廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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原作には無いですが、シティーアドベンチャー要素も個人的には好きです。
最初の段落の後に、アニメのオープニング曲とか入れると良い感じです(*゚ー゚)


7.序奏

「遅いぞ、このならず者共が! 何でこんないい加減な奴等に頼らねばならんのだ。大体、貴様等義勇兵はオルタナの治安を乱す、ゴミのような輩だ。その存在は下手をすればあのゴブリンよりも劣り……」

 夜警兵団指令(オーダー)のために、天望楼の近くにある辺境軍司令本部の衛兵事務所へ出頭したリョータ小隊(パーティ)だったが、カズヒコ達の見送りのため、少し遅刻をしてしまった。

 受付の兵士はそれに腹を立てて、先程から()()()()とお小言を言っている。

 遅刻したことは全面的にグンゾウ達の過失であるが、お小言の言い様は酷いものだった。遅刻に対する叱責に(とど)まらず、義勇兵全体に対する存在意義の否定にまで及んだ。

 そもそも義勇兵になっている人間の多くは、あの塔から謎に湧いてきた得体の知れない外様(とざま)の人間であり、オルタナにとっては異物だ。そのため、自尊心の高い正規兵の()()()あからさまに侮蔑(ぶべつ)した態度をとる者も少なくない。

 そんなオルタナの社会的背景もありながら、さらに()()オルタナにいる正規兵の機嫌は(すこぶ)る悪い。何故なら、今夜は“双頭の蛇”という大きな(いくさ)があるからだ。兵士にとって戦は最大の活躍の場であり、戦で手柄を挙げることが最大の栄誉である。そんな日にリバーサイド鉄骨要塞にも、デッドヘッド監視砦にも行くことができず、オルタナの警備に就かなければならないイアン・ラッティー准将率いる部隊は出世の道から外れた存在であり、悪く取れば戦力外通知を受けた部隊であると言える。それは機嫌も悪くなるというものだ。

 グンゾウ達の目の前で長いお小言を繰り広げている兵士は、典型的な義勇兵嫌いの兵士らしい。そして、体格が貧弱で如何(いか)にも戦には使えなそうな事務処理専門の役人系兵士だ。

「よって、虫ケラのように湧いた貴様等下等な存在が、辺境最強の武人、イアン・ラッティー准将配下で働けるだけで名誉なことであり、むしろこの兵団指令(オーダー)で死ぬくらいの心構えが相応しいにも関わらず……」

 ――(いや)みな上に、説教が長いな……。

「むかちーん。なんや、その言い草は。温厚な俺もそろそろ切れるで、ほんま」

 シムラが興奮をして、食ってかかろうとする。グンゾウは後ろからシムラを羽交い締めにして、捕らえた。背負った矢筒の矢がグンゾウの顔に当たって痛い。

「まあまあ、シムラ落ち着いて。いつものことじゃないか、どうどう」

 ヨシノやアキもうんざりした表情をしている。義勇兵だって好きで塔から湧いたわけではないし、好きで義勇兵になったわけでもない。

 リョータがゆっくりとシムラの前に出て、そのイガグリ頭を左手で制しながら話しかける。

「おいおい、シムラ。こんな雑魚一般兵にガタガタ言ってんじゃねーよ」

 ――おっ! 珍しくリョータが大人だ。成長したなー。

 グンゾウはリョータの成長について、大きな感動をもって受け止めた。

「文句言う前に殴っちゃえばいーんだよ、殴っちゃえば。面倒臭(めんどうくせ)ぇ」

 そう言うなり、リョータはお小言兵士の顔面を全力の右拳で殴る。殴られた兵士は後ろに吹っ飛んで、壁にぶつかると床に崩れ落ちた。

 ――なんですとー!!

 

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに、癒し手(キュア)

 グンゾウの手に慈愛の光が宿り、伸びている雑魚一般兵Aの傷を治す。顔に残る傷と共に、犯罪の証拠が消えていく。

 グンゾウは顔の傷を癒やしながら、手首を取り、脈を確認した。

 ――特に命に別状はなさそうかな? 犯罪の片棒を担がされた気になる。こういうことするから、義勇兵の立場が上がらないんだよ。アホリョータめ。あれ? なんだろこれ?

