廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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いやー、今月忙しすぎるー(›´ω`‹ ) ハァ・・・
文章メタメタですけど、ご容赦ください。



10.英雄の資格

「我々は相手に投降を勧めていただけだけです」

 ――うーん、でも会話の内容までばっちり聞かれてたらまずいよなー。

 グンゾウは左手を口元に持って行く。悩んでいる時の定番姿勢。

「我々は相手を騙して不意を打とうとしていただけで、賊と仲間などではないです」

 ――この方が真実に近くて騙しやすいかなー……?

「なーに、ぶつぶつ言ってんだよ、オッサン!」

 准将のイアン・ラッティーから強制命令(インジャンクション)の呼び出しを受けて、グンゾウ達は天望楼に向かっていた。天望楼に向かうと言っても、衛兵事務所から天望楼は目と鼻の先だ。

 しかし、真っ直ぐに向かう訳にはいかないため、作戦会議を開くために、天望楼から少し離れた広場の真ん中に立っていた。

「こんな所に突っ立ってても(さみ)ーし、早く行って、さっさと終わらせようぜ、オッサン」

 リョータは苛立っている。ガタガタと振るわせる身体。全身から「早くしろ!」という主張(オーラ)を発している。

「いや、だから、その前に色々あんのよ……」

「だーかーらー! 色々ってなんなんだよっ! アキといい、オッサンといい、理由が曖昧な・ん・だ・よっ!」

 ――単純(シンプル)に生きられる奴って幸せだよな……。こいつに話しても大丈夫かな?

 グンゾウは不安を覚えたが、周囲に人がいないことを確認すると、襲撃の夜にヴェールと出遭ったこと、ヨシノと命懸けの戦いを繰り広げていたこと、総合的に勘案してほぼ100%近く敵性人物であることを説明した。

「んだとーっ!! ヨシノに手を上げやがったのか、あいつ!」

「うん、まあ、な。手を上げたって言うか、殺し合い?」

「うーん、ヴェールちゃん強かったよー、あたし、本気で死んじゃうかと思ったー」

 興奮でリョータが口をぱくぱくさせている。なかなか次の言葉が出ない。

「……そ、そういうことじゃないだろっ!? ヨシノ、大丈夫だったのかよ?」

「ああ、う、うん、大丈夫。ほら、元気なヨシノちゃんでしょ?」

 ヨシノがその場でくるっと空中を時計回りする。柔らかい髪の毛がふわっと舞った。

「殺す。殺す。あの女まじで殺す……」

 普段から物騒なリョータの目が怒りに燃えていた。

 ――いやー、逆にリョータが殺されちゃうなー。たぶん。

「殺す前に話は聞こうぜ。もしかしたら、何か深ーい理由があるかもしれないしさ」

「うっせぇ! 俺のヨシノに手を出したら、どんな目に遭うかきっちり調教してやらねぇとならないんだよ!」

 “調教”という言葉に一瞬ゾクッとした快感を覚えるグンゾウ。

 ――ううっ、やべぇ、一瞬カレンの顔が浮かんじまった。愛? それとも変?

「だから、あたしはリョータ()ではないんだけどなー……」

 ――ヴェールを……調教か……。

 愛に燃えるリョータに、ヨシノが水を差している様子を眺めながら、グンゾウはヴェールのしなやかで美しい裸の肢体が、目の前のベッドで寝そべっている姿を想像していた。

 

 肌理(きめ)が細かい大理石のような白い肌に、長く(つや)やかな漆黒の髪の毛が絡みついている。

 抱けば折れそうな程、華奢(きゃしゃ)身体(からだ)

 これ以上にない位美しい曲線(カーブ)を描く肩から首の延長線上に、美の女神を原型(モデル)に彫刻したような美しい顔と、印象的な深緑の瞳。

 (うれ)いを宿したその瞳は、恥じらうように伏し、淑女のような振る舞いを魅せた。それに反して、鮮やかに(あか)い唇は、(みだ)らに濡れて光っている。

 その唇から漏れる吐息は、切なげで、熱と湿り気を帯び、否応(いやおう)なしにこれからの情事を期待させた。「もう我慢なんて、できないんでしょ……」差し出された細長く白い指が、グンゾウを誘うように滑らかに動く。

