廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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3.割れているのは俺の心か、彼のアゴか

 ぞろぞろと歩く。街の中を列になって歩いて行く。添乗員に案内される観光客のようだ。実際、それと大差なかった。キョロキョロと周りの景色を眺めながら歩いている。元々記憶も失われてしまっているので判断はできないが、初めて見るような景色だった。

 ひよむーがオルタナと呼んだこの街は、丘から見た景色の通り山の斜面に造られた街なので、坂道や階段が多かった。丘のそばの道は踏み固められた土だったが、街の奥に進むにつれ石畳の箇所も増えていった。石畳の道は曲がりくねっている。細い道も多く、歩くのが楽な街ではなかった。

「ここは外国なのかな? よく知っている景色と全然違う気がする」

 ノッコが独りごちると、ミッツがヘラヘラしながら反応した。

「……外国っていうかぁ、国って何だっけ? その辺りがよくわかんねー。その辺りも何も俺、全然記憶が無いわぁ、へっへっへ」

「何故笑ってられるの? 私も自分で言ってて全然わからないけど……。ここが故郷なのかな? でも違う気がするし。」

 ――この2人も俺と大体同じ状況だな。

 オルタナの建物は石造か木造に漆喰が使われている造りの家が多かった。建物の特徴は地域毎に似通っていて、建物の材質とデザインはそれぞれの地域で似たものが密集して建っていた。

 ――地震に弱そう……。ここは地震なんて少ないのかな?

 グンゾウは何故か地震のことが気になった。もしかしたら地震の多い地域に住んでいたのかもしれない。

 太い道には側溝があり、水が流れている音がする。下水道だと思われた。夜だからか特に汚物等は流れていなかった。

 ――下水があるってことは、上水もあるかな? 暗くてよく見えないけど大きな(とい)は見当たらないからどっかに配水水槽か井戸があるだろう。街として最低限の衛生機能はありそうだ。清潔な水を得るのが難しかったら正直しんどい。明るくなったら街を見て回らないと。

 グンゾウは生きるため真剣にこの街や世界を観察をしていた。

 深紅の月は丘の上にいた時よりも少し傾いたように見えた。

 明け方にはまだ遠い時間と思われたが、歩いている人がいないということではなかった。時折、酔っ払いと思われる人達とすれ違う。真夜中でも出歩けるくらい比較的安全なようだ。すれ違う人達の服装は少し変わっていた。変わっていたというよりもグンゾウ達の服装より簡素で、少しみすぼらしい。すれ違った人達はグンゾウ達の一群を不審そうな目で見返していた。

 ――まあ、そうかな……。こんな夜中にぞろぞろ連れだって歩いている連中は怪しいわな。

 

 

 どれくらい歩いただろう。結構歩いたとグンゾウが思っていたころ、先頭集団がある建物の前で止まった。建物の前に全員が集まってくる。後ろを歩いていたシムラも追いついてきた。

 その建物は石造二階建てで看板が出ていた。グンゾウやシムラが行燈(ランタン)で看板を照らした。看板は風雨にさらされボロボロだ。所々(かす)れた文字で「オレタノ刀竟車義男兵ロレソトムーノ」書いてあった。

「折れたの刀……強者ヨシオ、兵くれ、外、濃霧? なんや援軍要請の暗号か?!」

「そんなわけないよね?」

 シムラがボケたことを言ったら、グンゾウの知らない男の子が突っ込んだ。後ろの方にいて知り合いになったらしい。

「タイチ、なんやねん、その突っ込み。もっと鋭く突っ込んでもらえないと面白くないだろー!」

「ははは、ごめんごめん。突っ込みとか慣れてなくて。ボケかもわからなかったし」

「確かにいまいちやったわ。あかん、記憶と一緒に笑いのセンスもなくなってるわ」

「記憶のせいにしているなぁ、はははは」

 タイチと呼ばれた男の子は穏やかに笑った。素直な栗毛の下に幼い優しそうな顔があった。少年という言葉が相応しい、完成されていない体つきをしている。背はグンゾウと同じくらいか。ハイドと似たような格好をしている。ハイドより清潔感のある感じか。

