廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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「灰と幻想のグリムガル level.11 あの時それぞれの道で夢を見た」発売中です。発売日に買って読んでたのに、こちらには書くの忘れていました。

中間回ですが、どうぞお楽しみください。


19.セシリア救出作戦② ヴェールの策略

「……待機だ」

 それが、しばらくの沈黙の後、ブリセイスの下した判断だった。

 暗闇の中、全員がゆっくりと(うなづ)く仕草をする。……ひとりを除いて。

「いつまでだよ? ……俺らは限界まで荷物を減らしてきてるから、水も少ねぇし、食料なんて持ってきてねぇ。つか、もう食った。そして、うんこしてぇ」

 ――うんこは関係ない……。

 リョータが真っ直ぐな疑問をぶつける。リョータに善悪の判断はない。ただ、思ったことを口にする。それだけだ。ブリセイスがそれに反論する。

五月蠅(うるさ)い。上官の判断に従うのがこの使命(ミッション)規則(ルール)だったはずだ。……そして、うんこはその辺でしてこいっ!」

 ――あ、やっぱりうんこは気になったか……。

「んだとっ! 俺はこんな落ち着かない環境じゃ気持ちよくうん……」

「ブリセイス。君の指示には全面的に従う。ただ、迅速に行動したい。突入と撤退の判断基準を共有してくれないか。それくらいいいだろ? 相手の戦力が減るまで……とか。このまま朝が来たら……とか」

 議論が下ネタに向かいそうだったので、グンゾウは議論の方向性を正した。

 ――冒頭から議論がうんこじゃ、嫌になっちゃうからな。…………なんのことだ?

 

 

「正直、あの2人を相手にこの戦力では勝てそうもない」

 ブリセイスは軽く溜め息を吐いた。その語りぶりには諦念が漂っている。

「暗黒騎士のリンタは相対して生き残った兵士がいる。複数人で相手をすればなんとかなるだろう……。しかし、剣舞師のミーリアの強さは常軌を逸している。何せ、天望楼内で相対した者は手練れも含めて全員死んでいる。生き残った目撃者はセシリア様お付きのメイドのみだ。自分の恐怖伝説に箔を付けるために殺さずにおいた……という方が正しいかもしれない」

「護衛隊の大半は待機室にいましたが、通路を警備していた兵士のほとんどが反撃した様子もなく斬られていました」

 アキがブリセイスの話を裏付けた。

 ――アキ……危なかったのね。

「だから、ミーリアがあの砦から離れれば、突入する。離れない場合は……」

 そこで、ブリセイスは一息置く。悩んでいるのだろうか。主君イアン・ラッティーから至上命令を与えられた身としては、次の言葉は口にし(づら)い。

「撤退……?」

 待ちきれないグンゾウが言葉を口にする。悩んでいる女性の話は待つものだ。せっかちは女性に好かれない。ブリセイスの返事には若干の怒気が籠もっていた。

「……仕方ないがそうなる。そして、朝までは待てない。裏口の見張りが死んでいることに気付かれれば、侵入者の捜索が始まるだろう。……つまり、2~3時間以内に必ず動きがあるはずだ……」

 ――うーん……、あんまり良い情報がないなー。

「……お主は密偵に期待しているのであろう?」

 カレンが口を開いた。彼女の言葉は年寄り臭いが、身体が小さいせいからか、声は若い。可憐(カレン)な少女のようにソプラノだ。グンゾウはその声音に心拍数が上がった。

「……そうです、カレン師。彼女はこちらの作戦に気付いているはずです。そうすれば、(おの)ずと、作戦実行上ミーリアが最も障害になると考え、その隔離又は排除に動くはずです……」