 その手を掴んだグンゾウは……。

 

「大丈夫っすか?」

 不意に戻される現実。

 現実とはイガグリ頭。

 イガグリ頭とは……、グンゾウの顔を覗き込むようにシムラが見上げていた。そして、グンゾウと握り会うシムラの手。

「うわっと!」

 グンゾウが慌ててシムラの手をはね除けると、シムラは(おど)けた。

「やんっ! 急に掴んだかと思ったら放り出して、グンゾウはんたら、乱暴やわー」

「キシシシシ。グンゾウはどうしようもない変態でアホ」

 完全にグンゾウの妄想を言い当てるハイド。

 ――ハイドは俺の心が読めるんだろうか?

 グンゾウが妄想の世界に引き込まれている間に、シムラとハイドがグンゾウ達を見つけて合流したらしい。2人とも消火活動の影響なのか、少し(すす)けていた。

「あーん? 後は“ちょっと、ちょっとちょっと”のアキだけか……何やってんだ、あいつ」

 リョータが周りを見渡す。

「おい、リョータ。アキを()()()()()みたいな言い方すんなよ」

「デブの双子なんて言ってないだろーが、頭おかしいのかよ、オッサン」

「あれ? ほんとだ……おっかしーなー。デブの双子がちょっと、ちょっとちょっとって覚えてない?」

「誰も覚えてなんてねーんだよ。昔のことなんざよ!」

「……それもそうだな。まあ、とりあえず、そんなに時間もないし、状況を共有してから、基本的な交渉の決め事(ルール)だけ決めて、天望楼に臨もう。その後、アキを探しに行こう」

 グンゾウは昨夜有った悪夢のような出来事を、再度語り始めた。

 

 

 イアン・ラッティー准将との面会は、足が埋まるような毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれた25メートル四方の部屋で行われた。窓は無い。上座(かみざ)と思われる壇上には、優雅な彫刻が施された木製の椅子。椅子の座面は、紅い天鵞絨(ベルベット)仕立てで、光沢のある生地が燭台の灯りに照らされ、揺れるように光っていた。

 その椅子に座っている人物がグンゾウ達に声をかける。

(おもて)を上げよ」

 そう言われてグンゾウ達は顔を上げた。目の前には威厳溢れる中年男性がゆったりと椅子に腰掛けて、鋭い戦士の眼光をグンゾウ達に向けていた。

 部屋に入る前、警護の兵士に「イアン・ラッティー准将と対面する際は、半下座(はんげざ)(こうべ)を垂れて待て」と言われていた。リョータは「嫌だ」と散々抵抗したが、「守らないなら部屋に入れない」と言われ、最終的には渋々従った。ヨシノと離れるのが嫌だったらしい。

「戦士ヨシノは数少ない裏門警備の生き残りだそうだな。また、神官グンゾウも神官とは思えない戦術を見せたと聞いている。ご苦労であった」

 ――この人、必ず下の者を褒めるところから入るんだな。理想的な上司。

「あっ、いやー、照れるなー、あたし……」

 ヨシノが緊張からか、頭を掻いている。

「お褒めの言葉、恐縮です。兵団指令(オーダー)の任を(まっと)うしただけで、過分なご対応をしていただくには及びません……」

 「では、失礼させていただきます」と言いかけたグンゾウを咳払いで制し、イアン・ラッティーが話し始める。

「ただ、そのためだけに呼んだわけではない」

 ――ですよねー。

「お主等に頼みが有って呼んだ。どうだグンゾウとやら、引き続きアラバキアのために一肌脱いでくれないか?」

 ――あれ? ヴェールのことじゃないのか? うー。なんか嫌な予感。

 そんなグンゾウの躊躇を払拭するように、リョータが啖呵を切る。

「おいおい、オッサン。話しかけてる相手が違うんじゃねーの? この小隊の()()()()、ここ大事だからもう1回言うと、()()()()()()()から言わせてもらうとだな。わりーけど、もう疲れてるから、帰りてーんだわ。1シルバーなんて端金(はしたがね)で命懸けの戦いなんてしてらんねーからな」