 一般兵Aの手首には月と雲が意匠されている小さな入れ墨が入っていた。兵士の中には過去に所属した特殊部隊の入れ墨を入れている者がいる。

 ――この弱さは、特殊部隊経験者って感じじゃないけどなー。

「なんだかよー、俺等は時間通り来たのに、あいつがぐずぐず手続き遅らしてたんすよねー。おまけに足を滑らせて()けたし。普段からとろくて使えないっしょ、あいつ?」

 犯罪者(リョータ)はしれっとした顔で、奥から次に現れた一般兵Bと話している。全く悪びれた様子が無い。一般兵Bはまともな戦士らしく体格の良い中年男性だった。

「ああ、……まあな。()()のオルタナに使える兵士は少ないさ」

 一般兵Bは自嘲気味にそう説明した。

「義勇兵も()()は似たようなもんだろ? ただ、警備には比較的荒事(あらごと)に役立つ者を回してもらったみたいだがね」

 一般兵Bは、まだ伸びて寝ている雑魚一般兵Aを一瞥(いちべつ)した後、リョータ小隊(パーティ)の面々を見回した。

 ――ばれてるな……。

 オルタナはアラバキア王国の辺境に存在している。つまり領土争いの最前線だ。そのためオルタナ生まれの兵士には、身分の貴賤(きせん)や性別、時には()()にも(こだわ)ることなく、実力を重んじる気風がある。

 ――()い人も居て良かった。

「配属の指令を言い渡す。戦士リョータは天望楼の正面警備隊、戦士ヨシノは天望楼の裏門警備隊、聖騎士アキは要人警護隊にそれぞれ配属だ。オルタナの中枢警備だ。最善を尽くしてくれ。何をするかは、それぞれの部隊で説明がある。この指令書を持って早速向かってくれ」

 一般兵Bのおじさんは蝋で封をした指令書を3人に渡した。

「狩人シムラと魔法使いハイドは南門警備隊だな。ついているぞ。ここからは少し遠いが比較的治安もよく楽な場所だ」

 そう言って、同じように指令書を渡した。

「やったで!」

「シシシ、日頃の行いだな」

 ――いいなー。あれ? 俺は? 俺は? アキと一緒が良かったなー。

「神官グンゾウ殿は、一番キツイ即応部隊だ。何か有った時に、オルタナ全体に駆け付ける。すまんな、今夜は戦のせいで神官が少ない」

「はい……」

 ――がーん。治療要員として待機とかじゃないのー? それなら、お姫様の護衛とかが良かったなー。

「シシシ、全くもって日頃の行いだな」

 ――人の思い出の服を勝手に盗み出して分解(ばら)したり、空気読まず壁ドンしたりしてたくせに。

 グンゾウはハイドに軽く殺意を抱いた。

 しかし、アキに声を掛けられたので、グンゾウの機嫌は一気に良くなる。

「グンゾウさん、頑張ってくださいね」

「ありがとう、アキ。アキも気を付けて」

「はい」

 アキは、はにかむように笑った。いつもの笑い方だ。

 ――キタコレ! あ、が、る、わー!

 全員で衛兵事務所を出る。

 リョータの分厚い手が勢い良く合わされ、「パン」と大きな音が空高く響く。

「うっし、朝番が起きるまでのたかだか数時間の仕事だ。さくっと勤めて、1シルバーもらって寝るぞ。じゃ、解散!」

 珍しくリョータが綺麗に締めたので、「ほーい」「ほいほい」「シシシ」等と言いながら、銘々(めいめい)自分達の持ち場に散っていった。

「じゃあ、みんな無理しないで、気を付けてー」

 一旦は皆と外に出たものの、グンゾウは即応部隊なため衛兵事務所で待機だ。皆が散らばるのを見届けると、衛兵事務所に戻った。

 ――一番近いのが正門のリョータじゃ、会いに行く動機(モチベーション)が低いな。

 

 

 ――オルタナで大きな犯罪なんて聞かないし、ゆっくり茶でもしばきながら、衛兵の知り合いでも作ろうかな?