 ブリセイスの説明。暗闇の中であまり表情は窺えないが、その声は弱々しく、いつものような張りはなかった。あまりにも理が(つたな)すぎるからだろう。

 ――ヴェール頼りか……、そんなに都合良くいくだろうか……? とはいえ、それを言ったところで……か。

「まあ、そういうことなら、いいわ。俺は頭(わり)ぃから良くわかんねーしな。……うんこしてくる」

 その会話でリョータなりに納得できたのか、そう言い残すと闇深い木立の奥へ消えていった。……うんこをしに。

「……リョータはん、逃げ道にせんといてやー……」

 シムラが小声で呟いた。

 

 

 小一時間もすると動きがあった。

 リョータ小隊(パーティ)は交替で門の方向を観察していた。門番は恐らく6体。人間が3人に、不死生物(アンデッド)らしき巨体が1体、オークらしき亜人が2匹だった。オークも含め全員軽装備だ。

 その門の方角が騒がしくなる。

 複数人が出てきて、その内の1人が大声でがなり立てている。汚い声と言うより、不快になる声と言う方が正しい。

 リンタだ。

 松明に照らされて浮かび上がったリンタは、()()()()()()()()()小柄な男だった。小柄と言っても戦士としてであって、グンゾウと同じ位の身長はある。くしゃくしゃに曲がりくねった黒い長髪を、後ろ頭でまとめていた。

 リンタは誰かと口論をしているようだった。酔っているのか若干呂律(ろれつ)が回っていない。

 グンゾウ達は全員門の方へ注目し、耳を(そばだ)てる。

「てんめぇー、ミーリアぁ、俺様との酒が飲めねぇってどういうこったい! しかもヴェールぅ、貴様まで帰るとは巫山戯(ふざけ)てんのかっ! 誰が俺様の酌と夜の相手をするんだっ!」

 ミーリアと呼ばれた灰色エルフは頭巾(フード)の付いた漆黒のマントを羽織っている。

「……我々エルフ族は貴様のように下賤の者と伴食(ばんしょく)せぬ」

「うっせぇ! この顔黒(がんぐろ)エルフがっ! まぢ、ぶっ殺すぞ……」

 リンタがそのマントを掴むと、頭巾(フード)が脱げた。

 行燈(ランタン)に照らされて、褐色の肌を持った灰色エルフの顔が浮かび上がる。

 その造形は人間族における美しいという基準を遙かに上回り、美の理想を具現化した彫刻のようであった。

 額は緩やかで美しい弧を描き、その下にある二重の目は、切れ長で大きく、長く豊かな睫毛を蓄えていた。目の中にある黒く大きな瞳は潤み、白目は幼い少女のような(あお)い輝きを持っている。

 その眉間に細く高い鼻筋が続き、つんと立った小さな鼻先が付いていた。

 鼻の先に下に見える薄く透き通った唇は、今目の前にいる男に対する不快感で()の字に歪んでいた。

「……死にたいのか? 貴様など、首領の指示が無ければ今頃草木の肥やしだぞ」

「なんだとぉう……やろってのか? やろってのか? 俺様の長剣(ロングソード)黒王(こくおう)』は固くて長ぇーんだぞ、こら。まあ、ちょこーっち、早ぇけど、そこは脅威の回復力とだなぁ……」

 リンタの下ネタに呆れたのか、不愉快そうに眉を寄せたミーリアは頭巾(フード)を被ると華麗に半転し、リンタに背を向けて歩き出す。重力が無いような軽い足取り。

「……行くぞ、ヴェール。足下を照らせっ!」

「はっ……」

 今まで、眉ひとつ動かさずに黙って立っていたヴェールがミーリアの後を追いかけた。そして離れ際、最後に警戒するような仕草で周囲を見渡す。誰にも違和感を抱かせない自然な動きだった。

 ――合図だ……。こうなることを仕組んだんだ……。ミーリアはヴェールが隔離するだろう。ヴェール……とんでもないやり手、恐ろしい子っ!