「じゃじゃーん! よーやく到着しましたですねー。こんな夜中に疲れましたですねー。こ、こ、がっ!かの有名なオルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンの事務所ですよん!」

 と、ひよむーが看板を両手で示しながら紹介をした。

「まじで有名なんかよ! 適当抜かすと承知しねーぞ」

 先頭集団にいた、リョータことマイルドヤンキーがひよむーを睨みつけながら本領を発揮した。

「きゃーん、こわーい、ま、ま、中に入って、入って、入ったらわかるさ! 1、2、3、ダー! ですよん!」

「うるせぇ。いい加減キレっぞ。」

 ――そこは同感。でもキレすぎ。

 ひよむーに促されるまま、カルシウム不足のリョータを先頭に全員が建物に入っていった。

 

 

 建物の中は宿屋の入り口のような空間になっていた。部屋にはいくつかのテーブルと椅子が置いてあり、ラウンジのような造りになっている。奥にカウンターが(しつら)えてあり、カウンターの向こうに男らしき人物が1人、腕組みをして立っていた。

 その人物がこの建物の(あるじ)であるように思われた。

 グンゾウは部屋の中をぐるっと見渡したが、その人物とひよむー、グンゾウ達以外に人は見当たらなかった。

「そいじゃ、ひよむーはこの辺で()()させていただきますよん!」

 ひよむーは人差し指だけ立てた両手を縦に重ねたポーズを取ってから、カウンターの中の人物に礼をして、その場を立ち去ろうとした。

「毎度のことですけど、皆さんに説明等々、どうかお願いしますね、ブリちゃん」

 ブリちゃんと呼ばれた男らしき人物は「はいよ」と軽い返事をしながら、手をふりふり振った。何故か、手と一緒にお尻を左右へくねらせた。手の動きはしなやかだが、手自体は筋肉質でごつい。そして、声の太さからも推測するに間違いなく男だと思われた。

「失礼しまーす! 皆さん頑張って生き延びてくださいねー!」

 いつの間にかひよむーはシムラとグンゾウから行燈を回収して、扉の向こうに消えていってしまった。

 ――あ、行燈無いと夜の移動は困るなぁ。

 ひよむーが出て行った後、扉が閉まると妙な緊張感が(ただよ)った。ブリちゃんは沈黙を保ったまま、口元に微笑を張り付かせグンゾウ達を見ている。口元とは裏腹に、その目は笑っていない。グンゾウ達を観察しているといっても差し支えないだろう。

 洋燈(ランプ)と蝋燭がカウンターの付近に沢山備えてあり、ブリちゃんは暗い部屋の中で際立っていた。正確に表現すれば異彩を放っていた。

 最初にグンゾウ達がブリちゃんの性別を特定できなかったのには訳があった。ブリちゃんの容姿が極めて怪しいからだ。

 ブリちゃんはどうしたらそうなるのか髪の毛の色を緑色にしていた。そして化粧が濃い。目は長くて量の多いバサバサ睫毛(まつげ)に囲まれていた。瞳は水色で綺麗だったが正直恐ろしいとか、おぞましいという表現にしか繋がらない。頬紅(チーク)もかなりしっかりつけていて、唇には真っ黒な口紅が塗られてた。ブリちゃんはそんなに大男ではないが、筋肉は細マッチョの領域をとっくに超えてゴリゴリのマッチョである。

 そしてブリちゃんの最大の特徴は、カウンターに両肘をつき、組み合わせた両手の上に乗っかっている(あご)だ。その顎が割れている。それはもうくっきり、しっかり、薄い紙なら挟めるのではないかと思う程だった。

 ――これはキッツイ2丁目系だな……。ん? 2丁目ってなんだ?

