何気に今話よりも先に、次話が出来上がっているので次の更新は短く行います。
■「灰と幻想のグリムガル level.10 ラブソングは届かない」2017年3月25日発売決定!!
※本話は全て「カズヒコ」主観で描かれています。
雨のように降り注ぐ矢。
防壁に取り付いた先輩義勇兵達の怒鳴る声がする。
「おらっ!
「俺等を殺す気かっ! さっさと梯子持ってこいっ!」
盾に次々と矢が突き刺さる中、カズヒコとミッツは必死で梯子を運んだ。
少し離れた場所にはクザクとタイチが梯子を運んでいる。
チョコやノッコは盾で身を守るので精一杯だ。
「くそーっと、お前等来てやれってんだ、へへ」
ミッツはヘラヘラとしている。相変わらず、怒っているのか、笑っているのかわからない。
必死の思いで防壁下まで辿り着く。
周囲の義勇兵達に引ったくられるように、梯子を奪われる。
5メートルの梯子が4メートルの防壁に取り付けられた。殆ど直角の急角度だ。
ゴブリンスレイヤー達の梯子もかかったのか、防壁の東側全体から
防壁上のオーク達は当然梯子を外そうと梯子を蹴っ飛ばしたりする。そのため、梯子係のカズヒコやミッツは倒れないように梯子の脚をしっかりと抱きかかえなければならなかった。
鳴り響く爆音。
「うくっ!」
「ひゃあーっ!! へへへーい!」
熱風がカズヒコとミッツの頭上から降り注ぐ。防壁の上で、登ってくる義勇兵を待ち構えるために群がっていたオーク達を、どこかの義勇兵が
黒焦げになったオークの
「待ちなさい、レンジ! そんなに急ぐ必要は……!」
いつの間にかカズヒコ達の近くにいたブリトニーが叫ぶ。
ゴブリンスレイヤーが掛けた梯子を、チーム・レンジのリーダーであるレンジが登り始めたらしい。防壁の上は少なくとも2~30匹のオーク達が待ち受けている。とんでもない度胸だ。蛮勇と言っても過言ではない。
次の瞬間、戦場の空気が揺れる。そして大地が震えた。ここではないどこかからもの凄い怒号が聞こえる。オーク達の叫びだ。南側正門方向からだとわかる。
――正門の本体が動き始めたのだろうか?
「まずは東側防壁を制圧するわよ……!」
南側防壁の異変と、レンジの暴走が制御できないブリトニーは、義勇兵達を動かすことに決める。
「防壁に上に拠点を作るのよっ!」
目の前の梯子を左手で掴むと、甲冑を着ていないかのように身軽に登っていった。梯子を登る際に、右手で舐めるようにカズヒコのお尻を触っていたところまで抜け目が無い。
――鳥肌が出来た……。
カズヒコは冷静を保ちながら、義勇兵が登る度に
しばらくすると、周囲に義勇兵がいなくなった。
防壁上では近接戦が開始されているのか、矢の勢いも極端に衰えている。ほぼ飛んでこない。
「俺達も登る?」
カズヒコが声をかけると
「よしっ! 登ろうっ!」
カズヒコを先頭に梯子を登り始める。クザクとタイチは別の梯子から登り始めた。
カズヒコ達が防壁の上に上がると、多少の小競り合いを除けば、戦闘は既に終結しつつあった。
義勇兵達の圧勝だ。周囲にオークは居ない。
現在の主戦場は防壁の北東角に近い場所にある階段に移っていた。
そこは防壁から監視砦中庭の1階に降りる階段で、中庭に降りると監視砦の屋上から建屋に侵入されてしまうため、オーク達も必死の防衛をしている。
その防衛戦の先頭で剣を振るい続けているのが、甲冑の上に紅い陣羽織を羽織った戦士。チーム・レンジのリーダー、レンジだ。
レンジの剣は早く、動きに無駄が無い。
剣先が動いたと思った瞬間には、敵の体は斬られている。しかも、剣の返しが早いので、敵が攻める隙も少ない。
――信じられない位、洗練された剣
また、強いのは剣術だけではない。攻撃の種類が多様なのだ。剣だけ防いだとしても、足下から下蹴りが飛んできたり、さっきは1匹のオークが腕を取られ、腰投げで階下へ投げ飛ばされていた。剣術を中心とした格闘技だ。
「いけえ……!」
ゴブリンスレイヤーのランタが叫ぶ。
レンジがオークを1匹斬り倒して、もう1匹を蹴落とした。
「突入よ……!」
敵の前線が乱れてきたところで、ブリトニーが声を上げた。
チーム・レンジが中心となって階下で横陣を築いたオーク達と押し合いになる。
「押せやあ……!」
チーム・レンジのもう1人の戦士、ロンが叫ぶと、それに呼応するように他の義勇兵達がレンジとロンの背中を押し始めた。
重力の勝利なのか、階上から押している義勇兵達の力が体格で上回るオーク達を押し切り、オーク達が将棋倒しになる。
――グンゾウさんが高所を押さえろって言ってたのはこういうことかな?