「んだこらぁらぁーっ! 無視すんじゃねーよ、傷付くだろーがっ! この傷付いた心を舐めて癒やせっ! 左乳首中心に舐めろっ! とにかく舐めろっ! ざっけんなよぉーっ!! ちょめちょめさせろってんだ、この売女(ばいた)共めぇっ!」

 両手を挙げて抗議するリンタを周囲の男達が(なだ)める。その様子を、オークらしき亜人が馬鹿にするようにニタニタと下卑た笑いで眺めている。

「まあまあ、リンタさん、戻って中でやりましょうよ……」

「うっせぇっ! 野郎ばっかりの宴会なんてしたくねーんだよっ! 畜生っ! あの盲目のガキをやっちまうぞ、ごらぁっ!」

「リンタさん、首領に怒られちゃいますよ……」

「うるせー……」

 ――三次会の面倒臭い課長かよ………………カチョウ? 誰だっけ?

 騒がしいリンタの叫び声は神殿の中に吸い込まれていき、段々と小さく聞こえなくなっていった。

「ブリセイス……」

 グンゾウがブリセイスに声をかける。

 辺りが静寂になるまで黙って観察していたブリセイスが暗闇の中で口を開く。

「よしっ! 突入の機会(チャンス)だ。この先は迅速に動く必要があるから、今後の動きについて再度確認するぞ。全員暗記してるだろうなっ! まずは……」

 

 

 賊の歩哨は眠かった。

 先程、何度目かの欠伸(あくび)をかみ殺した。毎晩のように門を警備しているが、敵の襲撃などに遭ったことは無い。

 無駄な作業。そう感じていた。もう少し我慢すれば交替の時間で、夕飯にありつける。

 眠さを抑えるために神殿の壁に取り付けられた松明の灯りをじっと見詰めた。

 灯りは周囲を茜色に照らす。

 照らすと言っても、15メートルも離れればそこは漆黒の闇。

 つまり、光に包まれた中にいる者達は、闇に潜む者達からすれば格好の獲物だ。

 最初に気付いたのは目の端に映った光るものだ。それは闇の中に潜んでいた。

「ん?」

 歩哨の男は闇に向けて目を凝らした。

「どしたー?」

 のんびりした声で仲間が声をかける。仲間の方を向いた歩哨は髪の毛を掻き上げた。

「あー……、いや、何か向こうで光ったような気がしたから……」

 と言って振り返った男の目に、鬼のような形相の女騎士の顔が映った。

 ブリセイスは一撃で歩哨の首を()ね飛ばす。見事な居合い切り。

 リョータ小隊(パーティ)は賊に対して三方から一斉に襲いかかった。

「どうなっているっ!」

 ブリセイスが確認する。

「オークんはあと1匹なのよっ! ほいちょっと、よっと、 2番、はいよっと、5番っ!」

 ヨシノがよく分からない番号を数えながら、()()()()()。ヨシノは不意打ちでオークの後ろ首を半分切断し、今は次のオークと戦っている。不意打ちとは言え、オークの固い首を深々と斬り付けるためには、最も速度が出る瞬間に、最も威力の乗る剣先を当てる必要があり、相当の感性(センス)を要する。

「ごめんなさいっ!」

 ハイドの影鳴り(シャドービート)で震える賊Aの頭をアキが盾打(シールドバッシュ)で思いっきり叩いた。左右往復で2回。賊Aは意識を失い崩れ落ちる。

 賊Bもカレンの強打(スマッシュ)を頭部に受け、既に地面に伏していた。

 一番苦戦をしているのは、不死生物(アンデッド)と戦っているリョータだった。

「なんなんだよっ……こいつっ!」

 不死生物(アンデッド)は人型で、爬虫類を想像させる鱗状の肌は、黒く、鈍い光を放っていた。体長は2メートル近くある。背の高さの割に幅はそれ程なく、ひょろっとしていた。頭部には目なのか、光るガラス玉のようなものが3つ嵌まっていて、腕が異様に長い。