 ――この場でその態度ができる精神力に感服するわ……。よっぽど肝が据わっているのか、単なる馬鹿なのか……。

「貴様! それがラッティー准将に対する口の利き方か?!」

 グンゾウ達の後ろに控えていた兵士の1人が声を荒げる。声を聞く限り女兵士だった。

 ――珍しいな。

 とグンゾウは思った。

 百戦錬磨の鍛え上げられた精神は、義勇兵の失礼さなどに動揺するところがないのか、リョータの発言に呆れた様子も見せず、イアン・ラッティーは片手を挙げて女兵士を制した。

「まあ、よい。それも一理ある。(かね)な……。もちろん、これから話す兵団指令(オーダー)は命懸けの内容(ゆえ)、1シルバー等という金額ではない。そうだな。前金で1ゴールド、そして一夜を越す毎に20シルバーを約束しよう。もちろん1人につきだ」

「なんやて?!」

 シムラの悲鳴。

 実際はシムラだけでなく、グンゾウ達全員が予想を超える報酬の提示に浮足立っていた。

「せやから、一晩で内臓の煮込みが……ひーふーみーの……250杯?」

「キシシ、相変わらず(ちが)っ……合ってる、フシシシシシ、血の雨が降るな」

「やったでぇ!」

 グンゾウがコツコツ苦労して教育した成果が出たのか、シムラの計算が珍しく合っている。

 ――血の雨かよ。縁起でもない。

「しかし、我々は新人義勇兵で、それだけの報酬がもらえる兵団指令(オーダー)をやり遂げる実力があるか分かりません」

 イアン・ラッティーの愉快そうな顔。グンゾウの正直な弱気に、口や鼻から抑えられない笑い声が漏れる。

「ふふ……ふふふ、ふっふっふふ。命知らずの義勇兵にしてはなかなか慎重なことよ。そこは儂も馬鹿ではない。よって、命懸けではあるが、お主等の実力以上の兵団指令(オーダー)をさせる気はない。安心せよ。話を進めても良いかな?」

 グンゾウはリョータに視線を遣った。不敵な笑みを浮かべて頷くリョータ。格好良いと思っているのか余裕ぶった態度だ。

 次にヨシノの顔を見る。ヨシノは慎重な顔で頷く。

 それを受けて、グンゾウはイアン・ラッティーを真っ直ぐ見据えた。

「はい……(つつし)んで」

 

 グンゾウ達が天望楼を訪問する前に決めた交渉の決め事(ルール)単純(シンプル)だった。

 交渉の基本はグンゾウが進め、小隊(パーティ)の危険が上がる判断の際は、リョータとヨシノに確認を取る。それだけだった。

 兵団指令(オーダー)の内容を聞く。

 それは場合によって、引き下がれない立場に追い込まれる可能性もあり、グンゾウはリョータとヨシノに確認をした。

 

 ――ここからは薄氷を踏むような交渉だな。

「儂の私兵以外にはまだ伝えていないが、実はこの度の賊の襲撃には明確な目的があった」

「お待ちください。それを話すことは我々双方にとって利さないのでは?」

「報告通り賢い神官だな。……だがしかし、この話は兵団指令(オーダー)の内容に深く関わる(ゆえ)、全て聞いてもらわなければならない。もちろん、他に漏らすことはならない」

 ――これは()められてねーか?

