時間がなくて、1万字を超える更新を目指すと、日数が開きすぎてしまうので、デッドヘッド監視砦編の2話目を上下に分割投稿することにしました。
※本話は全て「カズヒコ」主観で描かれています。
夜に吹き荒れた、戦場の風。
その風も、闇が振り払われると時を同じくして弱まる。
空は深い藍色から、枯れ葉色、そして鮮やかな
その青空を突き上げるように3本の黒い塔がそびえ立っている。
デッドヘッド監視砦。
その悪魔の角を想起させる禍々しい黒い塔に、人間族を監視するためのオーク達が駐屯していた。人間族が辺境で勢力を伸ばすことを抑制するための忌まわしい
今日、人間族はこの砦を地図上から消し去ろうとしている。
そんな歴史的な瞬間に立ち会う意義を噛みしめながら、英雄達は突撃の時を待っていた。
デッドヘッド監視砦の
監視砦の周囲にはオーク達のキャンプがあり、その周辺には幾度もの戦争でできた廃棄物の山がある。それらに隠れ、全員が息を
周囲の空気は張り詰め、緊張感が漂っている。音を立てないよう、全員が身じろぎひとつしていない。
「くしゅんっ」
その音に動揺が走った。幾十もの視線が集まる。その先にはゴブリンスレイヤーの壊れた暗黒騎士、ランタだ。
ランタはくしゃみをしたことを悪びれる様子もなく、両手を広げて「まあ、落ち着け。慌てるような事態じゃない」とでも言いたげな身振りをしている。全く反省の様子は見えない。
――すげーな。
チョコが無音で移動して、廃材の隙間から周辺のキャンプを観察する。
「気付かれてない……と思う」
カズヒコ
「へへへ、あのアホ暗黒騎士どうしようもねーな」
「シムラも同じ事してたけどね……」
「シムラもどうしようもねーからな、へへへ」
「静かに」
カズヒコがミッツとタイチのお喋りを制した。小声とは言え、今は少しでも気付かれる危険を避けたい。2人とも口を閉じる。
――さて、いつになったら突入するのやら?
カズヒコが指揮官の方を見ると、ブリトニーは何度も金色の懐中時計の蓋を開いては確認し、それを閉じている。
――まだまだか。……リホ達の方はどうしてるかな?
荒鷲隊はデッドヘッド監視砦の反対側なので、伺い知ることはできない。
カズヒコは金属鎧を身に着けているため、少し動くだけでガシャガシャと大きな音がする。そのため先程からずっと同じ姿勢だ。いい加減、身体が痛い。
その点、
チョコは盗賊作法の奥義のひとつである
カズヒコはチョコに
最近では、レッサーコボルド程度であれば、
今もチョコは気配を消して、ちょこちょこと動き回っている。全く音がしない。それどころかたまに存在を見失う。
しばらくすると、ブリトニーが立ち上がる。
手に抱いた金色の懐中時計を確認してから頷いた。
右手を挙げ、声を上げる。
「作戦開始よ……!」
振り下ろされる右手。
同時にどこからか鬨の声が上がる。正門の本体か、監視塔の西側にいる荒鷲隊か。
「突撃……! キャンプを潰して……!」
ブリトニーの野太いおっさん声の号令で、
奇襲だ。
全く襲撃を予期していないオーク達は慌てふためいている。外辺部のキャンプにいたオーク達は荒々しい義勇兵の群れに飲み込まれ、一瞬にして物言わぬ
「俺達も行こう……!」
思いっきり出遅れたカズヒコ達は、蹂躙されたキャンプの痕跡を眺めていくことになる。
目の前には焼き落とされ、散乱したキャンプの残骸。
キャンプは大抵1つの
――あれがデッドヘッド=死に首の由来かな? あの材料にはなりたくないな。
それにしても、カズヒコ
時折、爆発物が爆裂する音が響く。
煙の隙間から、斜め前方にゴブリンスレイヤーの一団が見えた。やはり梯子の重さで出遅れている。
「あそこ!
