Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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たまには息抜き(本編進めろ…?)

ガルパン映画すごく楽しみですね。


番外編
パターン青(39話の後にご覧ください)


 ……数日前 文科省

 

「さて……」

 

 ブラインドから怪しく差し込む西日がメガネの眼鏡を光らせる。

 大洗女子学園に賛同した者たちを蜂起軍として決起させ、戦車道主要校である者たちを鎮圧連合舞台として硫黄島へと向かわせる。

 すべてが彼の手の平で行われている喜劇である。

 この大舞台の脚本家はもちろんメガネ。哀れな少女たちは、舞台を盛り上がらせるための脇役にしか過ぎない。

 メガネはおもむろに懐から振動を続けている携帯を取り出すと通話ボタンを押す。

 

「あなたからかけてくるとは珍しいですね」

『君の世界が……どうなるのか気になったんだ』

「ははは。どれだけ世界を憎み、人を裏切ろうとも、あなたは研究のことしか頭にしかないのですね、エメリッヒ博士」

『……くっ! 君がいけないんじゃないのか! 僕の大切なものを隠して協力を強要するからっ! 僕はあんなもの作りたくはなかった』

「口ではそうおっしゃっていますが、あれを作っているときの博士の目は実に輝いていた。あなたは逃れられない。自分の作る作品が一番お好きなのでしょう?」

『ぼ、僕は……』

 

 エメリッヒの話を聞かずにメガネは通話を終えた。

 彼はもう用済みだった。

 愚鈍な人間を操ることに長けているメガネは、また用済みな部品を切り捨てることにも長けていた。

 

「さて。では、終わりの始まりとしましょうか」

 

○●○●○

 

 硫黄島

 

「みほっ!」

 

 まほが行方不明になってから、数日。

 まほは再び愛しの妹の姿を見ることができていた。

 呼びかける言葉に対する返事はない。

 みほの目は黒く濁っており、裏切り者の言葉など聞く気もないようだった。

 かつてはライバルとして共に極め合うことを誉としながらも、些細な私利私欲のために仲間を裏切った彼女たち。世界をあるべき姿に立ち直らせようと、世界を敵にした彼女たち。

 小さな島で今、彼女たちの盾であり矛である戦車の砲塔を向けあいながら、睨み合いを続けていた。

 圧倒的な物量で押し切るはずだった連合軍の目論見ははずれ、奇しくも各校の精鋭同士が生き残り、今を迎えていた。

 撃破された連合軍、蜂起軍の面々は安全地帯で療養している。

 そこだけは攻撃してはいけない、犯してはいけない絶対領域であることを2日目の朝に決めていた。

 

「そっか、そっちへついたんだね。また、裏切るんだね私を」

「違うんだみほ! 話を聞いてほしいっ!」

「やめてっ! もう……誰も信じない。お姉ちゃんだけは違うって思ってたのに! そんな人だったんだね……」

「くっ……みほっ!」

 

 みほは最後に向かい合う連合軍の面々をにらみつけると、キューポラから車内へと入っていった。

 通信は切られている。

 連合軍12両に対し蜂起軍7両。

 数だけで言えば連合軍の有利であるが、重戦車や性能の高い戦車は蜂起軍のほうが多く所有している。

 連合軍は数の利を活かし、蜂起軍は性能の利を活かす。

 どちらにせよ、指揮官の技量が試される一戦に違いない。

 そっと咽頭マイクに手を当てた。

 攻撃開始の合図を相手が待っているというならば、それにあえて乗ろう。乗っておきながらも、主導権はこちらがしっかりと握る。

 大丈夫。お互いに西住流を共に学んできた仲なのだ。家族なのだ。

 何を考えているかはわかりきっている。

 

「攻撃かい……」

 

 まほがそう言おうとした瞬間だった。

 硫黄島が大きく揺れた。

 火山が噴火したわけではない。だが、文字通り硫黄島が大きく揺れた。

 揺れがだんだんと大きくなり、海中から巨大な水しぶきが立つのが見える。

 

『パターン青!!』

「パターン青?」

 

 通信から聞こえる声にまほは疑問を投げかける。

 パターン青などという隠語は作っていない。そもそも今の声はいったい誰の……。

 まほの思考は続けて聞こえてきた絶叫によってかき消された。

 

『な、なんだ!』

『きゃああああああ!』

 

 安全地帯からの通信に悲鳴が混じる。

 聞こえてくる単語はどれも意味不明なものばかりだ。

 

「隊長っ! 蜂起軍の奇襲では!」

「ありえない。あそこには仲間もいるんだ。みほがそんなことするはずが……」

 

 その時、山の陰からまほは……全員が謎の襲撃者の姿を知った。

 大きさはゆうに20mは超えているだろうか。

 茶色いカラーにところどころ包帯を巻いている二足歩行をする悪魔。

 悪魔は手を振り上げ足を振り下ろし、時に口から砲撃のようなものを行いないながら、海岸に整備した脱出地点へと向かっていた。

 

「あれはなんですかっ!」

『ボコ……』

 

 通信がつながったのは奇跡と言えるだろう。

 なんの因果かは知らないが、たまたまみほの乗るⅣ号の無線周波数をまほの乗るティーガーの無線が受信した。

 みほ声は困惑に満ちている。

 これだけで彼女ですら予測できなかった不測の事態だとまほは確信した。

 安全地帯の襲撃。蜂起軍、連合軍の脱出用のボートの破壊工作。

 まるで何かに操られているように意思をもってるいるかのように、この島からは誰も逃がさないとでも言うかのように巨大ボコは暴れまわり続けていた。

 