将棋倒しになったオーク達の上を、レンジやロンが止めを刺しながら踏み越えていった。他の義勇兵達もここぞとばかりに倒れているオーク達に襲いかかっている。あまり心地よい風景ではない。
「へへへ、やべぇ。何もすることがない……」
「ああ、そうだな……。俺等は1匹もオークを倒すことなく帰ることになるかも……」
防壁上から階下の戦闘を眺めていたミッツとクザクが妙に息を合わせていた。
――それはあまり格好が良くないな……。せめて1匹くらいは……。
「2人とも、
チョコが尖らせた口で、ミッツに働き振りに突っ込みを入れようとする。
「あまり突っ込みすぎないで……!」
近くからブリトニーの通る声。それに驚くチョコ。
「えっ?! ごめんなさいっ……!」
「本体が正門を破ってないわ……!」
ブリトニーは防壁の上から他の義勇兵達に言っていたのだが、チョコがそれに反応してしまっただけだった。
声を張り上げているブリトニーに監視塔から矢が飛んでくる。
ブリトニーは矢に一瞥をすることもなく、剣で打ち払った。
――
「あたしじゃなかったのか……。でもいいや。言う気もなくなっちゃったし」
「え?! チョコ、何? 何なの? へへへ、大体、俺がどうしたの? へへ?」
チョコに何かを言いかけられたミッツは、それを止められたのが気持ち悪いらしい。何を言われそうだったのか聞き出そうとして、チョコを追いかけている。逃げるチョコ。
――まあ、聞き出せても……幸せにはならないよ。諦めろ、ミッツ。
カズヒコも後々面倒になりそうだったので、思いを口にするのはぐっと控えた。
監視塔から時折降り注ぐ矢で義勇兵達が怪我をし始めたので、皆、死んだオーク達から盾を奪い始めた。
――やってることは完全に強盗だな……。
カズヒコは比較的血に染まっていない綺麗な盾を探して、頭上に構えた。
3本の監視塔を持つ監視砦へは、長い外階段を上って屋上から入る必要がある。
現在の主戦場はその外階段だった。監視砦から次々とオーク達が湧き出てくるため、レンジ達を含む前線の義勇兵達も苦戦している。
監視砦の造りは意外と狭い。
100人近い義勇兵が防壁から中庭への階段、中庭、中庭から監視砦の屋上へ続く外階段へ移動しようとすると大渋滞だ。統制が取れていないため、全員が適当に前に進むために、真ん中の辺りの義勇兵達は前後から潰されて身動きが取れなくなっている。
カズヒコ達は義勇兵団の最後尾にいたため、まだ防壁から降りる階段にいた。
――行軍が酷いな……。
長く伸びた義勇兵の列を見ながら、カズヒコはグンゾウの言葉を思い出していた。
「行軍中に身動きが取れない位置取りはしてはいけないよ。攻めるにしても、
「いい調子よ! 押しあってれば、その内味方がくるわ……!」
ブリトニーの声でカズヒコは追憶から目覚める。
階段の上から見ていると、裏門のある北側防壁の方からオーク達の一団がやってきた。ぱっと見で数は20匹程度。
「まずい! レンジ達が挟み撃ちにされる……!」
ゴブリンスレイヤーのハルヒリオンが声を上げる。カズヒコが見ると、興奮した声とは裏腹に今にも眠りそうなお爺ちゃん猫みたいな目をしている。
――あれが通常なのかな……? 鋭い観察眼だが、見た目はほとんど寝ている。
「手が空いている者は、反対側の敵を防いで……!」
ブリトニーが慌てて指示をすると、いくつかの
しかし、中庭にいる義勇兵達は押し合い
――やばいな……、あんな身動きの取れない中軍をオーク達に横から攻め立てられたら全滅の憂き目に遭ってしまう。身動きの取れる俺達でなんとかしないと。
「みんなっ! このままだと
カズヒコは全員の顔を見渡す。全員が神妙な顔で頷く。
「へへへいっ!」
ミッツだけが緊張のあまり、敬礼の姿勢で固まっていた。
――大丈夫か……?
