今話でグンゾウは死んで最終回です……(後書きに続く)
「はああああああぁぁぁぁぁっ!」
森に響く美しい声。意志の強さを感じるのに、優しく誘惑されるような艶がある。
張り詰める緊張を突き破り、ヴェールが不思議な足捌きでカレンとの距離を直線的に詰める。
迫り来る黒い剣先、ヴェールの刺突がカレンを襲う。
既に杖と身体の向きを斜めにして
――速い……っ! あそこまで速いスタッフ捌きは見たことがない。本気だ。
追撃を試みたカレンの
――どこへ……?
グンゾウは
「油断するなっ!」
カレンの鋭い声。
――え……?
グンゾウが夜陰の中に金属の輝きを感じた瞬間、黒い長剣が首に突き刺さる。
「がっ……ぐ……っ!」
声にならない声。
――熱い……っ!
グンゾウは首元に
「グンゾウっ!!」
――あれ……?
どんどんと暗くなる視界の中に、初めて見るカレンの動揺した表情があった。
――カレン……君にそんな顔は似合わない……、戦っ……て。
訪れた完全なる暗闇と、途切れるグンゾウの意識。
それは突然の終わりだった。
暗闇を照らす紅い月と
その灯りの中で、白と黒の女が向かい合っている。
周囲には漆黒に染まる夜の森が広がり、流れる小川の
脳内で繰り返される絶望的な
――やっべぇ。今、自分の
グンゾウは少しだけカレンの横顔を見る。カレンは全くグンゾウを気に止めていない様子だ。グンゾウは緊張で
――今の
戦闘の初動をどうするか。グンゾウはそれを決めかねていた。
――俺にできることは限られている。ヴェールは最初にカレンと俺のどちらを狙うのだろうか……? わからない……。選択を誤れば、俺の命は一瞬で消える。いや、俺の命なんてどうでもいいのかもしれない。目的、目的だ。それはカレンの生存だ。カレンさえ無事であれば、ヴェールに勝てる見込みもあり、俺も命さえ失っていなければ
取るべき戦術が決まる。
いつ始まるかもしれない死闘を予期しながら、汗が額から垂れるのをただ感じていた。
ミシッと土を踏みしめる音がして、ヴェールが前傾姿勢になる。
――来るっ!!
「ひっ、光よ、ルミアリスの加護のもとに……っ!」
グンゾウの唱えた光魔法でカレンとグンゾウの左手首に青白い六芒の光が宿る。
すると、カレンがグンゾウの方向を向いて、不思議そうな顔で見詰める。普段の睨むような目付きではなく、驚いたように目を見開いている。かなり可愛いらしい。
「
グンゾウが慌てて指差した方向から、ヴェールがゆっくりと歩きながら近付いてきて、カレンに革製の袋のような物を渡した。抜刀はしていない。
――あれ? ……なんで?
