「兄貴!兄貴ィ!」
―――あぁ、夢か、参ったな
懐かしい声が聞こえる、いつもいつもオレが母親みたいに1から10まで教えてやんなきゃならなかった、あのマンモーニの声が
何度も何度も望んだあの頃
暗殺チームの一員として生きていた時代
もはや傷ついて疲弊したプロシュートにとって、その記憶は輝かしすぎた
自分を傷つけるだけの昔の思い出は、幾重にも鎖を懸けて心の奥底に沈めておいたはずなのに
こうやって出てこられてはまるで敵わないじゃないか
「おい、まだプロシュートは起きないのか?」
「す、すいませんリゾットさん、兄貴、そろそろ起きてくれないと困りますよ」
リゾット…リゾットネェロ
オレがまだ新米だった頃はよく言い合いになったりしたなぁ
言い合いっつってもあいつがしゃべんねぇもんだがらオレが一方的に文句を言っていたんだけどよ
いつも無口で気に食わねぇ野郎だったが、案外生き残りやがって、何だかんだあの中じゃ一番付き合いが長かったっけな
おまけに今じゃアイツが暗殺チームのリーダーってんだから笑えるぜ
まぁそれもオレが無口なテメーにかわって色々やってるから成り立ってるんだがな
そう考えると、オレが死んじまったからリゾットの野郎苦労するだろうなぁ
あの面子を一人で引っ張るなんて考えたくもない
ホルマジオとイルーゾォ、それにソルベとジェラートはオレと同じでくたばっちまったから、それだけが救いかもな
…リゾット、メローネ、ギアッチョ、オレたちの分も、オマエらは生き残れよな
ペッシのこと頼んだぜ
「兄貴、兄貴ってば!」
―――あぁくそ!いい加減うるせぇぞ!夢の中くらい静かにしていてくれ!
「夢って…兄貴まだ寝ぼけてんですか?」
―――は?何いってんだペッシ、オレは死んだんだぜ?
それともオマエもオレもくたばって、ここは天国…いや地獄だとでもいいたいのか?
「ペッシ、オレが話すから下がってろ」
―――オイオイオイ、なんだってんだ?
「いい加減目を覚ませ」
「冷た!」
乱暴に顔に液体をぶちまけられ、プロシュートは反射的に体を起こした
がその瞬間、四肢のいくつかがプチプチと裂けるような音を発し、耐え難い激痛が体に走った
「いっつッ!」
「あまり無理して動くなよ、メタリカで止血と傷の縫合は行ったが未完全だ」
渋々と目を開いてみるが、夢のせいなのか、はたまたそれとも違う何かのせいなのか、目に見えるのは白く雲の掛かった背景と、懐かしい二人に良く似た人影だけだ
「…あぁもうわかったよ、付き合えばいいんだろこの夢に」
「だから兄貴、夢じゃないんですってば!」
ペッシと思われる人影は、ひょいっと心配そうにオレの顔を覗きこんでくる
「しつこいぞテメェ!これが夢で、あっちが現実なのはもうとっくのとうにわかってんだ!」
早口でまくし立てながら、腕を横に薙いでペッシの顔を振り払う
案の定勢いに耐えられず、さっきよりも大きな音を立てて腕の付け根に亀裂が入り、血が間欠泉のように吹き出した
「グゥッ…」
妙に見に覚えのある激痛に耐えながら、夢よ覚めろと首をふって自分に言い聞かせる
「…兄貴、あっちが現実って、それこそそれが夢なんじゃないですか?」
―――は?
ペッシの都合の良い言葉に腹のそこから嫌なものが頭のてっぺんに向かってにじみ出てくるのを感じる
「そういえば、起きるまでにぶつぶつと訳のわからんことを呟いていたな、確か“学園都市”とか」
―――だめだ、信じるな、惑わされるな
早く、早く覚めろと、首をふって自分に発破をかける
このにじみ出るものにすがり付いても残るものなどありはしないのだ
「そうそう!それにブッ殺すぞなんて言ったときにはビックリしましたよ!まさか兄貴が夢の中とはいえそんなこと言うなんて」
―――…本当に、本当に夢だったのか?
まさかそんな、いやそんなことあるはずない、そんな問答を心の中で何度も何度も繰り返す
「それより、ほら見てくださいよ兄貴!」
「あっ?…」
さっきまでプロシュートのうわ言についてリゾットと談笑していたペッシに不意に肩を組まれ、起き上がらせられる
いままで、真っ白だった背景が突然色づいていく
そこに写し出された光景は、停止したあの時のフィレンツェ行きの列車
そして大きな血溜まりに横たわったブチャラティ
プロシュートの止まっていた心の天秤がバランスをなくしていく
それでもまだ信じるまでには至らなかった
だが
「兄貴、“ブッ殺した”すよ…オレ…」
こちらを見ながら照れくさそうに、だが確かに聞こえる声でペッシの放ったその一言が、天秤を一方へと完璧に傾けさせた
人は皆、信じたいように信じ、見たいように見て、感じたいように感じる
そしてそれは、心の弱い人間ほど顕著に現れるものなのだ
プロシュートにはもはや、海に浮かぶ蜃気楼や、深く立ち込める霧さえも、確かなものに見えていた
「成長したな、ペッシ…」
痛みで不自由な体をなんとか動かしてペッシの手を強く握りしめる
確かにあるその掌の感触に、思わず嗚咽すら出そうになった
揺れ動く感情に、生きているという実感が湧いてくる
そんな安堵感と、傷による体力の消耗のせいだろうか
目を開けていられないほどの睡魔がプロシュートを襲う
ペッシとリゾットの問いかける声が朧気になっていく
いまはこの睡魔に身を任せよう、もういつだってコイツらの顔をみることができるのだ
そうだ、きっと目を覚ましたときにオレがいるのはこっちの世界のはずなんだ―――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
密室にこもった茹だるような暑さと、うんざりするようなセミの鳴き声
体中に残っている鈍い痛みとベットについた乾いた血糊
「くそったれが…」
汗で濡れた枕を力なく天井へと投げつける
蜃気楼で見えていた淡い希望は消え去り、目の前には暗い海が果てしなく広がっている
もはやイカダを漕ぐ力は尽き果てた
私生活が大変だったのとどう終わらせるか考えてて遅れました
プロシュート兄貴出番少ないからどんな人なのかつかみづらいなぁ
弱いところとかどう感じるとか全部想像だから読んでて違和感感じる人いたらすいません