 グンゾウが自分の内面の世界に入り始めたところで、ブリちゃんが割れている顎の上にある口を開いた。

「ふんふん、大体わかったわ。こちらへいらっしゃい、子猫ちゃんたち。歓迎するわ。アタシはブリトニー。当オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所の所長兼ホストよ。所長って呼んでもいいけど。ブリちゃんでもオッケー。ただしその場合は、親愛の情をたっぷりこめて呼ぶのよ? いい?」

 正直、全員気圧されていた。特に誰も返事をしない。グンゾウはマイルドヤンキーリョータがどんな顔をしているか確認した。蛇に睨まれた蛙のような萎縮した顔でブリちゃんを見ていた。リョータはあまりこの手のタイプの男性(?)が得意ではないらしい。

「今回の子猫ちゃん達は、元気がないわね? 大丈夫かしら? 戦力になるかしらね」

 ブリちゃんはがっかりした様子で、少しため息をついた。

「戦力ってなんなんですか?」

 カズヒコが勇気を振り絞った様子で、ブリちゃんに質問をした。

「あら、かわいい子猫ちゃん。」

 ブリちゃんがカズヒコにウインクと投げキッスをする。直接の被害を食らった訳では無いが、グンゾウの下半身で何かが縮み上がった。グンゾウの位置からは見えないので、カズヒコがどんな顔をしているのか気になった。

「これはあかんやつや……」

 グンゾウの隣でシムラが小さく(ささや)いた。その隣とそのまた隣でタイチとノッコがガクガクと(うなず)いていた。

 ブリちゃんがカウンターの中で歩き始めた。

「いいわ。ちょっと察しが悪いけど、かわいい子猫ちゃんの質問だから答えちゃう。あんた達は選ぶことができる」

 ブリちゃんは人差し指を立てて、左右に動かしながら説明を続けた。

「アタシのオファーを()()れるか、断るか。」

 ――オファー? ブリちゃんの存在は、ファーーーーーー!! だけどね。

 グンゾウは顔色ひとつ変えず、心の中で叫んだ。

「オファーの内容は、アタシ達オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンに加わること。といっても、最初は見習い義勇兵として、一人前の義勇兵を目指してもらうことになるけどね。」

 少し間が開いたので、誰かが質問をした。

「義勇兵って何なんですか?」

 初めて聞くような声だった。ミディアムヘアの色白で細い子だ。身長は160センチくらいだ。痩せていて、顔や頭がとても小さく、手足が長いのでスタイルがよく見える。ただし、ヴェール程の規格外ではない。少し垂れ目。そして、伏し目がち。きっとぱっちり開けば大きいのかもしれないが、常に4分の1程度閉じたような、悪く言えば眠そうな、良く言うと慈愛に満ちた雰囲気の目をしている。10代後半に見えた。一見、地味な印象なので好みは分かれるかもしれないが、肌の色が透き通るように白く、かわいらしい女の子だった。白いシャツにチェックのスカート、それに紺色のカーディガンを着ていた。

 見た目とは違い、落ち着いた意外と低い声でブリちゃんへ質問が投げかけられた。ブリちゃんは口をへの字に曲げて、呆れたというようなポーズを手で取りながら答えた。

「どんだけー。もう、そんなの簡単よ。まず、この辺境にはアタシ達人間と敵対している種族や、モンスターって呼ばれる怪物どもがたくさん、たぁっくさんいるの。次に辺境には辺境軍の正規兵がいて、彼らは敵対している種族やモンスターを駆逐して辺境の制圧を目指している。でもそれは簡単なことではないわ。辺境軍本隊はこのオルタナの街を防衛しなければならないし、前線基地も兵站(へいたん)を切らさないように維持しなければならない。アラバキア本国に比べれば、辺境の生産能力は限られているしね。生産基盤の増強もしなければいけなかったり、つまり時間がかかるのよ。そこでアタシ達の出番が回ってくるくるわけ」

 ブリちゃんはそこで一呼吸おいて、キラキラした瞳でグンゾウ達を見回した。主にカズヒコを。

「アタシ達義勇兵は、神出鬼没、縦横無尽に敵地に潜入し、視察して、攪乱し、敵対勢力の弱体化を図る。本隊に協力することはあっても、組織だった作戦行動をとることはめったにないわ」

