう? でも、ブリトニーに殺されるんだろうな……。それとも殺された方がましなくらい酷い目に遭うのだろうか?

 グンゾウはお尻の筋肉が無意識に引き締まるのを感じた。

「まあ、老人は長く眠れないから、誰かさんが一番に起きるだろう。オッサンよろしくー」

 そう言うとリョータはさっさと男部屋に向かってしまった。

 ――リョータめ! いや、リョータ(ばか)め! 俺は体が若々しいから長時間爆睡だわ! 全員で寝過ごして兵団指令(オーダー)はお流れさ。

「そうなのー? 確かに、グンちんいっつも一番早いよね。じゃ、おやすみー。こんなに早く寝れるかなー? 今日はみんなで一緒に寝よーよー!」

 ヨシノがいつものようにアキに抱きつきながら、チョコとノッコに手を振って呼ぶ。チョコが気付いてノッコに声をかけると、4人一緒に女部屋に向かっていった。

「そうでっか? じゃあ……、俺も」

「なんでやねん!」

 シムラが()けて、女子に付いていこうしたので、グンゾウはイガグリ頭をひっぱたいて突っ込んだ。シムラは振り返ると、嬉しそうに片目を閉じて親指を差し出す。

「グンゾウさんは突っ込みも冴えてるなー」

 そして笑顔のまま、再び女部屋に向かおうとしたので、再度ひっぱたいた。

 ――俺も混ざりたいっ!

 

 

 全員が期待した通り、一番最初に目を覚ましたのはグンゾウだった。目が覚めたら、まだ真夜中の12時だった。

 ――何故か8時間位で目が覚めてしまう……。認めたくないものだな、自分自身の、老化ゆえの早起きというものを。

 グンゾウは、朝食(夜食?)の準備等をしつつ、午前1時までには全員を起こした。3号舎の中庭に全員揃い、食事をする。よく見ると1人足りない。

「ところで、ハイドはどこに?」

 グンゾウが見渡すが、ハイドの姿はない。シムラもキョロキョロと回りを見渡す。

「いーひんな」

「そういえば……、今朝の訓練の時も見かけなかったですね……。あ、昨日……だ」

 アキは幼児のようなくしゃくしゃの寝癖をそのままに、寝ぼけ(まなこ)でスープを

(すす)っていた。ほとんど目は()いていない。

 ――油断した姿が、たまらなく可愛い。

「そういえばさー。ドイハっち、何日か前に『シッシッシ、僕には確実に引き留められる策がある。キシシ』とか言ってなかったっけ?」

 ヨシノの渾身(こんしん)物真似(ものまね)が意外とハイドに似ていて、全員がクスクスと笑う。シムラが(こら)えきれずスープを目の前のミッツに吹き出した。結構な量のスープがミッツの顔にかかる。

「うわっ! きたねっ! へへっ! 何すんだよ? へへへ」

 ミッツがヘラヘラしながら嫌そうな顔をしている。

 ――相変わらずミッツの感情は、怒ってんだか、笑ってんだかわからん。

「怒っちゃやーよ」

 シムラは全く反省した様子を見せず、クザクの陰に隠れた。クザクは隠れん坊に適した大きさだ。

 ミッツがそれを追いかけ始め、クザクを中心にくるくると回る。クザクは迷惑そうな顔をしている。

「うるせぇぞ! (めし)(ほこり)が入るだろうが!」

 リョータに一喝され、びびったミッツが直立不動となる。追いかけるのを諦めた。

 シムラはミッツを振り返り、後ろを向いたまま、これ幸いと中庭から逃走を図ろうとして()()とぶつかる。

「おっと! とぅいまてーん。…………って、誰やねん、お前っ!!」

 シムラの大声でそこに居た全員が注目する。シムラが何者かとぶつかっている。洋燈(ランプ)の灯りに照らされて、その人物が明らかになっていく。

 そして、全員の目が点になった。

「あ、て、あ、こ? あ……」

 衝撃すぎて、リョータは思考が言葉にならない。

「ハ、……ハイドゥ?」

 グンゾウが出すことができた声は、弱々しく、情けない()()()のような声だった。

 半日ぶりに登場したハイドの姿は、異様……でもないが、いつもとは大きく異なる格好をしていた。

 髪型は頭の両脇と後ろを短く刈り上げ、前髪から頭頂部は長い髪を盛り上げている。髪は油でしっかりと後ろに流し固めていた。いつもの鬱陶(うっとう)しいおかっぱ頭と異なり、清潔感を感じる髪型だ。その整った髪型の下に、いつもと同じハイドの顔があった。眼鏡は外しているが、大して変わらない。

 グンゾウの失われた記憶の中で、ポンパドール及びリーゼントと言う言葉が浮かんだ。

 ――ちょっと禿げてる……?