カレンとヴェールは耳打ちをするように小さな声で少し話すと、ヴェールはカレンから離れていく。立ち去り際に、ヴェールはグンゾウの方を向くと一言。
「なんだ、グンゾウ。私には
ヴェ-ルは震える程に綺麗な笑顔を浮かべると、兜の
グンゾウは開いた口がふさがらない。ぱくぱくと下顎を上下に動かしていた。
「何を間抜けな
カレンのスタッフの先端がグンゾウの下腹部に刺さる。脳天に突き抜ける痛み。
「はあう……っ! なんで……」
グンゾウは股間を手で押さえながら地面に伏した。バッドエンディングC-1。
「
グンゾウはカレンに顔を近付けて詰め寄る。カレンは鬱陶しそうにグンゾウの顔を手で押し返した。自分が詰め寄るのは好きだが、詰め寄られるのは嫌いらしい。
「……何を言っているのだ。あれはラッティー准将の密偵だ。敵勢力に侵入して情報をもたらしている。なかなか優秀だ」
カレンは
「いやいや、でも
「あれは
カレンは紙切れを読みながら、返事をする。
「あ、いや、でも、あの、ヴェールは天望楼で兵士を殺して……」
「その場面を直接見たのか?」
「え? いや……んー、暗くて良く分からなかったですけど……死体は沢山あったし、ヨシノは殺されそうになったし……。ヴェールって何というか神秘的というか、謎が多いというか……。悪い女っていうか……遊びたい、遊ばれたい的な?」
「貴様は何を言っている」
いつの間にか傍にいたカレンのスタッフが再びグンゾウの下腹部を捉える。
「はぐお……っ!」
グンゾウはぴょんぴょんと周囲を跳ねて、大事なものを元の位置に戻そうとした。カレンは紙を読む時間をたっぷりと稼いだ。
収まってくる痛み。グンゾウはカレンを指差すと抗議する。
「下腹部ばっかり責めるのやめてもらえますかねー? まだこれから結婚とかして、子どもとか作りたいんですけどー。できれば沢山」
「なっ……、ふん……っ」
カレンは恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてしまった。
「まあ、良い。偶然に密偵と接触することとなったが、本来は貴様の調教……おほんっ! 教育が目的だからな」
――今この人、“調教”って言ったぜ……。
「……はい。よろしく……お願い……致しま……すん」
「なんだか歯切れが悪いな……。まあ、いいだろう」
そう言うとカレンはスタッフの飾り部分を掌に打ち付けながら、グンゾウの目の前を左右に往復して歩き始めた。
「貴様の
カレンは「悪いっ!」の部分だけ立ち止まりグンゾウを指差す。背が低いため、目一杯仰け反って、見下すように指を突き出した。その後、また歩き出すと話を続ける。
「特に攻撃
――うっ……。
「貴様の
「……もうちょっと、なんというかこう、表現を包んで貰っていいですか? 余計な修飾語が多いです」
カレンはグンゾウの言葉を完全に無視して続ける。
「これは貴様の鍛錬不足によって、戦闘における選択肢が少ないことが原因だ。今から身体を鍛えるのには年齢的且つ時間な限界があるが、せめて光魔法の選択肢を広げておけば、戦闘における貴様達小隊の優位性も変わってくるだろう」
「はあ……。しかし、回復のために魔法力を保存しなきゃいけないですし……戦闘でぱかぱか光魔法を使うのも難しいですよね? しかも俺が覚えているのは
話している最中のグンゾウをカレンが放った
そのグンゾウの上にカレンが
「この方が落ち着く。どうだ? これでも
グンゾウは未だに痺れの取れない口で返事をする。
「へい……そのとほりてす。
カレンはグンゾウの上に座ったまま、小さな口で
「あふ……。そうだな。つまらんが貴様の台詞は、まさに私の教えの通りだ。……しかし、同程度の魔法力で複数の敵に対して損害を与えられるならどうだ? 又は、複数の敵を一時的に無力化できるならどうか? 選択肢のひとつになろう」
「それは……そうですね」
グンゾウは身体の痺れが取れてくると、四つん這いになりカレンのために椅子となる。カレンはご満悦の様子だ。
「ふむ。そのため、今夜はまず複数の敵に対して損害を与える光魔法を教えよう。貴様ならルミアリス様から天恵を得られるだけの光徳があろう」
カレンはグンゾウの背中を台にして高く跳躍すると、空中で一回転した後に音もなく地面に着地した。