「それってゲリラ組織……」

 グンゾウは思っていたことを口から漏らしてしまった。ブリちゃんは少しだけ苦い顔をしたが、すぐに余裕のある微笑を張り付かせた顔に戻り、話を続けた。

「あらやだ、遊撃隊と言ってもらえる? まあ、似たようなものよ。大抵、単独か、まあ3~6人くらいの小隊を組んでる義勇兵が多いかしらね。とにかく各自が己の才覚、独自の判断で情報を収集し、敵を叩く。これがアタシ達義勇兵団レッドムーンの仕事よ」

 ――組織立って動かないのは非効率だと思うんだけどな……。

「あのぉ……」

 塔の地下で後ろにいたボブカットの女の子がおずおずと手を挙げた。ボブカットの女の子は身長150センチ台だ。こぼれそうな大きな目。少し(くま)ができている。その本当に大きな目の下に、()ねたような唇があった。紺色のシャツに水色の短いスカートを履いている。

「義勇兵にならなかったらどうなるんですか?」

 拗ねたような唇から、ぶっきら棒な口調で質問が発せられた。

 この質問には慣れているのだろう、ブリちゃんは眉ひとつ動かさずに即答した。

「どうにもならないわよ。言ったでしょう。あんた達は選ぶことができるってね。義勇兵団に加わりたくなければ、今すぐここから出て行って、二度と戻ってこなくていいわ。……1、2、3、……14と」

 ブリちゃんはカウンターテーブルの下を覗き込んでごそごそしている。

「でも、お金もなくて生きていけるかしら? 見習い義勇兵になる子には、銀貨10枚、1人につき10シルバーずつあげるから、当分は暮らせるわ」

 ――お金!?

「やだぁ! 私、お財布無くしちゃったぁー!!」

 突然、舞子が体中をはたきながら叫んだ。

「やべぇ、俺も財布ねぇぞ!」

 リョータも自分のお尻を探っている。

「あちゃー、まいった。こりゃあ、もう見習いになるっきゃないって感じの流れ的なぁ?」

 細目の男が側頭部を叩きながら軽い口調で言った。

 周りを見ると全員が財布を探す動作をしている。グンゾウも自分の来ている服のポケットというポケットを探った。ポケットの中には何も入っていなかった。

 ――10シルバーっていくらなんだろう? しかし、この服は結構ポケットが多いな。

 グンゾウが関係ないことを考え始めた頃、ブリちゃんはカウンターの上に、革で出来た小さな袋と赤っぽい色をした硬貨のようなもの並べ始めた。全部で14セットある。グンゾウ達の人数分だ。

 ブリちゃんは三日月が浮き彫りにされている硬貨のようなものをグンゾウ達に見せるように1枚つまみあげた。硬貨のようなものには革紐が通されている。

「これは見習い義勇兵の身分証明章、通称・見習い章。これは見習い義勇兵としての身分を証明するものだから、もらったら無くさないようにね。このオルタナでは身分が明らかでない人間は職業に()くのも簡単じゃないし、色々大変よ」

 ――なるほど、俺らは現在身分すら明らかじゃない存在なんだな。当たり前か。

「見習いってことは、一人前もあるん?……ですか?」

 シムラがぎこちない敬語でブリちゃんに聞いた。

「そうよ。銀貨20枚、20シルバーを義勇兵団事務所に納めれば、正式な団章を買うことができるわ。晴れて一人前の義勇兵になったら、それなりの特典があるわ」

「特典?! どんな、どんなぁ?!」

 舞子が明るい声で聞く。

「例えば、義勇兵宿舎が無料で使えるわ。見習いの間も1部屋1日たったの10カパーだけどね。」

 ブリちゃんが舞子にウインクした。

 ――おぞましい。見なければ良かった。シルバーとかカパーとか単位がわからん。単位が。後でまとめて聞こう。

「そっか……、泊まるところ……」

 ノッコが独り言のように呟いた。

「他にも質問あるかしら? 子猫ちゃん達。まあ、そんなに丁寧に教える気ないけど」

 ブリちゃんは飽きてきたようだ。唇と同じような黒い色をした爪を眺めている。

「具体的にまず何をすればいいんですか?」

 カズヒコが聞いた。ブリちゃんが視線をカズヒコに向ける。

「あら、かわいい子猫ちゃん。各自が己の才覚、独自の判断で情報を収集し、敵を叩く。これが義勇兵の流儀よ」

「何もかも自分で調べろってことですか?」

「そゆこと」

 ――なんだ、そりゃ。適当するぎるな。

 ブリちゃんはキラキラした目でカズヒコを見つめている。

「まあ、そもそも、それくらい自分で調べて行動できないと、このグルムガルでは生きていけないわ。さて、もういいんじゃない? 見習い義勇兵になって団章とお金を受け取るか、ならないでここを去るか。(とき)(かね)なりよ」