 グンゾウの頭の中で、交渉の安全な選択肢が消えていく。

「あの賊達の目的は要人の誘拐だ。具体的には、辺境伯ガーラン・ヴェドイーのご令嬢セシリア・ヴェドイーだった……。彼女は既に賊の手に落ちている」

「シシシシ……こっちのイベントが想定外にでかい……」

 ハイドが謎の言葉を放つ。しかし、脳を最高速で回転させ、目の前の会話に集中させているグンゾウの耳には届かない。

「以前から、我々は要人の誘拐を(たくら)む組織について把握をしていた。そこで密偵を侵入させ、その動きを探っていたのだ。しかし、具体的な方法や誘拐対象を調べるところまでは内偵が進まなかった。ここからは、お主等が知っての通り。“双頭の蛇”の夜に、大規模な火災を起こすという常軌を逸した作戦が行われ、翻弄された我々は、セシリア嬢をお守りすること叶わず、誘拐を許してしまった」

 イアン・ラッティーはそこで一旦間を開けると、居住まいを正す。

 威厳に満ちた声が、グンゾウ達に要求を伝える。

「そこで、お主等に依頼したいのは、反攻部隊と同行して、秘密裏に我々の密偵と接触し、賊が人質を殺す前に誘拐された要人の救出を行うことだ」

 グンゾウは息を飲む。

 ――話がでかすぎる……。危険度(リスク)最高だ。

「そんなこたぁ、辺境軍の正規兵でやりゃあ()い話なんじゃねーのかよ」

 単細胞のリョータが単純(シンプル)な答えを出す。

 ――リョータ、素直。

 イアン・ラッティーはそこで1回大きく溜め息を()く。

「まあ、正論だな……。しかし、恥ずかしながら、辺境軍にも敵対組織の密偵がいる。そして、その見極めが付いていない。そのため、この任務を辺境軍の兵士に頼むことはできないのだよ。十分な報酬でも、この兵団指令(オーダー)はやりたくはないかね? 一介の義勇兵から英雄になる機会(チャンス)だと思わんか?」

「ああん? まあ……そういう難しいことは、よくわかんねーな」

 リョータはグンゾウの方をチラチラと見る。

「ふむ。そっちの神官はどう思っている?」

 イアン・ラッティーがグンゾウを見つめる目の奥に愉悦が隠れている。グンゾウの対応に興味があるようだ。しかし、グンゾウにはここでイアン・ラッティーを満足させる案が出せる程、精神的な余裕が無い。

「言葉は異なりますが、要人誘拐の解決といった専門性の高い使命について、我々の仕事ではないと思う気持ちは一緒です」

「ふむ……、英雄と呼ばれるにはほど遠い、利己的な意見だな」

「リコテキってなんだよ。難しい言葉使ってんじゃ……ふごふご……」

「リョータ、うっさい、本当に。黙って」

 馬鹿(リョータ)の口をヨシノが手で塞ぐ。ヨシノに抱き寄せられて、膝枕状態になっている。リョータは抵抗する素振りをしているが、まんざらではない様子だ。ヨシノが目でグンゾウに「続けて」と合図する。

「ありがとう、ヨシノ」

 グンゾウはヨシノにウインクを送ると、イアン・ラッティーの方を向き直る。

「ラッティー准将、利己的というには、あまりに我々に求めるアラバキアへの奉仕の期待が大きすぎませんか? 我々は火災以降、家族とも言える仲間の1人と合流できておらず、捜索に行きたいと考えています」

 イアン・ラッティーの口から意外な名前が出る。

「もう1人というのは聖騎士アキのことか?」

「そうです……」

 ――何故、アキのことを?