チョコがデッドヘッド監視砦の方向を指差す。
皆が目線を向けると、デッドヘッド監視砦から濃い灰色の煙が立ち
――おっ、例のやつだな。
デッドヘッド監視砦とリバーサイド鉄骨要塞は互いに
「へへ、もう一本上がってる。また、上がった。今度は黄色っぽくね? へへへへっ!」
デッドヘッド監視砦から西側に向けて次々と灰色の
「きっとリバーサイドが攻められているから
タイチが笑いながら予想する。
リバーサイド鉄骨要塞で慌てている
――しかし、梯子が重い。
カズヒコ達は4分割されている2台の梯子を男4人で分担していた。持ち運びやすくするため
「オ、オークだ……! 2人くる……!」
左の煙の向こうから誰かの声がする。聞いたことのあるような、無いような少年の声。
「止まろう」
カズヒコは立ち止まって周囲をぐるっと確認する。
右側の立ち
オーク達も煙の中、必死に逃亡をしようとしているのか、周囲を警戒しながら走っている。オーク達は金属製の
兜から見えるオークの顔は、肌はくすんだ緑色、鼻が上向けに潰れ、口が大きく、猪みたいな牙がある。人間の美意識からすれば美しいとは言いがたい容姿だ。しかし、両目に宿る眼光は鋭く、戦士の勇猛さと知性を感じさせた。
カズヒコが2匹を認知したのと同時に、オークもカズヒコ達の存在に気付く。
「近い。2匹こっちに来るぞ!」
カズヒコが指差すと、ミッツがキョロキョロと探し始める。煙で見えないようだ。
「おっ!? どこ? へへへっ、見えない。あ、見えた、へへへ」
「やばっ! 意外に近いじゃん」
チョコがクザクの後ろに隠れた。
「ちょっ、梯子……! 下ろさねぇと……!」
クザクが縄をほどき始める。全員気が付いて、慌てて縄をほどく。
カズヒコ達は持ち運びやすくするため、縄をしっかり結んでしまった。なかなか縄目が解けない。
どんどんとオーク達が近付いてくる。完全にカズヒコ達を目標に定めている。
焦燥感が募る。
――やばい。梯子背負ってオークとなんて戦えない。
「そ、その前に
カズヒコが呟く。
「え? あっ! 切れてた。あ、ど、どうしよ。縄がほどけない」
「口は動くだろ!」
クザクが言うとタイチは慌てて光魔法を唱え始める。
「そ、そっか。ルミアリスの加護の下に……
全員の左手首に青白い六芒の光が浮かぶ。ふっと身体が軽くなる。
しかし、状況は一向に好転していない。焦れば焦る程、まるで縄目が固くなっていくかのように
オーク達はどんどんと近付いてくる。
――やばい……、やばい……。
「クザク! 俺の梯子の
カズヒコはようやく縄を解くのを諦め、
クザクが
巻き起こる風圧に焦るカズヒコ
――オークか?!