カズヒコが悩んでいる間にもカズヒコ
「俺達もやるぞ……!」
カズヒコは階段から下に飛び降りる。それを追ってクザク、ミッツ、タイチが飛び降り、チョコやノッコも後に続く。カズヒコが確認のために振り返ると、ゴブリンスレイヤー達も階段を飛び降りようとしていた。
北側から駆け付けてきたオーク達は疾風のような攻めを見せた。
本丸である監視砦を守るために、命を省みず突撃してくる。監視砦を落とされれば、そもそも命は無い。オーク達の士気は極めて高かった。
迎撃に向かった義勇兵の何人かがあっという間に倒され、オーク達は前線を抜けてくる。
前線を抜けた3匹のオーク達がカズヒコ
――まずいっ! 結構多いぞ。固まって1匹ずつ相手にしないと……。残りはゴブリンスレイヤー達に任せよう。
「クザクっ! ミッツっ!」
カズヒコが声をかけ、壁際にいる1匹のオークを指差すと、クザクとミッツは頷く。そして、それぞれが
「ああ……違っ……!」
カズヒコが訂正しようとするのも空しく、それぞれ目の前のオークと斬り結び始める。カズヒコの目の前にも残りの1匹が来てしまったので、仕方なく相対する。
――まずい、まずいぞ……っ!
眼前のオークの強さを評価すれば、
クザクがオークの威圧に押され、少しずつ防壁の方に追いやられている。背の高さではオークに勝っているが、完全にびびっている。
「へへへーいっ!」
ミッツは斬り結んだオークに圧倒され、びびって尻餅を衝いてしまった。悪い癖がまた出ている。オークが止めを刺すためにじりじりと近寄る。
振り下ろしたガハリィがミッツに届く前に、タイチがショートスタッフで防いだ。
その間にミッツは立ち上がることができる。
新手のオークが現れて、チョコとノッコを狙っている。
「逃げるんだっ!」
カズヒコは叫んだが、チョコとノッコは抱き合って身を
――
焦れば焦る程、カズヒコの剣は乱れていった。自身の戦いすら危うい。
チョコとノックを襲おうとするオーク。
そのオークの頭に何か黒い影のような物体が当たった。その影はぐしゃりと潰れると、オークの鼻や口の中から体内に入り込んだ。
――……?!
次の瞬間、オークは突然ぽかんとした。そして、両手をだらんとさせて、無防備な格好になった。
「うおらぁぁぁぁぁっ!
そこに壊れた暗黒騎士ランタが飛び込んできて、オークの喉元に深く
オークの頸動脈から吹き出る血飛沫が噴水のように飛び散る。
「
ランタはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、すぐにミッツとタイチが苦戦をしているオークに向かって、地面を滑るように移動して行った。
同じ頃、防壁際まで追い込まれていたクザクはなんとかオークの斬撃を防いでいた。背丈では勝っているが、体格で負けているため、防戦一方だ。
「くそっ! 本当にリョータみたいだ……」
小さな声でぼやきながら、なんとか命を繋ぐ。
そこへ突然の転機が訪れる。
クザクが相対していたオークの背中に男の子が組み付き、オークの首元にダガーを突き立てた。あまりの速さにクザクは男の子が何をしたのか正確に把握することができなかった。男の子はハルヒリオンだ。
武器と盾を取り落とし、喉元を抑えて
クザクは
クザクは手を休めることなく、オークが身動きひとつしなくなるまで、
「……ど、どもっす」
息を切らせて礼を言うクザクを無視するように、眠たそうな目でハルヒリオンは周囲を観察していた。
チョコが新手のオークに狙われている。
「チョコ、後ろ……!」
「っ……!」
ハルヒリオンの警告で、チョコは間一髪オークの斬撃を横っ跳びで逃れる。
「ガッシュワルル……!」
邪魔をされ、腹を立てたオークとハルヒリオンが戦い始める。
――良かった……!
仲間の様子を見ていたカズヒコは、ほっと胸をなで下ろし、ようやく目の前にいるオークに集中できるようになる。
「全員で1匹の相手をするんだっ!」
――最初から言っておけば良かった……。
カズヒコがそう言うと、チョコ以外の全員がカズヒコの方に向かってきた。
ミッツとタイチが戦っていたオークは、現在はランタの獲物になっている。
チョコはまだゴブリンスレイヤー達と一緒に居たが、ハルヒリオンが気にかけているので、安全と思われた。
――さて、そろそろ並ばせてもらうぜ、リョータ。俺も童貞卒業だっ!