 その一言が口に出来ず、グンゾウは頭が白くなっていくのを感じる。

 ――まさか……。

「聖騎士アキはセシリア・ヴェドイー嬢の護衛をしていた」

「なっ!」「えっ! アキちゃん!」「なんやてっ!」「キシッ!」「ふごふご……」

 鮮やかにアキの笑顔がグンゾウの脳裏を(かす)める。

 グンゾウは心臓が悪魔の手に掴まれた気がした。急に脈拍が上がり、それとは逆に手足から血の気が引いていくのを感じる。気分が悪い。

「じゃ、じゃあ、アキは?!」

 ようやく口にすることができた言葉。

 イアン・ラッティーは鷹揚に両手を広げ、興奮気味のグンゾウ達を抑えるような姿勢を取る。

「安心せよ。聖騎士アキは無事である」

 イアン・ラッティーから告げられた『聖騎士アキは無事である』という言葉で、少し動揺が収まるグンゾウ達。しかし、状況は不透明で予断を許さない。

「いや……あった。の方が正しいかな。今はどうだか知れない」

 イアン・ラッティーは首を捻り、遠い目をした。

「責任感溢れる彼女は、護衛の任に就いていた他の兵士と共にご令嬢の奪還に名乗り出、既に先遣隊として出発している。敵との遭遇をしていれば、どうなっているかは分からぬ……」

 椅子から立ち上がり、グンゾウ達の近くに来る准将。その手がグンゾウと隣にいるヨシノの肩に置かれた。

「さあ、どうする? 義勇兵達よ。この兵団指令(オーダー)、受けるのか? 受けないのか?」

 静寂の時。

 グンゾウは目を閉じて考える。

 ――明らかな挑発。この男は、相当危険な任務に俺等を突っ込もうとしている。これからする判断は、本当に仲間の為なのか? 俺の個人的な感情じゃないのか? しかし……。

「……行く!」

 グンゾウはそう声を出していた。

「グンちん……」「グンゾウはん」「キシッ」

 仲間の視線が集まるのをグンゾウは感じる。

 この返答には誰の意見も聞かなかった。誰に反対されようと、少なくとも自分は行く気だった。グンゾウの(まぶた)には、責任感と孤独に押しつぶされそうなアキの泣き顔が浮かんでいた。

「みんなにはすまないが、俺は……」

 その後を続けようとしたグンゾウの言葉を遮るように、リョータが声を出す。

 口を塞いでいたヨシノの手は外れているが、大事に握っている。

「オッサン、それ以上言わなくてもいい! それは()()()()()()()が言うことだ。取んじゃねぇ」

「リョータ……」

 グンゾウは胸が熱くなり、言葉が詰まる。

「どんな危険があるって分かってたって、仲間を見捨てるなんてできるわけねーだろ! チーム・リョータはこの兵団指令(オーダー)を受ける! てめぇら、命懸けんぞっ!」

 

 

 数時間後、グンゾウ達は旅支度を調えて揺れる馬竜車に乗っていた。時速は10数キロメートルといったところだ。道が良く整備されているとは言いがたい。グンゾウ達が馬竜車で走っている場所は、少し背の高い草が生えているだけのだだっ広い風早荒野だった。

 密偵からもたらされた情報により、反攻部隊はオルタナを襲った賊が潜んでいると(もく)される旧ナナンカ王国領に向かっていた。旧ナナンカ王国領と言えば過去は人間族の領地で、現在はオークが新生王国(ヴァンギッシュ)を築いている。辺境軍が踏み込むことは、オーク本土への挑発行動になりかねず、危険な行為であると言わざるを得ない。

 移動行程は、オルタナから10キロメートル程度北上した所に有る風早荒野を突っ切り、エルフが住むという影森まで300キロメートル程、影森の北までが旧アラバキア王国領で、旧ナナンカ王国領はさらにその北。オルタナから4~600キロメートル離れている。

 兵士が馬竜に騎乗し、単騎で駆ければ時速40キロメートル程度は出せるため、12~15時間で到着するが、兵站を考慮するとそうはいかない。風早荒野の西35キロメートルにある辺境軍の寂し野前哨(さびしのぜんしょう)基地と連携しながら進まなければならない。