カズヒコがオークに勘違いした大きな影は、カズヒコ達には目もくれず、こちらに向かってきていたオーク達の1匹に突撃していった。
「むおぉぉぉぉぉぉ!!」
ゴブリンスレイヤーの戦士だった。カズヒコの記憶では名前はモグゾー。オークに引けを取らない体躯でオークAに斬りかかっていった。正面に相対して斬り合っている。
続いて、素早く黒い影がまたしてもカズヒコ
「うひゃあ! へへぇ!」
ミッツがびびってしゃがみ込んでしまう。ミッツの悪い癖だ。
戦闘中にしゃがみ込むなと過去何度となくリョータに怒られていた。
同じく、黒い影もオークBに飛びかかっていく。飛びかかっていくというよりも滑り込んでいくといった表現が正しい。カズヒコ達が見たことの無い、素早い
黒い影は壊れ気味の暗黒騎士ランタだ。ランタは体格的にオークBに負けているため、全く打ち合わない。
――あれ、きっと暗黒騎士の
オークBもランタをその剣先に捉えられず、追いかけ回している。その後ろを狩人の女の子ユメと、リーダーの
戦士モグゾーもオークAと一進一退の攻防が続いていた。オークAは、モグゾーよりも背丈は低いが、体躯は一回り大きい。五分五分か、若干モグゾーが劣勢のように見えた。
「
女性の美しい叫び声がして、カズヒコがその方向を見る。すると声から想像するよりも美しい容姿の女性が立っていた。神官のメリイだ。
「慣れれば、渡り合える……」
「メリイの言う通りだ……! 俺達はまだ、オークの動きに慣れてない! それだけだ! モグゾー、お前ならやれる! やれないわけ、ない……!」
ハルヒリオンが
「もぉー……っ!」
モグゾーはオークAのガハリィを肩当で受け弾き飛ばすと、体勢の崩れたオークAに肉厚の剣鉈のような大剣を打ち込む。重装式戦闘術の
カズヒコがぼうっとその様子を眺めていると、急に身体が軽くなった。背負っていた梯子が倒れる。クザクが男全員の
「ああ、ありがとう。クザク」
「いや……。格好わりぃな……俺等」
クザクは気恥ずかしそうに、頬をぽりぽりと掻いていた。
「全く……」
カズヒコも反省する。
――ちょっと気が抜けてたな。俺等は遊びに来たんじゃない。戦争をしにきたんだ。
オークAはモグゾーに打ち込まれ続け、押され始めた。
一方、オークBも防戦に入り始めた。オークBには3人が
「……言われなくたってなあ……!」
逃げ回っていたランタが、一瞬オークBと
「つあぁーっ!
そこに狙い澄ましたランタの
「わかってんだよ! 俺は無敵なんだっつーの……!」
オークBが身を
そこに
注意が暗黒騎士ランタと
「ちょいやー! たーっ……!」
足下を
「シムラより綺麗……」
チョコが思わず呟く。ノッコが頷いている。
「あいつ、禿げてるしな……へへへ」
ミッツのずれた発言。
――シムラの頭は輝いて綺麗だ。
オークBは、流れるようなユメの動きに惑わされながらも、鎧やガハリィで剣鉈を弾く。そもそも狩人の小さな剣鉈では、鎧の上からの攻撃が効くとは思えない。
反撃しようと振り下ろしたオークBのガハリィを
「はにゃーっ」
――これらは全部、
その
「おらおらおらぁっ!」
ユメを追撃しようと身体が開いたオークBに、ランタが
流石のオークBも情報処理能力が限界に達し、余裕がなくなってくる。焦って、振り回すガハリィの精度が下がっている。無駄振りをすればするほど体力も減っていく。
――それそろ俺等も参加して大丈夫かな……?
カズヒコがバスタードソードを握りしめ、参戦意欲を出そうとすると、別の場所に動きがあった。
「どぅもーっ……!」
不思議な掛け声と鈍い音がして、モグゾーの大剣がオークAの身体を捉えた。肩口に
オークAの
その様子をゴブリンスレイヤーのリーダー、ハルヒリオンは見逃さなかった。
オークBの後ろから無音に近い足音で近付くと、柔らかい果実に刃物を入れるように何の抵抗もなくダガーを突き立てる。
「すご……」
チョコがハルヒリオンの動きを見て呟く。その耳に届いていたらきっと嬉しかったことだろう。その声はオークBの叫び声で掻き消される。
「ガアァァァフシュルッシュー!」
ガハリィを振り回してハルヒリオンを追い払おうとするオークB。ハルヒリオンは素早くその場を跳び去った。