 片腕だ。

 2本のあった腕の内、右腕は最初の不意打ちでリョータが叩き落とした。

 しかし、片腕が落ちた損傷(ダメージ)を感じさせること無く、長い左腕を全力で振り回し、リョータに攻撃を加えている。

「ぐわっ! あぶぶ……」

 リョータは不死生物(アンデッド)の攻撃で両手剣ごと吹き飛ばされる。膝を突いた。

「油断するなっ! 不死生物(アンデッド)は痛みを感じない。動けなくなるまで細かくバラせっ! 素早くっ! 静かにだっ!」

 ブリセイスはリョータに檄を飛ばしながら、ヨシノと戦っていたオークの膝頭(ひざがしら)を長剣で斬り付けた。オークが体勢を崩す。

 こうなるとヨシノの相手ではない。

 ヨシノが両手に持った2本の片刃の曲刀(シミター)律動的(リズミカル)に繰り出して、オークを追い詰めていった。

「鎧着てないオークんなんてー、シフォンケーキみたいなもんなのよー!」

 ヨシノの発言に、賊Aの手足を縄で縛っていたアキが反応する。その隣には、賊Bが亀甲の紋様のような独特な縛られ方で転がっていた。(かたわら)でカレンが暇そうに突っ立っている。

「それって……、見た目は大きくても、柔らかくてぺろっと食べられるって意味?」

「違うっ!」

 ヨシノはオークの反撃を左刀の峰で滑らすと、右刀で無防備な脇腹を深々と斬り付けた。鎧では守られていない。オークは痛そうに傷口を押さえ、動きが鈍い。完全に弱っている。

「紅茶が無いとー……」

 オークの後ろに回り込んだヨシノは両刀を振りかぶって、流れるような動作でオークの背中に突き立てた。

「口の中がパサパサするってことーっ!!」

 ヨシノはオークの背中を蹴って、後転跳びで離れる。オークは背中に刀が刺さったまま、うつ伏せに倒れた。

「……ごめん、ヨシノちゃん。……その例え、全然意味が伝わらなかった……」

 アキは疲れたように項垂(うなだ)れる。その肩を無表情のカレンが優しく叩いた。

「アキっ! 遊んでねーで、俺様とブリセイスをフォローしろっ!」

 リョータがアキを呼ぶ。不死生物(アンデッド)の鞭のように(しな)る長い腕に苦戦していた。既にブリセイスも加勢しているが、2人とも盾が無いので、間合いを詰めることができない。

「あっ! はいっ!」

 アキは跳ねるように不死生物(アンデッド)へ向かう。

 カレンはアキの縛り方が気に入らなかったようで、アキが離れると賊Aの縄をほどき、恐ろしく慣れた手付きで新たに縛り直し始めた。

 その様子をハイドが見て頷く。

「シシシシ……ドSの美学……シシ」

 

 

 リョータ達が奮戦している頃、グンゾウとシムラは戦場をこっそりと抜け、神殿入り口に向かっていた。

 暗闇の中、自分達の行燈(ランタン)が標的にならぬよう、覆いで隠しながら慎重に歩を進める。

 神殿の壁の一部に光る部分を見つける。入り口だった。入り口は長方形の板を何枚か並べて作ったボロボロの木戸で出来ていた。板の隙間からうっすらと中の光が漏れている。

 周囲に人が居ないことを確認してから、グンゾウは木戸の隙間から中を覗いた。薄暗い廊下が続いていて、人影は見えない。扉を入ってすぐ右手に階段らしきものがある。

 ――よし……、誰もいないな。

 入り口の扉を慎重に引くと、蝶番が嫌な音を立てて、木戸は開いた。

「鍵も掛かっていない。これなら簡単に侵入できる。灯りを焚こう。シムラ……」

 グンゾウが手を伸ばすとシムラが松明を手渡してきた。

 その松明にグンゾウは行燈(ランタン)の火を移す。パチパチという音を立てて、松明が燃え始めた。松明は入り口に掲げる場所があった。

「なんや、みんなが戦っている時に、自分達だけ参加しないのは気持ち悪いですねー」

 シムラが周囲を警戒しながら、イガグリ頭を掻いた。

「弓矢構えといて……。まあ、リョータ小隊(パーティ)じゃ、シムラが唯一斥候のできる職業(クラス)だし、カレンが居たら、戦闘じゃ俺は用無しだしな。斥候も大事な仕事さ……」