 なんて考えていたグンゾウの予想は大きく裏切られることになる。

 事務所に入って即応部隊の役割や編成等の説明を受け終えた直後、午前3時半を過ぎた辺りで、急報がもたらされた。

「南区で爆発を伴う火災だ! しかも広範囲で火の回りが早い。明らかに油や火薬が使われている!」

「同じく、東区でも火災。こちらも広範囲」

「北区でも火事だ! 範囲は狭いが、人の多い市場の一部が燃えている」

 早馬で駆けてきた兵士が、次々と衛兵事務所に飛び込んでくる。オルタナの南区、東区、北区で同時発生した大規模な火災の知らせだった。

 西区でも火災が発生しているかもしれないが、泥酔したホームレスが日常的にそこらに火を付けたりしているので、あまり取り上げられない。ホームレスが起こした火災の被害はたかが知れている。西町の不祥事は盗賊(シーフ)ギルドか暗黒騎士(ドレッドナイト)ギルドが(かた)を付けるので、よっぽどでない限りは辺境軍は手出ししない。

 オルタナの建物は石造りが主なので、延焼しづらい。そのため何も原因がなく大規模な火災に発展ことは考えがたい。さらに、午前3時半では人が活動していることも少ないため、火の不始末を除けば火災も起きにくい。となれば、火災の原因は放火だ。

 即応部隊の指揮官とおぼしき恰幅(かっぷく)の良い人物は、オルタナ市街地の地図を机の上に広げると、火災の発生状況を地図上に展開する。

 グンゾウはお茶を(すす)りながら、地図を眺めていた。

 ――被災地域が随分と城壁寄りだな。外からの攻撃だろうか?

 白髪の混ざった口髭を触りながら、悩んでいる。周囲の兵士はいつでも動けるように緊張した面持ちで控えていた。

「んーむ、一番の被災地は南区だが、東区はお偉いさんの家が多い。よし! 南区に第1、第2小隊が向かえ、戦士ギルドと連携して当たれ! 東区には第3、4小隊、魔法使いギルドと連携! それぞれ、到着と同時に状況報告の早馬を出せ! 北区の火災は北門警備隊のみで対応しろと伝えろ! 商工会とルミアリス神殿に協力を要請しろ! 急げ!」

 周囲の兵士達は指揮官の命を受けると、「はっ!」という返事をすると同時に弾けるように動き出した。

 即応部隊は6小隊から構成される。1小隊は6人である。ルミアリス信仰が盛んなアラバキア王国では六芒にちなんだ数字を使うことが多い。

 今夜は戦で何人か駆り出されているため、補充要員として義勇兵団から何人かが加わっているが、普段は朝番、昼番、夜番でそれぞれ36人の兵士が任務に就いている計算になる。

 グンゾウは第5小隊に配属されている。つまり、出動命令が出ていない。緊急事態であったが、指揮官は第5、6小隊を温存しておいたことになる。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()だ……。これ、俺、やばくね?

 グンゾウはお茶をちびりちびりと(すす)りながら、指揮官の顔をちらりと覗き込む。恰幅(かっぷく)の良い指揮官は、元々なのか、緊急事態からなのか、眉間(みけん)に深い皺を作ってオルタナ市街の地図を覗き込んでいた。

 そこへ騒がしい音を立てながら、1人の兵士が衛兵事務所に駆け込んでくる。兵士は傷付き、鎖帷子(チェインメイル)には1本の矢が刺さっていた。

「急報!! 天望楼の裏門が何者かによって襲撃を受けている! 応援を求める!」

 ――ヨシノの居る場所だ! 普段なら全然安心だが、今日は大丈夫だろうか?

 傷付いた兵士は叫ぶと、床に倒れ込んだ。死んではいないようで、聖騎士らしき男が光魔法を使っている。

「よおし! 来たか! 第5、6小隊は裏門に急行! 伝令! 引退した者を含め、予備役を全部呼び出せ! 天望楼内を守るぞ!」

 指揮官は机を叩くと、大きな声で吠えた。

 ――まぢかー。そうだと思ったんだよねー。最近アキが優しいなーと思ったら死亡の伏線(フラグ)かー。(みじか)かったなー、俺の人生。……いや、気持ちを切り替えて、ヨシノを早く助けに行かないと!