その隙を突いて、ユメが剣鉈をオークBに全力で叩き付ける。全身のバネを完全に使って全く反撃など意に介さない攻撃だ。それを2発、3発と繰り返す。
――あの女の子、なんて勇気……と力があるんだ……。
「
オークの間合いの倍近く遠くから飛び込むように袈裟斬りの格好でランタが突っ込んでくる。オークBは体勢が不安定で避けることができない。
ランタの
滑った先にあるのはオークBの兜。その兜の
「チャラーン……!」
空中で振り向き様にランタはオークBの生身の後頭部を
その後は意識が混濁し、動きの緩慢になったオークBの頭部をランタの
オークBが膝を着き、倒れても、ランタは手を休めること無く斬撃を加え続けていく。オークBの頭部は、頭蓋骨が割れ、脳は飛び出し、形の半分程が失われつつあった。既に飽きた単純作業のように、同じ
「どぅもーっ……!」
不思議な掛け声とドスンという鈍い音がして、オークAが地に伏した。すかさずモグゾーが
それを横目で確認してから、ランタはオークBを切り刻む作業を止めた。
「くっくっくっ……!」
ランタは
顔の見えない黒ずんだバシネットを被り、返り血に染まったランタは、暗黒騎士の名に相応しい見た目をしていた。ある種の残酷な三流絵画のようでもある。
「
ランタは周囲に投げるように何度も投げキッスをした。
「やたっ! ユメ達、ちょっとすごいやん!?」
ユメが底抜けに明るい声で喜んだ。両手を挙げて、何度も飛び跳ねている。
「ガハハハハッ、おまえは
ランタが
「あいだっ。グーで殴るんじゃねえ!」
「殴られるようなことゆうからやろっ」
ランタはオークの血と
――なんというか、すごい世界観だな……。
「……すげ」
カズヒコは思わず口から思っていることが零れてしまった。
「流石、
ミッツは相変わらずヘラヘラしている。
「た、助かった……」
心の底から安心したように座り込むタイチ。
「へえ……」
ノッコは溜め息を
チョコはその大きな目で、ハルヒリオンの方を見ていた。口を少し開き、驚きと何か言いたそうな表情だ。
一方、見られているハルヒリオンもその眠たそうな目でチョコを見詰めていた。少し照れているのかもしれないが、目に表情がないので真相はわからない。
ゴブリンスレイヤーの面々は、それぞれにオーク初討伐の余韻に浸っていた。
「まあ、みんなそこらじゅうでオーク倒しまくってるけどね」
クザクがその喜びに水を差す。
――あちゃー。良くやるなー。
カズヒコは右手で顔を
「オイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!」
ランタは
「お前なあ! 人が誇らしい気持ちになっている時に、水を差すんじゃねーよ! 水掛けおじさんかっ!」
「……そこまで歳いってねーし。てか、何者? 水掛けおじさんって」
「んなこと俺が知るかぁっ!」
「あんたが言ったんじゃん」
「うっせっ! うっせんだよ! ちょっと背がでけーからって……!」
ランタとクザクの険悪な雰囲気が激化し始めた時、ハルヒリオンが止めに入る。
「ランタ! もういい! それより、行かないと! 梯子係……!」
そう言うと、ハルヒリオンは梯子と荷物を置いてある場所に走り始めた。
――本当だ! 急がないと! ハルヒリオンは冷静で周りのよく見えるリーダーだな。少年とは思えない……。
カズヒコが防壁の方を見る。煙も落ち着き、視界は良好だ。他の義勇兵の多くが防壁の傍まで迫っていた。既に防壁の真下へ取り付いている義勇兵もいそうだった。
「うわ……手招きしている義勇兵もいるよ。怒られそー」
チョコがよく見える目で解説をしてくれる。
「俺達も急ごう! みんな、梯子を持って走ろう!」
カズヒコ
防壁に向かって走りながら、カズヒコは併走するクザクに話しかけた。
「クザク……ゴブリンスレイヤーには助けられたんだ、もう少し仲良くしてくれよ」
「……わりぃ。……ちょっと」
クザクはカズヒコの方を向きもせず、そのまま黙ってしまった。
――
悩んでも答えが出ないので、カズヒコは考えるのを止め、黙って防壁を目指した。
年度末忙しすぎて心身共にキているので、文章の乱れは優しい心で受け止めてください。
|ω・`)ノシ