Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
ひーはー。
「今回の君の働き、私はとても買っているよ」
「ありがたい言葉です、大臣」
メガネは深々と頭を下げた。彼の目の前にいるのは、現文部科学大臣、通称タヌキだ。
タヌキは、まぁまぁと言いながらメガネの肩を叩いた。
「常に財政危機である我が国は、無駄な支出を避けなければならない。その点、君の提案した学園艦の統廃合は素晴らしい。もっとも……大洗の奇跡の時は一時はどうなるかと思ったがね」
「えぇ……その節はご迷惑をおかけしました」
大洗の奇跡。
戦車道無名校だった大洗女子学園が強豪校を倒し、優勝した一連の出来事を世間ではそう言っていた。あの時は、メガネもどうなることかと肝を冷やしていたが、結果的には大洗女子学園を廃校にすることができ満足していた。
「いったいどんな
「はて……何のお話でしょうか? 私は存じ上げませんが」
狂笑しそうな衝動を堪えながら、メガネは静かに答えた。
「わっはっはっは! そうかそうか、そういう事にしておこう。いやぁ、よく頭のキレる男だ」
そう言いながらタヌキは先程よりも強い力でメガネの肩を叩き始める。
タヌキめ、何の用だと言うのだ。
プラウダ高校からの抗議電話を受け取った後、突如襲来したタヌキの目的をメガネは
汚職に謀略、黒い噂の絶えないタヌキが、ただ私を褒めるためだけに来たというのか? いや、それはありえない。断じてありえない。
タヌキ親父め、メガネは心の中で吐き捨てると満面の笑みを浮かべた。やがて、タヌキは腕時計を見ると慌てたように扉へと向かった。
「おおっと、こんな時間か。すまないね、会議が始まるのだよ」
「構いませんよ。お勤めご苦労様です」
「はっはっは! 学園艦の統廃合が上手く行けば、次期文部科学大臣の候補に君の名が乗ることは間違いないだろう」
「そ、それはっ!」
メガネは年甲斐にもなく目を輝かせた。
メガネほどの若さで文部科学大臣になった例は、過去になかった。もし現実のものとなれば、メガネは一夜にして時の人となることは間違いなかった。庶民の憧れの存在となる、それはメガネの長年の夢であった。
「つまるところ、君にすべて任せているのだよ」
「はいっ! お任せを」
「うむ」
メガネが大きく頷いたのを確認すると、タヌキはドアノブに手をかけた。
しかし、一向に出ていこうとはしない。
「ときに……戦車道連盟に抗議の電話が掛かっているらしい」
「抗議の電話?」
「なんでも、大学選抜チームと大洗女子の試合。本当に不正がなかったのか? とどこかの週刊誌が話題にしたらしくてね。いや、そんな二流雑誌が言うことに信憑性はないからね。戦車道連盟も大して動いていないらしい」
一時は冷や汗をかいたものの、タヌキの最後の言葉を聞きメガネは安堵の吐息をついた。
証拠は無くとも、黒い噂の中心人物になったとすれば、それは霞が関での人生の終了の合図ともされていた。それだけは何としても避けたかった。
「だが……どうやら、WTFCが動き出したらしい」
「な……!」
WTFC、World Tank a fact-finding committee。世界戦車調査委員会は、小さな練習試合から国際試合まで幅広く扱っている巨大組織であり、その主な目的は試合中の不正行為の摘発や戦車道に関する治安維持だった。最近では、国際試合で行われた八百長の摘発やフランスで起きた大規模蜂起を鎮圧したことで記憶に新しい組織だった。
な、なぜあの委員会が……! 各国に支部がある戦車道連盟が正式に依頼をしなければ動けないはずでは……! あのデブが重い腰を上げたというのか?
戦車道に関して言うならば、軍隊や警察以上の権限を持つWTFCが活動を始める条件は特に厳しいことで有名だった。
戦車道連盟から正式な依頼を受理し、教育に関係する大臣の承認を得て初めて活動できる組織であったからだ。
「まさか……」
「どうやら戦車道連盟に西住流と島田流の家元から直接抗議があったらしくてね。私としても、戦車道を強化をするためには、あの2人の力を借りなくてはいけないと思っている。ゆえに、承諾したのだよ……」
このタヌキめが……!
再度心の中で吐き捨て、メガネはタヌキを睨み付けた。当のタヌキは、我関せずと言いたげな表情のまま口笛を吹いている。
WTFCのやり方は徹底していた。いくら証拠が無いとはいえ、メガネまで捜査の手が及ぶのは必須だった。
「君は関係ないのだろう? ならば問題は無い。ドンと構えていたまえ」
「は、はぁ……今のWTFCの日本支部の支部長は確か……」
「日本戦車道五大流派の一つ、天音流の家元だね。まだ20代だと言うのに、実に有能らしいじゃないか」
「……」
「学園艦の統廃合は君に一任した。仮に問題が発覚したとしても、我が省にはまったく関係ない。そうだね?」
「で、ですが!」
「それとも、君の名言を言うかね?」
タヌキの目の奥が鈍く光る。その口角が嫌らしい程吊り上がった。
この時、メガネは初めて自分のいる立場を理解した。
今、自分が騙したはずの彼女たちと同じ立場にいると。
「口約束は約束ではない、とまさか私には言わないだろうね?」
「そ、それは……」
「サンダースに聖グロリアーナ、そしてプラウダ。君がどんな
楽しみにしているよ、そう笑いながらタヌキは部屋を出て行った。残されたメガネは力なくソファに座り込むと頭を抱える。
くそっ! くそっ! くそっ! こんなところで終わるわけにはいかないんだ! 私は、もっと上にいける有能な存在なのだから!
メガネは立ち上がると電話を取った。
自分を護るために、今出来る事を最大限にやろうとしているのだった。
天音さんは、別冊「継続高校の日常!」とは別人です。
オリキャラ出してしまい、申し訳ありません。
なお、天音さんは28歳で、スタイル抜群ですがある場所がまな板です。まな板です。まな板設定にしたのは、作者の趣味ではないです。
まな板です!