「義勇兵、準備だ!」

 第5小隊の隊長がグンゾウを急き立てる。第5小隊の隊長はジニーと言う名前だった。長身で筋肉質の若い男だ。金髪(きんぱつ)碧眼(へきがん)で割とイケメン。

「はいはい。光よ、ルミアリスの加護の元に……光の護法(プロテクション)

 グンゾウはまず最初に光の護法(プロテクション)を唱える。第5小隊の面々の左手首に光る六芒が浮かぶ。グンゾウは身体がふわっと軽くなるのを感じた。

「第5小隊、出発するぞ!」

 第5小隊は全員松明(たいまつ)を手に取ると、衛兵事務所を飛び出す。そのまま天望楼の(へい)沿()いに走って、裏門へ向かった。光の護法(プロテクション)がかかっているため、全員全速力に近い速さで走っている。第6小隊も後ろからついてきているが、第6小隊には神官が居ないため、明らかに出遅れている。

 

 

 あっという間にグンゾウと第5小隊は天望楼の裏門近くまで到着する。

 裏門まで残り150メートルというところで、突然「うっ!」という(うめ)(ごえ)を上げて、グンゾウの隣を走っていた兵士がしゃがみ込む。瓜実顔(うりざねがお)をしているので、グンゾウは“ウリリン”と名付けていた。

「どうした?!」

 ジニーが訊くと、しゃがみ込んだ兵士が答える。

「肩に矢を受けました。天望楼とは逆方向の暗闇からです」

「なんだと!」

 ジニーの慌てた声。

 足が止まり、全員が周囲を警戒する。

 目が松明(たいまつ)(あか)りになれてしまっているため、(あか)りの届かさない先は見ることができない。

 次の瞬間、またしても(うめ)(ごえ)がして、グンゾウの後ろにいた太った兵士がしゃがみ込む。褐色の丸顔で、横と後ろ髪を刈り上げ、頭頂部だけ毛が生えた髪型をしているので、グンゾウは“カボチャン”と名付けていた。

「脚を撃たれました! 狙撃です! 我々は狙われています!」

 次々と矢音がする。

 ――遅い!

松明(たいまつ)を捨てて、散開するんだ。左手首の六芒を隠せ。敵は光を目がけて狙撃しているぞ!」

 グンゾウが叫んだ。一瞬の静寂の後、ジニーが叫ぶ。

「神官の言う通りにしろ!」

 その声に従い、第5小隊の全員が松明(たいまつ)を投げ捨て、散開する。

 訪れる暗闇。

 人間の目は、暗順応(あんじゅんのう)に時間がかかる。このままでは歩くことも怪しい。

 全員、息を殺して、暗闇の中、静寂を保っている。時折、矢が刺さった兵士の痛みを(こら)える声がする。

 ――まだ目が暗闇に慣れないな。

 (あか)い月と(まばゆ)い星々の(きら)めきが辛うじて周囲を照らしてくれているが、少し離れれば完全な暗闇だ。

 グンゾウはジニーの(そば)にいた。正確にはジニーを盾にして、天望楼側に身を置いていた。

 ――神官がやられたら、お話にならないからな。

「グンゾウと言ったか……お前の方が戦の経験が豊富なようだ。次はどうしたらいい?」

 ジニーが静かな低い声でグンゾウに訊いてくる。

「敵の所在が分からない以上、光魔法は(まと)になるから使えない。そろそろ動ける機会(チャンス)が来る。そしたら掛け声を頼む。一気に走って天望楼裏門まで向かおう。俺の仲間が裏門にいるんだ。腕は立つが、早く助けに行きたい」

「何故、機会(チャンス)が来るって分かるんだ?」

 ジニーにはグンゾウの発言が理解できなかった。

「それはね……俺が、……俺が()()だからだよ」

 グンゾウは悲しそうな顔をしたが、暗闇の中、ジニーがそれを見ることはなかった。

 

 

 機会(チャンス)刻一刻(こくいっこく)と近付いてきていた。

 

 

 




まあ、人生色々ありますが、頑張って書きます。

次回でプロローグに戻る感じです。

なお、“ウリリン”と“カボチャン”は2度と登場する予定がありませんが、もし登場させて欲しい方がいらっしゃいましたら考えます。

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