「さて、立ち上がれグンゾウっ!」
アラバキアにおけるルミアリス信仰は厚い。国民の大多数が、程度の違いこそあれルミアリスを信仰している。
ルミアリス信者は幸せだ。どんなに過酷な試練に
ルミアリスは
振り返ってみれば、グンゾウはグリムガルと呼ばれるこの世界にきてからずっと、カレンの起こす様々な奇跡を目の当たりにしてきた。グンゾウの信仰はカレンがいてのものかもしれない。
「まずは見ているが良い」
カレンは小川の傍にある岩に軽々上ると、小川の方を向く。透明で穏やかな流れの水面に、紅い月とカレンの白金髪が映っていた。
「光よ、ルミアリスの加護のもとに……っ!」
カレンがスタッフを高く掲げる。
すると岩の上に光る神聖文字が浮かび、カレンの周囲には色とりどりの小さな光の粒子が
カレンの髪の毛が柔らかく舞った。
「はっ!」
カレンが掲げたスタッフを小川に向けて振り下ろすと、小川の水面に、半径5メートル程の大きな光る円陣が浮かぶ。
「はいっ!」
再び、カレンが掛け声を出すと、そこへ天から光の粒子がきらきらと降り注いだ。
――綺麗だな……。
揺れる水面に乱反射する光の粒子を眺めながら、グンゾウは思った。しかし、その綺麗な風景以外、特に目立った事象は起きなかった。光の粒子が小川に全て消えると、辺りには暗闇が戻った。
グンゾウはカレンの後ろ姿をぼーっと眺めていた。小さなお尻の陰影が白い神官衣の下にはっきりと見える。
一仕事終えたカレンはくるりとグンゾウの方を向くと、岩から飛び降りた。
――どきっ……。
「ちゃんと見ていたか? この光魔法は
「……と、おっしゃいますと?」
「この光の粒子は触れた者の
「……そう……です……ね……。素直な心の持ち主なので、無害か……と?」
カレンは呆れたような眼差しで、グンゾウを見つめた。
カレンが少女のようなソプラノで
グンゾウは彼女の目の前に
ルミアリス教に伝わる“
光魔法を体得するためには、いくつか方法がある。主な方法は3つ。
ひとつは、突然ルミアリスの啓示を受けて、光魔法が使えるようになる場合。これは所謂
ふたつ目は、神の恩寵を学習し、修行や光徳を積むことによって長い時間をかけて光魔法として精錬していく場合。カレンが古文書の記載から失われた光魔法を復活させた行為等はこれに当たる。時間はかかるが神殿に所属する神官には必須の責務である。日々新たな光魔法を発見することは、神の
最後は、この“授光”。ルミアリス神殿に伝わる“秘蹟”のひとつで、高位の神官にのみ伝授され、門弟に対して自らが使える光魔法を強制的に覚えさせる儀式だ。ただし、必ずしもその光魔法を体得できるわけではなく、一定の光徳を積んだ弟子だけが覚えることが出来る。また覚えたといっても熟練度は最低であり、最低限使いこなせるようになるだけでも一定の修行期間が必要となる。
「……目を閉じよ」
カレンが優しい口調でグンゾウに言った。儀式の時のカレンは清楚で慎み深い。
――可愛い時のカレンが見られなくなって残念だな……。
そう思いながらグンゾウはゆっくり目を閉じた。
カレンの柔らかな指先がグンゾウの額に触れると、グンゾウの額に光が宿った。
人の体温だけではない温かさが指先から伝わり、グンゾウの頭の中に入っていく。目を閉じた暗闇の中、温かな光が自分の中に満ちていくのを感じた。
グンゾウは、その光が自分の中に止まるように、心を穏やかにし、意識を集中させる。
正直、今までグンゾウはこの儀式において、光に拒絶をされたことがない。難しいと言われる最初の規定修練ですらも、
――でも、
少しの時間が経ち、やがてグンゾウの額で輝く光が、ゆっくりと弱まり、消える。
カレンが軽く溜め息を
「よし……っ! では始めよう。一晩で使い物にするのだ。今夜は不眠不休と思え」
カレンが相変わらず無茶苦茶なことを言う。グンゾウが目を開けると、微笑んでいるカレンが目の前にいた。
――笑顔だと、こんなに可愛いのにな……。
「はいっ!
深夜の森の中、グンゾウは酒場の店員のように声を張り上げた。
……なんてな( ゚Д゚)y─~~
オリジナルキャラにオリジナル設定満載の「廃と群像のグリムガル」、今後もよろちくびっ!