Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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ガルパン二次創作のまとめサイトを見たのですが、みなさんすごいですね……。
あんなところに乗れるような作品作りをめざしていきたいものです。。


リンの思惑

 異様な雰囲気。

 それが天音の最初の感想だった。

 女子高生というものは、こんなにも無色透明になれるものなのだろうか。

 その心は黒く、復讐の業火によって燃え滾っているのだろう。

 だが、いざ目の前にした彼女たちからは覇気が感じられない。

 何かに導かれているかのように。悪い言い方をするのならば、操られるように。

 意思を持った兵士ではなく、命令にのみ従う傀儡。考ることを捨てた人形。

 この年代の少女たちがそこまで、無を極められるというのだろうか?

 いや、あるいは……。

 元は自衛隊の基地であったであろう施設に通された天音は、机を挟んでみほと対峙していた。

 扉の前には、黒森峰の服を着た少女たちが天音の動きを監視している。

 

「ご安心ください。天音さんの部下の方々、皆無事です。怪我人もいませんし、行方不明者もいませんから。それもこれも、天音さんが素直に私の言うことを聞いて停戦命令を出してくれたからですね」

 

「そうかいそうかい。そんなこと褒められてもな、別に嬉しくはないんだがな」

 

 みほは苦笑する。 

 その顔つきは、録画で見た全国大会の時の顔とは明らかに違う。 

 この少女が、虚ろな目の悪魔を率いているのかと考えるとゾッとする。

 どこまで行けば、人はあれほどにまで非情に、冷酷になれるのだというのだ。

 

「天音さん。私の目的を聞かないんですか?」

 

「聞けば素直に教えてくれるのかい?」

 

「お前! いい加減にしろ! 大隊長に向かってその口の利き方はなんだ!」

 

 扉の前の少女が叫んだ。

 みほはまあまあ、と優しい笑みを浮かべながら彼女を宥める。

 これは難しいかもしれないな……。

 天音は思案する。

 わざわざ捕まる演技までしたというのに、自分で難易度を上げてしまったかもしれない……どこかで彼女たちを舐めていた節があったことは否定しない。だがそれは、みほの戦術や女子高生たちの技量ではない。反乱軍の結束力だった。

 元から、捕まることを前提として動いていた天音にとって、今みほと対峙しているのは理想としていた結果だった。 

 だが……ここからどう説き伏せれば良いのだろうか……。

 武力攻撃で無理矢理制圧することは容易だ。

 しかし、それでは恨みを買うだけである。それどころか、内に溜まった黒い感情を吐き出すことができぬまま、それは彼女たちを苦しめることとなってしまう。 

 両陣営ともに怪我人を出すことなく、感情を吐露させる。

 話し合いを持ってして以外に、それが成せるとは思えない。

 天音流は守りの流派。

 万歳精神を真っ向から否定し、最後の一兵になろうとも退くことなく守り続ける。時には、人命を守るため、平和的解決を図るために交渉をする。

 その掟を示すのは今しかないと天音は考えていた。

 情報が少ない今回の場合は、負傷者が出る可能性も十分あり得たが、「名誉の負傷致し方なし」と割り切ってまで、天音はこの島に来ていた。

 

「天音さん。私は復讐をしたいんですよ」

 

「復讐ね。誰にだ? 国か? 連盟か? それとも世界にか?」

 

「まさか。私たちなんかができるわけないじゃないですか。そうしたいですけど、そのためには装備も人員も足りませんよ」

 

「だったら何だ? いい加減答えを教えてくれよ。こっちは、お預けくらってる赤ん坊の気分だぜ」

 

「そう難しい話じゃないんですよ。ただ、単純に……裏切った人たちを許せない」

 

 予想外の答えだった。

 裏切った人を恨むのは当然だ。

 それでは、わざわざここまで大事にする必要がどこにある? その内には国への反逆心があるのではないかと天音は踏んでいた。

 

「聖グロリアーナ、サンダース大付属高校、プラウダ高校。そして、革命に応じない知波単学園に黒森峰の残りの生徒」

 

「革命……?」

 

「えぇ。この革命で私は、戦車道という神聖な競技を貶める蛆虫どもを一掃するのです。私が、新しい戦車道を作る」

 

「ほぉ……」

 

 言葉を失った。

 どう言い返せばいいのかが思い浮かばない。

 それと同時に、違和感が脳裏をよぎる。

 言っていることは正しいし、大層なことだ。実際、戦車道連盟と文科省の黒い噂は絶えないし、近年人命を軽視するプレーが見られるという話も出ている。

 だけど……なんだこの違和感は。

 その笑顔の裏には何を隠している。

 本当にそれが目的なのか?

 

「……」

 

「黙らないで下さいよ。なんだか、恥ずかしいじゃないですか」

 

「いいや? 悪かったな。ただ、あまりにも突拍子もないことを言われたからな」

 

「私の言っていることは変ですか?」

 

「至極正しいと思う。思うからこそ、これ以外の方法はなかったのかと思う」

 

「無いです。伝えてください、先程名前を挙げた全学校に。この地で決戦をしようと」

 

「伝えることは構わない。だけど……」

 

「だけども何もありません!」

 

 みほがヒステリックに叫ぶ。

 薄ら笑いを浮かべていた彼女が初めて感情を露わにした。

 

「私を……否定しないでください……もう嫌だ……どうして人を助けて責められるんですか……どうして学校を守ろうとしただけなのに裏切るんですか……もう、たくさんです。私が正しい世界を作ります。新世界を作るんです……誰も傷つかないように……そのためには膿を出さないと……」

 

 最後のほうは虚ろな目でみほは言っていた。

 あぁ、そういうことか。彼女は弱いんだ。

 弱いけど強く見せるために無理をし続けた結果がこれなんだ。

 

「私はお前を否定しようとは思っていない。だったら、教えてくれ。お前が新しく作った世界に、ここの人たちはどう戻れる」

 

「え……?」

 

「どれだけお前の考えが正しくても、世間から見れば今やっていることは反乱だ。反乱に参加した生徒が社会に戻れると? そんなに社会は甘いと?」

 

「それは……」

 

 みほの心が揺れる。

 仲間のために生き、仲間のために憤慨する彼女だからこそ、仲間のことを話題に出されては弱いのだろう。

 しかし、天音はこの時気づいてはいなかった。

 彼女の必死の交渉も、間もなく水泡に帰すことを……。

 


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