 ハイドはいつもおかっぱ頭なのであまり気が付かなかったが、実はかなり額が広く、禿げているとも思える広さだった。特に額の両脇はだいぶ()ている。

 さらに服装も魔法使いギルドで購入可能な普通の長衣(ローブ)ではなく、表面に光沢のある毛織物で出来た、上下揃いの服を着ていた。ハイドの体型にぴったりと合っている。白い綿の襟付きの服を中に着込み、首には赤いタイを結んでいた。一言で表現するならば「決まっている」だ。

 ハイドの服装を見て、何故かグンゾウの心に少しだけ寂しさが訪れる。

 ――あれ? なんだろうこの気持ち……。理由が分からない。

 そんなグンゾウやその他の仲間の戸惑いを尻目に、ハイドは「キシシ」と小さく笑うと、すたすたと歩いて、ノッコの前まで歩いて行く。

「え? あ? えっ?」

 ノッコは近付いてくるハイドに困惑し、何も出来ずにおろおろとしている。隣にいるチョコの肩に手を掛けたり、離したり、意味のある行動が出来ていない。チョコも大きな目をさらに大きく見開いて硬直している。

 ――止まるな! 逃げるか、……戦うんだ!

 そんなグンゾウの思いも(むな)しく、ハイドがノッコの前まで来ると、ノッコに覆い被さる様に目の前の(テーブル)に左手を叩き付ける。その衝撃で(テーブル)の上の食器が浮き、ガチャリと音を立てた。

「おいっ! ノッコ」

 今まで誰も聞いたことのない低い声で、ハイドがノッコを呼ぶ。

「は、はひっ!」

 ノッコは引きつった声で返事をする。正確には顔も引きつっている。

 しばらくの沈黙が流れる。

 ダムロー旧市街の橋の下に隠れていた時以上の緊張感を全員が味わっていた。

 その静寂をハイドが破る。

「お前はずっと俺の横に居ろよ。兵団指令(オーダー)なんか行くんじゃない!」

 再び静寂が訪れる。

 ――な、なんだってー! もしかして……これ、壁ドン的な何か?! もしかして……ハイドが言っていた、()()()()()()()()的な何かなのか?!

 ハイドが噛まずに、そして、いつもの不気味な笑いも挟まず台詞(セリフ)を言った。それを聞いていた全員が、固唾(かたず)を飲んでノッコの反応に注目する。

「ごめん、無理」

 ノッコがさらっと断る。中庭の空気がノッコの氷結魔法(カノンマジック)で凍る。

 ――ですよねー。あー、全く違和感ないわー。

 ノッコは戸惑いながらもショートカットの髪の毛を右手でなで付けると、言葉を繋いだ。

「……生理的に……か、な?」

 ――おおっと、ほぼ殺人に近いことしたぜ、あの娘(ノッコ)さん。

 絶望的に気まずい雰囲気が中庭に漂う。

「え、え?……なんで? シシ?」

 ハイドが重たい空気の中、頑張って口を開く。ハイドの動揺が、その声の震えから伝わる。

「……だだって、ほら、シシシ、女の子は(そば)にい、いる男を好きに……、急にか、変わったりするとドキドキして……」

 ――も、もう()めるんだ! ハイド! これ以上、傷を広げると致命傷になるぞ!

 グンゾウが見ていられず、ハイドから目を逸らす中、ハイドの肩を掴む者がいた。リョータ、そして、シムラだ。

「よし、オタクにしては頑張った。中で着替えるぞ!」

「俺の中では伝説級(レジェンドクラス)に面白かったで」

 ハイドは、リョータとシムラに腕を組まれて、引き摺られて行く。既に自分で歩く力は無い。

「シシ……、だって、壁ドン……」

 ハイドは譫言(うわごと)のように何かを呟きながら宿舎の中に消えていった。

 全長160センチにも満たない台風が過ぎ去った後は、台風一過の晴れた夜空だけが残った。

 ――成果は出なかったが、記憶には残ったぞ。

 

 

 きっと文学者であれば、この状況をこう表現するのではないか。

 『まだ暗い空の下、オルタナ北門前は騒然としていた。』

 真夜中にも関わらず、オルタナ北門外は大勢の人でごった返していた。

 デッドヘッド監視砦の攻略を目指す“青蛇隊”、正規兵700余名と義勇兵団190余名が()れを成している。

 参加する兵士以外にも見送りの者達や物見高い野次馬、それらを目当てに飲食物や装備品を売る物売りまでいる。総勢1000人を越す人集(ひとだか)りが、オルタナ北門外に出来上がっていた。