 グンゾウはシムラに声を掛けると、木戸の(かんぬき)を壊し始める。

 木戸は経年劣化でボロボロなため、閂鎹(かんぬきかすがい)が道具も要らずに取れそうだった。

 シムラは真剣に弓矢を構えている。

 時折グンゾウの耳に、神殿の奥から乱痴気騒(らんちきさわ)ぎの声が(わず)かに聞こえてきた。

 ――ついてるな。あれだけ騒いでれば、こちらの音は聞こえないか……。

 閂鎹(かんぬきかすがい)が付け根からボロリと取れる。

「よしっ、(かんぬき)を壊した。これでもうこの木戸は閉まらない……」

 グンゾウがシムラをの方を見ていると、シムラが真剣な顔をして壁の方を見詰めている。

「どうした?」

「誰か来ますっ!」

 グンゾウが見詰めると、確かに行燈(ランタン)の灯りが近付いてきている。

「一旦、ここから離れよう。リョータ達じゃなかったら、やばい」

「はい……」

 グンゾウとシムラは神殿入り口から離れ、暗闇に身を潜めた。

 しばらく観察していると、ブリセイスを先頭にリョータ小隊(パーティ)の面々が松明の灯りの下に現れた。不思議なことにリョータだけ上半身裸で兜が焦げて半壊している。

「……大丈夫だったか?」

 グンゾウが声を掛けながら現れると、一瞬全員身構えた。ヨシノは一瞬で抜刀する反応の良さ。シムラもグンゾウの後ろに続く。

「おわっと、殺さないでよ。……どうしたの? リョータ」

 全員、若干暗い顔をしている。特にリョータが。

「……最期……火を噴きやがったんだよ、あの化け物」

「火……? 不死生物(アンデッド)が?」

「鎧も小手も燃えちまった……。革だったからな……。兜も……」

「なんでもありだな……、てゆうか、お前大丈夫だったのかよ?」

()()()()()()()、からカレン師が光の奇跡(サクラメント)を使った。ぐずぐず無駄話をしている暇は無い。行くぞっ! ここから先は密偵の情報が少ない。緊張しておけ」

 ブリセイスが割り込んだため、会話は終了。全員足早に、神殿内部へ侵入を始めることになった。

 ――大丈夫じゃない……。光の奇跡(サクラメント)を使うって事は命の危険があったってことだな。

 無駄に待機の時間があったからか、ブリセイスには焦りの様子が浮かんでいる。

 そして、焦るブリセイスの後を全員急ぎ足で追う。

 

 