カズヒコはオークのガハリィを左に
中庭の渋滞が解消されるにつれ、中庭裏門側の攻防は段々と安定してくる。一進一退の戦いながら、当初のオーク達の勢いは無くなっている。
カズヒコ達も全員で一致団結することで、なんとか無事に生き延びていた。
今は、全員階段の陰に隠れて体力を回復している。
「なんていうか……、ゴブリンスレイヤーって強いんだな……」
血に染まった顔を拭きながら、クザクがカズヒコに呟く。心から感心している様子だ。
「そうだな……。流石、先輩達という感じだよ。リーダーのハルヒリオンには、チョコもだいぶ助けて貰ったみたいだし」
カズヒコがチョコに視線を遣ると、チョコはもの凄く不思議そうな顔をした。
「ハルヒリオン? ……誰?」
「え? いや、リーダーだよ。ゴブリンスレイヤーの……」
「え? ヒロのこと? ヒロの名前は『ハルヒロ』だよ?」
「えっ……?」
「『ハルヒリオン』って……、カズヒコうける……あはははは」
チョコがけらけらと笑っている。
――そうだったのか……じゃあ、あのランタが言っていた『ハルヒリオン』はあだ名か……。
「チョコォォォォ……なんだよ、ヒロって誰なんだよ? そんなに親しいのか?」
ミッツが嫉妬200%の様子で会話に割り込んできたが、チョコは完全に無視をしてノッコと『ヒロ』の話をしていた。
「うぉぉぉい、無視かーい、へへへへっ!」
むしろ無視も既に快感に変わりつつあるのか、ミッツは笑顔だ。カズヒコは人間の適応力を感じた。
「そろそろ、行こうか。また、押され始めている。あの端っこの
カズヒコが促すと、全員の顔に緊張感が戻る。
次の瞬間、晴天の空を斬り裂く、けたたましい雄叫びが響き渡る。
「イリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……!」
オークではなく、完全に人間の声だ。それも女性の。
「きた……!」
ブリトニーが防壁の上で跳びはねて喜んでいる。両腕は体の前で組まれている。
――
北側のオーク達が雄叫びに動揺し、動きが鈍る。
「きたわよ! 増援が……!
オーク隊の後方から
――リホ……っ!
カズヒコの心臓の鼓動が少しだけ早くなった。
そこからの戦いは一方的な流れになった。
オーク達の裏門部隊は、
数分の内に、20匹以上のオーク達が物言わぬ骸と化す。
「ブリトニー! 正門は!?」
豪華な美しさを持つカジコが威圧感のある声でブリトニーに訊く。防壁の上で全体を見渡していたブリトニーは首を横に振った。
「ダメね! 破れてないみたい! こっちからは見えないけど苦戦しているようだわ!」
「だったら、私達で
そういうとカジコは両腕を広げて、演説を始めた。
「聞きなさい、義勇兵達! 辺境軍は、
「100枚……!」「金貨100枚……だと……」「ざわ……ざわ……」「100ゴールドと50ゴールド?」「まじか……」「すげえな……!」
どよめく義勇兵達。下がり始めていた士気に熱が入る。義勇兵達の目に欲望の光が宿った。
――とはいえ……それは危険な欲望だな……。
既に収集済みの情報だったカズヒコは冷静に受け止めていた。
丁度その時、監視砦から矢が降り注ぎ何人かの義勇兵に当たる。
「いででででで、へへへ、ででででで……ターイチー治してくれえー」
ミッツの肩、その甲冑の隙間に偶然矢が刺さり、
カズヒコ達はそこら中に落ちているオーク達の盾を拾って、上に構えた。
「うおらあああああああああああああああぁぁぁぁぁ……!」
と、聞き覚えのある声が響き渡った。それはチーム・レンジの戦士ロンだ。
監視砦の外階段の攻防を制し、遂に敵の守りを突破したのだった。
「砦に入るぞごらぁ……! 俺等が一番乗りだ……!」
ロンが勝ち名乗りを上げると、義勇兵達は一斉の監視砦の中に一筋の濁流となって流れ込んだ。監視砦からは次々と矢が降り注いだが、全員気に掛けることもなく監視砦の屋上から階下に雪崩れ込んでいった。
「アタシは1度、正門のほうに……! 本体を見てくるわ! カジコ、頼むわよ……!」
ブリトニーが軽やかな跳躍で戦列を離れると、監視砦の屋上を正門の方に向かった。
――え? 指揮官が隊を離れちゃうのか?