 そして、ここで見送りの者と参加する者に別れる時が来る。リョータ小隊(パーティ)は、カズヒコ小隊(パーティ)が義勇兵の列に加わる前に最後のお別れをすることにした。多少のかがり火が焚かれているとは言え、真夜中のオルタナ北門外は10メートル先は見えない程暗い。

 グンゾウが見渡すと、女子は背の高いヨシノを中心に集まっている。

「2人とも頑張ってね! 危なかったらすぐ逃げるんだよ!」

 ヨシノがチョコとノッコの肩を強く抱きしめる。

「うん……、逃げる」

「ありがとう、ヨシノちゃん」

 次はアキがチョコとノッコを1人ずつ抱きしめる。

「光よ、ルミアリスの御加護がありますように。2人とも危ない場所に位置取らないようしてね」

「うん……」

「うん、うん、アキちゃんありがとう」

 チョコやノッコは不安そうな顔をしていた。幼くて脳天気な所もあるが、戦闘では圧倒的に頼り甲斐のあるヨシノや、精神的に大人で、戦局を冷静に見ている怜悧(れいり)なアキと別れる不安は計り知れない。

「キシ……、壁ドン……」

 ノッコに「生理的に無理」と言われたハイドは、相当衝撃が大きかったらしく、グンゾウの後方で繰り返し譫言(うわごと)のようなことを言いながらノッコを見つめていた。格好は魔法使いの長衣(ローブ)におかっぱ頭へと戻っている。

 ――膨らんだ妄想(ファンタジー)と現実の(ギャップ)が酷かったのかなー?

 そのハイドの横で、シムラがミッツやタイチと体を叩き合って気合いを入れている。

「ミッツ、タイチ、オーク童卒してこいや!」

「へへへ、分かってるよ。当たり前だろ。シムラより先に卒業さ」

「僕は、積極的に前へ出る気ないけどね」

「なんや、タイチは覗き専門かいな」

「ははは。シムラ、下品だよ?」

 グンゾウもタイチとミッツに声をかけた。

「タイチ、カズヒコを戦術的に支えてくれよ。俺が渡した手紙は読んでくれた?」

 グンゾウは、カズヒコへ戦術について小忠実(こまめ)に講義をするのと同時に、タイチへも手紙を(したた)めて情報共有をしていた。

「はい。読みました。戦術の基礎が整理されていて、すごく勉強になりました」

 グンゾウは頷くと、タイチと握手をしてから抱きしめた。抱きしめつつルミアリスへ祈りを捧げる。

「タイチ、ルミアリスの御加護が君に光を照らし続けますように」

「はい。グンゾウさん、ありがとうございます。グンゾウさんにもルミアリスの御加護がありますように」

 グンゾウはしばらく抱きしめてから、タイチを解放した。次はミッツへ話しかける。

「ミッツは……」

 そう言いかけて、特にミッツへ言うことがないことに気付いたグンゾウは言葉が止まってしまった。ミッツは何か褒めてもらえるのではないかと、ご飯に()()をかけられている子犬のような目をしている。