 これ以上は丁寧な回答がでてきそうにない。グンゾウ達に無言のプレッシャーがかかる。全員なんとなく顔を見合わす。訳が分からないことだらけで慎重になっているようにみえる。

 グンゾウは勇気を出して口を開いた。

「最後に聞きたい。デ、デメリットは?」

 ブリちゃんは完全に飽きた風で黒い爪を眺めながら答えた。

「ないわ。たまぁに、辺境軍から支援の依頼が来る時もあるけど、受ける受けないは選択の余地があるわ」

 この一言がきっかけとなり、場が動き始める。

「よし! やってやろうじゃねーか!」

 リョータがカウンターテーブルの上にならんだ革袋と見習い章に手を伸ばす。

「受け取る時は、名簿に名前を書いてね」

 そう説明をしながら、革袋を掴もうとして伸ばしたリョータの手をブリちゃんがそっと撫でたので、リョータの体がブルブルっと震えた。ブリちゃんは心から楽しそうに笑った。

 次に動いたのは意外にもハイドだった。

「キシシ、オープニングイベント長すぎ……フシシ、キシ」

 ――オープニングイベント?

 ハイドは良くわからないことを言いながら、見習い章セットを受け取った。

 勢いがついて、皆次々と受け取っていく。細目の男は革袋を2つ取ろうとして、ブリちゃんに手を叩かれていた。

 ――デメリットがないというのは大きい。元手があるに越したことはない。

 舞子に続いてグンゾウが受け取った。グンゾウの後にシムラやミッツ、ノッコ、タイチも受け取った。

 

 

 受け取っていないのは、ボブカットとミディアムヘアの女の子2人だけとなった。

「あら? もうお(しま)い? 他の仕事も楽じゃないわよ。身分証がなければ就ける職業にも限りがあるし。お金もないんじゃ、選択する余裕もないしね。女の子なら体を売るか……、アタシのペットになるってのもあるけどね」

 ――確かに……、身分の保証がないのは厳しいよなぁ……。義勇兵にもならず右も左もわからない状態で飛び出すよりは……、

「まだ、ブリちゃんのペットの方がいいかなぁ?」

 グンゾウは思っていることが口から出てしまった。しかも結構大きな声で。

 義勇兵団事務所の中に静寂が流れる。全員が目を皿のようにしてグンゾウを見つめている。

「キシシシシ、グンゾウ面白すぎ、キシシ」

 ハイドに言われて、グンゾウは気付く。

「え? あれ? 俺、声に出て……、あれ? ちがっ」

 グンゾウの顔に一気に血が上る。恥ずかしい。全員の視線がグンゾウに向けられていることに気が付いた。

「グンゾウさん、()()()っすか?」

 シムラがグンゾウから一歩後ずさる。

「あ、いや、全然違うことを考えていて……」

 何を言ってもどうしようもない。全員がグンゾウから少し離れた気がする。グンゾウも全身から汗が噴き出るのが止められない。

 ブリちゃんは愉快そうな顔でグンゾウを見つめてから、目を(またた)かせた。

「あらグンちゃん、アタシのペットに興味があったの? ごめんなさいねぇ。アタシ若い子がタイプなのよ。見習い義勇兵頑張って! それに、アタシのペットは見習い義勇兵より楽じゃないわよ」

 なんとブリちゃんに謝られる。

「オッサン、ふられてんぜ! はっはっは!」

 リョータの容赦ない笑い声が義勇兵団事務所内に響き渡った。

 

 

 ――しまった……、最悪だ。

 グリムガル初日、グンゾウはとんでもない形で失恋をしたことになってしまった。

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