「みほっ! 聞こえるか、みほっ!」

『なん……で……』

「いいか、今は争っている場合じゃない! あいつを止めるんだ!」

『止める……?』

 

 聖グロリアーナの部隊とプラウダの部隊は巨大ボコの迎撃に向かっていた。

 だがしかし、一向に吉報は届けられない。

 ならば倒すためにはどうすればいよいか。ボコを知り尽くした彼女ならば倒すきっかけを見いだせるかもしれない。

 

「みほっ!」

『知らないよ! お姉ちゃんたちの仲間がどうなろうとも知らないよっ! 私を裏切った罰だ』

「みほ……」

『むしろ好都合だよ。そうやって自滅していってくれるほうが』

 

 裏切る……裏切る。

 そうだ。間違いない。裏切りに加担していなくとも、それを止めることができなかった。些細な異変に気付くことができなかった。

 それを裏切りだというのならばそうなのだろう。

 でも、それでいいのか? それでみほは幸せになれるのだろうか?

 死人を見て、屍を超えた先に望み恋焦がれた理想郷(ユートピア)はあるのだろうか?

 否、断じて否。夢の国に入れるのはまっとうな善良な民だけだ。

 一度足を黒く染めた者に神は厳しい。

 みほはまだ、染まり切っていない。

 裏切りの炎で心を燃やしながらも、仲間を気遣っている。そんな少女にはまだ更生の機会は必ず残されている。 

 ゆえに、みほには勇者になってもらうしかない。

 巨大な悪魔(ボコ)を倒してもらうしかないのだ。

 

「馬鹿を言っているんじゃない! 甘えるのもいい加減にしろ!」

『え……』

  

 虚を突かれたようにヒステリックに騒ぎ立てていたみほが口を閉じる。

 自分でもこれだけ妹に強い口調を出せるとは思っていなかった。

 

「悲しいだろう、苦しいだろう、辛いだろう、痛むだろう、泣きたいだろう。だがな、一度起きた過去にしがみついて何になる。お前はどこに生きているんだっ!」

『どこに生きている……』

「これからのために生きろ! お前だけが……みほだけがみんなを救える。心の鬼を殺せ。決して……笑みを忘れるな。辛苦をなめることになろうとも、心の炎は常に正しくあってくれ、みほ!」

『私はそんなに強い人間じゃない……苦しかったら叫んで何が悪いの!』

「悪くはないさ。だけどな、叫び方が間違っている!」

『……わかってるけど……けど……』

「頼むみほ。お前の正しさで救ってくれ……みほの正しさを私は必ず、今度こそ守って見せるから」

 

 すすり泣く音が聞こえるのは幻聴だろうか。

 私の都合のいいように感じているだけだろうか?

 それで構わない。私は私の伝えたいことを伝えた。

 今度こそみほを守る。

 だから今は、みほにみんなを守ってほしい。

 

『……お姉ちゃん』

「みほ……」

『……わかったよ。まずは、目の前の敵を倒す。ボコだろうと手は抜かない』

「……ありがとう」

 

○●○●○

 

「いいんですか、それで」

「……華さん、巻き込んでしまってごめんなさい」

「そんな、みぽりんが謝ることないよ!」

「そうでありますよ!」

「ううん。もういいの。それに感謝してる。この戦車に乗って……大洗に来て初めて出来た友達達に支えられているんだってわかったんだ」

「……西住さん」

「さあ、行こう。ボコを倒すのは心苦しいけど。破壊の限りをつくすボコは私の知っているボコじゃないから」

 

 麻子がⅣ号を始動させる。

 幸いにも巨大ボコは進行方向を変え、みほたちへと向かって来ていた。

 ボコの口が光り、砲弾が発射される。

 間一髪のところでよけるも、爆風を受けⅣ号はあわや転倒しかけることとなった。

 

「200mm!? なんでしょうか今の砲撃は」

「あれを受けたらⅣ号は耐えられない」

「でもでも、正面から撃ってもダメージないみたいだよ」

 

 ボコの表面には黒い焦げが多くついていた。

 それでもダメージを受けた様子はない。

 表面でうまくすべての攻撃を吸収しているように見えた。

 しかし、このロボの製作者は一つ大きなことを忘れていた。

 この島には何よりもボコを愛する少女がいることを。

 普段どれだけボコボコにされようとも、ボコが必ず守る部位。 

 弱点だけは必ず守ろうとしている普段の行動にみほが気づいていないわけがないのだ。

 

「麻子さん、全速力で股の下を通過してから反転してください」

「履帯が切れるぞ」

「大丈夫、一発で仕留めますから」

「お任せください」

「装填完了したであります!」

「いくぞっ!」

 

 ボコの再びの砲撃。

 砲撃はⅣ号の真上を通過すると、はるか遠くにそびえる元山に着弾した。

 次の発射までかなりのタイムラグがあるはずだ。

 踏みつぶそうとするボコの足をよけ、Ⅳ号はボコの背中へ抜けると急反転した。

 ブチブチと履帯がはじけ飛び、中の金属が吹き飛ばされていく。

 

「今です! うなじを!」

「これで……決めます!」

 

 Ⅳ号の放った砲弾がスローモーションで飛んでいく。

 その行方を誰もが息をのんで見ていた。

 数秒後大爆発を起こすボコの姿を見て、蜂起軍・連合軍の垣根を超え少女達が喜び合ったのは言うまでもなかった。


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