Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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そろそろ硫黄島大決戦編ですね。
当初は20話程度の予定ですが、皆様からの応援もあってまだまだ続けられそうです。
本当にありがとうございます。
(なんか、失踪フラグみたいになってますけど、しませんからね?!)


タヌキの微笑み

 僕は今、とても機嫌が良い。

 責任の擦り付け合い、自己保身のための嘘合戦。

 大いに結構、むしろそれを見ることこそ、僕の趣味なのだから。

 嘘というものは、実に尊い。

 良い嘘と悪い嘘がある。他人を幸せにするための嘘。強いて言うならば、末期の患者にまだ生きられるという、家族の優しい嘘があげられるだろうか。

 逆に、己を幸せにするための嘘は醜い。今こうして、目の前の男のように……

 

「ですから、私はですね! 今回の作戦の失敗はWTFCにあると思うのです。私は、一切関係ない」

 

「そうなんだ。で?」

 

「で? とは……」

 

 メガネは汗を拭くと、冷たい麦茶を飲み干した。

 タヌキはその様子を微笑みを浮かべたまま黙って見ている。

 

「今回のWTFC作戦の失敗の原因の一つには……どうやら君が噛んでいるという話を聞いたのだが」

 

「誤解です! 私はただ、兵士としての誇り高い彼女達が真の英雄になるためのアドバイスをしただけであって……!」

 

「あれ? 僕、何がどうしたなんて言ったけ? ただ、君が噛んでいるとしか言っていないのだけど?」

 

「え……?」

 

「これって、いわゆる自白ってやつだよね?」

 

「ち、違います! 私はそんな……! 何も、何もしてなどいません!」

 

「もう、やめなさい。君に期待した僕がいけなかった」

 

 メガネが口を開こうとしたところにタヌキが邪魔をする。

 ピクピクとこめかみを動かしながら、メガネは複雑な表情を浮かべた。

 彼が何を言おうとしたのかはわからないが、どうせくだらない言い訳を言うのであろう。残念ながら、僕は神様や仏様のように広い心を持っているわけではない。エリートな官僚である僕は、忙しいからね

 心の中でそっと呟く。

 

「部下が無能なのは、大臣である僕の責任だ」

 

「そ、それは……つまり……」

 

「ここからは、僕に任せてもらおう。安心したまえ、最高責任者の座は君のままだ。これが成功すれば、君は再び大手振るって霞が関を歩ける。良い話ではないか? 君は冷房の効いた部屋でただ待っているだけで良いのだ。私と現場の彼女達だけが頑張る。羨ましいね」

 

「し、失敗した場合は……どうなるのですか?」

 

 タヌキはメガネを一瞥する。

 この期に及んでメガネは自己保身しか考えられないのだ。威勢だけだとしても、自分が最後まで責任をもってやり抜くとは言えない。

 

「やはり君は無能だ。男としてどうかと僕は思うよ」

 

 小さく囁く。

 その声はメガネには届いていないが、それでいい。

 このご時世、余計なことを聞こえてしまうものは生き残れない。壁に耳あり、障子に目あり。常に監視されているような気持ちでいながらも、誰かの会話を一字一句聞き逃さぬように。しかるべきときにのみ、相槌を打つ。

 

「君には今日から異動してもらうことになった。文部科学省学園艦教育局局長の椅子は、今は開けていたまえ」

 

「私はどこへ……?」

 

「なに、悪いようにはしないよ」

 

 タヌキはそう言うと、一枚の紙をメガネへと差し出した。

 辞令の文字が書かれている封筒を手にすると、メガネはタヌキのことなどお構いなしに読み始める。

 みるみるその顔が真っ青に変わっていった。

 

「広域学園艦推進兼学園艦整備準備室。一日中、資料にハンコを押すだけの簡単な仕事さ。機密性が高いため、一人一台監視カメラがついているようだが……まぁ、何も問題はないだろう。羨ましいね、いや、じつに羨ましい」

 

「左遷……ですか?」

 

「人聞きの悪いことは言わないでくれたまえ。僕は、君が今回の件で疲れていると思い心の休養をしてもらうために、異動命令を下しだのだから。僕の思いを無下にするのかい?」

 

「い、いえ! 決してそのようには……」

 

「その言葉を聞いて安心したよ。さぁ、行きたまえ。夢と希望の詰まった新たな職場へと」

 

 タヌキはくるりと椅子を回すと窓の外を見た。

 メガネはしばらく黙ったまま立っていたが、諦めたように部屋を出て行った。

 彼が出ていくのを確認すると、タヌキは微笑みを崩した。

 

「まったく、無能な部下だ。構わないけどね、その無能さは僕の踏み台になってもらうだけさ。僕は省の大臣程度では満足しないよ。どうせなら、国を動かしてみたいじゃないか」

 

 窓の外に、聖グロリアーナ校章が入った自動車が省内へと入ってくるのが目に入った。

 駐車場にはすでに、プラウダ高校、サンダース大付属高校、黒森峰女学院、知波単学園の車輌がキッチリと止められていた。

 

「西住みほが裏切り者と戦いたいと言っているならば、叶えてあげるのが僕の役目だろう。日本の将来を担う若者の夢を壊すような真似はしたくないね」

 

 タヌキの秘書が来客が全員そろったことを伝えに来た。

 タヌキは仕事用の微笑みを浮かべ、了解の趣旨を返事する。

 

「さて、これからが本当に楽しい時間だ。僕のために、僕だけのために皆、踊ってくれたまえよ」

 

 軽い足取りでタヌキは部屋を後にした。


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