「へへ、なんですか? グンゾウさん。俺、やっぱり最近は戦士としてイケてますか?」

「お、おう、イケてる、イケてる。ま、まあ、命大事にな。カズヒコが動けない時は、無理に前に出ず、盾役(タンク)に徹した方がいいぞ」

「へへへへいっ! 任せてください。ばっちりチョコを守ります!」

「お、おおう。そうだな。ノッコもな」

「なんや、お前はいつもチョコだけかいな。ノッコとタイチも守ったれや」

「あ、へへいっ!」

 ミッツは発言をグンゾウとシムラに突っ込まれ、恥ずかしそうに頭を掻く。タイチは温かい微笑みでミッツのことを見ていた。

 リョータはカズヒコ、そしてクザクと居た。リョータがまた何か悪いことを言ったのか、クザクは顔を背けてしまった。

 ――最後の最後まで……。

 カズヒコとリョータはガッチリと右手で握手をする。

 リョータは左拳でカズヒコの肩を軽く叩く。

「もうここまで来たら何も言わねぇ。生きて帰ってこいよ、カズヒコ」

 カズヒコもリョータの肩を左拳で叩く。

「ああ、必ず帰ってくるよ。全然無理はする気ないからね。一晩で1ゴールド稼いでくるよ。リョータも1シルバーばっちり稼いできなよ」

「おうおう、言ってくれんなー。俺はやりたくねーのに、オッサンが引き受けるから……」

 リョータが左手で髪の毛をくしゃくしゃと崩した。

「俺の名前は、“オッ”じゃねーけどな」

 グンゾウが話かけるとリョータは少し驚く。さらにグンゾウは話に割り込む。

「カズヒコ! みんなを頼んだよ。戦いの大原則を守ってくれると嬉しい」

「はい、必ず。グンゾウさん、色々ありがとうございました」

 グンゾウがカズヒコの手を取って握手をすると、カズヒコはキラキラした瞳でグンゾウを見つめ返した。

 ――女の子はこのキラキラ(スキル)にやられちゃうんだろうなー。俺にも欲しい。

 グンゾウは、カズヒコの横で白けた顔をしているクザクにも話しかけた。

「クザク。クザクは一番ガタイが()い。オークにも負けやしない。ダムローの森でもすごく良い戦いをしてた。だから積極的に盾役(タンク)としてみんなを守ってくれると嬉しい。頑張ってな!」

「はあ、あ、えーっと、まあ……、はい」

 クザクは少し恥ずかしそうに、ぽりぽりと頬を掻きながら、とても頼りない返事をした。

 ――頼りない……でも、十分。もう言うことは無い。

 そんなお別れをしていると、“青蛇隊”の集団は段々と縦長の長方形へ形を変え、(ゆる)やかに整列を始めた。

「じゃあ、そろそろ列に加わるか。よしっ! みんな、行こう!」

 カズヒコが声をかけると、小隊(パーティ)の仲間はそれぞれカズヒコの元に集まる。

「リョータ小隊(パーティ)のみんな。必ず無事に帰ってくるので、また、明日の夕方にでも打ち上げをしよう! じゃ!」

 そう再会を誓うと、カズヒコ小隊(パーティ)は列が形作られつつある“青蛇隊”の後方に向かって行った。カズヒコは自信に満ちた笑顔だ。その後ろをクザクがのっしのっしと重い足取りで付いていく。その後ろにはチョコが()()()()()()と付いていく。

「みんな、気を付けてねー。絶対帰ってくるんだよー」

 ヨシノが大きな声を出して手を振っている。その横で、アキも小さく手を振っている。ヨシノは見たことが無い位、不安そうな顔をしていた。グンゾウはヨシノの目元が少し潤んでいるように見えた。

 カズヒコ小隊(パーティ)はどんどんと遠ざかっていく。

 チョコが何度も後ろを振り返り、不安そうにしていたのがグンゾウの印象に残った。

 ヨシノとアキはカズヒコ小隊(パーティ)が夜陰に消えて、見えなくなるまで手を振り続けていた。

「さて、俺等も遅刻するとまじぃから、そろそろ行くか」

 リョータが(うなが)す。

 リョータ小隊(パーティ)はカズヒコ達の加わった“青蛇隊”に背を向けて、オルタナ北門の中に戻っていった。

 

 

 オルタナ北門から夜警兵団指令(オーダー)の集合地点である天望楼へ向かう途中、グンゾウの隣をアキが歩いていた。アキは悩んでいるような、真剣な表情をしている。

 ――カズヒコ小隊(パーティ)のことが心配なのかな? それとも、生理が重いのだろうか?

「どうした、アキ? 何か問題でもあった?」

 グンゾウに声を掛けられ、アキは何かに気付いたような顔をした。

「あっ! いや。別件ですが、(なん)か気になって……」

「え? 何が? 何が?」

 グンゾウはアキの顔を見つめる。アキもグンゾウの方を向いて、真剣な顔をする。

「あの時、ハイドが着ていた(そろ)いの服ですが……、あれ、グンゾウさんが大切にしている服じゃないですか?」

「え? いや、でも、あれはハイドにぴったりだったよね? ハイド(あいつ)と俺じゃ、全然服の寸法が……」

 そう口にしていく(そば)から、グンゾウの頭の中で情報の点が線で繋がれていき、事象の全容が見えてきた。隣にいるアキは全てを察しているようだった。

 ――あいつ、俺の服を修理に出しやがったんじゃないか? 俺の失われた記憶に唯一繋がる可能性を持った、あの服を。あの時感じた、不思議な寂しさは、それだったんじゃないか?

 普段は冷静なグンゾウの頭へ、急に血が上り始める。

「ハァーーーイィーーードォーーーーーー!!」

「シシシシシシシシ……」

 グンゾウが叫ぶと、それを察知していたかのようにハイドはもの凄い速さで逃げ出した。

 

 

 戦争の前夜。違う道を進んだ2つの小隊(パーティ)

 紅い月と深緑の夜空は、いつもと同じようにきらきらと音を奏でていた。

 

 




文章量が増えてしまったので少し校正甘いです。

小隊が別れてしまったので、ここから先の話は2つの小隊の様子をザッピングしながら書く予定です。

リョータ小隊側の視点は「グンゾウ」、カズヒコ小隊側の視点は「カズヒコ」になります。
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