 寂し野前哨(さびしのぜんしょう)基地には昨夜リバーサイド鉄骨要塞の攻略のために“赤蛇隊”が駐屯していたはずだ。

「うえぇぇぇぇ。……きっついわー。こんなんあかんてー」

 馬竜車酔いでシムラ何度も吐いている。どうも乗り物が苦手のようだ。確かに乗り心地が良いとは言えない。

 2頭立て馬竜車の中には、リョータ小隊に割り当てられた当座の物資と一緒に、イアン・ラッティー准将の私兵で(ぎょ)(馬車の操縦)を行う連絡官(リエゾン)が1人と、その他に()()が乗っていた。アキを除くリョータ小隊5人に加えて1名、イアン・ラッティーが助っ人としてこの兵団指令(オーダー)に加えた人物がいた。

 その人物とは……。

 

 

【数時間前】

 

 リョータが兵団指令(オーダー)の受託を決めた後。

「……話はまとまったようだな。では、早速手続きをして反攻部隊と共に行動を共にしてもらう。儂とお主等の連絡官(リエゾン)は彼女が務める。名前はブリセイス」

「はっ!」

 歯切れの良い、勇ましい声。先程リョータと叱り付けた女兵士が足を鳴らして前にでる。兜から(くせ)のある焦げ茶髪(ブルネット)(こぼ)れている。

「それと……この兵団指令(オーダー)にはもう1人、信頼のおける人物と行動を共にしてもらう」

 そう言うとイアン・ラッティーは分厚い両掌を打ち鳴らす。

 すると、部屋の扉が開き、輝く神官衣を(まと)った小柄な女性が入ってくる。装飾が施された金属製のスタッフが不釣り合いに長い。

「え?」

 思わずグンゾウの口から声が漏れる。

 白いほどに金色の髪。透けるような白い肌に小さな顔。眼鏡のレンズの向こうには、薄い二重(ふたえ)の目と長い睫毛(まつげ)。そして、可愛らしい容姿と対照的な鋭く睨み付ける眼光。

 グンゾウの心臓が複雑な感情を伴い高鳴る。

「カ、カレン……」

 

 

【現在】

 

「キシシシシ、……ミンウだな」

 馬竜車の中で転がって寝ているハイドが良く分からない寝言を呟いた。

 カレンは膝を抱えて、丸くなって寝ている。

 揺れる車内を移動して、ヨシノがグンゾウの隣に座った。顔を近付けてこそこそと耳打ち。

「ねー、ねー、グンちん。グンちんのお師匠さんはすーっごい怖い人だって聞いてたけど、本当にあの可愛らしい女性なの?」

 ――ひぃぃぃぃ。ヨシノちゃん、何てこと言い出すの。

「おいおい、そんな台詞(セリフ)聞かれたら、殺されるぞ。主に俺が」

「ええー、殺されないよー。すごい、可愛い人だよ。あの人、戦闘なんてできるのかなー?」

 グンゾウは笑顔になった。笑顔になれた。

 襲撃の夜から悲惨な光景、ヴェールとの死闘、強制命令(インジャンクション)の呼び出し、アキの不存在と精神的に抑圧されてきた。

 その間、ずっと苦虫を噛み潰したような顔をしてきたグンゾウだが、カレンと会ってから急に心が軽い。

「少なくとも、考えられる中で最強(クラス)の助っ人だよ。カレン(あのひと)がいればもう大丈夫って思える位」

「ふーん。すごいんだねー、カレンさんって」

 グンゾウが全幅の信頼を寄せるている様子を見て、ヨシノは目を丸くして感心した。

 

 

 ――待っててくれ、アキ。すぐに駆け付けるぞ。

 グンゾウは馬竜車の後ろに流れる景色を眺めながら、蒼い空に誓った。

 

 

 

 




グンゾウ達はようやく転換期。
そして、次回からようやく×2視点をカズヒコ、チョコ、クザク側に持って行くことができます(›´ω`‹ ) ハァ・・・

ジニーの轍を踏まないように、連絡官は間違えなく女性にしました(笑)

全部で40話も続いてるって結構びっくり。
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