カズヒコが戸惑っている間も、カジコとブリトニーの間で会話が進む。
「ブリトニー、あんたが帰ってくる頃には終わってる……!」
「
「役立たずの正規軍に言え……! 賞金は私がいただく……!」
「もう……! 無茶するんじゃないわよ……!」
適当な引き継ぎが終わり、義勇兵達の指揮官はブリトニーからカジコに変わった。ブリトニーと違いカジコはイケイケだ。義勇兵達を駆り立てると、砦の中を3階から2階、2階から1階へと押し込むように雪崩れ込んだ。
先頭集団においては砦内にいたオーク達と小競り合いがあったようだが、後方にいたカズヒコ達にはさっぱりわからなかった。監視砦の1階まで降りていく中で、オーク達や
遂に監視砦の1階に到着する。
監視砦の1階は2階分くらいが吹き抜けになった、天井の高い広場になっていた。
部屋の四隅に階段が有り、義勇兵達が降りてきた屋上へ続く階段は1階の東南角にあった。残りの3つの階段は監視塔へ続く階段と思われた。
部屋の壁には扉も4つ有り、全て開け放たれ、捜索済みといった感じだ。
「さぁて、
カジコら
もちろん、
「俺達は……どうする?」
カズヒコが
――止めとくか……。無理をする必要はない。オークは狩ったし……このまま無事に帰れば1ゴールドは手に入るわけだし。これ以上の危険を冒す利点は無いか……。
「余計なお世話だろうけどさ、君等は無理しない方が良いよ!」
カズヒコが判断を言葉にしようとした時、ゴブリンスレイヤーのリーダー、ハルヒリオン改めハルヒロが話しかけてきた。チョコを心配そうに見つめる。
突然で
散々命を助けてもらったゴブリンスレイヤーに逆らう気も起きず、カズヒコ
「あ、
タイチが
「……くん。……カズ君……」
――あれ? 呼ばれている?
カズヒコは誰かに小声で呼ばれている気がした。周囲を振り返ると、少し離れたところでリホが手招きして呼んでいた。
カズヒコの胸が安堵で熱くなる。自然と駆け寄る足。
「リホ……良かった……。無事だったんだね……」
カズヒコの目の前には、
「うん。
リホは少し悲しそうな顔をした。
「リホが無事で良かった……!」
「うん、私も。カズ君に会えて嬉しい……。私は北西の階段を攻めるみたいなんだけど、カズ君はどうするの?」
「ああ……うーん、
――格好悪いな……。
カズヒコは好きな女の子の前で格好付けられない決まりの悪さを感じていた。
「そっか……。危ないから、いいんじゃない? それより弱い仲間を守ってあげてね。私からお守りをあげる」
リホは祝詞を唱える。カズヒコの左手首に
「これは……?」
「
そう言うとリホはカズヒコの頬に口づけした。
「リホっ! 行くよ-!!」
背が高い赤髪の女戦士が遠くからリホを呼んでいた。少し怒っているような声だ。
リホは笑顔でぺろっと舌を出すと
「もう行かなきゃっ! また後でね。浮気しちゃダメだよ……」
そうして手を小さく振りながら、リホは北西の階段に小走りで向かっていった。
「ああ……」
カズヒコは気の利いた言葉をかけることもできず、呆然とリホに手を振って送り出した。
概ね30~40人ずつの義勇兵達が3本の監視塔に別れて上っていった。10数分程経ったが、監視塔に上っていった義勇兵達が戻る気配は無い。
監視砦の1階には40人強の義勇兵達が残っていた。中には負傷者を抱え、治療をしている
カズヒコ
クザクとミッツは地面に座って、何やら話をしている。チョコはクザクの陰に隠れ、膝を抱えて休んでいた。あの位置だとミッツからは見えない。安全地帯だ。
タイチとノッコはどこかに行ってしまった。傷付いた義勇兵の治療を手伝っているのかもしれない。
カズヒコは
――うーん、暇だな……。俺だけでも
バスタードソードを石畳の隙間に突き刺し、それにもたれかかる。
それくらいしかやることがない。
周囲を見渡すと、1階に残った厭戦気分の義勇兵達は皆、帰った後の報酬の使い道等を楽しそうに話し合っていた。敵地のど真ん中だが、完全に油断している。
――
ふと、鋭敏になったカズヒコの感覚が頬に風の気配を捉えた。さっきリホに口づけされた頬だ。
――あれ? ……風? ……どこから?
監視砦の1階に出入りできる窓は無く、天井近くにある明かり取り用の窓を覗けば外と繋がっている場所は無い。
しかし、カズヒコは明確に風を感じていた。その風は、心地の良い風ではなく、戦場を漂う生臭い熱気にも似た、禍々しい気配だった。
束の間の安堵を楽しむ義勇兵達。そこへ黒い風が近付いてきていた。
説明をだいぶ端折ってるので、原作3巻と合わせてお読みください(-人-;)