Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
手が痛い…
ずっとキーボードを打つか、ノートをまとめるかの毎日を送っている作者です。
そういうわけで、やはり週末更新といえど厳しいものがぁぁぁ!
なるべく頑張ります。
応接間に通された彼女達には、どこかよそよそしさがあった。
本来ならば集められることなどあり得ないであろう面子。
その内の何人かは、つい数週間前にも同じ場所で同じような日に同じ秘書に連れられて集められていた。
どんよりと垂れ下がった雲が、彼女達の心境を見事なまでに表している。
ただ前回と違う点は…
「初めまして。僕は文部科学大臣のタヌキと言います。もしかして、テレビで僕のことを見たことがある人もいるんじゃないかな?」
反応を示す者は誰もいない。
その姿にタヌキは苦笑を浮かべると、肥え太った腹を撫でながらゆっくりと対面のソファへと座った。
「ダージリンさん、カチューシャさん、アリサさん、逸見さん、西さん。全国戦車道大会では、常に出場を続けるあなた方は有名人だ。集めるのは苦労したよ」
「そう緊張することもない。まずは、お茶でも飲みたまえ。なに、毒など入っておらんよ」
「いただきます」
そう言うと絹代はお茶に手を付けた。
ほかの者は動こうともしない。
もちろん、絹代とてここに集められたことに心当たりはあったし、これから起こるかもしれない最悪の事態を想像しただけで逃げ出したい気持ちが溢れてきている。
タヌキを除く全員が、暗い顔を浮かべたまま押し黙っていた。
「君たちを集めたのは他でもない。試合をして欲しい。言わなくても、その対戦相手が誰かはわかるね?」
「わかるわけないじゃない!」
「おや……逸見さん。君はもっと聡明な人だと思っていたのだがな。むやみやたらに牙を向けるのはやめた方が良い」
「くっ……だけど、黒森峰と知波単は関係ないはずだ! 裏切ったのは…裏切り者は…そこの3人じゃないか!」
その言葉に3人が俯く。
絹代は何とか止めようとしているが、エリカの気迫に押されあたふたとしているだけだ。
私がしっかりと察していれば。どれだけ後悔したことか。私さえ……私さえ……!
思い浮かべるのは、あの姉妹。
遠い存在であり、近付きたいと手を伸ばし続けてきた私の希望。
それを汚した彼女達を許すことなどできない。
「なるほど。言っていることは間違いではないが……君達の隊長は硫黄島に行ったのだろう? そこまで関わっておきながら、今更誰に責任があるなどと喚いて逃げ出すのかね?」
「な……!」
「知波単学園も然り。西住みほから、蜂起の連絡を受けておきながら見て見ぬふりを突き通した。えぇ、そうですね。何もしないことは実に楽だ。時間も金も労力も、何も失うことがない。そして、最も罪深い」
「私達は……」
「用があるのは私達だけではないのかしら?」
絹代の言葉を遮るようにダージリンが訴える。
ダージリンとしては絹代を救おうとしたつもりなのだろう。
しかし、そんなことはタヌキには関係ない。誰かを思いやる気持ちなど、とうの昔に捨て去っていた。
「原因の発端であるあなたが意見するのもおかしな話でしょう。いい加減気づいてくださいよ。ゲームマスターは私です。私の指示通りに動かないのであれば……全て壊すだけですよ?」
タヌキが満面の笑みを作る。
私の指示を聞け。聞かないのであれば、私の権限でどうとすることなど容易いのだから。
わかりやすいほど明らかな脅し。
だが、それから逃れる手段を彼女達は持ち合わせていない。
政界という暗黒を生き延び続けるために、日々自己鍛錬を怠らない彼に敵うものなど一人としていないのだ。
「さて、話を続けても良いですかね?」
「無言は肯定と見なすまで、結構。明朝、我々が用意した船で硫黄島へと向かってもらいます。そしてあとは試合をするだけです。何も恐れることはない。赤子でもわかる簡単な指示ですからね」
「私達を……生贄にするつもりなの……?」
「カチューシャさん、生贄などという表現はあまり良くありません。不適切だと断言すら出来る。私はあなたがたを英雄にしようとしているのです。裏切り者の宿命は、裏切られた者の願いを叶えること。そしてその暁には、あなた方は日本初となる武装蜂起を鎮めた英雄となる。後世に語られる英雄譚としては、これほど良いものは無いと思いますがね」
「それはつまり……私達を思っての行動だと言うの?」
「えぇ、その通りです。私は日本の未来を担うであろう、あなたがたが健全に且つ完璧な人として生きる世界を創ることを理想としています。これは……その一環なのですよ」
「それはあなたが勝手に思っていることでしょ! 隊長は完璧な人よ! あっち側へ行ったのも、きっと何かの理由があるからよ!」
なおも噛みつくエリカにタヌキが顔を向ける。
誰からも好かれるであろう柔和な笑みが、徐々に泣く子も黙る悪魔のものへと変わっていく。
怖い。
この部屋にいる少女達は、今誰と対峙しているのかをようやく気が付いた。
自分の欲望のままに人を操り、切り捨てる所業ができる存在は、もはや悪魔であるのだ。
私達は今、悪魔に命令され、それを断れない状況でいるのだ。
「二度は言いませんよ? 逸見さん」
「あ……」
「では、皆さん。頑張ってくださいね。陰ながら私は応援させていただきます。貴女方が英雄として、この地へ凱旋するであろう日が来ることを。切に願いますとも」
声をあげ笑いながら、タヌキは少女達を一瞥すると部屋を出て行った。
どうしようもない無力感と恐怖、そして少しばかりの嫌悪を抱いて、少女達は島へ旅立つことを決めたのだった。