 神殿内部に入ると、湿気を含むひんやりとした空気が身体を包んだ。

 宴会から漏れる声から予想して、敵のほとんどは1階の奥にある広間で宴会を繰り広げているようだった。

 グンゾウ達には関係が無い。グンゾウ達は、入ってすぐ右にある階段を上り、最上階の4階を目指す。階段は石造りで、壁に沿って最上階まで作られている。

 ――これなら無駄なく辿り着けそうだ。

 ブリセイスを中心に、ヨシノ、カレンと続く。グンゾウの前にはリョータがいた。上半身裸のリョータが両手剣(ツヴァイヘンダー)を直接背負っている。

 ――裸……うける。

「キシシシ……裸、うける……シシシシシ」

 グンゾウの後ろでハイドが呟いた。

 ――やべっ! ハイドと感想が被ってしまった。

 グンゾウの額から汗が出た。ハイドと思考が被るのは何とも言えない気恥ずかしさがある。誰にも気付かれないように、そっと額の汗を拭った。

 当初の予想通り、4階まで簡単に辿り着くことができた。

「4階のどこかの部屋から梯子を登れば、セシリア様が監禁されている部屋だ。ただし、どの部屋に梯子があるかは……わからない」

「おいおい、まじかよ……、入った部屋で敵が寝てたらどうすんだよ」

 ブリセイスの説明にリョータが文句を言う。

「敵のほとんどは1階だ。寝室も2階で、4階はあまり使われていないとのことだ。それに……梯子の前には牢番くらいいるだろ。やるしかあるまい? 行くぞ、抜刀せよ」

 ブリセイスは自身が抜刀すると、4階の最初の部屋を覗いた。部屋と言っても扉は無く、壁で仕切られた空間というだけだ。行燈(ランタン)で満遍なく照らしても最初の部屋には何もなかった。

 奥まで続く廊下をゆっくり歩む。部屋があれば確認する。同じ作業を繰り返した。

 いつ敵と戦闘になるかもしれない緊張で、グンゾウの戦棍(メイス)を握る手に汗が滲んだ。それは他の仲間も同じだろう。

 何度かの緊張と安堵を繰り返し、神殿4階の廊下を進む。

 ――長いな……。

 とグンゾウが思った時、廊下の奥から光の漏れている部屋が目に入った。

「ブリ……」

 グンゾウが口にすると、ブリセイスも気付いたようで手を挙げて制した。

 その手を握る。

 人差し指だけ残し、それを自分の口に持って行った。

「しっ……。行くぞっ!」

 今まで以上に慎重に、誰ひとり声を上げること無く()を進める。部屋の前まで来るとブリセイスは光の漏れる部屋の前に手鏡を差し入れた。

 左手の指が1本立つ。

 ――敵は1体っ!

 リョータ小隊(パーティ)の全員が武器を構えると、ブリセイスは自ら斬り込んでいった。

 続いて、ヨシノとリョータが飛び込んだが、既に事は終わった後。

 そこは6メートル四方程度の部屋だった。

 部屋の真ん中には、胴を真一文字に斬り裂かれて死んだゴブリンが1体。

 その傍には、木の机と椅子、その上には洋燈(ランプ)。壁の棚には本やカード等の娯楽用品が転がっていた。そして……。

「これだ……」

 部屋の端に木でできた梯子がある。天井には四角い穴。

 ブリセイスはグンゾウ達を振り返りもせずに登り始めた。

「おいおい、ちょっと焦りすぎだろーが?」

 裸の大将(リョータ)が声を掛けたが、ブリセイスに無視された。グンゾウはリョータに「お、おむすびは美味しいんだな」って言って欲しいと思った。理由はわからない。

 ブリセイスが登り始めたので仕方なく、リョータ小隊(パーティ)も順番に梯子を登り始める。ブリセイスの後をヨシノが、その後をカレン、リョータ、グンゾウ、ハイドと続いた。シムラとアキは背後を警戒している。

「セシリア様っ! セシリア様っ!」

 ブリセイスの声が聞こえる。

 グンゾウが梯子を登ると、そこは先程の部屋と同じ位の小部屋だった。部屋の半分は鉄の格子で仕切られていて、その向こう側にはベッドや机、整理箪笥(だんす)等、最低限の家具らしくものが置かれていた。部屋に灯りは無い。

 そのベッドの上で動く人影があった。

 暗闇の中、ゆっくりと上半身を上げて、そのままじっとしている。

「灯りを……」

 そう言って、グンゾウが行燈(ランタン)を向けると、橙色(だいだいいろ)の灯りの中にひとりの少女が浮かんだ。

 

 




仕事は忙しいですが、頑張って書いてまーす。
ちょっと文字数多かったなー。疲れた。

セシリアの救出作戦は次話で終了です。

次話は手つかずなので少し時間かかります。
がっ! 25,26話の方は既に執筆が進んでいるという状態です。
ぶっちゃけ後半はちょっと面白くて興奮しています……自分だけ(笑)

引き続き、モチベーション維持のため、極めて甘い採点と優しいコメント募集中です……( ゚Д゚)y─┛~~
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