廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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平成の内に第2章まで書ききれて良かったです。
個人的に新しい元号の予想は「安文」です。
では、第2章エピローグお楽しみください


エピローグ.待つ者のいない凱旋

「ただいまーなのよー。おうち嬉しー」

 どさっという音を立てて、ヨシノは長旅の荷物を宿舎の床の上へ置いた。

 薄っすらと積もった埃が渦を作って巻き上がる。

「随分と埃っぽいな。だいぶ間を空けたから掃除しないと……」

 グンゾウも荷物を降ろし、神官衣の袖で額の汗を拭った。

「いやー、ほんとに久しぶりやー。こんなボロ家でも懐かしいもんやなー」

 シムラが井戸から水を汲んで、ごくごくと喉を鳴らして飲んでいる。

「私、懐かしすぎて、ちょっと泣きそうです。こんなに長いこと帰らなかったの初めてだから……」

 目頭の辺りを両手で押さえながら、アキが(うつむ)いた。

 アキの純粋な感情に一同が感動する情景。

 その雰囲気をぶち壊すように、ハイドの腹の虫が大きな音を立てて鳴った。

「シシシシシシ……腹減った」

 オルタナの南門前で辺境軍の馬車に降ろされたのは既に日暮れで、リョータ小隊(パーティ)の全員が空腹だった。

「んだな。掃除は明日にして、とりあえずシェリーの酒場へ飯食いに行こうぜ。この時間じゃカズヒコ達もそこにいるだろうし……」

 リョータが皆を促す。全員無言で首肯して動き始める。

「おっと、一応洋燈(ランプ)に火だけ入れておくか……」

 普段の言行と異なり、生活面では細かい所のあるリョータが中庭の洋燈(ランプ)に火を入れようとし、「あん?」と声を上げて止まった。

「どうした? リョータ」

 中庭の台所を見ているリョータが気になり、グンゾウは声をかける。

「いや……食器が出かけた夜のまま汚れて置いてあるから、あいつら片付けてねーんだなっと思ったんだよ。しょーがねー奴らだ。マナーがなってねーぜ。まあ、久しぶりだし? 英雄として凱旋した俺様が、そこんとこきっちり引き締めてやらねーとなっ!」

 そう言うとリョータは歯を見せてにっこりと微笑(ほほえ)んだ。リョータは久しぶりにカズヒコ達へ会えるのが心から嬉しそうだった。

「……そうだな」

 グンゾウも素直な気持ちで笑顔を返し、リョータの肩を軽く叩いて歩き始めた。

 

 

 相変わらずの喧騒と熱気。

 シェリーの酒場は出発前と何も変わらない風景でリョータ小隊(パーティ)を出迎えてくれた。

 広い酒場を洋燈(ランプ)が薄暗く照らす。店内では、一日の冒険を終えた義勇兵達が騒がしく思い思いの英雄譚を語り、時に歌い、時に喧嘩しながら憩いの時間を楽しんでいた。

 グンゾウ達は空いている席を見つけると、各人がとりあえず定番の食べたいものと飲みたいものを注文した。

「よっしゃ! 食べるでぇ、今日は仰山(ぎょうさん)肉を食べるでぇ! 金ならある、金ならあるんや!」

「シシシシ……下品」

 シムラは久々の豪華な食事を期待して興奮している。ハイドも同じだろう。

 軍から支給される食事は、量に申し分はなかったが、如何(いかん)せん味がいまいちだった。

 そして当然料理を選ぶことはできない。食材に好き嫌いの多いハイドは食べられないものも多かった。

「んんんー? あたしは次なーに食べよーかなー? 甘いもの……はまだ早いかにゃ? ペビー肉ガリジャー……は太るかにゃー?」

 最初の料理が届く前に、ヨシノは品書き眺めながら楽しそうに次の注文を悩んでいる。

「デイム・アキ、次はいかがされますか?」

 グンゾウはいたずらっぽく笑うとアキに品書きを見せる。

揶揄(からか)うのは()めてくださいよ、グンゾウさん。すっごく恥ずかしいんですから、もう……っ」

 アキは顔を赤らめながら、口を尖らせた。

 ――怒った顔もかわいいなあ……。

「ははは、ごめん、ごめん。でも、アキが騎士になっても一緒に義勇兵を続けてくれるって言ってくれて嬉しかったよ」

「いやいや、騎士と言ってもどちらかと言うと準騎士的な扱いで、ルミアリス神殿に私室は貰えたのですが、別に俸給も出るわけではないので、どちらにしろ働かないといけないのです」

