Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
あとは、進むのみですね。
お付き合い頂けると、幸いです。
「恐れることはない! 裏切り者の同志は、カチューシャ達の手で粛清するわよ!」
「全員……全員まとめてお陀仏よ! 私の言うことを聞かない子は、サンダースをやめてもらうわ!」
「例えどのような苦境に立たされたとしても、常に優雅に。そのことをお忘れなきよう」
「隊長を取り戻すわよ! ついでに元副隊長とその他もっ! わかったわね!」
「どちらに義があるかなどは、もう考えてはいられない! 試合を受けた以上、正々堂々と戦うべきだ! 知波単魂はここにあり!」
各校の隊長が隊員を鼓舞する。
その内容に差異はあれど、西住みほとの決戦から逃げるという選択をするつもりは無いことが、ハッキリとわかる。
装備も兵站も充実はしている。しかし、士気は著しく低い。
硫黄島に上がれば、試合は始まる。花火が上がったり、アナウンスがあるといった通常の戦車道の試合の開始とは違い、いつ、どこから攻撃してくるかは見当がつかない。
「さて……誰を総隊長にしますの?」
「ふん! カチューシャを置いて他にいるわけないじゃない!」
「……自分は誰でも良いと思います」
「私もわざわざ総隊長なんてやるつもりはないわ。西住隊長さえ……取り戻せるならばそれで良いわ」
「……くっ……私もいるわよ!」
どこからその自信が来るのか。
アリサは最初こそ口ごもらせるも、総隊長に立候補する。
カチューシャかアリサか?
裏切りの汚名を
そう思いながらも他の者は口をつぐむ。
仮にもチームメイトになるのだ。余計な争いを避けるに越したことはない。
結局、じゃんけんで勝ったカチューシャが総隊長となった。
「作戦を説明するわよ! カチューシャ達は東海岸から上陸するわ。西から上陸しない。あそこは、孤立する危険性があるからよ。上陸後は、まずは橋頭保を確保して野営するわ。そして明朝、2つに部隊を分ける。元山周辺にはプラウダと聖グロリアーナ、サンダースのワシーリー部隊。擂鉢山には黒森峰と知波単のニコライ部隊に動いてもらうわ。それぞれの山を必ず確保しなさい! わかったわね!」
大した返事が返ってきたわけではないが、カチューシャは満足そうに頷くと高らかに宣言する。
「さぁ、上陸開始よ!」
反乱軍19輌に対して、50輌という圧倒的な戦力で連合チームが硫黄島へと進軍していく。
負けるわけがない。
カチューシャは確信していた。
車輌も中戦車を中心に火力の高い戦車を集めた。
カーベーたんがいないことに不満があるが、直ぐに取り戻して見せる。
「ураааааааа!!」
ロシア式万歳の声が響き渡った。
○●○●○
「なるほど……一か所から集中上陸……お姉ちゃん、ミカさん。西はもう良いです。擂鉢山防衛に戻ってください」
『わかった』
「全員、今日は攻撃しないでください。わざわざ来ていただいたのです。今日くらいはゆっくり、私達の
『わかった(了解)』
「西住殿。ローズヒップ殿には、特に指示をしておいた方が良いのでは?」
「あぁ……オレンジペコさんがしっかり言ってくれているはず……ですよ……」
苦笑いをしながらみほが言う。
一瞬だけであろうとも、みほの笑顔を見たのは何日ぶりだろうか?
みほの意見を疑ったことはない。今でも、その信念は尊いものだと敬っている。それでも、彼女の笑顔が消えたことに優花里は気になって仕方なかった。
こんな状況でも笑えるほうがおかしいのかもしれないが……。
「連絡だけはしておきますか……ローズヒップさん」
『何ですの! いつでも準備はできていますわ!』
「え……!? どうするつもりですか?」
『きゃつらが上がってきた瞬間、速攻で倒して見せますわ!』
『ローズヒップ様。西住さんからの指示は違いますよね』
『あら? そうでありますの?』
『狙うのは夜です。夜に奇襲をかける作戦でしたよ。まだ、様子見です』
『マジですの!?』
聖グロリアーナらしからぬ口調に、オレンジペコはため息をつき、みほは笑いを堪える。
ここだけ切り取れるなら、幸せなピースとなるのだろう。
だけど……私達がいるのは裏切りの島。
ここに来てしまったのならば、もう
私は何を怖がっているんだ……?
優花里は、みほに見られないよう気を付けながら震える手をポケットの中へ突っ込んだ。
この震えは何だ?
武者震いではない。
戦うことが怖いわけではない。
ならば……みほを失うことが怖い。
その笑顔を失いたくない。みほだけでなく、戦車によって繋がることのできたあんこうチーム全員との関係を無くしたくない。
これで良いのか?
このまま自分の明確な意思を置き去りにして、みほの甘い言葉に誘われるただの根無し草で良いのか?
この先が暗闇しかないとわかっていながら、進むことはできるのか?
「怖い……もう……何も無くしたくない……」
優花里の呟きに気が付いた者はいない。
小さな嘆きはやがて、優花里の中で爆発的に増殖し、堪え切れないものとなっていった。
「西住殿……少し、席を外しても良いですか?」
「はい。顔色悪いですよ……大丈夫ですか、優花里さん?」
「も、もちろんであります」
訝しむみほの視線から逃げるように優花里は走り出した。
震えが止まる様子はない。
そして、優花里は新たな思いを固めるのであった。