「そうなんだね。世の中そうそう甘くないなあ……」

「それに、みんなと別れるのは寂しいです。このまま……ずっと一緒に義勇兵続けたいです」

 ――嬉しい……涙出そう……。

 グンゾウがアキと話す幸せな時間を過ごしていると、シェリーの酒場の給仕娘達が手にいっぱいの陶製ジョッキと料理皿を運んできた。

「はい、お待ち遠さまです!」

 次々と机の上に置かれる料理。食欲を刺激する美味しそうな匂いの湯気が立ち上る。

「よっしゃー! 食うでぇ、食うでぇ、俺は食うんやっ!」

「じゃあ、みんなで乾杯しよう……あれ? リョータは?」

 食欲に殺気立つシムラを制して、乾杯をしようとしたグンゾウ。

 しかし、小隊(パーティ)のリーダーたるリョータがいなかった。

 さき程まで、シェリーの酒場中をけして良くはない目つきで無言のまま睨んでいた。

「こんな時にうん(ピー)かいなー。早う、早うっ!」

 食事を待ちきれないシムラを筆頭に、全員で周囲をきょろきょろと見渡す。

 

 

 その時、少し離れた(テーブル)で喧嘩が始まる。

 陶器の割れる音や給仕娘の悲鳴が響く。

「おいっ! 巫山戯(ふざけ)た口も大概にしろよっ!」

 響くリョータの怒声。

 嫌な予感がして、グンゾウ達は急いで声の方向に駆け付ける。

 そこには何回か話したことのある義勇兵が床に座り込み、唇から血を流していた。

 リョータはその義勇兵の仲間達に羽交い絞めにされ捕まっている。

 ――リョータが殴った? 何故……っ?!

「もう一遍(いっぺん)、言ってみろっ! 殺されてーのか?!」

 羽交い絞めから逃れようと、何度も体を激しく揺らすリョータ。

 グンゾウ達は予期していない光景に、動きだすことができない。

 リョータの問いに答えるよう、座り込んだ義勇兵も興奮した様子で怒鳴り返す。

「せっかく親切に教えてやったのにお前はなんなんだ?! 何度でも言ってやるよっ! ……カズヒコ達は全員死んだんだよっ!! デッドヘッドでなっ!!」

 

 

「えっ? 何を……?」

 思わず耳を疑う。グンゾウの心臓は掴まれたかのように締め付けられた。鈍い痛み。

 周囲にいる義勇兵達の雰囲気が、その言葉が事実であることを物語っていた。

 景色が歪み、グンゾウの意識を中心に回転する。激しい目眩と窒息感。周囲の雑音が遠くなり、心臓の鼓動だけが脳内に響く。思考が明瞭に保てない。

「嘘でしょ……?」

 グンゾウの隣にいたヨシノが弱々しく呟いた。

 無意識にヨシノへ目を遣るグンゾウ。

 彼女の震える手にあった陶器が、ゆっくりと滑り落ちる。

 

 時が止まったかのような長い落下、

 

 床へ叩きつけられる陶器が、

 

 音を立てずに、

 

 

 ……砕け散った。

 

 

Fin.




 第2章はこれで終了です。
 途中の休載を含め、本当に長らくご愛読いただきまして、ありがとうございました。
 「第2章は満足行く描写を目指す!(すぐ挫けそう……。)」とプロローグの後書きに書いていて、本当にすぐ挫けた上に業務多忙による長期休載で本当にご迷惑をおかけしました。
 なお、第1章と同じになりますが、駄文・乱文にお付き合いいただき、感想で励ましていただいた方々、高評価を入れていただいた方々、お気に入りまで入れていただいて読み続けていただいている方々には、感謝、感謝、感謝の念しかございません。

 第3章は冒頭部分のプロットしかなく、続けていくか微妙です。(バッドエンディングかいっ!)原作自体が転機を迎えていて、続けるにしても、次の巻を読んでから想像を膨らませようかと思っています。
 ただ、中途半端でも読みたいという希望があれば投稿しようとも思っています。(とりあえず【R18】の方はプロットがあるので投稿します。)

 では、クレクレですが感想をもらえると超嬉しいです。また、極めて甘い採点と優しい評価をいただけるとモチベーションが上がるので幸甚です。

 では、故・淀川長治さんのパクリで。
 また、会えたら、会いましょう。
 あー、小説って本当にいいものですね。
 さよなら、さよなら、さよなら。
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